(2001/12/26 日本経済新聞)

  新日鉄と仏ユジノール 自動車鋼板、米で共同生産  来年にも 再編にらみ攻勢

 新日本製鉄と仏鉄鋼最大手のユジノールは、米国で自動車用鋼板を共同生産する。世界4位の英鉄鋼メーカー、LNMグループ(ロンドン)の米子会社に出資、2002年にも合弁事業を立ち上げることで大筋合意した。最大の鋼材市場である米国で自動車メーカー向けの鋼板供給体制を確立することで、世界レベルの競争力強化を狙う。保護主義政策の下で弱体化してきた米国の鉄鋼大手が再編に動き出すなか、1月に包括提携した日欧の”強者連合”も現地化の足場を築く。  
 合弁事業はLNMの全額出資子会社、米イスパット・インランド(インディアナ州)に新日鉄とユジノールが出資する方向で3社が協議に入った。2002年中に第三者割当増資を実施し、新日鉄とユジノールが中心となり引き受ける案が有力。包括提携後、初の共同事業となる。ユジノールの提携先のカナダの鉄鋼メ−カー、ドファスコが参加する可能性もある。増資額は2億−3億ドル程度になる見込み。
 インランドは鋼材価格の下落などから業績が低迷、財務状態が悪化している。新日鉄は1980年代からイスパツト・インランド(旧インランド・スチール)と合弁で北米で鉄鋼事業を展開。現在はインランドから母材供給を受け、冷延鋼板を生産するINテック(インディアナ州)と、冷延鋼板を自動車向けに表面処理するINコート(同)を持つ。  
 ユジノールは新日鉄とインランドの合弁事業に新たに参加する。新日鉄とインランドは数百億円をかけINコートに鋼板ラインを増設する計画で,生産能力は年間百万トン程度に倍増する。ゼネラル・モーターズ(GM)など米自動車大手やトヨタ自動車、ホンダなど国内大手の米工場に供給する。
 
 新日鉄はアシアで韓国・浦項総合製鉄、欧州ではユジノールと提携し、国際展開の基盤を固めてきた。しかし、鉄鋼製品の年間出荷が9800万トンと最大消費国である米国市場への供給は「現在の体制では不十分」(幹部)とみていた。
 
 米国では鋼材価格が低迷、日欧に対しダンピング(不当廉売)措置を乱発してきた。保護政策で鉄鋼大手の競争力が低下、ベスレヘム・スチールは10月に日本の会社更生法に当たる連邦破産法11条を申請した。新日鉄は北米事業の強化を先延ばししてきたが、ここにきて最大手のUSスチールとナショナル・スチール、ベスレヘムの統合構想も浮上。市況が安定に向かうとみて事業拡大を決断、米鉄鋼再編の一角に食い込む。
 

手薄な最大市場に足場

 新日本製鉄と仏ユジノールが米国で乗り出す自動車用鋼板の共同生産は、両社の提携の初の具体化事業となる。背景には最大の鉄鋼市場の米国で自動車メーカー向けの供給体制が不十分だった両社共通の事情があった。米国ではUSスチールが打ち出した大手の統合構想など鉄鋼再編が進むなかで、現地化に向けた両社の共同事業の成果が問われる。  
 新日鉄はかねて、「米合弁会社の鋼板供給能力は自動車メーカーの需要に応じきれない」とみていた。さらに合弁会社に母材を供給しているイスパット・インランド本体の財政状態に不安があり、テコ入れが急務になっていた。一方、ユジノールは米国に自動車用鋼板の生産拠点を持たず、米国に進出している欧州自動車メーカーへの鋼板供給体制の構築が課題だった。
 
 今年1月に両社が包括提携した直接の理由は欧州での供給体制強化だったが、ゆくゆくは米国で共同で事業展開する狙いがあった。しかし、これまで両社は米国での鋼材市場の混乱が障害となって共同生産に踏み切れなかった。米国の鉄鋼業界は過当競争が続いた結果、鋼材価烙の低迷を招き、大手メーカーは相次ぎ経営危機に見舞われた
 
 その米国で12月にUSスチールを核にした複数の鉄鋼メーカーの統合構想が浮上。過剰設備削減の動きが出てきた。鋼材市場でも需給構造が改善する兆しが見えてきた。
 米市場が健全化に向け動き出したことが、米国市場に本格的な生産拠点を築くことにためらっていた新日鉄・ユジノール連合の背中を押した。ただ、新日鉄にとっては提携関係の「ねじれ」を整理する必要もある。イスパット・インランドと競合関係にあるUSスチールは、新日鉄が12月に包括提携した神戸製鋼所と自動車用鋼板で技術提携している。
 
 一方、USスチールはNKKの米鉄鋼子会杜、ナショナル・スチールを買収、NKKは改めて、USと提携する意向。USスチールとの関係をどう構築するかは新日鉄の国際戦略上重要な課題になる。

                                     

 01年の世界の粗鋼生産ランキング

 


(日本経済新聞 2001/12/12)

  新日鉄、住金と包括提携   ステンレス統合へ    

 新日本製鉄と住友金属工業は鉄鋼事業で包括提携する。主要製品のステンレス事業を統合する方向で大筋合意したほか、鉄鋼製品の母材となる半製品(スラブ)の供給、物流や原料調達など幅広い分野で協力関係を築く。国内鉄鋼大手は新日鉄と包括提携する住金、神戸製鋼所と、来秋経営統合するNKK・川崎製鉄連合の2グループになる。 
 
住金の下妻博社長が11日夕、記者会見し、新日鉄側に包括提携を求めたことを明らかにした。これを受け、新日鉄は提携で合意することを12日正式決定し、同日中に両社が改めて発表する。  
 提携の柱となるステンレス事業の統合は、新日鉄・光製鉄所(山口県光市)の製造設備と住金・鹿島製鉄所(茨城県鹿嶋市)の製造設備を分離して統合する方向だ。東西の両拠点でそれぞれ生産し、お互いのブランドで販売する。統合後の事業会社は年間100万トンの生産規模を確保、国内シェアで3割を超えるステンレスのトップメーカーになる。
 両社は今年4月から新日鉄・八幡製鉄所(北九州市)から鹿島製鉄所にステンレスの母材を供給している。
 今回の包括提携を機に事業統合に協力関係を発展させる。新日鉄グループのステンレス大手、日新製鋼が事業統合に加わる可能性もある。
 
 このほか、新日鉄と住金は@スラブの相互供給A原料調達・物流・製造面での相互協力B関係会社間の事業連携−−などを軸に包括提携の具体的な内容を詰めていく。これらの提携効果は新日鉄と神鋼も狙っており、住金を含めた3社協力になることは必至だ。
 
 今回の包括提携に盛り込んだスラブの相互供給では、需要低迷で粗鋼生産能力が過剰になっている住金・和歌山製鉄所(和歌山市)から新日鉄の製鉄所にスラブを供給し、同和歌山製鉄所の操業率を引き上げることを目指す。H形鋼については、大きさなど製品別に両社で生産を分担し、生産効率を高めることを検討する。
 
 また住金の下妻杜長は「国際競争力を高めるには半製品までは共同でもいいのではないか」としており、将来的には製鉄事業の上工程である高炉部門の統合に拡大する公算も大きい。


地盤固め世界再編に備え
 経営統合避け囲い込み 過剰設備廃棄など一層のリストラ急務

 新日本製鉄、住友金属工業の包括提携で、国内鉄鋼業界は両社に神戸製鋼所を加えた提携組と、NKKー川崎製鉄の経営統合組に集約される。欧米では大掛かりな再編が進み、アジアでは韓国の浦項総合製鉄、中国の上海宝山鋼鉄など、それぞれの国で圧倒的な力を持つ最大手メーカーが日本市場を狙う。日本の2グループが国際競争を勝ち抜くには、過剰設備の解消など一層のリストラを進め、提携効果、統合効果を出さなければならない。  米国では最大手のUSスチールが4、5社による大統合構想を進めている。欧州では仏ユジノールなど3社が合併で合意した。欧州3社連合の年間粗鋼生産量は約4500万トンに達し、新日鉄(単独で約2780万トン)やNKK−川鉄連合(合計で約2560万トン)を大きく上回る世界最大のメーカーとなる。
 世界の鉄鋼業界再編では欧州勢が先行、それを米国勢が追う構図。鉄鋼需要が伸びているアジア市場で優位に立つ中国、韓国メーカーの存在感も増している。さらに主要需要家の自動車メーカーの国際再編が進み、世界中どこでも高品質の鋼板を円滑に供給する能力を求められるようになった。日本国内で地盤を固め、世界的な鉄鋼再編に参画できる体制をつくらない限り、国内最大手の新日鉄でも安心できない時代になっている。
 
 その新日鉄はNKKー川鉄連合の誕生を機に、合従連衡策に大きくカジを切る。ただ、巨額の有利子負債を抱える相手と、経営統合するにはリスクが大きい。住金、神鋼のライバル陣営入りを当面阻止しながら、コスト削減などの果実を得るため、新日鉄が選んだのが提携戦略といえる。
 
 同様に国内鉄鋼4位、5位の住金、神鋼が従来通りの「独自路線」を貫くのは難しくなっていた。両社が相次ぎ新日鉄との提携に踏み切るのは、内外の再編から振り落とされないための唯一の選択だった。
 
 新日鉄、住金の場合、ステンレス事業の統合もにらんでいるとはいえ、提携戦略では供給能力の過剰問題や需要家との価格交渉力回復といった根源的な部分にメスを人れにくい。国内鉄鋼業界が二大グループに集約されるといっても「設備廃棄を含めた根本的な構造改革は先送りになる」(鉄鋼アナリスト)との指摘も出ている。

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(日本経済新聞 2001/12/13

  住金、過剰能カ活用狙う 新日鉄と提携 思惑に微妙な差も

 新日本製鉄と住友金属工業は12日、鉄鋼事業で包括提携交渉を始めることで合意したと発表した。ただ両社の思惑には微妙な開きもあり、半製品の融通、製造・物流などの提携効果を引き出すには課題も残る。
 
 住金にとって当面の狙いは和歌山製鉄所(和歌山市)の過剰能力を新日鉄向けに有効活用することだ。同製鉄所には約340万トンの製鋼能力がある。シームレス(継ぎ目無し)鋼管や薄鋼板向けに利用しているが、需要低迷による減産で40万−50万トン分が過剰になっている。
 同製鋼工場は500億円を投じ1999年に完成させた新鋭設備だけに稼働率を上げコストダウンを図りたい事情がある。住金の橘昌彰副社長は「単独で活用することも考えたが、需要低迷のなかでは幅広い選択を考えた方がよい」と語った。  
 一方、新日鉄は神戸製鋼所との提携項目でも半製品の融通を盛り込んでいる。中山製鋼所向けの半製品供給を神鋼と分担することにしたのは、半製品をつくる製鉄の上工程能力の余力が小さいからだ。鉄鋼需要が低迷している現時点では鉄源に不足はない。しかし高炉改修時の半製品需給のひっ追など潜在的なコスト高要因を抱えているのは間違いない。
 いわば新日鉄が住金、神鋼と提携し”非常時”に備え半製品の供給元を確保する狙いなのに対し、住金は新日鉄への継続的な半製品供給を念頭に置いており、双方の台所事情には隔たりもある。新日鉄の木原誠副社長は「(神鋼を含めた3社協力の可能性について)各杜にとって意義があれば連携はあり得る」と述べた。裏返せば、それぞれの立場で有効な「意義」を確認することが大前提になる。


日本経済新聞 2002/11/13

新日鉄・宝山が合弁 上海に工場、1200億円 自動車鋼板で主導権

 新日本製鉄と中国の鉄鋼最大手、上海宝山鋼鉄は自動車用鋼板の合弁工場建設で大筋合意した。年内にも正式決定する。投資額は約80億元(約1200億円)で、中国の鉄鋼業界で最大の合弁事業となる。日米欧の自動車メーカーの対中進出が相次ぎ、高品質な鋼材の需要が急増する見通しで、日中の最大手が組み成長分野の主導権を握る。
 合弁事業と並行して、宝山鋼鉄は新日鉄からの出資受け入れなど資本提携も詰めている。原料の共同買い付けなど包括的な提携に発展する可能性もある。日本の鉄鋼メーカーが自動車用鋼板で中国メーカーと合弁事業をするのは今回が初めて。
 合弁対象は宝山鋼鉄が上海市に新設する冷延・表面処理工場。2005年半ばまでに稼働する。冷延は薄い鋼板を製造する工程で、高級材の生産に欠かせない重要部分。
 製造した冷延鋼板の一部は表面を亜鉛めっき処理し、自動車のボディーなどに使う自動車用鋼板に加工する。冷延能力は年間約180万トン、表面処理した自動車用鋼板は約45万トン。家電製品、建材向けの鋼板も生産する。
 宝山鋼鉄は亜鉛めっき設備をすでに新日鉄に発注している。北京市で開催中の中国共産党大会に出席した謝企華・上海宝鋼集団(上海宝山鋼鉄の持ち株会社)社長は日本経済新聞に「設備だけでなく工場の管理や運営を含めた合弁事業とするよう新日鉄と交渉を急いでいる」と語った。
 合弁比率などを詰めているが、宝山鋼鉄が主導し、新日鉄の出資比率は「30−40%がメドになる」(新日鉄幹部)という。日本の大手商社も出資する方向。
 宝山鋼鉄の今年の粗鋼生産量は世界で第5位前後の規模。中国の自動車用鋼板で約6割のシェアを握るが、納入先は高度な表面処理を求めない民族系のメーカーが多い。このほど米ゼネラル・モーターズ(GM)の合弁会社、上海GMから初めて表面処理鋼板を受注するなど外資系の取引先の開拓に取り組んでいる。
 新日鉄はトヨタ自動車や日産自動車など対中進出する日系メーカーから鋼板供給を求められている。中国政府の鉄鋼セーフガード(緊急輸入制限)が今月に暫定から正式発動に変わる見通しなど日本からの安定供給に不安があり、中国で生産拠点確保が急務だった。
 日中合弁事業では日産自動車が約1200億円を出資して東風汽車(湖北省)と合弁会社を来春設立する計画など自動車分野で規模が大きく、新日鉄と上海宝山の合弁はこれらに次ぐ規模。

 

新日鉄、上海宝山と合弁 日中韓の最大手連合に

 新日本製鉄は韓国・ポスコ(旧浦項総合製鉄)に続き上海宝山鋼鉄と提携することで、日中韓の鉄鋼鋼最大手メーカー同士の連合を完成させる。鋼材消費の伸びが著しいアセアン市場戦略で、NKKと川崎製鉄の経営統合で拠生したJFEグループなど国内のライバルに対し優位を固める。
 日米欧の自動車メーカ一の相次ぐ進出などから今年の中国の乗用車生産台数は前年比42%増の100万台に達する勢いだ。ただ、中国の現地鉄鋼メーカーから高品質の自動車用鋼板を調達するのは難しいのが実情だ。
 独鉄鋼大手のティッセン・クルップは来年から中国の鞍山鋼鉄と合弁で自動車用鋼板の生産(年間生産能力約30万トン)を始める。世界2位の新日鉄と同5位グループの宝山鋼鉄の合弁はこれに続く動き。生産規模はティッセン・鞍山の合弁を上回り、高級自動車用鋼板の市場シェア確保に向け巻き返しを図る。
 ポスコも建材用の表面処理鋼板やステンレス鋼板の生産ですでに中国に進出、中国市場を舞台に3社間の連携が今後強まる可能性がある。
 自動車用鋼板事業の合弁は新日鉄にとって自動車メーカーの安定供給二−ズに応える意味もある。日系自動車メーカーには米国のセーフガード発動で日本からの鋼板空輸などを迫られた苦い思いがある。
 新日鉄など日本の鉄鋼メーカーは現在、中国への自動車用鋼板の供給を輸出で対応している。中国政府は今月下旬に正式発動する見通しの緊急輸入制限(セーフガード)で亜鉛めっき鋼板を対象外にしたが、国内鉄鋼メーカーの生産力や技術力が今後高まれば輸入規制に動く恐れがある。
 宝山鋼鉄は鋼板製造技術の導入や共同研究開発を狙い約2年前から新日鉄に株式持ち合いを含めた提携を打診。鋼板生産でも合弁事業を働きかけた。香港かニューヨークに上場し公開株を新日鉄に売却する方向だったが、相場低迷で海外上場を見送り中国の人民元建てA株市場に上場した。
 A株は国内投資家に売買が限定されている。新日鉄の出資は不可能となったため提携交渉は停滞していたが、ここに来て中国政府が大型企業の国有株を外資に売却する方針を表明。出資への道が開けたことも提携交渉の前進に向けた大きな弾みになったとみられる。


中国の大手鉄鋼メーカー
(単位万トン、カッコ内は本社所在地。数字は2001年の粗鋼生産実績)

 上海宝鋼集団(上海市)    1.868
 鞍山鋼鉄(遼寧省)      879
 首都鋼鉄(北京市)      825
 武漢鋼鉄(湖北省)      709
 本鋼集団(遼寧省)      522
 中国国内全体   14.893

 (注)中国鋼鉄工業協会まとめ

 


2002/11/15 日本経済新聞

新日鉄・住金・神鋼が提携発表 鉄鋼、2大陣営に集約

 新日本製鉄、住友金属工業、神戸製鋼所は14日、3社による資本・業務提携を正式発表した。3社合計で年間500億円の合理化効果を目指し、将来は「品種、分野、子会社別の統合を進める」(千速晃・新日鉄社長)。1970年の新日鉄誕生以来続いた高炉大手5社体制はNKK・川崎製鉄連合(JFEグループ)と新日鉄連合に集約される。

   新日鉄・住金・神鋼の提携骨子

<資本提携>
 ・新日鉄と住金が50億円を相互に出資
 ・新日鉄と神鋼、住金と神鋼がそれぞれ30億円を相互に出資
<事業提携>
住金と神鋼
 ・神鋼が住金にチタン熱延製品と熱延鋼板を供給

新日鉄と住金
 ・新日鉄が住金に熱延鋼板を供給

新日鉄と神鋼
 ・高炉不要の新製鉄法の活用を検討

「合理化効果500億円」

 「和歌山製鉄所(和歌山市)の高炉を分社する手もある」。新日鉄が住金と2社間の提携を結んだ直後の3月、千速社長は経営改善の重荷になっていた和歌山の高炉問題に悩む住金の下妻博社長にこうささやいた。新日鉄には室蘭製鉄所(北海道室蘭市)の高炉を分離し三菱製鋼との共同運営にした実績があった。

 新日鉄が仲介
 住金が中期経営計画に盛り込んだ和歌山リストラの柱となるアイデアはこうして生まれた。これ以降、住金と台湾鉄鋼大手、中国鋼鉄の高炉共同運営が現実味を帯びてくる。新日鉄幹部は「住金と中国鋼鉄の交渉でもうちが間に立っている」と明かす。住金の経営計画は策定当初から新日鉄の思惑と不即不離だった。
 神鋼の水越浩士社長からは昨年12月の新日鉄との提携に至る過程で「相互出資にも踏み込めないか」との打診を受けている。3社提携への伏線は早くからあった。
 千速社長は鉄鉱石などの原料メーカーや自動車などの顧客に対する価格交渉力の弱さからかねて業界再編の必要性を説いてきた。自動車メーカーが世界展開を加速、鉄鋼メーカーにも供給体制の構築を迫る。
 「世界で生き残る高炉は10社程度」と言い切るJFEグループの数土文夫・川鉄社長に劣らぬ再編論者の千速社長は、国内や欧州での相次ぐ鉄鋼大手の経営統合に焦りを感じていた。「千速さんは3社連携に相当こだわっていた」(新日鉄の取引銀行首脳)

 変わったムード
 だが、住金や神鋼との資本提携を含む連携強化には、「躊躇はなかった」という会見での発言とは裏腹に踏み込めずにいた。社内には「財務体質に劣る住金や神鋼に(従来の提携以上に)深入りする必要があるのか」との懸念が強かったからだ。
 こうした中、10月に株価が40円台で低迷する住金から出資要請を受ける。同じころ、新日鉄は9月下旬に発足したJFEホールディングスにわずか1カ月程度で株価を実質的に逆転されていた。社内のムードは一気に3社連合に傾いた。

 将来の統合含み
 「新しいビジネスモデルに挑戦する」。新日鉄の千速社長は各社が営業や商品開発は独自に進めながら生産面などで協力し競争力を強化するという3社提携のスキームをこう表現した。だが、名実ともに一体になる経営統合に比べ提携で効果を出す難しさは千速社長自身も感じている。3社提携のコスト削減は500億円。JFEの統合効果1200億円との差は大きい。会見で3社の鉄鋼事業統合の可能性について千速社長は「すぐには難しい。現在は独占禁止法の運用が窮屈だ」と将来に含みを持たせた。
 提携の枠組みの中で住金の和歌山リストラを端緒として設備集約などの踏み込んだ成果を上積みしていけるかどうか、3社連合の真価が問われるのはこれからだ。


   新日本製鉄など3社とJFEグループの主要経営指標

2003年3月期
見通し
新日鉄+住金+神鋼       JFE
連結売上高      5兆900億円      2兆4,200億円
連結経常利益       1,360億円           830億円
連結有利子負債    4兆3,300億円        2兆500億円
粗鋼生産量      4,241万トン        2,516万トン
連結従業員数      107,363人         57,004人
製鉄所数             14                4

(注)粗鋼生産量は前期、従業員、製鉄所数は3月末時点。
    新日鉄など3社は単純合算。JFEの有利子負債と従業員数はNKKと川鉄の合算


◆01年の世界の粗鋼生産ランキング◆  (毎日新聞)

 1 ポスコ(旧浦項総台製鉄、韓国)    2860
 2 新日本製鉄(日本)    2709
 3 アルベッド(ルクセンブルク)    2340
 4 NKK(日本)    2022
 5 ユジノール(仏)    2012
 6 LNM(英)    1925
 7 上海宝山鋼鉄(中国)    1913
 8 コーラス(英)    1774
 9 ティッセン・クルップ(独)    1650
10 リバ(イタリア)    1500
11 川崎製鉄(日本)    1333
13 住友金属工業(日本)    1170
17 中国鋼鉄(台湾)    1061
31 神戸製鋼所(日本)     666

注=英専門誌(メタルブリティン)調べ。単位・万トン。    
アルベッドとユノールは台併しアルセロール、NKKと川崎製鉄は統合しJFE


有利子負債 住金、2005年度4割減へ

 住友金属工業が14日発表した2006年3月期末を最終年度とする中期経営計画では財務指標の改善を優先している。市場関係者は企業の期間収益力を示すキャッシュフローや株主資本に対する有利子負債の倍率に敏感だ。住金について2002年3月期実績をもとに計算すると、キャッシュフローに対する倍率は13倍に達する。
 中期計画では期間収益力の強化とバランスシート修復に取り組む。2003年3月期中に三井住友銀行などを引受先どする第三者割当増資を実施。500億円規模の資本を調達する。今3月期末、株主資本に対する有利子負債の倍率を一気に新日鉄並みに改善するにはあと3900億円の資本が必要だが、発行できる株式総数の制約があり不可能だ。
 そのため資産売却を加速し、2006年3月期末の有利子負債を9900億円と今年3月末比で4割減らす。株式や土地などの処分で2550億円をねん出。また鉄鋼、シリコン以外の事業を手がける子会社・関連会社の売却や整理によって、1250億円を見込む。
 期間収益力強化の目玉が、和歌山製鉄所の合理化だ。生産ラインの一部を廃棄したうえで、台湾の中国鋼鉄に供給する半製品の量を3倍に拡大する。

 


日本経済新聞夕刊 2002/11/20

鉄鋼3社提携 新たな課題 独禁法上の「潔白」示す必要

 新日本製鉄、住友金属工業、神戸製鋼所の鉄鋼大手3社が資本、業務提携を発表した。既にNKKと川崎製鉄が共同で持ち株会社を設立しており、2グループ体制が幕を開けた。ただ新日鉄など3社は、価格調整など独占禁止法上の疑いをもたれないよう、注意を払う必要がある。
 14日の記者会見で、3社提携の抱負を語る住金の下妻博社長は感慨深げだった。「やっと第一歩を踏み出すことができた。世界一の地位を築いた日本の鉄鋼産業を、次世代に引き継ぐために頑張りたい」
 ただ、NKK・川鉄の経営統合に比べ、3社間の結びつきは弱い。30億−50億円の株式持ち合いと鋼板供給など生産面や物流面の提携にとどまっている。神鋼の水越浩士社長は「営業面では切磋琢磨を続ける。ユーザーから見れば、3社は一体ではない」と述べた。
 問題は需要家企業や独禁当局が3社の関係をどう受け止めるか。3社合計の粗鋼生産量シェアは昨年度で4割を超える。「営業は競合関係」と強調しても鋼材市況が上昇した場合などユーザーは疑念を抱くかもしれない。公正取引委員会は「3社提携は詳細が決まっておらず、コメントできない。今後の推移を見守る」(企業結合課)と話す。

 新日鉄などは「3社間提携検討委員会」を設置し、協力分野を拡大する方針だが、今後あらぬ疑いをもたれないよう気を配った方がよさそうだ。独禁法に詳しい川越憲治弁護士は「3社間で製品価格に話題が及びそうになったら、その場を立ち去るなど法令順守の心がけが必要だろう。生産部門と営業部門の情報遮断も検討課題」と話す。
 日本大学の野木村忠邦教授の注文はもっと厳しい。「3社間の会合に弁護士を立ち会わせ、参加者の出入りや発言を記録しておくべきだ」と指摘する。
 米市場対策としては、米司法省の事前審査制度を活用する手もある。提携内容を司法省に届け調査や忠告を受ける。これを済ませておけば、米ユーザーから訴訟を起こされた場合でも米裁判所が考慮するという。
 現在、対米輸出は緊急輸入制限(セーフガード)により、大幅に縮小している。ただ、独禁法に厳しい米市揚の目を考えれば「いつ何が起こっても潔白を証明できる準備」(野木村教授)も必要ではないか。
 新日鉄の千速晃社長は将来、品種や子会社ごとの統合を進めていく方針を示した。3社の関係が深まるほど、ユーザーや独禁当局の警戒感も強まりそうだ。NKKと川鉄のように資本統合で公取委の承認を得れば話が早いが、協調と競争を使い分けるのは意外にやっかいかもしれない。提携を着実に発展させるためにも、足元の独禁対策を固めておくべきだろう。