日本経済新聞 2008/8/8

戦後最長景気 終わる
 輸出頼み限界、新戦略描け

 2002年2月に始まった戦後最長の景気回復局面が終わり、昨年末から今年初めにかけて景気後退局面に転じていた可能性が大きくなった。米経済の減速や資源・食料価格の高騰といった外的ショックが主因だ。設備や雇用の過剰感がないだけに、今度は浅くて短い景気後退で済むとの見方も多い。ただ輸出頼みの景気回復には限界があり、経済成長戦略の再構築を迫られる。
 約70カ月に及んだとみられる今回の景気回復。局面は戦後13回の中でも異例の展開を見せた。約6年間の実質経済成長率は年率平均2.2%。大型景気の代表である「いざなぎ景気」の11.5%や「バブル(平成)景気」の5.4%よりもはるかに低い成長だ。
 しかも輸出の貢献が圧倒的に大きい。期間中の輸出の伸びは年率平均11.4%増で、設備投資の4.4%増や個人消費の1.5%増を大幅に上回る。08年度の経済財政白書によると、実質成長率への輸出の寄与は約6割。戦後の景気回復局面では最高だった。
 思い切ったリストラで1990年代以降の「失われた10年」をくぐり抜けた企業は、経済のグローバル化の恩恵を享受した。米国や中国などへの輸出拡大が生産や収益を押し上げ、
設備、雇用、債務の「三つの過剰」の処理を促した。
 割を食ったのは家計である。厳しい国際競争にさらされる企業は業績が好転しても、その果実を容易には
賃金に還元できなかった。息は長いが勢いが弱く、実感に乏しい今回の景気回復局面は、多くの意味でバランスを欠いていたといえる。その弱点をついたのが米国の信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)問題と、世界的な資源高・食料高だ。輸出を柱とする企業部門の力に頼った日本の景気回復は、海外発のショックにもろかった。

構造問題はらむ
 戦後の景気後退局面の平均期間は約16カ月。エコノミストの間では「三つの過剰の処理が終わっているので、深くて長い景気後退は避けられる」(三井住友アセットマネジメントの宅森昭吉チーフエコノミスト)との見方が大勢を占める。
 だが今回の景気回復局面では内需が盛り上がりを欠いただけに、日本経済を自力で巻き戻すバネが見当たらない。与謝野馨経済財政担当相は「海外が回復してくれれば日本経済は回復する。単純な方程式だ」というが、
外需頼みの経済運営には危うさが残る。
 福田康夫首相は景気情勢の悪化を踏まえ、総合的な経済対策の策定を指示した。政府・与党はその一部を盛り込んだ08年度補正予算案を次期臨時国会に提出することも視野に入れる。住宅ローン減税の延長・拡充や高速道路料金の引き下げ、中小企業の信用保証拡大などが浮上している。
 景気後退の起点のひとつとなった資源高・食料高は一過性ではなく構造的な要因をはらんでいる。公共事業で需要を追加したり、補助金で関係業界の苦境を救ったりするような対症療法では抜本的な解決にならない。法人税率の引き下げや一段の規制緩和なども念頭に置き、確固たる成長基盤を築く戦略を練り直す必要がある。

  いざなぎ景気
(65/11-70/7)
平成バブル景気
(86/12-91/2)
今回の景気
回復局面
(02/2--)

実質成長率(年率平均)

  11.5%

5.4%

2.2%

名目成長率(年率平均)

  18.4%

7.3%

0.8%

給料の伸び率(雇用者報酬)

  114.8%

31.8%

-0.8%

景気牽引役
(年率平均伸び率、実質)

個人消費

   9.6%

4.4%

1.5%

設備投資

   24.9%

12.2%

4.4%

輸出

   18.3%

5.5%

11.4%