日本経済新聞 2003/5/7   → 月内にも事業化宣言 

サハリン原油・ガス事業、日欧3社、1兆2000億円投資 LNG生産2007年にも

 英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルと三井物産、三菱商事がロシアのサハリンで進めてきた原油・天然ガス開発事業が本格始動する。3社は5年程度で総額1兆2千億円を投じることで合意。2007年にも液化天然ガス(LNG)の生産を始め、将来は東アジアのLNG需要の約1割を賄う見通し。日本の主要電力・ガス会社は購買契約を結ぶ意向で、事業化調査から10年を経て、巨大プロジェクトが具体化する。
 三井物産と三菱商事などが手掛けるのは「サハリン2」と呼ばれる事業。両社とシェルが合弁で設立したサハリンエナジーが推進主体で、サハリン島東方の海上にある2鉱区で原油と天然ガスを生産する計画。2鉱区合計の推定可採埋蔵量は原油・天然揮発油が11億バレル、天然ガスが3億6千万トン(LNG換算)。
 サハリン2は1992年に事業化調査が始まり、99年7月から原油生産の部分操業を開始。天然ガスの売却先が決まった段階で全体計画に本格着手する予定だった。
 国内最大のLNG需要家である東京電力は近く契約を結ぶ方針を固めた。ピーク時に年間150万トンを調達する内容で、東電の意向次第で同50万トンを上積みできる権利も取得する。東京ガスもLNGを調達する意向を表明しており、早ければ2007年から年間最大110万トンを購入する予定。今月12日にも正式契約する。
 さらに東北電力、九州電力がそれぞれピーク時に50万トン、東邦ガスが同30万トンを調達する方針。これにより年間390万トン以上の需要が見込める。サハリン2は日本に近いため原油・ガスの輸送コストが安く、価格競争力があるとみられている。日本の電力・ガス各社は低コストで安定的に燃料・原料を調達でき、中東、東南アジアに集中していた調達先を多様化できる利点もある。

 

サハリン資源開発始動 巨大さ・近さ魅力

 日本のエネルギー関係者にとって念願だったサハリンプロジェクトが動き出す。一時は国内エネルギー需要の伸び悩みから暗雲が漂ったが、中東情勢の不安定さなど外部要因も追い風に事業化投資が固まった。
 サハリンでの資源開発の魅力は、巨大な事業規模によるコストメリツトと日本からの距離の近さにある。
 開発するサハリン島北部沖のルンスコエ鉱区は、東京都の1.5倍の広さに厚さ400メートルの豊富なガス層が横たわる。日本側筆頭株主の三井物産は西豪州など世界7カ所で石油や天然ガスの権益を持つが、サハリンは単独で同7カ所合計の1.5倍というばく大な可採埋蔵量を持つ。
 国内のガス・電力会社はLNG(液化天然ガス)の大半を東南アジアや中東、豪州から調達しているが、輸送距離は最短の東南アジアでも約4600キロメートル。日本−サハリン間は1800キロメートルと短く、輸送日数を大幅に短縮できるため株主商社は「サハリンLNGの競争力は高い」と見ている。
 サハリンでは70年代にエネルギー開発構想が持ち上がった。石油公団を主軸にサハリン石油ガス開発と米エクソンモービルなどが推進するサハリン1(75年に基本契約)は注目を浴びた。しかし初期投資が大きく採算面でも疑問視され実現のメドは立っていない。
 90年代に入りサハリン2の計画が打ち出されたが、こちらもエネルギー需要の停滞から電力会社などがLNGの買い増しを拒否し、こう着状態に陥っていた。
 風向きが変わったのは、イラク情勢の緊迫などで「エネルギー供給源の多様化」が叫ばれ出した昨秋ごろ。今年2月には株主の3社首脳が「事業化促進」で合意した。
 日本以外のアジア地域で需要が伸びていることも追い風だ。台湾の電力会社、台湾電力は台湾北部にLNGの受け入れ基地新設を計画。株主商社は韓国ガス公社とも接触を始め「数百万トンを日本以外で販売したい」と期待する。日本のエネルギー開発史上で最大級のプロジェクトが、需要家サイドの環境変化を契機にいよいよ具体化する。


日本経済新聞 2003/5/13

サハリン資源開発 月内にも事業化宣言 三井物産3000億円投融資

 英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルと三井物産、三菱商事の3社は、ロシア・サハリンでの天然ガス開発プロジェクトについて月内にも「事業化宣言」を出す。各社は総額1兆2千億円とされる開発費分担についても詰めに入った。10年越しの計画が具体化することで、電力、ガスなど国内エネルギー産業は日本から比較的近い場所での資源調達の選択肢を持てるようになる。
 事業化宣言を出すのは「サハリン2」と呼ばれるプロジェクト。3社が出資するサハリン・エナジー・インベストメント社(本社ユジノサハリンスク)が実際の事業推進者となる。宣言は長期販売契約にメドがたったほか、ロシア政府との認可事項についても交渉が最終段階に入ったためで、宣言と同時に3社の首脳がロシア政府と事業開始に向けた最終的な契約に調印する方向で検討している。
 3社は資金分担など具体的な投資計画の策定にも着手。日本側筆頭株主の三井物産は総額1兆2千億円の25%に相当する約3千億円、三菱商事は20%の2500億円前後をそれぞれ投融資する方針で、シェルが残りを負担する見通し。
 日本側2社はすでに国内金融機関に融資を要請するなど資金調達に動き始めている。三井物産の揚合、石油関連プロジェクトの多いインドネシアや鉄鉱石中心のブラジルに大型投資してきたが、両国向けとも投融資残高は千億円に満たない。サハリン計画の始動で、同社にとってロシアが突出した投資先に浮上する。
 外資企業がロシアで10億ドル以上の巨額を投じてエネルギー開発するのはサハリン2が初の案件。天然ガスをサハリン島北東沖で採掘、同島内をパイプラインで南部の港まで輸送する計画だが、ロシアではパイプラインの敷設・保有は国営企業にしか認めていないなど未整理の問題が残っている。
 3社はこうした問題についてロシア政府と最終的に詰めた上で事業化宣言に踏み切る。宣言と同時にサハリン・エナジー社はプラント会社に液化天然ガス(LNG)化のための設備などの工事発注を始める方針だ。全世界のLNG需要は年間約1億トンで、このうち日本の需要は年5400万トン。現在の調達先はインドネシアやマレーシアなどの東南アジアとカタールやアラブ首長国連邦(UAE)などの中東で約8割を占める。サハリン2は日本により近い場所にあり、調達先の多様化でエネルギーの安全保障にもつながる。

▼サハリン2プロジェクト
 英蘭ロイヤル・ダッチ・シェル、三井物産、三菱商事が合弁で設立したサハリン・エナジー・インベストメント社が推進主体となり、サハリン島北東方海上の2鉱区で原油と天然ガスを生産する計画。合計推定可採埋蔵量は天然ガスが液化天然ガス(LNG)換算で日本の国内需要の7年分に相当する3億6千万トン、原油・天然揮発油が11億バレル。1999年7月から原油の一部生産を開始、天然ガスの生産開始は2007年の見通し。
 サハリンには石油公団、伊藤忠商事、丸紅、米エクソンモービルなどが参画する「サハリン1」事業もある。産出した天然ガスをパイプラインを通じて日本に運び込む計画で、天然ガスを液化するサハリン2事業とは輸送方法が異なる。可採埋蔵量は2億6千万トン(LNG換算)。



LNG 東ガス、購入発表 年110万トン、調達先多様化

 東京ガスは12日、英蘭ロイヤル・ダツチ・シェル、三井物産、三菱商事が計画しているサハリン2から都市ガスの原料となるLNGを購入すると正式発表した。2007年4月から年間最大約110万トンを調達する。同事業で大口需要家が決まるのは初めて。
 東ガスは現在、アラスカ、マレーシア、ブルネイ、インドネシア、カタール、豪州の6地域から年間約750万トンのLNGを購入している。このうち最も近い調達先であるマレーシアやブルネイなどの東南アジアと日本の距離は約4600キロメートルある。これに対し日本ーサハリン間は約1800キロメートル。往復の日数を日本−東南アジア間の約2週間から10日に短縮することが可能で、LNG調達コストの20−25%を占める輸送費を削減できる。東ガスは自社保有船でLNGを受け取りに行く「FOB契約」を結ぶことでコスト削減幅をさらに広げ、「他の供給地に比べ、現時点では最も価格競争力がある契約内容にした」(救仁郷豊・原料部LNG室長)。
 輸送距離が短いという点は他の電力会社やガス会社にとってもメリットになる。中東と東南アジアに大半を依存していたLNGの調達を多様化できることもあり、今後他の需要家もサハリン2と購入契約を結ぶ方針。
 東京電力も近く契約を結ぶ。ピーク時に年間150万トン程度を調達する内容で、東電の意向で同50万トンを上積みできる権利も取得する。さらに東北電力、九州電力がそれぞれピーク時に50万トン、東邦ガスが同30万トンを調達する方針だ。


日本経済新聞 2004/11/28

天然ガス「サハリン2」 ロシア国営企業参加
 1000億円超負担 日本へ安定供給

 三井物産、三菱商事などが出資するロシア・サハリン沖の天然ガス・石油開発計画「サハリン2」に、ロシア国営で世界最大のガス会社、ガスプロムが出資する見通しになった。出資比率は最大25%で、ガスプロムの将来的な資金負担は1千億円を超えるもよう。ガスプロムの参画で、開発の許認可権を握るロシア政府との交渉力と事業基盤が強まる。日本への天然ガス供給が確実になり、日本のエネルギー調達の多様化に結び付く。
 サハリン2の総事業費は約1兆3千億円で、英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルが55%、三井物産が25%、三菱商事が20%を出資するサハリンエナジー社(ユジノサハリンスク)が開発主体。原油は1999年から生産を開始、2007年から液化天然ガス(LNG)の出荷を始める予定だ。
 ガスプロムはサハリンエナジーへの出資を株主3社に申し入れており、3社も「基本的に受け入れる」(株主会社首脳)方針。ガスプロムはサハリンエナジー株を、シベリアに持つ自社油田の権益と交換する形で取得する意向。同油田の評価額などにより最終的な出資比率が決まるが、25%出資した場合、今後の設備投資などに対するガスプロムの資金負担は1千億円を超える見込み。
 サハリン2はロシアのエネルギー開発案件では珍しく、ロシア企業が参加していない。ロシア政府はガスプロムをサハリン2に出資させ事業への発言力を強める意向とみられる。
 株主3社にとってもガスプロムの参画の利点は大きい。寒冷地対策などで開発費用がかさみ、投資額は当初予定の約9800億円かつ約1兆3千億円に膨らむ見通し。資金力のあるガスプロムの参画で3社の負担は減る。今後の設備拡張に伴う許認可取得や資金調達でも追い風になる。
 サハリンでは、米エクソンモービルや伊藤忠商事などが出資する「サハリン1」も05年以降、原油や天然ガスを生産する計画だ。ただ、
サハリン1はパイプラインで天然ガスを日本に運ぶ方式。電力会社など大口需要家は既存のLNG設備を活用できるサハリン2からの天然ガス購入を相次ぎ決めたが、既存設備が使えないサハリン1からの購入には消極的。このためエクソンモービルは天然ガスを全量、中国に販売する検討を進めている。

▼ガスプロム
 世界最大のガス会社で、ロシア全体の8割強の天然ガス埋蔵量を持つ。旧ソ連時代の石油ガス工業省が前身で、1989年に同省から分離し発足、92年に株式会杜となった。現在のミレル社長はプーチン大統領の元部下。生産するガスの60%強をロシア国内、25%前後を欧州、残りを旧ソ連諸国に販売している。


開発計画の概要

  サハリン1 サハリン2
開発主体 ・エクソンモービル30%
・日本30%(伊藤忠商事、
 石油公団など)
・ロシア20%
・インド20%
・ロイヤル・ダッチ・シェル55%
・三井物産25%
・三菱商事20%
埋蔵量 ・原油23億バレル
・天然ガス3億5700万トン
 (LNG換算)
・原油11億バレル
・天然ガス3億6000万トン(同)
生産開始時期 ・原油2005年
・天然ガス2008年
・原油1999年
・天然ガス2007年

 

サハリン2 ロシア、発言力強める 
 ガスプロム計画参加へ 「1」と統合に現実味

 ガスプロムの「サハリン2」への出資の背景には、主要な石油・天然ガス開発に影響力を保持したいロシア政府の強い意向がある。ロシア側は、米エクソンモービルが主導し伊藤忠商事などが出資する「サハリン1」にも参加しており、ロシア政府主導の両計画の事業統合も現実味を帯びてきた。
 ガスプロムはロシア政府のエネルギー戦略部門というのが実態に近く、2005年中にはロシア最大級の石油会社ロスネフチを完全子会社化し、社名を「ガスプロムネフチ」に変更する予定。
 実はサハリン1にはロスネフチ系列の開発会社が約20%出資で参加している。来年以降、ガスプロムネフチとロシア政府が同プロジェクトに強い影響力を及ぼすのは確実だ。サハリン2の開発主体には現在、外資しか参加していないが、今後はロシア側が開発日程や増産時期、販売先の選定などへの発言力を外交カードとして積極的に活用するとみられる。
 国内に豊富なエネルギー資源を抱えるロシアにとり、サハリン1や2の成否が自国経済に与える影響は小さくない。ただ、パイプラインで天然ガスを日本に運ぶサハリン1については、東京電力など日本の大口需要家が購入に後ろ向きで迷走している。
 サハリン1を主導するエクソンモービルは日本の代わりに、天然ガスを全量、中国に販売する方向で検討に入ったが、パイプラインにこだわり過ぎると計画が遅れる懸念もある。
 ガスプロムは東南アジアや北米への天然ガスの販路を確保するため、サハリン島での液化天然ガス(LNG)施設の建設に前向きだ。エクソンモービルと中国側との交渉が不調に終わった場合、ガスプロムはサハリン1の推進を狙い、2とのLNG設備の共同利用や事業統合に動く可能性もある。


日本経済新聞 2005/7/14

サハリン2 韓国公社と長期契約 LNG、販売先確保にメド

 三井物産と三菱商事が英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルとロシア・サハリン沖で取り組む天然ガス開発事業「サハリン2」は、今週中にも韓国ガス公社向けに液化天然ガス(LNG)の長期販売契約を締結する。販売先が確定した契約量は生産能力の8割近くに達し、オプション契約分を合わせると販売先確保にほぼメドをつけた。
 韓国ガス公社には年間150万トンのLNGを2008年から20年以上供給する。そのほか需要に応じて50万トンを供給するオプション契約も交わす見通し。
 サハリン2の生産能力は年間960万トン。すでに東京電力に150万トン、東京ガスに110万トン、シェルの北米事業向けに160万トンなど、いずれも20年以上の供給が決まっている。韓国ガス公社との契約で契約確定量は733万トンとなり、同公社や東電、東ガス、九州電力などと交わしているオプション契約を加えると契約量は900万トン前後になるもよう。
 日本企業を含む需要家との販売交渉を継続しているが、今後、中国向けなどの大口契約が成立した場合には、生産設備の増強が課題として浮上する可能性がある。


日本経済新聞 2005/7/15

サハリン2 事業費200億ドルに倍増 シェル見通し 日本企業対応急ぐ

 英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルは14日、同社が主導して開発するロシア・サハリン沖の大型液化天然ガス(LNG)プロジェクト「サハリン2」の総事業費が当初計画の2倍にあたる200億ドル(2兆2千億円)に達する見通しになったと発表した。同事業に参加する日本の三井物産や三菱商事も負担増を迫られることになる。
 サハリン2は2007年末から韓国や日本のガス会社などにLNGの出荷を始める計画だった。しかし、環境への影響を最小限に抑えるためパイプラインの経路見直しなどを実施した。シェルは工事の遅れなどで出荷時期もほぼ半年遅れ、2008年半ばにずれ込むことも明らかにした。
 サハリン2は年間960万トンのLNGを生産・出荷する大型事業として注目を集めてきた。日本や韓国などにとって需要が急増する天然ガスの調達先の多様化につながるからだ。14日に電話会見したシェルのピーター・ボザー最高財務責任者(CFO)は「プロジェクトが非常に巨大で、環境への配慮なども必要なために大幅な事業費増につながったのは残念」と語った。サハリン事業は1999年に開発が始まったが、シェルは最近、総事業費が当初の100億ドルから120億ドル以上に増える可能性を示唆していた。
 サハリン2はシェルが55%、日本の三井物産と三菱商事が合計で45%の権益を持つ。80億ドルの事業費の上昇分についてボザー氏は日本の2社も権益の比率に応じて45%を負担することを明らかにした。

 サハリン2プロジェクトの総事業費が大幅に増える見通しとなったことについて、三井物産と三菱商事は14日、「シェル、三井物産、三菱商事の株主3社が結束して事業の完成にまい進する」とのコメントを発表した。コスト上昇による事業採算の確保については「今後も検討を続けていく」と説明。生産開始時期がずれこむことで、東京電力や東京ガスなどの売買契約締結済みの顧客には代替供給先の確保などで対応するとしている。


2005/7/16 日本経済新聞

サハリン2 採算の壁 事業費2兆円超に倍増
 日本勢 4500億円負担増も ガス・石油開発

 ロシア・サハリン沖のガス・石油開発「サハリン2」の総事業費が200億ドル(2兆2千億円)と当初計画から倍増する見通しとなった。事業主体の英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルとともに推進する三井物産と三菱商事は巨額の追加負担が避けられず、日本などへの製品安定供給にも支障が出かねない。


「クジラ」避ける
 今回の事業は米エクソンモービル、石油資源開発や伊藤忠商事が進めるサハリン1と並び、日本勢が参加する大規模なサハリン資源開発。
 事業費膨張の主因はパイプラインのルート変更だ。開発地の近くに
希少種のコククジラの繁殖地があり、非政府組織が生態系に影響を与える事業に融資しないよう銀行団に要求。これを受けシェルなど3社でつくる事業会社のサハリン・エナジー社は、繁殖地を回避するルートヘの変更を余儀なくされた。
 変更に伴う工期延長に加え、世界的な資源開発ラッシュと鋼材高を受け、新たに調達する資機材コストが高騰した。商社の好業績をけん引してきた素材・エネルギー高がマイナス面に働いた格好だ。パイプライン建設を請け負う欧州企業のエンジニアリング費用が対ドルでのユーロ高によつて膨れあがったことも追い打ちをかけた。

LNG生産影響
 「引き続き事業は進める」。権益の25%、20%を持つ三井物産と三菱商事はこう強調する。だが、両社は単純計算で合計約4500億円の追加投資を迫られ、「応分の負担はやむを得ない」とみている。
 モスクワでの「日ロIT・ビジネス戦略会議」に出席した三井物産の多田博専務執行役員は15日、「両社にとり重要なプロジェクトで、早急に現地で実態を精査し対応を検討する」方針を明らかにした。槍田松螢社長とともに、来週前半にサハリン入りするという。
 事業の中核となるLNG(液化天然ガス)生産の開始が2008年後半以降にずれ込むことで、安定供給にも黄信号がともる。エナジー社は生産能力の8割近くについて、東京電力や東京ガスなどと長期・固定契約を締結済み。東電の勝俣恒久社長はモスクワで「将来の安定調達に支障があるのか現段階ではわからず、三井物産と三菱商事からの説明を待ちたい」と語った。世界的にLNGの需給逼迫が続くなか、物産などが百万トン規模を手当てするのは簡単ではない。

資金調達にも影
 採算の見直しも必至だ。
エナジー社は事業の利益をロシア政府と一定の比率で分ける契約を結んでおり、ロシア側が取り分を減らすことに難色を示せば、一段と苦境に立たされる。
 同社は資金を国際協力銀行や欧州復興開発銀行などからのプロジェクトファイナンスで調達する方針。「融資要請額が増える場合には改めて審査する」(国際協力銀)としており、資金計画にも影を落としそうだ。
 シェルは今月上旬、
ロシア国営ガスプロムにサハリン2の権益25%超を譲渡し、代わりにシベリアのガス田権益を受け取ることで合意した。採算悪化が鮮明になれば、資金負担の増大を嫌う日本2社がシェルに連動して保有権益の一部をロシア系企業などに売却する事態も予想される。
 ガスプロムはサハリン1でも、別のロシアの国営企業が保有する株式の取得に意欲を見せているもよう。サハリン開発は日本の有力なエネルギー調達源として期待されているが、資源の国家管理に動くロシア政府の関与が強まれば、日本企業などの調達計画にも影響しかねない。

サハリン2の概要  (%は権益比率、※今回の見直し個所)

開発主体 ロイヤル・ダッチ・シエル=55%
  (25%超をロシア・ガスプロムに譲渡へ)
・三井物産=25%
・三菱商事=20%
埋蔵量 原油=10億バレル
天然ガス=4080億立方メートル
事業費 200億ドル※
(100億ドルから倍増)
生産開始 原油=1999年
天然ガス=2008年以降※
       (07年から延期)
ガス供給法 LNG化して船で運搬
契約済みのガス販売先 東京電力、東京ガス、九州電力、東邦ガス、韓国ガス公社など

シェル投資家の不信増幅
 英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルはサハリン2の事業費増加は経営や生産計画に打撃を与えないと強調している。だが、埋蔵量の下方修正など昨年から失態が相次いでおり、投資家の不信感を増幅させる結果となった。
 同社の負損増は単純計算で30億ドル程度とみられる。現在、権益比率は55%だが、ロシアのガスプロム社への権益譲渡によって約30%に下がるからだ。2004年12月通期の最終利益は過去最高の約180億ドルとなり、今年は200億ドルを突破する見通し。原油・天然ガスの高値が続く可能性が大きいとみて、「上昇分を吸収することは難しくない」と説明している。
 ただシェルは昨年1月以降、世界での確認埋蔵量を約3割も下方修正した。サハリン2は20億ドル程度の上昇を示唆してきただけで、今回も100億ドルの増加分の内訳すら公表しなかった。英国とオランダの2つの親会社の経営統合を決定するなど統治体制を見直して信頼回復を急いでいただけに、「(100億ドルの上昇は)投資家の想定をはるかに上回り、失望させられる」(英石油アナリスト)との声が上がっている。


日本経済新聞 2006/2/19

サハリンで石化生産 三井物産・三菱商事 事業化を調査

 三井物産と三菱商事はロシア・サハリン島で石油化学生産や発電など天然ガスを利用したプロジェクトの事業化調査に着手した。サハリン州政府との合意に基づく産業振興策の一環。州政府との連携を深め、英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルと取り組む液化天然ガス(LNG)生産事業「サハリン2」を円滑に進める狙い。
 候補にあがっているのはアンモニアやメタノールの生産事業。サハリン沖で産出する天然ガスを原料とする工場を建設する構想で、州政府は島南部3カ所の候補地を提示済み。日本側は昨年末に現場視察など初期調査を実施、州政府は今春にも報告をまとめるよう求めている。
 三井物産と三菱商事は昨年、サハリン州政府と同州の経済活性化を話し合う作業部会設置で合意した。アンモニア生産などの事業化調査はその具体化を探る取り組みで、現在は石炭を主力とする発電燃料を天然ガスに切り替える工事なども候補にあがっている。


Platts 2006/2/20

Mitsui sees decision on Sakhalin MeOH plant taking several years

Russia and Japan are "at least several years away" from reaching a conclusion on the construction of a methanol and ammonia plant in Sakhalin, in Russia's Far East, a source close to the Japanese trading house Mitsui said Monday.
The source said that it will likely take several months before the companies can reach a decision whether to go ahead with a feasibility study on the project or not. "We have only decided to study the possibility of starting a feasibility study," he noted.
The projects would source natural gas feedstock from the Sakhalin-2 project, under development by the Sakhalin Energy consortium. According to industry sources, the trend for methanol plants of global scale involves a yearly capacity of at least 1-mil mt.
The Sakhalin-2 project is partly owned by Japan's Mitsui (25%) and Mitsubishi (20%). The remaining 55% of the shares is held by Shell, which in principle agreed in July 2005 to give Russian state giant Gazprom up to 25% plus one share in the Sakhalin-2 project in exchange for a 50% stake in the Zapolyarnoye Neocomian field in Western Siberia. However, final discussions on the deal between Shell and Gazprom were still heard to be ongoing as of early 2006.
The Sakhalin-2 partners have already firmed up term contracts spanning 20-24 years to sell some 7.33-mil mt/yr of LNG, primarily with Japanese buyers.
The Sakhalin Energy consortium is building a 9.6-mil mt/yr LNG plant at Prigorodnoye in Aniya Bay on the southern tip of Sakhalin. However, debottlenecking could expand capacity considerably, sources said earlier.


日本経済新聞 2006/8/29

サハリン2 パイプライン建設中断

 権益拡大へ駆け引きか

 ロシア・サハリン沖の資源開発事業「サハリン2」を運営するサハリンエナジーは輸出基地に通じるパイプライン建設工事を中断した。同事業は三井物産、三菱商事などが参加、生産する天然ガスは液化天然ガス(LNG)として大半を日本に輸出することが決まっている。サハリンエナジーは「環境問題」を理由に挙げるが、権益拡大を狙うロシア側の思惑が背景にあるとの見方が大勢だ。
 サハリンエナジーの広報担当者が28日「8月中旬に停止し、再開時期は未定」と述べた。ロシアの環境監視当局が環境汚染の懸念があると指摘したことを受けた措置という。工事停止が長引けば日本企業の調達計画にも影響を与える可能性がある。ただ、同担当者は「中断したのはマカロフスキー・フレベト地区の総計約7キロで、2008年輸出開始の計画に今のところ変更はない」とも強調した。
 より多くの権益獲得を狙うロシア側の圧力は事業全体にかげを落とし始めている。同事業は英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルが55%、三井が25%、三菱が20%を出資する。だが、ロシア初となるLNG事業を外資に独占させることへの反発が表面化。昨年天然ガス独占企業ガスプロムがシェルから25%超を取得することで合意したが、条件面で折り合っていない。
 ここに来てガスプロムは三井、三菱保有の権益の一部取得も働きかけているとされ、今回の工事差し止め措置を示唆していた。ただ、交渉は難航しているもようだ。建設中のパイプラインはガス、石油合わせて総延長約1570キロで、既に1400キロ分を敷設している。完成後は東京ガスなどに供給することが決まっている。


日本経済新聞 2006/9/6

サハリン2 停止求める
ロシア当局提訴 自国の権益拡大狙う?

 ロシア天然資源監督局は5日、三井物産や三菱商事などが出資するサハリン沖の資源開発事業「サハリン2」の事実上の生産停止を求める訴訟をモスクワの地区裁判所に起こした。同事業は環境汚染の恐れがあるとの指摘を受け、パイプライン建設の一部中止を余儀なくされている。ロシア側は事業に相次ぎ圧力をかけて日本企業などを揺さぶり、同事業に関する自国の権益拡大を狙う戦術とみられる。
 天然資源監督局によると、訴訟は2003年にロシア天然資源省がサハリン2のパイプライン建設を環境面で承認した省令の取り消しを求める内容。理由については、パイプライン建設が計画通りに行われておらず、事故の可能性があるためなどとしている。同局は「これが認められるとサハリン2はいかなる活動もできなくなる」と述べた。

妥協引き出す強硬策 ロシア、投資後退は望まず

 ロシア天然資源監督局がサハリン2の事業差し止め訴訟を起こしたことで、同事業は新たな問題を抱える結果となった。ただ、このまま生産停止に追い込まれれば外国からの反発は必至。ロシア側としても、今後計画している資源開発への外国からの技術供与は不可欠なだけに、今後は双方が妥協の道を探ることになりそうだ。
 サハリン2に対し、ガス独占企業ガスプロムは資産を交換する方式で、出資比率55%の英・蘭ロイヤル・ダッチ・シェルなどからの権益獲得を目指しているが、交渉は難航。政府が事業への圧力をかけることで、ガスプロムの参入の後押しを狙ったものとみられる。
 この結果、2008年に予定していた液化天然ガス(LNG)輸出開始が遅れる可能性も出てきた。ただ、同事業はロシア政府が生産分与協定を締結し、外資が主導する代表的なプロジェクト。外国政府も成否を注目している。資源の国家管理を強化するロシアだが、一段の強硬措置で外国からの対口投資を冷やすことは避けたいところだ。


日本経済新聞 2006/9/19

サハリン2 工事承認取り消し LNG日本輸出に遅れも

 ロシア天然資源省は18日、三井物産、三菱商事などが出資するサハリン沖の資源開発事業「サハリン2」工事の承認を取り消した。環境対策が不十分との判断からで、三井物産などは計画の見直しが不可欠となった。2008年にも予定されている日本向けの液化天然ガス(LNG)輸出が遅れる可能性が出てきた。
 同省報道官は同日「独立した専門家が新しい環境対策を提出し、承認されるまでは工事は中断される」と述べた。対象はパイプラインだけでなく採掘施設、LNG基地の建設も含むことを示唆。この場合、事実上事業が停止することになる。新たな対策がいつ出るかは未定で事業停止が長期化する懸念もある。19日にも正式に発効する見通し。
 サハリン2についてはロシア天然資源監督局が5日、環境破壊の恐れを理由に天然資源省が2003年に決定した事業化承認の取り消しを求め、モスクワの裁判所に提訴。21日にも裁判が始まる予定だったが、同省が承認を取り消したため審理は中止となる。
 サハリン2はLNG輸出開始を控え工事のほぼ8割が完成している。ここに来ての承認取り消しはロシアの外資に対する圧力の一環であるとともに、同国最大の天然ガス会社ガスプロムを本格的に参加させるためとの見方が支配的だ。
権益獲得、ロシア強硬 三井物産・三菱商事 負担増を懸念

 ロシアがサハリン2に対し相次ぎ強硬策を繰り出すのは事業権益の獲得が狙いとみられる。ロシア側も問題の長期化は望んでおらず、早期の妥協を開発会社の英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルや三井物産、三菱商事に迫る考えだが、企業の間にはロシア側の出方への不安が強まっている。
 サハリン2はロシア政府と日欧の開発会社が生産分与協定(PSA)を結んだロシア初のLNG(液化天然ガス)輸出プロジェクト。英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルが55%、三井物産が25%、三菱商事が20%の割合で参加。年960万トンのLNG生産を目指す巨大事業だが、ロシア企業が参加していないため、天然ガス独占企業のガスプロムがシェル保有の55%のうち25%の権益を獲得することで昨年7月に合意していた。
 しかし合意後もロシアでは、サハリン2のPSAはソ連崩壊直後の混乱期に締結され、ロシア側に不利という批判が高まっていた。エネルギー価格上昇も手伝い、エネルギーの国家統制を強めるプーチン政権は圧力をかけ続けることで、さらに多くの権益を獲得する戦略に出たもようだ。ロシア側も対日輸出が遅れることは避けたいが、シェルなどはガスプロムの影響力拡大を警戒しており、問題解決に時間がかかる可能性もある。
 サハリン2の総事業費は環境対策などのため当初の100億ドルから200億ドル(約2兆3千億円)に拡大、三井は約5700億円、三菱は約4600億円をそれぞれ負担する見込み。問題が長期化して工期が長引けば事業費がさらに増え、両社の負担額が一段と膨らむ懸念がある。
 三菱商事は「現段階では十分な情報がなく、工事差し止めが部分的なものか全体に及ぶのかはっきりしない」とコメント。三井物産は「現在情報を確認中。影響についてはコメントできない」としている。
 日本はエネルギー安全保障の一環として、原油やLNGの調達先を多様化。東南アジアや中東以外のLNG調達先としてサハリン2にかける期待は大きかった。ロシアが強硬策を打ち出したことで、日本のエネルギi政策が修正を迫られる可能性もある。

サハリン2
 サハリン島北東部沖で産出する原油と天然ガスを日本や韓国などに輸出する事業。原油は1999年に生産を始めた。天然ガスは工事中のパイプラインなどで南部まで輸送、LNG(液化天然ガス)に加工して08年にも輸出を開始。東京電力や東京ガスなど日本のエネルギー会社が購入する予定。


日本経済新聞 2006/9/20

サハリン2工事承認取リ消し 見直し求め交渉へ
 サハリンエナジー 不調なら裁判も

 ロシア・サハリン沖の天然ガス開発事業「サハリン2」の事業主体であるサハリンエナジーは19日、ロシア天然資源省による工事の承認取り消し決定に対し、見直しを求めて同省と交渉に入る考えを明らかにした。日本でも事業に参加する三井物産や三菱商事が工事中断による一段のコスト増を警戒、サハリンからの液化天然ガス(LNG)輸入を計画する電力・ガス会社にも困惑が広がっている。
 サハリンエナジーの関係者は工事承認の取り消しについて「正式に発効するまで工事は続ける」としたうえで、同省と取り消し決定の見直しを求めて交渉することを明らかにした。さらに「指摘されているような環境破壊につながる違反はないと自信を持っている」と強調、見直し交渉が不調な場合は、裁判に訴えることを検討していることを示唆した。天然資源省報道官は同日、「取り消し決定は今週内に正式に発効する」と述べた。
 サハリン2には三井物産25%、三菱商事20%の権益比率で参加する。昨年、総事業費が1兆円から2兆円に倍増し、負担額は三井が約5千億円、三菱が約4千億円に膨らんだ。工事中断が長引けば一段のコスト増大は不可避となる。
 サハリン2で生産するLNGは日本の電力、ガス会社が半分以上を引き取る。東京電力は「輸出開始が遅れても他の供給地や石油、石炭などで十分埋め合わせは可能」としているが、出荷遅れで一時的に代替調達先の奪い合いになる可能性も指摘。「供給計画に影響しないことを望む」(東北電力)との声が相次いだ。
 一方、日本造船工業会の西岡喬会長(三菱重工業会長)は19日の定例会見で、「サハリン2という事業がなくなるわけではない。需給から見れば何らかの形で再開されるはず」として、国内の造船業界への影響は心配していないことを示した。


Q&A ロシアの狙いは  権益さらに拡大・外資のノウハウ獲得

 ロシア天然資源省による「サハリン2」事業の事実上の差し止め決定では環境対策の不備を理由にしている。しかしロシア側の権益を拡大するための「圧力」との見方が広がっている。

Q サハリンプロジェクトとは。
A サハリン島東北部沖の天然ガス・油田開発事業。英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルと三井物産、三菱商事が手掛けるサハ
リン2計画と、米エクソンモービルと石油資源開発、伊藤忠商事などによるサハリン1計画がある。ロシア政府が生産計画や利益配分などで合意し、同国議会も批准した生産分与協定(PSA)に基づいている。
 サハリン2は1999年に原油生産を開始、天然ガスは液化天然ガス(LNG)に加工して2008年から輸出する計画だった。サハリン1は昨年から原油生産を始め、天然ガスは10年をめどにパイプライン経由での輸出を目指している。

Q ロシア政府が圧力をかけるのはなぜか。
A サハリン2はロシア企業が参加していない唯一のエネルギー事業。昨年、シェルが保有する55%の権益のうち25%超をロシアのガス独占会社ガスプロムに渡すことで合意したが、ロシア側の権益をさらに増やす狙いとみられる。政府は事業費用の膨張や生産計画の遅れをやり玉に挙げ、外資主導の事業に不満を強めている。プーチン政権は大手石油会社ユーコスを解体に追い込み国営企業に買収させるなど資源の国家管理を強化している。外資が過半数を占める企業の資源開発への参加排除も打ち出したが、PSA事業は対象外。圧力を加えて外資に枠組全体の見直しを迫り、最終的に権益の51%を押さえ、国家の管理下に置く狙いも指摘されている。

Q ロシアが特にサハリン2に意欲的なのはなぜか。
A ロシアで初めてのLNG基地を建設中だからだ。ロシアはこれまでガス輸出をパイプラインに依存してきたが、日本や北米市場で影響力を強めるため、LNGをカギと位置づけている。サハリン2は東京電力など日本需要家とすでに契約を結んでおり、政権は事業を管理下に置いて外資のノウハウを獲得するつもりだ。

Q 外資側の反応は。
A シェルは政権と良好な関係を維持するためガスプロムとの権益交換に応じることにした。しかし、ガスプロムは権益のさらなる拡大と同時に、負担については軽減を要求しているもよう。日本側には、権益の一部譲渡はやむを得ないとの空気もあるが、シェルは妥協すると事業の主導権を失いかねないと抵抗している。

Q サハリン1など他の事業への影響は。
A ロシア政府はサハリン1でも環境調査を始めると発表し、圧力を加えている。仏トタルがPSAを結んで開発するロシア北部のハリャガ油田開発でも権益の一部譲渡を要求している。当面の標的はサハリン2だが、外資にはPSA全体の枠組み変更に応じさせるため、様々な圧力をかけてきそうだ。


サハリン2に関与する主な日本企業

  企業名 事業への関与 承認取り消しの影響
事業主体 三井物産 事業権益の25%を保有 サハリンエナジー通じ天然資源省と交渉へ。事業費増大と出荷遅れを警戒
三菱商事 事業権益の20%を保有
LNG購入
企業
東京ガス 08年から年110万トン サハリンエナジーを通じて事実確認を進めている。影響については現時点では答えられない
東京電力 08年から150万トン 供給開始が遅れても埋め合わせは可能だが、市場に影響を与える可能性があり、早期の正常化を希望
九州電力 09年から50万トン 詳細を確認中。影響を含めて見極めていく
東北電力 10年から42万トン サハリンエナジーから報告を受けているところ。供給への影響がないことを望む
資機材、
建設受注企業
千代田化工建設 LNG生産設備を受注 受注残が500億円。下期200億円の売り上げ見込む。工事中断なら今期10億円の営業利益下振れも
三井造船 LNG輸送船を受注 、08年前半納入 海運会社との契約で、経営に影響は受けない
LNG輸送 日本郵船 ロシア海運会社とLNG船を建造、用船 情報を収集中。今後の推移を見守りたい。輸送開始遅れで用船料負担めぐり問題も
商船三井・川崎汽船

日本経済新聞 2006/9/21

サハリン2 対立鮮明
 ロシア側 「生態系の破壊懸念」
 事業主体 「環境以外に理由も」

 ロシア・サハリン沖の資源開発事業「サハリン2」を巡りロシア側と、三井物産などが出資する事業主体のサハリンエナジーとの対立が鮮明になっている。環境破壊を理由に工事承認取り消しを主導したロシア天然資源監督局のミトボリ副長官とサハリンエナジーのイグナチエフ副社長に聞いた。

天然資源監督局ミトボリ副長官

 「問題は大きく4つある。まずは石油・ガスを採掘するプラットホーム。周辺には絶滅が懸念されているコククジラが生息しており繁殖に悪影響がある。2つ目がパイプラインのルートだが、サハリンエナジー側がすでに改善措置を取った。3つ目はパイプラインが通過する50程度の河川の多くに安全、環境対策が講じられていないことだ」
 「最後は南部アニワ湾にある液化天然ガス(LNG)基地を含む積み出し施設だ。施設建設に当たり掘り起こされた土は湾の70キロ以上沖に廃棄しなければならなかったのに近くに廃棄したため生態系の破壊があった。このほか、不法な森林伐採により1100万ルーブル(約4800万円)の損失があったが、50万ルーブル以上の損失を与えた場合には刑事告発の対象となる」
 「工事を再開するためにサハリンエナジーは独立した環境専門家に新たな環境整備計画の策定を委託し、これを我々が認めることが必要となる。我々は急に環境問題を持ち出したわけではない。様々な調査を続け結論が出たのが18日だった。政治的な意図はない」

サハリンエナジー イグナチェフ副社長

 「工事に環境破壊の恐れがある違反がないかといえば、それはある。ただ、部分的に工事を止めることは理解できるが、全面的に工事を差し止めるほどの深刻なものはない。工事に際して天然資源監督局とはこれまで協力してきたが、ここに来て態度が変化したのは環境問題だけが理由ではないのではないか」
 「正式に取り消しの決定を受けていないので工事は続いている。ただし、正式決定があれば工事は全面的に止めなければならない。2008年の液化天然ガス(LNG)輸出開始に向けスケジュールは詰まっており1日工事が止まればその分輸出が遅れる。新たな環境整備計画が必要になるなら工事再開まで1年以上はかかる。その間の全体のコストは2倍近くになる可能性もある」
 「そうならないように天然資源監督局や天然資源省などと交渉しようとしている。会談を求めているが現在は無視されている。まずはロシア側に工事承認の差し止め見直しを求める。仮に工事が止まった際には早期再開の許可を得るための策も検討している」


日本経済新聞 2006/10/5

「サハリン2」経費倍増なら生産協定破棄も ロシア側 新たな圧力

 三井物産、三菱商事などが出資するロシア・サハリン沖の資源開発事業「サハリン2」にロシアが新たな圧力を加え始めた。大統領府のドボルコビッチ調査局長は4日、開発主体であるサハリンエナジーとロシア政府が締結した外資優遇の生産分与協定(PSA)を見直す意向を表明した。環境問題で工事停止の危機にさらされているサハリン2だが、相次ぐ圧力で大幅な事業計画の変更を迫られる可能性が高まってきた。
 サハリンエナジーは昨年9月にサハリン2の事業費が従来の2倍の200億ドル(2兆4千億円)となる予算案を提出、ロシア側の承認を求めていた。これについて同局長は@PSAを維持し従来経費で実施A経費倍増ならPSAを破棄し、優遇措置のない通常事業として実施B権益を売却ーーという3つの選択肢に言及。現状の枠組みのままでは経費増を承認しない意向を明らかにした。
 ロシア側はPSAに基づき事業利益の一部を受け取る。サハリン2など三案件が認められているが、PSAの中でも特にサハリン2の条件がロシアに不利との不満があった。経費増大で利益が減少すれば、ロシア側の取り分もさらに減るため、一層反発が強まった。
 議会強硬派などから見直しを求める声が出ていたが、プーチン政権による公式発言は初めて。環境問題で工事差し止めを迫っているのも最終的にはPSA破棄が目的との見方があったが、これを裏付けることとなった。

▼生産分与協定(PSA)
 ロシア単独では開発困難な地下資源の探査・開発の道を外国投資家に開くのが目的。案件ごとにロシア政府が外国企業と生産計画や利益配分で合意する。現在、石油・ガス関連ではサハリン1、サハリン2など三案件が承認されている。同協定は1995年に発効。2003年に国内企業を優先する内容に改正され、その後新たに承認された案件はない。


日本経済新聞 2006/12/12

サハリン2株、過半要求 ガスプロム シェル・日本側に

 ロシア国営の天然ガス独占企業ガスプロムが、サハリン沖の資源開発事業「サハリン2」について、最大株主である英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルに事業の主導権を譲るよう求めてきたことが11日明らかになった。株式の過半数取得を目指しているとみられ、三井物産、三菱商事にも保有株式を10%以上譲渡するよう求めているもようだ。
 関係者によると、シェルのファンデルフェール社長が8日にモスクワでガスプロムのミレル社長と会談して提案を受けた。タス通信によると会談にはフリステンコ産業エネルギー相も同席した。
 サハリン2の事業主体サハリンエナジー社にはシェルが55%、三井物産が25%、三菱商事が20%出資している。これまでシェルとガスブロムは、シェルが保有する株式の25%を、ガスプロムが持つシベリアの開発権益と交換することで基本合意していた。
 ガスプロムの新たな要求に対し、シェルは回答を留保しているもよう。受け入れればガスプロムの影響力が強まるが、シェルは2008年の液化天然ガス(LNG)輸出開始を計画通り実施するには早期の問題解決が不可欠とみて応じる可能性もある。その場合は日本側2社もシェルに準じる形で株式譲渡が避けられないとみられる。

外資側収益悪化も

 ロシア国営の天然ガス独占企業ガスプロムがサハリン2事業で50%を超える株式(権益)を求めた背景には、政府系企業を軸に資源開発を展開したいとのプーチン政権の思惑がある。同時に、ガスプロムはロシア初となる液化天然ガス(LNG)事業に参画し、今後ロシアで相次ぐLNG計画で主導権を握る考えだ。
 ロシアでは一定以上の規模を、持つガス・石油開発について、外資に5割以上の権益を持たせない法案を審議中。例外がサハリン2など外資優遇策としてロシア政府が承認した生産分与協定(PSA)だった。ガスプロムがサハリン2に過半数の権益を要求したことはロシア側で例外を認めない強硬派が影響力を強めていることが背景にある。
 仮にガスプロムが過半数の権益を取得した場合でも、サハリン2が契約している日本企業向けのLNG供給契約には影響は出ない。
 ただ、外資側の収益計画は大幅な変更を余儀なくされる。権益が減る分だけ、輸出で得られるはずだった利益の取り分が減少するからだ。
 ロイヤル・ダッチ・シェルと三井物産、三菱商事はサハリン2の事業費200億ドル(約2兆3千億円)について、出資比率に応じて負担することをガスプロムに求めている。しかし同社はこれに難色を示しており、決着までには不透明な部分も残る。
 ガスプロムとシェルの交渉について日本側2社は「員体的な話は聞いていない」としている。


日本経済新聞 2007/3/19  

ガスプロム サハリン1と提携交渉 天然ガス購入 LNGで輸出

 ロシア・サハリン沖の資源開発事業「サハリン2」の経営権取得を決めた天然ガス独占企業ガスプロムは、日本連合が3割出資する「サハリン1」と提携交渉に入った。サハリン1で産出する天然ガスを購入し、サハリン2の液化天然ガス(LNG)施設を利用して輸出するほか、国内でも販売する考え。世界的なガス生産地となったサハリンに対する影響力を強める狙いとみられる。
 ガスプロムのアレクセイ・ミレル社長が日本経済新聞との書面インタビューでサハリンでの取り組みの基本方針を明らかにした。「サハリン2は新たな(LNG)設備の建設と他の隣接するガス田産のガスを調達することで事業を拡大できる」と強調。サハリン1を主導する石油メジャーの米エクソンモービルとは「交渉している」と述べた。
 サハリン1には日本政府、丸紅、伊藤忠商事などの日本連合とエクソンが3割ずつ、インド企業が2割を出資している。ロシア側は大手石油ロスネフチによる2割の出資にとどまる。ガスプロムも参加するかについては「出資よりも事業の効率化などに興味がある」と説明した。
 ロシア政府は昨年後半、サハリン2について環境汚染による工事免許取り消しなどの圧力をかけ、ガスプロムの経営権獲得を後押しした経緯がある。エクソンはサハリン1産のガスの大半をパイプラインで中国に輸出することで中国側と基本合意しているが、ミレル社長は「パイプライン建設にはロシア政府の承認が必要となる」指摘し、パイプラインでの輸出に消極的な姿勢を示した。
 ロシア政府はガスプロムの主導で近く東シベリアと極東でのガス開発計画をまとめる。ミレル社長は「ガス加工分野で日本企業の技術に興味がある」と、現地に設備や部品を製造する日ロ合弁会社の設立に意欲を見せた。

サハリン沖開発 全事業に関与へ ガスプロムが提携交渉

 ガスプロムのミレル社長の発言はサハリン沖のすべての資源開発事業で、同社が影響力を行使することを表明したものといえる。サハリン1の出資企業がガスプロムを重要なパートナーとして位置付けざるを得ないのは確実で、輸出戦略の見直しを迫られそうだ。
 ミレル社長は「ガスプロムはロシア東部のガス開発の調整役を果たすよう政府から求められている」と発言。開発が先行するサハリン1と2をまず影響下に置くが、最終的にはサハリン3,4,5などにも関与する意向とみられる。サハリン1との提携交渉については「(サハリン2に出資したのを受け)加速されることを期待している」と述べた。
 サハリン1の主要株主である米エクソンモービルは、生産するガスの大半を中国向けに輸出することを昨秋に決めた。これに対し、ミレル社長は「サハリン1は国内消費者の利益を優先することも考慮に入れなければならない」と指摘。ガスプロムがサハリン1産のガスを同2の設備を利用して液化天然ガス(LNG)として輸出するだけでなく、ロシア国内でも販売する考えも示唆した。
 仮にサハリン1が独自に中国輸出ができずにガスプロムヘの販売が主体となれば、今後ガスプロムとの価格交渉などを迫られる。
 ロシア国内向けガス価格は国際価格より割安に設定されているだけに、収益計画にも影響が出る可能性がある。

ロシア国内でも販売検討 社長会見要旨
 ガスプロムのミレル社長の書面会見の要旨は次の通り。
【サハリン】
 ガスプロムがサハリン2に参画しても、日本への輸出などすべての契約は完全に守られる。サハリンの大陸棚は巨大なガス生産地帯となっており、サハリン2はLNG生産の一大拠点として発展し得る。
 サハリン1ではエクソンモービルと協力の枠組みについて、現在交渉している。先の段階が加速されることを期待している。
 ガスプロムは政府によりロシア東部のガス開発分野の調整役を任じられている。国外の需要家と国内の消費者双方の利益を念頭に置いて、最も効率的に計画を実現することが課題だ。その意味でサハリン1では出資よりも計画の効率化を高めることや国内消費者の利益の方に興味がある。
【バレンツ海のガス田開発】
 シュトクマン・ガス田はガスプロムが100%出資で開発する。最新の技術でLNGを生産する。外資は下請けとして参加できるが、作業期限を守ることとコストが安いことが条件だ。今春に外資参加の基準が最終的に決まり、2013年に生産が開始される。
【日本との協力】
 ロシア政府はガスプロムの主導で、近く東シベリアと極東でのガス開発計画をまとめる。ガス加工分野で日本企業の技術に興味があり、設備や部品を生産する合弁会社を設立する用意がある。
【ガス生産】
 生産が(需要に)追いつかないとの懸念があることは知っているが、外国の顧客は心配無用だ。利益は出ているし、安い資金の調達も可能。契約を守るだけの資源は十分にある。ロシアは48兆立方メートルという世界最大の天然ガス埋蔵量を持つ。探査作業も積極化している。北極海、ヤマル半島、東シベリア・極東を3つの新しい開発地帯と位置付け開発する。2020年までに年5900億立方メートルの生産を計画している。


日本経済新聞 2007/10/27

サハリン2 来年操業開始 
 ロシア、計画承認 環境問題が解決

 ロシア・サハリン沖の資源開発事業「サハリン2」の環境破壊を巡って事業主体のサハリンエナジーとロシア政府が対立していた問題が26日、事実上決着した。ロシア天然資源省がサハリンエナジーに求めていた環境改善計画を承認、1年以内に完工させることで双方が合意した。一時事業停止の危機に陥り、経営権をロシア政府系企業に握られたが、今回の合意で予定通り2008年に日本向け液化天然ガス(LNG)の生産・輸出が始まる運びとなった。
 サハゾンエナジーのクレイグ最高経営責任者(CE0)らが同日、トルトネフ天然資源相や天然資源監督局のサイ長官らと会談した。クレイグCEOはパイプライン敷設などに伴う環境破壊への対策と進ちょく状況を説明。これに対し、同相は「我々の意見は一致した」と表明。「1年以内の完成を期待する」と述べた。
 サハリンエナジーには石油メジャーの英蘭ロイヤル・ダッチ・シェル、三井物産、三菱商事の3社が出資し、開発を進めてきた。しかし、資源の国家管理を強めるロシア側は昨年環境問題を理由に工事差し止め処分などを下すとともに、政府系ガスプロムの事業への参画を要求。シェルなどは事業開始を優先するため今春、ガスプロムに権益の50%プラス1株を譲渡した。
 これをきっかけに環境問題は解決の方向に向かっていたが、今回の合意で正式に操業開始に向けた障害が取り除かれた。
 サハリン2の問題が事実上解決したことで、焦点は米エクソンモービルのほか、伊藤忠商事など日本連合も3割出資するサハリン1の天然ガス輸出問題に移る。エクソンなどは中国に輸出することで中国側と基本合意したが、ガスプロムが全量を買い取ることを主張、暗礁に乗り上げている。

日本勢、関係強化探る 
 サハリン2 来年に操業 新ガス田も交渉入り

 三井物産、三菱商事などが参画するサハリン2が1年以内に操業開始する見通しになったことで「日の丸ガス田」からの液化天然ガス(LNG)調達がようやく実現する。ロシア政府系ガスプロムの経営権取得で収益計画は変更を余儀なくされたが、三井物産、三菱商事がロシアで資源ビジネスを展開するうえで今度はガスプロムとどう協力関係を構築するかがカギを握りそうだ。

 サハリン2は対ロシアビジネスの難しさを改めて浮き彫りにした。1994年にロシア政府と生産分与協定(PSA)を締結、開発を開始し、ようやく生産の間際になってのガスプロムの参画。しかも、環境問題で圧力を掛けるという手法に対抗策はなかった。三井物産と三菱商事はサハリン2の権益をそれぞれ25%、20%保有していたが、12.5%、10%に半減。「利益率の高い事業」から「通常の事業」になったとされる。
 ただ、ガスプロムはロシアのガス輸出を独占、新規ガス田開発も主導している。特に、ロシア北部のバレンツ海岸やバルト海岸にLNG基地を建設する計画があり、三井物産や三菱商事は事業参画に向け水面下で交渉に入っている。