日本経済新聞 2007/4/10

ガス版OPEC検討 輸出国会合合意 ロシアなど影響カ拡大

 世界の主要な天然ガス輸出国でつくる「ガス輸出国フォーラム(Gas Exporting Countries Forum)」は9日、カタールの首都ドーハで閣僚級会合を開き、生産量や価格を調整する石油輸出国機構(OPEC)にならったガス版国際カルテルの創設を検討する作業部会の設置で合意した。国際市場での影響力を拡大したいロシアやイランなどが創設を働きかけていた。
 会合後に発表された声明などによると、新たな作業部会はガス輸出国フォーラムの組織強化に関する包括的計画を立案し、今後の方向性を決める。会合に参加したアルジェリアのヘリル・エネルギー鉱業相は「フォーラムは長期的にOPECのような組織に移行する」と述べた。
 作業部会は天然ガスの生産、需要、価格形成の動向について、2008年にモスクワで開く次のガス輸出国フォーラム閣.僚級会合までほぼ1年かけて調査する。ガス版OPECが創設されれぱ、天然ガスの輸入量を増やしている日米欧の経済に大きな影響を与える。ただ長期契約が主体の天然ガスは、短期契約が比較的多い石油に比ベカルテルに向かないといわれ、創設には曲折も予想される。9日の会合にはフォーラム参加国とオブザーバーの計14カ国の代表が出席した。



ガス版OPEC検討へ部会 親欧米諸国が妥協
 価格決定方法など実現には壁も

 ガス輸出国フォーラムが9日の閣僚級会合で、天然ガスの価格や生産量を調整するカルテル創設を検討する作業部会設置で合意した、価格形成の主導権を握り、米欧をけん制したいロシア、イランに対しカタールなど親米欧国が妥協した。ただ、カルテルを機能させるにはガス価格を決める仕組みを全面的に変える必要があり、実現は容易でない。
 ガス版OPECは1月にイランがロシアに提案したが、ロシアはそれ以前から検討していた。天然ガス輸入量の4割以上をロシアに頼る欧州連合(EU)加盟国への影響力の拡大が狙いとみられる。2008年にロシアのサハリンから液化天然ガス(LNG)の輸入を始める予定の日本に対しても、ロシアは発言力を強めることができる。
 世界最大の天然ガス消費国である米国と対立するイランもガスの国際価格形成に影響力を確保できれば、外交上の武器になる。イランは世界二位のガス埋蔵量を持つが、輸出量はまだ少なく、10年前後からのLNG輸出開始を機に国際天然ガス市場での勢力拡大を狙っている。
 一方、埋蔵量で世界三位のカタールは親米政策をとっており、天然ガスカルテルの創設で米欧と対決する意思はない。9日の会合で議長役を務めたアティーヤ・エネルギー・産業相は「消費国との緊密な協議が一段と必要になった」と述べ、作業部会設置がガス価格の引き上げを狙った措置ではないと主張した。
 インドネシア、エジプトなど親米派の参加国は軒並みカルテル創設に反対。反米のベネズエラ、ボリビアはカルテル創設を支持する。
 一方、多くの専門家はガスカルテル創設の難しさを指摘する。石油に比べ天然ガスの消費量はまだ少なく、短期のスポット取引が多い石油に対し、天然ガスは15−25年の長期供給契約が一般的だ。ガスの価格決定には通常、石油価格の動向を反映する公式が採用される。世界最大のエネルギー源である石油と切り離した格好でガスの国際価格を形成するのは難しいのが現状だ。


ガス輸出国フォーラム参加国の天然ガス輸出量
 (単位:10億立方メートル、2007年予測、*はOPEC加盟国)

ロシア   195
アルジェリア*    61
カタール*    60
マレーシア    31
ナイジェリア*    26
インドネシア*    25
トリニダード・トバゴ     20
エジプト     16
イラン*     14
ボリビア     13
リビア*     12
ブルネイ     10
アラブ首長国連邦*      8
ベネズエラ*     0
小計   488
(その他の国)    325
総計    813

(注)ロイター通信資料、四捨五入のため小計と一致しない