日本経済新聞 2007/9/25

サブプライム 損失、最大23兆円 IMF試算 「長期化」を警告

 国際通貨基金(IMF)は24日、国際金融の安定性に関する報告書を発表した。米国の信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)問題に強い懸念を表明し、金融機関などに最大2千億ドル(約23兆円)の損失をもたらす可能性があるとの試算を明らかにした。
 サブプライム関連の損失を巡っては、米連邦準備理事会(FRB)のバーナンキ議長が7月時点で最大1千億ドルと見積もっていた。ただ、20日の議会証言では「最も悲観的な予想をはるかに上回った」と述べており、市場でも最大2千億ドルまで膨らむとの見方が浮上している。
 IMFはサブブライム問題の余波が少なくとも来年まで続くと指摘。「損失の計算は前提次第で大きく異なる」としながらも、1700億ドルと2千億ドルという2種類の試算を提示した。
 サブプライム問題を発端とする金融不安については「長引く可能性がある」と警告した。「世界経済はなお底堅さを維持しているが、下振れのリスクがかなり高まった」との懸念も表明した。IMFは「官民が今回の事態から教訓を得る必要がある」とも述べ、各国がそろって市場の透明性向上や格付けの見直しなどに取り組むよう求めた。


日本経済新聞 2007/7/20

バーナンキの試練 サブプライム問題
 「傍観者」と議会が批判

 米連邦準備理事会(FRB)のバーナンキ議長が「試練」にさらされている。信用力の低い人を対象とした高金利型住宅ローン(サブプライムローン)の監督責任を追及され始めたからだ。金融政策は手堅い実績を評価されながらもサブプライム問題が“アキレスけん”になりかねない。
 「本来の話題ではありませんが、きようは注目に値するでしよう」。18日。下院金融サービス委員会。金融政策の運営方針を説明する年2回の議会証言で、バーナンキ議長は冒頭発言の約4割をサブプライム関連の報告に費やした。
 30周年を迎えた伝統の議会証言で、金融機関の監督や消費者の保護にかかわる問題をこれほど取り上げたのは珍しい。フランク委員長(民主党)は「アラン(グリーンスパン前議長)おじさんの証言とはは明らかに違う」と皮肉ってみせた。
 金融政策は「合格」でも、金融監督は.「落第」ーー。議長が異例の行動に打って出たのは、そんな議会の風評を気にしているためだ。
 金融政策のかじ取りは確かに申し分ない。17回に及んだ利上げを停止し、政策金利(現行年5.25%)の据え置きを開始してから約1年。米経済は様々なリスクを抱えながらも、議長の筋書き通りに景気と物価の安定を両立しつつある。
 「現在の金融政策は、巡航速度に近い経済成長とインフレ圧力の緩和を支えると判断してきた」。18日の証言ではたったひと言しか金融政策に触れなかったのに、バッカス議員(共和党)は「議長は手堅さを見せてきた」と持ち上げた。
 だが、金融監督への評価は正反対だ。米国では低所得層などを中心に{サブプライムの延滞や担保物件の差し押さえが急増している。民主党主導の議会では、金融機関の安易な貸し出しを放置してきたFRBを責める声が強い。
 議長はこうした批判をかわすことに腐心した。一連の証言では「貸し出し基準が緩んでいたのは明白だ。不正融資や詐欺行為もあった」と指摘。FRBには景気と物価の安定を維持するだけでなく、消費者を守る義務もあると言明した。
 FRBは銀行に融資審査や情報開示の強化を求める指針をまとめ、州の規制当局と連携してノンバンクの特別検査を実施することを決めた。年末までには追加対策を打ち出し、不当な広告や勧誘なども制限する方針だ。
 しかし、サブプライムの監督責任を巡っては、FRBと議会の間に温度差がある。議長は今回の証言で「節度のある貸し出しは消費者の資金調達と持ち家の取得を支援する」と述べ、過剰な規制は避けるべきだとの認識を示した。そんな議長の
対応は議会筋には「生ぬるい」と映る。下院ではサブプライムの貸し出しに全米統一の免許制度を導入する案などが浮上。フランク委員長はFRBに対し、金融監督権限の一部を返上するよう求める構えすら見せる。
 「悪質な金融機関から国民を守る“警官”であるべきなのに、あまりに長く傍観者としてふるまってきた」。上院では銀行住宅都市委員会のドッド委員長(民主党)がこう述べ強い圧力をかける。バーナンキ議長にとってサブプライムは厄介な問題になってきたといえる。


日本経済新聞 2007/9/5

サブプライムローン 証券化が信用不安増幅 甘い格付け 批判やまず

 米国の信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)の焦げ付き増加を受け、米政権が混乱回避に向けた実態調査に乗り出した。その矛先は、リスク分散のための証券化のあり方と、証券化を格付けした会社にも向けられている。

1400件超す格付け
 米スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は8月27日、サブプライムから組成した住宅ローン担保証券(RMBS:Residential Mortgage-Backed Securities)の、劣後部分などを取り出した証券化商品195件を格下げした。同社による格下げは7−8月で1400件を超す。短期間でこれだけの格下げは異例だ。一部の商品は最上級のトリプルAから債務不履行(デフォルト)寸前のトリプルCに17段階も下がった。
 デフォルトも出始めた。米ムーディーズ・インベスターズ・サービスは16日、抵当順位が二番目のローンを集めて証券化した691件を格下げした。うち150件余りがデフォルトに当たるCに下がった。
 格下げが大幅かつ広範にわたったのはサブプライムローンの延滞率が予想より急激に上がったからだが、理由はそれだけではない。比較的新しい分野の証券化商品では精度の高い格付げが難しいという構造要因がある。
 社債の格付けは100年の歴史を持ち、1987年の株価犬暴落など経済・金融環境の激変も踏まえたデータを利用するので、格付けの信頼性は高くなる。だが、証券化は「格付けのための統計データが不十分」(米大手投資銀行の担当者)。

広がった誤差
 RMBSのメザニンと呼ばれるトリプルB格の証券を集めて組成した債務担保証券(CDO:Collateralized Debt Obligation)。同証券は格付け資産の質が低くても多数の債務を束なると、高い格付け証券に変わる。例えば焦げ付く可能性が20%の債権でも、3つ集めて
それぞれが無関係であればすべてデフォルトする確率は0.8%(20%x20%x20%)にとどまるからだ。ここに落とし穴がある。
 ドイツ証券の江川由紀雄証券化商品調査部長は「どれほど精巧なモデルを使っても、前提に誤差があるのでCDOにすると誤差が広がる」と指摘する。担保資産のデフォルト確率が少し違えばCDOのデフォルト確率は大きく変わってしまう。
 格付けが甘くなった背景には、格付け会社の収益構造がある。ムーディーズは収益の5割以上を、証券化商品の格付けに依存している。手数料を払うのは証券化商品を販売する証券会社だから彼らの意向に引きずられやすい。ムーディーズのように上場企業だと収益向上へ株主の圧力も強い。
 評価損の計上を迫られたり、資金繰りに窮したりする投資家が相次いでいる。欧州連合(EU)は格付け会社の調査に乗り出した。米議会でも格付け会社に対する公聴会や新たな規制を求める動きが表面化している。
 ただ格付け会社側は格付けはあくまで「意見」で、最終的な投資判断は投資家の自己責任との立場。米エンロンが破綻した際も格付け会社は法的責任を問われていない。
 「格下げが遅かった」など高まる批判を受げてS&Pなどはサブプライム関連の証券化商品の格付けが「辛く」なるよう手法を厳格化する姿勢を打ち出した。8月末にはS&Pが社長交代を発表している。米格付け会社は、100年かけて築いたブランド価値を維持できるかを問われている。


2007/12/7 日本経済新聞夕刊

サブプライム救済策 米、ローン金利5年凍結
 住宅保有者支援 大統領発表 最大120万人対象

 ブッシュ米大統領は6日、信用力の低い個人向け住宅融資(サブブライムローン)の返済に苦しむ住宅保有者への支援策を発表した。最大120万人を対象に、他のローンヘの借り換えや5年間の金利凍結などに金融業界と共同で取り組み、住宅の差し押さえ拡大を防ぐ。世界的な金融混乱のきっかけとなったサブプライム問題に区切りをつけるねらいだが、抜本的な解決にはならないとの見方もある。米国と日本の株式相場は支援策発表を受け上昇した。
 ポールソン財務長官は「民間の努力による対策であり、政府資金は入らない」と述べ、借り手救済に公的資金を使わないと強調。同時に「特効薬はない」とし、支援策が効果を発揮するには時間がかかるとの認識も示した。
 大統領は記者団に「手を差しのべれば住宅の差し押さえを避けられる人々がいる」と説明。一方で「ローンの貸し手や不動産の投資家、もともと支払えない住宅を無理に購入した人々を助けるべきではない」と語り、支援対象は善意の借り手に限るとの考えを表明した。
 支援策は2005年1月から07年7月までに結んだ契約で、08年から09年にかけて金利上昇期を迎えるローンが対象。サブプライムローンの特徴である金利上昇は「リセット」と呼ばれ、例えば当初9%の金利が11%に上がるなど借り手の負担は重くなる。
 ローン返済に困る見通しの180万人のうち、リセット前の今の低い金利でも返済できない60万人は「個別に判断する」として事実上、支援の対象から外した。残る120万人には借り手の返済能力をきめ細かく審査し直し、金利の凍結や固定金利のローンヘの借り換え、個別の相談などに対応を振り分ける。新たに作成する指針に基づき、民間の住宅ローン会社や銀行が作業を分担。24時間の受け付け電話など相談体制も拡充する。
 5年間の金利据え置きの対象は、他のローンヘの借り換えができないうえ、リセットによる金利上昇にも耐えられない人に適用する。5年のうちに住宅の価値が高まり、返済能力が回復するのを待つ手法だが、問題を先送りする面も大きい。
 支援策には金融機関による情報開示の拡充や、貸し手による詐欺などに対する刑事責任の追及強化も盛り込んだ。議会には米連邦住宅局(FHA)による憤務保証を拡大して持ち家取得を促す法案の審議も求めている。

米サブプライムローン支援策の流れ

2008、09年に金利上昇を迎える借り手 180万人
 
現時点で返済困難 60万人 今回の対象外
現在は返済可能  120万人 返済能力に応じて民間金融機関などが以下を判断           
 ・5年間の金利凍結
 ・比較的低利なローンヘの借り換え              
 ・現在のローンを継続

 

 


日本経済新聞 2007/12/20

モルガン・スタンレー 中国政府系が5700億円出資
 サブプライム 1兆600億円損失

 米大手証券のモルガン・スタンレーは19日、信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)に絡み9-11月期決算で94億ドルの損失が発生し、中国の政府系ファンド、中国投資有限責任公司から50億ドルの出資を受け入れると発表した。保有するサブプライムローンを裏付けにした金融商品が大量に格下げされたため損失が拡大した。

損失大幅上ぷれ サブプライム関連商品大量格下げ響く

 モルガン・スタンレーが9−11月期決算に計上した信用力の低い個人向け住宅融資(サブブライムローン)関連の損失額94億ドルは、米金融機関の四半期決算で最大規模。しかも11月上旬に公表した37億ドル(10月末時点)から57億ドルも膨らんだ。金融機関が抱える住宅ローン関連証券を格付け会社が大量に格下げしたのに加え、金融当局などが「前倒し処理」を奨励したことが損失拡大の背景にありそうだ。
 今回、CDO(合成債務担保証券)など住宅ローンを組み込んだ証券化商品の持ち高の7割以上を減損処理したとみられる。CDOなどは流通市場での取引が少なく時価算出が難しいため、多くの金融機関が格付けを参考にしていた。10月以降のCDOなどの大量格下げを受けて損失が一気に膨らんでいる。
 米金融当局は金融機関が簿外で運営する特別目的会社の連結など財務の透明性を求めている。米国では来年以降も住宅ローンの貸し倒れが増える公算が大きく、今回は、こうした将来の損失を前倒しで処理した側面もある。

 サブブライムローン問題では、既に米シティが計80億〜110億ドルの評価損の発生を発表し、アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビ投資庁から75億ドルの出資を受けることを明らかにした。
 スイスのUBSも新たに100億ドルの損失処理を発表し、シン ガポール政府投資公社(GIC)と中東の投資家から、総額130億スイスフラン(114億8000万ドル)の資本注入を受ける方針を明らかにした。


中国投資 発足後初の案件に
 中国投資有限責任公司にとってモルガン・スタンレーへの出資は正式発足後の第1号案件となる。当初は株式や債券など金融商品への投資が主体になるとみられていたが、サブプライム問題による市場の混乱が広がる中で、海外の金融機関や企業へ積極的に出資する可能性が出てきた。
 中国投資は中国政府が9月末時点で1兆4336億ドルと世界最大の外貨準備を運用するため9月に設立した。資本金は2千億ドル。世界の金融市場に投資するのは、その3分の1にあたる670億ドル程度とみられている。中国政府は5月に米投資ファンドのブラックストーン・グループに30億ドルを出資。中国投資はこれを引き継いでいるが、発足後の投資案件としてはモルガン・スタンレーが最初になる。
 米国では、中国が巨額の資金を使って米企業を買いあさろうとしているのではないかとの警戒感が根強い。中国投資はこうした懸念に配慮して、「当面は金融商品に投資する」との方針を強調してきた。しかし今回、請われる形で米国の巨大金融機関への出資が決まったことは、中国投資にとって願ってもないチャンスだったとみられる。