日本経済新聞 2006/2/11

繊維各社 水処理膜 世界で攻勢 
 東レ 販売1000億円目標
 旭化成 中国に初めて工場

 世界的な水不足を背景に、繊維メーカー各社が排水や海水のろ過に使う高分子膜の売り込みで攻勢をかける。東レは水不足が深刻な中国で排水をろ過し再利用できる膜の販売を本格化。膜関連事業の売上高を3倍弱の1千億円に増やす計画だ。旭化成も中国に初めてろ過膜工場を建設する。国内でも、割高な工業用水の代わりに地下水を利用する動きが拡大、ろ過膜需要が伸びている。得意の高分子加工技術を応用し商機をとらえる。

 
東レは中国の水処理エンジニアリング会社、五洲富士化水工程(北京市)に資本参加しているグループ会社、水道機工の販路を活用。微細な穴を表面に多数あけ、排水中の不純物を除去できるろ過膜を拡販する。ろ過膜関連事業の2006年3月期の売上高見込みは約350億円。中国での売り上げ増などをテコに、10年以内に1千億円に増やすことを目指す。
 旭化成グループの
旭化成ケミカルズは9月までに10億−20億円を投資して、ろ過膜のモジュール組み立て工場を上海市近郊に建設する。中国国内向けのほか、東南アジア、米国に輸出する。ろ過膜事業の売上高は08年までに現在の3倍の300億円に引き上げることが目標だ。
 
三菱レイヨンは国内向けに重点を置く。工場や病院が地下水を工業用水や飲料水に使う動きが広がっている。地下水を浄化する機器用に、ろ過膜を拡販し3年後に200億円の売り上げを見込む。
 
東洋紡は岩国工場(山口県岩国市)で海水を淡水にする「逆浸透膜」に使う中空糸の生産能力を月20トンから30トンに増やした。年20%のぺースで拡大する海水淡水処理施設市場を開拓する。逆浸透膜事業全体の年間売上高を150億円から10年度までに倍増するのが目標だ。
 アジア諸国では工業用水不足懸念で、再利用などで水の使用量を減らせる工場の建設が加速。高機能ろ過膜の需要は今後も世界的に一段と伸びる見通しだ。

高分子ろ過膜:
 ポリアミドやポリフッ化ビニリデンなど高分子化合物で作った膜。表面に1マイクロ(マイクロは100万分の1)メートル程度から0.001マイクロメートル以下の微細な穴があり、不純物をこし取る。高分子ろ過膜を利用して下水を飲料水に使える程度まで浄化するコストは1トン当たり40−60円。日本国内の上水道価格は一般的に同170−200円で、高分子ろ過膜による造水はコスト面での競争力も高くなった。

 


日本経済新聞 2007/7/6

帝人、水処理膜に参入 米社と提携 東レ・旭化成を追撃

 帝人は下水や廃水の処理施設で使う水処理膜事業に参入する。米国の生物膜(バイオフィルム)開発会社と技術提携し、来年までに微生物に汚れを分解させる産業廃水処理装置を共同開発する。水処理膜の需要は、中国など新興国を中心に急拡大している。帝人は独自開発した機能材料を使って水処理効率を高め、同分野で先行する東レや旭化成を追撃する。
 帝人は米アブライド・プロセス・テクノロジー(カリフォルニア州)と組み、膜反応器と呼ばれる水処理装置を共同開発する。アプライドは汚れを分解する微生物を付着させるバイオフィルムを開発している。
 通常の水処理装置は中空糸を使ったろ過膜を採用している。帝人は微細な穴に吸着剤や微生物を包み込む鈴構造の機能材を開発しており、今回の新型装置で初めて実用化する。従来方式の5倍以上の効率で水の汚れを分解できるという。
 帝人は米社との共同開発にまず10億円を投資。開発した装置をまず米国市場に投入。需要増が見込める中国などアジア市場でも順次販売し、3年後に20億円の事業に育てる。帝人は水処理膜事業が軌道に乗れば、米社に資本参加する方針だ。
 水処理膜は、海水淡水化用と、工場などからの下廃水処理用の二つに分けられる。海水淡水化では主に逆浸透膜と呼ばれる膜が使われ、下廃水処理では主に精密ろ過膜を使う。帝人は下廃水処理用の需要を狙う。水処理膜の世界市場は650億円規模。


日本経済新聞 2007/7/20

東レ 汚れにくい水処理膜 微生物の混入防止 穴を10ナノ以下に
 洗浄回数減 耐久性向上 ランニングコスト低減

 東レは汚れが付きにくい高機能な水処理膜を開発した。水を透過させる穴を極限まで小さくし、汚れや微生物などが入り込まない構造にした。膜の洗浄の手間が減り、耐久性も向上、ランニングコストの低減が見込める。世界的に水資源の安定確保の重要性が高まっており、水処理技術の向上が求められている。開発した膜は汚水から飲料水などを製造するのに役立つ。年内を目標に受注生産に乗り出す。
 膜の素材にはポリフッ化ビニリデンと呼ばれるフッ素系の樹脂を使う。強度や耐久性に優れ、水処理膜としての利用が広がっているが、精密な加工が難しかった。
 今回、独自の結晶化技術を駆使し、水の透過性を確保しながら、穴のサイズを10ナノ(ナノは10億分の1)メートル以下まで小さくすることに成功した。開発した膜は直径約1.5ミリメートルのチューブ状で、膜の厚さは0.25ミリメートルほど。これを束ねて装置内で水を取り込み、ろ過する。河口付近やダムなどの汚水を浄化し、水道水や工業用水の製造に利用できる。下水の再利用や海水淡水化の前処理にも応用可能という。
 通常、水処理膜は付着した汚れを取り除くため定期的に洗浄している。膜表面の汚れは簡単に洗い流せるが、水を通す穴に入り込んだ微生物などは除去しにくい。こうした汚れがたまると処理効率が落ちる。
 開発した水処理膜の穴は微生物よりも小さく、汚れが付きにくい。水を透過させるときの抵抗は従来品の半分。洗浄に使う薬品を減らすことができ、耐久性も上がる。洗浄回数の削減や処理効率の向上、コストの低減なども見込める。
 世界的な人口増加や経済成長に伴い、水資源の不足が懸念されている。東レは水処理関連事業の強化を打ち出しており、売上高を現在の350億円から2015年に1千億円規模まで引き上げる計画。旭化成なども事業拡大に乗り出している。今後、水処理の効率化を目指した技術や素材の開発が活発になりそうだ。


日本経済新聞 2008/11/25      発表

水処理膜 東レ、中国大手と合弁 最大規模の工場を建設 北京で現地生産

 水処理膜世界3位の東レは中国の水処理エンジニアリング最大手、中国藍星集団(北京市)と合弁で、工場排水などを浄化する水処理膜を中国で生産する。合弁会社を通じて約75億円を投じ、北京に中国最大規模の生産工場を建設。2010年4月から稼働を始める。足元の中国経済は減速傾向だが、水不足を背景に浄化需要が大きいと判断。年20%の伸びが予想される成長市場の開拓で、世界首位の米ダウ・ケミカルを追撃する。

 日本企業が中国で水処理膜を生産するのは初めて。09年5月に合弁会社を設立。資本金は3500万ドルで、東レ側が50.1%、中国藍星が49.9%を出資する。
 樹脂に開いた直径ナノ(ナノは10億分の1)メートル級の微細な穴で水をろ過する
高機能型を量産する計画。年間の生産能力は水の浄化能力換算で約1400万人分の使用量に相当し、中国では最大規模の工場となる。東レの高機能型の生産能力は1.5倍に高まる。
 中国では政府が環境対策を強化しており、工場排水を浄化して再利用する動きが広がっている。水処理膜を水処理プラントに組み込めば、浄水場を建設するより低コストで純度の高い工業用水が排水や下水からつくれる。海水に含まれる有毒なホウ素分子を除去できる新技術も導入、海水から真水をつくる淡水化プラントにも活用する。
 東レによると高機能型の世界市場規模は07年で400億円程度。東レは米ダウ・ケミカル、日東電工に次ぐ世界3位でシェア20%を持つ。

2008年11月25日 東レ/中国藍星(集団)

中国における水処理合弁会社の設立について
〜 RO膜の生産設備を新設 〜

 東レ株式会社(本社:東京都中央区、代表取締役社長:榊原 定征)と中国藍星(集団)股有 限公司(本社:中国・北京市朝陽区、董事長:任 建新、以下:藍星)はこのたび、北京市に水処理事業の合弁会社「藍星東麗膜科技有限公司(仮称)」(以下:TBMC社)を設立することで合意しました。新 会社は資本金3,500万USドル(約35億円)で2009年5月に設立され、水処理膜製品の製造・販売および輸出入を行います。
 TBMC社は約5億元(約75億円)を投じて逆浸透(RO)膜の製膜・エレメント組み立て工場を新設する計画で、2009年5月に着工、2010年4月の稼動を予定しています。、

 生産設備は、東レの最新鋭技術に基づく高速ポリアミド複合膜製造設備およびエレメント自動巻囲機を導入します。これにより東レグループは、新工場が稼動 する2010年には、既に生産を行っている愛媛工場とトーレ・メンブレン・USA社と合わせて、逆浸透膜エレメントの年間生産能力を本年度増設後能力 (2006年比約3倍)に比べ、更に1.5倍に引き上げます。

 TBMC社は東レの連結子会社として、東レの水処理膜に関する最新技術を導入する一方、藍星の中国における営業ネットワークを活用することによ り、中国における下廃水リサイクルや海水淡水化プラント案件向けに、世界一の品質・コスト競争力を持つ水処理膜を供給します。東レグループは現在、中国に おいて独自で営業活動を展開しておりますが、今後は北京および上海の販売要員を新会社に集結させ、中国国内向けの水処理膜製品の販売は全て新会社が行いま す。これにより、RO膜を中心とした東レグループの水処理膜事業のグローバル・プレゼンスを一層強化していきます。

 藍星は、中国化工集団公司(ChemChina)の子会社で、傘下に、中国における最大手の水処理エンジニアリング会社や工業洗浄、石油化学会社 を持つ持株会社です。同社は現在、中国国内において水処理膜の輸入・販売も行っておりますが、TBMC社を設立し、生産設備を新設することは、水処理ビジ ネスに対する強いコミットメントを示すもので、お客様のニーズに迅速に対応し、安定した製品供給を可能にします。

 東レは、水処理事業を2010年以降の収益拡大の柱とする「戦略的育成事業」と位置付け、経営資源の重点投入を行っております。東レグループは水 処理事業の拡大について、中期計画では2010年度に670億円、2015年度には1000億円以上の売上高を目指しており、今回のTBMC社設立と新工 場稼動、並びに需要伸長に応じて順次各種膜製品の供給・販売量を拡大していくことにより、本計画の達成を確実なものとしていきます。
 水処理膜は、分離対象物の大きさにより、逆浸透(RO)膜、ナノろ過(NF)膜、限外ろ過(UF)膜、精密ろ過(MF)膜の4種類に分類されます。東レ は世界で唯一、自社開発により4種類全ての膜をラインナップしている膜メーカーであり、今後は世界規模の水不足が懸念される中、様々な水源から様々な水質 の水を作ることができる水処理膜の総合技術力が注目されています。

 中国では、高い経済成長を遂げる中、工業化の一層の進展により水の使用量が急激に増加しています。また、都市部では人口増加により、水需要が急増 する一方、北部では旱魃の影響などにより、水の供給不足が起きています。こうした需要の伸長に対応するため、膜法による下廃水の再利用、海水淡水化等の需 要が高まっており、RO膜の需要は年率20%以上の成長を続け、世界中から膜メーカーが進出しています。東レは、同市場の規模が5年後に500億円に達す ると推定しており、そのうち30%のシェアを目指します。
 東レグループは、世界的な水処理膜市場の急拡大に対応して5拠点体制(日・米・欧(含む中東)・中国・アジア太平洋)で事業を展開しています。世界トッ プレベルの「膜およびその利用技術」をコアとして、今後も引き続き、中国のみならず中東、地中海、大洋州(オセアニア)などの地域で積極的に受注拡大を図 り、地球規模での水不足解消に貢献して参ります。

 なお、新会社の概要は以下の通りです。

藍星東麗膜科技有限公司(仮称) 概要 (略称:TBMC社)
(日本語名称:東レ藍星水処理膜科技有限公司、英文社名:Toray Blue Star Membrane Co., Ltd)

1. 事業概要 下記水処理膜製品の製造・販売・応用開発・技術サービスおよび同製品の輸出入
(1)RO膜およびRO膜エレメント
(2)NF膜およびNF膜エレメント
(3)浸漬型MF/UF膜エレメント
(4)MBR用浸漬型MF平膜モジュール
2. 所在地 中華人民共和国北京市
3. 設立 2009年5月(予定)
4. 資本金 3,500万USドル(約35億円)
5. 出資比率 東レ株式会社 40.1%、
東麗(中国)投資有限公司(東レ子会社) 10.0%
中国藍星(集団)股有限公司 49.9%
6. 生産設備 RO膜製膜設備
(第1期) RO膜エレメント自動巻囲機
 *着工:2009年5月、稼動開始:2010年4月(予定)
 *場所:北京市順義空港工業開発区
 *工場建設にともなう設備投資額: 約5億元(約75億円)
7. 代表者 董事長:未定 (藍星出身)
総経理:未定 (東レ出身)

<会社概要>

中国藍星(集団)股有限公司

(1) 本 社 中国北京市朝陽区北三環東路19号
(2) 代表者 董事長 任 建新
(3) 設 立 1984年9月(2008年9月 股有限公司に改組)
(4) 事業内容 工業洗浄、水処理、化工新材料、特殊化学品
(5) 親会社 中国化工集団公司