日本経済新聞夕刊 2002/12/25

三井住友・わかしお銀合併
 来年3月めど、合併差益活用 株含み損1兆円一掃

 三井住友フィナンシャルグループは25日、傘下の三井住友銀行と、その子会社の第二地方銀行、わかしお銀行を来年3月をめどに合併させる方針を固めた。存続会社はわかしお銀行とし、合併時に生まれる自已資本の余剰分(合併差益)を活用。三井住友が抱える約1兆円の保有株式の含み損を今期中に一掃し、財務内容を健全にする。わかしおの営業拠点網を取り込み、中堅・中小企業向け取引の拡充も狙う。
 
 合併は同日午後にも正式発表する。新銀行名は三井住友銀行のまま、経営陣も変わらない。大手銀行のグループ再編は相次いでいるが、子銀行を存続会社とする合併は極めて異例だ。
 三井住友の9月期の帳簿上の自已資本は約3兆円。わかしおを存続会社として合併すると、このうち資本金などを除く2兆円程度は新銀行に引き継がなくて済み、差益として損失処理に活用できる見込み。株式含み損の処理原資はこのなかからねん出する。
 三井住友は2002年9月末時点で4兆6千億円の株式を保有、含み損は9331億円あった。株価は9月以降さらに下がっており、含み損も拡大している。この含み損を一掃するメドがついたことで、同行は保有株式を今期中に日銀などに大量売却することを検討する。
 含み損の解消により、売却しても売却損を計上せずに済む。保有株の売却が進めば株価下落によるこれ以上の経営リスクを回避でき、財務の健全性が高まる。株式含み損はみずほフィナンシャルグループなど他の大手銀行グループも9月期で2500億−6000億円強に達しており、三井住友は含み損の早期処理で他グループに先行する。
 一方、時価会計の導入で自己資本はすでに株価下落分を織り込んでいるため、現三井住友の自己資本の一部を含み損の解消に使っても、自己資本比率への影響はない。三井住友の自己資本比率は9月期で10.4%で、新銀行も同程度を維持する見通しだ。
 わかしおは首都圏を中心に中堅・中小企業に特化して取引している。三井住友は中堅・中小企業向けの貸し出しを大幅に増強するため、わかしおの営業網もフルに活用する。わかしおの従業員500人の処遇は当面、現状を維持する考えだ。

▼合併差益
 企業が合併する時に発生する帳簿上の利益。企業会計のルールによると、合併で解散する会社(被合併会社)の自已資本のうち新会社に引き継がれない部分は、「合併差益」として解散会社が抱える株式や不動産の含み損処理にあてることができる。大手銀行ではUFJグループやみずほグループも過去に活用している。
▼わかしお銀行
 首都圏を基盤とする第二地方銀行。経営破たんした旧太平洋銀行の資産を引き継ぎ、1996年に発足した。発足時に、さくら銀行(現三井住友銀)が資本金を全額出資、富士銀行(現みずほグループ)なども金融支援した。総資産は5千億円。従業員数は約500人で都内を中心に34の店舗を持つ。

 

株含み損解消手段を選ばず

 「そこまでしなくてもとの意見もあったが、株価が予想以上に下がった」ーー。三井住友フィナンシャルグループの奥正之専務は会見でこう説明した。子会社が存続会社となる合併は極めて異例。しかし、同行にとって巨額な株式含み損の解消は大きな経営課題。その対策には手段は選ばないというわけだ。
 時価会計導入で、銀行は保有株式の時価が帳簿上の価格を50%以上下回った場合などに評価損を計上。下回らない株式も含み損を自已資本から差し引く必要がある。同行の9月末時点の株式含み損は9300億円。四大銀行グループで最大。日経平均株価が9000円を割り込む中、同行の株式の含み損は今や1兆円にのぼるという。
 実は2001年4月に旧住友銀行と旧さくら銀行が合併した時も、合併差益を使って、旧さくら銀の抱える株式、不動産の含み損を一括処理した。処理できるのは、解散する会社の含み損に限られるため、今回は総資産で200倍以上ある三井住友銀を解散会社とした。
 両行は3月17日付で合併する。資本金は5千億−1兆円の予定。現・三井住友銀の資本勘定は約3兆円あり、仮に1兆円を新銀行の資本金に引き継いでも、差し引いた約2兆円が「合併差益」になる。これを株式含み損処理に活用できる。
 三井住友銀は4兆6千億円の保有株式のうち当面1兆円を売却する。残った金額を配当原資となる剰余金に回すことも可能で、HSBC証券の野崎浩成氏は「最大7500億円」と分析する。
 ただ、UBSウォーバーグ証券の笹島勝人氏は「株価が下がればまた含み損が出る。株を売り切らなければ根本的な解決にならない」と残る問題点を指摘する。
 子会社が存続会社とはいえ、新銀行は「三井住友銀行」で、新頭取も西川善文・現三井住友銀頭取。実態は大手銀の子会社吸収だ。
 当面、わかしお銀の営業部門は独立した事業部にして給与などは今の水準を維持する。わかしお銀の店舗の多くは1店5、6人だけで運営する。この低コスト手法を三井住友銀の新店舗戦略としてどこまで広げられるかも課題だ。


日本経済新聞 2003/1/9

朝日生命 ミレアと統合見送り グループ関係も解消へ

 朝日生命保険とミレアホールディングスは2004年をメドにしていた統合計画を見送る方向で最終調整に入った。統合の前提となる朝日生命の株式会社への転換が株安で難しくなったため。週内にも両社が発表する。朝日生命は統合見送りを受け当面、人員削減など効率の向上に専念する。2000年9月に結成したミレアとのグループ関係はこれを機に解消することになる見通しだ。
 ミレア保険グループのうち東京海上火災保険と日動火災海上保険は昨年4月に持ち株会社のミレアホールディングスを設立して統合。朝日生命は今春をメドにした統合計画を昨年1月に見直し、統合目標を2004年に先送りしていた。今回は朝日生命の統合計画そのものをいったん白紙に戻す方向で調整している。
 相互会社の朝日生命がミレアと統合するには契約者の同意のもとで株式会社に経営形態を転換する必要がある。転換の際は通常なら契約者に株式を割り当てるが、株安で体力が低下している現状では割り当てが難しく、契約者の理解を得にくいと判断した。
 体力が低下した朝日生命との統合に消極的なミレアと引き続き交渉を進めても、実現は難しいとの判断も働いたとみられる。ミレアの損保商品の代理販売など一部事業での連携は続ける。
 朝日生命は今後、事業費の削減や保有株式の圧縮による経営内容の改善に全力を傾ける。同時に採算性の低い法人取引を縮小、個人保険の販売力の強化に努める。合理化策が効果をあげた段階で改めてミレアとの経営統合を模索する。

 


日本経済新聞 2003/2/13

東京海上 日新火災を傘下に ミレア陣営 個人向け強化

 東京海上火災保険は12日、中堅損保の日新火災海上保険を傘下に収める。日新火災の大株主の明治生命保険などから株式を譲り受け、2005年3月までに発行済み株式の3分の1を取得。日新火災が得意とする中小企業・個人向け取引を強化する。主要損保で唯一再編に加わっていない日新火災が東京海上の傘下に入ることで1999年に始まった損保再編は第一段階を終える。

損保再編が一巡
 東京海上と日新火災は13日にも取締役会を開いて再編を正式に決定、発表する。
 国内損保最大手の東京海上は現在、日新火災の上位株主に入っていない。今後、明治生命保険や三菱東京フィナンシャル・グループ、地方銀行などの大株主から株式の譲渡を受け、徐々に出資比率を引き上げる方針。2005年3月までに持ち株比率を株主総会での拒否権を確保できる3分の1超にまで高める。
 東京海上は今年6月をメドに日新火災に複数の役員を派遣。商品統合や代理店向けシステムの共通化を進めるほか、子会社の東京海上あんしん生命保険を通して生保商品を提供する。日新火災は東京海上の支援により信用力が高まるだけでなく、生保分野や企業向けリスク管理サービスなどの強化が期待できる。経営の独自性は維持し、社名も変更しない方針だ。
 東京海上は2002年4月に日動火災海上保険と持ち株会社ミレアホールディングスを設立し、経営統合した。ただ、合流予定だった共栄火災海上保険や朝日生命保険がミレアグループから離脱したため、戦略の見直しを迫られていた。約1万5千店の代理店網を持ち、個人や中小企業向け保険販売に強みを持つ日新火災を取り込むことで、約25%のミレアホールディングスの国内シェア(2002年3月期)をさらに高める。
 東京海上は2004年をメドに日動火災と合併することも検討している。両社と日新火災では基盤となる顧客層や経営方針が異なるため、日新火災は両社の合併には加わらない方針だ。
 損害保険業界は1998年の保険料の自由化後、保険料値下げの影響で採算が悪化。主要損保が相次ぎ統合に踏み切った結果、ミレアホールディングス、損害保険ジャパン、三井住友海上火災保険の大手3社がシェアの6割超を占めている。日新火災は昨年から複数の国内外の損保と提携交渉を進めていた。

▼東京海上火災保険
 1879年に東京海上保険として創業。2002年4月に日動火災海上保険とミレアホールディングスを設立し経営統合。2002年3月期の正味収入保険料は1兆3490億円、総資産は7兆8981億円で国内損保最大手。従業員数は1万2700人、代理店数は5万8700。

▼日新火災海上保険
 1908年設立の帝国帆船海上保険が前身。1943年に豊国火災保険、福寿火災保険と合併し、日新火災海上保険に名称変更。2002年3月期の正味収入保険料は1449億円で国内損保10位。総資産は5032億円。従業員数は2500人。代理店数は1万4800。


日本経済新聞 2003/4/12

サーベラス(Cerberus)、企業再生に的 あおぞら銀買収を申請 巨額投資の回収自信

 米投資ファンドのサーベラスは11日、あおぞら銀行買収の事前認可を金融庁に申請した。筆頭株主のソフトバンクから全株式を取得し、今夏までに傘下に収める計画だ。あおぞら銀の買収には三井住友フィナンシャルグループなども名乗りをあげたが、結局、3年にわたって買収に執念を燃やし続けたサーベラスが競り勝った。
 「1千億円の投資は本当に回収できるか」。米ニューヨークのサーベラス本部では先週まで激論が続いていた。問題は日本経済の先行き懸念。企業業績は悪化し、大手銀行株は大幅に下落している。買収を決めるには最低でもライバルの三井住友フィナンシャルグルーブと同じ1千億円の巨額資金が必要だった。

サーベラスはソフトバンクが持つ49%分のあおぞら銀株を公開買い付け(TOB)で買収。
その後、他の投資ファンドに一部売却し、最終的に50%未満の出資にとどめる方針。
改正銀行法により、出資比率20%以上の「主要株主」になるには、金融庁による株式取得の事前認可が必要。

 

 

 

 

 

 

 

 

強い武器求める
 その背を押したのは日本で企業再生の動きが徐々に活発になり産業再生機構の設立も決まったこと。「破たん企業向けビジネスを拡大すれば、収益率は確実に改善する」(幹部)。あおぞらの銀行機能はその強力な武器だ。同じ投資ファンドで新生銀行に出資する米リップルウッドに対抗して日本市場にとどまるためにも今回の買収を成功させる必要があった。
 2000年春。経営破たんし「一時国有化」された日債銀(現あおぞら銀)の売却交渉は、ソフトバンクにオリックス、東京海上火災保険を加えた日本の3社連合とサーベラスの対決だった。
 先に国有化された日本長期信用銀行(現・新生銀行)はリップルウッドが買収。「日債銀は外資に渡すな」という声が政界に強まり、サーベラスは3社連合に敗北した。今回ようやく3年間の執念を実らせた。

切り売り迫られ
 ソフトバンクがあおぞら銀株の売却を公式に表明したのは昨年6月。孫正義社長は国会で「金融庁が検査に入ると(ソフトバンクの)経営の自由度が狭まる」と語った。改正銀行法で金融機関に20%以上出資する企業への検査が金融庁に認められたからだ。
 だが同社の本音は「残された唯一の事業であるブロードバンド(高速大容量)通信事業の軍資金を得る」(幹部)ことにあった。2002年3月期に投資先の経営悪化などで800億円を超す最終赤字に転落。相次ぐ格下げで資本市場での資金調達も厳しく「資産切り売り」を迫られていた。

「外資排除」後退
 昨年12月。あおぞら銀の争奪戦に三井住友も名乗りをあげた。塩川正十郎財務相は「日本の銀行が元気を出した」と評価、同社が最有力候補に躍り出たかに見えた。
 米GEキャピタルやドイツ系のヒポ・フェラインス銀行も買収レースに加わったが、サーベラスは粘った。あおぞら銀経営陣の協力も取り付け、大株主のオリックスも「大手銀傘下に入ると収益効果が薄くなる」とサーベラス支持に回った。
 米国との協調を重視する竹中平蔵金融相の存在も追い風となり、金融庁の外資排除ムードは後退。サーベラスは出資比率を50%以下に抑えれば、同庁が買収を認めるとの感触をつかむ。最終的に三井住友と同額の1千億円を提示することで「優先交渉権」を行使、買収が事実上決まった。


新銀行、米国流ドライに? 投資銀業務を強化 低い不良債権比率

 外資系ファンドが主導する新・あおぞら銀行は、米国流のドライな経営手法で金融界の常識を覆してきた新生銀行に続く「異端銀行」になるのだろうか。

【営業戦略】
 あおぞら銀は合併・買収(M&A)の仲介など利益率の高い投資銀行業務を強化する方針を打ち出している。オリックスと共同で消費者ローン会社などを設立してきたが、サーベラスが主導権を握ると外資系金融機関との業務提携が広がる可能性がある。
 強調融資や金融債の販売などを通じ旧日債銀時代から重視してきた地方銀行との関係には影響が出るかもしれない。「外資色が強くなりすぎると地銀の離反を招きかねない」との見方もある。

【不良債権】
 新生銀は政府に不良債権買い取りを要請できる瑕疵担保条項を大胆に行使して、今年2月末の期限までに累計1兆円弱の不良債権を売却。この過程で経営不振の大企業向け融資を急速に縮小し「企業再建に消極的」と批判を浴びた。
 あおぞら銀も同条項を積極的に行使している。貸出残高に占める不良債権の比率は2001年3月末の21%から今年3月末には5%程度まで下げたもよう。9月の同条項期限切れまでにさらに不良債権を減らす方針だが「大口融資先の処理は終わっており、影響は限定的」との指摘もある。

【経営陣】
 サーベラスは既存株主との協調を重視する方針だ。オリックス出身の丸山博社長ら現経営陣の大半は続投するとの見方が有力。交代はソフトバンク出身の笠井和彦会長や孫正義取締役らに限られそうだ。


日本経済新聞 2003/4/15

そしてサーベラスが残った 検証 あおぞら銀買収戦
 三井住友:提示額優位に立てず GE・ヒポ:日本経済を懸念、離脱

 米投資ファンドのサーベラスが激しい争奪戦の末にあおぞら銀行を買収することになった。最後まで買収に執念を燃やし続けたサーベラスだが、その勝利の背景には、ライバルとされた米欧の金融機関が交渉を断念するなど有力候補の相次ぐ“脱落”があった。
 4月上旬、金融庁の職員がひそかにあおぞら銀の幹部と接触した。同行がサーベラスに顧客情報を漏えいした問題の手打ちをするためだった。「業務改善命令は出さない」。金融庁はこうした意向を伝え、関係者はこれをサーベラスによる買収への“ゴーサイン”と受け止めた。 「短期的な利益が目的で(投資ファンドに)売らないでしょうね」。昨年6月、ソフトバンクが持つあおぞら銀株を売却すると公表した後、同行が外資傘下に入るのを懸念した柳沢伯夫金融担当相(当時)はこう発言。サーベラスと水面下で交渉を始めていた孫正義杜長をけん制した。
 あおぞら銀買収の許認可を金融庁から得るのが難しいーー。関係者はこの時点ではこう判断し、サーベラスの芽はなくなったかに見えた。だがそんな柳沢金融相は3カ月後の9月末に突然、更迭される。
 外資嫌いとされた柳沢氏の後任は「外資にも理解がある」(外資系銀行)とされる竹中平蔵氏。「経済の環境が変わったので、ソフトバンクがすぐに保有株を売っても仕方がない」。これを境に金融庁幹部も外資容認論に傾き、顧客情報の漏えいも大きな問題にはならなかった。 これでサーベラスにとって最大の障害が取り除かれたかにみえた。しかし、竹中金融相は同時に、サーベラスに新たなライバルも生み出した。大手銀行に自已資本充実を求めた通称「竹中プラン」への対応で、12月に三井住友フィナンシャルグループが名乗りをあげたのだ。自已資本の厚いあおぞら銀を買えば「自己資本比率の上昇が見込める」(西川善文社長)とみたためだ。
 この時、ソフトバンクは株売却先として三井住友を本命視。再びサーベラスは劣勢に立たされる。政界などからの批判を覚悟で外資に売却するのは経営としてマイナスーー。そんな判断がソフトバンクにはあったが、そんな状況はわずか2カ月しか続かない。
 「買収額が低すぎる。上乗せしてほしい」。今年2月下旬、三井住友とソフトバンクの買収金額を巡る1回目の交渉が決裂した。三井住友の提示額は800億円とされる。高速通信事業の資金を確保したいソフトバンクにとってはのめない金額だった。
 3日後、三井住友は提示額を1千億円に上積みした。それでもサーベラスは「十分に追いつける金額」とみた。優先株による5千億円の資本調達のメドが立ち、あおぞら銀買収の重要性が薄れかけていた三井住友はもはやライバルではなかった。
 買収合戦にはGEキヤピタル、ドイツ系のヒポ・フェラインス銀行も参加していた。しかし、日本経済が低迷するなかで銀行買収を断念。相次ぐ有力候補の脱落で、外資系では最後まであきらめなかったサーベラスが勝ち残った。ソフトバンクも株売却で500億円程度の利益を得るもようだ。サーベラスは金融庁の認可を得て、今夏までにあおぞら銀の経営権を握る考え。現在の経営方針を大きく変えない見通しのため、三井住友主導で合理化が進み、職を失うのではないかと心配していた同行の職員の多くはこの計画を歓迎する。
 しかし、投資ファンドという性格から「将来、株式の売却問題が再浮上するのは避けられない」との見方はあおぞら銀内部にもある。株主が頻繁に変われば取引先も動揺し、顧客基盤が弱体化しかねない。経営の再建が進むかどうか長年の交渉の末、念願のあおぞらを手中に収めたサーベラスの手腕が問われることになる。


日本経済新聞 2003/5/17              決定

りそな、実質国有化へ 公的資金2兆円注入 初の特別支援行に
 自己資本比率前期4%割れ 政府、きょう危機対応会議

 りそなグループは16日、政府に対し公的資金注入を申請する方針を固めた。注入規模は2兆円前後。2003年3月期末の自己資本比率が国内で業務を営む銀行の最低基準である4%を下回るためだ。政府は17日に預金保険法102条に基づき、金融危機対応会議を招集。同グループに資本注入して実質国有化し、預金保護なども決める。日本銀行も特別融資を実施し資金繰りを支援する。政府・日銀をあげて金融危機の到来を防ぐ。預金保険法に基づく特別支援の適用第1号となる。
 りそなグループの3月末の自已資本比率は3.5%程度となったもよう。同グルーブはこれまで3月末で6%程度の比率を維持しているとしていたが、監査法人による監査で、会計上の資本である税効果資本が実態以上に算入されていると指摘され、資本不足に陥ることが確実になった。
 同グループの勝田泰久りそなホールディングス社長は17日、竹中平蔵経済財政・金融担当相ら金融庁幹部と対応を協議する。金融庁は同日午後に帰京する小泉純一郎首一相に状況を報告。金融危機対応会議を開催し、同グループヘの特別支援を決める。
 同グループはこれまで優先株などで2回の公的資金注入を受けた。総額1兆円に達しており、優先株を普通株に転換した場合の政府の保有割合は4割前後。今回、普通株と優先株の併用で2兆円前後を資金注入し実質的に国有化されることになる。自已資本比率は10%超となる見通しだ。りそなグループの現金自動預け払い機(ATM)などは17日以降も通常通り営業。公的資金注入後も預金の払い出し、預け入れ、企業・個人向け融資などのほか、公共料金の引き落としなどの金融サービスを継続する。預金の払い戻しに支障が出ないように日銀は特融などを含め、資金繰りを全面支援する。
 ただ、公的資金による資本増強と同時に経営不振企業向けの不良債権を分離し、別会社に移管する公算が大きい。不良債権を切り離すことで財務内容を抜本的に改善し公的資金が返済不能にならないようにする。
 こうした措置を踏まえて、勝田社長ら同グループの首脳陣は経営責任をとって退任する見通し。金融庁は経営監視チームを設置。検査官を派遣して、同グループの経営内容を監視、取締役会にも同席する。

金融危機へ飛び火防ぐ 政府主導で再生 日銀特融も実施へ

 政府・日銀はりそなグループの資本不足問題が金融システム全体の危機に飛び火しないよう万全の対応をとる構えだ。公的資金による資本注入に向けて迅速に対応し、日銀も特別融資で資金繰りを支える。従来の破たん処理と異なり、公的資金投入で安全網(セーフティーネット)を張りながら、政府主導で銀行の再生を目指す初の試みになる。
 竹中平蔵経済財政・金融担当相は昨年10月の金融再生プログラムにあわせ、大手銀行に早急な経営改革を迫る方針を鮮明にしてきた。不良債権処理を徹底するための査定の厳格化、コーポレートガバナンス(企業統治)の強化と並んで、税効果資本の厳格化など自己資本の充実を掲げた。
 りそなグループの注入申請はこうした竹中路線がきっかけになったのは確かだが、今後は政府・日銀の特別支援の運用が重要性を増す。政府は預金保険法102条に基づく公的資金投入は金融危機の恐れがある場合に限られるとしてきた。今回の申請をきっかけに金融システムの危うさを公式に認めることになり、慎重さが一段と要求される段階に入る。
 りそなグループは経営責任を明確化するとともに、正常債権と不良債権を分離して管理する方向。金融庁は経営監視チームを発足させる。りそなに派遣する検査官は経営会議にも参加して日々監視する体制を敷く。
 今後の焦点は2兆円前後におよぶ巨額の資本注入で高めた信用を収益回復に結びつけられるかどうかだ。今後選定される見通しの新経営陣の方針や市場での株価の動向が注目される。
 従来の破たん処理は債務超過に陥ったと認定し、公的資金で預金を全額保護する形だった。今回の特別支援は経営責任を厳しく問うものの、株主の権利も含め金融機関の機能を保つことに重点を置く。1998年に株式をいったん無価値にして国が全額出資した旧日本長期信用銀行や旧日本債券信用銀行の「一時国有化」とは大きく違う。
 株価急落などで金融システムに不透明感が高まっている現状にも配慮し、政府・日銀は信用不安の防止へ連携を強化する。欧米の金融当局にもこうした取り組みを説明し、日本の金融システムに不安を広げない意思を強調する考えだ。

税効果会計の厳格化引き金に 資本不足が露呈 他行も対応迫られる

 りそなグループの自已資本不足が表面化したのは、政府の金融再生プログラムを受け、会計上、自己資本の一部となる「税効果資本」の算入に監査法人が厳しい判断を示したことが引き金となった。他の大手銀行は2003年3月期に総額2兆円を超える自力の資本調達でなんとか危機を乗り切ったが、りそなのように資本のさらなる強化へ向けた対応を迫られる可能性がある。
 税効果会計は銀行などが過去に不良債権を有税で処理した際に発生した損失が将来の課税所得から控除され、税負担が減少するとみなして、その金額分を資本に算入する仕組み。向こう5年間の課税所得に対する見込み税額の範囲で資本算入できる。
 ただ将来の収益計画を甘く見積もれば、納税見込み額が膨らみ、資本算入額も実態以上に増えてしまう問題がある。このため「銀行は実力以上に資本をかさ上げしている」との批判が強く、日本公認会計士協会は税効果資本の前提となる銀行の収益計画を厳しく査定する方針を出していた。
 りそなグループの税効果資本は2002年9月期時点で約8300億円。だが、りそなの監査法人である新日本監査法人は、グループの収益力に比べて同資本の比重が重すぎると判断。同資本の一部を取り崩して損失処理するようりそな側に迫ったもようだ。
 この結果、りそなは前3月期決算の最終赤字が予測していた2900億円より拡大。財務状態の悪化で資本不足に陥り、公的資金の再注入申請のきっかけになった。
 税効果資本の算入厳格化は政府が金融早期健全化の一環で求めており、他の大手銀でもこれまでより収益計画を厳しく見直し、同資本の計上を見送る動きが相次いでいる。
 みずほグループは2003年3月期に新たに算入できるはずだった約8千億円分の税効果資本の計上を見送ったほか、UFJグループ、三井住友フィナンシャルグループも4千億−5千億円分の同資本計上を断念する。
 大手銀は株安に伴う評価損処理と不良債権処理に伴って大幅に体力が低下、自已資本比率は軒並み9%台に低下している。前期は各行とも巨額増資によりかろうじて自已資本比率の急落に歯止めをかけたが、税効果資本の算入厳格化でさらに同比率の低下圧力が強まる可能性が高い。


日本経済新聞 2003/5/18

政府・日銀 りそな支援決定
 資本注入・2兆円、特融も準備 不良債権分離し再建 上場維持、減資せず

 政府は17日夜、首相官邸で初の金融危機対応会議を開き、りそなグループが申請を決めた公的資金による資本注入を認めることを決めた。グループ傘下のりそな銀行に2兆円規模を注入し、実質国有化する。日銀は同日臨時政策委員会を開き、必要に応じて無担保無制限の特別融資を実施して、資金繰りを支援する方針を決定。りそなグループは、川田憲治新社長が率いる経営陣の下で不良債権を分離して集中的に処理し、政府・日銀の支援を仰ぎながら早期再建をめざす。
 小泉純一郎首相が議長を務める危機対応会議は、りそなの経営難を踏まえ「金融から経済の底割れは起こさせない」との認識で一致。預金保険法102条に基づく資本増強を決めた。週明けの株価への影響を注視することも確認した。
 終了後記者会見した竹中平蔵経済財政・金融担当相は「株主責任としての減資は考えられない」と述べ、資本注入と同時に既存の株主資本を減らす減資の実施に否定的な考えを示した。一方、証券取引所での上場を維持して再生に取り組む意向を明らかにした。
 りそなグループは17日、2003年3月期末の自已資本比率が国内営業の最低水準である4%を下回り、連結で3%台後半、りそな銀単体で2%台前半まで落ち込んだと発表した。不良債権や株式含み損の処理で損失が膨らむ一方、監査法人が自己資本を過剰に見積もっていると指摘し、資本の圧縮を迫られた。
 資本注入で、りそな銀単体の自已資本比率は10%台まで高まる。預金は全額保護される。りそなは週明け以降、窓口などを通常通り営業。新規貸し出しにも応じる。
 大手行への公的資金は「健全銀行」と認定しほぼ一斉に注入した1999年以来、4年ぶり。今回は金融危機の恐れがある場合に限って注入で当ると定めた預金保険法102条を初めて適用する。
 政府・日銀は、昨年秋に決めた金融再生プログラムの「特別支援」の枠組みに沿って、りそなグループに様々な支援を実施施する。不良債権処理を加速するために、りそなの貸出債権を会計上、正常先中心の「新勘定」と、不良債権中心の「再生勘定」に分ける。再生勘定では債権への引当金を積み増すほか、整理回収機構や産業再生機構の活用も含めて第三者への債権売却を急ぐ。
 さらに金融庁は17日、りそな銀の経営を把握する「監視チーム」を発足。今後、新経営陣と、事業の再構築や合理化などを柱とする再建計画を練る。取締役会に同席する検査官も派遣する。

甘かった自己資本算定
監査法人修正迫る 
税効果会計、金融庁は迷走

 大手銀行の一角を占めるりそなグループが資本不足に陥り、公的資金の注入申請を迫られた。政府の金融再生プログラムに沿って監査法人が銀行決算に厳しい目を向け始めたことが背景にある。税効果会計を巡って4月以降、激論を続けたりそなグループと監査法人、その間を迷走する金融庁の動きを追った。

背信だと抗議した
 「5月に入って突然、監査法人が方針を変えた。背信だと抗議した」ーー。国への支援要請に踏み切ったりそなホールディングスの勝田泰久社長は17日、監査法人への憤りをあらわにした。
 勝田社長が新日本監査法人から「りそなグループは自己資本比率が4%を割り込み、資本不足に陥っている」という見解を最初に伝えられたのはゴールデンウイーク明けの6日だった。 監査法人による3月期決算の監査は「4月中に終えるのが通例」(大手銀関係者)。だが公的資金の注入申請に直結する問題だけに、新日本は休日返上で慎重に作業を進めた。監査法人内のチェック機能を担う本部審査会の臨時会合を開き、厳しい対応を決断したのは5日のことだった。
 ポイントは税効果会計による「税効果資本」をどこまで認めるかにあった。税効果資本は将来返ってくる税金をあてこんで計上する自已資本の一種。計上限度額は向こう5年間の納税見込み額とされていた。
 りそなの場合、2002年3月期には税効果資本を約7千億円計上していたが、監査法人は、今年3月期の決算では約4割少ない4310億円しか認めないと判断した。限度額算定の前提になる5年後までの収益計画の実現性が低いというのがその理由。新日本案は算入年限を「5年分」から「3年分」に短縮するものだったとされる。
 この見解を受け入れれば、中核のりそな銀行の3月末の自已資本比率は当初想定していた6%程度から2%程度に低下。グループ全体でも3.78%となり、国内だけで営業する銀行の最低基準(4%)を下回る。
 勝田社長は自ら新日本監査法人の竹山健二理事長に再検討を要請した。同理事長はかつて旧大和銀行の監査を担当し、勝田氏とは「ニューヨーク事件以来の旧知の間柄」(勝田氏)だった。竹山氏は再検討を約束。「収益計画の着実な実行」という条件付きで、自已資本比率が4%を超える決算を認める折衷案も浮上したもようだ。

もう手心は加えない
 だが米エンロン事件以降、日本でも会計士の独立性を求める声が一段と強まっている。甘い監査で株主から訴えられるリスクを考えれば「銀行に手心を加える時代ではなくなった」(新日本幹部)。板挟みとなった担当会計士は善後策を探ったものの、審査会幹部は首を縦に振らなかった。
 りそなから相談を受けた金融庁は当初、公的資金注入を避けたいという空気が強く、条件付きで自己資本比率規制をクリアする折衷案を支持していたとされる。
 だが12日に開かれた竹中平蔵経済財政・金融担当相が主催する「金融問題タスクフォース」の議論をきっかけに、雲行きが変わった。ある出席者が突然「税効果会計の取り扱いに金融庁が口をはさむことがあるのか」と質問。金融庁幹部は「監査の独立性を保つべきだ」と答えざるをえず、言質をとられた形になった・
 竹中経済財政・金融担当相は14日に状況を初めて首相官邸に報告。金融庁は両にらみで対応する態勢に入った。それでも庁内には「今回は大事にはならない」という空気がまだ強かった。 翌十五日。新日本は金融問題タスクフォースの議論を踏まえ、「当初の見解を変えることはできない」とりそな側に最後通告した。決算発表は26日に迫っている。「もはや時間がなかった」(勝田社長)
 りそなが資本注入申請を最終決断し、金融庁が初の金融危機対応会議を開く準備を本格化させたのは開催前日の16日。この夜、小泉純一郎首相にも2兆円の公的資金注入という結論が報告された。

 

りそな、政府が経営監視 自己資本拡充 営業は通常通り

 りそなグループは公的資金による過去最大の資本注入を受け、国の管理下で再建を目指す異例の金融機関に生まれ変わる。政府は経営を監視し、新経営陣と協力して合理化や収益回復の道を探る。過去の破たん処理とは異なる「実質国有化」が動き出す。


過去の公的資金注入との違い

根拠法 金融機能安定化法
(98年)
早期健全化法
(99年)
預金保険法
(03年)
経営者の退任 なし なし あり
既存株式の減資 なし なし なし
自己資本比率 健全(8%超) 健全(同) 基準割れ(2%台)
投入規模 2000億円 9080億円 2兆円

(注)自己資本比率などは旧大和銀、旧あさひ銀が対象。
   公的資金も大和、あさひ銀の合算


●預金者に影響なし
 公的資金の注入で、りそな銀行の自已資本比率は国内のみで営業活動する最低ラインの4%や国際基準の8%を大きく上回り、10%台に高まる。損失が自己資本を食いつぶし、債務超過に陥った過去の破たんと最も違う点だ。
 政府関係者によると2兆円規模の注入を決めたのは、竹中平蔵経済財政・金融担当相。銀行はつぶさないというメッセージだ。金融機関の生命線である決済機能は守られ、預金の預け入れや払い戻しには影響が出ない。通帳やキャッシュカードもそのまま使える。看板や行名も変えず、新規融資も通常通り。
 ただ、借り手には影響が出る可能性もある。新体制は既存の不良債権を会計上で分離して集中的に処理する。この過程で貸倒引当金の増額などの措置を急げば、返済前倒しを促すなど融資先との関係が変わる局面もありそう。政府関係者は17日夜「中小企業はつぶさないが、大手企業は整理することもありうる」と述べた。

●普通株以外も検討
 小泉純一郎首相は危機対応会議後の談話で「10%を上回る自已資本比率を確保したい」とするのにとどめ、公的資金の注入額には触れずじまい。竹中金融相も「金額で確定するのは難しい」と歯切れが悪い。巨額の投入規模に対し投入手段が確定していないからだ。
 過去の資本注入では議決権を持たない代わりに配当が高い優先株や劣後債などを組み合わせてきた。今回は初めて議決権を持つ普通株による注入に踏み切る構えだが、普通株を増やしすぎると、1株当たりの利益が減り株価にマイナス材料となる。金融庁は株式市場の空気にも配慮しながら、普通株以外の注入手法の詰めを急ぐ。

●減資は否定
 株式市場では「資本注入に合わせて減資を迫られるのでは」という不安がくすぶっている。銀行の経営責任だけなく、資本金を減額して損失を穴埋めするなど株主責任を問う選択肢もあるからだ。だが竹中金融相は17日の記者会見で、減資を否定した。株券が紙くずになった過去の銀行国有化の経験から、減資の強制は株主の反発を招くだけでなく、他の大手銀行の株主にも不安が広がり、株安が一段と進むとの懸念があったためだ。

●経営陣は様変わり
 りそな側は役員を刷新し、退任する役員5人には退職金を払わない。経営責任のとり方が十分かどうかは金融庁が設けた「経営監視チーム」と協議する。国は大株主として決算を承認するだけでなく、金融庁の検査官を取締役会に派遣し、経営方針の策定や事業計画にも関与する。
 りそなは給与水準の引き下げや賞与カットなどで2003年中に年収を3割削減するほか、約2万人におよぶ従業員も大幅に減らす方向だ。

●路線に変化も
 りそなグループは地域銀行の連合体としての色彩を強めることを目指していた。しかし勝田泰久りそなホールディングス社長は退任発表の記者会見で「再編を進めるかどうかは新経営陣が決めること」と述べ、路線の修正を示唆した。
 ただ埼玉りそな銀行など中核会社は外部への売却などを検討しない方向。地方自治体の指定金融機関という立場も維持したい考えだ。