1981/11/6 日本経済新聞

IJPC 三井側、交渉打ち切り通告
 イラン国家事業化せねば 来月15日に撤退

 三井物産、三井東圧化学、三井石油化学工業、東洋曹達工業、日本合成ゴムのICDC(イラン化学開発)主要株主5社社長は5日午後、タヘリNPC(イラン石油化学公社)総裁とのトップ会談で「IJPC(イラン・ジャパン石油化学)事業を今後、イラン政府の全面的な資金負担による国家事業とする」との日本側の提案にNPCが12月15日までに合意しない限り同事業から撤退するとし、事実上の交渉打ち切りを通告した。日本側としてはイラン側の合意がない限り12月15日をもってIJPC事業から完全に撤退することを宣言したもの。同時に日本側はイラン側の合意の有無にかかわらず「国内措置として近々、輸出保険を申請する」ことを初めてイラン側に伝えた。これによって4月末に日本側が送金停止を決定して以来、撤退か継続かをめぐって日イ間で対立が続いていたIJPC事業は、いっきに最終決着に向けて動き出すことになった。
 会談の席上、日本側は「IJPC事業は革命、戦争、被爆の“三重苦”に見舞われ、実質2年半も工事が中断した極めて不幸なプロジェクトであり、その中で日本側は一貫して“被害者”の立場に置かれてきた」と前置きして、日本側の窮状を訴え、イラン側の認識と理解をまず求めた。
 そのあと、革命、戦争による中断でIJPC事業の金利支払いは当初予定の570億円をはるかに上回る1千億円に達したこと、金利を含めた経費負担と今後、イ・イ戦争がいつ終結するか分からない状態で、これ以上の資金負担を続けていくには私企業として限界に達したこと、さらに工事が未完成なまま来年2月末から借入金の元本返済が始まるという異常事態が差し迫っていることをあげ、事業の採算性は完全に失われ、工事の継続は不可能である、との5社社長の一致した結論を伝えた。
 一方、2日から続けてきた東京交渉で、イラン側が「事業の採算性はある」としてあげてきた根拠について「仮定の話が多く、原料、インフラストラクチャー(社会基盤)、住宅、水、建設地域の安全、適切な建設費のどの条件をとってもイラン側の計算通り整備されるとは思えない」との見解を述べ、日本側の結論が不動のものであることを強調した。
 これらの結論や判断を述べたあと5社社長はタヘリ総裁に対し、「今後の所要資金をすべてイラン側負担に変えない限り、事業継続には応じられない」としたICDC取締役会の決定に沿って@資金負担はしないA建設工事には協力するBIJPCの経営には参画しないーーとの5社社長の一致した考え方を伝え、12月15日までに、これに対する回答を送付するよう求めた。
 同時に5社社長は、これとは別に「近々、国内的な問題として保険求償措置を取らざるをえない」とも伝え、事業継続協力とは別個の問題として輸出保険の求償を通産省に求める方針を初めてイラン側に伝えた。八尋社長によると求償手続きに踏み切る時期は12月中旬。
 こうした5社社長の意思表明に対し、タヘリ総裁は「我々としては事業の採算性はあると考えている。もう一度、日本側が事業継続のための提案を用意してくれることを望む」としてテヘランで3回目の正式交渉を持つよう要請したが、5社社長は「採算性をめぐる論議は尽くした。もはや交渉の余地はない」(八尋社長)としてテヘラン交渉を拒否した。