日本経済新聞 2005/3/26

新株価指数 日経JAPAN1000
 全時価総額の94%カバー 機関投資家に利便性

 日本経済新聞社が4月1日から公表を始める新たな株価指数「日経JAPAN1000」は、新興市場を含む全上場銘柄のうち、浮動株べースの時価総額上位千銘柄で構成する。市場にある全浮動株の時価総額の94%をカバーする。年金基金など日本株全体の値動きに連動した運用を目指す機関投資家などの利便性向上に配慮した。

 持ち合い株などめったに取引されない固定株に対し、日ごろ取引される可能性が高いのが浮動株。例えば子会社の場合、親会社が保有している分は固定株に分類する。個人投資家が持っている分は浮動株と区分される。浮動株比率とは発行済み株式数のうち浮動株の割合を示したものだ。
 なぜ浮動株を考慮した指数が求められるようになったのか。株価指数に連動した運用が機関投資家の間で主流になるなかで、単に時価総額が大きい銘柄を機械的に組み入れると浮動株が少ない銘柄の場合、その運用自体で需給をゆがめる可能性がある。浮動株べースの株価指数に連動した運用だと、浮動株比率が低い銘柄については組み入れも少なくなり、需給へ及ぼす影響を抑えられる。
 既に海外では米モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル(MSCI)指数など、主要株価指数の多くが浮動株をべースにした指数に変わっている。
 浮動株に基づく指数では、時価総額が大きく浮動株が多い銘柄は指数に占める比重が高まる。この結果、機関投資家が多くの株を持とうとするため、人気化する可能性がある。時価総額が巨大でも浮動株比率の低い銘柄は、機関投資家があまり組み入れない公算が大きい。投資するうえで浮動株比率も重要になる。


取引所指数、離脱の時 年金資金など運用成績優先に

 「時価総額をべ−スに考えると、約80億円の差がある」。15日に開いた参院厚生労働委員会で、厚生労働省の渡辺芳樹年金局長は西武鉄道株の上場廃止に伴って公的年金が被った損失額をこう明らかにした。西武鉄道が有価証券報告書の虚偽記載を公表した昨年10月13日時点で年金資金運用基金が保有していた西武鉄道株は約1100万株で、時価総額は約120億円だったという。その後、すべて売却したが、売却額は40億円。両者の差が80億円だったというわけだ。
 もともと市場での売買高が少ないうえに、利益水準に比べて株価が大幅に割高だった西武鉄道株は「銘柄を選んで買う機関投資家の運用担当者はまず売買対象にしない」(投資顧問会社幹部)と言われる。銘柄を分析する証券アナリストもついていない。
 そんな銘柄を公的年金が大量に保有していたのは、年金資金の多くが東証株価指数(TOPIX)への連動を目指すインデックス運用をしていたからだ。同指数は東証1部上場銘柄の時価総額を基準に算出している。つまり、年金資金は時価総額に応じて機械的に西武鉄道株を保有し、上場廃止が決まって整理ポストに入ると同時に機械的に売却していた。
 ごれまで東証株価指数は浮動株調整をしていなかった。西武鉄道のように発行済み株式の73%をコクドなどグループ会社が保有し、市場で流通していない銘柄では、インデックス運用が市場で売買される株式の相当部分を吸い上げてしまう。池の中のクジラになってしまうのである。
 東証もさすがにこの矛盾を解消するため、今年10月から来年6月にかけ3段階に分けて、株価指数の計算基準を上場株式数から浮動株べースの株数に移行する予定だ。年金資金が池の中で自縄自縛に陥る状況は多少は改善されるだろう。
 ただ、年金など大口資金が連動を目指す指数が、このまま取引所が算出する指数でいいのかどうかは疑問がある。理由は3つ。第1に、日本を代表する企業のすべてが東証1部に上場する時代は終わったからだ。楽天はジャスダック、ライブドアはマザーズである。こうした銘柄も組み入れなければ、年金資金の運用成績は日本企業の真の実力を反映しない。
 第2に、東京と大阪の両市場に上場し、売買高は大証の方が多い銘柄でも、東証株価指数に連動する運用の場合、売買は全部東証で執行することになるからだ。東証が株価指数を売り込むのは東証の活性化が目的。しかし、商いが薄い方の市場で執行して価格が必要以上に動く分は、年金資金などの負担になる。
 第3に、機関投資家の運用基準が特定の指数に集中し過ぎれば、日本経済新聞社を含む指数提供事業者の間で適切な競争が起こらず、結果的に市場構造がぜい弱になってしまう。複数の指数が競合する米国では取引所算出の指数は機関投資家に使われていない。
 取引所が指数ビジネスに熱心なのは、売買を活発にして手数料を稼ぐ目的もあるからだ。年金資金などが運用成績を真に高めようと考えるのならば、取引所の利害とは離れて設計された株価指数を運用基準に採用することが望ましい。
 どの指数を選ぶかは運用者の判断だが、無批判に取引所算出の指数を選んでいる現状からは、卒業すべき時期がきたのではないだろうか。

 

指数の特徴・計算方法

【精密な浮動株調整】
 浮動株調整とは、発行済み株式数の中から親子上場や持ち合いなど長期保有目的とみられる株主の持ち株数(固定保有株式数)を除いて、各銘柄の時価総額をはじき出すこと。浮動株比率(全体から固定保有株式数の割合を除いた比率)を発行済み株式数(普通株)べ−スの時価総額に乗じて、調整後の時価総額を計算する。
 日本経済新聞杜の総合経済データベース(NEEDS)の大株主情報(最大30株主収録)と保有株式情報(有価証券報告書べ−ス)を合わせて用いることで、固定保有株式数をより精密に把握する。

【主要市場の株価使用】
 複数市場に上場する銘柄は、どの市場の価格を用いるか。日経J1000は、売買高の最も多い市場で成立した価格を優先する。千銘柄中、大証の株価を採用する銘柄は47あるが、このうち東証などと重複上場していて大証の価格を用いるものが38含まれる。

【連動運用に配慮】
 構成銘柄の株数調整は、指数の経済指標としての性格を損なわない範囲で、指数連動運用者に配慮する工夫を施している。市況変動によらず株価変動要因となる株式の分割や併合、有償増資などは、株価変動に合わせて株数を調整する。 
 一方、転換社債型新株予約権付き社債の株式転換などの日常発生する細かい株数変動は、月末にまとめる。合併や持ち株会社化に伴い上場廃止となる構成銘柄は、廃止日から合併や持ち株会社新設までの間、最終取引日の価格と株数を指数算出に組み入れる。

【銘柄入れ替えルール】
 昨年11月時点で、浮動株で調整した時価総額上位千銘柄が、公表開始時点の構成銘柄。以降は、定期銘柄入れ替えと臨時の除外・採用で構成銘柄の市場代表性を維持する。
 定期入れ替えは、毎年10月下旬に原則実施。この時点で千銘柄にそろえる。上場全銘柄を浮動株に基づく時価総額でランキングし、上位500の未採用銘柄を組み入れ、1501位以下となった銘柄を除外し、千銘柄になるように過不足を調整する。次回の定期入れ替えまでの間は、構成銘柄の企業再編や経営破たんによる除外や、大型の新規上場などによる臨時採用が、構成銘柄の異動の対象となる。

【18年以上の遡及】
 日経J1000は、2002年11月1日の水準を1000ポイントとする。過去分については、1986年11月1日以降を日次で遡及計算した。同時点からの現在までの東証株価指数(TOPIX)との相関は0.99を上回る。

日経JAPAN1000の市場別銘柄数

東証第1部

   895

東証第2部

13

東証マザーズ

13

大証第1部

41

大証第2部

大証ヘラクレス

名証第1部

ジャスダック

31

(注)価格を採用する市場