日本経済新聞 2006/10/5

天然ガスから石油代替燃料 新日石など国内6社で実証プラント
 360億円投資 欧米勢に対抗

 天然ガスから作る石油代替の合成燃料「GTL(ガス・ツー・リキッド)」の実用化に向け、国内企業連合が製造コストの安い独自技術の確立に動き出す。新日本石油や国際石油開発など6社は4日、技術研究組合を設立、実証プラントを建設すると発表した。足元の原油価格は下落しているものの水準は依然高く、石油依存度を下げられるGTLへの関心は高まっている。新日石などは、先行する欧米勢に対抗する。


 石油資源開発、コスモ石油、新日鉄エンジニアリング、千代田化工建設を加えた6社が今月下旬に「日本GTL技術研究組合」を発足させる。独立行政法人の石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC、旧石油公団)と共同で、商業化の前段階である実証研究を始める。
 実証プラントは2008年度の完成を目指して新潟東港工業地帯内に建設、日量500バレルの合成石油を生産する。研究期間は10年度まで。総事業費は360億円で6社が計120億円、JOGMECが240億円を負担する。
 共同研究を通じて設備大型化などの課題を検証。各社は将来、海外での商業プラント建設につなげたい考え。
 GTLは欧米メジャー(国際石油資本)などが先行。マレーシアで英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルが日量約1万3千バレルを生産中のほか、カタールでは南アフリカの石油会社サソールが6月に同34千バレルの生産を始めた。世界生産量は2013年ごろに同100万バレルと、日本の原油輸入量の4分の1相当に達するとの予測もある。

 GTLは通常、製造過程で天然ガス中の二酸化炭素(C02)を取り除き、逆に酸素や空気を送り込む必要がある。
 日本の6社が実証研究するのは、その両工程を省ける新しい技術で、製造装置の簡素化やコスト削減につながる。C02濃度が高く安価な天然ガスも使えるため、原料確保でも有利とみている。
 研究組合の理事長となる寒河井正・石油資源開発副社長は4日の記者会見で「(資源活用のための)独自技術を持つことは、日本が海外権益の確保を進めるうえでも重要」と強調した。

▼GTL(ガス・ツー・リキッド)
 天然ガスから軽油や灯油など石油製品を製造する技術。ガスを一酸化炭素と水素に分解し、分子構造を組み替えて合成する。製造過程で硫黄分などを取り除くため原油から精製する石油製品に比べ大気汚染の原因となる有害物質の発生が少ない。


GTL技術 天然ガス活用の幅広げる
 天然ガスは世界各地に豊富に存在し、燃やした時の二酸化炭素(CO2)発生量も比較的少ない。エネルギー・環境問題に対応するため、石油に代わるエネルギーの主役として存在感が高まっているが、GTLはその活用の幅を大きく広げる技術として期待される。
 天然ガスの弱点は輸送の難しさ。従来はパイプラインを敷設するか、極低温の液化天然ガス(LNG)に変えるしか方法がなく、初期投資がかさむため大規模開発が前提になっていた。技術ベンチャーの米シントロリウムによると、北米を除く全世界で確認されている1万5千強のガス田のうち、LNGでの開発が可能な大規模ガス田は1.2%にとどまる。常温液体のGTLは原油と同様に輸送が容易で、比較的小さなガス田でも採算が合いやすい。製造コスト低減が課題だが、日本の場合は原油輸入価格が1バレル20ドル以上ならGTL導入は可能との見方もある。
 天然ガスは主に発電用燃料として使われてきたが、GTLが普及すれば、世界の原油消費の3分の1を占める自動車燃料の置き換えも可能になる。乗用車販売の半分をディ一ゼル車が占める欧州でまず導入が進む見通し。経済産業省も5月に策定した「新・国家エネルギー戦略」で、自動車燃料の石油依存度を2030年までに80%に低下させる目標を掲げ、バイオエタノールと並んでGTLの活用を打ち出している。