2004/09/13 DNAチップ研究所       日経

バイオ分野でDNAチップ研究所、ノバスジーン、三井物産が業務提携
−販売体制の強化、原料調達、製薬・診断会社への流通チャンネルの活用を図るー
http://release.nikkei.co.jp/detail.cfm?relID=81052

 (株)DNAチップ研究所(松原謙一社長、横浜市。以下「DNAチップ研」と略称)は、三井物産株式会社(槍田松瑩社長、東京都千代田区。以下「三井物産」と略称)、及びオリンパス、三井情報開発、三井物産の合弁会社である株式会社ノバスジーン(牧野徹社長、東京都八王子市。以下「ノバスジーン」と略称)と、DNAチップの販売分野で業務提携を行うことで合意致しました。

 ヒトやマウスの遺伝子情報を解析する汎用DNAチップ「AceGene」を含めた当社製品をノバスジーンが販売、また、受託解析する方針を固めました。汎用チップを中心とするDNAチップ研とカスタムチップを主とするノバスジーンとの、相補関係による相乗効果を狙います。海外大手チップメーカーと激しい競争が続く中、本業務提携により販売体制の強化を図り、更には三井物産による原料調達、製薬・診断会社への流通チャンネルの活用や、将来の海外での販売展開をも目指します。

 現在、国内のDNAチップの市場規模は約50億円で、研究用市場に限定されておりますが、今後は治療薬をより安全かつ効率的に投与できるよう、医薬品と遺伝子情報の相関関係を活用した薬理ゲノム学分野での市場拡大が期待さます。今回の提携は販売に重点をおいておりますが、三社は将来の市場に向けて、同分野での積極的な製品共同開発も検討してまいります。

 尚、売上につきましては、将来的には年間1億円程度を目指しております。

補足説明
・株式会社DNAチップ研究所
 〒230−0045 横浜市鶴見区末広町一丁目1番地43
 TEL:045‐500‐5211
 http://www.dna-chip.co.jp

・株式会社ノバスジーン
 〒192‐8512 東京都八王子市久保山町二丁目3番地
 TEL:0426‐96‐4330
 http://www.novusgene.co.jp

 株式会社ノバスジーンは、オリンパス株式会社、三井情報開発株式会社、三井物産株式会社の共同出資により、遺伝情報解析技術の開発と受託解析サービスを行う研究開発型ベンチャーとして、2001年2月に設立されました。SNPタイピング、遺伝子発現プロファイルの解析サービスを主業務とし、DNAコンピュータ開発に注力しております。
 また同社は、オリンパス株式会社で蓄積された精度管理手法(GLP:Good Laboratory
Practice)に準拠して高精度のデータの提供を行うと共に、三井情報開発株式会社による匿名化システムやバイオインフォマティクス手法を導入して、厳密な情報管理を行っております。

・三井物産株式会社
 〒100‐0004 東京都千代田区大手町一丁目2番1号
 TEL:03‐3285‐1111
 
http://www.mitsui.co.jp


日本経済新聞 2004/9/12

DNAチップ 三井物産・VB2社提携
 販売や用途開発 米国勢に対抗

 三井物産とバイオベンチャーのDNAチツプ研究所、ノバスジーン(東京都八王子市、牧野徹社長)の3社は、遺伝子研究に使うDNA(デオキシリボ核酸)チップ事業で提携する。ベンチャー2社がチップ販売や用途開発で連携し、三井物産は低コストの原料調達などで両社を支援する。国内のDNAチップ市場は米国メーカー製が6割強のシェアを握っており、国内3社連合で対抗する。
 DNAチップ研が今月から、汎用性の高い低価格のDNAチップ「エースジーン」(59800円)の販売をノバスジーンに委託する。ノバスジーンは、オリンパスや三井情報開発が出資して2001年に設立したべンチャーで、がん研究などの特定?

 


日本経済新聞 2005/12/17

ES細胞 韓国大揺れ 黄教授が捏造疑惑否定 
 論文は撤回 再生医療研究停滞も

 韓国社会がクローン技術の先駆者、黄禹錫(ファン・ウソク)ソウル大学教授の研究論文捏造疑惑に大きく揺れている。世界最先端の研究成果を次々と発表してきた同教授は国民的英雄で、国を挙げて全面支援してきたからだ。教授自身は16日、捏造疑惑を否定したが、問題の研究論文は撤回すると表明。疑念は晴れず、韓国国内への影響に加え、将来の再生医療応用への期待が高いクローンES研究が停滞する可能性も出てきた。
 捏造疑惑が出ているのは今年5月、米科学誌サイエンスに掲載された研究論文。黄教授らが患者の皮膚細胞からクローン技術でヒト胚(はい)性幹細胞(ES細胞)をつくることに成功したという内容。論文では11個のES細胞をつくったとしているが、韓国の共同研究者が「9個はニセモノ」と暴露するなど疑念が広がっている。
 16日に記者会見した黄教授は「ES細胞技術もあるし、11個のES細胞も実際につくった」と表明。6個は論文発表前にカビで破壊されたが、新たに作製したという。5個は現在冷凍保存中で、解凍すれば「実際につくったことが10日以内に証明できる」と主張した。ただ研究論文については「写真に人為的誤りがあった」とし、共同執筆者の同意を求めたうえで撤回すると米誌側に通報したと語った。
 共同研究者で捏造疑惑を暴露した韓国ミズメディ病院の盧聖一(ノ・ソンイル)理事長も同日会見し、米誌論文を「操作されたニセモノ」と述べ、写真だけでなく論文全体に問題があると黄教授の主張に反論した。
 真相は今後調査委員会などで究明されるが、二人の記者会見は主要テレビが生中継するなど市民の関心は高い。教授は韓
国でノーベル賞に最も近い科学者と英雄視されてきただけに、国民には人ごとではないようだ。
 16日の韓国証券市場では"黄ショック"で株価が下落。バイオや医薬品関連株が多い店頭市場への影響は大きくコスダック総合指数は前日比25.22ポイント(3.40%)安の716.38となった。
 実際、黄教授に対する国を挙げての支援ぶりは異常なほど。大韓航空はファーストクラスの搭乗券を10年間無料提供。警護は大統領らと同じ最高レベルで24時間体制、研究チームヘの政府支援額は総額250億ウォン(約25億円)ーー。後援会には鄭東泳統一相ら著名人が名を連ねる。再生医療につなが分野を研究するだけに、韓国を最先端の技術先進国に導く救世主として期待してきた面もある。
 先に研究員による実験用卵子提供という倫理問題が発生した際には、約千人の女性が無償で卵子提供を申し出たほど。
 社会問題に詳しい西江大学(韓国)の田尚鎮助教授は「黄教授は自分でも努力すれば何でもできるという自信を国民に与えた。反動として国民のパニックが心配だと懸念する。

韓国ES細胞を巡る疑惑
疑惑 黄禹錫教授の主張と対応
「ES細胞は存在しない」(告発した共同研究者) 11個作製した。技術も有する。冷凍保存した細胞がある
米誌に掲載した論文にある11個のES細胞の「9個は偽物」 冷凍保存中の5個を解凍すれば事実と証明できる
研究論又の内容は捏造ではないか 掲載したES細胞の写真が別の細胞に入れ替わった可能性がある
実験用卵子を研究員から取得 倫理面の批判を受け、研究機関所長を辞任

胚性幹細胞(ES細胞)
 心臓や骨、神経などあらゆる臓器や組織になる能力を持つ細胞。「万能細胞」とも呼ばれ、再生医療の切り札とされる。作り方は未受精卵(卵子)からクローン技術を応用して作る方法と、不妊治療でいらなくなった受精卵をもとにつくる方法の二種類ある。論文捏造疑惑で問題となっているのは、クローン技術を応用して作ったクローンES。クローンESは患者本人の細胞からとった核を未受精卵に移植したクローン胚から作る。拒絶反応が起きない移植用の臓器や組織を作ることが可能で期待も大きい半面、胚を子宮に戻すとクローン人間ができかねず、医療応用について各国の対応は異なっている。

黄教授の研究 真偽立証には時間
 「ES細胞を効率良く作製するのは難しいという世界の見方を覆し、臨床応用に期待を持たせるものだった」。黄教授の研究論文について、ES細胞研究の第一人者である京都大学の中辻憲夫教授はこう説明した。それだけに「論文が事実でないとすれば、クローンESを臨床応用するのは難しくなった」(中辻教授)と指摘した。
 クローン胚を作るには卵子が必要で、採取には提供者の精神的・肉体的な負担が伴うほか、倫理的問題も指摘されている。貴重な卵子をできるだけ有効に使ってES細胞を作ることが再生医療を実現する課題だった。黄教授の研究成果が正しければ約20個の卵子があればES細胞を作ることができた。
 黄教授の研究の真偽を立証するには凍結保存しているとされるクローンES細胞を使って、少なくとも二つのことを検証しなければならない。
 まず細胞などを提供者のDNAとES細胞のDNAが一致していることを事件の犯人特定などに使うDNA鑑定で証明する必要がある。
 さらに、細胞を一定期間成長させて筋肉や神経のもとの細胞に分化することを確かめ、万能性を裏付けなければならない。一カ月近くかかるとの見方が強い。


2008年01月16日 asahi 

クローン動物の安全性「普通の家畜と同じ」 米FDA

 米食品医薬品局(FDA)は15日、体細胞クローン技術で作った牛、豚、ヤギやその子から作られる肉・乳製品について「食品安全性は普通の家畜と変わらない」とする報告書を発表した。出荷解禁に向けた動きだが、食肉業界は消費者の反発を懸念しており、クローン肉・乳製品の流通は当面進みそうにない。

 出荷する場合、特別な表示は必要ないとしている。羊などは十分な情報がなかったとして結論を保留した。米食肉業界は01年から、FDAが結論を出すまで出荷を自粛するとしてきており、出荷解禁の条件は整った。

 体細胞クローンは、成長した動物の体細胞の核を、核を除いた未受精卵に移植して作る動物のコピー。

 コピー元の遺伝情報をそっくり受け継ぐため、高品質の家畜の増産などにつながると期待されるが、死産などが起きやすくコストが高い。そのため、商品化はまず繁殖用家畜から始まり、実際に食卓に上がるのはクローン動物の子の肉・乳製品になるとみられている。

 日本の厚生労働省研究班は03年、体細胞クローン牛の肉と乳について、普通の牛と比べ「安全性が損なわれることは考えがたい」とする報告書を発表している。


2008/1/15 FDA

FDA Issues Documents on the Safety of Food from Animal Clones
Agency Concludes that Meat and Milk from Clones of Cattle, Swine, and Goats, and the Offspring of All Clones, are as Safe to Eat as Food from Conventionally Bred Animals

After years of detailed study and analysis, the Food and Drug Administration has concluded that meat and milk from clones of cattle, swine, and goats, and the offspring of clones from any species traditionally consumed as food, are as safe to eat as food from conventionally bred animals. There was insufficient information for the agency to reach a conclusion on the safety of food from clones of other animal species, such as sheep.

FDA today issued three documents on animal cloning outlining the agency's regulatory approach - a risk assessment; a risk management plan; and guidance for industry.

The documents were originally released in draft form in December 2006. Since that time, the risk assessment has been updated to include new scientific information. That new information reinforces the food safety conclusions of the drafts.

In 2001, U.S. producers agreed to refrain from introducing meat or milk from clones or their progeny子孫 into the food supply until FDA could further evaluate the issue. The U.S. Department of Agriculture will convene stakeholders to discuss efforts to provide a smooth and orderly market transition, as industry determines next steps with respect to the existing voluntary moratorium.

The agency is not requiring labeling or any other additional measures for food from cattle, swine, and goat clones, or their offspring because food derived from these sources is no different from food derived from conventionally bred animals. Should a producer express a desire for voluntary labeling (e.g., "this product is clone-free"), it will be considered on a case-by-case basis to ensure compliance with statutory requirements that labeling be truthful and not misleading.

Because clones would be used for breeding, they would not be expected to enter the food supply in any significant number. Instead, their sexually reproduced offspring would be used for producing meat and milk for the marketplace. At this time, the agency continues to recommend that food from clones of species other than cattle, swine and goat (e.g., sheep) not be introduced into the food supply.

An animal clone is a genetic copy of a donor animal, similar to an identical twin, but born at a different time. Cloning is not the same as genetic engineering, which involves altering, adding or deleting DNA; cloning does not change the gene sequence. Due to their cost and rarity, clones are intended to be used as elite breeding animals to introduce desirable traits into herds more rapidly than would be possible using conventional breeding.

Risk assessment

The risk assessment finds that meat and milk from clones of cattle, swine, and goats, and food from the sexually reproduced offspring of clones, are as safe to eat as food from conventionally bred animals. The science-based conclusions agree with those of the National Academy of Sciences, released in a 2002 report. The assessment was peer-reviewed by a group of independent scientific experts in cloning and animal health. They found the methods FDA used to evaluate the data were adequate and agreed with the conclusions set out in the document.

The risk assessment presents an overview of assisted reproductive technologies widely used in animal agriculture, the extensive scientific information available on the health of animal clones and their sexually reproduced offspring, and an assessment of whether food from clones or their sexually reproduced offspring could pose food consumption risks different from the risks posed by food from conventionally bred animals. These conclusions were first presented in draft documents over a year ago. Since then, the agency has updated the risk assessment with data that became available, as well as taking into account comments from the public comment period.

"After reviewing additional data and the public comments in the intervening year since the release of our draft documents on cloning, we conclude that meat and milk from cattle, swine, and goat clones are as safe as food we eat every day," said Stephen F. Sundlof, D.V.M., Ph.D., director of FDA's Center for Food Safety and Applied Nutrition. "Our additional review strengthens our conclusions on food safety."

Risk management plan

The risk management plan outlines measures that FDA has taken to address the risks that cloning poses to animals involved in the cloning process. These risks all have been observed in other assisted reproductive technologies currently used in common agricultural practices in the United States.
FDA is currently working with scientific and professional societies with expertise in animal health and reproduction to develop standards of care for animals involved in the cloning process. Although the agency is not charged with addressing ethical issues related to animal cloning for agricultural purposes, FDA plans to continue to provide scientific expertise to interested parties working on these issues.

Guidance for industry

The guidance for industry addresses the use of food and feed products derived from clones and their offspring. It is directed at clone producers, livestock breeders, and farmers and ranchers purchasing clones, and provides the agency's current thinking on use of clones and their offspring in human food or animal feed.

In the guidance, FDA does not recommend any special measures relating to the use of products from cattle, swine, or goat clones as human food or animal feed. Because insufficient information was available on clones from other species, e.g., sheep clones, to make a decision on the food consumption risks, the guidance recommends that food products from clones of other species continue to be excluded from the human food supply. The guidance states that food products from the offspring of clones from any species traditionally consumed for food are suitable to enter the food and feed supply.


毎日新聞 2008/2/4

重油を作る藻資源化の可能性
 増殖力高い「ボトリオコッカス」 Botryococcus
 温暖化や原油高対策 新資源に集まる期待

 地球温暖化対策や原油高騰の対策として、バイオマスエネルギーに注目が集まる。トウモロコシなどを原料とするバイオ燃料は「食料生産と競合する」と批判される中、「油を作り出す藻」を新たな資源として活用しようという試みが進んでいる。

 渡邉信筑波大教授(生命環境科学)らは、自動車部品メーカー大手の「デンソー」などと協力して、淡水に生息する藻「ボトリオコッカス」を使った燃料生産プラントの実用化に向けた研究を今年4月から開始する。ボトリオコッカスは太陽光が多い水面に浮くための浮力を得たり、敵から身を守ったりするために光合成から重油の一種を作り出すことが知られている。その量は、多いものだと乾燥重量の7割以上とされ、増殖力も高い。研究では、人工プールで栽培したものを集めて油成分を抽出することにしている。
 渡邉教授の試算では、耕作放棄地でボトリオコッカスを栽培すると1年間に1ヘクタール当たり118トンのバイオディーゼル燃料が生産できるという。国内に約30万ヘクタールある耕作放棄地全体では3540万トンで、原価は1リットル150円程度になる。
 エネルギーの生産効率を示す指標EPT(エネルギー・ペイバック・タイム)は、石油代替燃料の生産などに必要な総エネルギーがどの程度の期間で回収できるかを示すもので、低いほど効率がよい。この藻から作る燃料は O.19年で、住宅用太陽光発電(2.O年)、風車6基を設置したデンマークの風力発電(O.27年)と比較しても効率が高い。
「生産工程を改善したり、太陽光の強い地方で栽培したりすることで生産性を上げて価格を下げることは可能。原油高を考えると実用化も夢ではなくなった」と渡邉教授は話す。藻の増殖には、家庭や工場の排水に含まれる窒素やリンが栄養となるため、その排水を引いて藻の増殖と水の浄化を兼ねた施設とすることを考えている。
 今年春から室内実験を始め、14年以降に実際の規模を備えたデモ用のプラントを稼働する予定。より藻の生産力が高い東南アジアでの開発プロジェクトも進めている。
 ボトリオコッカスが油成分を作り出すことは、1800年代半ばに報告されていた。これまで原油高になるとその開発が検討されてきたが、コストが見合わず現実的でないと実用化には至らなかった。
 状況が変わったのは、中国など途上国の経済発展で資源獲得競争が激化したことと、地球温暖化に対する意識の高まりから。昨年12月、石油メジャーの一つ「ロイヤル・ダッチ・シェル」がハワイで藻を使ったバイオ燃料開発計画を公表している。
 カギを握るのが、ボトリオコッカスが生み出す油の量。油を多く作る個体は増殖が遅く、増殖が速い個体は油の生産量が少ない。研究に参加するバイオベンチャー「ネオ・モルガン研究所」が、通常の生物のDNA複製過程でしばしば起こるエラー(突然変異)を人為的に起こす独自の手法で生産性の高い個体を育てる。また、塩分への耐性を高めることができれぱ、海での栽培も可能になるという。同研究所の藤田朋宏COOは「そうした個体を育てるのに5年はかかるのではないか」とみている。

タイの北部で「ボトリオコッカス」由来のオイルシェールがみつかっている。


2008/3/24 出光興産

牛のルーメン機能を改善する天然素材を北海道大学と共同で発見
〜メタンの発生を大幅に抑制し、病気の予防にも効果〜

 当社は、北海道大学大学院農学研究院家畜栄養学研究室(教授:小林 泰男)とともに、ルーメン(※1)と呼ばれる胃の機能を改善する効果を持つ天然素材を発見しました。

 今回発見した天然素材は、「カシューナッツの殻から抽出した植物油」と、「酵母菌の一種であるシュードザイマが生み出すバイオサーファクタントと呼ばれる界面活性剤」の2種類で、研究により以下2点の効果が判明しました。

  1. ルーメンから発生するメタンを約90%低減する。合わせて、低級脂肪酸中のプロピオン酸が約25%増加する。これにより、飼料をエネルギー源に換える効率が向上し、飼料の利用効率の改善が期待できる。
  2. さらに、カシューナッツの植物油は、ルーメン液の粘度を下げ、ガスの発生を抑える。そのため、牛の鼓脹症(※2)の予防効果が期待できる。

 地球温暖化の原因の一つであるメタンの排出は、15〜20%が牛のルーメンに起因しており、発生を抑制することは地球温暖化防止の観点から極めて意義が大きいと考えています。
 また、飼料効率の改善とルーメン疾患予防を目的とした抗生物質が飼料に添加されていますが、畜産物の安全・安心の観点から使用が禁止される方向にあり、2種類の天然素材がその有効な代替物質として期待されます。

 当社は2種類の天然素材を2011年度商品化に向け、さらに研究開発を進めます。

 なお、本成果を2008年3月27日に常磐大学で開催される第109回日本畜産学会にて北海道大学が発表します。

※1 ルーメン:牛や羊など、一度飲み込んだ食べ物を再び口に戻してかみ砕く反芻動物の胃の8割を占める第一胃のことで、セルロースといった繊維成分を様々な微生物により消化するための器官です。

※2 鼓脹症:牛の病気の一つで、ルーメン液の粘度増加とガス発生の増加により、ガスが排出できなくなり、呼吸困難を引き起こします。


北海道新聞 2008/3/25

牛の餌にカシューナッツの油でメタン9割抑制 北大大学院・出光チーム発見

 カシューナッツの殻から抽出した植物油などを飼料に混ぜると、地球温暖化をもたらす温室効果ガスの一つで、主に牛のげっぷとして排出されるメタンの発生量を九割減らせるという研究成果を、出光興産(東京)と北大大学院農学研究院の家畜栄養学研究室(小林泰男教授)の共同研究チームがまとめた。飼料のエネルギー効率の高まりで飼料の削減や病気予防にも効果が期待できるという。

 出光は十数年前から酪農家向けに微生物技術を応用した補助飼料の研究を各大学と進めている。牛の病気の一つで、胃の中にガスがたまり、うまく排出できない鼓脹症(こちょうしょう)と呼ばれる病気に対応するため昨年四月から北大と共同研究を始めた。

 ヤシやオリーブなど数十種の植物性油を抽出、牛の胃液に当たるルーメン液をガラス容器に入れて病原菌の増減を調べたところ、カシューナッツの殻を砕いた植物油の抑制が強かった。植物の葉に生息するシュードザイマと呼ばれる酵母菌から分泌される液体も、同様の効果があった。ルーメン液のネバネバ感が和らぐことでガスの発生が抑制され、メタンの発生量はいずれも九割削減できたという。

 さらに、牛の胃の中で微生物がブドウ糖を分解する際、プロピオン酸と呼ばれる脂肪酸が約25%増加した。飼料をエネルギー源に換える効率が高まるため、「飼料の量を減らしても同等の効果が出る」(アグリバイオ事業部)という。

 出光は、搬送しやすい粉末状にすることで、2011年度の商品化を目指す。研究成果は27日に茨城県水戸市の常磐大学で行われる日本畜産学会で北大側から発表される。

 メタンの抑制には従来、抗生物質が使われていたため、小林教授は「天然物質での削減は画期的ではないか」と話している。

環境省によると国内の牛(肉用・乳用計約440万頭)からげっぷとしてでてくるメタンの量は年32万3000トン。二酸化炭素に換算すると年678万3000トンとなり、国内の温室効果ガスの年間排出量(二酸化炭素換算)の約0.5%にあたる。


毎日新聞 2009/2/2

環境破壊を教訓に バイオ燃料の新潮流

 地球温暖化防止にも貢献する次世代燃料の原料として、生物由来の資源(バイオマス)が注目されている。世界で起きたバイオマス燃料(バイオ燃料)ブームは、原料のサトウキビやトウモロコシ価格を引き上げ、それらの栽培面積を拡大するため環境破壊を招いた。これを教訓に間伐材や稲わらをシロアリの消化酵素で分解したり、目に見えないほど小さな藻類に石油を作らせる研究が進んでいる。

◆シロアリに着目
 顕微鏡をのぞくと、無数の微生物がさかんに動き回っていた。理化学研究所分子情報生命科学特別研究ユニット(横浜市鶴見区)の守屋繁春ユニットリーダーは、シロアリの腸内にすむこの生物を研究している。シロアリが食べた木を分解する単細胞の原生生物で、これを利用して木からバイオ燃料を作るのだ。

 木などの植物は、セルロースでできた繊維質の細胞壁を持つ。セルロースをくるんでいるリグニンは分解しづらく、木から燃料を作る際には「前処理」として希硫酸を入れて加熱しなければならない。ところがシロアリは難なく消化する。
 シロアリの腸内にすむ多種多様な原生生物は、パラバサリアとオキシモナスの2種類に分類されるが、人工培養で増やすことができない。守屋さんらは、これらがDNAからたんぽく質を作る際に「型紙」として働くメッセンジャーRNAをまとめて取り出し、消化に働く未知の酵素を特定した。

◆省エネ、高効率
 理研、東京大、農業生物資源研究所、琉球大による共同プロジェクトが進む。農生研・琉球大チームは、宿主のシロアリそのものを調べ、東大のチームは麹菌に酵素を大量に生産させる技術を開発中だ。3年後までに、酵素を使って試験管の中で繊維を分解する段階にもっていくのが目標だ。
 手法を確立できれば、前処理も廃液処理も不要になる。間伐材などが使えるため、食料との競合を避けられる。獲得エネルギーを投入エネルギーで割った「エネルギー収支」でみても、サトウキビの最大 2・7倍の高い効率が期待できるという。


◆石油を作る藻類
 筑波大学(茨城県つくば市)では、石油を生み出す微細藻類「ボトリオコッカス」の培養実験が進む。ボトリオコッカスは温帯から熱帯の淡水に最大0.5ミリ程度のコロニー(群れ)を作って生息し、光合成で石油成分の炭化水素を合成する。
 渡辺信教授(構造生物科学)は、ボトリオコッカスが作る油を1ヘクタールあたり年間118トンと見積もっている。トウモロコシの0.2トン、菜種の1.2トン、油ヤシの6トンに比べ格段に多い。
 渡辺さんらは全国で集めた144株のうち生産効率が高い沖縄の株を選んだ。生産ラインに乗せると仮定すると、1リットル155円かかり高すぎるため、効率を10倍に上げる必要がある。家庭や工場から出るアルカリ性の廃水中で生産性が上がることも分かった。二酸化炭素を吸収するだけでなく、廃水を浄化し油も作ってくれるというわけだ。
 昨秋から科学技術振興機構の支援で総額3億5000万円のプロジェクトが始まった。「廃水処理を兼ねた小型プラントを火力発電所や下水処理場などに作るほか、耕作放棄地を活用すれば大量生産も可能」と渡辺さんは意気込む。