ドイツにおける太陽光発電 普及策               サステナ 2009年 第10号
  再生可能エネルギー法の効果

 竹濱朝美 立命館大学産業社会学部教授(環境教育・消費者政策)

 現在、ドイツは太陽光発電の普及で世界一の総設備容量を誇っています。この背景には、再生可能エネルギー法(Erneuerbare-Energien-Eesetz:EEG)による支援があります(以下、EEG法)。ここではEEG法による太陽光発電の促進策の特徴を紹介し、太陽光発電システムの設置費用の回収年数と発電原価を確認します。

太陽光発電促進策の特徴
ドイツでは、風力発電、太陽光発電、バイオマス発電など、再生可能エネルギーによる電力(以下、再生可能エネルギー電力)は、電力業者に買い取ってもらうことができます。これを定めたのがEEG法です。EEG法による太陽光発電促進策の特徴は、次のとおりです。

(1)EEG法は、再生可能エネルギー電力を20年間、通常の電力料金よりも高い固定価格で買い取ることを、発電業者と送電業者に義務づけています。電力事業者は、再生可能エネルギー電力を化石燃料の電力よりも優先して、買い取る義務があります。再生可能エネルギー電力に対するこのような固定価格買取補償は、フィード・イン・タリフ(Feed-in-Tariffs)と呼ばれます。EEG法は2000年に施行され、2004年に改正されました。

(2)EEG法は、太陽光発電からの電力の買取価格を大幅に引き上げました。2000年に1kWhあたり50.62ユーロセントに、2004年には、54〜57.4ユーロセント(建物に設置した場合)に引き上げました。2004年の買取価格は、当時の家庭用電力料金の3倍になりました(図1)。

図1 太陽光発電に関するEEG買取価格、太陽光発電原価、家庭用電力小売価格
 1999年までは電力供給法買取価格、2000年以降は.EEG法買取価格、2004年以降は.30kW以下の建物設置の買取価格

(3)EEG法は、再生可能エネルギー電力を固定価格で買い取るため、家庭や企業は、太陽光発電を設置する時点で、20年間の売電収入を確定できるようになりました。

(4)太陽光発電はシステム価格が高いため、従来は設置資金の回収が困難でした。EEG法は20年間の売電収入を保証するため、設置資金の回収リスクはほぼゼロになりました。企業は、太陽光発電に対する長期投資が可能になり、金融機関から低利融資を得ることも可能になりました。

(5)太陽光発電に対するEEG法の買取価格は、毎年5%で低下します(2002年〜2008年)。2009年からは、年8〜10%で低下します。電力は運転を開始した年の価格で20年間、買い取られるため、早く太陽光発電を設置するほど、多くの売電収入を得ることができます。これが、ドイツで太陽光発電を急速に普及させた要因です。

(6)2004年から、太陽光発電の種類と規模別の買取価格が導入され、買取規模の上限100kWも撤廃されました。2004年の改正以後、ドイツでは大規模な平地設置の太陽光発電プロジェクトが急速に拡大しています。

(7)現在ではイタリア、ポルトガル、スペイン、フランス、ギリシャ、オーストリアなど、欧州各国がフィード・イン・タリフ制を導入しています。スペインでは現在、10MW以上の巨大プロジェクトを中心に、驚異的な普及が進んでいます。2008年1月〜8月の期間だけで、スペインの新規設置量は1000MWに達しました。

 EEG法が2004年に買取価格を引き上げると、ドイツの新規設置容量は飛躍的に増大し、2007年には日本の5倍以上にあたる1100MWを設置しました(図2)。ドイツは総設備容量でも、日本を抜いて世界一になりました。日本は、2005年に新エネルギー財団による住宅用太陽光発電設置助成が終了して以降、新規設置容量が急速に減少しています。2007年の新規設置容量では、スペインにも抜かれてしまいました。
 ドイツの新規設置容量(2006年)の内訳を見ると、10kW以下の屋根設置が27%(戸建住宅)、10kW〜100kWの屋根設置が49%(複数世帯住宅、農場納屋、公共施設、商業施設)、100kW以上の屋根設置が13%(大型商業施設、工場)、ファサードが1%、平地設置が10%です。

設置費用等の日独比較
 太陽光発電システムを住宅屋根に設置した場合、何年で設置費用を回収できるか。2006年に運転開始したシステム1kWについて、日本とドイツの回収年数を比較します。
 ドイツの買取価格は0.518ユーロ/kWhです。日本では、電力会社が住宅用太陽光発電からの余剰電力1kWhを約23円で買い取っています。太陽光発電システム1kWの消費者価格は、ドイツが5400ユーロ、日本が約68万円です。1kWシステムの年間発電量は、ドイツが約750〜950kWh、日本で約1000kWhです。
 以上の条件から、設置費用の回収年数は、ドイツが10.9〜14年、日本が約30年となります。実際のシステム市販価格は多様なので、回収年数もこれより多様です。EPIA(欧州太陽光発電産業協会)は、ドイツの回収年数を8〜21年と推計しています。
 20年間の売電収入から設備資金を回収した余剰は家庭の利益です。2006年に運転開始の場合、ドイツ家庭は、設置費用を回収した後、1kWシステムあたり2370〜4442ユーロの利益を得ることができます。

図2 主要各国における太陽光発電システムの年間新規設置容量

 これに対し、日本では、20年の製品寿命の内に設置費用を回収することはできません。新エネルギー財団による住宅用太陽光発電設置助成が2005年に終了したため、現在、日本の家庭が利用できる助成金は、自治体助成だけです。しかし、自治体助成金を含めて計算しても、日本のほとんどの地域で、20年以内に資金を回収することは不可能です。
 1kWシステム設置費用を年利5%で借り入れ、20年の年賦償還した場合について、ドイツの太陽光発電1kWhの発電原価を検討しましょう。ドイツの年間発電量は、屋根設置と平地設置で750〜950kWh、ファサードでは、ケルンで561kWh/kWp、ミュンヘンで660kWh/kWpです。1kWシステム設置費用は、5kW屋根用4700ユーロ、30kWおよび254kW屋根用4500ユーロ、平地設置3750ユーロ、ファサード5089ユーロです。ベルリンとマインツの太陽光発電設置業者への調査に基づき、維持修理費用は、10年目まで設置費用の1%、11年〜20年目まで2%で計算しました。
 以上の条件から、ドイツ太陽光発電の発電原価は、5kW屋根用が47.1〜59.7セント、30kWおよび254kW屋根用が45.1〜57.2セントとなります。1500kWおよび4250kw平地設置が37.6〜47.6セントです。7.5kWファサードが73.4〜86.4セントです(図3)。屋根設置と平地設置で、発電量950kWhの地域では、EEGの買取価格は発電原価を回収できるため、日射量が多い地域では、資金全額を銀行から借入しても、採算が取れます。

図3 ドイツ太陽光発電の発電原価とEEG買取価格(1kWhあたり、2006年)
(図はIEA、BMU、EPlA、BSW、太陽光発電協会等の資料から作成)

 EEG法による電力買取の費用は、電気料金に上乗せされ、企業と家庭が払う電気料金で回収されます。EEG法の財源は税金ではありません。EEG法のためのドイツ家庭の負担額を確認します。
 2007年のドイツの標準世帯(電力消費が年間3500kWhの世帯)がEEG法のために負担する金額は、1カ月2.94ユーロです。これはドイツでは、サンドイッチ1個分ぐらいです。この2.94ユーロは、太陽光発電の電力買取だけでなく、風力発電、バイオマス発電、地熱発電の電力買取費用も含めたEEG法の負担額です。これは家庭の電気料金の4.9%にあたります(2007年)。家庭の電気料金には、電気税が9.9%含まれています。電気税は節電と温室効果ガス削減を奨励する税です。電気税の負担に比べると、EEG法の負担額は小さいので、家庭の負担能力の範囲内といえます。

 2004年のEEG法の改正以後、ドイツの太陽光発電の普及は急速に拡大しました。フィード・イン・タリフ制(固定価格買取補償)は、太陽光発電を急速に普及させる効果が大きいと考えます。これに対して日本では、新エネルギー財団による住宅用太陽光発電設置助成の終了後、新規設置が急速に減少しています。日本国内の太陽光発電設置に対し、フィード・イン・タリフ制の導入を含めて、直ちに、大幅な支援策が必要です。