毎日新聞 2012年09月12日 


原発:30年代にゼロの目標明記 新しいエネルギー戦略で

 政府は11日、東京電力福島第1原発事故を受けた新たなエネルギー・環境戦略で、原発の稼働を2030年代にゼロとする目標を明記することで最終調整に入った。複数の政府関係者が明らかにした。原発ゼロ方針に反発する青森県には新戦略の骨子を示し、地域経済への影響を極力抑える地域振興策を提示した模様だ。今週末にもエネルギー・環境会議を開いて正式決定する。

 「原発ゼロ」目標をめぐっては、6日に民主党が「30年代の実現に向けてあらゆる政策資源を投入する」との提言をまとめた後、産業への影響を懸念する経済界や、使用済み核燃料の再処理工場を受け入れている青森県などが反発。当初予定していた10日の新戦略決定を延期していた。

 政府関係者によると、「原発ゼロ」方針が核燃再処理政策の放棄につながるとの青森県側の懸念はなお強く、短期間で理解を得られる状況にはない。このため、新戦略決定後に、核燃再処理事業に代わる新たな経済振興策などの骨格をまとめ、閣僚らを現地に派遣することも含めて理解を求める方針だ。

 日本の原子力政策に「強い関心」を示した米政府との間でも新戦略について調整を本格化させている。

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2012/9/13 毎日新聞

政府 「核燃サイクル維持」 30年代原発ゼロ併記 エネ戦略原案

 東京電力福島第1原発事故を受けて政府が策定する新たなエネルギー・環境戦略の原案が12日分かった。将来の原発政策について、2030年代の原発稼働ゼロを目指す方針を明記する一方、実現方法の見直し規定を盛り込んだ。焦点の核燃料サイクル政策を巡っては、再処理事業を当面維持する方針を明示し、関連施設を抱える青森県などへの配慮を示す。

 原案では、「原発に依存しない社会の、一日も早い実現」を掲げ、.民主党が提言した▽原発の40年運転制限を厳格に適用▽新設・増設は行わない▽原子力規制委員会の安全確認を得たもののみ再稼働するーーーの3つの原則を確認。太陽光発電などの再生可能エネルギーの導入促進などを念頭に「30年代に原発稼働ゼロが可能となるよう、あらゆる政策資源を投入する」とした。
 ただ、原発ゼロの実現方法については「不断に見直す」との規定も盛り込み、安全性が確認された原発を当面「重要電源」と位置づけた。経済界などの反発にも配慮したもので、将来の政策変更に余地を残した。
 また、核燃料サイクル政策については▽中長期的に着実に推進▽青森県を最終処分場としないとの従来方針を踏まえ、「引き続き再処理事業に取り組む」と強調。高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)については、政策転換を図り、放射性廃棄物減量化を目指す研究炉としたうえで成果が確認されれば研究を終了する方針だ。
 政府は12日に関係閣僚会議を開き、エネルギー政策を協議した後、原子力協定を結ぷ米国に長島昭久首相補佐官、大串博志内閣府政務官を派遣した。14日にもエネルギー・環境会議を開き、政府方針を正式決定する。

政府エネ戦略の原案骨子
・2030年代に原発稼働ゼロが可能となるよう、あらゆる政策資源を投入する
・40年運転制限制を厳格適用し、安全確認された原発は再稼働する
・原発の新増設はしない
・引き続き核燃料サイクル事業に取り組む
・高速増殖炉「もんじゅ」は、廃棄物削減を目的とした期間限定の研究炉とする
・エネルギー環境や経済影響を踏まえへ原発ゼロに向けた道筋は不断に見直す

「原発ゼロ」矛盾抱え  核燃サイクル維持 最終処分 政策なく 再処理工場・原発 飽和状態

 政府が週内にもまとめる新たなエネルギー・環境戦略で、30年代の原発ゼロと、使用済み核燃料を再処理して利用する「核燃料サイクル」維持を同時に打ち出すことになった。核燃サイクルは原発稼働が大原則。だが、「原発ゼロ」を支持する世論と、核燃料サイクル施設のある青森県の双方への配慮から、矛盾する二つの方針が盛り込まれ、政府のエネルギー政策論議の混迷ぷりを一層、浮かび上がらせた。

 

 

核燃料サイクル

 原発から出た使用済み核燃料を再処理してプルトニウムや燃え残りのウランを取り出し、混合酸化物(MOX)撚料に加工して再び原発で利用する。国が推進するエネルギー政策で、日本は現在、使用済み燃料は全て再処理する方針。だが、日本原燃の再処理工場(青森県六ケ所村)は稼働試験のトラブルで目標としている今年10月の完成は絶望的。
MOX燃料を利用する高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)も相次ぐ事故やトラブルで実用化の見直しが検討されている。再処理の過程で出る高レベル放射性廃棄物を埋める最終処分場は、候補地すら決まっていない。

   
 

 「原発ゼロ」と相いれない「核燃料サイクル維持」が、政府のエネルギー・環境戦略に盛り込まれる背景には、使用済み核燃料を受け入れている地元自治体の原発ゼロヘの反発がある。

 原発ゼロになれぱ、再処理でプルトニウムなどの新たな核燃料を作る必要はなくなる。そのため、「原発ゼロ」に踏み込もうとする政府の姿勢を、青森県と六ケ所村は「核燃料サイクルの中止につながる」と批判。使用済み核燃料の受け入れ停止や返却の可能性に言及し、「使用済み核燃料をためる所がなくなり、即時原発が使えなくなる」(枝野幸男経済産業相) 可能性を政府に突き付けた。
 強い放射線と高温を発する使用済み核燃料は、専用の冷却用プールに保管しなくてはならない。国内では再処理工場と各原発にしかな<、工場内のプール(容量3000トン)にはすでに、全国の原発から便用済み核燃料が219トン運び込まれ、ほぼ満杯。各原発のブールも余裕はない。内閣府原子力委員会が5月に作成した資料によると、原発を再稼働させても、再処理工場から便用済み核燃料が返されれぱ
▽12年度は九州電力玄海原発(佐賀県)
▽13年度は日本原子カ発電東海第2原発(茨城県)
▽14年度は東京電力柏崎刈羽原発(新潟県)、中国電力島根原発(島根県)ーーーが上限を超え、運転停止に追い込まれる。最も長持ちする東北電力東通原発(青森県)でも27年度までだ。


 さらに六ケ所村議会は7日、政府が再処理から撤退した場合、国内の原発の使用済み核燃料の再処理を委託した英仏両国から返還される高レベル放射性廃棄物を受け入れないとする意見書を可決した。「核のごみ」を巡る国際紛争に発展する可能性もある。
 「便用済み核燃料をどうするか」という原発の根本問題を詣めないまま、「原発ゼロ」を掲げることの矛盾が露呈している状況。継ぎはぎだらけの新戦略は、エネルギー政策への信頼を高めるどころか、不信感を募らせる結果になりかねない。


2012/9/14 日本経済新聞

原発ゼロ、米英仏が懸念 相次ぎ見直し迫る

  「2030年代に原発稼働ゼロ」の方針を固めた政府に先進各国が相次ぎ見直しを迫っている。米エネルギー省のポネマン副長官は訪米中の前原誠司民主党政調会長に懸念を伝え、マセ駐日仏大使は藤村修官房長官と協議した。原子力政策の転換には国際的な視点が欠かせない。

 「原発ゼロを目指すと決めた場合には負の影響を最小化してほしい」。ポネマン氏は現地時間の11日、前原氏に「さまざまな懸念がある」と伝え、脱原発依存に急傾斜する日本政府にくぎを刺した。

 米国が心配するのは安全保障上の問題だ。日本が原発ゼロを選ぶと、関連産業は衰退し、原子力の技術は先細りとなる。原発で出る核の燃えかすから残った燃料を取り出す「核燃料の再処理」など、核を扱う技術を同盟国で失いかねない。

 米国は核燃料の再処理を原則的に止めている。再処理技術は同盟国の日本が肩代わりして、技術を共有している格好だ。その再処理は核兵器の原料となるプルトニウムを生産する技術。すでに技術を確立しているロシアやフランスに加え、中国なども猛烈に追い上げるなか、世界はかろうじて秩序を保っている。

 一橋大学の秋山信将准教授は「日本をパートナーとする米国は、日米が核に関する技術を失うことが核不拡散を目指す世界のバランスに影響することを懸念している」との見方を示す。

 ポネマン氏は日本が原子力比率を下げると天然ガスや石炭など化石燃料の消費が急増し、世界のエネルギー需給が厳しくなる懸念も挙げた。火力発電に依存する日本が天然ガスなどの化石燃料を買いあされば、世界市場の燃料価格にも影響が及ぶ可能性がある。

 一方、ウォレン駐日英大使は11日に藤村官房長官を訪ね、日本が英国に委託処理している高レベル放射性廃棄物を予定通り引き取るよう求めた。13日にはマセ仏大使が同官房長官を訪問。同様の要請をしたとみられる。マセ大使は記者団に「日本政府が決めたことには絶大な信頼をおいている」と述べ、日本の出方を注視する構えを示した。

 日本は仏英に使用済み核燃料の再処理を委託し、未返還分も残る。現政権で浮上した原発ゼロ政策に、再処理施設の建設を受け入れてきた青森県六ケ所村が反発。高レベル放射性廃棄物の受け入れを拒む姿勢も示す。対応に困った日本政府が仏英に一時保管の延長を求める可能性もあり、仏英は返還の約束の履行を迫ったとみられる。

 仏は政府機関が株式の約9割を持つアレバ社を通じて六ケ所村の再処理事業に関わる。日本が原発から撤退すれば、仏は収益源を失う背景もある。長島昭久首相補佐官と大串博志内閣府政務官が訪米し、米政府高官と会談した。米国をはじめ各国の意向が日本の原発ゼロ政策を揺さぶる可能性も出てきた。

毎日新聞

 日米原子力協定は、使用済み核燃料の再処理によるプルトニウムの生産、保有を日本に認めている。核兵器の原料にもなるプルトニウムだが、核燃料サイクルを推進する日本は、原発の燃料として使う方針を明確にしているからだ。だが、原発ゼロを選べば、プルトニウム生産の根拠はなくなり、日米協定の前提が崩れることになる。

原発ゼロではプルトニウム生産の根拠がなくなり、日米協定の前提が崩れる。そうなれば、青森の再処理工場も高速増殖炉もんじゅも、稼働の根拠を失う。日本政府は、これまでの原子力行政を、根本的に見直さなければならなくなるのだが、どうしてもそこまで踏み込めない。


河野太郎 ごまめの歯ぎしり 2012年09月06日

原発と抑止力


共同通信で、次のようなニュースが流れた。

原発維持「周辺国へ抑止的機能」 就任前に防衛相が講演

森本敏防衛相が就任前の今年1月、電力関係の講演会で日本の原発維持を主張し「単にエネルギーの問題だけではない」「周りの国から見て非常に大事な抑止的機能を果たしている」と発言していたことが5日分かった。

原発の維持が周辺国に核兵器開発の潜在的能力を意識させ、それが日本の国防上のメリットにつながるとの考えだ。

森本氏は共同通信の取材に対し「政府の一員となった現在は(非核三原則を堅持する)政権の方針に従う」とする一方、自らの考えについては「できれば現実の政策の中に生かしたい」とも強調した。
(共同)

時々、こういう発言をする政治家が与党にも野党にもいるが、まさか森本大臣まで、こんな意味不明の発言をするとは思わなかった。

原子炉と使用済み核燃料プールは、テロリストに狙われたり、ミサイルで狙われたりと潜在的な弱点である。

大飯再稼働にあたっても、この弱点は解消されていない。

福島第一原発に津波は来ないことになっていたのと同じように、日本の原発にはテロリストは来ない、ことになっている。

大飯の再稼働にあたっても、これにかわりはない。

「原発の維持が周辺国に核兵器開発の潜在能力を意識させ」とあるが、これからの日本で原発を維持することと核開発の潜在能力は、つながらない。

核兵器をつくるためには濃縮ウランか、プルトニウムが必要だ。

原発は、ウランを燃やしてしまうから、濃縮ウランで核兵器をつくるためには必要がない。イランのようにどこかでこっそりウランを濃縮すればよい。

もう一つ、北朝鮮のように、ウランを燃やして使用済み核燃料を再処理してプルトニウムを取り出して核兵器をつくるという方法があるが、日本の場合、すでにプルトニウムを45トンも取り出していて、そのうち10トンは国内にある。

プリンストン大学のフォン・ヒッペル教授によれば、アメリカの核兵器に積んであるプルトニウム総量は38トンということだから、日本が持っているプルトニウムの量はそれと比べてもかなり多い。

8kgのプルトニウムがあれば核爆弾を一つ作れるのだから、すでに日本国内にあるプルトニウムだけで、数百発の核爆弾を作ることができる。もし、本当にその気になればだが。

だから、日本が今後、原発を維持するかどうかは、核兵器開発の潜在能力とは既に関係がない。

もしプルトニウム爆弾を作って核実験をやれば、NPT違反になるのだから、外国からの原発のウラン燃料の供給は止まる。だから、もし万が一、日本が核開発をやろうというならば、原子力への依存度をあらかじめ下げておく必要がある。

森本防衛大臣は、自民党が民主党政権に送り込んだトロイの木馬だという噂があるが...。