日本経済新聞 2003/8/8

高温超電導体 実用化競う 線材加工に成功、応用段階に
 新幹線 変圧器軽量化で振動低減
 送電線 古河電工が500メートル級開発へ

 高温超電導体の実用化が現実味を帯びてきた。新幹線車両の変圧器や工場地帯向けの電線に超電導線材を応用する試みが来年にも始まる。1987年の発見当初は夢の物質と騒がれ研究ブームとなったものの、応用は進まなかった高温超電導体。ようやく応用先が具体的に見えてきた。
 
鉄道総合研究所は1、2年後をメドに高温超電導線材を利用した車両用変圧器を試作し実際の車両を使った実験を始める。想定している車両はリニアモーターカーではない。「新幹線の方が超電導線材を使えそうだ」と秦広・駆動制御グループリーダーは語る。 
 新幹線の変圧器のコイルに高温超電導線材を使えば、JR東海の「700系のぞみ」だと車両重量を約2トン以上減らせ、走行中の地盤振動や騒音を低減できる。のぞみ(16両編成)の総重量は708トン。これまでも軽量化してきたが限界にあるため、変圧器の減量は効果がある。

 高温超電導体とは、コストが安い液体窒素で冷却するだけで電気抵抗がゼロになる金属酸化物。金属の超電導体とは違い、高価な液体ヘリウムが不要だが、酸化物に焼き固めるのが難しいなど欠点がある。
 各電線メーカーは焼き固める前のビスマス系酸化物の粉末を均一にするなど工夫。相次いで均質な線材を開発することに成功した。これにより車両用変圧器への応用に乗り出す環境が整った。
 ビスマス系は送電線への利用も期待される。
古河電気工業は500メートルの送電線開発に着手、来年から電力中央研究所と共同実験を始める。
 ビスマス系を上回る期待を集めるのがイットリウム系の高温超電導体。イットリウム系の線材では同じ断面積に流れる電流が100倍以上増えるため、電線メーカーが開発に力を注ぐ。 世界最長の100メートルの線材を開発した
フジクラは、製造速度の改善に取り組んでいる。現在は1時間当たり10メートル程度しか製造できない。量産化を可能にするために、「5年以内に速度を5−10倍に上げる」(フジクラ)予定だ。
 ただし、イットリウム系の超電導材料は米国が特許の大部分を保有している。日本の各社がイットリウム系の性能研究で勝っても、実用化の際には不利な面が出てきそうだ。

高温超電導線材に関する各社の主な取り組み
▽フジクラ   イットリウム系で長さ100bを実現(送電線向けなど)
▽昭和電線電纜       中部電力と共同で、ビスマス系で1平方ミリb当たり13キロアンペアの電流を実現(電力貯蔵装置に利用)
▽古河電気工業   ビスマス系で500bの送電線開発に着手
▽住友電気工業   ホルミウムを使った高温超電導線材の量産技術を開発(送電線向けなど)

日本経済新聞 2003/7/22

高温超電導線で量産技術 送電損失が半減 住友電工

 住友電気工業は、電気抵抗がゼロになる次世代の高温超電導線の量産技術を開発した。送電線に応用すれば、現在の銅線に比べて電力の損失を約半分に減らせる。地球温暖化防止にも役立つ。超電導線による送電網の開発計画がある米国で3年後をメドに販売する考えで、国内でも利用先を開拓する。
 開発した技術は、「ホルミウム」と呼ぶ元素の入った物質を線材に高速加工する。液体窒素で冷やすと超電導体になり、電気抵抗がゼロになる。大電流も流せるため、次世代の高温超電導材料として期待されている。
 住友電工は製造法を工夫し、時間あたり15メートルの線材を作ることに成功した。高温超電導線の量産化は同10メートル以上にする必要があるといわれており、目標を上回った。
 銅線は電気抵抗があり、送電途中で電力が減るが、超電導線は原理的に損失がない。冷却に必要なエネルギーを考慮しても、銅線に比べて送電損失が半分で済む。さらに住友電工の材料は、銅線と比べて流せる電流が約1万倍大きく、送電線に使えば大容量の電力を効率よく供給できる。
 高温超電導材料の世界市場は、送電線などを中心に2010年に10兆円規模に達するとの試算もある。


朝日新聞 2006/3/11

住友電工、「超伝導」送電線を年内にも発売

 住友電気工業は、低温で電気抵抗がゼロになる「超伝導現象」を応用した送電用ケーブルを年内にも発売する。送電線の老朽化が進む米国を有望な市場とみて、5月からニューヨーク州のオルバニー市で世界初の送電実用試験を開始。成功を確認できた段階で発売に踏み切る。契約が取れれば、送電線としては世界初の商用利用になる。

 同社が発売するケーブルは、セラミック系の物質を加圧、焼成。それをテープ状の線材にして、3本のパイプに巻きつけたものだ。取り扱いが比較的簡単な液体窒素(零下196度)で冷やして使う。線材に流せる電流量は最大で現在の銅線の約200倍。送電に伴う損失分も従来の半分程度と、省エネ製品としての需要も期待できる。

 同社の大阪製作所(大阪市)は、この超伝導の線材を年1000キロメートル生産する能力を整えたところだ。一方、発売に向けて米国子会社が市場調査や電力会社への営業活動を始めた。

 米国市場を有望とみるのは、同国の送電網の多くが60年代に設置され、03年夏にニューヨークなどで大規模停電が起きるなど、送電網の老朽化が問題になっているためだ。米政府も30年までに全米で超伝導の送電網を整備するプロジェクトを進めており、膨大な代替需要が見込まれる。

 そのプロジェクトの先進地であるオルバニー市での実用試験は二つの変電所の間350メートルを、320メートルのケーブルと30メートルのケーブルでつないで送電する。設計から敷設まで手がける同社はすでに10人の技術者を現地に派遣している。