毎日新聞 2005/9/15

米航空大手、長い冬 デルタ、NW経営危機
 原油高が致命傷 コスト削減は限界

 米航空業界が再び苦境に陥っている。国内3位のデルタ航空と4位のノースウエスト航空は、経営危機が一段と深刻化し、早ければ14日にも破産の手続きをとる見通しとなった。原油高によるジェット燃料費の急騰が経営に致命的打撃を与えたためだ。2社が破たんすれば、米航空大手7社のうち4社が連邦破産法の下で運航を続けるという異例の事態となる。原油が今後、大幅に値下がりするとの見通しはなく、航空大手「冬の時代」はしばらく続きそうだ。
 原油価格は先月末、ハリケーン「カトリーナ」による被害の影響で1バレル=70ドルを突破し、年初から6割以上も高騰、米航空会社の経営を一段と圧迫した。国際航空運送協会(IATA)は今月12日、「原油価格が1ドル上がると、航空業界の負担は10億ドル増える」との試算を示し、05年の世界の航空各社の最終赤字が総額74億ドル(約8100億円)にも上るとの見通しを発表した。
 特に影響が深刻なのが米国だ。IATAによると、、成長市場で人件費も安いアジア・太平洋は10億ドルの利益を確保できそうで、欧州も、ほぼ損益ゼロとなる見通しだが、米国は80億ドル超の損失が見込まれる。
 米航空業界は、80年代に新規参入や運賃への規制を徹廃した航空ビッグバン後、格安会社が業績を伸ばし、客を奪われた大手は対抗上、燃料費負担を運賃に転嫁できなかった。デルタは今年1月に国内線料金の最大50%引き下げに打って出たほどだが、コスト無視の価格競争が財務体力を一層むしばんだ。
 01年9月の同時多発テロで大幅な旅客減に見舞われた米国の航空業界は、02年にユナイテッド航空とUSエアウェイズが破たんした。業界がその後遺症から十分回復しないうちに、今度は原油高が追い打ちをかけた。
 規制時代の名残である高い人件費も競争力低下を招いた。デルタとノースウエストが連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用を申請すれば、上位7社のうち、同法の適用を免れているのは、最大手のアメリカン航空とコンチネンタル航空、格安会社の代表格であるサウスウエスト航空の3社だけとなる。
 だが、アメリカン航空も赤字が続き、今年4〜6月期決算は最終黒字を回復したものの、市場では「燃料費以外のコスト削減は限界」との指摘も出ている。航空大手の苦境は、米経済の先行きにも影を落としかねない。

◆最近の主な米国航空会社の経営破たん◆
1990年 12月   コンチネンタル航空(持ち株会社)
  91年 3月   ミッドウェー航空
  12月   パンアメリカン航空(パンナム)
  92年 2月   トランス・ワールド航空
  98年 2月   パンナム・コーボレーションの子会社2社(注)
2002年 8月   USエアウエイズ
  12月   UAL(ユナイテッド航空の持ち株会社)
  03年 3月   ハワイアン航空
  04年 9月   USエアウェイズ(法的再建手続き後、2度目の破たん)

(注)旧パンナム航空の名称を引き継いで96年に発足。子会社のパン・アメリカン・ワールド・エアウェーズとパン・アメリカン・エアウェーズが倒産。


2005/9/15 毎日新聞夕刊

デルタ、NW経営破たん
 体質改善が急務 客離れ、リストラが悪循環

 米航空大手のデルタ航空とノースウエスト航空が同時に経営破たんに追い込まれるという異例の事態となった直接の引き金は大型ハリケーン被害による燃料急騰だった。しかし、格安航空会社の台頭や人件費、年金の重い負担という構造的な要因が背景にあり、破たんした両社の再建には大幅なリストラが不可欠。破たんを免れている最大手のアメリカン航空なども、体質改善を図る必要に迫られている。
 米格安会社の代表格はサウスウエスト航空で、赤字に苦しむ大手を尻目に、原油高でも黒字経営を続けている。同社の特徴は徹底したコスト削減。使用料金の安い地方空港を直接結ぶ運航方式を導入し、機材も大量に安く購入できるよう1種類に限定する独自のビジネスモデルを構築した。
 一方、大手は、01年の同時多発テロで経営が悪化したため、路線や便数の削減に追い込まれ、サービス低下が利用者の大手離れを招いた。客を失った大手の低迷に原油高が拍車をかけ、追加のリストラがさらに大手離れを加速するという「悪循環」に陥った形だ。
 破たんした2社は今後、裁判所の管理下で人件費削減など大がかりなリストラを進めることになる。原油価格が高止まりする中、2社の再建の行方は予断を許さない。
 一方、デルタ、ノースウエストの破たんを受けて、業界では「競争が当面緩和される」との指摘も出ている。しかし、04年に2度目の破たんを経験したUSエアウェイズは格安航空会社のアメリカンウエストとの合併を決め、戦線に復帰するなど、過当競争の構図に大きな変化はなく、各社の消耗戦は続きそうだ。


2005/9/15 日本経済新聞夕刊

デルタ、ノースウエスト破綻 破産法申請 原油高が打撃

 米航空業界3位のデルタ航空、同4位のノースウェスト航空が14日、それぞれニューヨーク州の連邦破産裁判所に米連邦破産法11条の適用を申請し、会社更生手続きに入った。格安航空会社との値引き競争などで収益が悪化、これに原油高に伴うジェット燃料の急騰が加わり経営が破綻した。米航空業界はユナイテッド航空、USエアウェイズを含め大手4社が破産法の下で運航を続ける異常事態に陥った。

 負債残高 デルタ      3兆1100億円
        ノースウエスト 1兆9700億円

 6月末時点のデルタの負債残高は283億ドル(約3兆1100億円)で総資産は216億ドル。破綻時の総資産規模で比較するとワールドコム(1039億ドル)などに続き米企業では9番目。米航空会社では2002年12月のユナイテッド航空の持ち株会社UAL(242億ドル)に続く大型破綻になる。
 ノースウェストの負債残高は179億ドル(約1兆9700億円)で総資産は144億ドル。デルタは昨年、米航空史上最大となる51億98百万ドルの最終赤字を計上した。今年上半期はさらに悪化し、赤字額は23億ドルと前年同期より6割増えた。グリンスティン会長は昨年来、人員削減や子会社売却のリストラを進めた。だが、年初比で5割高と急騰する燃料費の負担増に追いつかなかった。
 デルタは当面の必要資金を確保するため、ゼネラルエレクトリック(GE)の金融部門などから総額17億ドルの融資を受けることで合意した。ノースウェストも人員削減などを検討したが、労働組合の激しい抵抗に遭って交渉は決裂。米証券取引委員会(SEC)に提出した資料では、12日までが期限だった42百万ドルの支払いが滞ったと開示していた。15日には新たに65百万ドルの年金の支払期限が控えていた。

高コスト構造 足かせに
 「労使」・年金が重圧 格安航空の攻勢も厳しく

 合理化努力をしても燃料費高騰がそれを食いつぶすーー。デルタ航空とノースウエスト航空が連邦破産法11条の適用申請に追い込まれたのは高コスト構造の改善で後手に回ったからだ。2001年の米同時テロ以降続く航空大手の苦境は出口が見えない。

 今年4−6月期、デルタの人件費は13億ドルと前年同期に比べて3億ドル減った。しかし燃料費は逆に4億ドル増の10億ドルに膨らんだ。
 ノースウエストも事情は同じ。今月1日、米証券取引委員会(SEC)に提出した資料によると、今年の燃料費は33億ドル。2004年の1.5倍、03年の2倍に膨らむ見通しだ。大型ハリケーン「カトリーナ」の直撃で燃料費が一段高となり「経営への打撃がどこまで深刻か予想もできない」と悲観的にならざるを得なかった。
 サウスウエスト航空やジェットブルー・エアウェイズなどの格安航空会社は大手が独占的に運航して料金設定が高い路線にも乗り入れ、価格競争を仕掛けている。大手は燃料費高騰分を運賃に転嫁しきれず、2社の同時破綻に至った。
 大手は肝心の合理化策でも困難に直面している。航空分野の労組の強さは自動車、鉄鋼と並ぶ。デルタは昨年9月、従集員7千人削減を柱にした合理化策を発表したが、労組の激しい抵抗で足踏みした。ノースウェストでも機械工組合が合理化策を拒否している。
 年金債務の負担ものしかかる。上位5社の積み立て不足は200億ドルを超えデルタは26億ドルの拠出を迫られている。グリンスティン会長は早い時期から「年金問題の解決が破綻回避のカギ」としていたが時間切れになった。
 格安勢にも燃料費負担はある。しかし労使問題や年金債務問題とはほぼ無縁。IT(情報技術)を駆使した省力化や発着料の高い主要空港の利用を避ける独自の戦略で低コストを追求している。