日本経済新聞 2003/12/2

半導体ウエハー ブリヂストン参入
 高品質型、量産メド 2010年に月産1万枚目指す

 ブリヂストンは半導体ウェハー事業に参入する。通信・発電設備や自動車用の高性能半導体素材として、炭化ケイ素製ウエハーを開発した。2004年後半にもサンプル出荷し、2010年に月産能力1万枚以上、売り上げ100億円を目指す。原料から一貫して自社生産する体制を整えることで品質管理を徹底し、競合他社に対抗する。
 3日に千葉市内で始まる見本市で発表する。炭化ケイ素は現在主流のシリコンに比べて耐熱性や耐電圧性が優れ、例えばシリコンの2倍以上のセ氏500度での利用も可能だ。
 ブリヂストンは炭化ケイ素粉末を加熱し気体にしたものを、再結晶化させる手法で単結晶のウエハーを作った。製品は直径2インチ。独自の材料技術を利用することで、再結晶化の過程で微細な穴が開いてしまう欠陥を1平方センチメートル当たり10個以下に抑えることに成功。量産化にメドを付けた。
 現在は東京都小平市にある技術センターに月産能力千枚弱の試作ラインを持つが、半導体メーカーからの引き合いを見ながら生産能力を順次拡大。国内工場での本格生産も始める考え。 同社は今年から炭化ケイ素を使ったセラミックス製品の製造・販売を始めた。半導体製造装置用ヒーターの発熱体などとしての需要を見込む。セラミックス事業で培った高純度の炭化ケイ素粉末を製造する基盤技術などをいかすことで、半導体向け事業を育成。タイヤやゴム加工品に次ぐ第三の事業の柱としていく方針だ。
 炭化ケイ素ウエハーでは米クリー社(ノースカロライナ州)が先行し、国内では新日本製鉄やHOYAなどが事業化に取り組んでいる。ブリヂストンは品質の高さなどをPRする一方、直径3−4インチとより大きな製品も開発し、新市場での主導権を握る。

半導体向け新素材
 電圧制御や自動車向け半導体の新素材としては、炭化ケイ素のほか窒化ガリウムやガリウム・ヒ素などが有力視されている。炭化ケイ素は耐熱性や耐電圧性が高いほか、シリコン(ケイ素)を含むため従来のシリコンウエハーに化学特性が近い利点がある一方、硬いために加工性が低いことが欠点だった。競合する窒化ガリウムでも2インチ弱のウエハーの開発例があるが、ブリヂストンは高品質ウエハーの量産技術で実用化のメドをつけ、他の材料より一歩リードした。


耐熱・耐電圧性優れる 「パワー半導体」有力素材に

 半導体技術では従来、演算速度や記憶容量に直結するLSI(大規模集積回路)の微細化をどう進めるかが最大の焦点といわれてきた。しかし、半導体の搭載が携帯機器や自動車に広がるのに伴い、耐熱性や耐電圧性も無視できない技術分野になっている。
 炭化ケイ素ウエハーは、電圧などの制御に使う「パワー半導体」用の有力な素材になるとみられる。同半導体はエアコンなどで出力をなめらかに調整、消費電力を抑える「インバーター制御」で広く使われており、世界市場は年間3兆円前後と見られる。
 携帯電話機やパソコンでも1回の充電当たりの使用時間を伸ばすため、パワー半導体の使用が今後、さらに増えそう。耐熱性能の高さはエンジン制御を通じ、自動車の燃費向上を後押しする。半導体メーカーはデジタル家電に続く成長分野として自動車の電子化に注目し始めたところだ。
 2002年のシリコンウエハーの世界市場は7千億円程度。パワー半導体の需要拡大などにより、2010年には全ウエハーの2割程度を炭化ケイ素製品が占めるとの予測もある。


日本経済新聞 2004/12/22

信越半導体 最先端ウエハー生産倍増 
 世界シェア5割狙う 日米で2000億円投資


 半導体材料シリコンウエハーの世界最大手、信越半導体は日米で2千億円以上を投じ、直径300ミリの最先端ウエハーの生産を倍増する。2006年秋までに国内生産能力を7割増やし、米国でも07年以降に設備を新設。過去最大規模の投資により日米合計で月70万枚体制とし、300ミリで世界シェア5割を目指す。大口径ウエハーは半導体の生産コストを大幅に引き下げられることから需要が急増しており、供給力を高めてウエハー全体のシェア拡大につなげる。
 信越半導体は信越化学工業の全額出資子会社。日本企業が海外に300ミリウエハー工場を設けるのは初めて。日米二拠点の生産分散で地震災害などに備えたリスク対策も強化し、世界の需要家に最先端ウエハーを安定供給できる体制を整える。業界ップの同社の大型投資は、半導体やその主用途であるデジタル家電・パソコン景況の先行きの底堅さを示す。
 信越半導体は国内拠点の白河工場(福島県西郷村)で約1千億円を投じる増設工事に着手した。現在は月30万枚の300ミリウエハー生産能力を05年秋に40万枚、06年秋には50万枚まで引き上げる。米では07年以降、信越半導体の全額出資子会社、SEHアメリカ社(ワシントン州)に月産20万枚のラインを導入する計画だ。
 米での投資は需要動向を見極めながら最終決定する。計画通り実施すれば、日米拠点の合計生産能力は現在の2.3倍に高まる。総投資額は白河工場を含め最低でも2千億円に達するが、信越化学グループの手持ち資金で全額を賄う。

300ミリシリコンウエハー
 半導体回路を形成する面の直径が300ミリのウエハー。1枚から取れる半導体チップ数は、現在主力の200ミリ型の2.3倍と効率が高い。米インテルや韓国サムスン電子に続き、日本の半導体メーカーもコスト削減の切り札として300ミリ対応工場を相次ぎ建設中。米調査会社ガートナー・データクエストは300ミリの2005年の需要は04年見通し比で6割増になると予測している。

調整局面でも需要増 最先端ウエハー 大型投資で先行

 信越半導体が大規模投資に踏み切るのは、シリコンサイクルが調整局面に入っても直径300ミリウエハーは需要が順調に伸びると見ているからだ。米インテルや韓国サムスン電子などに比ベウエハーの大口径化で出遅れていた日本の半導体メーカーも、対応工場を相次ぎ稼働する。供給先が広がる中で信越半導体は増産投資で先行し、ライバルを突き放す。
 デジタル家電向けの需要などで昨年夏から好調が続いた半導体出荷は、最終製品の在庫増を反映して今秋以降、調整局面に入っている。国際半導体製造装置材料協会(SEMI)の予測では、ウエハー全体の伸び率は2004年の前年比22.6%増から05年は4.5%増に鈍化する。ただ、半導体各社は生産効率の高い300ミリウエハーの採用に軸足を移しており、大口径ウエハーの需要は堅調に推移。05年後半にエルピーダメモリが広島県に世界最大のDRAM(記憶保持動作が必要な随時書き込み・読み出しメモリー)工場を稼働させるなど、日本勢も300ミリ対応工場の稼働を急いでいる。
 信越半導体は現在の300ミリウエハーの世界需要を月70万枚と推定。メモリー用途などを中心に05年末に90万枚、06年末に110万枚、07年末には140万枚に達すると見ている。国内での増産投資が完了する06年秋には再び半導体出荷も上昇局面に入るとの予測もあり、米国での増産投資も準備し、世界シェア拡大を狙う。
 三菱住友シリコンも06年夏までに月産能力を40万枚に引き上げる計画。同社は「200ミリウエハーに比べ設備投資負担が大きく、投資余力のある上位メーカーの寡占化が進む」(細田直之社長)と見ている。