2011/9/24 日本経済新聞

スマートフォン特集

蓋を開ければ「日本製」
 村田製作所:超小型コンデンサー アップル採用で拡大
 旭化成   :電子コンパス 画面回転の要、シェア8割以上

 米アップル対韓国サムスン電子の「2強体制」が確立しつつある世界のスマートフォン市場。スマホそのものでは日本メーカーの存在感は薄いがスマホのケースを開いてその中身に目を移すと日の丸電子部品メーカーの存在感が際立つ。日本の電子部品は欧米アジア勢を寄せ付けず、スマホ産業を支えている。

 その代表格が、村田製作所だ。スマホ内部の基板に並ぶ電子部品に電気を素早く供給する蓄電部品「積層セラミックコンデンサー(MLCC)」、電波から必要な信号だけ取り出す「SAW(表面弾性波)フィルター」「無線LANモジュール」などで世界首位だ。

 村田製は「0402」と呼ぶ超小型のMLCCの開発で先頭を走る。その名が示すとおり表面が0.4 x 0.2mmとごま粒よりも小さい。0402はアップルが昨年6月に発売した「iPhone 4」で採用、他のスマホメーカーも追随した。アップルがこの部品ををいち早く採用したのは「設計の自由度を確保するため」(日系電子部品メーカーの技術者)だ。

アップルのスマホ「iPhone4」のメーン基板。
ICの周りにこま粒よりも小さなMLCCが多数配置されている。
  日経エレクトロニクス提供

1世代前のMLCCに比べて、取り付け面積が2分の1以下で済むため、基板スペースに余裕ができ、新たな機能を盛り込める。スマホは消費電力が大きい電子部品を多く使うため、MLCCが合計400〜500個と、第2世代の携帯電話より2〜4倍多く必要になるからだ。

 旭化成はスマホが向いている方向を割り出す電子コンパスと呼ぶ部品で8割以上と圧倒的なシェアを持つ。道案内ソフトなどで進行方向に合わせてスマホ画面が回転する機能はこの部品が実現している。旭化成は電子コンパスに組み込む基幹部品「ホール素子」を様々な用途で大量生産しているためコスト競争力が高い。

 スマホの内蔵カメラは、コンパクトデジタルカメラの市場を侵食するほど高性能化が進む。電子の目にあたる「CMOS(相補性金属酸化膜半導体)センサー」ではソニーが高感度品を中心にスマホメーカーに納入。京セラはCMOSセンサーなどの半導体と基板をつなぐ台座となるセラミックパッケージで7割超のシェアを持つ。京セラはセラミック加工技術で先行、気密性や剛性の高さなどで評価されている。

 スマホを支えるのは大手メーカーだけではない。タツタ電線はプリント基板に貼って、電磁波対策を施すための「シールドフィルム」で8割強のシェアを持っている。水晶部品中堅のリバーエレテックは部品の小型化技術を武器にアップルのiPhoneに採用されるなど、スマホ需要のすそ野は独自の強みを持つ中堅メーカーなどにも広がっている。


中小型パネル競争 活発

 スマートフオンとともに成長しているのが画面となる中小型パネル。米ディスプレイサーチによると15年の中小型パネルの世界市場は約505億ドル(約3兆8500億円)と11年予想比7割強拡大するとの試算だ。

 スマホ画面の高機能化を実現しているのがガラスやフィルムなどの高機能素材だ。耐久性や軽量性に優れ日本メーカーのシェアは高い。成長市場を取り込もうと新製品の開発競争も活発だ。

 ゴリラ対ドラゴンーーー。スマホのタッチパネルをホコリや衝撃から保護するカバーガラスで、ガラス大手が激突している。耐久性の高さで市場を席巻する米コーニングの「ゴリラガラス」、。これに旭硝子が1月に発売した新製品「ドラゴントレイル(竜の軌跡)」で真っ向勝負を挑んだ。

 旭硝子のガラスは特殊な組成技術を活用、強度は建築や自動車に使うガラスの約6倍だ。約200億円を投じた新ラインで量産。2012年12月期に売上高300億円を目指し、スマホ用でシェア首位のゴリラガラスの牙城を切り崩しにかかる。

フィルムも軽さや薄さを武器にガラスの代替需要を狙う。昭和電工が開発した「ショウレイアル」はガラス並みの強度と光の透過率がある。硬さは一般的な樹脂フィルムの2倍、厚さは100マイクロ(マイクロは100万分の1)メートルとガラスの半分以下だ。7月から試験プラントを稼働させ、顧客提案を強化している。

色鮮やかなスマホのディスプレー。基幹部品ある液晶パネルの表面を守るのが富士フイルムの「偏光板保護フィルム」だ。液晶テレビ用なども含めた世界シェアは約8割に及ぶ。現在はテレビ用と同じ厚さの製品をスマホにも使っているが3割ほど薄い製品を開発中で端末の軽量化や薄型化に役立てる。液晶の動きを制御する「配向膜」もJSR、日産化学工業、チッソの日系3社の独占市場だ。

 成長する中小型パネル市場で競争力を高めようと東芝、日立製作所、ソニーは8月末、中小型パネル事業を統合すると発表。世界シェア2割を握る新会社を12年春に設立する予定だ。

 素材各社も中小型パネル用素材の販促を急ぐ。日本ゼオンは光の反射を防止してスマホの画面を見やすくする高機能フィルムの販売拡大を狙う。日東電工は透明接着シートなどスマホ用の素材の品ぞろえを増やしている。

 液晶よりも画像が鮮明で次世代の表示装置とされるのが有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)パネルを使ったディスプレー。韓国サムスングループが人気のスマホ「ギャラクシーS」に採用しており、関連素材の開発が活発になっている。
住友化学は視認性の高いタッチパネルの工場を12年に韓国に建設、サムスンに独占供給する。