日本経済新聞 2006/9/26

特許、出願優先に統一 米が転換、受け入れ
 主要41ヵ国 新条約作りへ 審査時間短く

 日米欧など41カ国は特許を認める基準を統一する新条約を作ることで大筋合意した。米国が自国の「先発明主義」を放棄し、早く出願した企業や個人に特許を与える日欧の「先願主義」に統一することで一致したのが最大の柱。

特許基準統一に関する合意の骨子
・先に出願した人に特許を与える日欧などの「先願主義」に統一
・米国は先に発明した人に特許を与える「先発明主義」を放棄
・発明公表から出願までの猶予期間を1年間認める
・発明の斬新さ、進歩の度合いを判断する基準を共通化
・出願から1年半後に内容を公開する制度の徹底
・出願書類の言語にかかわらず、最初の出願日を各国が認める

これまでは外国から米国への特許出願の場合、出願日が発明した日とみなされ、米国内の発明者より不利だっただけに、メリットはひときわ大きい。


▼特許基準統一に加わる41力国
 日本、米国、欧州連合(EU)加盟25カ国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、ノルウェー、アンドラ、バチカン、サンマリノ、アイスランド、スイス、トルコ、ブルガリア、モナコ、リヒテンシュタイン、ルーマニア。これに欧州委員会と欧州特許庁の代表も参加している。

グレース・ピリオドとは,発明の公表から特許出願までに認められる猶予期間のこと。例えば,発明者が出願前に発明内容を学会などで発表した場合にも,グレース・ピリオドの期間内なら発明の新規性が認められ,特許の出願が可能になる。
日本や欧州では,法律で定めた刊行物や学会,国際博覧会で発表した場合にのみ,6カ月のグレース・ピリオドが適用される。
これに対して米国のグレース・ピリオドは1年で,適用に関する制限はない。

 


日本経済新聞 2006/10/19

インクカートリッジ再生品差し止め エプソンの請求棄却
 東京地裁 「特許は無効」


 同特許は、カートリッジのインク漏れを防ぐシール材やフィルムが破れないよう工夫した構造に関するもの。1992年に出願、2001年に登録されたが、特許庁は今年5月、特許の一部を無効とする審決を出した。エプソンが訂正審判を請求、現在も同庁で争われている。
 清水裁判長は「問題の特許のうち、00年にエプソンが分割出願した内容は刊行物で公にされており、新規性がなく特許は無効とされるべきだ。特許侵害は成り立たない」と判断した。

キャノン訴訟と異なる争点
知財高裁は、リサイクル品が特許侵害にあたるケースとして、@元の製品の寿命が尽きた後に再使用された場合A特許の本質的部分が加工されたり交換された場合ーーの2類型という新たな基準を提示。キャノンの訴訟では、リサイクル業者の製品は「特許の本質的部分を加工した」として特許侵害を認めた。
 この日の判決では、差し止め請求の前提となるエプソンの特許が無効と判断されたため、エコリカ製品が知財高裁の示した二類型に該当するかどうかという判断をするまでもなく、請求棄却となった。


キャノン訴訟
 一審の東京地裁判決は、
新品のカートリッジが販売された時点で特許権が消尽しているとして侵害を認めず、キヤノンの請求を棄却。キヤノンが控訴し、知財高裁は裁判官5人による大合議で審理していた。

 控訴審でも特許権の消尽が争点になった。控訴審判決では、対象となる製品のうち、特許の本質部分を構成する部材の全部か一部について加工・交換が行われた場合、販売後ももはや同一の製品とは言えなくなるため、特許権は消尽せず、特許権者は権利行使が可能だとした。

 消尽に関する判例としては,「BBS事件最高裁判決(最高裁平成9年7月1日第三小法廷判決」が有名である。
BBS事件は,ドイツのBBS製の自動車ホイールの
並行輸入を巡って特許権と商標権の侵害が争われた。
 BBS事件最高裁判決では,「特許権者,または特許権者から許諾を受けた実施権者が日本国内においてその特許発明に関する
製品(特許製品)を譲渡した場合,その特許製品についての特許権はその目的を達したものとして消尽し,もはや特許権者は,その特許製品を使用し,譲渡し,または貸し渡す行為などに対して,特許権に基づく差止請求権などの行使はできない」とした。

キャノン訴訟判決は,この理論を基にしながら,2つの類型に該当する場合は,特許権は消尽しないとした。

1類型 特許製品を基準として,その製品が製品としての効用を終えたかどうかを判断
第2類型    特許発明を基準として,特許発明の本質的部分を構成する部材の全部または一部につき加工または交換がなされたかどうかを判断      

http://chizai.nikkeibp.co.jp/chizai/etc/iwakura20060403.html


日本経済新聞 2007/11/9

再生品も特許侵害 カートリッジ訴訟 キャノン勝訴確定 最高裁が初判断


認定基準を幅広く 再生品の流通に影響も

〈最高裁判決の骨子〉
・特許製品の販売後でも、加工などで新たに製造された場合は、特許権を行使できる
・新たに製造したかどうかは、技術的機能だけでなく総合的に判断する
・インクガートリッジを加工して特許製品を新たに製造した行為は特許権侵害

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毎日新聞 2007/11/9

インクカートリッジ訴訟 予測難しい侵害基準

◆「インクカートリッジ訴訟」一の判決の比較◆

  どんな場合に特許穫侵害となるか(判断基準) リ社の製品は特許権侵害か(結論)
最高裁
(07年)
▽純正品と同一性のない製品が「新たに製造」された
▽純正品の属性、発明の内容、加工の態様、取引の実情などを総合考慮
▽再生の工程は、本体を変形させ、発明の効果を再現するなど、「新たに製造」と言えるので侵害
▽差し止め認める

知財高裁(06年) ▽寿命が尽きた純正品を再生利用した(第1類型)
▽発明の本質的部分を加工・交換した(第2類型)
▽再生の工程は、本質的部分を加工・交換しているので侵害
▽差し止め認める
東京地裁
(04年)
▽修理の範囲内を超えて「新たな生産」をした
▽純正品の客観的性質、発明の内容、加工の程度、取引の実情などを総合考慮
▽再生の工程は、修理の範囲内なので侵害ではない
▽差し止め認めず」