毎日新聞 2005/5/27

東シナ海ガス田 30日から日中協議
 境界線で対立、共同開発に期待
 決着への道筋不透明

 中国が東シナ海で進めている天然ガス田開発をめぐる問題で、日中両国の局長級実務者協議が30,31の両日、北京で開かれる。昨年10月以来、約7ヵ月ぶりの再開で、政府は中国に対し、日本が主張する日中中間線付近での開発の即時中止などを再度求める方針だ。中国側は日中共同開発について何らかの提案をする見通し。しかし、靖国参拝をめぐる問題などで、日中関係が微妙な局面を迎える中、決着に向けた道筋がつけられるか不透明だ。


◇問題の発端
 問題の発端は、東シナ海での境界が未画定であることだ。国連海洋法条約は、沿岸国が資源開発などに主権的権利がもてる排他的経済水域(EEZ)を200カイリ(約370キロ)と定めている。しかし、東シナ海は海域が狭く日中両国のEEZが重なるため、日本は国際司法裁判所の判例などに照らして「重なる場合は中間線が境界」と主張してきた。
 一方、中国は、大陸棚の資源開発などには沿岸国の主権的権利が及ぶとする
同条約の「大陸棚自然延長論」を主張。「沖縄トラフ」が境界だとする。
 協議に向け、政府関係者は「まずは境界の議論だ」とし、前提となる境界画定の協議から始める意向だ。ただ、前回も延々と自説をぶつけ合うだけだった境界議論が、進展するかは、懐疑的だ。

◇中国の事情
 「エネルギー対策が急務で、中国はコスト意識が失われているのではないか」と、政府関係者は話す。日本政府は4月に試掘権設定の手続きを始め帝国石油が出願。だが、試掘に踏み切った場合、経済的メリットがあるかどうかは議論が分かれる。
 国際エネルギー機関(IEA)の04年エネルギー需給見通しによると、2030年までに中国では原油換算で02年比12億9700万トンの需要増が見込まれる。世界全体の増加分の2割強にのぼる。年平均2.6%も増える需要をまかなうには、手段を選ぶ余裕がない。昨秋の実務者協議で中国側は「中間線は容認できないが、中間線の日本側で開発はしていない」と発言したとされる。係争地域での開発に配慮しているとの立場だ。
 だが、エネルギー問題の枠を超えるという見解もある。「中国がエネルギー輸入大国になれば、強力な海軍を備えた海洋国家にならざるを得ない。相次ぐ開発や調査の背景には、海洋国家を目指す中国の狙いがみえる」(経産省幹部)との声もある。

◇落としどころ
 今月初旬の日中外相会談で、中国の李肇星外相は「(東シナ海問題では)共同開発についても協議したい」と語った。「わざわざ中国側から言ったのだから、かなりの内容を示すのでは」(外務省幹部)と"落としどころ”としての共同開発への期待はある。しかし、昨秋の実務者協議で中国側が提案したのは、日中中間線の日本側での共同開発を想定したものとされる。日本側は「それでは100%のめない」(政府関係者)との考えだ。
 中国は既に「平湖」の開発を完了し、「春暁」も着々と作業を進めている。

東シナ海のガス田開発をめぐる主な動き

03年8月

中国企業と米ユノカルなど欧米2社が「春暁」などの開発契約を締結し、
開発着手

04年7月

日本政府が日中中間線の日本側で物理探査開始

9月

ユノカルなど2社が開発からの撤退を表明

10月

ガス田をめぐる初の日中実務者協議開催

05年2月

「春暁」などの地層が日中中間線の日本側につながっている可能性が高い
とする調査報告を発表

4月

日本政府が試掘権設定手続きに着手。帝国石油が試掘権設定を申請


国連海洋法条約


第77条 大陸棚に対する沿岸国の権利
1 沿岸国は、大陸棚を探査し及びその天然資源を開発するため、
大陸棚に対して主権的権利を行使する。
2 1の権利は、治岸国が大陸棚を探査せず又はその天然資源を開発しない場合においても、当該沿岸国の明示の同意なしにそのような活動を行うことができないという意味において、
排他的である。
3 大陸棚に対する治岸国の権利は、実効的な若しくは名目上の先占又は明示の宣言に依存するものではない。
4 この部に規定する天然資源は、海底及びその下の鉱物その他の非生物資源並びに定着性の種族に属する生物、すなわち、採捕に適した段階において海底若しくはその下で静止しており又は絶えず海底若しくはその下に接触していなければ動くことのできない生物から成る。

第15条 向かい合っているか又は隣接している海岸を有する国の間における領海の境界画定

 二の国の海岸線が向かい合っているか又は隣接しているときは、いずれの国も、両国間に別段の合意がない限り、いずれの点をとっても両国の領海の幅を測定するための基線上の最も近い点から等しい距離にある中間線を越えてその領海を拡張することができない。ただし、この条の規定は、これと異なる方法で両国の領海の境界を定めることが歴史的権原その他特別の事情により必要であるときは、適用しない。」



南沙、西沙諸島では、ベトナムが「大陸棚」説を出したことに対して、中国側が「中間線」説を出し、中国側が勝っている。

こうした排他的経済水域に関わる問題は、国連海洋法条約において「関係国の合意到達の努力」に委ねられているが、解決が見られない場合は調停を要請できる。それでも解決が見られない場合は各裁判所に要請する事ができる。当条約は平和的解決を要求しているが、条文には強制力がないため、関係国がこれに応じない場合調停や裁判所での解決ができない。日本・中国共に国連海洋法条約に批准しており日本は国際司法裁判所や国連海洋法裁判所に付託する事を中国に要請しているが中国はこれに応じていない。

 

衡平の原則=等距離、中間線の原則ではない

「等距離原則」からいうとドイツの大陸棚境界線は点線の枠内だが、
国際司法裁判所は「衡平の原則」により赤色の線の枠内をドイツの大陸棚と設定した。

そこでよく引き合いに出される有名な国際司法裁判所の判例が「北海大陸棚事件」です(判決1969年)。

北海は油田があることがわかり、多くの沿岸国がその権利を主張しました。北海はすべて「大陸棚」なので、その境界線を決めることになったのです。

大陸棚を、沿岸国の沿岸と等距離になるよう区分すると、ドイツ(当時は西ドイツ)の大陸棚は狭くなってしまいます。

国際司法裁判所は、「衡平な原則」とは当事者間同士が合意できることだ、として、ドイツの大陸棚を等距離原則より広く取りました。

つまり、国際司法裁判所は、当事者が合意できれば、等距離とか中間線などが必ずしも大陸棚の境界線ではなく、「衡平な原則」は「その海域によって違ってくる」ということを示したわけです。


2008年6月17日  読売新聞

「翌檜」ガス田周辺海域、日中で共同開発…「白樺」は合弁

 東シナ海のガス田開発に関する日中両政府の合意内容が16日、明らかになった。

 5月の日中首脳会談で一致した白樺ガス田(中国名・春暁)の共同開発は両国の共同投資とし、収益分は先行投資してきた中国側に重点配分する。

 また、翌檜(あすなろ)ガス田(同・龍井)周辺の日中中間線にまたがる海域を共同開発区域とすることでも合意した。

 合意対象外の日中中間線付近のガス田や、周辺海域の取り扱いについては継続協議とした。これに関し、福田首相は16日の自民党役員会で、今週中に合意内容を示す考えを表明した。

 日本が共同開発を主張してきた中間線付近の4ガス田のうち、白樺ガス田での共同開発は、中国による単独開発が最終段階を迎えていることから、収益分は中国側に重点配分することで折り合った。翌檜周辺海域の共同開発は中国側が提案した。

 交渉筋によると、白樺ガス田については合弁会社を日中共同出資で設立し、双方の出資比率に基づいてガスを配分する方向だ。翌檜の周辺海域では、日中が共同開発費を折半した上で、生産したガスも等分する見通しだ。出資比率など具体的な方法は、両国が正式合意した後の条約締結交渉の中で詰める。

このほか、平湖が稼動中