日本経済新聞 2004/3/3-4

医薬大再編
 藤沢、幻の3社統合 三共・エーザイにも打診

 山之内製薬と藤沢薬品工業が来年4月に合併し、武田薬品工業に次ぐ国内第二位の製薬企業が誕生する。海外の大手企業に比べ小粒すぎるとされてきた国内製薬業界で初めての大型合併となる。国内市場の伸び悩みや巨大外資の本格攻勢を受け、生き残りを賭けた大再編時代の幕が切って落とされた。

 「欧米大手に対抗するなら、本当は3社が一緒になるぐらいでなくてはダメなんだ」。昨年11月、山之内製薬との経営統合交渉が表面化した時、藤沢薬品工業の青木初夫社長はつぶやいた。
 両社が合併しても連結売上高は約9千億円で世界17位。まだ上位10社にも届かない。規模の拡大は製薬会社の生命線を握る新薬の研究開発費に直結するだけに重要だ。青木社長の胸には合併への熱い思いがあった。

武田の動き契機
 連結売上高で1兆円の武田薬品を超える製薬会社となり、米ファイザーなど欧米の大手と互角に戦う体力を手に入れたい。それには経営統合−−この1年、青木社長は藤山朗会長とともに国内製薬大手のトップを行脚した。
 契機になったのは国内最大手、武田薬品の動きだった。業界首脳らによると、5年ほど前、武田が国内の製薬大手数社に経営統合を打診。世界市場で海外の巨大企業と対等に戦うには、武田といえども一段の規模の拡大が必要と考えたのだ。
 各社とも「武田と組めばのみ込まれるだけ」と及び腰に終わったが、青木社長は武田の動きに危機感を抱く。そして、2003年に入るや経営統合に向け動き出す。2004年春の薬価(薬の公定価格)引き下げが確実視されるのを控え経営統合を真剣に考えるトップが増えると読んだからだ。
 実は青木社長は3社での合併構想を描いていた。候補は山之内のほか、三共とエ−ザイだった。いずれも連結売上高が5千億円前後という規模で、武田のように吸収される恐れも少ない。
 だが、三共は血圧降下剤や動脈硬化治療薬など、年間数百億円規模の売上高を期待できる大型の新薬候補もあったため「今焦る必要はない」(首脳)と態度を保留。エーザイも創業家出身の内藤晴夫社長の下で、自主独立路線の意向が強いうえ、欧米では痴ほう症治療薬の販売がぐんぐん伸びていた。結局、2社とも藤沢薬品の誘いには乗らなかった。
 一方、山之内の竹中登一社長の悲願もグローバル企業への脱皮。日本企業の中で連結売上高シェアは武田、三共に次ぐ3位だが、世界最大の北米市場が手付かず状態。同じ研究畑出身で以前から親しい青大社長が率いる藤沢薬品なら北米に基板を持ち製品のすみ分けもできる。決断は早かった。

国内の空気一変
 山之内と藤沢薬品の合併は、業界の空気を一変させた。エーザイの内藤社長は先月26日の経営戦略説明会で、自主独立路線を掲げる一方、「統合という考えは否定しない」と付け加えた。武田薬品の武田国男会長も自主路線を保持しながらも「全世界で5千億円売れる製品があるなら企業ごと買収する価値がある」と公言し始めた。
 「将来は世界10位以内に入りたい。我々に加わりたいという申し出には柔軟に対応する」。先月の合併発表会見で青木社長はにこやかにこう答えた。3社統合の夢はまだ胸の内で燃えている。

 

外資の敵対買収警戒

 「仏製薬大手サノフィ・サンテラボが日本で動いているようだ。製薬会社の買収交渉ではないか」−−。 2月上旬、こんな憶測が製薬業界で駆けめぐった。
 サノフィは医薬品売上高で世界15位前後。欧米のメガファーマ(巨大製薬会社)を下回る。しかし、1月に格上のアベンティスに敵対的な株式公開買い付け(TOB)を仕掛け、関係者を驚かせた。製薬業界での敵対的買収は2000年に米ファイザーがワーナー・ランバートを買収して以来のことだ。
 サノフィは日本市場での売上高が千億円程度。販売の大半は第一製薬や大正製薬などと設立した合弁会社に委ねている。それだけに日本企業を買収して、自前の販売拠点を設けるとの観測がかねて流れてきた。アベンティスヘのTOB騒ぎと結び付け、業界の緊張が一気に高まったのだ。
 結局、サノフィが2月中に発表したのは大正製薬と設けた合弁会社取得だけ。業界ではとりあえず胸をなで下ろし、サノフィ側も公式には「今は買収など考えていない」として収まった。

合併で予防効果
 国内の製薬業界の経営者の間で、欧米勢による敵対的買収の脅威がジワジワと高まっている。進まぬ再編を見越して、外資大手が強引に買収をかけてくるとの見方が広がっているのだ。 山之内製薬と藤沢薬品工業の合併は、「株式の時価総額が大幅に膨らみ、一種の買収予防策になる」(アナリスト)との声がある。しかし、山之内の竹中登一社長は「なお敵対的買収の懸念は消えない」と慎重だ。得意分野を補完し合う合併が成立したことで企業価値が高まり、以前より標的になる可能性が増すともいえるのだ。
 エーザイの内藤晴夫社長も「敵対的買収は頭の痛い問題」という。自主独立路線の堅持を掲げるエーザイだが、海外売上高が全体の5割に達し、「欧米で名前が売れているだけに買収対象になりやすい」(アナリスト)。「企業防衛には株主価値を高めていくしかない」(三共の庄田隆社長)が、国内製薬会社の株価は総じて割安感がある。
 欧米の製薬業界は1990年代後半から合従連衡の嵐が吹く。ファイザーはワーナー・ランバートに続いて昨年にファルマシアを買収し、首位を独走。世界のベストテンの大半の製薬会社が過去10年間に大型合併・買収を経験した。

研究費で遅れ
 もちろん「メガファーマの新薬開発の生産性は決して高くない」(エーザイの内藤社長)との見方があるように、規模の優位が絶対とは限らない。ただ、武田薬品工業を除けば日本の製薬会社は「グローバル企業として戦うための最低限の研究開発費千億円にも達していない」(藤沢薬品工業の青木初夫社長)。
 米ファイザーなど欧米系企業の日本市場の販売シェアは3割を超えた。強まる外資攻勢が日本企業再編の呼び水となっているが、一方で「敵対的買収の脅威が国内再編の新たな促進剤となるかもしれない」(大手製薬首脳)との声も出始めた。グローバル競争が激化する中、国内で合従連衡が頻発するのは必至だ。


世界製薬大手の医薬品売上高ランキングとM&Aの動向

順位  企業名   売上高    
@ファイザー(米)   422  : 2000年米ワーナー・ランバートを敵対的買収。
03年米ファルマシアを買収
Aグラクソスミスクライン(英)   269   2000年英グラクソ・ウエルカムとスミスクラインが合併
Bメルク(米)   216   2003年万有製薬の100%子会社化に向け出資比率引き上げ
Cアストラゼネカ(英)   178   1999年英社とスウェーデン社が合併
Dジョンソン・エンド・ジョンソン(米)   171   2001年米アルザを買収
Eアベンティス(仏)   157   1999年独仏大手が合併
Fブリストル・マイヤーズ・スクイブ(米)   147   2001年デュポン(医薬品部門)を買収
Gノバルティス(スイス)   135   1996年スイス大手2社が合併
M武田薬品工業(日)    68    
Nサノフィ・サンテラボ(仏)    66   今年1月アベンティスに敵対的買収を提案
P山之内製薬(日)+藤沢薬品工業(日)    60   2005年4月に合併予定

(注)単位億ドル。一部大衆薬含む。ファイザーはファルマシア分含む。
   欧米は2002年12月期、日本は2003年3月期