日本経済新聞 2007/5/13

医療保険 後発薬普及へ見直し 政府検討 先発薬は患者負担増


 政府は先発医薬品(新薬)と効果が同じで価格が安い後発医薬品の普及を促すため、医薬品に対する公的医療保険の適用範囲を見直す検討に入った。保険給付でカバーする金額を後発薬を基準に設定し、あえて割高な先発医薬品を選んだ場合は患者の自己負担が増える仕組みとする。薬の選択でのコスト意識を高めて医療費を抑える狙いで、これにより薬剤費を1兆円近く削減できると見込んでいる。
 
医療費を削減
 日本で処方されている薬のうち30−40%では先発薬と後発薬が併存している。後発薬の価格は先発薬のおおむね半分程度とされるが、効用や価格についての理解が道半ばで、先発薬が提供されるケースが多い。薬剤費が年間7兆円まで膨らむ中で、公的負担削減のためには後発薬の普及が急務になっている。
 新制度では先発薬と後発薬が併存する場合、後発薬の平均価格を基準に保険給付する。現在、医療機関の窓口で患者が支払う自己負担額は3割(サラリーマンの場合)。後発薬を選んだ場合は従来通り7割分を保険で負担するが、割高な先発薬を希望した場合にも後発薬の価格の7割分までしか給付せず、超える分は自己負担にする。
 たとえば価格が先発薬の60%の後発薬があった場合は、先発薬を選ぶと価格の42%分しか保険給付されず、半額以上が自己負担になる。わざわざ割高な薬を選ばない仕組みにすることで後発薬の選択を後押しする。医療費は保険加入者や事業主から集める保険料だけでなく、国費や患者負担でまかなっており、効果は広い範囲に及ぶ。
 当面は外来患者向けの薬を対象に、財務省と厚生労働省で具体的な薬の選定作業を進める。入院患者向けは状況を見ながら導入を検討する。
 後発薬を巡っては、政府の医療制度改革で昨年4月から処方せんの様式を変更。処方せんに「後発薬への変更可」の表示欄を設けて、薬局などで患者が後発薬を選びやすいようにした。ただ、政府の調査では、これによって後発薬の処方に切り替わった例は全体の1%にとどまる。
 政府は後発薬の普及加速を医療費削減の柱と位置付け、6月の「骨太方針2007」にも盛り込む。年末の診療報酬と薬価の改定に併せて財務省や厚労省、与党などが具体策を詰め、患者への周知手段も検討する。新薬開発に多額の費用を投じている製薬業界などの反発も予想され、各方面の調整も必要となる。

▼先発薬と後発薬
 新たに開発された先発医薬品の特許が切れ、独占的な販売期間が終わった後に販売されるのが後発医薬品。ジェネリック医薬品とも呼ぶ。効果や用法などは同じ。後発薬は研究開発費が不要なため先発薬より安い。
 欧米では後発薬は一定のシェアを占めるが、日本ではまだ普及率が低い。医薬品全体に占める後発品の数量べースでのシェアは、米国では56%、イギリスが49%、ドイツが41%なのに対し、日本は16%にとどまっている。