2011/10/29 毎日新聞

原発安全評価:EUで10カ国が先送り 取り組みに温度差

 欧州連合(EU、27カ国)が14カ国すべての原発で実施しているストレステスト(安全評価)について、テストの実施主体である電力会社から今月末までに最終報告を受ける各国の規制当局の7割が、「(各電力会社の)評価基準が不十分」「検査期間が短い」などを理由に評価の先送りをEU側に伝えていたことがわかった。検査項目は各国ごとに大きく異なり、同じ項目でも検査姿勢に温度差があるなど、テストの在り方を巡る課題も浮き彫りとなった。

 また、焦点のテロや航空機墜落事故へのストレステストも含めたのは、現段階で「脱原発」の方向性を決めているベルギーやドイツなど計4カ国のみ。EUは年末までに各国規制当局からテストの結論を求める方針だが、早くも「延期」を求める意見が出始めている。

 14カ国の規制当局が9月中旬にEUの欧州委員会に提出した中間報告によると、地震、洪水、重大事故で十分な安全性があるかどうか一定の結論が導き出せるとしたのは、英国、チェコ、スロベニア、ルーマニアの4カ国。10カ国は「時間がない」(スウェーデン)などとして結論を先送りしていた。

 各国のストレステストへの温度差も大きく、洪水などの影響を177ページにわたって詳細に調査したスロベニアから、わずか7ページの報告で原発事業者の報告を追認して「安全」と結論づけたチェコなど、テストに対する熱意や様式もバラバラだった。

 規制当局は9月15日までに中間報告を受けたが、当初から一部の国の間には「検査期間が短すぎる」との批判もあった。

 このため、規制当局の中には▽「地震、洪水への安全性は調査中」(スロバキア)▽「電力会社の情報があまりに少ない」(オランダ)▽「一部の原発で地震による火災が評価されていない」(スペイン)などと検査への取り組みが不十分との見解を示しながらも、検査期間の短さを指摘する報告もあった。

 一方で、多くの規制当局が今回、事業者側からの報告書でのみ評価し、独自の調査をしていないことも判明しており、規制側の独立性についても疑問が残っているという。

 各国の規制当局がEUに最終結論を提出するのは年末までだが、ストレステストの実施要領作成に携わったEU幹部は取材に対して、「年末の最終報告で内容が不十分なら、追加報告を認めてもよい」と延期容認の姿勢を示唆した。ただ欧州委は正式見解で「年末の期限は守られると確信している」とクギを刺している。
 

 ◇EUのストレステスト

 東京電力福島第1原発事故を受け、初めて実施。▽地震▽洪水▽冷却機能・全電源喪失などの重大事故を想定し、耐性を調べる。
今年8月15日までに原発事業者が自己評価を各国の規制当局に提出→
9月15日までに各国が欧州委に中間報告を提出→
10月末までに電力会社が各規制当局に最終報告→
年末までに規制当局が欧州委に最終報告の順に進む。
この後、欧州委がピアレビュー(相互評価)を行い、来年6月の欧州首脳会議に最終結論が報告される。

2011.10.1 共同

欧州原発1次評価は「合格」 事業者側「甘い自己採点」?

 福島第1原発事故を受け、欧州連合(EU)が6月に開始した域内の全原子炉に対するストレステスト(耐性評価)のうち、各国の原発事業者が「自己採点」する第1段階が終了、どの原発も設計時の想定を上回る大地震、洪水などが起きても耐えられるとの判断を事業者側が示したことが1日、分かった。

 次の段階では各国の原子力監督当局によるチェック、さらにEU27カ国の監督当局による相互チェックが控える。ストレステストを統括する欧州委員会は、来年6月には「信頼できる最終報告書を出す」と話している。

 電力の7割以上を原発に頼る原発大国フランスの事業者の回答をまとめた報告は「福島のような事態に陥るリスクは無視してよい」と結論付けた。英国の事業者も原子炉の構造に「根本的な弱点はない」と断言した。
 

原発安全評価:EU先送り 津波にテロ…検査対象拡大 「時間的に判断無理」

 東京電力福島第1原発事故の後、世界に先駆けて原発のストレステストの実施を決めた欧州連合(EU)だが、原発のある14カ国のうち10カ国の規制当局が評価を先送りにした。背景には、短い検査期間の中で、電源喪失などという前代未聞の福島事故を受け、巨大津波や大洪水など検査の対象範囲が際限なく拡大したことがある。テロや飛行機墜落事故など政治的判断が求められる検査項目も浮上し、規制当局の“弱腰”ぶりもあり、各国の検査項目はバラバラとなった。
 EUストレステスト実施が内定したのは、東日本大震災から10日後のエネルギー担当相会議。実施要領が完成したのは5月、テスト開始は6月だった。
 多くの国で「こんな厳しい日程では要求に合う報告が作れない」(スロバキア)との意見が続出した。突貫工事のようにテストを始めた規制当局者らは「政治家が福島の事故に興奮し、急がせた」と不満を口にした。
 事業者らを悩ませたのは検査項目の幅広さ。通常は設計で想定された事故や自然災害に対応できるかを調べるが、今回は「設計を超えた事象」も検査が求められた。想定される事象も際限なく、「設計外のシナリオに対する技術的な判断は時間的に無理」(スウェーデン)との嘆きもあった。
 実際、4基の原子炉を持つハンガリーの規制当局は、(1)3、4号機の貯水槽に耐震性のないビルが隣接(2)付設消防隊の建物の耐震性が示されていない(3)給水ポンプのフィルターの電源の安全性が不十分−−などと指摘し、検査対象の拡大を求めるなど混乱した。
 閉鎖に直結するような重大な問題も浮かび上がった。ベルギー原子力規制局によると、7基(2カ所)の原発を運営する電力会社エレクトラベル社は中型旅客機が衝突すると「3基の建屋に部分的に穴が開く」との内容を最終報告に盛り込む予定だという。
 01年の米同時多発テロを受けて旅客機の墜落事故も想定したベルギーは、「原発の安全システムに影響しない」としてきた。しかし今回、墜落だけでなく冷却機能や電源の喪失などの多重事故への評価も追加。原発政策を担う政府高官は取材に「(閉鎖につながる検査項目の評価には)高度な政治判断が必要」と述べた。
 多くの国で原子力がエネルギー安全保障と不可分の関係にあるためだが、環境保護団体グリーンピースは、「規制当局は独立組織。厳しい態度でテストを進めるよう事業者に迫るべきだ」としている。

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