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2019/3/1 
Aramco、Catalytic Crude to Chemicals技術の開発・商業化促進のため, Axens 及びTechnipFMC と提携

 Saudi Aramcoは1月30日、Axens 及びTechnipFMC との間で、原油から直接化学品を生産する Catalytic Crude to Chemicals (CC2C™) 技術の開発及び商業化の促進のための共同開発・協力契約を締結した。2021年までの商業化を目指す。

Axensはフランス石油・新エネルギー研究所のグループ企業で、石油精製、石油化学、ガス、代替燃料業界において先端技術触媒吸着剤サービス等を提供する。

TechnipFMCは、2016年にフランスのTechnip S.A. と米国のFMC Technologies Inc.が合併してできた。世界50か国以上で油田開発などの技術提供や建設事業などを行う。

CC2C™は、国際石油交流センター主導のもと、JXTGエネルギーとサウジのKing Fahd University of Petroleum & Mineralsの協力で開発されたHS-FCC™(高過酷度流動接触分解)をベースにするもの。

Saudi Aramco、Axens、TechnipFMCは HS-FCC™ technology Allianceのメンバーで、両社は HS-FCC™ 技術の独占ライセンサーである。

JX と Aramco、King Fahd University などは2010年6月に、従来型の流動接触分解(FCC)プロセスのライセンサーであるAxens 及び Stone & Webster と、HS-FCC™ 技術の普及促進のための協力体制を構築した。Technipは2012年にStone & Webster の化学工業部門を買収した。

Aramcoは既に2018年1月に、この技術の開発のため、CB&I (現在のMcDermott) 及び Chevron Lummus Global との間で Joint Development Agreement を締結している。

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CC2C™のベースのHS-FCC(高過酷度流動接触分解)は、既存の流動接触分解(FCC)がガソリンを生産するのに対し、重質油を分解してプロピレン、ブチレンなどのライトオレフィン類を効率良く生産するプロセス。

原料の重質油は粉末状の触媒と共にダウンフロー型の反応器に投入され、反応器中を落下する一瞬の間に反応が起こる。高温(600℃)かつ短時間(0.5秒)であることがこの反応の特徴。
反応後の生成物は分離器により触媒から分離され、反応器から取り出される。

一方、反応後の触媒は触媒洗浄塔を経由して触媒再生塔に送られ、反応中に付着した炭素分を除去することにより再生される。 再生後は再び反応器に送られ反応に用いられる。
また、再生中に炭素分の燃焼により得られた熱は反応熱として利用される。

2000年〜2004年に国際石油交流センター(JCCP)の技術協力事業として、King Fahd University of Petroleum & Minerals、Saudi Aramcoと、サウジアラビアにて、30バレル/日の小規模装置の建設運転を実施した。

2007年〜2008年に石油産業活性化センター(PEC)の技術開発事業として、3,000バレル/日の実証化装置の設計を実施

2011年4月から、JXTGエネルギーの水島製油所にて重質油処理量3,000B/D(プロピレン生産量140,000トン/年)のセミ商業化装置運転を行っている。

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HS-FCCでは原油の60%以上を化学品に改変する。

AramcoではCC2C™で原油の70〜80%を化学品に改変することを狙っている。

 

Saudi AramcoとSABICは2017年11月26日、サウジ国内での原油から化学品までの統合コンプレックス(COTC Complex : Crude Oil To Chemicals complex ) 設立のMOUを締結したと発表した。

日量40万バレルの原油を処理し、年産約 900万トンの化学品やベースオイルを生産するもので、2025年の生産開始を見込んでいる。

SABICは2018年4月26日、この計画の管理及び基本設計(FEED)の契約を米国のKBRと結んだと発表した。

両社は2018年11月1日、立地をYanbuに決めたと発表した。

2017/11/30    Saudi AramcoとSABIC、Crude Oil-to-chemicals JVのMOU締結 


2019/3/2 豪州と中国の関係悪化か? 

中国の税関当局が遼寧省大連など5つの港で、オーストラリアからの石炭輸入を無期限の禁止にしたことが明らかになった。

ロイター通信によると、大連のほか、丹東や盤錦など遼寧省内にある計5つの港で豪州産石炭の通関ができなくなった。ロシアやインドネシアといった豪州以外の国からの石炭は影響を受けていないという。

中国外務省の耿爽副報道局長は2月21日の記者会見で「安全や品質リスクの検査や分析をしている」と述べ、輸入禁止を暗に認めた。目的については「中国企業の合法的権益や環境、安全を守る」と主張した。

豪州にとって中国は石炭の主要な輸出先で、今回の措置は豪経済への一定の影響が避けられそうにない。

 

豪州と中国の間では最近、緊張が高まっており、今回の措置は中国政府による豪州政府への圧力ともみられる。

@ Huawei 問題

Huawei 副会長の逮捕について、駐カナダ中国大使昨年12月13日付でThe Globe and Mail 紙に投稿した。

Huaweiは、グローバルな事業は現地の法や規制に厳格に従っていることを公的に何度も表明している。しかし、Five Eyes countriesの諸国は、何の証拠もなく、Huaweiが彼らの国家の安全を脅かす存在であると非難している。そのような推測をもとに、恐怖の種を撒き、国民をミスリードしている。

2018/12/22 駐カナダ中国大使のカナダ紙への投稿

Five Eyes は5カ国の諜報機関(アメリカ国家安全保障局、英政府通信本部、カナダ通信保安局、豪 参謀本部国防信号局、NZ 政府通信保安局) で、UKUSA協定を結び、世界中に張り巡らせたSIGINTの設備や盗聴情報を相互利用・共同利用する為に協定を結んでいる。

豪州政府は8月に、次世代通信規格「5G」の通信網について、「安全保障上の懸念」から、Huawei とZTEの参加を認めない方針を出した。

ニュージーランドでも、同国政府が、華為製品の使用は「国家安全保障上の重大な危機」があると警告したため、同国大手通信事業者が11月下旬、5Gの整備で華為製品を使用しないと発表した。

 

A中国人富豪の永住権取り消し

オーストラリア政府はこのほど、同国政治家や政治団体に多額の献金をした中国人の富豪・黄向墨(Huang Xiangmo) の永住権を取り消し、再入国を禁止した。

同氏は中国共産党がバックアップする在豪中国人団体のトップを務め、近年豪州に対する中国の浸透工作において中心的な人物とされ、 スパイ疑惑もある。

黄氏は2001年に深圳で不動産企業を創業し、2011年に豪州に移住した。豪州でも不動産売買で成功を収め、豪州の2大政党に合わせて270万豪ドル(約2億1千万円)の政治献金をしてきた。

さらに、2013年にシドニー工科大学に180万豪ドルを寄付し、豪中関係研究所を設立した。 その後、研究所の出版物が「共産党の宣伝品のようだ」と批判され、大学は研究所を解散した。

豪州の情報当局は2015年、黄氏など複数の中国人が共産党とつながっていることを指摘し 、国会議員がこれらの人物から資金提供を受けることは「危険」だと警告していた。

黄氏は昨年11月に豪州を出国し、現在香港に滞在している。

連邦議会は昨年、外国からの政治献金を禁止する改正選挙法を可決させ、外国人のスパイ活動などを阻止する法律も通過させた。

オーストラリア議会は2018年6月28日、外国のスパイ活動や内政干渉の阻止を目的とした複数の法案を可決した。

可決された法案はスパイ行為に対する罰則を強化した他、オーストラリアの内政に影響や害悪を与えようとする外国当局による秘密工作、欺瞞工作、脅迫行為などを対象とする新たな罰則が定められた。また外国による政治干渉を透明化するため、外国の政府や企業の代理人となる個人や団体には登録を義務付けた。

オーストラリアの情報機関は、中国政府が政治献金制度を使ってオーストラリアに影響力を行使しているとの懸念を表明していた。

オーストラリア政府は法案通過後の声明で「スパイ活動および外国の干渉はオーストラリアの安全保障と国防に著しいリスクとなっている」「敵対的な外国当局が、機密情報の入手やオーストラリアの民主的手続きへの影響力行使といったさまざまな手法でオーストラリアの国益に反する活動を積極的に行っている」と指摘した。

これに対し、中国政府は、オーストラリアの内政に中国が介入したという報道は「ヒステリー」「妄想」だとして激しく否定し、両国関係は冷え込んだ。

今回の件については、ペイン外相によると、現在中国当局からの抗議はない という。

 


2019/3/4   米USTR が年次報告書 
 

米通商代表部(USTR)は3月1日、通商政策に関する年次報告書を議会に提出した。

2019 Trade Policy Agenda and 2018 Annual Report of the President of the United States on the Trade Agreements Program

2019年に注力する課題として日本やEUとの新たな貿易交渉を挙げ、米国の輸出拡大や雇用創出を目指すと明記した。貿易協議を進めている中国に対しても、不公正な貿易慣行をやめさせるよう圧力をかけ続ける姿勢を示した。

2019年の貿易政策課題として以下を挙げている。
A. トランプ政権は多くの問題のある貿易システムを引き継いだ。
  1. 時代遅れで不公平な貿易協定  NAFTAと米韓FTA
  2.  欠陥のある多角的貿易協定
  3. 米国の労働者と企業を害する不公平貿易
    a. 中国その他の非市場政策による過剰能力の発生
    b. 中国の不公正なやり方での米国の知財への攻撃
    c. 貿易相手の労働・環境義務の無視(メキシコ、ペルー)
    d. 科学的根拠なしでの米国農産品への貿易障壁
     
B. トランプ政権は米国の労働者のため貿易政策を機能させるという約束を果たしてきた。
  1.  TPP撤退
  2. 協定の改定
    a. 米韓FTAの改定
    b. NAFTAの米-メキシコ-カナダ協定 (USMCA)への変更  注 未発効
      i. USMCA はNAFTAよりも米の労働者に有利
      ii. USMCA はNAFTAの義務を引き上げ
         米の知財の保護、著作権の保護、デジタル貿易での強み、環境保護
      iii.  非市場慣行
      iv.  今後の協定の前例に
      v.  TPPに比し著しい改善
    c.  今後の交渉で米国の利益を促進
  3. 米国の貿易法の積極的活用
    a. 中国の知財慣行の調査
      i. Section 301
      ii. USTRによる中国の米国知財の扱いの調査
      iii.   中国との交渉、関税付加
      iv.  共通の懸念についての同盟国との協調
      v.   最近の交渉の進展
    b.   輸入洗濯機、太陽光パネルに対するセーフガード
    c.   輸入に対するNational security 調査
    d.  米国の貿易の権利の断固とした実施
  4. 貿易優遇プログラムの適用 一般特恵関税制度など
  5.  WTOでの米国の利益の防衛
     
C. 米国の貿易関係の再調整を続ける。
  1. national security
  2. 戦略的パートナーとの新しい貿易協定を追及  日本、EU、英国との貿易協定の交渉
  3. 米国の法律、貿易の権利の継続適用
  4. グローバル経済のバランスを取り戻す。
    主な問題は特定国が経常収支赤字(輸入> 輸出)を続け、他が経常収支黒字(輸入< 輸出)を続けること。

結論:トランプ政権は2008年に、米国の企業と労働者が貿易関係で利益をシェアするため、米国の貿易のリバランスの方向に大きな一歩を取った。戦略的貿易パートナーとの間で協定を再交渉し、新協定の交渉を始めた。2019年もこれを継続する。

 

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日本については、2018年9月に大統領と安倍首相との会談でUS-Japan Trade Agreement の交渉入りを決めた。交渉は、物品と、早期に結果を生じうるサービスを含む他の重要な分野を含む。その後に他の貿易・投資の事項について交渉を行うことでも合意したとしている

日本側発表の「日米物品貿易協定」(TAG:Trade Agreement on Goods )とはしていない。

首相は記者会見で、「まさに物品貿易に関する交渉だ。これまで日本が結んできた包括的なFTAとは全く異なる」と説明した。
菅義偉官房長官も、「自由貿易協定(FTA)とは異なり、物品貿易に限定されるものであり、包括的なものではない」とした。

2018/10/6 日米物品貿易協定について 

具体的な交渉は、米国が中国との交渉を続けたため、延期されてきた。

USTRのLighthizer 代表は2月27日、下院歳入委員会の公聴会で、日本との貿易協定交渉について、3月にも訪日して正式に開始したいとの意向を表明した。TPPの発効で米国の輸出環境が悪化する懸念に言及し、対日交渉入りは「緊急性が高い」と強調した。

「米自動車業界が訴えている通り、日本を含むアジア各国には為替の問題がある」と述べ、為替も議題にする可能性を示唆した。

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米政権は2月28日、3月1日に交渉期限が迫っていた中国との通商協議を延長し、2日午前0時過ぎに発動予定だった対中制裁強化を見送ると正式発表した。

トランプ米大統領は3月1日、中国に対して農産品の関税全廃を求めているとツイッターで明らかにした。

I have asked China to immediately remove all Tariffs on our agricultural products (including beef, pork, etc.)
based on the fact that we are moving along nicely with Trade discussions and I did not increase their second traunch of Tariffs to 25% on March 1st.

This is very important for our great farmers - and me!


2019/3/5   マラリアワクチンの臨床試験 開始

日本人研究者が創業した米国メリーランド州の創薬ベンチャー VLP Therapeuticsは2月4日、独自技術 i-αVLP (inserted alpha VLP) Technology で開発したマラリアワクチン候補 VLPM01の新薬臨床試験開始届(IND)が米食品医薬品局(FDA)により認可され、フェーズ I/IIa の患者登録を開始したことを明らかにした。Walter Reed Army Institute of Research で臨床試験が実施される。
 同社初の臨床入り品目となる。

5月から30人に候補薬を3回ずつ投与し、感染時に速やかに治療できる体制を整えた上で、蚊を使って実際に感染を防げるか調べる。年内には結果が得られる見通し。

2017年にはアフリカを中心に推定2億1900万人がマラリアに感染し、43万5000人が死亡、その6割が5歳未満の子供とみられる。開発中のワクチンはあるが、これまで実用化には至っていない。

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2013年設立のVLP Therapeuticsは、ウイルス様粒子 VLP (Virus Like Particle) を作る技術を活用し、感染症(マラリア、デング熱など)やがんに対するワクチン開発、および遺伝子治療への応用を目指している。

同社のワクチンは、人工的に作った微粒子に病原体の特定の部位だけをくっつけたものを抗原とする。

ウイルス様粒子 VLP は、正常のウイルスと同様の粒子構造を持つが、ウイルスゲノムを含まないため感染性をもたない。

同社はアルファウイルスのVLPの表面に外来抗原を提示させることにより、抗原特異的抗体を誘導し、様々なワクチンに応用できる新しい技術を開発した。

この i-αVLPは、1つのVLP上に480個の外来抗原を高度な対称性と密度を保ちつつ提示することができる。そのため、免疫個体において、B細胞による抗原認識が効率よく行われ、抗原特異的抗体の産生量を非常に高める特徴を持つ。

一般的なワクチンでは、病原体を弱毒化させたものを抗原とするため、ごくまれに病気を発症させる可能性がある。ゲノムを持たず、体内で増殖しないVLPワクチンにはそうした心配がないため、安全性が高く、ワクチンの効果が期待できるという点が非常に高く評価される。

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創業者でCEOの赤畑渉博士は、東京大学を卒業後、京都大学で博士号を取得。その後渡米し、NIH (National Institutes of Health)のVaccine Research Center の上席研究員として、この微粒子を使ったワクチンを開発した。

VLPを使ったチクングニヤウイルス(ネッタイシマカ、 ヒトスジシマカなどにより媒介されるウイルス性の伝染病)のワクチン及び 3つの馬脳炎(ベネズエラ、東部、西部)のワクチンを開発。

日米で2社の製薬会社(アールテック・ウエノ、Sucampo Pharmaceuticals)を創業し上場させてきた上野隆司 博士、久能祐子博士夫妻と出会い、自身が開発したワクチンの実用化を進めるために起業を決意した。
夫妻をCo-Founderに加えた。

2人については 2015/8/29 Sucampo Pharmaceuticals、アールテック・ウエノを買収

VLP Therapeuticsは、伝統的なワクチン、標的抗体療法を変革して世界的な満たされていない医療の必要に対応する革新的な治療法を開発すること を使命とする。

VLP Therapeuticsは現在、予防用、治療用のワクチンとがん、感染症、自己免疫疾患、神経疾患を治療する次世代の標的抗体薬を開発中である。

現在のPipeline:

同社のPlatform:

 


 

2019/3/6 米上院も「国家非常事態宣言」無効決議へ

米上院は2月14日の本会議で、新たな政府機関閉鎖を回避する超党派予算案を可決した。米下院本会議も14日夜、可決した。

しかし、大統領は2月15日、国境の壁の追加予算獲得のために、「非常事態」を宣言した。ホワイトハウスで「我々が直面する問題を解決する。南の国境の危機を管理できていない。これは選挙公約のためではない。多くの薬物が流れ込んでいる。壁は100%効果がある」と演説した。

2019/2/18 米国予算案 成立、大統領は同時に非常事態宣言で他予算を壁建設に流用へ 

これに対し、米下院は2月26日、国家非常事態宣言を無効にする決議案を245対182の賛成多数で可決した。政権を支える共和党からも13人が賛成した。

米下院 ( 1議席 未確定)

  共和党 民主党 合計
賛成 13 232 245
反対 182 0 182
棄権 2 3 5
欠席 2   2
合計 199 235 434


2019/2/27 米債務上限引き上げ、見送りか 下院は国家非常事態宣言の無効化の決議 

上院は与党共和党が過半数を占めるが、100議席のうち53議席に過ぎず、4人が無効化に賛成すれば可決する。

2月28日、上院議員4名が下院と同様の決議案(両院のJOINT RESOLUTION)を提出した。

JOINT RESOLUTION

Relating to a national emergency declared by the President on February 15, 2019.

Resolved by the Senate and House of Representatives of the United States of America in Congress assembled, That, pursuant to section 202 of the National Emergencies Act (50 U.S.C. 1622), the national emergency declared by the finding of the President on February 15, 2019, in Proclamation 9844 (84 Fed. Reg. 4949) is hereby terminated.

提案者は野党民主党の2名に 共和党のSusan Collins 議員(Maine)とLisa Murkowski 議員(Alaska)が加わっている。直ちに共和党のThom Tillis議員 (North Carolina) が賛成すると述べた。

3月3日に共和党の Rand Paul 議員(Kentucky)が賛成を表明、これで上院の決議が可決される可能性が生じた。Paul 議員は共和党から10人は賛成すると述べている。

上院は3月18日〜3月22日が休みのため、3月15日までに投票が行われると見られている。

しかし、両院が決議案を可決したとしても、トランプ大統領は、 その場合、「100%拒否権を行使する」と明言している。
拒否権行使の場合、議会が覆すためには上下両院それぞれの3分の2の同意が必要で、現状では、拒否権を覆すのは困難との見方が大勢だ。

下院の2/3 は290で、共和党から50名の造反が必要となる。

上院の2/3は 67で、共和党から20名の造反が必要。

争いは裁判所に移る。

大統領の非常事態宣言については、2月18日 にカリフォルニア州を筆頭に16の州がカリフォルニア州北部地区の連邦地裁にトランプ政権を提訴した。

California、Colorado、Connecticut、Delaware、Hawaii、Illinois、Maine、Maryland、Michigan、Minnesota、Nevada、New Jersey、New Mexico、New York、Oregon、Virginiaの各州で、Maryland 以外は全て民主党知事。

トランプ大統領が非常事態を宣言した2月15日には、テキサス州の地主3人と環境団体が憲法違反と所有権侵害を訴えて、裁判を起こしている。

 

大統領が拒否権を発動したとしても、与党の共和党が多数の上院が大統領の決断に反対の意思を示せば、州政府や市民団体から提起されている違憲訴訟に影響が出るのは必至 である。

また、議会共和党との関係がぎくしゃくすればトランプ氏の再選戦略にも影を落とすことになる。



2019/3/7  エイズが完治 ? 

HIV(エイズウイルス)に感染したロンドン在住の男性が幹細胞移植を受け、完治した可能性があるとの症例研究が発表された。3月5日発行のNatureで、Cambridge University,のRavindra Gupta教授(治療時はUniversity College London)らが報告した。

患者はロンドンに住む匿名の男性(後記の理由で“the London patient”と呼ばれる)で、2003年にHIV感染が判明、2012年以降、HIVを制御する抗レトロウイルス薬で治療を受けていた。その後、進行した悪性リンパ腫(
ホジキンリンパ腫)が見つかったため化学療法を受けた後、2016年に幹細胞移植を受けた。

移植は比較的スムースに行われたが、 移植片対宿主病(ドナーの臓器が、免疫応答によってレシピエントの臓器を攻撃)を含む副作用があった。

ドナーはHIVに耐性のある変異遺伝子(CCR5 delta 32)を持っていた。

CCR5(C-C chemokine receptor type 5)という遺伝子にCCR5-Δ32として知られている変異を持つ集団がいる。

多くのHIV株が、宿主細胞に入り感染するための最初の段階でCCR5を利用しているが、この突然変異がある遺伝子を持つ人々は「CCR5」の受容器(レセプター)に欠損があるため、「CCR5」を利用して感染するエイズウイルスに感染しない。ヨーロッパに住む白人の1〜3%が保持している。

但し、この遺伝子は、HIVに対する耐性が高い一方で、西ナイルウイルスに感染しやすい。

患者は移植後も1年4カ月の間、抗レトロウイルス薬による治療を続けたが、1年半前に投与を中止した後もHIVは検出されていない。

チームは完治したと判断するにはまだ早すぎるとして、今後も引き続き患者の状態を観察する。


HIV感染者が幹細胞移植で完治したとされる例は、10年以上前にベルリンで報告されている。

Berlin patient と呼ばれるアメリカ人Timothy Brownで、HIV感染で抗レトロウイルス薬の治療を受けている間に急性骨髄性白血病と診断され、2007年にHIV耐性を持つドナーから2回の幹細胞移植を受けた。抗レトロウイルス薬の投与を中止してから数年後にHIVの痕跡が見つかったものの、ウイルス量は検出限界以下の状態が続き、唯一の完治例とみなされている。現在、米国に居住しており、HIV-freeである。

研究者らはこれまで、Berlin patient の治療を再現しようと試みてきたが、成功例は報告されていなかった。

Gupta教授は「同様の治療で2人目の患者が寛解したことにより、ベルリン患者が例外だったのではなく、この治療がHIVを消滅させたということが立証された」と話す。

ただし専門家らによると、HIV耐性を持つドナーからの幹細胞移植によって一部のエイズ患者だけが治る仕組みはまだ分かっていない。
また、HIVに感染しても通常は抗レトロウイルス薬により健康状態を維持できる一方、幹細胞移植には大きなリスクも伴う。そのため現時点での対象者は、エイズ以外の理由で移植が必要な人に限られる。

チームは、リスク面などから、現時点では造血幹細胞移植をHIV感染の標準治療とすることは適切でないとしている。日本でも造血幹細胞移植は、HIV感染の治療法として認められていない。


2019/3/7 Huawei、米政府を提訴 

中国通信機器最大手の華為技術(Huawei)は3月7日、同社の製品を米政府機関が調達することを禁じる「2019年National Defense Authorization Act」が米国の憲法違反だとして、同社の米国子会社の本社があるテキサス州の裁判所で米政府を提訴したと発表した。

付記

中国の王毅国務委員兼外相は3月8日、華為技術(Huawei)の米政府に対する訴訟を支援すると表明した。

Huawei に対する米国の制裁や、同社幹部がカナダで逮捕された事件について「単純な司法案件ではなく、特定の人々と企業に打撃を与えることを意図した政治的圧迫のたくらみだ」と非難し、「われわれは一企業の利益だけでなく、国や民族が発展する正当な権利も守る」と主張した。

Huawei が米政府を提訴したことについて「法律を武器に自らを守り、『沈黙の子羊』にならないことを支持する」と評価した。

一方で、米中関係について「協力すれば双方が利益を得て、対立すれば双方が傷つくのは明らかだ」と、貿易交渉などで妥結を呼びかけた。

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米上下両院は2018年8月、華為技術(Huawei)や中興通訊(ZTE)と、監視カメラ大手の杭州海康威視数字技術(HIKVISION )、浙江大華技術(Dahua Technology)、海能達通信(Hytera)の計5社への締め付けを大幅に強化することを盛り込んだ「2019年度米国防権限法」を超党派の賛成で可決し、8月13日にトランプ大統領が署名、成立した。

2017年には国防総省によるHuawei と ZTEの製品調達を禁止する法律 (National Defense Authorization Bill ) が成立し、2018年5月に国防総省は世界中の米軍基地の携帯電話販売店で HuaweiとZTE製のスマホの販売を禁止したが、2019年度米国防権限法は、禁止を国防総省以外にも拡大するもの。

禁止対象製品は次の通り。

(A) Huawei と ZTE (関係会社を含む)製の通信機器

(B) Hytera Communications、Hangzhou Hikvision Digital Technology、Dahua Technology Company  (関係会社を含む)製のセキュリティ用のビデオ監視・通信機器

(C) 国防長官が国家情報長官、FBI局長との協議で、中国政府の影響下またはつながりがあるとみなす企業の通信機器及びビデオ監視システムも同様の扱いとなる。

禁止は2段階に分かれる。

第1 段階(発効日の1年後=2019年8月13日以降)

米政府機関(連邦政府、軍、独立行政組織、政府所有企業)が5社の製品や、5社が製造した部品を組み込む他社製品を調達することを禁止

第2段階(発効日の2年後=2020年8月13日以降) こちらが特に問題である。

5社の製品を社内で利用している世界中の企業との取引を禁止
(米政府機関に収めている製品・サービスが通信機器とは一切関係のない企業でも、5社の製品を使っておれば禁止)

2018/12/11    2019年度米国防権限法(NDAA2019)  ---  Huawei、ZTE等の米政府機関との取引からの排除

なお、国防権限法には、外国企業の対米投資を審査する米国の独立機関、対米外国投資委員会(CFIUS)の権限を強化する条項もある。

これまでのCFIUSの審査対象は、安全保障に係るものと大統領が判断した買収に限られた が、改正により、米国企業の買収を狙いとする取引に限らず、合弁会社設立や、米国の重要な技術やインフラ、個人情報に関わる少額の出資なども審査の対象とする。米政府施設に近い土地取得など不動産取引も含める。

2018/8/17   米、対米投資の審査対象拡大

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Huawei は、この法律が裁判なしで個人やグループを罰しており、憲法に違反するとしている。

同社は同社の製品のどれにもセキュリティリスクはないと主張している。

Huaweiの郭平副会長が7日、深圳市の同社本社で記者会見し、以下の通り述べた。

この禁止は憲法違反であるだけでなく、Huaweiを公正な競争から排除し、最終的に米国消費者を害している。

米議会はHuaweiの製品の販売を制限するための証拠を示せていない。

最後の手段として、法廷で争うしかない。

また、Edward Snowdenが暴露した情報に触れ、「米政府は長年、Huaweiを脅威であるとしているが、米国の情報機関は我々のサーバーをハックし、我々のソースコードをハックしてきた」と述べた。

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別途、米司法省は1月28日、Huawei と孟晩舟 Huawei副会長を起訴した。

1) イランとの取引関係

被告 銀行詐欺 通信詐欺 IEEPA違反 資金洗浄 司法妨害
Huawei Technology
Huawei Devices USA        
Skycom Tech  
孟晩舟 Huawei副会長      

2) 米企業 T-Mobile からの技術窃取

被告 企業秘密窃盗 通信詐欺 司法妨害
Huawei Device
Huawei Devices USA

T-Mobile からの技術窃取については、Huaweiは2月28日、Seattleの連邦地裁で無罪を主張した。

 

米国は孟副会長の引き渡しを正式に要請し、カナダ司法省は受理した。

2019/2/1 米司法省、Huawei を起訴 

 


2019/3/7 中国政府、Huawei 問題でカナダに圧力 

米司法省は1月28日、Huawei と孟晩舟 Huawei副会長を起訴した。

米国は孟副会長の引き渡しを正式に要請し、カナダ司法省は受理した。

2019/2/1 米司法省、Huawei を起訴 

カナダ政府は3月1日、米国への身柄引き渡しに関する審理を認めると明らかにした。 カナダと米国の犯罪人引き渡し条約に基づき検討した結果、「手続きを進めるための要件は満たされており、十分な証拠があると確信した」としている。

孟晩舟・副会長は3月6日、バンクーバーの裁判所に出廷した。孟氏側の弁護人は逮捕の背後には「政治的な特徴や動機」があると主張し、逮捕は不当だと訴えた。

引き渡し審理のための同氏の次回の出廷は5月8日となる。審理は長期化するとの見方が強い。

なお、カナダのトルドー首相は2019年1月26日、同国のジョン・マッカラム駐中国大使が同日付で辞任したと発表した。首相が辞任を要請した。

マッカラム氏は1月22日に中国語メディアとの会合で孟氏の逮捕にはトランプ米大統領の政治的な意向が反映されていると指摘。逮捕容疑であるイラン制裁違反に関して「カナダは(米国が求める)イラン制裁措置に署名していない」とし、引き渡しが行われない可能性を示唆していた。

 

別途、孟氏の弁護団は3月1日、カナダ政府と警察(Royal Canadian Mounted Police)及びカナダ入国管理局を相手取り、逮捕前に不当な尋問を受けたなどとして損害賠償を求める訴えをブリティッシュ・コロンビア上級裁判所に起こした。逮捕前に一般的な入国審査を装って3時間にわたり拘束され、尋問を受けた。持っていたスマートフォンやパソコンを取り上げられ、パスワードの提示を求められたという。

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中国政府は、副会長の逮捕を要請した米国政府ではなく、逮捕したカナダ政府に対し、猛烈な圧力をかけている。


シンクタンク The International Crisis Groupは2018年12月11日、同団体の上級顧問を務めるカナダの元外交官、Michael Kovrig氏が中国で拘束されたとの情報が入ったことを明らかにした。
カナダ外務省は12月13日、カナダ人実業家 Michael Spavor氏が中国の国家安全保障に脅威を与えた疑いで中国当局に拘束されたことを認めた。

共産党中央政法委員会のサイト「中国長安網は3月4日、この2人が「国家機密情報の窃取・探索」に関わった疑いで取り調べを受けていると報じた。

専門家らは、これが孟副会長逮捕に対する中国側の報復だとみている。

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中国の税関当局がカナダからのキャノーラ(菜種)輸入を認めない決定を下したことが明らかになった。

カナダのChrystia Freeland外相は3月5日、中国政府が3月1日付でカナダの農業大手Richardson International に対する同国産キャノーラの対中輸出許可を取り消したことを批判した。

キャノーラ農家の娘でもある外相は「Richardsonの状況を大いに懸念している」と述べ、「われわれは今回の措置には科学的根拠がないと考えている」とした。

カナダの昨年のキャノーラ輸出額は50億カナダ・ドル(約4200億円)を超え、ほぼ半分の約500万トン(25億カナダ・ドル)が中国向けだった。

日本をはじめ東アジアでは、古くから菜種油を食用に用いてきたが、油を多用する食生活が中心のアメリカでは、食用が禁止されていた。アブラナにはグルコシノレートと呼ばれる物質が含まれ、甲状腺機能の低下を引き起こすとされる。また、アブラナの種子(菜種)から搾った「菜種油」には、過剰摂取によって心臓に害を及ぼすエルシン酸が多く含まれる。

そこで、西洋アブラナの主要産国であるカナダの農業研究者によって、エルシン酸とグルコシノレートをほとんど含まない「キャノーラ品種」が開発された。

この名前は、“Canadian Oil Low Acid” から取られたとされる。

日本の食用向けの国産油は主に有害なエルシンカ酸を含まない品種から搾油されているため、菜種油の呼称が一般的である。

中国外務省報道官は3月6日、カナダから輸入したキャノーラ(菜種)について、「最近、中国の税関でカナダ産のキャノーラから頻繁に害虫が見つかっている。ある企業からの輸入品は特に問題が深刻だった」と述べた。

中国政府は以前、カビに対する懸念でキャノーラの輸入を制限する可能性があると警告していた。

今回の輸出停止は「国民の健康と安全を守ることが狙いであり、完全に合理的・合法的な措置だ」と説明している。

カナダの農務相は、中国側の措置を受けて、カナダの食品検査庁が追加の調査を実施したが、問題となるような害虫やバクテリアは見つからなかったと表明した。

 



2019/3/8 厚労省、iPS細胞の角膜移植臨床研究計画を了承 

 

iPS細胞からつくった目の角膜の細胞を患者に移植する大阪大の西田幸二教授(眼科)らのチームの「角膜上皮幹細胞疲弊症に対する他家 iPS 細胞由来角膜上皮細胞シー トの first-in-human 臨床研究」計画が3月5日、厚生労働省の 厚生科学審議会 再生医療等評価部会で、患者への同意の説明文書の内容などに修正を求める条件付きで了承された。
  

阪大のチームが対象にするのは「角膜上皮幹細胞疲弊症」の20歳以上の患者4人で、この病気は、黒目の表面を覆う「角膜」を新たにつくる「幹細胞」が 怪我などで失われ、角膜の一部が濁って視力低下や失明につながる。

京都大から第三者のiPS細胞の提供を受け、角膜の細胞に変化させ、厚さ約0.05ミリのシート状にし、患者の目に移植する。300万〜400万個(健康な人の目に存在する量と同程度)の細胞が移植される 。

移植した細胞が患者の目に定着し、長期的に角膜の細胞がつくり続けられるようになり、角膜の透明性が保たれ、視力が回復することが期待されている。今回の臨床研究では 治療効果や腫瘍ができないかなどの安全性を評価する。

角膜の移植にあたっては患者へのインフォームドコンセントの期間を経て、早ければ6月にも1人目の患者に移植する。2人目も年内の実施を目指す。

西田教授は臨床研究の先にある実用化の時期について、「最短で5年から6年くらい」と指摘。その際の治療費は「目算では400万円くらいと考えている。技術革新があったらもっとコストダウンできる」との見通しを示した。

目に関しては、2013年に理化学研究所の高橋政代プロジェクトリーダーが網膜の外側のRPE細胞の異常の加齢黄斑変性の治療に網膜の再生を行っている。

理化学研究所のと先端医療振興財団は2013年7月30日、iPS細胞を使い、滲出型加齢黄斑変性の患者6人を対象に、目の網膜を再生する世界初の臨床研究を8月1日に開始すると発表した。

RPE細胞は、網膜の外側にある一層の細胞で、主な機能は、血液網膜バリア、貪食能、栄養因子の分泌など。これの異常が加齢黄斑変性(age-related macular degeneration:AMD)である。

網膜下の脈絡膜新生血管や傷害を受けたRPEを取り除いた後、iPS細胞から作製したRPEシートを移植用器具を用いて網膜下へ移植する。

2013/12/4  大日本住友製薬と理研認定ベンチャーのヘリオス、iPS細胞由来医薬品を共同開発

 

難治性の角膜上皮疾患や角膜内皮疾患に対しては、ドナー角膜を用いた角膜移植法が行われてきたが、全世界的なドナー不足の問題や拒絶反応の問題を抱えている。

これらの問題を解決するために、西田教授らは iPS 細胞を用いた新しい角膜再生治療法の開発に取り組んできた。

「角膜上皮幹細胞疲弊症」を治療することを目的として、iPS 細胞から移植可能な「培養角膜上皮細胞シート」作製技術(SEAM 法)の確立に成功した。

 


2019/3/9 米、チタン中間製品スポンジチタンの輸入で通商拡大法232条調査

米商務省は3月4日、レアメタルのチタンの中間製品スポンジチタンについて、通商拡大法232条に基づく調査を始めると発表した。米国メーカーのTitanium Metals Corpが2018年9月に要請したもの。

米国の唯一のメーカーのTitanium Metals Corporation(通称は商標でもあるTIMET )は1950年設立のチタンメーカーで、ネバダ州Hendersonでスポンジチタンを生産している。
2012年11月に
Warren BuffettのBerkshire Hathaway Incが保有する Precision Castparts Corp. に買収された。

輸入増が安全保障上の脅威になっていないか判断し、必要であれば追加関税の発動などを検討する。

Ross長官は、「スポンジチタンは、ヘリコプターのローター、戦車の装甲、戦闘機の機体やエンジンなど防衛で広く使われている。完全でフェアで透明性のある調査を行い、(追加関税などの是非を)大統領に報告する」と述べた。

スポンジチタンの米国の消費の60%以上が輸入品で、米国では1カ所のみで生産している。スポンジチタンは変質するため長期の保管が困難で、最も重要な軍事・航空宇宙の用途には適していないとしている。

 

Titanium Metals Corpは2017年にも、日本とカザフスタンからのスポンジチタンの反ダンピングの調査を申請している。カザフスタンのメーカーには42%、日本のメーカーには67〜95%のダンピング課税を要請した。

商務省のデータでは、2016年の輸入額は日本からが144.8百万ドルであった。 (2017年の日本からの輸入は約180百万ドル)。

これに基づき商務省が2017年9月に反ダンピングに加え、反補助金の調査を開始したが、米国ITCは10月8日、予備調査に基づき被害が無いとして調査を打ち切った。こんなに早い段階でITCが調査を打ち切るのは珍しいとされた。米国では、商務省ダンピングの有無、ITCが被害の有無を審査する。

 

ITCの決定は、商務省にとってショックであったが、今回改めて通商拡大法232条に基づく調査を行う。トランプ政権は、通商拡大法232条に基づいて、これまでに各国から輸入されている鉄鋼やアルミニウムに高い関税を上乗せしている。

2018/3/3 トランプ大統領、鉄鋼とアルミに追加関税、日本も対象

スポンジチタンの主要生産国は、日本、アメリカ、ロシア、カザフスタン、ウクライナ、中国の6カ国。日本では東邦チタニウムと大阪チタニウムテクノロジーズが生産している。

スポンジチタンは多孔質の中間原料で、管や板の形に加工してプラントの熱交換器などの素材になる。

東邦チタニウムの製造工程は以下の通り。

(1)塩素化:チタン鉱石(ルチル)の中の酸化チタンを塩素ガスと反応させて四塩化チタン(TiCl4)を製造。

(2)蒸留:四塩化チタンを蒸留により精製

    ガス状の四塩化チタンを冷却して液状にした後、高温で酸素と反応させ、塩素ガスを分離すると酸化チタンとなる。

(3)還元・分離:精製された四塩化チタンに溶融金属マグネシウムを反応させ,多孔質で塊状のスポンジチタンを製造。

酸化チタンの製法には上記の塩素法のほかに、硫酸法がある。欧米では塩素法、日本では硫酸法が主流である。

なお、東邦チタニウムは、サウジに Cristal(The National Titanium Dioxide)とその親会社のTasnee(The National Industrialization Company)とのJVでスポンジチタンを製造している。

この工場で、これまで日本のスポンジチタン製造において使用されていなかったチタンスラグ由来の四塩化チタンを原料とする。

2014/1/27 東邦チタニウム、サウジでスポンジチタンの製造販売JV 


2019/3/11   欧州中銀、年内利上げ断念
 

欧州中央銀行(ECB)は3月7日の理事会で年内の利上げ断念を決めた。

これまで金融政策の先行き指針として、現在0%の主要政策金利などの水準を「少なくとも2019年夏まで」維持するとしていた が、今回、「少なくとも年末まで」と表現を変え、利上げは早くても2020年以降と明確にした。

ドラギ総裁は、「景気減速が物価の回復を遅らせている」とし、金融緩和を続けて景気を下支えする。
記者会見で「われわれは、脆弱性が継続し、不確実性がまん延する時期にいる」と指摘し、保護主義、Brexitの先行き不透明性のほか、新興国市場の脆弱性などの外部要因について言及した。

 同日公表したユーロ圏の新しい経済見通しでは2019年の成長率を前回(2018年12月)の1.7%から1.1%、消費者物価上昇率を1.6%から1.2%にそれぞれ下方修正した。

ユーロ圏のCPIは量的緩和終了を判断した直前の2018年10月は前年比+2.3%であったが、その後低下している。

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欧州中央銀行(ECB)は2018年12月13日、量的緩和策を12月末で終了することを決めた。ユーロ圏の景気が回復を続け、物価上昇も進んでいるためで、既に利上げ局面に入っている米国に続き金融政策の正常化へかじを切った。

量的緩和で購入した資産は計2兆6000億ユーロ。2019年から新規購入はやめるが、満期を迎える保有債券の償還金は再投資に振り向ける。再投資は「長期間続ける」としている。

2018/9/22 欧州中銀、債券買い入れを年末で終了の付記

 

ECBは昨年末に量的緩和政策を終了したが、早くも緩和縮小路線の修正を迫られた。

米連邦準備理事会(FRB)も1月30日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で金融政策の現状維持を決め、追加利上げを見送った。声明文には「政策金利の調整を様子見する」と盛り込み、2019年中に2回を見込んでいた追加利上げを棚上げする考えを示した。

2019/2/2   米連邦準備理事会(FRB)、追加利上げを見送り

世界の主要中銀が景気減速への警戒で足並みをそろえつつある。

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ECBは同日、貸し渋りの抑制に向け銀行への新たな資金供給策の導入も決めた。

2019年9月に新たな資金供給制度(TLTRO3)を開始する。

TLTRO (Targeted Long Term Refinance Operation)とは、ECBが貸出実績に応じて銀行に直接資金を供給するもの。低水準の固定金利で資金を貸し出す。

ECBは、インターバンク市場の機能不全とイタリアスペインへの債務危機の飛び火が懸念された2011年末に3年物LTRO (Term Refinance Operation) を実施したが、2回総額で1兆ユーロ超巨額の資金を供給した。

2013年に前倒し償還が始まったこともあり、2014年9月に新たに1回目のTLTROTLTRO1)、2016年に2回目のTLTRO(TLTRO2)を実施しており、今回がTLTROとしては 3回目(TLTRO3)となる。2016年のTLTRO2では7200億ユーロを銀行に貸し出した。2020年6月以降に4年の満期を迎えるため、イタリアなどの銀行の資金繰りに不安が生じないようにする狙いもある。

今回は2021年3月までの期間限定で償還期限2年の低利資金を銀行に供給する。金利は満期までリファイナンスオペの最低応札金利に連動する。


2019/3/12  EU、デジタル課税合意見送り、仏英など独自課税へ 

 
EUがGoogleなどIT分野の巨大企業を主な対象とする digital taxの合意を見送る見通しとなった。

3月末までに加盟国でつくる閣僚理事会での合意を目指していたが、足並みがそろわなかった。

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欧州委員会は昨年3月21日、デジタル分野における課税に関する指令案を発表した。

近年のデジタル経済の拡大は、EUの経済成長に大きく貢献したものの、関連企業の実効税率は、従来分野の企業の約半分程度だと指摘し、これらの企業の多くが多国籍企業であることや、EU域内に実体的な拠点を必要としないことによって、現行の税制で捕捉できないことが原因だとして、公平な税負担を実現する必要があると強調した。

アイルランドのApple子会社は欧州 (及び中東、アフリカ、インド)での販売利益を全てアイルランドに集めている。

EUは2016年8月30日、アイルランドが米国のAppleに対して税を優遇していたのは、EUの法律が禁止している不当な補助にあたるとして、最大で130億ユーロ(プラス金利)の追徴課税を行うよう命じた。

アイルランド政府は2018年9月18日、Appleが追徴課税131億ユーロに利息12億ユーロを加えた総額143億ユーロを払ったと発表した。但し、アイルランド政府はEU司法裁判所への不服申し立てを継続する考えを示しており、「仮払い」として受け取り、第三者が開いた「エスクロー勘定」で管理する。

2016/9/1   EU、アイルランド政府にApple への130億ユーロの追徴を命令

さらに、一部の加盟国が現段階で捕捉されていないデジタル分野での課税を検討し始めたことに対し、域内における制度の乱立を避け、デジタル経済の成長を妨げない公正かつ持続可能な課税に向けて、域内で統一的なアプローチを取る必要があるとの認識を示した。

域内に実体的な拠点がなく、インターネットを通じてサービスを提供する場合も企業の収益に対する課税を可能にする法案と、一部企業のデジタル分野での収益に対する暫定的な課税措置から成る。

1つ目は、実体的な拠点が存在しない場合も、次の条件のいずれかを満たす場合は、企業が域内に「有意なデジタルの存在」を有していると見なし、加盟国が国内で発生した利益を課税できるようにする。

2つ目の提案は、現在捕捉されていないデジタル分野の収益に加盟国がすぐに課税できるように、暫定的な税(interim tax)を導入するもの。課税額は売上高をベースに算出される。

全世界での売上高が7億5千万ユーロ以上、かつEU域内の売上高が5千万ユーロ以上の企業のみをこの課税の対象とする。

課税対象の例:

  • ウェブ上の宣伝スペースの販売から得られる収益
  • ユーザー間の相互作用を可能とし、商品の販売やサービス提供を促進する、ウェブ上の仲介業務から得られる収益
  • ユーザーが提供した情報から生成されたデータの販売による収益

徴税はユーザーが所在する加盟国が行う。

現段階の税率は3%を想定しており、年間50億ユーロの税収増が見込まれるとしている。

この発表に合わせ、フランスとドイツ、イタリア、スペイン、英国の加盟5カ国は共同声明を発表した。

G20やOECDで合意が存在しない中では、EUレベルでの取り組みが必要だ。欧州委の提案を歓迎。これを契機にG20やOECDでの議論が活発化することに期待。

ムニューシン米財務長官は2018年3月16日、IT企業を対象にした課税強化策について「デジタル企業のみを対象にする提案は、どこの国からの提案であっても断固反対する」との声明を発表した。

「デジタル企業は米国の雇用創出や経済成長に大きく貢献している。新たに余分な税負担を課すことは成長を妨げ、最終的に労働者や消費者の損害となる」と強調した。

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その後、EUでは暫定的な税の適用について、議論を進めてきたが、税制の変更には全会一致の承認が必要となる。

EUのデジタル課税案には、低税率で米IT大手などを誘致してきたアイルランドなどが導入に猛反発し、また米国からの「報復」を警戒するドイツなども、国際的な課税ルール見直しの議論を見極めるべきだと早期導入に慎重な姿勢を崩さず、調整が難航した。

このため、2018年12月には推進派の仏がドイツと連携し、課税対象を絞る妥協案を提示した。

新提案では税率は3%を維持する一方で、課税の対象を広告の売り上げに絞り、データの売り上げなどは除外する。
2021年までに国際的な解決策が得られなかった場合にのみ発効する。

合意の時期も2018年末から2019年3月末まで先延ばしして決着を呼び掛けた。

しかし、アイルランド、スウェーデン、デンマーク、フィンランドが反対した。

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合意が困難となったことでフランスは単独での課税にカジを切り、3月6日に関連法案を閣議決定した。

世界で7億5千万ユーロ、仏国内で2500万ユーロ以上の売上高を持つIT企業を対象にネット上のビジネスの売上高に3%を課税する。

ネット上の広告、個人情報の売買、仲介の3つに対して2019年1月に遡及して課税する。

Google 等の検索大手のほか、Amazon などプラットフォーム提供企業も含む見通しで、仏経財省によると、30社あまりが対象となり、4億ユーロ程度の税収を見込む。

ルメール経済・財務相は同日、「欧州には21世紀の税制を定義する勇気がなかった。残念だ」と述べた。

反政権運動「黄色いベスト」のデモを収めるために打ち出した生活支援策で約100億ユーロの政府負担が発生するなか、税収を少しでも増やす狙いもある。

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英国のハモンド財務相は2018年10月29日、大手IT企業を対象とする新たなデジタル税制を2020年4月から導入すると公表した。

IT企業が英国のユーザーから稼いだ収入に2%の税率を課す。

世界の売上高が年間5億ポンド(約720億円)以上の事業部門が新税の対象になる。新税導入により年4億ポンド(約570億円)の税収を確保する。

ハモンド財務相は「オンラインでの買い物への新税ではなく、もうけのある企業に税を払ってもらう」と強調 した。英財務省関係者は「ベンチャーや起業家への投資を妨げる目的ではない。そのために対象企業の売上高に下限を設けた」と説明した。

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スペイン政府は2019年1月18日、大手IT企業のデジタル事業売上高に3%課税する法案を承認した。年間12億ユーロの税収を見込む。

年間売上高が世界で7億ユーロ超、スペインで300万ユーロ以上の企業が対象。

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経済協力開発機構(OECD)は2019年2月13日、IT大手へのデジタル課税などについて、論点を整理した文書を公表した。

2019年6月に福岡で開く20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で議論を報告する。議長国である日本には、合意に向けた調整役としての役割が求められる。

概要:

課題1.恒久的施設(PE)を持つことを前提にした現在の税制では、拠点を持たずに活動できるIT大手に課税しにくくなっていること

対策案 新たに基準を設け、物理的拠点がなくても課税できるようにする。

1. 検索エンジンなど電子ビジネスへの「ユーザーの参加」に応じ、そこで得られた利益に対する課税権を配分する。
  利用者(量)が多い国ほど多くの税金を課すことができる仕組みで、英国が提案している。

2. 顧客基盤などの無形資産(「マーケティング無形資産」)に応じて課税権を配分する米国案

3. 一定の売上高や従業員がいる国を「重要な経済拠点」と認定し、PEの概念を広げて課税を強化。インドなど新興国が支持

課題2. 税率の低い国に拠点を集めることで、税金逃れをすることへの対策

対策案 法人税率の最低水準を設ける。

高税率の国にある親会社が、水準を下回る低税率の国の子会社に利益を移した場合、高税率の国が子会社の所得を親会社に合算して課税できる仕組みなど

 


 

2019/3/13 再び中西経団連会長の発言 

経団連の中西宏明会長(日立製作所会長)が昨年末の報道各社とのインタビューで、今後の原発政策について次のように述べたとされる。(2019/1/5 東京新聞)

東日本大震災から8年がたとうとしているが、東日本の原発は再稼働していない。

国民が反対するものはつくれない。全員が反対するものをエネルギー業者や日立といったベンダーが無理につくることは民主国家ではない。

真剣に一般公開の討論をするべきだと思う。

不思議なことに、中西会長のこの発言を一部メディアは取り上げたが、東京新聞以外は大手新聞、テレビは全く取り上げていない。

中西会長は1月15日の記者会見で一転して次のように述べた。

原発の再稼働が進まないことも直近の課題であり、積極的に推進するべきである。

安全性の議論が尽くされていても、地元の理解が得られない状況に立ち至っている。
その説得は電力会社だけでできるものではなく、広く議論することが必要になっている。それにもかかわらず、原子力について真正面からの議論が足りていない。

再生可能エネルギーだけで賄うことは到底不可能である。原子力技術を人類のために有効に使うべきである。

日刊ゲンダイは、安倍官邸から怒られたのではないか、という見方が流れていると報じ た。

2019/1/23 原発問題についての中西経団連会長発言 

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中西会長はその後、「原子力に関する議論が不足している」などと繰り返し発言してきた。

これを受け、小泉純一郎元首相が顧問を務める民間団体「原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟」が2月14日、経団連に対し、原発問題に関する公開討論会の共催を呼びかけた。

小泉元首相は2017年4月14日、細川元首相とともに「原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟」(原自連)を発足させた。

2018/2/16 小泉元首相の原発反対運動 

推進連盟の吉原毅会長(城南信用金庫顧問)によると、小泉氏は討論会について「素晴らしい。実現すれば私も出る」と前向きという。

しかし、経団連は2月18日、これを拒否した。「反原発を通す団体で議論にならない。水と油だ」とした上で、今春、エネルギー政策に関する提言をまとめることを優先する考えを強調した。

これについて中西会長は3月11日、「エモーショナルな反対をする人たちと議論をしても意味がない。絶対いやだという方を説得する力はない」と語り、改めて議論を拒む姿勢を示した。

原発について、「再生エネルギーだけで日本の産業競争力を高めることができればいいが、技術開発が失敗したらどうするのか。いろんな手を打つのがリーダーの役目だ」と指摘。「多様なエネルギー源を確保しなければ日本は立ちゆかなくなる。福島の事故から何年たとうが変わらない」と話し、電力業界への積極的な投資を呼びかけた。

 

中西会長は2月14日、中部電力浜岡原発を視察した。中西会長は「万全な対策という印象を受けた。早く再稼働したいと正直そう思う」と述べた。

さらに「原子力エネルギー抜きに、今の気候変動に対応できない。長期的に考えても、着実なエネルギー源はない」と指摘。「核エネルギーを利用しないで、人類は繁栄できないというのが私の信念だ」と述べた。

「原発の再稼働への理解が深まっていないようだが」との記者団からの問いかけに、「原発と原子力爆弾が頭の中で結び付いている人に(両者は)違うのだと分離するのは難しい」と述べた。

これについて、御前崎市の柳沢市長は2月18日、「地元住民は原発と原爆の違いを十分、分かっている。適切ではない」と述べた。原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟の木村事務局次長は「原発も原爆も危険なことには変わりはない。住民は勘違いしていない」と批判している。

中西会長は2月25日、「表現として不適切だった」とで訂正した。「ちょっと失礼だった」と反省の弁も口にした。

 

中西会長は、「地元の理解が得られない状況に立ち至っている。その説得は電力会社だけでできるものではなく、広く議論することが必要になっている。それにもかかわらず、原子力について真正面からの議論が足りていない 」と述べた。反原発を主張する団体との議論を拒否していては、いつまでも地元の理解は得られないだろう。


2019/3/13 英下院、政府のEU離脱協定を否決 

英国の下院は3月12日夜、英政府がEUとの間で前日にまとめた離脱条件(後記)の協定の承認採決を行い、賛成 242、反対 391の大差でこれを否決した。与党保守党から75名が反対にまわり、閣外与党のアイルランド民主統一党も反対に廻った。

採決に先立ち首相は、「国民投票のように、賛否双方の合法的な視点はどちらも強固で平等なもの。そのため、下院では党議拘束を行わないことを確認する」と述べていた。

  議員 議長他
不投票
投票権者 賛成 反対 棄権
当初   現在
保守党 318

離脱 -4

314 2 312 235 75 2
民主統一党 10   10   10   10 -
(与党) (328)   (324)   (322) (235) (85) (2)
労働党  256

死亡 -1
離脱 -7-1-2

245 2 243 3 238 2
スコットランド国民党 35   35   35   35 -
自由民主党 11   11   11   11 -
独立党  8

離脱者 3

11   11 4 6 1
独立グループ   離脱者 11 11   11   11  
シン・フェイン党 7   7   7     7
プライド・カムリ 4   4   4   4 -
緑の党 1   1   1   1 -
合計 650  -1 649 4 645 242 391 12

1月15日に賛成 202、反対 432(うち保守党 118、民主統一党 10) の大差で否決されたのに続く2度目の否決。

2019/1/16 英下院、ブレグジット協定を歴史的大差で否決

英議会下院は2月27日夜、3月12日までに英と欧州連合(EU)の合意内容が議会で承認されなかった場合、「合意なき離脱」や「短期間の離脱延期」の賛否を議会に問う方針を賛成多数で可決した。

今回の離脱合意案否決を受け、13日に「合意なき離脱」の採決を行い、これが否決された場合は「6月末までの離脱延期」の採決を行う。

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英国のメイ首相と欧州連合(EU)のユンケル欧州委員長は3月11日夜、仏東部ストラスブールで会談し、離脱協議の懸案だったアイルランド国境問題の見直しに向けた2つの共同文書で合意した。

英国とEUが2018年11月にまとめた離脱案では厳格なアイルランド国境管理の復活を防ぐための「安全策」 (Backstop) として、国境管理の回避策が見つかるまで英国全土を関税同盟に残す規定を盛り込んだ。

2018/11/19   英内閣、Brexit合意案を承認

だが英議会が「永久にEUルールに縛られ続ける」と猛反発し、離脱案は1月に大差で否決されていた。

今回、英国がEUのルールに縛られ続けないとする条項を1月に英議会が否決した離脱案に追加し、法的拘束力を持たせたのが特徴である。

第一の文書は Joint legally binding instrument で、EUが英国を永続的に安全策に拘束し続けるのではないとの方針を確認するとともに、双方で安全策を巡り争いが生じた場合、独立した第三者の仲裁機関で処理するとした。

第二はJoint Statementで、北アイルランとアイルランドの国境管理を回避する策を見つけるよう、英国とEUが努力するとした。

ただし、これは実質的に従来案とほとんど変わらない。

北アイルランとアイルランドの国境管理を回避する案は時間をかけても出てくるとは思えない。

EUのバルニエ首席交渉官は3月8日、英側に追加提案したことを明らかにしたが、英側の要求には程遠いものであった。

アイルランド問題の「安全策」をめぐり、EU関税同盟から「一方的に出て行く選択肢を英国に提供することを約束する」と明言したが、その一方で、アイルランドの国境管理の復活を避けるための「安全策」の他の要素は維持されなければならないとも強調し、英国が関税同盟を出て行く場合も、英領北アイルランドだけはEU関税同盟に残していくことを求めた。

北アイルランド紛争の再発を避けため、双方の行き来を自由にしたうえで英国がEUを離脱しようとすれば、北アイルランドを英本土から切り離すしか方法は考え難い。

なお、ユンケル委員長は、EU離脱を延期する場合も、延期は5月23日(欧州議会選挙日)までだと決めつけた。

欧州議会は新議会(2019〜2024年)の開会初日時点の全加盟国から直接選ばれた議員で構成することが法的に義務付けられており、今回は7月2日がその日に当たる。
欧州議会選挙は5月23日〜26日に行われる。

新たな欧州議会が開会する7月2日以降も英国がEUにとどまる場合、英国は欧州議会選挙を実施する必要がある。

 

離脱延期の可能性が強いが、離脱を延期しても結局は問題を数カ月先延ばしにしただけに終わる可能性が強い。

トゥスクEU大統領(常任議長)の報道官は、英議会採決の結果、合意なき離脱のリスクが増大したと発言、英政府から離脱延期の要請があればEUは検討するが、「離脱延期とその期間には信頼できる理由」が必要だと語った。


 


2019/3/14    ノルウェーの政府系ファンドが「石油外し」

ノルウェー財務省は3月8日、世界最大の政府系ファンドであるノルウェー政府年金基金(Government Pension Fund Global ) が、石油・ガス関連株の一部を投資先から外すと発表した。

 原油価格の下落による政府資金の長期の運用リスクを抑える。

FTSE Russell  (ロンドンに拠点を置き、株価指数の算出・管理や関連する金融データの提供サービスを行う)が  “Exploration and Production”  と分類する企業を投資対象から除外する。
BPやShellのように“Integrated oil company ”と分類される企業は除外されない。

エネルギー関連株は341銘柄 370億ドルを持つが、売却対象は134銘柄 80億ドルで、基金の合計の0.8%だけ。

基金が所有する株式で投資対象外となる企業は別紙の通り。

日本企業では下記6社が含まれている。
富士石油、出光興産、Inpex(国際石油開発帝石)、三愛石油、東亜石油、K&Oエネルギーグループ(
関東天然瓦斯開発と大多喜ガス が2014年に統合)

圧倒的に米国企業が多い。

売却は時間をかけて行い、中央銀行と協議して計画をたてる。

同基金はノルウェー政府が北海油田から得る収入を元に、世界の株式や債券、不動産などに分散投資しており、2018年末時点の運用残高は8兆2560億クローネ(約9000億米ドル)。  
運用を担う Norges Bank (中央銀行)は2017年11月、資源相場の変動によるリスクが比較的高いとして、石油・ガス株の投資除外を提言した。

財務省は、今回の決定は石油価格や、石油産業の将来の採算性や持続可能性についての特定の見方を反映するものでなく、政府の現在の石油政策は変えていないとしている。
「石油産業は今後も長年にわたりノルウェーの重要で主要な産業である」としている。

今回の決定は気候変動リスクに対処するねらいもある。再生可能エネルギーの成長性に注目し、川下や再生エネまで幅広く手掛ける総合企業は残す。

 

 



2019/3/14  英下院、「合意なき離脱」を否決 

 

英国の下院は3月12日夜、英政府がEUとの間で前日にまとめた離脱条件の協定の承認採決を行い、大差でこれを否決した。

次は、「合意なき離脱」 をするかどうかである。

「合意なき離脱」の場合、ロイターによると下記の事態が起こる。

@ 英国経済

イングランド銀行総裁は、英国経済に対し、1970年代の石油危機に匹敵する「大きなマイナスのショック」を与えると警鐘を鳴らした。

国際通貨基金(IMF)では、合意なきブレグジットによって英国経済はマイナス成長に陥ると予測している。

英国に進出してる外国企業の撤退、EUへの移転が進むと予想される。

A 貿易

英国の輸出企業はEUの輸入関税に直面する。関税率は平均5%だが、自動車に10%が課せられる。

製造企業は、通関手続の遅れによって自らの「ジャストインタイム」製造方式に支障が出ることを危惧している。

ーーー

英国はどの国ともFTAを締結していないため、関税が世界貿易機関(WTO)ルールに準拠して発生する。通関手続きも復活する。

英政府は3月13日、合意なき離脱となった場合、輸入関税を引き下げると発表した。

金額ベースで英国への輸入品の87%に相当する商品が無関税となる。現在は80%が無関税。

EUからの輸入品は現在は100%が無関税だが、82%が無関税となる。
EU以外からの輸入品は現在は56%が無関税だが、92%が無関税となる。

これは、英国の輸入関税の話であり、輸出先はこれと無関係に、(従来のEUメンバーとしての関税ではなく)WTOルールで関税をかける。
輸出産業は被害を受けることとなる。

英国の生産者を保護するための措置も継続する。自動車メーカー、牛肉、ラム肉、豚肉、鶏肉、酪農製品の生産者などが対象となる。

B 港湾、企業倒産、備蓄

最初に影響が出る可能性が高いのは、港湾と空港で、英政府は、イングランド南部の自動車専用道路2本と空港1カ所を、必要に応じて大型トラック駐車場に転用する計画を立てている。

部品・原材料等の通関手続が10─30分遅延することによって倒産する懸念を抱いている英国企業は、全体の10分の1に及ぶとの試算がある。

英国政府は製薬企業に対し、薬剤の備蓄を通常より6週間分積み増しするよう要請している。

C 英ポンド

恐らくポンドは下落する。


合意なき離脱となった場合、アイルランドとの国境の管理をどうするかが大きな問題である。厳格な国境管理が復活すれば、北アイルランド紛争の再発の懸念がある。

英政府は3月13日、合意なき離脱となった場合、アイルランドと北アイルランドの厳格な国境管理を回避すると表明した。

合意なき離脱となった場合、アイルランドから北アイルランドへの商品の輸入について新たな検査や管理を導入しない。企業の自己申告に頼り、国境を越えた取引を記録するためアプリベースのシステムを活用するという。新たな輸入関税制度は適用しない。

この計画は一時的かつ一方向のもので、長期的な対策については、EU・アイルランド政府と早急に協議を開始するとしている。

EUがこの案を受け入れるかどうかは不明。
Backstopでは、EUはEU制限物資が他から入るのを防ぐため、北アイルランドのみにEU規制を残すことを求めている。

ーーー

下院は3月13日夜、「合意なき離脱」の採決を行った。

首相の当初の採決案は、3月29日の合意なき離脱を拒否するというものであったが、議員の修正案は「3月29日の」を除外し、「合意なき離脱を拒否」というものである。

下院はこれを321対278で可決した。今回の議決は、政府の決定に対して法的拘束力は持たない。

  議員 議長他
不投票
投票権者 賛成 反対 棄権
保守党 315 2 313 17 265 31
民主統一党 10   10   10  
(与党) (325)   (323) (17) (275) (31)
労働党 245 2 243 235 2 6
スコットランド国民党 35   35 35    
自由民主党 11   11 11    
独立党 10   10 7 1 2
独立グループ 11   11 11    
シン・フェイン党 7   7     7
プライド・カムリ 4   4 4    
緑の党 1   1 1    
合計(欠員 1) 649 4 645 321 278 46

次にもう一つの議員提案を採決した。Brexitを5月22日まで延期し、それまでに合意がなければ離脱するというもの。

下院はこれを否決した。

  議員 議長他
不投票
投票権者 賛成 反対 棄権
保守党 315 2 313 149 66 98
民主統一党 10   10 10    
(与党) (325)   (323) (159) (66) (98)
労働党 245 2 243 4 238 1
スコットランド国民党 35   35   35  
自由民主党 11   11   11  
独立党 10   10 1 8 1
独立グループ 11   11   11  
シン・フェイン党 7   7     7
プライド・カムリ 4   4   4  
緑の党 1   1   1  
合計(欠員 1) 649 4 645 164 374 107


次は、「離脱延期」の採決となる。

EU残留派は今回の「合意なき離脱を拒否 」の可決を受け、2度目の国民投票の要求を強めており、23日には再投票を求める大規模なデモも予定する。

 


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