日本経済新聞 2004/8/29

埋蔵量原油に匹敵の「超重質油」 石油並み利用可能 
 中部電、2008年に事業化

 中部電力は粘りが強く資源利用があまり進んでいない「超重質油」を石油と同等の実用燃料に変える技術を開発、2008年にも海外で商業生産を始める。超重質油の可採埋蔵量は原油並みに達し、世界のエネルギー企業が実用化を競っている。中部電は1バレル当たり20ドル台の低コストでの事業化を目指し、他の日本企業にも技術を供与する。中東以外に広く分布する超重質油の実用化が進めば、世界のエネルギー需給・価格の安定と中東依存からの脱却につながる。

 世界の石油関係者の間では、超重質油が石油並みに利用できれば、残り41年とされる原油の可採年数が74年に延びるとみられている。中部電は経済産業省の外郭団体である国際環境技術移転研究センターと組み、超重質油の粘度と硫黄分を同時に低減する技術を開発した。超臨界水という高温高圧の水のエネルギーで超重質油の分子結合を分解。パイプ輸送が可能なC重油並みに粘度を引き下げるとともに、硫黄含有率も減らす。新技術は既に特許を申請した。 中部電は今後、国内の石油元売り大手と組んで1日50−100バレルの超重質油を処理できる大型実証プラントを国内に設置。来年から商業化に向け試験に入る。投資額は約30億円。試験結果を踏まえ、08年にも海外の超重質油の埋蔵地に処理施設を設けて分解事業を始める計画だ。超重質油処理の事業化は日本企業初となる。現在は重油を利用している発電所などで燃料として使われる見込み。
 他社への技術供与も進める。既に、石油資源開発などが出資するカナダオイルサンド社が、カナダで計画中の、砂の層(オイルサンド)からの重質油開発で中部電の技術の活用を検討、08年の商業化を目指している。国際石油開発もアジアの超重質油埋蔵地で計画する事業に、中部電の技術を活用する検討に入った。
 石油並み燃料への転換コストは実証プラントの段階では1バレル約47ドルかかるが、中部電では量産段階では20ドル台まで半減させることが可能と予想。採掘コストなどを含めても、原油価格が同30ドル台ならば競争力を保てるとみている。

▼超重質油
 ベネズエラやカナダ、ロシアなど広範囲に分布。
可採埋蔵量は約9500億バレルと、原油の約1兆1500億バレルにほぼ匹敵するが、アスファルトのように高粘度のためパイプライン輸送が難しく、設備の腐食などにつながる硫黄分の含有量も多いため実用化が遅れている。米欧石油大手も開発や商業利用に取り組んでいるが、現在の生産量は日量10万バレル程度にとどまる。

量産でコスト石油並み
 超重質油実用化技術 中部電、新事業を育成

 中部電力が商業利用に取り組む超重質油は世界に広範囲に分布し、低コストでの実用化が進めばエネルギーの中東依存脱却につながるなど波及効果は大きい。国内の石油各社などに先駆けて実用化にメドをつけた背景には、電力自由化の進展による競争激化に備え、研究開発部門を新たな収益源に育てようとの狙いがある。
 中部電が超重質油の分解に利用する超臨界水は、通常の水では分解できない有機物の分子結合を分解する性質を持つ。中部電は発電所の廃棄物処理の段階で出る物質を分解する技術として、かねて超臨界水の研究を推進してきた。現時点での超重質油の石油並み燃料への転換コストは1バレル約47ドルだが、量産段階では20ドル台まで下げることが可能とみている。
 電力会社の研究開発部門は大学や研究機関並みの予算、施設を持つが、自由化前は「研究のための研究が多く、新技術を開発しても商業化には至らなかった」(中部電)という。しかし近年は自由化の進展をにらみ、異業種の研究者を中途採用するなど、実用化が可能な新技術の開発に力を入れてきた。超臨界水はその一つで、中部電では超電導技術を使った電力貯蔵装置を近く商品化するなど、新たな事業の芽が育ちつつある。
 自由化で新規事業者が電力に参入できたのと同時に、電力会社も電力以外の分野に垣根を超えて参入できるようになっている。中部電は東京電力や関西電力に比べ多角化が遅れたが、巻き返す。

専門家の見方

エネルギー地図、塗り替えも
 世界エネルギー研究所(ロンドン)の主席アナリスト、レオ・ドロラス氏
 カギはコストだろう。油質改良のコストと運搬コストが需要に見合えば、世界のエネルギー地図を塗り替えるほどの衝撃を持つ可能性がある。このタイプの油はベネズエラやカナダに多く米市場に影響を与える。

有望な技術に
 増田昌敬・東大助教授
 超重質油の採掘には従来、地下に水蒸気を注入して油を流動しやすくしたうえで回収し、さらに分子を解きほぐして改質する必要があった。今後、超臨界水の地下への注入が可能になれば改質と同時に回収もしやすく、有望な技術として期待できる。


超重質油
http://home.hiroshima-u.ac.jp/er/Rene_S_H1.html

 非在来型石油の内、API比重が10未満のものを天然ビチューメン、10以上22.3未満のものをヘビーオイルとする分類が広く使用されている。

 天然ビチューメンは砂層中に含まれた超重質の石油で、地下条件でも流動性がない。深度の浅い場合は露天掘で採掘できる。代表的な天然ビチューメンはカナダ西部アルバータ州に分布する。
 ベネズエラのオリノコ川流域に分布するところからオリノコタールとして知られているヘビーオイルは、多少流動性があるので坑井により生産できるが、粘性が高く、比重が大きいため通常の方法では生産性が低く、天然ビチューメンと同じく、スチーム回収法などの生産促進法の施工がしばしば必要となる。
 天然ビチューメンやヘビーオイルの成因は通常の石油から各種のプロセスを経て変質した結果、重質化したと考えられている。変質作用では、バクテリア分解をうけやすくまた水に溶けやすい低分子成分は除去され、その結果石油が重質化したと考えられている。天然ビチューメンやヘビーオイルは炭化水素含有量が低く、また比重はいずれも1gml^(-1)に近く、硫黄と窒素が多く、水素が不足しているなどの点で、通常原油と比較して品質は劣っている。

分布と埋蔵量
 天然ビチューメンの分布は表に示されるように、カナダとロシアで世界全体の97%以上を占める。カナダにおける分布は西部アルバータ州のアサバスカ、ピースリバー、ワバスカおよびアルバータ州とサスカチワン州との境界に位置するコールドレイクの4堆積盆にほぼ限られている。一方、ロシアではメレケス沈降域、ウラル〜ボルガ盆地のタタール背斜地域およびレナ〜アナバル舟状盆地の3つの盆地で多量の埋蔵が確認されている。

 ヘビーオイルの分布も天然ビチューメンと同様に一部の国に偏在し、ベネズエラとCIS(大部分ロシア)を合わせると世界全体のほぼ83%となる。しかし、埋蔵されている国の数は天然ビチューメンに比較して多く、数10カ国に分布する。

世界の天然ビチューメン確認埋蔵量(億bbl)
国名 確認埋蔵量 占有率(%)

カナダ

3,080

70.6

ロシア

1,170

26.8

アメリカ

70

1.6

中国

20

0.5

アンゴラ

10

0.25

ナイジェリア

10

0.25

世界全体

4,360

100

(Masters et al., 1987)

   世界のヘビーオイル確認埋蔵量(億bbl)
国名 確認埋蔵量 占有率(%)

ベネズエラ

2,850

59.9

旧ソ連

1,090

22.9

イラク

230

4.8

アメリカ

180

3.8

中国

70

1.5

イギリス

50

1.1

メキシコ

40

0.8

その他

250

5.2

世界全体

4,760

100

(Masters et al., 1987)

 天然ビチューメンとヘビーオイルの確認埋蔵量を加算すると約9,500億バーレルとなり、通常石油のそれが約1兆バーレルであるので、これらはほぼ通常石油の埋蔵量に匹敵する膨大な資源量である。