ブログ 化学業界の話題     目次

これは下記のブログを月ごとにまとめたものです。

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2022/3/15  中国―欧州鉄道、対ロ制裁下も運行

NNA ASIAによると、ロシアに対する制裁が増えるなか、中国からロシア、ベラルーシを経由して欧州に至る中欧班列 (Trans-Eurasia Logistics) は3月4日時点で運航に影響がないことが分かった。

ウクライナ経由でハンガリー・ルーマニアに向かう支線については、ウクライナ国内の鉄道施設が破壊されたため、迂回措置が取られているが、中国からカザフスタン・ロシア・ベラルーシを経てEU玄関のポーランドに至るメインルートについては、中国側からも欧州側からも運行を停止したという情報はないという。

東洋経済によると、「中欧班列の98%以上はロシア、ベラルーシ、ポーランドを経由して西ヨーロッパに向かうルートを走っており、ロシアのウクライナ侵攻の影響は現時点では限られている。

 

欧州と中国間の輸送を止めても、ロシアは困らず、困るのは欧州と中国であるからだろう。ロシアとベラルーシ向け貨物は当然、禁止品目がないかチェックすると見られる。
逆に、ロシア側も中国を困らすことはしないだろう。

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2008年1月に北京とドイツのハンブルグを結ぶ路線が生まれた。中国鉄道とTrans-Mongolian鉄道、Trans-Siberian 鉄道を使い、中国から蒙古、ロシア、ベラルーシ、ポーランド経由でドイツまでの10,000kmを15日で走る。2011年3月に正式に営業を開始した。

2011年に重慶とドイツ西部の工業都市 Duisburg を結ぶ貨物鉄道「渝新欧鉄道(Yuxinou Railway)」が生まれた。重慶から北上して西安からDuisburgに到る。

2014年12月9日に中国と欧州を結ぶ国際貨物列車「義新欧鉄道("Yixinou Railway")」の第1号列車が、スペインのマドリードに到着した。浙江省・義烏市を出発し、新疆ウイグル自治区阿拉山口の国境で中国を出国し、カザフスタン、ロシア、ベラルーシ、ポーランド、ドイツ、フランスを通過して、21日後にマドリードに到着した。

2014/12/13 中国と欧州を結ぶ国際貨物列車の第三路線が開通 

2016年6月以降は中国各都市から欧州や「一帯一路」沿線国を結ぶ貨物列車便を「中欧班列」という統一ブランドで総称し、中国各都市と欧州23カ国180都市を結んでいる。


中国国家鉄路集団によると、中国と欧州や「一帯一路」沿線国を結ぶ国際貨物列車「中欧班列」の運行本数が2022年1月29日に 累計で 5万本を突破した(「人民日報」1月30日)。

 

 


2022/3/16    欧州の原油、天然ガス、石炭のロシア依存度 

バイデン米大統領は3月8日、ロシア産の原油、天然ガス、石炭と関連製品の輸入を全面的に禁止すると発表した。同日に大統領令に署名し、即日発効した。

英国のジョンソン首相は同日、ロシアからの原油と石油製品の輸入を段階的に削減し、2022年末までに完全に停止すると発表した。

2022/3/9 ロシア産原油禁輸、米が追加制裁 即日発効 英は年内停止

G7は3月11日、ウクライナへの侵攻を続けるロシアに新たな経済制裁を科すと表明した。

ロシアの最恵国の地位を取消し、ロシアからの輸入品に大幅に高い関税を課すほか、高級品の対ロ輸出も禁じる。

EU主脳会議は、2027年までにロシア産ガスや石油からの依存を脱する方針を確認した。

   2022/3/14 G7、ロシアに新たな経済制裁

 

しかし、欧州諸国がロシア産の原油、天然ガス及び石炭の輸入をやめるのは簡単ではない。

河野太郎衆院議員の「ごまめの歯ぎしり」 2022年3月9日号は「ロシア産のエネルギー資源」として経産省のデータを載せている。

バイデン大統領は「ロシア産の原油、天然ガス、石炭と関連製品の輸入を全面的に禁止」としたが、 米国の石油の依存度は2%(石油製品を入れれば8%)に過ぎず、天然ガスと石炭はゼロである。大々的に「輸入の全面禁止」を打ち出したが、実は他国に輸入停止を促すためのものであろう。

欧州はロシア依存が大きく、輸入禁止は大問題である。

英国の場合、石油は11%、天然ガスは5%であるが、石炭は36%を依存している。

フランスは天然ガスが27%、石炭が29%で、ドイツにいたっては、石油が34%、天然ガスが43%、石炭が48%と、消費の半分弱がロシアからの輸入品である。

ロシアからの輸入をやめ、他のソースに切り替えるのは大変である。

石油については、OPECは、サウジ産の輸出量 にほぼ近いロシアの輸出量日量約700万バレルを埋め合わせる余剰能力はないと述べた。サウジアラムコのCEOは「サウジの増産余地は日量200万バレルで世界需要の2%相当しかない」と述べた。

少なくとも中国はロシア原油の輸入を増やすと思われ、700万バレルがそのまま無くなることはないが、大変であることには間違いない。

天然ガスについては、欧州はロシアからパイプラインで供給を受けている。これを切った場合、他国からLNGで輸入するしかな い。
その場合、LNGの受け入れ設備、気化設備の設置が必要である。供給側も追加需要に対し、液化・出荷設備の建設が必要である。また輸送のための船も追加で必要となる。

EU首脳会議は今回、「2027年」までにロシア依存を脱するとしている。それまでは輸入を続けるということだろうか。

 

なお、日本の依存度は石油が4%、天然ガスが9%、石炭が11%となっている。

ロシア産LNGの輸入量は657万トンで、うちサハリン2が600万トンとなっている。

Shellは2月28日、主要な液化天然ガスプラントを含むロシアの全事業から撤退すると発表、「サハリン2」からも手をひく。

サハリン2には三井物産が12.5%、三菱商事が10%出資し、輸入LNGはJERAや東京ガスなど日本の電力・ガス会社8社が長期契約で調達している。

三井物産は「エネルギー安全保障をどう考えるか政府と協議する」としているが、どうするのだろうか。

撤退すると、代わりに価格が暴騰しているスポット品を購入する必要がある。LNGは中国が喜んで引き受けるだろう。

2022/3/1 Shell、サハリン2から撤退

 


2022/3/17  ロシア、英企業のソユーズでの人工衛星の打ち上げを拒否


米欧の経済制裁に反発し、ロシアの国営宇宙公社 Roscosmos State Corporation for Space Activities は3月3日、英企業 OneWeb LLC  のソユーズでの人工衛星の打ち上げを中止した。

OneWebカザフスタンのバイコヌール宇宙基地における同社の衛星打ち上げ全てを一時的に停止することを決定したと発表した。3月5日にも新たに36機が打ち上げられる予定であったが、衛星を搭載した「ソユーズ2.1b」ロケットは発射台から撤去された。

OneWebは自社の通信サービスを提供するために、648機の通信衛星からなる衛星コンステレーションの構築を地球低軌道で進めている。衛星の打ち上げはバイコヌール宇宙基地およびフランス領ギアナのギアナ宇宙センターから「ソユーズ」ロケットを使って実施されており、打ち上げ済みの衛星数は2022年2月の時点で428機に達していた。

Roscosmos は3月4日、ツイッターに「西側の制裁への私たちの報復だ」と投稿、人工衛星の打ち上げをとりやめたのは、英政府のせいだと正当化した。

Roscosmos は打ち上げの条件として、英政府がOneWebから出資を引き揚げることと、衛星が軍事目的でないことを証明することをOneWebに要求した。(英国のものは打ち上げない)

しかし英政府は「政府はOneWebの株を売却しない」として拒否、Roscosmos は英側が条件に応じなかったので中止を決めたとしている。


ソユーズが使えないため、三菱重工には欧米を中心とする衛星運用会社からの問い合わせが引きも切らないという。


影響は米国、ロシア、日本、欧州、カナダの計15カ国で運営される国際宇宙ステーション(ISS)にも及んでいる。

ISSには現在、米国、ロシア、ドイツの宇宙飛行士計7人が滞在している。Roscosmos は3月3日、ドイツの宇宙機関に対し、ISSでの共同科学実験を終了するとの書簡を送った。

地上から約400キロ上空を周回するISSの高度維持や姿勢制御は、ロシアが打ち上げるISSへの補給船とロシアのモジュールが担っている。

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OneWeb LLCは、米国に本社を置く低軌道衛星コンステレーションを用いた衛星通信を計画する衛星通信会社であった。

ソフトバンクグループなどから総額約30億ドルを調達し、2019年2月には、試験機となる衛星6機の打ち上げに成功、2020年2月と3月にもそれぞれ34機の衛星を打ち上げていた。また、地上局の一部も完成し、400Mbpsを超える通信速度と、32msの小さなレイテンシ(遅延時間)をもつブロードバンド・システムの実証実験に成功している。ソフトバンクグループは19億ドル出資し、同社株式の5割近くを保有していた。

しかし、2020年に入ってから、事業の継続に必要な新たな資金調達に失敗、2020年3月27日に連邦破産法第11章に基づく会社更生手続きを申請した。

申請時点で、サービス開始に必要な衛星648機に対して、打ち上げ済みは74機に留まっていた。同社は「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行に関連した財務上の影響や市場の乱高下により、資金調達プロセスが停滞したため」と説明している。

同社は2020年7月3日、インドの移動体通信大手Bharti Global と英国のビジネス・エネルギー・産業戦略省からなるコンソーシアムによって買収された。落札額は10億ドルで、両者がそれぞれ5億ドルを出資したという。運営権はBharti Global がもつ。

これによりOneWeb は衛星コンステレーションの構築を続けるための資金を獲得、英国政府は、EU離脱によってアクセス権を失った衛星航法システム「ガリレオ」の代わりに、“英国版GPS” としても利用することを目指す。

同社は2021年1月、ソフトバンクグループと米ヒューズ・ネットワーク・システムズから投資を受け、総額14億ドルの資金を確保したと発表した。今回調達した資金で、2022年末までの整備を計画している計648基の人工衛星ネットワークの費用を賄う。


2022/3/18 エーザイとBiogen、アルツハイマー病治療薬の提携契約を変更    

エーザイは3月15日、米Biogeenと共同開発するアルツハイマー病治療薬ADUHELMについて、2023年1月以降は共同開発・販売から手を引き、販売額に応じた収入を得る契約に切り替えると発表した。

 

エーザイとBiogenは2014年3月に提携を開始した。

現状は次の通りで、アリセプトを除き、開発で提携している。

エーザイ アリセプト 〈提携対象外〉
(donepezil)
エーザイの杉本八郎博士らが開発
 
アルツハイマーでは、神経伝達物質のアセチルコリンが脳内で減少している。

アセチルコリンを分解するアセチルコリンエステラーゼの作用を阻害することで、アセチルコリンの濃度を高める。

新規ヒト化モノクローナル抗体
「BAN2401」
 
2022年度中に申請
2007/12 スウェーデンのBioArctic Neuroscience ABから全世界の研究・開発、製造、販売の独占ライセンスを受ける。 アルツハイマー病の原因と考えられるベータ・アミロイド成分を除去
βサイト切断酵素(BACE)阻害剤
elenbecestat「E2609」 
 
x試験中止
エーザイが創製

 

アミロイド前駆体タンパク質のβサイト切断酵素であるBACEを阻害することでβアミロイドの総量を低下させる。
Biogen 抗アミロイドβ(Aβ)抗体  
aducanumab
ADUHELM
 
→ 申請→FDA優先審査
 
 2021/6/7 迅速承認
Neurimmune社より共同開発およびライセンス契約締結のもとに導入 アミロイド斑(プラーク)は、アミロイドβ蛋白が蓄積したもので、アルツハイマー病患者の脳にみられる。

aducanumab 投与でアミロイドプラークのレベルを下げる

2017年の提携契約拡大で、エーザイは、BiogenのADUHELM に対する共同開発・共同販促オプション権を行使した。 (一時金 なし)

両社は、ADUHELMの販売に向けて各地域において各社が有する強みや販売基盤をレバレッジするとともに、売上に応じて各社が得る地域別利益配分を調整する。

  売上計上

利益帰属

エーザイ Biogen
日本とアジア
(中国と韓国を除く)
エーザイ 80% 20%
米国 Biogen 45% 55%
欧州 31.5% 68.5%
その他地域 50% 50%

開発費負担:

  Biogen エーザイ
〜2018/3 100%
2018/4〜2018/12 85% 15%
2019/1〜 55% 45%

今回の変更で、2023年1月1日以降、エーザイは、グローバルな損益分配モデルに代わり、ADUHELMの売上に応じて、2%〜8%の段階的なロイヤルティを受領する。

暦年売上高 ロイヤルティ率
250 百万米ドル以下 2%
250 百万米ドル超〜500 百万米ドル以下 3.5%
500 百万米ドル超〜10 億米ドル以下 6%
10 億米ドル超  8%

今回の合意に伴って、BiogenはADUHELMに関し、全世界における単独での意思決定権および商業化権 を持つ。エーザイは、ADUHELMに関して、ロイヤルティの受領以外に、いかなる経済的権利・義務も有しない。

ADUHELMは米国で条件付き承認を取得したが、有効性への疑義などから普及が進んでいない。

米食品医薬品局(FDA)のJanet Woodcock長官代行は7月9日、米製薬企業Biogenと日本のエーザイが共同開発したアルツハイマー病新薬ADUHELM(一般名:アデュカヌマブ)について、FDAの承認手続きに疑義が生じたとして、米保健福祉省の監査部門に調査を要請したと発表した。

2021/7/12 FDA、アルツハイマー新薬承認手続きにつき調査を要請

 

エーザイは同じく両社で共同開発する次期候補薬BAN2401に経営資源を集中させる。

開発中の抗アミロイドβ(Aβ)プロトフィブリル抗体レカネマブ(BAN2401)については、両社は、共同で開発および商業化を継続する。

エーザイは引き続きレカネマブの開発、薬事申請をグローバルに主導し、エーザイの最終意思決定権のもとで両社が共同商業化・共同販促を行う。

両社は、レカネマブに関する経済的権利及び義務を等しく有し、エーザイは全売上を計上し、損益は両社で折半する。

また、レカネマブの供給契約は5年から10年に延長され、Biogenイは、スイスのソロトゥルンの工場でレカネマブの原薬を製造し、全世界に安定供給する。

 


2022/3/18 米、ゼロ金利解除 

アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)は2022年3月16日、短期金利の指標であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を0〜0.25%から0.25〜0.50%に引き上げると決めた。
セントルイス連銀のブラード総裁は反対し、利上げ幅0.5%を主張した。

新型コロナウイルス危機への対応として始めたゼロ金利を2年ぶりに解除、インフレ抑制に向けて大きな一歩を踏み出した。

FRBは声明で「最大限の雇用とインフレ率2%を長期的に達成することを目指している」と述べている。

パウエル議長は記者会見で「政策金利の誘導目標の継続的な引き上げが適切だと考える」と表明した。米景気が後退する可能性は「特に高まっていない」との認識を示した。

2022年中に今回を含め7回、 0.25%ずつ、利上げする想定を示した。(年末には1.75%になる。)

さらに2023年も3〜4回の利上げを見込み、金利水準は2.8%程度まで上がると想定される。

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FRBは2021年11月3日、11月にテーパリング(量的緩和の縮小)を開始すると発表した。

11月から毎月の購入額を国債を100億ドル、住宅ローン担保証券を50億ドルの合計150億ドルずつ減らしていく計画を正式に決定した。順調にいくと8カ月で購入はゼロとなり、2022年6月でテーパリングは終了する。

この時点では、Federal Fund金利の目標誘導レンジを 0.00% ─ 0.25%に維持することを決定、2020/3/15 以降の利率を維持した。

労働市場の状況が委員会の最大雇用の評価に一致する水準に達し、インフレ率が2%に上昇して当面の間2%をやや超えるような軌道に乗るまで、この目標誘導レンジを維持することが適切だとした。

2021/11/5 FRB、11月から量的緩和の縮小開始


2022年2月のこれらの状況は下図のとおりで、失業率は低下し、物価はエネルギー価格の急騰もあるが、エネルギーと食品を除くコアも急上昇している。

 

 


2022/3/19 スウェーデンのNorthvolt、ドイツに3番目の電池工場建設  

スウェーデンの電池メーカー Northvolt は3月15日、ドイツ北部の Heideに電気自動車(EV)用の電池工場を建設すると発表した。2025年後半に生産を始める。同社として3拠点目となる電池工場で、能力は60 GWhで、リチウムなどのレアメタルを再利用するためのリサイクル工場も敷地内に設ける。

完成すれば同社の能力は下記の通り、170GWhとなる。

  能力 提携EV会社  
スウェーデン北部 Skelleftea 最終 60GWh VW 40GWh、Volvo 15GWh 2021年後半生産開始予定
スウェーデン Gothenburg 50GWh Volvo 2025年稼働
ドイツHeide 60 GWh   2025年稼働
合計 170 GWh    

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Northvoltはリチウムイオンバッテリーを生産する会社で、2016年に元Teslaの幹部のPeter Carlsson氏により設立された。

Northvoltは2019年にVW、BMW、Goldman Sachs、IKEAグループなどから合計10億米ドルの出資を受けた。増資と欧州投資銀行からの4億ドルの融資で、第1号の工場をスウェーデン北部 Skelleftea(シェレフテオ)に建設、16GWhの生産から始め、最低32GWh以上の容量まで増やすとしていた。

Northvoltは3月1日に米国のバッテリー技術の企業 Cuberg を買収し、Silicon Valleyに先端技術センターを得た。 Cubergは液体電解質にリチウムメタルアノードを組み合わせる次世代バッテリーを商業展開するためにスタンフォード大学からスピンアウトした。
Cubergのバッテリーは、電動航空機使用向けにデザインされた同程度のリチウムイオン電池に比べて航続距離と容量を70%増やすとされる。

一方、Volkswagen(VW)は2021年3月、Northvoltとの間で、今後10年にわたるバッテリー製造で140億ドルの契約を結んだ。

Northvoltの株式を追加取得し、Northvoltが欧州のVWグループ向けの主要な電池サプライヤーとなる。

提携の一環として、Northvoltのスウェーデンのプラントは拡張し、40 GWh とする。

VWは最重要部品となるバッテリーについて、電池メーカーとの合弁などを通じて40 GWh の工場を2030年までに欧州で6カ所設ける。規格を統一した電池(“Unified Cell”)を大量生産しコストを半減、ガソリン車より安いEVを目指す。

2021/3/23    VWグループ、EV向け次世代電池を大量生産

Northvoltは2021年6月9日、増資で27億5000万ドルを調達すると発表した。スウェーデン北部Skellefteaで年内に稼働する工場の生産能力を5割引き上げ、60GWhギガワット時(6000万キロワット時)する。電気自動車(EV)への移行で高まる需要に応える。

今回の資金調達ではVWや米ゴールドマン・サックスなどの既存株主のほか、スウェーデンやカナダの年金ファンドなどが新たに参加した。VWは同日、6億2千万ドルを出資することを発表、約20%の出資比率を維持する。

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NorthvoltとスウェーデンのVolvo Cars Groupは2021年6月21日、電気自動車(EV)用電池を開発、生産する合弁会社を設立すると発表した。出資比率は50:50で、まずスウェーデンに研究開発センターを設立し、2022年に稼働を始める。また、欧州域内に電池生産工場を新設し、2026年から生産を始めるとした。

Volvo Cars はNorthvoltのSkelleftea工場で生産した年間15GWhの電池セルを調達することも検討している。

Volvoは2020年代半ばまでに、販売するクルマの半分をEVにし、2030年までにラインアップのすべてをEVにすることを目指している。

NorthvoltとVolvoは2021年12月、バッテリーの開発と製造への300億クローネ(約3,759億円)の投資の一環として、スウェーデンのイェーテボリ(Göteborg)にR&Dセンターを開設することを決めた。

両社は2022年2月4日、イェーテボリ(Göteborg) の近郊に大規模なEV用電池工場を建設すると発表した。
新工場は2023年から建設を始め、2025年から稼働を開始する予定で、最大3000人を雇用する。年間生産能力は最大50GWhで、年間約50万台の電気自動車(EV)に供給できる。

生産した電池セルは、VolvoおよびPolestarブランドの次世代高級EVに搭載する。


2022/3/21 米国の洋上風力発電リース権入札

米国の内務省海洋エネルギー管理局は2月25日、 ニューヨーク州ロングアイランドとニュージャージー州の間に広がるニューヨーク湾(New York Bight)での洋上風力発電のリース権入札が総額43億7千万ドルで成立したと発表した。

リース権入札にかけられた地域はの6つの地域で、その総面積は約49万エーカー(約2,000平方キロ)。生成予定電力量は5.6ギガワット(GW)で、200万世帯近くの電力を賄う量とされる。

ニューヨーク州やニュージャージー州政府は、2035年までにそれぞれ風力発電を9GW、7.5GWに拡大する目標を掲げている。

バイデン政権では2030年までに洋上風力発電を30GWに拡大する目標を掲げて いる。

ホワイトハウスは2021年3月29日、内務省やエネルギー省、商務省などと共同で、洋上風力発電能力を拡大する方針を発表した。2030年までに30GWの洋上風力による電力生成を目指す。30GWは1,000万世帯以上への年間電力供給に十分な量となる

落札企業は下記の通りで、上から5社は欧州系企業、最後は米国系企業である。

  Lease Area Acres

百万ドル

Mid-Atlantic Offshore Wind LLC 
(Copenhagen Infrastructure Partners Fund)
OCS-A 0544  43,056  285
OW Ocean Winds East, LLC
(50:50 スペイン EDP Renewables  & フランスENGIE.)
OCS-A 0537  71,522  765
Attentive Energy LLC 
(Total Energies Renewables USA, LLC)
OCS-A 0538  84,332  795 
Bight Wind Holdings, LLC 
(独
RWE Renewables & 英 National Grid).
OCS-A 0539  125,964  1,100
Atlantic Shores Offshore Wind Bight, LLC 
(50:50 Shell New Energies US LLC & EDF Renewables North America)
OCS-A 0541  79,351  780 
Invenergy Wind Offshore LLC 
(Invenergy &  energyRe)
OCS-A 0542  83,976  645 

 

 

現状の洋上風力発電サイトはロードアイランド州沖にある30メガワット(0.03GW)とバージニア州沖にある試験プロジェクト2カ所だけ。

米国初の洋上風力発電所 Block Island Wind Farmが2016年12月12日、運転を開始した。場所は米国東海岸ロードアイランド州 Block Islandの約6km沖。事業主は同発電所を建設するために組成されたDeepwater Wind。同発電所の設備容量は30MW(6MWタービン5基)と欧州のものに比べ小規模だが、米国初の洋上風力発電所が誕生した。

米Dominion Energyは2019年7月1日、バージニア州の大西洋沿岸27km沖で、米国で2ヶ所目となる洋上風力発電所「Coastal Virginia Offshore Wind」の建設に着工した。設備容量は6MWが2基で合計12MWで、パイロット・プロジェクトの位置づけ。

米国内務省は2021年10月13日、2025年までに国内最大7カ所で洋上風力発電所を開発し、同発電所のリース使用権の販売を進める計画を発表した。

洋上風力発電所の予定地はメイン湾、ニューヨーク湾、中央大西洋沖、カロライナ沖合、メキシコ湾、カリフォルニア沖合、オレゴン沖合の7カ所。

具体的なエリア選定を既に終えているニューヨーク湾(上記)やカロライナ沖合では、それぞれ2022年第1四半期(1〜3月)、2022年5月ごろに開発を完了するとしており、カリフォルニア沖合は同年9月ごろ、メキシコ湾も同年末ごろの開発完了を目指すとしている。

そのほか、中央大西洋沖では2023年第2四半期(4〜6月)、オレゴン沖合では同年第3四半期(7〜9月)、最も遅いメイン湾では2024年半ばごろの開発完了を目指す。これらの開発は30GWの発電容量目標達成に寄与することに加え、約8万人の雇用を創出するとしている。

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日本でも国が洋上風力発電の公募を行なっている。

2022/2/24 国の洋上風力発電公募入札の評価基準が問題に

これについては、金額が優先され、運転開始時期が低く評価されていることが問題となっていた。

経済産業省は3月18日、洋上風力発電の事業者を公募する際の審査基準を見直す方針を発表した。ウクライナ危機を受け、国産エネルギーの導入を加速する必要があると判断し、早期に稼働できることを重視する方向で検討する。

3月22日の経産省などの審議会で具体的な議論を開始する。現在公募中の「秋田県八峰町・能代市沖」は、6月10日までとしていた公募期間を延長して新たな審査基準の適用を目指す。


2022/3/22    ウクライナ問題、半導体生産に影響

ロシアのウクライナの黒海側への攻撃で、ウクライナの3つの空気分離企業のうちのCryoin Engineering がOdessaの工場、Ingas LLC がMariupolの工場の操業を停止した。

2社のほか、Iceblick がウクライナのOdessa とロシアのMoscowにプラントを持つ。同社も製造の継続は無理と思われる。

Iceblick は世界のネオンの65%、クリプトンとキセノンの15%を占める。1990年にOdessaで設立され、急速に成長した。

ウクライナはレアガス :ネオン(Neon)、クリプトン(Krypton)、キセノン(Xenon)の世界最大の供給者で、ネオンの70%、 クリプトンの40%、キセノンの30%を占める。半導体に回路を描く「露光工程」で使うレーザー光発振に用いるネオン の90%を供給している。

各社はロシアでの鉄鋼製造の副産物として出るガスをウクライナで精製している。 ロシアの侵攻で、ロシアとウクライナ両国にまたがるネオンのサプライチェーンは事実上寸断されている。

 

半導体の製造にはネオン、クリプトン、キセノンなどの希ガスが欠かせない。

ネオン(Ne) は、シリコンウェハーに回路を刻む露光工程で使われるエキシマレーザーガスの原材料の一つ。クリプトン(Kr) は、半導体のエッチング工程で、キセノン(Xe) もエッチング工程で使用される。

米国のセミコンダクターのサプライチェーンではネオンの90%はウクライナからの輸入品とされる。

韓国の2021年輸出入貿易統計では、ネオンの輸入はロシアからが5.2%、ウクライナからが23%で、クリプトンはロシアからが17.5%、ウクライナからが30.7%、キセノンはロシアからが31.1%、ウクライナからが17.8%である。

ロシアとウクライナからの輸入が長期間途絶えると、半導体の生産に支障が出ることになる。

 

これらは地上の大気中にPPM(100万分の1)レベルでしか存在せず、空気から希ガスのみを取り出すのは極めて難しい。

このため、工業的には空気分離プラントの副生品としてしか生産できない。しかも、経済性を得るためには、数10万m3/hの空気処理能力を有する空気分離プラントでしか成立しない。
(下図:東京ガスケミカルのHPより)


日本ではこのような大規模なプラントが少ないため、
海外からの輸入に頼らざるを得ない。また、副産品のため、レアガスだけの増産はできない。

現在、エア・ウォーターがクリプトンとキセノンを国内生産している。


韓国では、ポスコが半導体用特殊ガス専門企業であるTEMC社と協力し、最近、ネオン(Ne)の国産化に成功し、製品を出荷した。 但し、韓国需要の約16%しか供給できない。

 

なお、韓国では3月4日に物価問題に関する関係閣僚会議を開催、そのなかで、ネオン、クリプトン、キセノンなど、半導体の製造工程で使用する品目の需給状況の点検を行い、3月中に関税割り当ての適用を検討することを決めた。

そして3月17日に、ロシアとウクライナからの輸入依存度の高いネオンやキセノン、クリプトンに割当関税(0%)を適用することを決めた。これらの現在の関税5.5%である。


2022/3/23  Volkswagen、インドネシアと中国に電池材料のJV、北米ではEV生産拡大

Volkswagen Group Chinaは3月21日、中国企業2社と車載電池の主要材料を生産する合弁をインドネシアと中国に設立することで基本合意したと発表した。

合弁相手先は、コバルトを使った電池材料などを手掛ける浙江華友鈷業 (Huayou Cobalt)と、ニッケル鉱山の権益を保有し、世界最大のニッケル生産会社で、ステンレス鋼大手の青山控股集団(Tsingshan Group )。

ニッケルの資源が豊富なインドネシアでは、3社で電池材料を製造する合弁会社を設立する。製造した材料を2つ目のJV(中国)で利用するとみられる。

中国の広西チワン族自治区では、VWと浙江華友鈷業の2社で、ニッケルとコバルトの精製、プレカーサ―、正極材を製造する合弁会社を設立する。

電池で主要コストとなる正極材に関するサプライチェーン(供給網)を構築する。

最終段階では、160 gigawatt hours のEV用電池の原料を供給するとしている。

VWは、2つのJVは、電池のコストを30〜50%引き下げるという長期目標に貢献することをターゲットにしていると述べた。


VWは2021年3月に電動化ロードマップを発表した。

電気自動車(EV)シフトを一段と加速する。2025年に世界の新車販売の2割をEVにし、2030年に5割、2035年には大半をEVにする。
欧州では2030年に6割を目指す。
遅くとも2025年までに世界EV市場のリーダーになることを目指す。

バッテリー:
電池メーカーとの合弁などを通じて40 GWh の工場を2030年までに欧州で6カ所設ける。
規格を統一した電池(
角型の"Unified Cell"、搭載自由度の高い形状)を大量生産しコストを半減、ガソリン車より安いEVを目指す。

欧州全体に高出力な急速充電ステーション網を25年に20年比5倍に拡大

2021/3/23    VWグループ、EV向け次世代電池を大量生産

VWは2021年7月13日、中国の電池大手の国軒高科と共同でドイツで電気自動車(EV)向け電池を生産すると発表した。2025年から生産を始める。

2021/7/16    VW、ドイツで中国大手とEV電池工場

 

なお、ウクライナ情勢を背景としたニッケル相場の急騰を受け、青山控股集団が先物取引ショートポジションで数十億米ドルに達する損失を出した――とする情報が広がっている。
青山控股は追加証拠金に応じるため、中国建設銀行やJPモルガン・チェースなどから融資提供の約束を取り付けたとされる。

 

ーーー

VWは3月21日、北米で今後5年間に71億ドルを投資し、2030年までにEV 25モデルを新たに投入する計画を明らかにした。

2030年までに新車販売にEVが占める比率を55%に引き上げる。(欧州では同年までに70%とすることを目指している。)

北米全体でガソリン車モデルを段階的に減らし、2030年代の初めにガソリン車の販売を中止する。

クロスオーバー型(街乗りでの快適性を重視した都市型の多目的スポーツ車)のEVの「ID.4」の生産を年内に始め、2024年にミニバン型EVの「ID.BUZZ」を米国で発売すると発表した。

ID.4はテネシー州の工場で生産し、メキシコの工場でもEV生産を2020年代半ばまでに開始する。北米でID.BUZZを生産するかどうかはまだ決定していない。

米国ではEV用電池の生産も計画している。

 

付記

VWは3月23日、スペイン東部バレンシアに電気自動車(EV)の電池工場を設けると発表した。電動車生産などを含めた総投資額は70億ユーロ(9300億円)にのぼる。

バレンシアの電池工場の生産能力は年間40ギガワット時で、VWグループで規格化した最新の電池セルを生産する。22年中に工場の建設を始め、2026年から生産を始める。

VWは2021年7月、中国の電池大手の国軒高科と共同でドイツで電気自動車(EV)向け電池を生産すると発表したが、これとは別にスペインでも電池とEVの生産を検討することを明らかにした。

VWと同社の傘下のスペインの自動車会社SEAT S.A. が、スペインの電気自動車やコネクテッドカーのヴァリューチェーン強化を目指すスペイン政府のStrategic Project for the Recovery and Economic Transformation (PERTE) に参加する。

スウェーデン、ドイツに次ぎ、VWとして3番目の電池工場をスペインに建設する。

2021/7/16    VW、ドイツで中国大手とEV電池工場

今回、具体的計画を明らかにした。

VWは欧州で2030年までに合計240ギガワット時の電池生産能力を持つ計画を進めている。スペインの工場は、20%出資するNorthvolt (スウェーデン)のスウェーデンの工場とドイツ・Salzgitterの工場に次ぐ3拠点目になる。チェコでも建設を検討している。

 


2022/3/24 ロシアのウクライナ侵攻でパラジウム危機、自動車業界に大きな影響

日本は、多くのレアメタルで90%以上を輸入に頼っているが、中でもパラジウムは全輸入量の40%をロシア産が占め、ニッケルも21%、プラチナは10%がロシアからの輸入である。

西側諸国による対ロシア制裁により世界的なレアメタルの供給不足、価格上昇が進むと予想され、特に日本の自動車産業は大打撃を被る可能性がある。

ニッケル・パラジウムの生産で世界最大手、プラチナ・コバルト・銅・ロジウムの生産で世界大手のロシアのNorilsk Nickelは、欧州空域の大半がロシアからのフライトに対し閉鎖されたことから、製品の供給途絶に直面している。但し、中国などの第三国を経由して世界に供給される可能性はある。逆にロシアが制裁への報復として輸出をとめる可能性もある。


パラジウムは、白金族金属(ルテニウム、ロジウムパラジウム、オスミウム、イリジウム、プラチナ)の1つで、ロジウムとともに、自動車産業や燃料電池には不可欠なレアメタルである。

自動車においては、有害な排ガスを浄化・無害化する触媒の基幹材料として使われる。

ロジウムは、酸性雨の原因となるNOx(窒素酸化物)をN2(窒素)に還元し、 プラチナとパラジウムは炭化水素を無害な水に、一酸化炭素を二酸化炭素に酸化して、クリーンなガスに変えて排出する。

ディーゼル車の浄化触媒装置には主にプラチナが、ガソリン車のそれにはパラジウムが使われている。

現行の技術では、排ガス浄化触媒として白金族金属を使用しないと、排ガス規制をクリアできない。


パラジウムは、触媒材料としてだけでなく、電極材料や歯科材料としても使われる。金(や銀)とパラジウムの合金は、耐食性、強度、延性が高いため、歯科材料としては重要な材料の1つである。

 

若干古いデータだが2012年のデータを示す。

1)鉱石生産シェア

  ロシア 南ア 北米 その他
プラチナ 13% 69% 5% 13%
パラジウム 44% 36% 14% 7%
ロジウム 13% 80% 3% 4%

ロシアの白金族元素の大半は、ノリリスクのニッケル・銅鉱床から産出する。

2) 用途

  自動車排ガス浄化 宝飾品 電子材料 その他
プラチナ 38% 34%   28%
パラジウム 67%   12% 21%
ロジウム 80%     20%

      上記2つは、日経XTECH 「ウクライナ問題で「パラジウムショック」再び 露の供給に不安」より

3)企業別生産内訳

  プラチナ パラジウム
MMC Norilsk Nickel ロシア 13% 45%
Anglo American Platinum 南ア 47% 44.5%
Impala Platinum 南ア 16% 10%
Lonmin 南ア 13% 5%
その他   11% 4.5%

    ソース:JOGMEC 白金族金属(PGM)のマテリアルフロー —安定供給上の課題—

 

白金族元素の生産はロシアと南アが大部分を占める。南アはこれまで、しばしば鉱山ストライキを起こしており、供給は不安定である。

 

パラジウムの価格推移は下記の通りで、最近急騰している。

 



2022/3/25 東芝株主総会、2分割案を否決 

3月24日の 東芝の臨時株主総会で会社を2分割にするという会社提案は反対多数で否決された。
「物言う株主」から出された会社の非上場化も含めてあらゆる選択肢を検討するよう求める案についても議論され、この提案も否決された。
(経緯、議題は後記)

付記

会社側提案  賛成 39.53%、反対 59.69%

株主提案   賛成 44.60%、反対 54.84%

2分割案については、「物言う株主」として知られる海外ファンドが相次いで反対を表明していたほか、株主に議決権行使についてアドバイスを行う Institutional Shareholder Services や Glass、Lewis&Co. も反対を推奨していた。

今回の会社側提案は「株主の皆様のご意見確認」であり、議決に法的拘束力はないが、会社側は事業方針の見直しを迫られる形となり、経営が一層混乱することになる。

3月1日に就任した東芝の島田太郎社長は臨時株主総会で2分割計画推進の議案の否決を受け、「企業価値向上のためあらゆる選択肢の検討を行う」と述べた。


「物言う株主」は、所有株を高く売ることが目的である。

東芝はWestinghouseの損失で債務超過となり、2018年3月末までにそれを解消しなければ上場廃止となる。東芝メモリを売却したが、各国の独禁当局の承認が遅れ、売却益計上ができない。

このため、東芝は2017年11月の取締役会で、第三者割当による新株式の発行を決めた。旧村上ファンド出身者が設立したシンガポールのEffissimo Capital Management や米King Street Capital Managementなど、Goldman Sachs が集めた海外約60社の投資家に割り当てた。

このほとんどは、東芝株を長期に保管する考えはなく、早期に高く売る抜けることが狙いである。

東芝が「2分割」や「3分割」を行っても、急速に株価が高騰することは望めない。このため、会社提案の第1号議案を否決した。


可能性のあるのは、東芝の丸ごと売却である。第3号議案にある「非公開化」である。

東芝は2021年4月7日に英投資ファンドのCVC Capital Partnersから買収を提案された。

CVCは前日6日終値に約30%のプレミアムを加え、1株5000円での買い取り価格を提案した。6日時点の東芝の時価総額は1兆7437億円で、TOBが成立した場合の買収額は2兆3,000億円弱となる。

4月14日付で車谷社長兼CEOが辞任した。

社内での車谷社長に対する不信任は半数を超えたという。
CVCによる買収は車谷氏が持ちかけたとみられ、永山治・取締役会議長 兼 指名委員会委員長(中外製薬名誉会長)らは、こうした動きを「私物化」と判断し、取締役会には解任動議を提出する予定だったとされる。

東芝は4月20日、CVCからの新たな書面になんら具体的な詳細情報が記載されていないとして買収交渉の中断を発表した。

その後、CVCとの交渉は中断されているが、同社や他社との売却案が検討課題となる。

 

社内の体制も問題である。

3月1日に2人しかいない社内取締役である社長、畑澤副社長を退任し(取締役は留任)、新たに社内から3人の代表執行役(いずれも取締役ではない)を選任した。

しかし、3人の選任は暫定とされており、本年6月開催予定の定時株主総会に付議する取締役候補者の選任案については追って決定することとなっている。

この大混乱を終息する体制がつくれるであろうか。

ーーー

東芝は2021年11月12日、事業をスピンオフし、3つの独立会社とする方針を決定した。

インフラサービス Co.デバイス Co. をスピンオフし、残る東芝は事業は営まず、キオクシアと東芝テックの株式を保有するというものであった。

東芝は、「モノ言う株主」から3分割案に反対意見が出るなか、2022年2月7日に「会社を3つに分割する」という方針を一転して見直し、半導体などのデバイス事業だけを分離して2分割とすると発表した。

2022/2/8 東芝 「3分割」を「2分割」に見直し


東芝は2月14日、分割案について株主の意向を確認するための株主総会を3月24日に開催すると発表した。

2分割案に対する株主の意向確認に加え、株主の3D Investment Value Master Fundからの株主提案(第3号議案)も付議する。 同じ株主提案の第2号議案は、株主が撤回したため、議題から削除した。

第1号議案(会社提案) 戦略的再編の検討を進めること(2分割案)に関する株主の皆様のご意見確認の件
第2号議案(株主提案) 定款一部変更の件 → 株主が撤回し、議題から
削除
第3号議案(株主提案) 戦略委員会及び取締役会における戦略の再検討の件
             
(i)非公開化又はマイノリティ出資に関して積極的に検討を行い、
             (ii)べての検討内容、受領した提案及び検討結果の詳細を株主に対して定期的に報告する

2022/2/15  東芝、分割案について株主の意向を確認するための株主総会を開催


東芝は3月1日、同日付での代表執行役の異動を発表した。

2人しかいない社内取締役である社長、畑澤副社長を退任し(取締役は留任)、新たに社内から3人の代表執行役(いずれも取締役ではない)を選任した。

総会議長を務めた 島田新社長は、会社全体を2つに分割する改革案について「予定通り進捗する」としつつ、「全てのステークホルダーの意見を受け止め、全てのオプションを検討したい」と述べた。

2022/3/2 東芝、綱川社長が退任 


東芝の社外取締役の
George Zage Vは3月17日、会社側が反対している第3号議案に賛成すると表明した。株主の一人として賛成票を投じるという。
非上場化を検討することで、「株主に追加情報を提供できる可能性がある」としている。会社2分割計画への賛否は示さなかった。



2022/3/25   キオクシア、北上工場の新製造棟(K2棟)の建設開始

キオクシアは3月23日、3次元フラッシュメモリ「BiCS FLASH™」の生産能力の増強に備えて、北上工場(岩手県北上市)において4月から第2製造棟(K2棟)の建設を開始すると発表した。2023年の竣工を予定している。

同社は2020年12月9日、北上工場の隣接地(工場東側および北側の土地約13.6万u)を取得する方針を決定した。製造棟(K2)の建設に備えるもので、2021年春から整備工事に着手し2022年春を目途に整備を完了する予定としていた。

フラッシュメモリ市場は今後もクラウドサービス、5G通信、IoT、AI、自動運転、メタバースなどの普及により、中長期的な拡大が見込まれており、K2棟の建設により、最先端フラッシュメモリ製品の生産拡大を通じて市場の需要拡大という好機を活かし、有機的な成長を目指す。

米国 Western Degital との共同出資となる見通しで、出資割合など詳細は今後詰める。

K2棟は、地震の揺れを吸収する免震構造を採用するとともに、最新の省エネ製造設備の導入や再生可能エネルギーの利用などで環境面も重視した工場とする。また、AIを活用した生産システムの導入などを推進し、北上工場全体の生産性や品質の向上につなげる。

今回の建設投資は営業キャッシュフローの範囲内で行う計画としているが、関係者によると、投資総額は1兆円程度となる見込み。

 

キオクシアの議決権の40%を保有する東芝は先月、可能な限り早期に上場するよう書面で正式に要請している。


なお、Wall Street Journalは2021年8月、Western Digitalが、キオクシアを買収する交渉が大きく進展していると報じた。 買収額は200億ドル。しかし、その後、報道はない。

2021/9/31  Western Digital、キオクシアを買収か?

 

なお、キオクシアホールディングスは3月3日、四日市工場と北上工場で部材に不純物が見つかり生産を一部停止した影響で、3次元構造の「フラッシュメモリー」の出荷に遅れが見込まれると発表した。

両工場は1月に停止し、2月下旬に通常稼働に戻っている。部材を調達した段階で不純物が既に入っていたことが分かり、問題のない部材を購入する対応を取ったという。


2022/3/26 プーチン大統領、ロシアの天然ガス購入をルーブル支払いに  

ロシアのプーチン大統領は3月23日、非友好的と指定した国がロシアから天然ガスを購入する際には通貨ルーブルでの支払いしか認めない方針を示した。関係閣僚とのオンラインの会議で西側の各国がロシアの外貨準備を凍結したことを批判し「このような状況でドルやユーロなどの外貨でわれわれの商品の支払いを受ける意味はない」と述べた。

そのうえで「まず非友好国と地域に供給する天然ガスの支払いをルーブルに変更する。一連の措置を速やかに講じることを決定した」と述べ た。

ルーブルは厳しい経済制裁で大幅に値下がりしてい るが(下のグラフ)、需要家が天然ガスの調達に伴ってルーブルを買う必要がある仕組みにすることで相場を支えるねらい がある。

プーチン大統領は、3月5日付大統領令第95号「特定の外国債権者に対する債務返済義務の一時的手続きについて」に署名、即日発効した。

ロシア政府やロシアの個人・法人が特定の外国債権者に対して債務(金融商品を含む)を負っている場合、ルーブル建てで返済することを認める内容で、西側諸国の対ロ経済制裁への対抗策の一環。

本措置は、返済額が暦月において1,000万ルーブル(約900万円)以上もしくは相当額の外貨の場合に適用される。

ーーー

ロシア政府は3月7日、日本や欧米諸国など48の国・地域を「ロシアに対する非友好的な活動をする国・地域」に指定した。ウクライナ侵攻に伴う対ロ制裁を実施している国や地域としている。

ウクライナ、米国、英国、EU加盟国(27カ国)、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、日本、韓国、ノルウェー、シンガポール、台湾、

モンテネグロ、スイス、アルバニア、アンドラ、アイスランド、リヒテンシュタイン、モナコ、サンマリノ、北マケドニア、ミクロネシア (以上合計48カ国)

  2022/3/9 ロシア、日本などを非友好国に指定 

プーチン大統領は閣僚会議で「ロシアは当然、これまでに締結された契約通りの量と価格で天然ガスの供給を継続する 」と述べた。

ロシアの天然ガス大手ガスプロムは欧州などへの天然ガス輸出の58%をユーロ 、約39%を米ドル、約3%が英ポンドで行なっていた。

 

これに対し、エネルギーの供給を受ける欧州各国の首脳らは、「基本的に契約違反になる」などと相次いで反発し 、決済通貨の一方的な変更は契約違反になるとの認識を示した。

ただ、欧州は消費するエネルギーの多くの割合をロシアからの輸入に依存しており、契約違反として購入をとりやめることは出来ない。今後、購入する企業がどう対応するか、注目される。

「サハリン2」に出資する三井物産と三菱商事は「事実関係を確認中」としている。

日本のロシア産LNGの輸入量は657万トンで、うちサハリン2が600万トンとなっている。日本が輸入するLNGのおよそ1割を占める。日本の電力会社とガス会社が長期契約で購入している。

松野官房長官は「まずは日本の関係企業とも連携しながら情報収集と分析に努めていきたい」と述べた。


付記

G7のエネルギー相は3月28日、オンラインで緊急会合を開き、ロシアが要求している同国通貨ルーブル建てでの天然ガス代金の支払いを拒否することで一致した。

会合後に記者会見したドイツのハーベック経済・気候保護相は、プーチン氏の要求は「一方的で、明確な契約違反だ」と強調。ロシアから天然ガスを輸入する企業に、ルーブルでの支払い指示に応じないよう呼び掛けた。

 

この報道を受け、ロシアルーブルは対ドルで一時1ドル=100ルーブルを超えて値上がりし、3月2日以来の高値を付けた。

また、欧州のガス価格は一時30%余り急騰した。

 

ーーー

ロシアの宇宙開発公社Roscosmosは3月23日、海外との取り引きは通貨ルーブル建てにすると 発表した。

ルーブルでの支払いを求める動きは全国で始まっていると指摘し、「われわれも海外との取り引きはすべてルーブル建てにする」と述べた。

 

 
2022/3/26   フーシ派がサウジアラムコ石油施設を攻撃、火災発生 

イエメンの親イラン武装組織フーシ派は3月25日、サウジアラビアのエネルギー施設への攻撃を開始したと発表した。

サウジ主導の連合軍はジッダにあるサウジアラムコの石油関連施設が攻撃を受け、貯蔵タンク 2つで火災が発生したが、死傷者は出ていないと発表した。

フーシ派の軍事報道官は、無人機や弾道ミサイルでジッダのアラムコ施設や首都リヤドの施設などに計16回の攻撃を行ったと発表した。ジッダにあるアラムコの施設にミサイルを、ラアス・タンヌーラとラービグの製油所にドローンを発射したと述べた。首都リヤドの「重要施設」も標的にしたという。 (ラービグはAracmoと住友化学のJVのPetro Rabig )

サウジ国営メディアは、連合軍がフーシ派のドローンやロケットによる攻撃を相次いで阻止したと報道、サウジアラビアの防空技術により、ジーザーンに向けて発射された弾道ミサイルが破壊され、配電施設で引き起こされた火災は「限定的」なものにとどまったとしている。


2022/3/28 国連常任理事国の拒否権問題  

ウクライナ問題でロシア軍の即時撤退を求める国連安保理事会の決議が当事者のロシアの拒否権で否決された。

国連安全保障理事会では2月25日午後、緊急の会合が開かれ、米国などが提案した決議案の採決が行われたが、ロシアが拒否権を行使した。

決議案は、ロシアの軍事侵攻に強い懸念を示した上で、ウクライナの主権と領土の一体性を改めて確認し、ロシアに対して軍の即時撤退を求めるもの。

理事国15か国のうち11か国が賛成したが、議長国で常任理事国のロシアが拒否権を行使し、決議案は否決された。

ロシアの拒否権に加え、中国、インド、UAEが棄権したのも、対ロシアでの国際的な包囲網を形成する難しさ を示している。

中国の国連大使は棄権理由について「事態を収めることが必要だ」と述べ、「不当な措置や制裁の発動は状況をより混沌とさせ、平和的な解決への道を閉ざすものになる」と語った。

インドは2021年12月、ロシアと10年間の軍事協力を締結している。ロシア産兵器を大量に調達しており、今後もミサイルなどを買い増す計画である。インドの国連大使も「当事国による対話のみが唯一の前進する道だ」と発言した。

UAEはロシアとエネルギー分野などで連携を深めており、アブダビの石油開発・生産事業にロシア企業が参画しているほか、人工知能(AI)など今後の成長が見込める分野でも連携することで合意している。

他方、ロシアはウクライナに関する人道決議案を提出した。ウクライナへの支援や民間人保護の必要性を訴えたが、人道危機を引き起こしたロシアの侵攻には触れていない。

国連安全保障理事会は3月23日にこれの採決を行った。ロシアと中国のみが賛成、残る13カ国は棄権し、否決された。

英国の国連大使は採決後、「ロシアが人道状況に関心があるなら、子どもへの砲撃を停止し、包囲攻撃もやめるはずだ。しかし、そうはなっていない」と強調した。

 

拒否権を持つロシアの暴走に対して国連が無力であることが改めて浮き彫りになっている。

現在、ロシアの拒否権が問題となっているが、1972年以降の拒否権発動は米国が81回、ソ連が32回で、米国が圧倒的である。(2000年8月までのデータ)

米国の拒否権は多くがイスラエルのパレスチナに対する行動に関する問題で、賛成が圧倒的な決議を拒否権で否決しているケースがほとんどである。  

ーーー

国連の安全保障理事会は15カ国で構成される。

メンバーは、常任理事国5カ国(中国、フランス、ロシア連邦、イギリス、アメリカ)と非常任理事国(任期2年)10カ国の15カ国で、各理事国は1票の投票権を持つ。

議題の採択、安全保障理事会の討議への加盟国の参加招請、手続規則の採択といった手続き事項に関する決定は15理事国のうち少なくとも9理事国の賛成投票によって行われる。 「拒否権」はない。

実質事項に関する決定では、同様に9理事国の賛成投票によって行なわれるが、常任理事国は「拒否権」を持ち、発動されれば決議は否決される。

国連広報局は「国連のここが知りたい」で次のように述べている。

国連憲章の起草者たちは、中国、フランス、ソ連、英国および米国の5大国が、国際的な平和と安全の維持にも重要な役割を果たし続けるだろうと考えたのです。

平和を保障する最善の方法は、特に戦争と平和の問題について、5大国を共通な合意を通じて協力させることでした。

このため、「5大国」のいずれかが手続以外の問題で「反対票」を投じた場合、安全保障理事会は決議を採択できないということで合意がなされたのです。

実際には5大国が、自国又は自国と非常に関係の深い国の行為が問題となった時に拒否権を発動する事態が多発した。

このようなケースでは拒否権を認めないとすべきであった。

しかし、「拒否権を認めない」とのルール変更は5国の拒否権で否決されるのは確実で、今になってはどうしようもない。

 

2020年8月まで拒否権の行使回数は、下表の通り、ロシア・ソ連が116回、アメリカが82回、イギリスが29回、フランスが16回、中華人民共和国・中華民国が16回である。

常任理事国 1946年-
1971年
1972年-
1991年
1992年-
2020/8
合 計 備考
 ソビエト連邦 →  ロシア連邦 84 6 26 116 1991年12月よりロシア連邦
 アメリカ合衆国 1 64 17 82  
 イギリス 6 23 0 29  
 フランス 2 14 0 16  
 中華民国 →  中華人民共和国 1 1 14 16 1971年10月より中華人民共和国

ソース:ウィキペディア 原典はSecurity Council Report    全件リスト

当初のソ連の拒否権の多くは新加盟国の承認に関するもので、「平和条約が効力を生じていない」ことを理由に、加盟に拒否権を発動した。
日本の加盟勧告決議案も1952年総会ではソ連の拒否権行使により否決された。 (1956年に調印された日ソ共同宣言には「日本の国連加盟申請をソ連が支持する」ことが記され、加盟が実現した。)

米国も1975年に当時の南北ベトナムの加盟にそれぞれ拒否権を発動している。

1972年以降でみると、拒否権発動は米国が81回、ソ連が32回で、米国が圧倒的である。 (2000年8月までのデータ)

米国の拒否権は多くがイスラエルのパレスチナに対する行動に関する問題である。 理事国のほとんどの賛成を拒否権で葬っている。

一例として、2011年2月18日には、パレスチナ地域におけるイスラエル人入植地が違法であることを再確認し、東エルサレムを含む同地域でイスラエルがすべての入植活動を停止するよう要求する安保理決議(120を超える国々が共同提案国となった)に、14の理事国が賛成したが、ライス国連大使は、「続行中のイスラエルの入植活動の合法性については強く否定する」と述べながら、拒否権を行使した。

最近でも2017年12月に、米政府がエルサレムをイスラエルの首都と一方的に宣言したことを批判するエジプト提案の決議案の採決が行われ、14理事国すべてが賛成したが、トランプ政権が拒否権を発動して廃案に追い込んだ。

中東情勢を報告した国連の中東担当特使は米国の決定は過激派組織を拡大させ、イスラエルとパレスチナの紛争が拡大する「悪循環」を助長すると警告した。

バイデン大統領がプーチンを批判する「力による現状変更」は、米国が支援するイスラエルもパレスチナに対して行なってきた。東エルサレムも含め、エルサレム全体の領有権を主張し、実効支配している。

今回のロシアの拒否権発動のみに関して言えば、イスラエルの武力による不法行為、残虐行為に対する決議を拒否権で葬ってきた米国は非難する権利はないと思われる。

なお、米国自身が1984年4月に反政府武装組織コントラを使い、ニカラグアに対し武力行使と内政干渉を行い、ニカラグアの主権、領土保全、政治的独立を侵害し、国際的に受け入れられた国際法の基本的原則に違反 したというニカラグアの非難決議を、自らの拒否権で葬っている。(国際司法裁は米国の違法性を認定したが、賠償のないまま、終了した。)


米国とロシアの拒否権をみると、国連が無力であることが分かる。


2022/3/28 中国がロシア離れ? 石油化学計画、原油購入 

ロイターによると、中国のSinopecがロシアのSiburとの新しい石油化学計画交渉を中断した。

理由は、Siburの少数出資者で取締役会メンバーであるGennady Timchenkoが、プーチン大統領とのつながりで、EUと英国の制裁対象となったことで、中国は西側のロシア制裁に巻き込まれるのを嫌ったとされる。

Siburとの新しい石油化学計画については明らかにされていないが、立地を選択中の段階で、Sinopec とSibur のJVのシベリアの100億ドルのAmur Gas Chemicals Complex 計画と同様の規模のものと想定される。

Simur Gas Chemicals Complex 計画については、2019/6/14  Sinopec、ロシアのSiburのシベリアの石化計画に参加 

今回の Sinopecの投資はガスケミカル工場への5億ドルの投資とされる。

新計画は資金面でも問題を抱える。資金を供給する国営 Sberbankを含む金融機関自身が制裁により資金が限られる。

Sibur はAmur と同様のSinopech との計画が進行中であることを否定しているが、既存のAmurプロジェクトではSinopecとの協力を続けるとしている。

 

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中国外交部は最近、Sinopec、CNPC、CNOOC のエネルギー3社とロシアとの関係をレビューした。ロイターの情報源は、3社はロシアとの関係を注意深く扱うよう、また、ロシアの資産(原油)を買うのを急がないよう、指示されたという。

 


2022/3/29 ロシアのスパイ、PetroRabigh 爆破未遂事件等で米国で起訴 

司法省は3月24日、昨年起訴した4人のロシア人ハッカーによる事件を明らかにした。(発表文

サウジのPetroRabigh、カンサス州のWolf Creek原子力発電所その他世界中の少なくとも135の国の施設にに不当に侵入した罪である。

司法省によると、うち3人はロシアのスパイ組織であるFederal Security Serviceに属し、もう一人はロシアの防衛省のR&D部門に帰属している。

起訴状によると、2012年から2018年の間に、135か国の数百の企業が狙われた。

司法省では、ロシアの政府主導のハッカーは米国や世界中で重要なインフラに攻撃を仕掛けており、現在でも企業が緊急に防衛を高めることが非常に重要であるとしている。

バイデン米大統領は3月21日、ロシアによるサイバー攻撃の可能性について声明を出し、米国内の重要インフラを所有・運営する民間企業などにセキュリティーを強化するよう呼び掛けた。
「ロシアがサイバー攻撃の可能性を探っているという新たな情報がある」と電力や水、病院など重要インフラを所有・運営する民間企業に対し、データの暗号化やソフトウエアの脆弱性の修正などの対策を求めた。

本件はこれまで未公表であったが、大統領のこの発表を受け、公表された。


1) PetroRabigh 事件

PetroRabighはSaudiAramcoと住友化学のJVで、サウジのRabigh に精油所と石油化学工場を持つ。

2017年6月にPetroRabigh の設備の安全装置がトリップして停止した。この時は調べても何も見つからなかった。

8月4日に PetroRabigh が爆発寸前の危機に襲われた。

2つの緊急シャットダウンシステムが作動したが、調べても何の不具合もなかった。しかし、専門家が調査し、破壊工作ソフトTRITONが見つかった。

Schneider Electric製の「Triconex」安全計装システムコントローラを不正に操作するように特別に設計された「TRITON」と呼ばれる新種の破壊工作ソフト(Malware) が仕込まれていた。

同様のStuxnetという米国政府が開発したMalwareは2009年から2010年にかけて、イラン国内の核燃料施設でウラン濃縮用遠心分離機を破壊した。

PetroRabighではTRITONがSchneider Electric の安全装置のプログラムを変えようとしたときに、安全装置が異状を察知し、緊急シャットダウンして爆発を防いだと見られる。

ハッカーはコントロールシステムにも侵入していることが分かった。工場全体を占拠され、ハッカーの思うがままになるところだった。

専門機関が追跡すると、モスクワにあるロシアの国有の科学技術研究機関Central Scientific Research Institute of Chemistry and Mechanics(CNIIHM)がこれらの攻撃に関与していたことを「強く確信」するに至ったという。

当時の詳細については https://www.knak.jp/FYI/malwere-TRITON.htm


今回起訴されたプログラマー Evgeny Gladkikh はPetro Rabighのガスプラントのコンピューターシステムに侵入、ウイルスTriton をダウンロードし、精油所を2回 緊急停止させた。

Gladkikh はロシア防衛省のApplied Development Center 勤務で、ウイルス Triton はフランスのSchneider Electric製の安全装置を機能不全にするよう設計されていた。

米国の同様のガス施設もターゲットとしたが、成功しなかった。

司法省は、施設を破壊しようとした罪と陰謀で各20年の懲役刑を求刑した。


2) 別途、ハッカーのPavel Akulov, Mikhail Gavrilov, Marat Tyukovが起訴された。米国や世界中のエネルギー施設のコンピューターシステムに侵入しようとした。

原子力規制委員会などの米国政府機関に加えて、500を超える米国および国際的な企業や団体の3,300人を超えるユーザーを標的としたスピアフィッシング攻撃が含まれていた。

カンザス州バーリントンにあるウルフクリーク原子力発電所へも侵入した。

特に発電施設の機器をコントロールするソフトウエア、ハードウエアをターゲットとした。ロシア政府が将来、必要になった時点でコンピューターシステムを破壊できるようにすることを狙った。

 

被害を受けた企業が捜査に協力したとしているが、どうやって犯人を確定したのかは明らかにしていない。

今回起訴された4人はアメリカ当局によって拘留されておらず、法執行機関がその所在を追っている。上記発表の末尾に注として、逮捕につながる情報に各最大で1000万ドル(約12億円)の懸賞金を支払うとしている。

 



2022/3/30 米上院、 対ロシア制裁法案の審議遅れ 

米上院で、下院で可決した対ロシア制裁法案審議が遅れている。対中競争法案はようやく可決し、下院との一本化の協議に入る。

G7は3月11日、ウクライナへの侵攻を続けるロシアに新たな経済制裁を科すと表明した。

ロシアの最恵国の地位を取消し、ロシアからの輸入品に大幅に高い関税を課すほか、高級品の対ロ輸出も禁じる。

2022/3/14 G7、ロシアに新たな経済制裁 

米議会下院は3月17日、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアの製品に高い関税を課す制裁法案 (Suspending Normal Trade Relations with Russia and Belarus Act)を賛成多数で可決した。

ロシアと、侵攻に協力したベラルーシに対し、世界貿易機関(WTO)ルールに基づく「最恵国待遇(MFN)」を取り消す。これまでは平均3%の関税をかけてきたが、法案成立の翌日から北朝鮮とキューバにのみ課してきた30%超の関税を適用する。 他に世銀問題やビザ停止があるが、後述の人権問題も含んでいる。

Summary:

This bill suspends normal trade relations with Russia and Belarus. It also permanently authorizes the President to impose visa- and property-blocking sanctions based on violations of human rights, and it revises the President's authority to impose these sanctions.

Specifically, the bill authorizes the President to proclaim increases in the rates of duty applicable to products of Russia or Belarus. This authority terminates on January 1, 2024.

The President may restore normal trade relations with Russia and Belarus, subject to congressional disapproval.

The bill directs the U.S. Trade Representative to take certain actions, including to consider steps to suspend Russia's participation in the World Trade Organization and seek to halt the accession process of Belarus.

Additionally, the bill statutorily authorizes broader coverage of current visa- and property-blocking sanctions for human rights violations to cover persons involved in serious human rights abuses. (Current law imposes these sanctions on persons responsible for gross violations of human rights, a higher standard.)

The bill authorizes the President to impose sanctions on any foreign person who (1) is responsible for serious human rights abuse, (2) is a current or former government official who is responsible for or complicit in corruption, (3) is or has been a leader or official of an entity that has engaged in any of these activities, (4) has provided support for any of these activities, or (5) is owned or controlled by a person subject to these sanctions.

下院の票は下記の通り。

  共和党 民主党 合計 欠員
賛成 202 222 424  
反対 8   8  
棄権 1   1  
合計 211 222 433 2

1/1に共和党員が辞職(6/7に補選)2/17に共和党議員死亡(8/9補選)
上記投票の翌日、3/18に共和党員死亡(補選未定) 現在は欠員3

法案は上院に送られ、上院では民主党のシューマー院内総務は、ウクライナ政府を支援するため、全会一致での早期可決を呼び掛けた。 大統領の訪欧中の3月25日までの議決を目指した。

但し、この法案にはGlobal Human Rights Act の人権条項が折り込まれているのが問題となった。人権侵害の外国人(any foreign person)への制裁で、ロシアとベラルーシ以外の外国人も全て対象となる。

これは通称 Global Magnitsky Act と呼ばれ、ロシアのMagnitsky弁護士がロシアの国営企業の不正を暴露して投獄され、暴力を受け続けて2009年に獄中死したことから、「弁護士の死とロシアにおける人権侵害に関わった全ての者に制裁を科す」として2012年に成立した。

2016年以降、世界全体を適用範囲とし、米国政府が人権侵害者とみなした者を制裁し、その資産を凍結し、米国への入国を禁止する権限を与えている。

下院では民主党と共和党がことごとく鋭く対立するなかで、 上記の通り、両党が賛成したが、共和党議員8人が反対した。

反対した共和党議員8人も、正常貿易関係の断絶には同意するが、法案に含まれた人権関連制裁条項が、大統領に過度な権限を与えるとして反対票を投じた。

Andy Biggs 議員は、大統領がこの条項を「中絶の権利の反対者」を罰することに利用することを懸念すると述べた。

上院でも、人権を巡る条項について、範囲が広すぎるとの懸念が一部の共和党議員の間で浮上した。

共和党のRand Paul議員は、人権を巡る条項が大統領に過度な権限を付与する可能性があると懸念を表明、3月24日に法案の採決を拒否した。Rand Paul議員は"human rights abuse"の定義を入れることを求めている。 このままでは、大統領は制裁したいと思う人を誰でも制裁できることになるとしている。

結局、この法案の審議は3月28日の週にずれ込んだ。

(なお、日本は今国会に提出する準備を進めている段階である。日本ではこれまで、特恵関税を外す事態を想定していなかった。)


問題は、もう一つの重要法案の審議がこの週にずれ込んでいることである。「対中競争法案」である。このため制裁法案の審議が暫くできない。

上院は2021年6月8日に同様の法案 United States Innovation and Competition Act を異例の超党派で可決した。しかし、下院が異なるアプローチで審議したため、これは宙ぶらりんになった。

2021/6/11   米上院、対中包括法案を可決

 

米議会下院は2月4日、中国に対抗するため先端技術の競争力向上をめざす包括法案 The America COMPETES Act of 2022 を賛成多数で可決した。

下院法案は、国内の半導体生産支援に約520億ドルを充てる。半導体製造・組み立て・試験・先端パッケージ・研究開発のための施設・装置の建設・拡充などを財政支援する。

加えて、米国のサプライチェーン強化に重点を置き、米国の経済・安全保障にとって重要な製品の供給不足を防ぎ、それら重要製品の国内生産を促すための補助金やローンに450億ドルを拠出する。

また、エネルギーやバイオテクノロジーなど先端技術のR&Dを支援、5年間で133億ドルを投じる。

2022/2/7 米下院、「対中競争法案」可決

下院案が上院に送られたが、上院での審議で民主党系無所属のBernie Sanders 議員がこれに注文をつけ、下記2件の取り消しを求めた。

1) Amazon創設者のJeff Bezosの宇宙開発企業Blue Origin とNASAの100億ドル契約

大金持ちのBezosが月に行きたいなら、自分の金でいけばよい、税金を使う必要はないとしている。

2) 半導体業界への530億ドルの支援 

 この産業は必要だが、見返りの義務なしに支援するのは金持ちの株主を利するだけで、税金から支援する必要はないとする。 


米議会上院は28日にようやく、中国に対抗し産業の競争力強化を目指す「米国競争法案」を賛成多数で可決した。

Sanders議員の反対する半導体の生産体制強化への520億ドルが入っている。

同法案には台湾を支持する内容が複数盛り込まれた。インド太平洋戦略における重要な一部だと位置付け、米国の国内法「台湾関係法」などが保証する台湾への関与の強化や、台湾への定期的な武器の売却、台湾の国際機関への有意義な参加の促進などを支持する内容が含まれた。

半導体への支援等に反対した民主系無所属のSanders議員は反対したが、共和党から19名が賛成し、可決した。

  共和党 民主党 民主系
無所属
合計
賛成 19 48 1 68
反対 27   1 28
棄権 4     4

合計

50 48 2 100


今後、法案の一本化に向け、両院が協議する。

 

なお、ロシア産原油の輸入禁止法案についても下院は3月10日に可決しているが、上院はまだ可決していない。

しかし、バイデン大統領は3月8日に、追加経済制裁としてロシア産の原油やLNG、石炭などの輸入を禁止する大統領令に署名し、即日発効している ため、支障はない。


2022/3/31 COVID-19感染経路、感染研がようやく、エアロゾル感染認める 

新型コロナウイルスの感染経路について、国立感染症研究所は3月28日、ウイルスを含んだ空気中に漂う微粒子(エアロゾル)を吸い込んでも感染するとの見解をホームページで公表した。

感染研はこれまでエアロゾル感染に否定的で、飛沫感染と接触感染だけを挙げた報告書を発表していたため、国内の科学者が「世界の知見とは異なる」と説明を求めて公開質問状を出していた。

本件については、厚労省もエアロゾル感染を認めていなかったが、2021年10月末に認めた。

WHOや米疾病対策センター(CDC)は今春、新型コロナは空気中に漂うウイルスを含んだ微粒子「エアロゾル」を吸い込むことで起きる「空気感染」(エアロゾル感染)が感染経路だと明記した。

しかし、国は
「飛沫感染や接触感染 」が原因とし、かたくなに空気感染を認めていなかった。

当初の厚労省のウェブサイト:

新型コロナウイルス感染症は、主に飛沫感染や接触感染によって感染するため、3密(密閉・密集・密接)の環境で感染リスクが高まります。
このほか、飲酒を伴う懇親会等、大人数や長時間におよぶ飲食、マスクなしでの会話、狭い空間での共同生活、居場所の切り替わりといった場面でも感染が起きやすく、注意が必要です。

厚労省は10月末にウェブサイトを下記の通り修正し、エアロゾル感染を主たる感染原因と認めた。

感染者の口や鼻から、咳、くしゃみ、会話等のときに排出される、ウイルスを含む飛沫又はエアロゾルと呼ばれる更に小さな水分を含んだ状態の粒子を吸入するか、感染者の目や鼻、口に直接的に接触することにより感染します。

一般的には1メートル以内の近接した環境において感染しますが、エアロゾルは1メートルを超えて空気中にとどまりうることから、長時間滞在しがちな、換気が不十分であったり、混雑した室内では、感染が拡大するリスクがあることが知られています。

また、ウイルスが付いたものに触った後、手を洗わずに、目や鼻、口を触ることにより感染することもあります。WHOは、新型コロナウイルスは、プラスチックの表面では最大72時間、ボール紙では最大24時間生存するなどとしています。

2021/9/17 コロナ空気感染、不都合な真実?

これに対し、感染研はこれまで認めていなかった。

このため、2月1日付で東北大学本堂毅教授を事務局とする専門家が脇田隆字所長宛の公開質問状を出している。

感染研の次の見解に疑義を表し、「感染経路が主に飛沫感染と接触感染であるならば,その発生頻度は換気とは関係しないはず」としている。

現段階でエアロゾル感染を疑う事例の頻度の明らかな増加は確認されず,従来通り感染経路は主に飛沫感染と,接触感染と考えられた.また,多くの事例が従来株やデルタ株と同様の機会(例えば,換気が不十分な屋内や飲食の機会等)で起こっていた.基本的な感染対策(マスク着用,手指衛生,換気の徹底等)は有効であることが観察されており,感染対策が守られている場では大規模な感染者発生はみていない。

また、世界的にコンセンサスを得られている科学的知見との不一致について質問している。

新型コロナウイルスの主たる感染の運び手はエアロゾルであって,Fomite infection(接触感染)は稀であることが,世界の科学界のコンセンサスとなっていると考えます.

このことはWHOCDCも認めており,だからこそCDC最近医療従事者だけでなく国民へのN95マスク着用の推奨までしているわけです.

これに対し、感染研は「研究者の間で議論の途上にあるところと認識」していると返事をしている。

感染研は3月28日発表(新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染経路について)でようやくエアロゾル感染を認めた。

人は、咳、くしゃみ、会話、歌、呼吸などの際に、鼻や口からさまざまな大きさや性状をもった粒子を空中に放出する[1-5]。粒子はその大きさや含まれる液体の量によって空中での振る舞いが異なる。液体を含んだ大きな粒子は、放出されてから数秒から数分以内に落下するが、小さな粒子や乾燥した粒子は、空中に数分から数時間にわたって浮遊する。従来、これらの粒子については大きさや性状に応じて飛沫やエアロゾルと呼ばれてきた。

SARS-CoV-2は、感染者の鼻や口から放出される感染性ウイルスを含む粒子に、感受性者が曝露されることで感染する。その経路は主に3つあり、
@空中に浮遊するウイルスを含むエアロゾルを吸い込むこと(エアロゾル感染)、
Aウイルスを含む飛沫が口、鼻、目などの露出した粘膜に付着すること(飛沫感染)、
Bウイルスを含む飛沫を直接触ったか、ウイルスが付着したものの表面を触った手指で露出した粘膜を触ること(接触感染)、である。

但し、最後に次のように述べている。

なお、呼吸器感染症の感染経路については国際的に研究が進められており、これらの知見は今後更新される可能性がある。


2022/3/31 水俣病認定訴訟 子世代原告全員の訴えを却下 

胎児・小児期にメチル水銀の被害を受けたとして、熊本、鹿児島両県に住む62〜69歳の男女7人が両県に水俣病認定を求めた訴訟の判決で、熊本地裁は3月30日、原告全員の訴えを退けた。

原告7人は、水俣病が公式確認された1956年前後に生まれた。2002〜05年に、幼いころから手足のしびれやふるえ、こむら返りなどに苦しんできたとして、公害健康被害補償法に基づき水俣病患者に認定するよう熊本、鹿児島両県に申請したが、棄却され、2015年10月に提訴した。

訴訟では、原告側は、水俣病患者が多く認定された地域に生まれ「幼少期に魚介類を多食していた」として高濃度の水銀暴露があったと主張、手足のしびれなどの感覚障害は水俣病によるものだと訴えた。

これに対し、両県は、水俣病の公式確認以降に水俣湾の魚介類の危険性は知られ、食べることは控えられていたと反論。原告らの症状は糖尿病やアルコール性の神経障害などが原因で、水俣病によるものではないとしていた。

裁判長は、一部の原告を除いて高濃度の水銀摂取自体を否定した。そのうえで、水俣病の潜伏期間は水銀摂取を停止してから数カ月から数年と指摘、原告らは幼いころから手足のしびれやふるえ、こむら返りなどに苦しんできたと訴えたが、判決は「医師から感覚障害の所見を得たのは、水銀摂取の停止から20〜30年経過後であり、水俣病の発生の仕組みに合致しない」として、原告の主張を退けた。(下記の福岡高裁と同様)

原告側は控訴する方針。

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原告の7人を含む計8人は2007年に国と熊本県、チッソに損害賠償を求める訴訟を起こしている。

一審熊本地裁は2014年3月の判決で、8人中3人を患者と認め、障害の重さに応じて1人当たり220万〜1億500万円の支払いを命じた。5人については同居親族に認定患者がいないことなどから請求を棄却した。

しかし福岡高裁は2020年3月の控訴審判決で、一審の原告勝訴部分を取り消し、8人全員の訴えを退けた。「メチル水銀にさらされてから発症までの潜伏期間は、数カ月から4年程度だ」として、長期間経過後の「遅発性水俣病」を否定した。

一審で勝訴した3人中2人が訴えためまいやしびれなどの症状について、更年期障害や腰椎椎間板ヘルニアなど、他の疾患が原因の可能性があると指摘した。
生まれつき脳性まひがある男性に関しては、出身地域の認定患者は極めてまれで、高濃度のメチル水銀にさらされたか疑問があるとし、出産時に脳への酸素供給を絶たれたことが原因の可能性があると判断した。

他の5人も水俣病とは認められないと結論付けた。


最高裁は本年3月8日付で上告を退ける決定をし、原告敗訴が確定した。5人の裁判官全員一致の結論で、詳しい理由は示されなかった。

 


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