2003/8/15 朝日新聞
 
国際協力銀、温室効果ガス5600トンの排出枠獲得へ

 政府系金融機関の国際協力銀行が、二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの排出を抑えて地球温暖化を防止する世界銀行の
「炭素基金」Prototype Carbon Fund出資した1000万ドルへの配当として、近く約5600トンの温室効果ガス削減量(排出枠)を獲得することが14日、分かった。同基金に出資した日本の機関・企業が排出枠を獲得するのは初めて。排出枠は日本政府が買い入れ、京都議定書に基づく排出削減の数値目標に充当することもできる。

 国際協力銀行は、排出枠獲得のノウハウを、温室効果ガス削減が見込める事業に携わる企業や途上国の支援に活用したい考えだ。

 国際協力銀行は00年に同基金への出資額全体の5.6%にあたる1000万ドルを出資した。97年に採択された京都議定書では、温室効果ガスについて先進国の削減目標が定められた一方、
排出権の取引や、先進国が途上国の排出削減事業への出資で実現した削減分を先進国のものとみなすクリーン開発メカニズム(CDM)などが新たに認められた。炭素基金による削減事業もこれを活用したものだ。

 国際協力銀行が排出枠を獲得することになったのは、今年6月、同基金が出資したチリの水力発電事業の温室効果ガスの排出削減量が、ドイツの審査機関によって認証されたため。年内にも正式に出資額に見合った排出枠が認定される。

 京都議定書は、基準年となる90年(日本の排出量は約12億トン)比で6%の排出削減を日本に義務づけており、政府はこれを達成するための実行計画を02年に決定した。それによると、6%のうち1.6%分については排出量取引などを想定しており、政府が国際協力銀行から排出枠を買い入れて充当することもできる。排出枠は、排出権取引市場での売却も可能で、同銀行が扱いを今後検討する。

 同基金には日本の電力会社6社と商社2社も500万〜1000万ドルを出資しており、同様に排出枠の配当がある見通しだ。

     ◇

 炭素基金 世界銀行が00年に設立。先進国の政府や企業から出資を募って、省エネルギー対策や植林といった二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガス削減が見込める事業に投資し、得られた温室効果ガス削減量(排出枠)を出資額に応じて分配する仕組み。温室効果ガスの排出権取引を促進するのが狙い。基金の総額は1億8000万ドル。日本からは国際協力銀行と、東京電力など電力6社、三井物産、三菱商事がその3分の1を出資している。


エコロジーシンフォニー2000年5月号

世界銀行、「炭素基金」の運用開始

 世界銀行は「アースデー」の4月22日、先進国の資金を使い途上国の温室効果ガス排出削減事業を進める「炭素基金」の運用を始めた。日本からは政府と8企業が出資者になり、基金総額1億3500万ドル(約142億円)のうち1/3以上を日本関係で占めている。
 炭素基金は地球温暖化を引き起こすCO2などの温室効果ガスの排出削減を効率的に推進することを目的に1月に発足。基金を使って途上国で排出削減事業を実施し、事業で削減された量の一部を出資者の削減量と見なす。
 先進国では、炭素換算で1トンのCO2を削減するのに50ドル以上もかかるが、途上国では20ドル以下ですむ。このため先進国は基金を利用することで、1997年の地球温暖化防止京都会議で決まった削減目標をより安価に達成できるという。
 22日までに6カ国、15企業がこの「炭素基金」に出資。日本関係では、日本政府が国際協力銀行を通じて1000万ドル(約10億5000万円)、東京電力などの電力6社、三井物産と三菱商事の商社2社が各500万ドルを出資した。
 世銀はこの基金を運用し、廃棄物埋め立て施設で発生するメタンを利用して発電するラトビアの事業、コスタリカのミニ水力・風力発電所建設事業などに協力する。

 


日本経済新聞 2003/9/3

国内のCO2排出権取引 100社・団体が参加
 松下・住商・経団連など 2005年度にも開始 会計ルール詰め

 松下電器産業、リコー、住友商事、日本経団連、電気事業連合会など100を超える企業・団体が、経済産業省の進める国内の二酸化炭素(CO2)排出権取引制度に参加する。先進国に温暖化ガス削減を義務付ける地球温暖化防止・京都議定書の発効が近いと判断、官民で実際の売買の仕組みや会計ルールを詰める。2005年度にも取引が可能になる見通しで、国内で1兆円ともいわれる排出権市場が動き出す。

 CO2の排出権取引は削減目標を達成できない企業などが不足分を他社から購入、逆に省エネなどで目標以上に減らした企業が余剰分を販売できる制度。産業界の声を反映した取引ルールが決まれば排出権売買に参加する企業が増え、市場原理に基づく温暖化防止の実現にも弾みがつきそうだ。
 経産省は10月から実施する排出権取引実験と並行し制度検討会を開催。これに自社内の模擬取引でノウハウを持つ松下や海外でのCO2削減事業で排出権獲得を狙う住商、豊田通商、環境経営に積極的なリコー、NEC、ソニー、旭化成、排出量が増加傾向にある新日本石油などが加わる。温暖化対策に積極的な三重県など自治体、環境省も参加する見通し。
 検討会ではCO2排出規制を設ける場合に経団連がすでに作成している産業界の自主削減計画とどう整合性をとるか、実際に排出権を購入する際に損金算入できるかどうかなどの企業会計ルールや税制上の扱いなどについても詰める。結果を経産相の諮問機関、産業構造審議会などでの審議に生かし、来年7月までに国内制度の詳細を固める。
 経団連は国内の排出権取引制度が企業や業界のCO2排出の総量規制につながり、企業の事業拡大を妨げかねないとして当初は制度導入に反対していた。しかし排出権購入で自主目標を達成したい会員企業もあることなどから検討会に加わり、産業界の意見を反映させる方針。
 CO2排出を1トン減らすのに、例えば電機メーカーでは省エネ装置の導人などで7万円強のコストがかかるとみられる。これに対し、すでに排出権取引を始めた英国では1トン千円前後で排出権を購入できる。大手メーカーでは数年間に10万トン単位の削減が求められる場合もある。
 排出権取引が可能になることで、削減が容易な業種・企業では一層の省エネ意欲が高まる見込み。
 一方、難しい企業は高いコストをかけて自ら削減するより権利を外部購入する方が少ない負担で目標を満たせるため、日本全体で効率的にCO2排出を減らせることになる。
 京都議定書では日本は地球温暖化ガスの排出量を2008−12年の間に90年比6%抑制する義務を負っている。この目標を達成するための対策を列挙した「地球温暖化対策推進大綱」ではエネルギー起源のCO2を2010年度に90年度レベルに抑え、そのうち産業部門は同7%減らす目標を設定している。


日本経済新聞 2003/9/18

日商岩井が植林ファンド ベトナムで 配当はCO2排出権

 日商岩井は投資ファンド方式による環境植林事業を来年からベトナムで始める。ファンドは50億円規模とし、電力会社、鉄鋼、電機メーカーなどから出資を募る。植林を通じて得られる二酸化炭素(CO2)排出権を出資者に配当する仕組み。排出権取得が主目的の民間の植林ファンドは国内で初めて。
 設立する「グリーンファンド」は、日商岩井のシンクタンク、日商岩井総合研究所が運用。2004年にもフェ省、ホワビン省、ビンホック省で活動を開始、順次、ベトナム全土に広げる。戦争や焼き畑農業で裸地となった山間部約7万ヘクタールに、伐採を前提とせずにアカシアを植える。7年間で千万トンのCO2を固定できる見通し。
 発展途上国で温暖化防止事業を実施して排出権を取得する「クリーン開発メカニズム(CDM)」制度を活用する。CO2排出量が増加傾向にある企業10社前後から出資を募る。出資に応じCO2固定分に見合った排出権を配当する。CO2 1トン当たり5ドル程度で売れれば、「元本割れ」はしないという。海外で省エネ事業を実施して排出権を得るよりも、植林は取得コストが安くなると見られている。環境植林を実施して排出権獲得を狙うファンドには世界銀行が昨年11月に発表した「バイオ炭素基金」があるが、民間では初めて。

▼クリーン開発メカニズム(CDM)
 先進国が発展途上国で温暖化ガス削減につながる事業を実施し、見返りに二酸化炭素(CO2)排出権を獲得する制度。先進国に温暖化ガス削減を義務付ける「京都議定蓄」で導入された、削減のための柔軟措置「京都メカニズム」の一つ。削減事業には温暖化ガス発生源からの排出を抑える方法と、大気中のCO2をバイオマス(量的生物資源)などの形で固定する方法の2種類がある。


朝日新聞 2003/1/13

豪州政府、温室効果ガスの排出権取引制度から撤退 豪紙

 オーストラリアの有力紙シドニー・モーニング・ヘラルドは12日、豪政府が京都議定書が地球温暖化防止の一手段と位置づける温室効果ガスの国際的な排出権取引制度から撤退することを決めたと報じた。ケンプ環境相の広報官の話として、京都議定書が発効するかどうか疑わしく、議定書を欠いた排出権取引は豪産業界に利益をもたらさないことなどを撤退理由にあげている。

 豪政府は京都議定書への参加を拒否しているが、温暖化防止に独自に取り組むとして、97年に温室効果ガス対策室を設置、二酸化炭素(CO2)などの排出権を国際的に企業間で取引する制度の利用も検討してきた。すでに豪の石炭会社や植林会社の一部は、日本企業などとの間で先物取引の形で売買契約を交わしている。


日本経済新聞 2004/1/15

温暖化ガス排出権取引 NEC、台帳システム受注
 経産省が試行実験 国際標準狙う

 NECはNTTデータ、三菱総合研究所と共同で、経済産業省と環境省による温暖化ガス排出権取引の台帳となる「国別登録簿システム」を受注した。企業などが国内外で獲得した排出権の口座を管理するデータベースで、月内に始まる経産省の試行実験で使う。NECは実験成果をシステムに反映させ、他の京都議定書批准国に採用を働きかけて国際標準獲得を目指す。

 国別登録簿システムは排出権取引、途上国との温暖化ガス削減事業で排出権を得る「クリーン開発メカニズム(CDM)」、先進国との削減事業で得る「共同実施(JI)」の3つの手法で獲得した排出権の保有・移転・繰り越し・償却などを企業ごとに管理する。排出権取引に使うオークション(競売)の機能も持つ。
 将来は国連の排出権取引システムと接続され、国全体の排出枠の変化をみる台帳の役割も果たす。受注額は約1億円。
 日本は京都議定書で2008−21年の温暖化ガス排出量を1990年比6%削減することを約束している。目標達成の措置として認められた排出権の国際取引は2008年から始まる予定。京都議定書は批准各国に2007年初めまでに国別登録簿システムを設置するよう求めている。
 国別登録簿システムは1国1システムで、仕様は国連の地球温暖化防止会議で決まる。運用に入るのは英仏に続いて3例目だが、先行の2国は独自仕様で開発しており、国連のガイドラインに準拠したシステムは初めてという。
 2022年以降は途上国も温暖化ガス削減の枠組みに参加、排出権取引の参加者が増える。国別登録簿システムには情報セキュリティー、稼働安定性などの技術も必要になるため、NECは運用実績をもとに途上国などでシステム受注を狙う。


日本経済新聞 2004/2/3

三井物産 CO2排出権 豪で50万トン購入 2010年から3年で

 三井物産は豪州のごみ処理会社のグローバル・リニューアブルズ社(パース)から50万トンの二酸化炭素(CO2)の排出権を購入することで合意した。期間は3年間で、商社のCO2排出権買い付けとしては過去最大規模という。
 グローバル社はシドニーで都市ごみのリサイクルを計画中。生ごみから出るメタンガスなどを再活用し、年間で35万トンのCO2に相当する温暖化ガスの削減につなげる計画だ。
 三井物産はこの中から2010−2012年の3年で計50万トンを買い取る。価格は公表していないが、国際相場である1トン当たり5ドル前後での買い付けとみられる。
 CO2の排出権取引は地球温暖化防止の京都議定書が発効すれば、世界で20兆円規模になると言われる。欧州連合(EU)などによる独自市場の構想が動き出しており、CO2排出権の取引は活発になる見通しだ。


日本経済新聞 2004/5/5

植物から軽油代替燃料 三井物産、南アで生産 年10万トン CO2排出ゼロ扱い

 三井物産は独鉄鋼大手ティッセン・クルップグループなどと組み南アフリカで、植物から軽油代替燃料を製造する事業に乗り出す。年産規模は約10万トン。この燃料は地球温暖化防止・京都議定書で、燃やしても二酸化炭素(CO2)の排出をゼロとみなされる。三井物産などは同事業を通して年20万トン分のCO2排出権を取得し、顧客企業などに販売する。
 生産するのは「バイオディーゼル」と呼ばれる軽油代替燃料。ナンヨウアブラギリという植物の実から搾った油を精製してバイオディーゼルを製造、軽油に5%ほど混入して使用する。
 三井物産はティツセン系列のプラント会社ティッセン・ラインシュタール・テヒニック(TRT)、南アのベンチャー企業と共同で2004年中に本格的な事業化調査を実施し、2005年中に事業会社を設立する計画。2006年にも生産を開始し、現地で販売する。
 投資額は30億−40億円。バイオディーゼルを使うと化石燃料の使用量を減らすことにつながるため、CO2排出権を取得できる。さらにナンヨウアブラギリの植林でも排出権が得られる可能性がある。
 バイオディーゼルはパーム油などからも製造できるが、食用用途と競合するため価格が安定しないなどの問題があった。ナンヨウアブラギリの実は食用には適さない。三井物産などは自動車燃料専用にナンヨウアブラギリを栽培する計画で、南アで事業化できればインドネシアなどアジア地域にも展開したい考え。

バイオディーゼル
 植物などバイオマス(量的生物資源)から製造した油脂を、粘性の低いメチルエステルにした燃料で、軽油を代替できる。CO2排出量が増え続ける運輸部門の温暖化防止対策として、ガソリン代替のバイオエタノールとともに注目されている。
 欧州などでは菜種や大豆油から製造され、マレーシアなどではパーム油からの生産が検討されている。日本でも廃食用油から作られ、ごみ収集車用の燃料などに一部地域で使われている。


2004/5/20 日経産業新聞               発表    国連登録

「住友商事、インドの排出権取得事業、日本政府から承認。」

 住友商事は19日、インドでの代替フロン破壊による二酸化炭素(CO2)排出権取得事業で、日本政府から京都議定書の排出権取得制度「クリーン開発メカニズム(CDM)」の利用承認を得た。来年にも事業を開始、二酸化炭素(CO2)換算で年間338万トンの排出権を見込む。
 日本政府の承認は6件目で、最大規模となる。インドでの事業承認は初。フロン増産に伴い将来は年間500万トンの排出権が得られる見通しで、イネオスケミカル(東京・品川)が韓国で始めた同種の事業の3.6倍で世界最大の規模になる。年間500万トンの排出権は1990年度の国内の産業部門のCO2排出量の約1%に相当する。
 英イネオス・フロー、インドの化学会社グジャラート・フルオロケミカルズと、グジャラート社のフロン工場で副産物として出る代替フロンを回収・破壊する。この代替フロンはCO2の1万1700倍の温室効果がある。投資額は約3億円で、排出権取得期間は10年間。


2004/5/19 住友商事

住友商事株式会社、インドで温室効果ガスの破壊による世界最大級規模のCDM事業開始
http://www.sumitomocorp.co.jp/news/20040519_133535_kagaku.shtml

 住友商事株式会社(社長:岡 素之)は、インドのフロンガスメーカーであるGFL社(Gujarat Fluorochemicals Limited)が進める温室効果ガスHFC23の破壊によるCDM事業の日本側パートナーとして、本事業に関する日本政府承認を取得した(承認内容後述)。

本事業は、年間の排出権として、二酸化炭素換算で最大500MT(トン)という現在、世界最大級のCDM案件であり、当社は、本事業の実施により獲得される排出権の日本向け窓口として対応する。
今回の日本政府承認は、総合商社としては、第1号案件であり、また、日本・インド間の案件としても第1号となる。
 
承認内容
1、申請者:住友商事株式会社
2、実施国:インド
3、プロジェクト名:インド・グジャラット州在GFL社HCFC製造プラントにおけるHFC23熱破壊による温室効果ガス削減プロジェクト
4、プロジェクト概要:HCFC22の副生産物としてのHFC23の破壊
5、クレジット獲得量:年間約338万CO2・MT
(注:HCFC22の増産予定あり、排出削減量は年間約500万CO2・MTに達する見込み)

Gujarat Fluorochemicals Limited社概要
(グジャラット・フルオロケミカルズ)

設   立 1988年
社   長 Mr.V.K.Jain  
本社所在地 6/3, 26 & 27, Ranjit Nagar,Devgadhbaria Taluka Panchmahal, Gujarat
India - 389 380
資本金 INR 115.8 milion (約2億9千万円)
事業内容 フッ酸並びにR-11,12,22等のフロンガス製造・販売
(インド最大のフロンガスメーカー)
売上高 INR 1,380.5 million(約34億5千万円)

朝日新聞 2004年09月02日

住商などの温室効果ガス削減事業、世界初の国連登録

 住友商事が英国企業とともにインドで進める温室効果ガスの排出権獲得事業が1日、「クリーン開発メカニズム(CDM)」として国連への登録手続きに入った。住商によると、この段階まで進んだのは世界で初めて、という。途上国での削減事業で排出削減された分を、「排出権」として先進国の削減目標値に組み込めるというもの。国際的に何段階もの審査を経る必要があり、国連の登録手続きはその最終段階だ。2カ月以内に正式に事業として認められる。

 地球温暖化の防止のため、国同士で排出権を取引することを認めた京都議定書が、早ければ年内にも発効するとみられている。このため、世界各地で排出権を獲得するための事業が手がけられており、今後、一層本格化しそうだ。

 事業がCDMとして認められるには、先進国、途上国両政府から承認を得た上で、第三者機関から有効性の審査を受けた後、国連の理事会に登録申請する手続きをとる。住商によると、片方の国で承認が得られていないなどの理由で、登録申請までこぎ着けた事業はこれまでなかったという。

 住商が手がけるプロジェクトは、インドのフロンガス製造工場から発生する温室効果が高いフロン類(HFC23)を破壊するもの。二酸化炭素(CO2)換算で、年間500万トンの排出権が得られ、世界最大級という。


日本経済新聞 2004/10/16

石炭火力発電所のCO2 全量を埋設・貯蔵 
  石播など新技術 豪州にプラント

 石川島播磨重工業と財団法人・石炭利用総合センターは、石炭火力発電所から大量に排出される二酸化炭素(CO2)を効率良く回収する新技術を開発した。発生するCO2の全量を回収し、液状にして地中に埋め込み、大気中への排出をゼロにする。第1号プラントを2006年からオーストラリアで建設する。先進国に温暖化ガスの削減を義務付けた京都議定書の発効を控え、CO2固定化は国内排出量の3割近くを占める電力業界などの需要が見込めると判断。内外での普及を目指す。

 新技術は「酸繋燃焼法」と呼ばれる手法を取り入れた。石炭だきボイラーの最適なシステムとして新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の補助も受けて研究開発を進めてきた。
 オーストラリアのプラントは、現地電力会社CSエナジー(クインズランド州)のカライド発電所にある発電能力3万キロワットの発電設備を改修して建設する。06年に工事を開始し、08年に稼働させる計画だ。改修費用は40億−50億円。

▼二酸化炭素(C02)の固定化
 石油や石炭などを燃やした際に生じるCO2を排ガスから分離・回収した後、大気中に出ないように貯留すること。海洋にCO2を注入して溶解・拡散させたり、地中の奥深くにある帯水層にCO2を溶かし込む技術、枯渇した油田の貯留能力を生かす技術などがある。
 日米欧などで技術開発や実験的な事業が進んでいるが、本格的な商用化には至っていない。貯留したCO2の漏れ出しや生態系への影響を確認するなど、実用化や普及にはコストだけにとどまらない課題もある。

▼酸秦燃焼法
 CO2固定化手法の一つで、80%前後に濃度を高めた酸素を石炭を燃やすボイラーに送り込む。石炭に含まれる炭素が酸素と結び付いてCO2濃度が70%以上に高まり、回収が容易となる。回収したCO2は大気中に排出せず、水で冷却して大気圧の約200倍で圧縮。液体状で安定させ、パイプラインで地中や海中に隔離、貯蔵する。
 排ガスの循環過程で窒素酸化物(NOx)が窒素に変わるので脱硝装置が不要。硫黄酸化物(SOx)も圧縮・冷却過程で回収できるため、脱硫装置もいらない。


 同発電所で回収して液化したCO2は、パイプラインで地表から1000メートル程度の帯水層に送り込む。厚い岩盤の下に閉じ込める格好となるため、半永久的に流出が防げる。石炭火力発電所で発生するCO2を地中に貯蔵する試みは世界で初めて。
 石播などはNEDOを通じた日本政府の支援で、石炭最大の輸出国であるオーストラリアの関係機関と交渉。同国政府のとりまとめの下、今回のCO2固定化事業に参画する現地の電力会社、石炭供給会社、研究機関などと共同事業の覚書に調印した。
 今後、石播は日本や海外各国で電力会社などに新技術の採用を働きかける。改修などの初期投資や運用費などの合計額は年換算で38億円程度(百万キロワットの石炭火力発電所の場合)となる見通し。CO2固定化の手法で有力視されている化学吸収法に比べ、約3分の1のコストで済むと試算している。
 国内の百万キロワット級の石炭火力発電所の場合、酸素製造装置の動力などでエネルギー効率が10%前後下がる。ただ毎時700トン以上のCO2排出がゼロになるため、排出削減の目標達成や排出権ビジネスにもつながる。
 京都議定書はロシア政府の批准案決定で発効が確実となった。その一方で、中国の経済成長など世界的なエネルギー需要の拡大で、石油火力などに比べ発電コストが安く、燃料も安定調達できる石炭火力の増加は避けられない見通し。

石炭火力、比率高まる 電力の15%に

 原油価格の高騰や原子力発電の立地難で、世界的に石炭火力発電の比重は高まる一方だ。国内電力各社も自由化が進展する中、新規参入事業者との競争に備えるため、燃料費が割安な石炭火力の比率を高めている。京都議定書の発効が確実になる中で、CO2の固定化技術への関心が高まるのは間違いない。
 日本では1960年代まで石炭火力は全体の3割を占める主力電源だったが、石油への燃料転換政策により70年代半ばには5%前後まで縮小した。しかし石油ショック後は徐々に比率を高め、2003年度には15%まで上昇した。
 電力中央研究所によると、石炭火力の発電量当たりのCO2排出量は石油火力に比べ3割、液化天然ガス(LNG)火力に比べ6割も多い。電力各社は石炭をガス化して発電効率を高めることでCO2排出量を2割程度抑制できる技術を開発中だが、実用化は2010年代後半の見込み。
 電力業界は発電量当たりのCO2排出量を2010年度に90年度比で20%削減する目標を掲げる。現在まで15%削減し、残る5%は「原子力の増加、火力の効率向上、途上国への技術協力による排出権獲得で達成する」(藤洋作・電気事業連合会会長)としている。
 ただ、関電の美浜原発事故などで原発の新規立地への逆風は強まる一方で、削減目標の達成には固定化技術も有望な対策の一つになる。


2004/11/14 日本経済新聞

温暖化ガス 中国で排出権獲得へ 住商など3社 議定書にらむ

 住友商事は中国電力、石川島播磨重工業の子会社と共同で、中国で温暖化ガスの排出権取得事業に乗り出す。途上国での削減の見返りに排出権を獲得できる「クリーン開発メカニズム(CDM)」を日本企業として初めて中国で活用。現地の炭鉱で発生するメタンガスの回収・発電を事業化する。中国の温暖化ガス排出量は米国に次ぐ世界二位で削減余地は大きい。中国で排出権獲得を目指す日本企業が増えるのは確実で、ロシアの批准による京都議定書発効をにらんだ動きが加速する。
 事業に参加するのは住商、中国電と石播子会社の新潟原動機。CDMは京都議定書に盛り込まれた排出権取得制度で、国連への登録が必要。
 住商などは中国での事業について国連に削減方法の認定を申請しており、認定後、日中両国に承認を求める。認定事業から生まれる排出権は京都議定書の目標達成に活用できる。実現すれば日中間で初のCDM事業となる。
 中国東北部の
黒竜江省にある南山炭鉱に発電能力2千キロワット級のガスエンジンを設置し、炭鉱で発生するメタンガスを燃焼して発電する。
 現在は大半を大気中に放出しているが、メタンガスの温暖化効果は二酸化炭素(CO2)の21倍。回収して発電燃料に使えば、投資効率の高い排出量削減が実現する。削減量はCO2換算で年間約8万トンの見込み。

クリーン開発メカニズム

▽…京都議定書が定めた温暖化ガス排出権取得制度の一つで、「CDM」と呼ばれる。先進国が途上国で排出削減に協力し、その見返りに排出権を得られる仕組み。CDMとして認められるには、削減事業にかかわる先進国と途上国の政府の承認、第三者機関の検証、国連への登録などの手続きが必要。国連登録までは至っていないが、日本政府が承認したCDMは現在10件余り。

▽…日本は議定書発効に伴い、2008−12年に1990年比で6%の温暖化ガス削減を義務付けられる。省エネなど自助努力だけで達成するのは容易ではなく、比較的低コストな途上国での削減事業が注目されている。

日本政府に承認された主なCDMプロジェクト

承認時期 申請者 実施国
04年10月 東京電力 チリ
04年7月 Jパワー チリ
04年6月 中部電力 タイ
04年5月 住友商事 インド
03年12月 日本ベトナム石油 ベトナム
03年7月 イネオスケミカル 韓国
02年12月 豊田通商 ブラジル

日本経済新聞 2005/3/1

温暖化ガスの排出削減 日本の事業初登録 住商など、国連機関に

 住友商事と英国化学大手の日本法人、イネオスケミカルがそれぞれ計画する2件の温暖化ガスの排出削減事業が28日までに、地球温暖化防止・京都議定書にもとづく排出権取引プロジェクトとして国連機関に登録された。これまでに認められた計画はオランダとフィンランドがそれぞれ手掛ける2件だけで、日本のプロジェクトとしては初めて。
 途上国での排出削減に協力、削減量を排出権として取得できる京都議定書の「クリーン開発メカニズム(CDM)」プロジェクトとして、地球温暖化防止条約のCDM理事会に登録された。 2件はいずれも二酸化炭素(CO2)の1万倍以上の温室効果を持つ代替フロンを回収して破壊するもの。住商はインドで年間338万トン(CO2換算)の排出を削減する世界最大規模のCDM事業を計画。イネオスは韓国で年間140万トン(同)を削減する。
 事業の実施後、削減効果の検証などを経て、CDM理事会が排出権を発行する。住商やイネオスは取得した排出権を日本の企業や政府向けに売却する方針。


日本経済新聞 2004/6/23

トヨタ、植物性内装材増産 インドネシア拠点「ケナフ」材料に

 トヨタ自動車グループはインドネシアを拠点に、
二酸化炭素(CO2)吸収能力の高い熱帯植物「ケナフ」を原料とした自動車部品事業を強化する。トヨタ紡織はケナフを使った内装材工場の生産規模を倍増し、トヨタ車体もトヨタ自動車の協力で部品開発を進める。同国で収穫しやすりケナフを生かし、グループで環境対策に取り組む。
 ケナフはアオイ科の一年草。茎の部分が堅く、プラスチック代替素材として注目されている。
トヨタ紡織は2007年までに東ジャワ州スラバヤのケナフ加工工場の生産量を年1500トンから3000トンに増加、「セルシオ」などの自動車用ドアの内装材として日米中心に輸出する。このためジャワ島中心にケナフの栽培地を現行の2倍の3千ヘクタールに拡大、農家に栽培委託する。
 
トヨタ車体はトヨタ自動車と共同でケナフを原料にしたバンパーなどの外装材の開発を進める。既にインドネシアでケナフ栽培を始めており、06年以降の量産プラントの建設を検討している。
 トヨタ自動車は鉄に次ぐ自動車の主要材料となっている樹脂部品の15%を10年までに「植物部品」など環境に優しい素材に置き換える方針。グループ全体で植物部品の採用を拡大する。
 ケナフは熱帯地方に広く分布するが、雨量の多いインドネシアでは年3回の収穫が可能な上、現地の農家が麻袋の素材として栽培しており、大量に調達しやすい。


ケナフで温暖化は防げない!?
http://www.ne.jp/asahi/doken/home/charoko/kenaf/greenefect.htm

 原材料(この場合はケナフ)を加工した製品(この場合は紙)が焼却等で分解されれば、製品に固定されていたCO2は全て空気中に放出されてしまうので、CO2の固定には役立たない。

 さらに、ケナフ栽培の生産・管理コスト(肥料・農薬・潅水・除草)はエネルギー投資をともなうので、その分だけCO2を放出することになる。森林などの自然植生と異なり、栽培植物で環境問題を論じるにはこのコストを差し引く必要がある。ケナフで温暖化は防げない!?


ケナフで車を作ろう!
http://eco.goo.ne.jp/life/sho-ene/ondanka/03_2.html

 自動車産業では地球温暖化対策として様々の研究開発が行われている。たとえば、トヨタのハイブリッドカーなどがよく知られているけれど、ケナフで作られた車はご存じだろうか?
 えっケナフ?と耳を疑う読者もいるのでは。そうあのケナフです。繊維作物として中国や東南アジアで栽培されてきた植物で、生長がとても早く、光合成能力に優れ二酸化炭素の吸収量が多いという理由から、ここ数年、木材に代わる、紙の原料として少しずつではあるが利用されてきている。
 このケナフで作られた車がデビューしたのは、昨年開催された東京モーターショー。
アラコ(*)という愛知県にある自動車ボディ・内装部品メーカーが超小型電気自動車を作り、このショーで展示したわけだが、この電気自動車のボディがケナフで作られていたのだ。
 アラコがケナフの研究を始めたのは、1996年のこと。自動車は二酸化炭素を出して走っているので、少しでも環境に負荷をかけない製品にしたい、という思いからケナフのボディが生まれたという。

 ケナフの他にも、植物原料として、竹、麻袋の再生材、サツマイモなどが研究されたそうだが、一年草で生長の早いケナフが二酸化炭素の固定能力に優れていたため、ケナフの研究開発が本格的に始まったという。2000年にはトヨタ自動車の高級車、セルシオのドア内張りにケナフが採用されている。この製品は、ケナフを固めるために50パーセントは石油系のポリプロピレン樹脂を用いた。その後、トヨタ、東レとともに、サツマイモやサトウキビなどの糖質を原料とするポリ乳酸というプラスチックを使った、100パーセント植物性の製品を共同開発した。

 東京モーターショーでお目見えした、ケナフのボディについてだが、ケナフを外装材として実用化するには、耐久性を高めることが今後の課題だそうだ。

 車の部品としてケナフを5年、10年と使い続ければ、その期間二酸化炭素を車の中に固定することができるのだ。

*アラコ鰍ヘ、2004年10月1日より、車両部門は
トヨタ車体と統合、内装部門は豊田紡織梶Aタカニチ鰍ニ合併し、トヨタ紡織に社名変更しました。

 


日本経済新聞 2005/8/11

温暖化ガス 中国で排出権取得 日揮・丸紅など世界最大4000万トン 日本企業で初めて

 日揮、丸紅などは日本企業で初めて中国で温暖化ガス削減事業に乗り出す。中国の化学工場で発生する温暖化ガスを減らす見返りに排出権を取得し、日本企業に販売する。取得量は7年間に二酸化炭素(CO2)換算で計4千万トンと世界最大規模。京都議定書の発効に伴い、世界第二位の排出国である中国を対象にした排出権ビジネスが本格化しそうだ。
 途上国で温暖化ガス削減に協力し、削減量を排出権として獲得できる京都議定書の「クリーン開発メカニズム(CDM)」に基づく事業。日揮、丸紅と中堅ゼネコン(総合建設会社)の大旺建設(高知市)の3社が11日、中国の大手化学メーカー、浙江巨化(浙江省)と正式契約する。
 日本側3社は今回の事業を手掛ける共同出資会社、JMD温暖化ガス削減(東京・千代田)を設立した。CDM事業に必要な日中両国政府の承認を月内にも取得し、年内にも国連機関への登録を完了させる見通しだ。
 浙江巨化の工場ではエアコンの冷媒などに使う代替フロンの製造過程で、温暖化効果がCO2の1万倍強ある別の代替フロンが副産物として発生している。現在、大気中に放出しているこのガスを回収し、分解する。大旺建設が分解装置を製造し、日揮が既存プラントと分解装置をつなぐ配管などエンジニアリング業務を受け持つ。来年着工し、2007年に稼働する。設備投資額は約10億円で全額を日本側が負担する。
 排出権は07−13年にかけて獲得する。取得額は明らかになっていないが、将来の排出権小売価格はCO2 1トンにつき10ドル程度とみられ「相場動向を勘案して赤字を出さない金額にする」(日揮)という。取得した排出権は日揮と丸紅が電力、鉄鋼などCO2排出量の多い日本企業に売り込む。

巨大市場の門開く 中国政府、環境対応を重視
 「世界の工場」として経済成長を続ける中国は温暖化ガスの削減余地が大きい半面、政府承認のメドが立たないなど、排出権ビジネスを手掛けるうえで同国特有の難しさがあった。日揮、丸紅などの事業開始は、排出権の「宝庫」である巨大市場の門戸がようやく世界に開かれたことを意味している。
 これまでに京都議定書で定めた「クリーン開発メカニズム(CDM)」事業として国連機関に登録されたのは世界で13件。大半はCDMに積極的とされるチリ、ブラジルなど中南米諸国やインドでの実施案件で、中国案件はオランダの企業による風力発電事業の1件にとどまっている。
 国連登録には自国と相手国の双方の政府承認が不可欠で、「排出権を国の資源と位置付ける中国では政府が販売権限などを握り、容易に承認が得られない」(大手企業)のが障害だった。日本企業では、住友商事が炭鉱で発生するメタンの回収・発電事業を、みずほ情報総研が風力発電事業をそれぞれ計画するなど取り組んでいるが、正式契約に至っていない。
 日本企業にとって中国で初めての大型案件成立には、これまでの経済成長最優先から環境対応も重視すると打ち出した中国政府の姿勢が反映されている。中国にとってCDMは投資の呼び水となるため、同様の大型事業の門戸開放が進むことを期待する声は多い。
 削減対象が代替フロンであることの意味も大きい。中国政府はCDMの軸足を省エネや風力発電の活用による二酸化炭素(CO2)削減、メタンの回収・利用などに置いてきた。代替フロンの削減事業が進めば、大量の排出権獲得につながる。中国には「代替フロンのCDM案件は十数件ある」(化学メーカー)とみられる。


2005/08/16 日揮

世界最大級のCDM事業契約を締結
-- 地球温暖化防止への貢献を目指して --
http://www.jgc.co.jp/jp/01newsinfo/2005/release/20050816.html

 このたび、日揮株式会社(代表取締役会長兼CEO:重久吉弘)は、地球温暖化ガス削減への貢献を目指し、丸紅株式会社(代表取締役社長:勝俣宣夫)、大旺建設株式会社(代表取締役社長:市原四郎)と共同で、中国浙江省の化学品メーカー浙江巨化股イ分有限公司と、日本-中国間のCDM(Clean Development Mechanism:クリーン開発メカニズム)事業契約を8月11日に締結しましたのでお知らせいたします。
本CDM事業は、日本企業が中国で初めて開発・実現した世界最大級の温暖化ガス削減事業です。

1. 事業の概要
 本CDM事業は、日揮株式会社をリーダーとし、丸紅株式会社、大旺建設株式会社との共同出資により設立したJMD温暖化ガス削減株式会社(注1、以下 JMD)が、中国浙江省衢州市の浙江巨化股イ分有限公司(以下巨化公司)が所有する代替フロン製造工場で排出されている地球温暖化ガス「HFC23」の回収・分解を行う事業に参加し、排出権クレジットを獲得する事業 (以下 巨化CDM事業)です。JMDと巨化公司は、8月11日に中国浙江省衢州市で本CDM事業契約を締結いたしました。
 巨化CDM事業により、CO2換算で総量4,000万トンという世界最大規模の膨大な温暖化ガスの削減が可能になります。

2. 巨化CDM事業のスキーム
 巨化CDM事業では、JMDが巨化公司に「HFC23」分解技術(注2)およびそのプラント建設に関わる全ての資金を提供し、巨化公司が分解事業を実施します。JMDは、この分解事業で得られる排出権クレジットの全量を日本の排出権ユーザー等に提供します。なお、JMD出資各社の主な役割は、CDM事業の開発と運営を日揮が、排出権販売業務を日揮と丸紅が、「HFC23」分解技術の提供を大旺建設がそれぞれ担当します(注3 巨化CDM事業スキーム)。また、巨化CDM事業で得られる利益の大半は、中国政府を通じ中国国内における持続可能な発展のための事業に還元される予定です。

3. 巨化CDM事業の意義と今後の予定
 日本は、1997年に採択された京都議定書で、温暖化ガスの排出量を2008年から2012年の5年間(第一約束期間)平均で、1990年比6%削減することを約束しております。しかし、2003年度の実績等から2010年の温暖化ガスの排出量は、6%以上の増加が見込まれています。このため、2010年で 12%以上を削減する必要があるといわれています。
しかし、既に省エネが徹底されている日本国内でのさらなる排出量の削減は困難な状況にあり、途上国とのCDM事業の実施などによる年間2,000万トン以上の排出権の獲得が課題となっています。
 
 一方、巨化CDM事業で獲得する排出権は、これまでに実施、計画されてきたCDM事業のなかで、世界最大級のものであり、京都議定書で目標とされている日本の温暖化ガス削減量の達成に向けて大きく資するものと考えています。また、CDM事業のホスト国として潜在性の高い中国と日本間における最大、かつ初の CDM事業の実現という意味でも、極めて意義のあることと思われます。
 
 今後、巨化CDM事業は日中両政府の承認、国連による審査・登録を経て、本年末頃に装置の建設に着手、2007年前半には、温暖化ガス「HFC23」の分解が開始される予定です。

4. 巨化CDM事業開発の経緯ならびに各社の温暖化ガス削減への取り組み
 日揮は、石油精製、天然ガスなどの海外大型プロジェクトの豊富な経験で培ってきたエンジニアリング技術、プロジェクトマネジメント力を駆使し、「Engineering for the Quality of Human Life」の理念のもと、エネルギーの有効利用、新たなクリーンエネルギーの開発等の地球環境保全への貢献を目的とした事業活動を行ってきました。特に地球温暖化問題に関しては、2002年に温暖化ガス削減関連事業を遂行する専門組織(GHGイニシャティブチーム)を設置し、CDM事業の開発に必要な情報インフラの構築、CDMビジネスツール開発、案件開拓、事業化検討等の様々な活動を展開してまいりました。
 具体的な開発案件としては、中東の油田でのフレアガス回収・利用、東南アジアのLNGプラントでのCO2地中貯留やアジア、東欧でのN2O、フロン等Non-CO2温暖化ガス分解のCDMプロジェクトがあります。
 その中で、2003年から本格的に巨化CDM事業の開発に着手し、中国におけるCDM事業の調査・研究、事業実現のための基本スキームの構築、技術的検証、関連機関へのCDM関連情報の発信、中国政府ならびに日本政府への働きかけなどに取り組んでまいりました。今般、日揮にとって初のCDM事業となる巨化CDM事業の実現に向けた契約の締結に至ったことは、地球環境保全への貢献を企業理念のひとつとして掲げている日揮にとって大きな喜びです。
 日揮は、巨化CDM事業の開発成功を契機として、その優れたマーケティング力、エンジニアリング技術を駆使して、今後ともフレアガス回収やCO2地中貯留などをはじめとする様々な環境関連プロジェクトの開発を推進し、地球温暖化ガスの削減に貢献する事業開発に積極的に取り組んでまいります。

 丸紅は、2004年度に環境ビジネス推進委員会を発足し、その分科会として排出権ビジネスを専門的に検討する「CO2排出権分科会」を設けておりますが、これに加え、2005年4月からは、排出権を専門に扱う「排出権ビジネスチーム」を新たに発足させ、排出権に係わる「ワン・ストップ・ショップ型」ビジネスの展開を目指しています。
 一方、電力・プラント部門では1990年代より再生可能エネルギー事業案件(地熱発電事業、風力発電事業)の推進や英国における電力コンソリデーションビジネス(電力とグリーン証書の売買事業)を開始し、さらに巨化CDM事業をはじめ、各種CDM/JI案件を推進しています。具体的には、韓国における風力発電や、中央アジアにおける炭鉱メタンガス削減案件などを推進しており、その発展型として温暖化ガス削減を絡めた形で発電、都市ガス、地域総合開発事業の展開を検討しています。
 丸紅としては、総合商社の機能を発揮し、CDM/JI案件開発担当部門と排出権ビジネスチームの協働による形で、今後は積極的に排出権ビジネスを推し進めていく予定です。

 大旺建設は、高知、東京に本社を置く全国中堅ゼネコンであり、地球環境保全への貢献を目的として、1996年に自社開発した過熱蒸気分解技術によるフロン分解装置の販売及び分解事業を通じて、温暖化ガスの削減に取り組んでいます。また、1999年に風力発電事業本部を設立し、建設業界では国内で初めて、風力発電のトータルエンジニアリング会社として、これまでに全国53基の風力発電機の設置実績を通じて、温暖化ガスの削減に取り組んできました。
 大旺建設は、自社開発技術が巨化CDM事業を通じて、人類史上最大の環境問題である、地球温暖化防止に貢献できることに大きな喜びを感じ、今後も環境問題に積極的に取り組んでまいります。

 ホスト企業である
浙江巨化股イ分有限公司は、中国最大のフッ素化学メーカーであり、1998年に巨化集団公司の中核をなす優良資産の統合によって設立され、同年に中国上海証券市場に上場しました(従業員約8,000人)。
 主要な製品は、代替フロン、フッ素系樹脂、フッ素系ファインケミカル、及びフッ素化学品の基本原料(クロロアルカリ製品、カーボン化工製品など)。これらは、中国国内はもとより30ヵ国以上の国に出荷されています。
 地球環境問題が深刻になっている今、巨化は「青い空、澄んだ水、人類社会に幸福を」を発展戦略とし、地球環境保護のために、人類と自然の調和を目指し真剣に行動しています。
 今回、巨化が保有する代替フロン製造プラントの1つで日本―中国間のCDM事業を行うことが決定され、世界の温暖化ガス削減と中国の持続可能な発展に著しい貢献が出来ることに大きな喜びを感じています。

注1) JMD温暖化ガス削減株式会社の概要
 1. 設立年月日 : 2005年4月7日
 2. 代表者 : 代表取締役社長 篠田裕介(日揮株式会社 理事)
 3. 出資構成 : 日揮 47%、丸紅 43%、大旺建設 10%
 4. 所在地: 東京都千代田区大手町2-2-1(日揮株式会社東京本社内)
 5. お問い合わせ先 : 横浜市西区みなとみらい2-3-1 日揮株式会社横浜本社

注2) 「HFC23」分解技術
 HFC23 分解技術は大旺建設と東北電力が共同開発し、共同で特許を持つ過熱蒸気反応法を利用している。フロンを含む難燃性有機物に対して優れた分解能力を有し、シンプルで安全性が高く省エネ性の高い画期的な技術である。大旺建設が製造・販売しており、国内で既に30基以上の実績を有し、フロン分解専門装置市場では圧倒的なシェアを持つ。

注3) 巨化CDM事業スキーム



日本経済新聞 2005/12/13

温暖化ガス排出権 三菱重、「共同実施」で取得 ブルガリアで風力発電

 三菱重工業はブルガリアの企業と共同で現地に風力発電所を建設、温暖化ガスの削減に協力することで排出権を取得する共同実施(JI)事業を始める。京都議定書に基づく排出権の取得法で、日本は途上国から権利を取得するクリーン開発メカニズム(CDM)方式を先行させてきた。ブルガリアのように削減目標のある先進国扱いの国々に協力するJI方式を利用する企業が出てきたことで、調達手法の多様化が進みそうだ。
 三菱重工とブルガリアの建設会社イノスは共同出資会社、カリアクラ・ウインド・パワー(ソフィア)を設立した。出資比率は三菱重工70%、イノス30%。事業開始時点での資本金は15億−20億円を見込む。
 カリアクラ社はブルガリア北東部の黒海沿岸にあるカリアクラ岬で三菱重工製の風力発電設備(発電出力千キロワット)を計33基建設する。2006年半ばに着工、07年半ばに稼働の見通し。総事業費は50億ー60億円程度で、国際協力銀行などによる協調融資を活用する方向。
 発電した電力はブルガリアの国営電力会社NEKに販売。既存の火力発電所の電力を風力発電で代替することで二酸化炭素(C02)を年間約12万トン削減する。排出権は07年半ばー12年の5年半の間に計約65万トンに上り、全量を三菱重工が取得する。
 三菱重工は排出権を日本の33社が出資する日本温暖化ガス削減基金(JGRF)の運用会社、日本カーボンファイナンス(JCF)に販売する。排出権の販売総額は5億ー6億円とみられる。
 温暖化ガスの削減については京都議定書に基づいてCDM,JIのほか先進国問で権利そのものを取引する方式がある。日本ではこれまで目標値のない途上国に削減事業で協力する見返りとして排出権を取得するCDMが主流だった。目標値のある中・東欧や旧ソ連の国々とはJIによる協力が有望視されているが、地理的に有利な欧州諸国が先行している。
 手続きが複雑なCDMと比べて、JIは当事国間の合意で排出権を移転できるなどの利便性もある。日本では新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)がカザフスタンでのJI事業を経済産業省に申請したが、ガザフが京都議定書を批准していないため、実現が遅れている。カリアクラ社は日本企業による本格的なJI第一弾となる。今月10日までカナダ・モントリオールで開かれた地球温暖化防止条約締約国会議では、京都議定書に基づき各国間でのJIによる排出権の移動などを管理する委員会の設置を決定。


日本経済新聞 2006/6/26

フロン排出権 日本の立場複雑
 中国の増産 EUが警戒 制度変更浮上 商社に影響も

 代替フロンを生産すると、ついでに副産物で温暖化ガスの排出権が得られる制度を巡り、日本が複雑な立場になっている。中国は代替フロンを増産しているが、これに対し欧州連合(EU)などは、代替フロンよりも排出権の方を目的にした過剰生産に将来つながるのではと警戒、制度の変更を主張し始めた。だが、日本はすでに中国の事業に協力している。

 「新しく生産するHFC22(代替フロンの一種)の副産物は排出権取得の対象外とすべきだ」(EU代表)
 「認められない。得られた排出権を利用して持続可能な開発にあてればよい」(中国代表)
 先月、ドイツのボンで開かれた地球温暖化に関する会議で両者は激しい応酬を繰り広げた。
 HFC22は、製造過程でHFC23という極めて強い温暖化ガスが生じる。HFC23を回収・破壊すれば、HFC22の販売とは別に、排出権も得られる仕組みになっている。将来排出権の価格が高騰すれぼ、HFC22がいらないのに生産し、排出権でもうけることになりかねないというのがEUの主張だ。
 これまで中国はHFC22の工場を増設、国連によると世界の3分の2にあたる約20工場が中国に集中している。ただ、2015年のHFC22の世界需要は最大で現在の約2倍とも国連は予測しており、工場増設は必ずしも排出権目当てとはいえない。
 しかし、EUは「排出権獲得のために代替フロンを過剰生産することになりかねず、本末転倒」と主張。南米諸国も「安易な排出権の獲得は排出権市場を混乱させる」とEUに同調し、新規のHFC22生産に伴う排出権は認めない考えを示している。
 一方、日本の商社には中国のHFC22生産施設に投資し、排出権の一部を受け取る事業を早い時期から進めているところもあり、結果的に対立に巻き込まれそうな状況。「すでに動いているプロジェクトもあり、議論を見守っている」(ある大手商社)と心配する。
 今のところ日本政府は、排出権を目的にした余剰のHFC22生産の場合は認めないが、需要に応じた生産なら新規でも認めてよいとの姿勢だ。排出権をどこまで認めるのか、各国は夏までに意見を事務局に提出、11月にケニアで開かれる地球温暖化防止条約締約国会議で議論する。


日本経済新聞 2006/8/19

日本企業の排出権取得 国連審査思わぬ壁に 基準厳格化 事業見直しの可能性も

 日本企業が海外で手掛ける温暖化ガス排出権の取得事業に想定外のリスクが浮上している。排出権の発行を最終的に承認する国連が判断基準の引き上げ、排出権量の削減、再審査などに持ち込む例が相次いでいるためだ。日本政府が現在までに承認した排出権の取得事業は60件だが、今後、事業の見直しを迫られる案件も出てきそうだ。
 日本は京都議定書で2008−12年平均の温暖化ガス排出量を1990年比で6%削減するよう義務付けられている。議定書では海外で温暖化ガスを減らした分を、排出権として自国で減らした分に組み込むことが認められている。国内で削減が難しい日本企業は、海外での温暖化ガス削減に取り組んでいるが、この場合、まず日本政府が排出権取得事業を認可する。その後、国連の承認を得て、はじめて排出権が発行される。
 東京電力は04年、二酸化炭素(C02)の21倍の温暖化効果があるメタンガスを回収、燃焼するチリの事業に参加した。地元企業から9年間で200万トンの排出権を買う予定だった。
 だが、7月に国連はメタン回収の効率を下方修正し、東電が購入でさる排出権の量はC02換算で140万トン程度に減るもようだ。9月にはメタン発生量も見直される予定で、排出権は当初想定の半分程度になる可能性もある。東電は03年以前の排出削減分を買うなどして、必要量の確保を目指す。
 鹿島もマレーシアで廃棄物の埋め立て場から発生するメタンガスを回収・発電する事業を手掛けるが、排出権算定方法が承認されず9月に再審議される。年間6万トンの排出権獲得を見込むが、国連が認めなければ事業が成立しない恐れもある。豊田通商はブラジルで手掛ける鉄鋼を木炭で生産する事業が、日本政府に認められてから4年近くたっても国連に承認されるメドがたっていない。
 英系化学メーカーの日本法人、イネオスケミカルは韓国でフロン(HFC23)の回収、分解事業に取り組む。04年に一度国運から承認されたが、その後、発行量に上限が設定された。フロンはC02の1万倍以上の温暖化効果がある。メタンガスとともに少量の回収事業で多くの排出権を得られるため、国連は基準を厳格化している。

手探りの状態 
 黒木昭弘・日本エネルギー経済研究所研究理事
 (国連の排出権承認を扱う理事会の理事代理)

 排出権の承認は世界的にも手探り状態だ。メタンガスやフロンの分解事業は、温度によって量が左右されるなど新しい事実が最近になって分かってきた。これからも新しい研究結果が出ると、従来方法の見直しが続くのはある程度仕方がないだろう。また、メタンは燃焼するだけでなく、発電などの再利用に誘導したいと考える委員が多いのも確かだ。


日本経済新聞 2006/12/25

地球温暖化対策 CO2地中貯留 欧州動く 
 排出削減難航で実験 安全性懸念も

 温暖化ガスの二酸化炭素(C02)を地中に封じ込める「地中貯留」に欧州が本格的に乗り出した。省エネなどによるC02削減が思うように進まないなか、新たな温暖化対策として期待は大きい。ただ、永久に隔離できるかどうかわかっていない。本当に未来の地球を守ることにつながるのか、意見が分かれる。
 ポーランド南部のシュレジエン炭田。枯れ草に覆われた荒涼とした丘に大きな縦穴が点在する。一見すると井戸のようで、黄色いパイプが潜り込み、地上からCO2を送り込む。深さは約1キロに及ぶ。
 実験を進めるのは欧州連合(EU)だ。日本と同様、京都議定書で温暖化ガスの排出削減義務を負うが、現状では目標達成は難しい。そこでC02を地下の炭田に封じ込め、排出削減量への加算を狙う。
 シュレジェン地域は欧州四大炭田のひとつで、C02を吸収できる石炭層が約30キロが四方にわたって広がる。実験を主導するポーランド国立鉱業研究所のクリュシュトリク教授は「閉じ込め能力は膨大で、試算することも難しい」と話す。石炭の生産量が落ち込み先細る炭坑は、将来、巨大な「C02地下貯蔵庫」としてよみがえるかもしれない。
 ノルウェー沖合250キロ、北海の中央部のスライプナーガス田でも毎日のように海底下の地層にC02が送り込まれている。海上にそびえる大きなやぐらから海中に没した太いパイプを通じて、天然ガスに高濃度で含まれるC02を海底下の地層に戻す。
 事業を手がける英BP、ノルウェー石油大手スタトイルによると、1年間に注入するCO2量はノルウエーの年間排出量の約3%に達するという。
 欧州が地中貯留を熱心に進める背景にはしたたかな経済的戦略もある。京都議定書の目標達成量以上に大量のCO2を地下に送り込めば、余剰分を排出権として国際市場で売却することも可能だ。欧州各地の炭田や海底油田は世界的にみても地中貯留に適しているといわれており、新たなビジネスチャンスでもある。
 科学的に見て地下の地層中でC02がどうなるか、現段階では詳しくわかっていない。
 ポーランド国立鉱業研究所はシュレジェン炭田の実験で、放射性同位元素などを使って地下に送り込んだC02の動きを追った。これまでに「少なくとも百年間は地上に出てくる恐れはないことが判明した」(クリュシュトリク教授)。
 ただ、その先はまだ不明。地震の地殻変動により漏れ出す危険性や地中の微生物など生態系への影響を心配する声もある。自然保護団体 WWFジャパンの山岸尚之気候変動担当オフィサーは「温暖化対策として有効だが、安全性を精査しなければならない」と指摘する。
11月、ナイロビで開かれた地球温暖化防止条約締約国会議でブラジル代表が「これ以上EUが地中貯留実施でごり押しするなら交渉を打ち切る」と激しく言い放った。C02を地下に埋めて排出を削減したと強弁し、さらに排出権も稼ごうというEUの姿勢は、途上国には身勝手に映る。
 排出削減目標の達成が極めて困難な日本もEUに追随し、国内でCO2の海底下貯留を実施できるよう来年に法改正する方針だ。今週には意見公募も始まる。地中貯留の登場で、化石燃料の使用減への取り組みがおろそかになれば、温暖化対策として本末転倒になりかねない。


日本経済新聞 2007/10/25

国連、排出権取得認めず 東電・三井物産のC02削減事業 日本企業で初 審査を厳格化

 温暖化ガスを排出する権利(排出権)を得るため、先進国の企業が発展途上国で計画している排出削減事業の審査を国連が厳しくし始めた。日本企業では初めて東京電力と三井物産の申請した事業計画を却下したことが24日、分かった。計画内容が不十分と判断したもようだ。日本政府は世界に公約した削減目標の達成のために排出権取得を重視しており、却下が続けば京都議定書の目標達成に向けた計画の目算が狂いそうだ。
 国連が審査を厳しくしているのは、途上国などで温暖化ガスを削減した見返りに排出権を取得できる「クリーン開発メカニズム(CDM)」と呼ぶ事業。実施主体となる企業が国連に申請して承認されると、議定書に基づいて排出権が公式に発行され、企業は政府などに転売できる。国連はこれまでに英国やインドの企業などの46件を却下したが、うち36件が今年に入ってからだ。
 日本企業初の却下となった東電と三井物産の計画は、それぞれ中米ホンジュラスでサトウキビを発電用燃料に活用する温暖化ガス削減事業。東電は1件を申請し二酸化炭素(C02)換算だと年間約3万3千トンの排出権の取得を、三井物産は2件申請し合わせて同約7万5千トンの取得を見込んでいたとみられる。
 両社は経済産業省などの承認を経て国連に計画を提出。国連は先週、事業内容の有効性を判断する理事会を開き、承認しないことを決めた。
 国連は詳しい理由を明らかにしていないが、「計画内容の技術的な側面」について審査し、当初見込んだ温暖化ガスの削減効果が得られるか疑問だと判断したとみられる、却下について東電は「内容を修正して再申請する方向」、三井物産は「対策を講じたうえで申請し直す方針」とコメントしている。
 東電はまた、南米チリで実施したメタンガスを回収する事業について排出権取得の申請も取り下げた。国連側が温暖化ガ
ス削減の効果が不十分として承認を見送り続けたため。同社が実施済みの事業で申請を取り下げたのは初めて。当初見込んだ約15万トンとみられる排出権が得られないうえ、投資した費用も回収できない恐れがある、
 日本は2008−12年度の5年間平均で1990年度比6%の排出削減が義務づけられており、産業界や民生部門などが削減に努めている。東電は新潟県中越沖地震による原子力発電所の停止もあり国内での削減に加え、排出権取得による削減を見込んでいた。

企業の削減計画に影響 国連申請の準備 100件規模

 国連が日本企業の申請した排出権取得事業を却下したことは、日本の産業界の地球温暖化ガス削減計画に影響を及ぼしそうだ。省エネが進んだ日本はエネルギー効率の改善による一層の排出削減は難しく、クリーン開発メカニズム(CMD)による排出権取得は切り札だからだ。日本企業は100件程度のCDMを申請する準備を進めており、今回の却下で対応見直しを迫られる可能性がある。

案件の質 低下
 日本は1990年度比で6%減という削減目標を義務づげられている。政府は6%削減のうち1.6%分を排出権購入で賄い、企業もそれぞれの削減未達分をCDMで埋める考え。日本としてCDMは京都議定書の公約達成に不可欠だ。CDMが国際的に認められるにはまず日本政府が承認し、そのうえで国連CDM理事会に申請、承認・登録を得る必要がある。日本政府が承認した約240件のうち既に100件強がCDM理事会で承認・登録されている。
 CDM理事会では、削減手法の妥当性、具体的効果を技術的に検討、計画通り温暖化ガス削減量が得られるか判断する。理事会では世界各地域を代表する20人の委員が投票し、3人が承認しなければ却下される。
 来年から京都議定書が定めた削減義務の対象期間が始まるため、CDM理事会に申請される案件は急増している。中には駆け込み的な申請もあり、環境省のある幹部は「企業が提案するCDM案件の質や内容が低下している」と指摘する。
 その一方で、CDM案件を開拓する過程で、削減の技術、手法が多様化しているのも事実。「どの技術なら認められるかわかりにくくなっている」との見方も企業関係者の間に広がっている。今回の東電などの案件却下は、具体的な狸由が今のところ不透明で、今後の日本企業のCDM申請に冷水を浴ぴせる懸念もある。
 日本エネルギー経済研究所の田上貴彦主任研究員は「(排出量引き下げや再審査などを迫られる)リスクも考慮して今後は.慎重に申請手続きをする必要がある」と指摘する。

排出権、値上がりも
 国連は今後もCDMの事業計画の審査を厳しくする方針を示しており、却下される案件が続く可能性がある。供給が絞られれぱ排出権の取引価格にも影響が出そうだ。
 排出権は現在、二酸化炭素(CO2.)換算で1トン2千円煎後で取引されている。国内で排出権取得を仲介する企業の担当者は「今後は価格が上昇するだろう」とみる。排出権を得られる具体的な事業の選抜が難しくなるうえ、取得手続きに手間がかかるためだ。
 排出権価格が上昇すれぱ、その余波は様々な分野に及ぶ。まず産業界。国内では原子力発電所の長期停止などでCO2排出量の増加が見込まれる電力会社や排出権の転売ビジネスを狙う商社などがCDMに積極的だ。
 電力各社は2012年度までに合わせてCO2 約1億2千万トン分の排出権を購入する計画で、価格上昇はコスト増に直結する。政府にとっても購入費用が増え、新たな財政負担につながる恐れがある。
 大手商社は強化しえいる環境事業の柱の一つに、温暖化ガス削減による排出権獲得を据えている。.獲得済みの排出権については価格上昇はメリットだが、今後の調達分はコストが膨らみ、転売益が目減りしかねない。