日本経済新聞 2008/4/5

新日鉄・BHP 原料炭価格 3倍に 今年度分決着へ 業界コスト1.5兆円増

 新日本製鉄は豪英系資源大手BHPビリトンと2008年度の鉄鋼原料用石炭(原料炭)の価格を07年度に比べて約3倍に引き上げることで合意する見通しとなった。国内鉄鋼業界のコスト負担は約1兆5千億円増える。鉄鋼大手は自動車メーカーなどに供給する鋼材への価格転嫁を進める考えで、今年度の鋼材価格は過去最高水準に達する公算が大きい。世界の資源高が幅広い業種の企業収益を圧追し最終製品の値上げを促すことが必至の情勢となってきた。

石炭は大きく分けて原料炭及び、一般炭に分類される。
原料炭は製鉄の原料、一般炭は主に発電用に利用されている。

   エネルギー白書 2007年 
      http://www.enecho.meti.go.jp/topics/hakusho/2007energyhtml/html/2-2-2-3.html



鋼材・最終製品に波及へ
 新日鉄がBHPから調達する原料炭の価格は現行の1トンあたり98ドルから300ドル前後に上がる。値上げは3年ぶりで、近く正式契約する。両社の合意価格は業界標準となっており、JFEスチールや住友金属工業など他の鉄鋼大手も同額で決着する見通し。英豪系リオ・ティントなど他の資源大手との契約も同水準の上げ幅となりそうだ。
 日本の原料炭の年間輸入量は7500万トン弱で業界全体の負担は1兆5千億円程度増える。すでに65%上げで決着した鉄鉱石のほか燃料費、非鉄金属を加えた負担増は2兆5千億円前後。03年度からの累計だと約6兆円増という過去に例のない原料高となる。
 原料炭は鉄鉱石と並ぶ鉄鋼の主原料で、新興国を中心に資源争奪が激しさを増している。1トン300ドルは過去最高だった05年度(125ドル)の2.4倍の水準。全量を輸入に頼る日本は約6割を豪州から購入し、BHPは最大の調達先だ。
 新日鉄は原燃料高が響き、08年3月期連結決算で6年ぶりに経常減益となる見込み。コストの増加分を鋼材価格に転嫁したい考えで、今後、トヨタ自動車など主要顧客と鋼材の値上げ交渉を本格化させる。
 これまでに原料高を織り込んで鋼材1トンあたり2万円程度の値上げを提示した。上げ幅は2割程度。鉄鋼大手は03年度からぼぼ毎年、鋼材価格を引き上げている。今回2割値上げすると1トンの平均価格は10万円程度となり、過去最高値(82年度、同9万9千円)を抜く公算が大きい。
 原料炭が当初の想定を上回る水準まで高騰するため、今後さらに鋼材の値上げ額を積み増す可能性もある。激しい価格競争にさらされる自動車や家電各社などの抵抗は強いが、造船や機械を含め幅広い分野のコスト増要因となり、製品価格の上昇や企業収益への悪影響が広がるのは確実だ。

鋼材、最高値の可能性 自動車など他業種に打撃

 2008年度の鉄鋼原料用石炭(原料炭)の価格が3倍前後に値上がりする見通しになった。鉄鉱石や燃料費を含めると、資源高による鉄鋼業界全体のコスト負担は今年度だけで2兆5千億円膨らむ計算になる。新日本製鉄などは今後、鋼材の値上げ交渉を本格化する構えで、鋼材価格は過去最高値を更新する可能性がある。自動車や機械、電機など幅広い業種の収益圧迫要因になりそうだ。

鉄鋼原料高騰の国内産業への影響

原料高によるコスト上昇
 ・石炭(3倍前後に値上げ) 1兆5000億円
 ・鉄鉱石(65%値上げ)      5000億円
 ・非鉄・燃料など         5000億円
  合計 2兆5000億円の負担増

        ↓ 

 主要鋼材を1トン当たり2万円強値上げした場合
  ユーザーの負担
    自動車   4000億円強
    造船     2000億円弱
    機械・電機 2000億円弱
    建設     4000億円弱

鉄鋼業界 資源高コスト2.5兆円増
 石炭は鉄鋼だけでなく電力やセメント業界でも原燃料として使われている。世界的な争奪戦の結果、08年度の価格は3倍に跳ね上がり、65%上昇する鉄鉱石に比べても上げ幅が大きくなる。原料炭は日本では採掘されておらず、国内産を活用することもできない。
 東証一部上場の製造業の06年度営業利益は合計約23兆2千億円。資源高の結果、この1割強に相当するコストが産業界に新たな負担としてのしかかる計算になる。この負担の「配分」を巡る鉄鋼各社とユーザー業界のせめぎ合いは激しくなりそうだ。
 新日鉄など高炉5社の08年3月期営業利益(見込み)は合計で約1兆6千億円。価格転嫁できなければ全社が赤字に転落しかねない。ただユーザー側も米市場の需要冷え込みや円高で採算が悪化しており簡単には値上げをのめない状況だ。
 最大需要家の自動車業界は「(資源高の影響を)自動車産業で吸収するのは限界にきている」(張富土夫トヨタ自動車会長)という立場。鉄鋼各社が求めている2割程度の値上げをのめば車1台あたり2万円程度のコスト増になり、トヨタにとって2年分のコスト削減効果が吹き飛ぶ。
 造船会社は今のままでは価格引き上げが難しいことから、鋼材価格上昇分を転嫁できる新受注方式の導入を検討。マンションの販売不振に悩む不動産業界や建設業界も利益率の低下にあえいでおり、資材価格上昇を吸収する余力は乏しい。
 鉄鋼大手は08年3月期に原燃料高などで軒並み減益となった。しかし今回の原料高を鋼材価格にすべて転嫁できるかは不透明な面もあり、09年3月期も減益になる可能性がある。
 日本の鉄鋼大手が資源高に苦しむ一方、欧州のアルセロール・ミタルは12年までに60億ドルを投じ鉄鉱石の自給率を8割前後に高めるなど、資源の囲い込みを進めている。「各社が最高益を更新するうちは新たな鉄鋼業界再編は起こらない」(鉄鋼大手首脳)といわれてきたが、ミタルなどとの収益格差が広がれば、再編機運が高まりそうだ。

日本の原料炭輸入先
 (2006年度、7345万トン)
   豪州    61.1%
   カナダ   9.6%
   中国    6.7%
   その他  22.6%


産経ニュース 2008/2/19

鉄鉱石65%値上げ、過去最大幅 価格転嫁必至

 新日本製鉄やJFEスチールなど鉄鋼大手各社は18日までに、鉄鋼原料として仕入れる2008年度の鉄鉱石について、供給元の資源最大手ヴァーレ(旧リオドセ、ブラジル)と前年度比65%の値上げで合意した。1トン当たりの価格は80ドル弱となり、07年度と比べ約30ドル上昇する。鉄鉱石の値上げは6年連続。

 今回の値上げ率65%は05年度に同じく国内鉄鋼各社とヴァーレで合意した71.5%に次ぐ過去2位。値上げ対象となる鉄鉱石は、ブラジル産粉状鉄鉱石(粉鉱石)。ただ今回の値上げ合意によって、日本の輸入鉄鉱石の6割を占める豪州産などにも波及することが予想される。

 鉄鋼各社が値上げを受け入れた背景には、高騰する足元の鉄鉱石市況がある。インドから中国向けなどの単発取引(スポット)価格は今年に入り、日本の鉄鋼メーカーが結ぶ長期契約価格に比べて3倍(約140ドル)に高騰。JFEスチールの馬田一社長は今月6日、日本外国特派員協会で講演し、「スポット価格と長期契約価格の開きが大きく、資源各社との交渉は厳しい状況」と説明した。

 一方、今回の妥結額を「想定(70〜80%)より低い」(商社幹部)と見る向きもある。世界3大資源メジャーの一角であるヴァーレ。寡占化を狙う英豪BHPビリトンが同リオ・ティントに対して買収を仕掛けるのを横目に、市場予想を下回る値上げで妥結したのは、資源メジャーとして主導権を握りたいとの思惑が透けて見える。

 08年度の鉄鉱石値上げによる国内鉄鋼メーカーの年間コスト負担増は年間約5000億円。さらに、国内鉄鋼メーカーが7割弱を頼る豪州の原料炭は、水害による供給減で、大幅な値上げに向け交渉中だ。

 鋼材平均価格は現在、1トン当たり約8万円と、5年前の底値から約3万円回復した。だが、続く原料価格高騰に「一企業の努力だけ吸収できるものでない」(三村明夫・新日鉄社長)と、さらなる値上げも示唆する。

 鉄鋼各社による自動車や家電メーカーなどへの大幅な価格転嫁要請の機運が高まりそうだ。


asahi 2008/2/19

 合意は鉄鉱石最大手のバーレ(ブラジル、旧リオドセ)との間で成立、1トンあたり約50ドルから約80ドルに引き上げる。値上げは6年連続で、この間約5倍に。上げ幅も過去最高だった05年度の2倍近く、これが他の鉄鉱石大手との交渉でも指標になる。ある鉄鋼大手幹部は「(鉄鉱石を調達し)鋼材の供給責任を果たすのが、われわれの責任」と苦々しげに話した。

 鉄鉱石の需要は中国を中心に急拡大。07年の世界の鉄鉱石貿易量(海上のみ)は00年から8割も増えたが、輸入の増加分の9割を中国が占める。世界一だった日本の輸入量を03年に上回り、獲得競争を激化させている。

 鉱山の寡占の影響も大きい。鉄鉱石の世界シェア(海上貿易量ベース)はバーレが33%を占め、2位リオ・ティント(英豪)、3位BHPビリトン(英豪)の3社で計71%。日本への供給だと85%だ。BHPはリオ・ティントに買収を提案中で寡占はさらに進みかねないが、欧州などの独禁当局の方針は不透明だ。

 鉄鉱石など資源の販売価格の上昇が、ライバルを買収する資金を生み出す。買収できれば競争相手が減り、値上げがさらにしやすくなる構図だ。

 一方の鉄鋼は、世界2位の新日鉄や3位のJFEでも世界シェアは3%に満たない。新日鉄は4位のポスコ(韓国、シェア約2.5%)と共同で交渉に臨んだが、鉄鉱石需要の伸びと鉱山の寡占に屈した。

 鉄鋼原料の高騰は鉄鉱石だけではない。酸化鉄である鉄鉱石から酸素を除くのに使う石炭(原料炭)も06、07年度は値下がりしたが、08年度の値上げは必至。鉱山の寡占に加え、有数の産出国の中国が来年にも純輸入国に転じる。

 鉄鋼大手は「石炭の値上げ率は鉄鉱石より大きくなるかも」(幹部)と警戒。マンガンなどの副原料も合わせ、日本の鉄鋼業界のコスト負担増は1兆円超の見通しだ。

 コスト増について、鉄鋼大手は鋼材の販売価格に転嫁したい考え。現在の鋼材の平均販売価格は1トン8万円程度だが、2割ほど値上げする方針。浸透すればバブル期を上回り、過去最高の82年度(9万9000円)に迫る。 今後、自動車や家電メーカーとの鋼材価格の交渉を本格化させる。