2008年2月19日 東レ

PAN系炭素繊維“トレカ”の生産体制増強について
愛媛で特殊細物炭素繊維を増産 総投資額160億円

 東レ(株)(本社:東京都中央区、社長:榊原 定征、以下当社または「東レ」)はこのたび、PAN系炭素繊維“トレカ”の生産設備増強を決定しました。当社の愛媛工場(愛媛県松前町)に、年産能力1,000トンの産業用特殊細物炭素繊維焼成設備を増設し、2009年7月からの稼働開始を目指します。なお今回の決定に伴う、プリカーサー(炭素繊維原糸)製造設備と炭素繊維焼成設備の増設、ならびに工場敷地の整備費用を合わせた総投資額は約160億円を計画しています。今回の増設により、愛媛工場の炭素繊維生産能力は8,300トン/年に(現:7,300トン/年)、当社グループ生産能力は18,900トン/年(現:14,300トン/年)に拡大します。

 当社は今回の決定に基づき、産業用の特殊細物炭素繊維(単糸を3,000本(3K)または6,000本(6K)束ねた炭素繊維)の専用生産設備を1系列増設します。細物炭素繊維は、細物ならではの優れた成形加工性を有するのが特長で、デザイン性や高度な設計対応が求められる自動車部材や自転車フレーム、産業用ロボット等に加え、航空機の二次構造材(主翼の動翼部分;フラップ、スポイラー等)に採用されています。細物炭素繊維は現在、産業用途で「環境・安全・エネルギー」をキーワードとする各種用途向けに需要が急拡大する一方、航空機用途においてもボーイング、エアバス各社の新型旅客機プログラムの本格立ち上げを受けて需給バランスがますます逼迫しています。当社は今回の増設により、細物炭素繊維の需要拡大に対応して安定供給体制の構築を図ります。加えて、航空機の一次構造材向け中弾性高強度糸の生産系列と一般産業用炭素繊維の大型新設備を愛媛工場に増設する計画に着手しました。

 2007年現在、PAN系炭素繊維の世界需要は約35,000トン/年と推定され、今後も年率15%以上の高成長が見込まれており、2010年には53,000トン程度に拡大するものと予測されています。東レは炭素繊維市場の本格拡大にいち早く対応し、航空宇宙・スポーツ・一般産業の各用途における一層の需要拡大を推進するため、最適な供給体制の構築を目指して引き続き生産体制の増強に取り組んでいきます。

 東レは中期経営課題“プロジェクトInnovation TORAY 2010”(“IT-2010”)に基づく高収益企業への転換を目指す中、炭素繊維複合材料事業を「戦略的拡大事業」と位置づけて積極的な増産投資に取り組んでいます。当社は2010年末までに炭素繊維のグループ生産能力を年25,000トンに拡大する一方、炭素繊維・プリプレグ(中間基材)・コンポジット(成型品)にわたる垂直統合型の事業展開を推進・強化していきます。東レは世界最大の炭素繊維複合材料メーカーとして、業界のデファクトスタンダードである“トレカ”の技術・品質優位性を強みに、2010年に世界販売シェア38%(2007年現在34%)、連結売上高目標1,700億円を目指して炭素繊維複合材料事業の拡大に取り組んで参ります。


2009年1月21日 クレハ

いわき事業所 炭素繊維増強設備の稼働開始について

 株式会社クレハ(本社:東京都中央区、社長:岩ア隆夫)は、産業界の様々な分野で炭素繊維(商品名「クレカ」)の需要が拡大していることに対応し、ここ数年来いわき事業所(福島県いわき市)ならびに中国・上海での生産設備の拡充を実施してきておりますが、本日、いわき事業所において“炭素繊維原糸”増強設備の稼働を開始しましたので、お知らせいたします。

 当社の炭素繊維は石油ピッチを原料とし、半導体用シリコンやセラミックの製造工程で使用される断熱材として使用されていますが、近年では太陽電池用シリコンを製造する熱処理炉に使用される断熱材として、需要が大きく伸びています。

 当社は、昨年1月28日に“炭素繊維事業の拡大について”として、2012年までの設備増強計画を公表しました。その後の太陽電池市場の急速な拡大に伴って断熱材の供給体制を早急に構築していく必要があることから、まず“炭素繊維原糸”の増強設備を2ヶ月前倒しで稼働開始させることとしました。これにより、原糸生産能力は
年産1,100トンから年産1,450トンへと従来比3割増強されます(将来年産1,800トンまで増強予定)。

 また、いわき事業所の“炭素繊維加工品”(成形断熱材「クレカFR」および短繊維「クレカチョップ」)の生産設備についても増強工事を進めており、本年2月には従来比2倍の生産能力となります。

 当社は、今年度から2012年度までの新中期経営計画「中計GG(Grow Globally」において炭素繊維事業を成長ドライバーのひとつと位置づけ、生産販売体制のグローバルなネットワーク構築に注力しております。現在、いわき事業所、中国(上海)および米国(ペンシルバニア州)の各生産拠点における増強前倒しや追加対応を含め事業シナリオを再構築しているところです。


日本経済新聞 2009/6/17

炭素繊維 増産先送り 東レは米仏と愛媛工場で、帝人系も1年 不況で需要ブレーキ

 東レや帝人グループは炭素繊維の増産計画を相次ぎ見直す。世界最大手の東レは米・仏両工場で増産を延期、国内新設備の建設も2年以上先送りする。帝人子会社の東邦テナックスも新設備の稼働を1年延期する。炭素繊維は鉄よりも軽くて強い高機能素材として需要が拡大してきたが、世界同時不況の影響で2008年秋以降にブレーキがかかった格好だ。

 東レの年産能力は計1万7900トン。このうち米・仏工場で08年末に増設した3600トンのラインは稼働を見合わせている。7月には愛媛工場(愛媛県松前町)で1000トンのライン増設が完了するが、これも稼働を延期。10年に国内に4000トン級のラインを新設する計画についても2〜3年凍結する。
 東邦テナックスはドイツの工場で増設中の1700トンの生産ラインの稼働時期を8月から1年延期する。三菱レイヨンも大竹事業所(広島県大竹市)の年産能力を2700トン増やす工事を1年延期し、完成時期を10年10〜12月とする。世界シェアの計7割を握る3社が09年に予定していた設備増強計画はすべて10年以降にずれ込む。
 炭素繊維の用途は6割が橋脚補強や圧力容器など産業向けで、2割が航空機向け、残りがゴルフクラブなどレジャー向けとみられる。00年以降に市場が本格的に立ち上がり2けた成長を続けてきた。ただ昨秋以降の世界不況で産業向けとレジャー向けの需要が同時に減少。米ボーイングの最新鋭旅客機「787」の生産計画の遅れも響く。
 東レは1月から3割程度の減産を継続中。09年度の関連売上高ば前年度比14.8%減の600億円、営業利益はゼロ(08年度は84億円)に落ち込む見通しで、収益にも影響が出る。
 ただ将来的には風力発電など環境関連向けや軽量化を進める自動車向けの需要などが伸びるとみられ、東レでは「10年度から再び成長に転じる」とみている。