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これは下記のブログを月ごとにまとめたものです。

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2012/5/1  シェールガス採掘で地震誘発  

米地質調査所(USGS)は米中部地域での地震の急増はシェールガス採掘が関係していると報告した。

水圧破砕法(fracking:液体を地中に注入し天然ガスを抽出)の廃液をdeep well に注入することにより起こされるとみている。

Deepwellは深さ1〜4kmの井戸で、廃液を岩塩層の下に流し込むもの。岩の割れ目を通って地下水中に漏れる化学物質も見られ、問題とされている。

テキサスなどではシェールガス採掘の廃液はDeepwellに投入して処分するが、ペンシルバニアでは地形上これが出来ず、下水処理場に輸送して処理している。

USGSは昨年8月にオクラホマ州の地震について報告書を出したが、それによると、小さな地震が多発したが、ほとんどはfracking 作業が終了して24時間以内に発生した。

2011年11月に英エネルギー会社Cuadrilla Resourcesは、同社がイングランド地方北西部ランカシャー沿岸で行った水圧破砕法による天然ガスの掘削によって、いくつかの弱い地震が引き起こされた可能性が極めて高いと発表した。

同地域では4月にM 2.3、5月にM 1.5の地震が記録された。同社が委託した外部の専門家チームの調査報告書は、「採掘現場の地質に、操業時に注入された水の圧力が加わるという、珍しい条件が重なったことがこれらの地震の原因」だと している。

今回、USGSは米国地震学会の年次大会での報告で、magnitude 3.0以上の地震が急増していることを明らかにした。
最終報告書は夏に発表される予定。

異常なことが起こっており、地震の多くは産業活動に結びついていると考えている。

2000年までの30年間で米中部地域での地震活動は年平均21回であったが、2009年に50回、2010年87回、2011年134回と急増した。

2001年に始まった増加はColorado-New Mexico の境界のRaton Basinでのcoalbed methane層での地震活動による。

OklahomaではM3以上の地震は、過去50年の年間平均1.2回から2009年には25回以上と急増した。
2011年11月には
M5を超える観測史上最大級を記録した。

こんな急増は火山地域以外では過去にないことで、ほぼ確実に人工のものである。

2009年に始まった急増はArkansasやOklahomaの石油とガス生産地域で起こっており、廃液のDeep well への注入に関係するという証拠がある。

Frackingでは水と砂と薬剤をシェール層に注入し、地中の岩を砕いて、閉じ込められている天然ガスを取り出すが、注入された水は回収され、処分される。
地震活動はガスや石油を抽出するプロセスよりも、排水を井戸に流し込んで処分するプロセスで発生する。

メンフィス大地震研究情報センターの研究員によると、地下に戻された水が断層の隙間に入り込んで滑りやすくなり、地震が起きやすくなったと考えられる。

なお、これらの人工の地震による被害はほとんど出ていない。

2011年にエネルギー省はfracking の環境影響を調査する委員会を立ち上げたが、委員会は天然ガス業界への環境ガイドラインに、fracking や廃液注入により起こされる地震に関する調査を求めた。

各州ではDeep well に対する新しい規制を検討している。

ーーー

なお、EPAは4月17日、ガス井戸からの大気汚染に対する最初の規則を発表した。

http://epa.gov/airquality/oilandgas/actions.html

NHKBS世界のドキュメンタリー 「ガスランド 〜アメリカ 水汚染の実態〜」 では水質汚染の問題に加え、大気汚染の問題も取り上げている。

回収された薬剤入りの水は仮の溜池に保管されているが、池の土手から水が漏れている。
また、溜池から薬剤がどんどん蒸発している。

コンデンセートタンクからもガスがもうもうと蒸発しており、大気汚染を起こしている。

天然ガスのパイプラインは途中でガスを放出している。

2011/8/8  「ガスランド 〜アメリカ 水汚染の実態〜」


2012/5/2 大衆薬ネット販売、高裁認める  

東京高裁は4月26日、大衆薬のネット販売の権利の確認を求めた訴訟の控訴審で、原告側敗訴の一審判決を一部取り消し、2社に販売権を認める逆転判決を言い渡した。
省令の無効確認などの訴えは、一審同様に不適法として却下した。

付記

国は2社に販売権を認めた東京高裁判決を不服として上告する方針を固めた。

これについて、池田信夫blog (2012/5/9) 「法の支配を無視する厚労省」は以下の通り述べている。

東京高裁の判決で注目されるのは、「・・・法律の委任によらないで国民の権利を制限する省令の規定は国家行政組織法12条3項に違反する」として、法律で決まっていない規制を官僚が恣意的に行なうことを禁じた点だ。
厚労省が上告したのは、このような省令による裁量行政が霞ヶ関では当たり前だからである。(以下略)

付記

最高裁第2小法廷は2013年1月11日、ネット販売を一律に禁止した省令は無効との判断を下し、国の上告を棄却した。

改正薬事法にネット販売規制の趣旨を明確に示すものはない。国会にもこの意思があったとは言い難い。
・省令は改正薬事法の趣旨を逸脱し、違法で無効

ーーー

2006年に薬事法が改正され、2009年6月1日に実施された。

これまでは一般用医薬品は薬剤師を置かないと販売できなかった。
逆に、薬剤師を置けばインターネット販売も可能であった。

薬事法 第37条 
薬局開設者又は一般販売業の許可を受けた者、薬種商若しくは特例販売業者は、店舗による販売又は授与
以外の方法により、医薬品を販売し、・・・・してはならない。

厚生労働省は、薬事法上「店舗による販売又は授与」とは必ずしも店頭に限定するものではないとの解釈の下、インターネット販売は適法とし、これを容認してきた。

改正でコンビニエンスストアなどでも、登録販売者を置けば、「一般医薬品」の販売ができるようになるなど、医薬品販売の規制緩和がなされた。

             改正薬事法 省令
専門家 相談対応 積極的情報提供 ネット販売
第一類 副作用等により日常生活に支障を来す程度の
健康被害が生ずるおそれのある一般医薬品のうち、
特に注意が必要なもの
(胃腸薬「ガスター10」、発毛剤「リアップ」など)
薬剤師 義務 文書義務付け   ○    X
第二類 副作用等により日常生活に支障を来す程度の
健康被害が生ずるおそれのある一般医薬品
(主な風邪薬、「葛根湯」などの漢方薬、鎮痛薬など)
薬剤師
登録販売者
義務 努力義務   ○ X
第三類 第一類医薬品、第二類医薬品以外の一般医薬品
(ビタミン剤、整腸薬など)
薬剤師
登録販売者
義務 規定なし   ○
  * 登録販売者:実務経験1年以上で、都道府県が実施する試験に合格したもの

しかし、厚生労働省は2月6日、改正薬事法施行に合わせて、一般用医薬品(大衆薬)のインターネット販売を規制する内容の省令を公布した。

今回の省令は、薬剤師や販売者が説明や情報提供を尽くすため、薬局や店舗での「対面販売」を原則とし、インターネット販売を含む通信販売の対象を、ビタミン剤や整腸薬などの第三類に限定した。

この結果、それまでインターネットで購入できている一般医薬品のうち7割近くが販売できなくなった。

但し、離島居住者などの問題が出たため、厚生労働省は2009年5月29日に一部改正の省令を交付・施行し、薬局などが存在しない離島に居住する者などに伝統薬などと第2類医薬品の通信販売を2011年5月31日まで2年間可能にするとした。
2009/6/1 薬事法施行規則などの
一部を改正する省令の一部を改正する省令

これは法律で認められているものを省令で禁止する形となるもので、内閣総理大臣の諮問機関である規制改革会議では、省令案の段階で「法律に基づかない規制は違法性もある」と指摘していたという。

2009/2/9  大衆薬ネット販売規制

医薬品・健康食品のインターネット通販会社のケンコーコムとウェルネットは2009年5月、国を相手取り、医薬品ネット販売の権利確認と省令の無効確認・取消を求め、東京地裁に提訴した。

東京地裁は2010年3月30日、上記の請求を棄却した。

岩井伸晃裁判長は「規制は健康被害防止の観点から必要性、合理性が認められ、行政の裁量の範囲内」として、省令は合憲と判断した。

一方で、将来的に副作用に対する消費者の認識や、情報通信技術などに変化が生じた場合は「新たな状況に応じた規制の見直しが図られるのが改正法の趣旨にも合致する」として、 「
今回の規制が恒久的に固定化されるべきだという判決ではない」と付言した。

今回の高裁判決では、三輪和雄裁判長は「改正法には医薬品のネット販売を直接禁止・制限する規定はなく、一律に禁止しているとは認められない」と指摘し、ネット販売を原則禁止する省令の規定は「法律の委任なしに国民の権利を制限しており違法」と判断した。

規制について定めた省令の部分は、国民の権利を制限する省令の規定であり、国家行政組織法12条3項(「省令には、法律の委任がなければ、罰則を設け、または義務を課し、若しくは国民の権利を制限する規定を設けることができない」)に違反する。

薬品を適正使用するための情報提供についても「インターネットなどを通じた幅広い情報提供の方法が考えられる」として、「ネット販売は情報提供が不十分」とする国の主張を退けた。

小宮山洋子厚労相は4月27日の閣議後の記者会見で、「便利にインターネットを利用したい方がいる一方で、薬害の被害にあった方からは、慎重な対応を求める声もある」と指摘し、「しっかりと判決内容を見て検討し、関係省庁とも協議をしていきたい」とした。

2012/5/3 2012/3月期決算−信越化学 

信越化学の2012年3月期の連結決算は、前期比若干の減収で、損益はほぼ前期と同じであった。

同社の営業損益はこれまで増益を続け、2008年3月期には過去最高の2,871億円となったが、一転減益に転じ、2010年3月期には1,172億円となった。
2011年3月期から再度増益となったが、レベルは最高時の半分強に止まっている。

単位:億円 (配当:円)

  売上高 営業損益 経常損益 当期損益

 配当

中間 期末
2008/3 13,764 2,871 3,000 1,836 40 50
2011/3 10,583 1,492 1,603 1,001 50 50
2012/3 10,477 1,496 1,652 1,006 50 50
前年比 -105 4 49 5    
(2008/3比) (-3,286) (-1,375) (-1,348) (-829)    
2013/3予

未定

報告セグメントが変わったため、以前との厳密な比較は難しいが、下記のシンテック及び信越半導体グループの実績が示すように、塩ビと半導体シリコンの損益が以前の水準に戻っていない。

営業損益対比(億円)
  2008/3 2010/3
塩ビ系 315 174
シリコーン系 431 268
その他有機・無機 249 169
電子材料 1,621 395
機能材料ほか 260 180
全社 -4 -14
合計   2,871   1,172
 
  2010/3 2011/3 2012/3 増減
塩ビ・化成品 196 197 237 40
シリコーン 249 341 337 -4
機能性化学品 139 129 147 18
半導体シリコン 226 389 343 -46
電子・機能材料 307 361 382 21
その他・全社 55 76 51 -25
合計   1,172   1,492 1,496   4

Shintechと信越半導体グループの状況は下記の通り。

  米国の塩ビ子会社 Shintech

2010年後半にPlaquemineの第2期が稼働し、PVC能力は264万トン、VCMも80万トンとなった。
更に、VCM 80万トンの増設を行っている。2011年完成予定となっていたが、状況不明。

立地 PVC VCM カ性ソーダ  
現状 計画 現状 計画 現状 計画
Texas州 Freeport  1,450     −     −   VCMは 隣接のDowから購入
        (825)   (550) 2007/5発表 DowのVCM代替
(今回計画に変更?)
Louisiana州 Convent   (500)   (500)    (275) 反対運動で中止
Addis   590     −     −   VCMは 隣接のDowから購入
PlaquemineT   600     800     530   2期完成後(2010年後半)の能力
PlaquemineU       800   530 2011年完成予定
Addis  (270)     −     −   Bordenから購入、廃棄
合計  2,640    800 800   530 530  

PVC増設により売上高(ドル建て)は2008年に比して大きく増大しているが、経常損益は下回ったままである。

理由(推定)については 2010/5/3 注目企業の決算-1(信越化学) 参照。

米国各社の損益は下記の通り。

* 過去の損益を一部修正した。
     過去に含めたPolyone(GeonとM.A.Hannaが合併)はOxyVinyls持分をOccidental に売却し、PVCレジンから撤退。   

  信越半導体グループ(信越半導体・SEHアメリカ・SEHマレーシア・SEHヨーロッパ・SEH台湾)

 


2012/5/3  中国と韓国、FTA交渉開始で正式合意

中国と韓国は5月2日、2国間の自由貿易協定(FTA)の交渉開始で正式合意した。
北京で会談した中国の陳徳銘商務相と、韓国外交通商省の朴泰鎬通商交渉本部長が発表した。

合意内容は:
 ・FTA交渉の開始を宣言する
 ・早期の交渉妥結を目指し努力する
 ・国内への影響が大きい品目の保護のため、交渉は2段階方式で行う
   「敏感品目」「超敏感品目」について保護策を検討する
 ・サービス・投資でも高い水準の自由化を目指す

「敏感」品目に関し、関税撤廃対象からの除外といった保護策を協議し、双方が満足できる内容にならなければ先には進まないというもので、交渉がもつれる可能性はある。

韓国は唐辛子や玉ねぎ、ニンニクなどのあわせ調味料や一部の水産物について、最初から交渉テーブルから外したい意向。
中国は韓国が輸出拡大を期待する自動車や石油化学分野の開放時期をできるだけ遅らせるという計画を持っている。

韓国の農村経済研究院は、韓中FTAの発効の際は、韓国の中国からの農水産物輸入額は今後10年間、計108億ドルが増え、農業生産額は14.7%が減少するだろうと見込んでいる。

両国は今年1月、首脳会談で早期にFTA交渉を開始すると合意していた。

韓国はこれまで産官学共同研究や公聴会など、中国とのFTA交渉のための国内での事前手続きを終わらせている。
2年以内の交渉妥結を目指す。

韓国は米国、EU、EFTA(欧州自由貿易連合)、シンガポール、ASEAN、インド、チリ、ペルーとFTAを結んでいる。
3月26日には
トルコとのFTA交渉が合意に達した。

米国・EU・ASEANの世界3大経済圏とFTAを結んだ唯一の国だが、更に最大の輸出先である中国とFTAを結び、欧州―東アジア―米国をつなぐ「東アジアのFTAハブ」(韓国政府)を目指す。

日本は日中韓3カ国のFTA交渉をめざすが、中韓FTAに後れを取り、不利な立場になった。

中国の陳徳銘商務相は「中韓FTAは日中韓FTAの重要な基礎であり、推進力となる」と日本への配慮を示した。
5月13日から北京で開く日中韓首脳会談に向けて、実務者間で日中韓FTAの交渉入りに関する文言調整を続けている。

中国は米国が主導する環太平洋経済連携協定(TPP)に対抗してアジアでの自由貿易圏づくりの主導権を握ることを狙っている。

韓国の企画財政部では韓中FTAが発効すると、5年内にGDPが0.95%〜1.25%上昇するとみている。
10年では2.28%〜3.04%のアップを期待している。

韓国の中国との2011年の貿易額は2206億ドルで、米国との貿易額1008億ドル、EUとの貿易額1031億ドルをはるかに超えている。


2012/5/4  信越化学、米国でヒドロキシエチルセルロースを生産 

Shintechは4月30日、ルイジアナ州知事の同席のもと、信越化学の子会社(Shintechの姉妹会社)のSE Tylose がルイジアナ州PlaquemineのShintech敷地(約900万坪)でヒドロキシエチルセルロース(HEC)を製造すると発表した。
(信越化学も5月1日に発表した)

能力は年産9千トンで、投資額は120百万ドル。年末には着工し、2014年初めの操業開始を予定している。

HECは、セルロース誘導体の一種で、主に水溶性ペイントに使用され、粘度の調節、着色剤の沈殿防止、接着力の向上などで優れた効果がある。

HECの需要は堅調な伸びが期待されているが、Shintechが所有する工業用地の一画を利用できることにより、将来の増設も見据えた事業展開が可能であることが、米国で新工場を建設する決め手となった。

SE Tylose は信越化学が2004年1月にスイスのClariant(1955年にSandozの化学品部門がスピンオフしたもの)からセルロース部門を買収したもので、Shin-Etsu International Europe の100%子会社とした。

同社は医薬用、建築材料用、工業用のメチルセルロース(MC)と塗料用のHECを生産している。

信越化学による買収時には能力はMCが27千トン、HECが10千トンであったが、2006年にMCを40千トンに増強した。
その後更に、MCを50千トンに、HECを16千トンに増強している。

2006/10/10  信越化学、ヨーロッパのメチルセルロース能力増強完了 

なお、信越化学は直江津でMCを生産している。

信越グループのセルロース誘導体の能力は下記の通りとなる。

  MC HEC
信越化学 直江津工場 (20千トン23千トン) 20千トン

SE Tylose ドイツ

(27千トン40千トン) 50千トン

 (10千トン)                    16千トン

米国      ー 9千トン
合計 (47千トン63千トン)70千トン  (10千トン16千トン) 25千トン

HECの増設の結果、信越化学は米Ashlandに次ぐ世界第2位のHECメーカーになる。

Ashlandは2010年11月に南京市に10千トンプラントを完成させた。20千トンへの増強が可能。

ーーー

MCについては信越化学は2005-06年に200億円をかけて日独で増強をおこない、直江津工場の生産能力を年産20千トンから23千トンに増強、ドイツの能力を27千トンから40千トンに増強して、合計能力を63千トンとした。

この時点でこれまでの首位の米Dow Chemical(約45千トン)を抜き世界第1位の座を確固たるものとした。

しかし、Dow Chemicalは2007年にBayerから主にセルロース事業を行っているWolff Walsrode business group を買収、同社のWater Soluble Polymers businessと統合し、Dow Wolff Cellulosics とした。
(Wolffに関しては信越化学も買収に乗り出していたとされる)

Dow Wolff Cellulosicsは2009年2月にドイツBitterfeldに新しい工場を建設した。
更にDowは2011年12月に、アジアでの増設の意向を明らかにしている。

2007年3月に直江津のMCプラントで爆発事故が発生した。
医薬品(医薬品錠剤を固める結合材やコーティングなどに使用)向けは信越化学が国内シェアの約9割を握っており、
SE Tyloseでは医薬品向けは生産していないため、需要家に混乱を生じた。

2007/4/16 信越化学 爆発事故のその後

直江津能力は現在20千トンに減っているが、これは事故に伴うもの。
但し、医薬用は2008年10月に増産した。

ドイツでは2008年に医薬用を4千トン、建材用を6千トン、合計10千トンの増設を行った。

 


2012/5/5 発明家殿堂

米の非営利組織「全米発明家殿堂」による2012年の殿堂入りの授賞式が5月2日、Washington, D.C.の旧特許庁ビル(現 Smithsonian American Art Museum and National Portrait Gallery)で行われた。

米国の特許を持ち、その発見が人類の福祉に貢献していることなどを評価して選考されるもので、今回、血液中のコレステロール値を低下させる「スタチン」を発見した遠藤章・東京農工大特別栄誉教授など10名が選ばれた。

遠藤氏は日本人として初の受賞。
2008年には優れた医学研究者に贈る「ラスカー賞」(「アメリカのノーベル生理学・医学賞」)を受賞しており、ノーベル賞の有力候補とされている。

2008/9/16 米ラスカー賞に遠藤章・東京農工大名誉教授

遠藤氏は授賞式で、「子どもの頃にキノコがハエを殺すのを見て科学への情熱が生まれた。そのキノコの研究から1973年のスタチン発見に至った」と述べた。
彼自身が2000年にコレステロールが高いと診断されたが、医者から「心配するな、いい薬がありますよ」と言われたと述べた。

今回の受賞者は以下の通りで、故 Steve Jobs も入っている

遠藤章   スタチン
Barbara Liskov   コンピュータ言語、システム設計
C. Kumar N. Patel   炭酸ガスレーザー
Lubomyr Romankiw & David Thompson   薄膜磁気ヘッド
Gary Starkweather   レーザープリンター
Alejandro Zaffaroni  
放出制御薬物送達システム
故 Dennis Gabor   光電子ホログラフィー
Steve Jobs   コンピュータ技術
故 Mária Telkes   太陽熱貯蔵システム


非営利組織の全米発明家殿堂は1973年に米国特許庁と米知的財産法律協会により設立された。
今回を含め、470人が殿堂入りをしている。
  殿堂入りリスト http://en.wikipedia.org/wiki/List_of_National_Inventors_Hall_of_Fame_inductees

第一回の1973年にはThomas Edisonがただ一人殿堂入りした。

第二回(1974年)には5人が選ばれた。
 電話の
Alexander Graham Bell
 トランジスターの
John Bardeen、Walter Houser Brattain、William Shockley
 綿繰り機のEli Whitney, Jr.

2011年の殿堂入りにはリチウム銀バナジウム酸化物電池の発明でEsther Sans 竹内 が入っているが、彼女は同じ分野の研究者である Kenneth 竹内の妻。
 


2012/5/7 クラレの2012年3月決算と樹脂事業概況 

クラレの2012年3月期決算は好調で、営業損益は2008年3月期を上回り、2期連続最高益となった。
配当も年6円の増配とした。

単位:億円 (配当:円)

  売上高 営業損益 経常損益 当期損益

 配当

中間 期末
2008/3 4,176 481 428 256 11 11
2011/3 3,632 531 511 287 13 14
2012/3 3,690 547 539 315 16 17
前年比 58 16 29 27 3 3
2013/3予 4,000 600 585 350 18 18

セグメント別ではポバール、PVB、エバール等の酢酸ビニル系の「樹脂」が好調で、500億円程度の営業利益を計上している。
特に、液晶向け「ポバールフィルム」が安定的に利益を稼いでいる。

  11/3実績 12/3実績 13/3予想 対象製品
樹脂 508 499 550 ポバール、PVB、エバール等の樹脂・フィルム
化学品 87 91 95 MMA樹脂、熱可塑性エラストマー、イソプレン関連、メディカル関連製品
繊維 -2 11 20 合成繊維、人工皮革、不織布
トレーディング 33 35 40 合成繊維・人工皮革の加工・販売、グループ製品等の販売
その 49 57 60  
全社 -144 -145 -165  
合計 531 547 600  

ーーー

ラレの「樹脂」セグメントは酢ビ系の樹脂・フィルムで、以下の製品がある。

ポバール樹脂はクラレが世界で初めて事業化した機能性樹脂で、世界トップシェアを誇る。

水溶性、造膜性、接着性、乳化性、耐油性、耐薬品性などの特性をもち、紙加工剤、接着剤、塩ビ重合安定剤をはじめ、自動車のフロントガラス用中間膜原料などの様々な用途で使用されている。

ポバールフィルムは、大型薄型テレビをはじめモニター、パソコン、携帯電話等のLCDの表示に欠かせない偏光フィルムのベースフィルムで、同社の製品は30年以上前からほぼ独占的にこの分野に使用されてきた。

光学用ポバールフィルムの世界シェアで約8割を占める。
日本合成化学工業が これに続き、世界市場でもこの2社でほぼ独占している。

PVB(ブチラール)樹脂はポバールを主原料とする樹脂で、安全ガラスの中間膜、燃料電池用セルなどファインセラミックス用のバインダー、塗料・インク用のバインダーなどの用途に幅広く用いられる。

PVBフィルムは、その優れた透明性、ガラスとの接着性、耐貫通性を生かし、建築用の安全合わせガラスや自動車のフロントガラスなどの中間膜に使用されている。近年は太陽電池の封止材用途へも拡大している。

EVOH(エチレン・ビニルアルコール共重合体)樹脂のエバールはプラスチックの中で最高の気体遮断性をもつ機能性樹脂で、酸素を遮断して内容物の劣化を防ぐことから、各種食品包装材に広く使用されている。またプラスチック製ガソリンタンクや、床暖房用のパイプなど食品包装以外の分野でも需要が広がっている。

1972年にクラレが世界で初めて工業化した。クラレの世界シェアは約65%。


同社は酢ビ系事業の世界展開を図っている。
欧州のポバールとPVB樹脂及びPVBフィルム事業は買収事業を拡大した。
更に北米とアジアでの新設を検討している。

付記

クラレは6月5日、クラレアメリカ(クラレ100%間接出資子会社)によるポバール樹脂生産設備の新設を決定したと発表した。

立地:テキサス州ラ・ポルテ市(工場用地は先行取得済)
生産能力:第一期 40,000トン/年
時期: 2014年9月完工予定

 

クラレの世界展開  数字は能力(単位:千トン)
  日本 アジア 欧州 北米 合計
酢ビ 岡山 150             150
PVA(ポバール)樹脂 岡山・新潟 124 Kurare Asia
Pacific

40

Kurare Europe
     (増強中)
70
+24
(決定*1)   234
+24
ポバールフィルム 玉島・西条
(増強中)
*2                                          
PVB樹脂         Kuraray Europe 39     39
PVBフィルム     (検討中)   Kuraray Europe
  (増強中)
34
    34
エバール 岡山 10 (検討中)   Eval Europe 24

Kuraray
 America
  
(増強中)
 

35
+12
69
  (+12

*1  Kuraray America は2011年1月、酢ビ・ポバール事業の拡大のためエバール工場の近くの土地を購入した。
  上記 付記参照

*2 ポバールフィルム能力
       2007年初めは西条3100万m2、玉島3000m2の合計6100万m2であったが、
   現状は 1億8000万m2となっており、2013年6月には西条増強で合計2億1200万uまで拡大する。
       西条工場の増強では大型液晶テレビ用偏光フィルムのための幅5000mmの広幅タイプの生産ができる。

クラレはポバール原料の酢ビを岡山工場で生産している。
なお1983年に中条工場の
天然ガス法酢ビ(86.4千トン)を休止した。

2006/5/20 酢酸業界

同社の海外拠点は以下の通り。

Kurare Asia

クラレは1996年10月、シンガポールに日本合成化学との50/50JVのPoval Asia を設立したが、2008年1月付けでクラレ 100%になった。

2008年7月にアジア・オセアニアのポバール樹脂販売会社Kuraray Specialities Asia と統合し、Kuraray Asia Pacificとした。

Kurare Europe

 1) PVA、PVB事業

クラレは2001年にClariantのPVA、PVB事業を買収、Kuraray Specialities Europe GmbH を設立した。
工場はフランクフルトで、能力はPVA 50千トン、PVB 16千トンであった。その後増強。


2006年
9月に
Kuraray Europeが吸収合併した。

 2) PVBフィルム

2004年11月にRütgers AGの子会社HT Troplast社から買収した。
工場はドイツの
トロイスドルフで、能力は26千トンで、2007年に34千トンに増強した。 
これにより、PVA樹脂→PVB樹脂→PVBフィルムの一貫体制を完成

2012年3月、世界的なPVBフィルムの需要拡大(特に新興国を中心に伸長する自動車用途)に対応し、増強を決定(能力非公表)。2013年11月稼働目標。

Eval Europe

1999年にベルギーのアントワープでエバールの生産を開始した。

Kuraray America

当初、Eval Company of America を設立し、1986年にテキサス州パサディナでエバールを生産開始した。
その後、
Kuraray Americaに吸収合併した。

付記

クラレは5月22日、米国のポバールフィルムのメーカーのMonoSol社を買収すると発表した。
MonoSolは、洗剤・農薬・染料などの個包装、人工大理石離型用など産業用ポバールフィルムではリーディングカンパニーの位置にある。
本件買収により、クラレはポバールフィルムに関し、偏光フィルム向けの光学分野だけでなく、広範な産業分野においてもグローバルリーダーとなるとしている。


2012/5/8  三井物産と三菱商事、豪ブラウズLNGプロジェクトに参画 

三井物産と三菱商事は5月1日、豪州のWoodside Petroleumが推進するBrowse LNG Projectに参画すると発表した。

Browse LNGプロジェクトは、豪西オーストラリア州沖合のBrowseコンデンセート田で生産する天然ガス・コンデンセートをKimberley地区に輸送し、精製・液化・出荷を行う大規模な開発計画で、Woodsideの子会社がオペレーターを務めてい る。
LNGの生産は年間1,200万トンの予定。

両社が折半出資する豪Japan Australia LNG (MIMI) Pty Ltdを通じて、Woodsideの子会社Woodside Browse と4月30日に権益売買契約を締結した。

Woodside Browseの持つ権益46%のうち、14.7%を20億ドルで買収する。

現在、2013年6月末までの最終投資決断を目指し、2012年初めに終了した基本設計の評価作業および設計・調達・建設業者の選定に向けた作業を行って いる。

付記 2013年12月に基本設計入りを半年先送りした。最終投資決定も2016年央にずれ込む。

MIMI BrowseとWoodside Browseは今後共同で、両社が本プロジェクトから引き取る一定量のLNGに関し日本を含むLNG顧客向けの販売活動を進めること で合意した。日本向けについては年約150万トンと報じられている。

Woodside は既に台湾の CPC Corporation と年間200-300万トン、PetroChinaと200万トンのLPGを供給する契約を結んでいる。

付記 Woodsideは2015年1月15日、MIMIとの共同販売契約(日本向けの年300万トンのLNG)を解消したと発表した。原油価格急落で販売方針を見直した。

ブラウズLNGプロジェクトの概要は以下の通り。

 

BrowseはTorosa(Scott Reef)ガス田、Brecknockガス田、Callianceガス田に分かれている。

隣接のIchthysガス田については
  2012/1/16 国際石油開発帝石、豪州イクシスLNGプロジェクト 最終投資決定

プロジェクトパートナー Woodside Browse (Operator)
BHP Billiton
BP
Chevron
Shell
          ※各パートナーの最終的な権益比率は未定。
ガス・コンデンセート田位置 西オーストラリア州Broome市沖合425km 北西大陸棚Browse 地域
陸上プラントサイト予定地 西オーストラリア州Kimberley地区James Price Point
年間LNG生産量 1,200万トン(400万トン×3系列)
※将来的には2,500万トンまで拡張可
埋蔵量
(ウッドサイド・エナジー社見積もり)
ガス:15.5兆立方フィート、
コンデンセート:4億1,700万バレル
最終投資決断 2013年上半期

ーーー

豪州沖合は近年ガス発見率が高いが、ガス田開発を先送りする事例が増えている。

Browse LNGも、1970 年代に主要ガス田(Torosa、Brecknock)が発見されていたにも拘わらず、パートナー(オペレーターWoodsideとBP、Chevron、Shell、BHP Billiton)間のガス事業戦略が異なるために開発時期と開発方法が合意できなかった。

2 0 0 9 年1 2 月に連邦及び州政府は、Browse LNGガス田群のリース更新に際し、Woodsideに対して1 2 0日以内にKimberleyでの液化設備建設を受け入れるか、あるいは経済合理性のある他の候補を提案するように申し渡した。
併せて3 年以内にBrowse LNGプロジェクトの最終投資を決定することを求めた。

ライセンス失効を恐れたBrowseコンソーシアムは、20100 年2月にJames Price Point に液化基地を建設するガス田開発案に合意することを表明し、直ちにプレFEED作業を発注し、計画が進み始めた。

ーーー

2010年代後半までに予定される主なアジア向け新規LNGプロジェクトは以下の通り。(2012/1/14 日本経済新聞)

  プロジェクト 能力
万トン/年
操業主体
豪州 Gorgon 1,500 Chevron
Wheatstone 860 Chevron
Queensland Curtis  850 英BG Group
Ichthys 840 INPEX
Australia Pacific 700 ConocoPhillips
Pluto 430 豪 Woodside
インドネシア Tangguh 380 BP
Abadi 250 INPEX
Donggi-Senoro 200 三菱商事
パプアニューギニア PNG 660 ExxonMobil

ーーー

三菱商事と三井物産は4月17日、それぞれが米国のSempra Energyの子会社であるCameron LNGとの間で、米国産天然ガスの液化を委託する交渉を行っていることを明らかにしている。

2012/4/20 三菱商事と三井物産、米国産LNGを輸入へ 

野田首相は4月30日のオバマ米大統領との首脳会談で、LNGの対日輸出拡大などエネルギー面での協力を求めた。

オバマ大統領は首相の輸出要請に対し、「日本のエネルギー安全保障は米国にとっても重要」と理解を示す一方、「(対日輸出は)政策決定プロセスにある」として、明言は避けた。日本政府内には「少なくとも11月の大統領選までは、オバマ大統領が輸出認可に動く可能性は低い」との見方が強い。


2012/5/8  タイの合成ゴム工場で爆発事故 

タイのMap Ta Phut 工業団地にある合成ゴムメーカー、BST Elastomersの工場で5月5日、トルエンタンクが爆発して火災が起こり、11人が死亡、140人以上が重軽傷を負った。

工場はグレード変更のために停止中で、水分を除くためトルエンで設備を洗っていた。爆発の原因は不明。

すぐ近くにIndoramaの年産70万トンのPTAプラントなどがあるが、これらは稼働を続けている。

BST Elastomersはタイの化学メーカー
Bangkok Synthetics (BST)の子会社。

BST本体は以下の製品を生産している。
  ブタジエン 140千トン
  MTBE   55千トン
  ブテン-1   35千トンなど

BST Elastomersは1996年に下記各社による合弁会社として設立された。

BST 60%、タイ企業 8%
JSR 14%、日本ゼオン 12%、三井物産 3%、伊藤忠商事 3%  

JSR(Ni触媒)とゼオン(Ni触媒)の技術によるブタジエンゴム(4万トン)とJSR技術(エマルジョン重合)によるSBR(6万トン)プラントを建設、1998年に商業運転を開始した。

製品の主な販売先は、タイ国内外のタイヤ、PS樹脂、工業用品、履き物メーカーで、タイ国内の販売はBST Elastomersが行い、輸出はJSRとゼオンが支援、協力した。

その後、JVを解消し、現在はBSTの子会社となっている。
現在の能力はBRが5万トン、SBRが7万トン。

タイでは他に宇部興産がJVでBRを生産している。

会社名Thai Synthetic Rubbers
設立  :1995/11
出資  :宇部興産 73.1%、丸紅 13.0%、TSRC(台湾) 13.0%ほか

能力  :当初 50千トン、2006年の増設後 72千トン

ーーー

JSRはこのJVからは離脱したが、別途2011年6月にBSTとS-SBRの製造のJVを設立した。

会社名:JSR BST Elastomer Co., Ltd.
工場 :
Map Ta Phut  
出資  :
JSR 51%
    BST 49%  
能力 :S-SBR 第一期 50千トン (2015年に 100千トンに)

2012年3月に起工式を行った。2013年6月稼働予定としている。

S-SBRはエコタイヤと呼ばれる低燃費タイヤ向けへの需要が世界的に急拡大しており、JSRでは2011年12月に四日市工場で25千トンの増強を完了し、60千トンに生産能力を拡大している。

  
2010/12/27 溶液重合法SBRの増設相次ぐ

 建設中のこのプラントは事故現場とは2キロメートル離れており、直接の影響はない。
JSRではBSTからの要請があれば、個別に検討し可能な限りの支援を行っていく予定としている。

ーーー

Map Ta Phut 工業団地では、急激な重工業化にともない、住民たちが十数年前から大気や水汚染による環境・健康被害を訴えてきた。1990年代末には悪臭騒ぎで学校が避難・休校となり(数年後に移転)、「マプタプット公害問題」が全国でも知られるようになった。

タイ中央行政裁判所は2009年9月、同国東部のRayongMap Ta Phut地区で計画されている石油化学などの76事業について、健康影響アセスメントと公聴会が行われなかったのは違憲という訴えの最終判決を下すまで一時凍結するようタイ政府に命じた。

2009/12/4 タイ最高行政裁判所、マプタプットの石化計画などの凍結を継続

その後、ほとんどの計画が認められたが、住民の不満は強い。

2010/9/24 タイマプタプットで抗議集会開催か

今回の爆発事故を受け、住民の反応は厳しく、工場の再開を認めるべきではないとの声も出ている。

 


2012/5/9   Chesapeake Energyの混乱

米天然ガス2位、Chesapeake Energy は5月1日、創業者で会長兼CEOの Aubrey K. McClendonが会長職を辞すると発表した。CEO職には止まる。
独立した非常勤の会長候補を新たに探す。

ーーー

4月18日に同社の株価が一時10%近く急落した。

McClendon CEOがChesapeakeの石油・ガス井に対する個人持分を担保に過去3年間で11億ドルを借り入れていることをReutersが報じた。

Chesapeakeには創業者参加計画(FWPP:Founder Well Participation Program)という名の計画があり、McClendonが同社の数千にも及ぶ井戸の全てについて2.5%の持分を購入することを認めている。
借り入れた資金はこの個人持分の購入に使われていた。

借入金の一部はChesapeakeが取引している投資会社 EIG Global Energy Partnersからのもので利益相反の疑いがある。
この借入金については株主に公開されていない。

これを受け、同社は4月26日にこのFWPPを2015年末までの10年の期間が過ぎれば延長をしないと発表したが、5月1日になってこれを見直し、2014年6月末に終了させると発表した。

4月30日に Wall Street Journalは税務当局(IRS)がFWPPの調査を始めたと報じた。

Chesapeake Energy は5月1日、McClendonが会長職を辞すると発表した。

5月2日には、McClendon が2004年から2008年までの間にヘッジファンドを通じChesapeakeの扱う製品と同じ石油や天然ガスなどに2億ドルを投じていたと Reutersが報道した。
ヘッジファンドの石油やガスの取引は、McClendon がCEOとして市場を動かすような情報を得ている期間に行われており、 これらの情報を個人のために利用しているのではとの疑惑が起こり、この報道で株価は更に下がった。

ある上院議員は司法省に対し、詐欺、価格操作、利益相反、その他の違法行為がないか、Chesapeakeを捜査するよう求めた。

SECは非公式調査を開始しており、会社とMcClendon に対し、資料の保持を求めた。

S&Pは本件を懸念し、同社の格付けをBB+からBBに下げた。

ーーー

Chesapeak Energy はMcClendonがTom L. Ward(元社長)と二人で1989年に5万ドルの投資で始めたもので、現在では天然ガスではExxonMobilに次ぐ2位で、昨年の売上高は116億ドル。
America’s Champion of Natural Gas”、“the biggest frackers in the world”(シェールガスのFracking)と自称している。

同社の業績       

単位:百万ドル 

  2008 2009 2010 2011
売上高  11,629  7,702  9,366  11,635
営業損益 1,457 -8,945 2,805 2,921
純損益 504 -5,853 1,663 1,570
 2009年:減損その他で -11,202百万ドル

同社は過去5年で900万エーカーを超える土地をリースした。これは全てを掘削するのに30年かかるというもの。
そして新しいシェール層が見付かると、権利の獲得を続けた。

Chesapeake Energyの現在の主な鉱区は以下の通り。

 

このうち、Eagle Ford Shale については中国のCNOOCが60万エーカーのリース権益の33.3%を購入している。

2010/10/18  CNOOC、テキサス州のEagle Ford Shale projectに参加

BHP Billitonは、Chesapeake Energyからアーカンソー州のFayetteville Shaleの権益全てとパイプラインを47.5億ドルで買収すると発表した。

2011/2/23 BHP Billiton、米シェールガス鉱区を買収 

日揮は2011年6月、Chesapeake Energyからテキサス州 Eagle Ford シェールの権益の10%を65百万ドルで譲り受けた。


しかし、最近はシェールガスの供給拡大で天然ガス市況は昨年に50%下がり、直近では100万BTU当たり2ドルを割り、2001年以来の安値となっている。

天然ガスの供給過剰を懸念し他の業者が減産を始めたのに対し、McClendonは天然ガス価格の高騰に賭け、Chesapeakeは第1四半期に生産を18%増やしている。

この結果、同社の長期債務は100億ドルに達した。

このやり方は資産価値が高止まりする場合にのみ成功するが、天然ガス価格が近い将来高騰する可能性は少ない。

2012年第1四半期決算は予想外の赤字となった。

McClendon CEOの個人の行動だけでなく、彼の考え方で拡大を続けてきたChesapeake Energy自体が大きな問題を抱えている。


2012/5/10 Delta Air Lines、製油所を買収 

Delta Air Linesは4月30日、子会社のMonroe Energy LLCがPhillips 66との間でフィラデルフィアの南にあるTrainer refinery complex を買収する契約を締結したと発表した。

Monroe Energy LLCは同時に、BPとPhillips 66と原油供給とマーケティングに関する戦略的契約を締結した。

Trainer Refineryは精製能力日量185千バレルで、主に軽質の低硫黄原油を処理する。

ConocoPhillipsはスピンオフにより Exploration & Production事業のConocoPhillipsRefining & Marketing事業のPhillips 66に分かれた。
   2012/4/10  ConocoPhillips、川下事業をPhillips 66 として分離 

買収金額は150百万ドルで、ジェット燃料を最大限取るために100百万ドルを投資して改造する。
州政府から雇用創出とインフラ改良の補助として30百万ドルを受ける。

戦略的契約に基づき、BPは今後3年間、Trainer製油所で処理する原油を供給する。
また、BPとPhillips 66はTrainer 製油所で生産されたガソリンや他の留分と、両社が他の製油所で生産するジェット燃料を交換する。

Delta Airは製油所での生産と交換により得られたジェット燃料で同社が米国で必要とするジェット燃料の8割を確保する。

Delta Airでは新しいワイドボディの飛行機1機分のわずかな投資で年間3億ドルの燃料費の節約が出来、また燃料の安定供給が確保できるとしている。

上期中に買収完了し、ジェット燃料生産は第3四半期に始まる予定。設備の改造は第3四半期末には終わる。

ーーー

ConocoPhillips は(分離前の)2011年9月に、Trainer製油所の買い手を探しており、直ちに生産を停止し、6か月以内に売却できない場合は永久に停止すると発表した。

製品輸入、ガソリン需要の弱さ、規制への対応にコストがかかることなどから、米国東海岸の製油所は何年もの間厳しい状況にあるとしている。

このため、州の政府や議会は雇用維持のため製油所存続に動いていた。

Sunocoも2011年9月に、Refinery事業からも撤退し、Marcus HookとPhiladelphiaの製油所の売却手続きを開始したと発表した。
同社は石油化学からも撤退している。

2011/8/25 Sunoco、石油化学の売却を完了


2012/5/11  DuPont、大豆タンパクのSolae を100%子会社に

DuPontは5月1日、大豆タンパクと大豆食物繊維製品のJVのSolae LLC(ソレイ)を100%子会社にしたと発表した。
JV相手の
Bungeから28%の持分を440百万ドルで取得した。

Salaeの元はProtein Technologies International で、1958年に設立され、当初は産業用大豆タンパクのみであったが、その後食品などに展開した。

1997年にDuPont がRalston PurinaからこれをDuPont株式 15億ドルで買収した。

DuPontは2003年
4月にBunge Ltdとの合弁(DuPont 72%、Bunge 28%)でSolae LLC を設立した。
当初はDuPontのProtein Technology事業とBungeの北米と欧州の素材事業を新会社に移行し、第二段階でBungeのブラジルの素材事業を移行した。

ーーー

Solae LLCの14億ドル〜17.5億ドルでの売却を目指し、ファンドや欧州企業と交渉していると報じられた。

しかし、DuPontはその後、売却方針を変換し、逆に SolaeのBunge持株の28%を購入し、100%子会社にすることを検討した。

今回の100%子会社化に当たり、DuPontでは「同社はNutrition & Health事業に注力しており、今回の投資は、2011年のDanisco買収と並び、食品素材業界のリーダーとしての同社のポジションを強化するもの」としている。

ーーー

DuPontは2011年5月に、デンマークの食品用酵素や素材のメーカーのDanisco64.9億ドルで買収した。
Daniscoの工業用酵素事業(Genencor部門)とDuPontは2008年に50/50 JVDuPont Danisco Cellulosic Ethanol LLCを設立し、次世代バイオ燃料であるセルロース系エタノールの生産に取り組んでいる。

DuPontEllen Kullman会長兼CEOは、「Daniscoの食品添加剤事業と工業用酵素事業(Genencor部門)のDuPontへの統合は、Dupont自体のNutrition & HealthApplied BioSciences部門と相補い、工業用バイオサイエンス、栄養、健康分野で業界のリーダーになれる」と述べた。

2011/5/27  DuPontDaniscoの買収成功 


2012/5/12 電力の需給検証委員会 

政府は5月10日、電力会社の今夏の需給見通しが妥当かどうかを点検する需給検証委員会の第5回会合を開き、需給予測の最終報告書案を議論した。

政府は4月8日、関西電力の管内のことし夏の電力需給について、最新の見通しをまとめた。
しかし、これに対する疑問が呈されたことから、枝野経産相がやり直しを指示した結果、4月13日に修正案が提示された。
  2012/4/16 関西電力の電力需給予想

関西電力の需給予想に対しては多くの疑問が出ている。
このため、政府は4月11日、各電力会社が申告している電力需給見通しを審査する有識者会議を新設する方針を決めた。第三者の評価を採り入れて予測の精度を高めるもの。

今夏の電力需給見通しは下記の通りとなった。

原発稼働をゼロと想定した電力9社の8月の需給見通し (万キロワット
電力会社 供給力 最大需要 需給
過不足
予備率
  
%
随時調整
契約効果
込み %
北海道 485 500 -16 -3.1 -1.9
東北 1,475 1,434 41 2.9  
東京 5,771 5,520 251 4.5  
中部 2,785 2,648 137 5.2  
関西
(大飯稼働)
2,542
(2,988)
3,015
 
-473
(-27)
-15.7
(-0.9)
-14.9
(0.0)
北陸 578 558 20 3.6  
中国 1,235 1,182 53 4.5  
四国 587 585 2 0.3  
九州 1,574 1,634 -60 -3.7 -2.2
合計 17,032 17,076 -45 -0.3 0.1
 最大需要は2010年夏並みの猛暑を想定。

関西電力については、事務局が委員の求めに応じ、参考として大飯原発の供給力を見込んだ試算を提出した。

2基を合わせると計236万キロワットの出力がある大飯原発の再稼働で、夜間にくみ上げた水で発電する揚水発電の出力も増加し、電力需給が逼迫した時に企業に電気使用を抑えてもらう「随時調整契約」を見込んだ場合、電力不足は解消される。
随時調整契約を考慮しない場合は0.9%の電力不足となる。

この試算は、地元などに「再稼働か、使用制限か」を迫るものとして、反感を呼んでいる。
滋賀県では、「再稼働で需給の帳尻が合う新試算公表は予想された筋書。再稼働はあくまで安全性確保が条件」としている。

関電はこれまで、再稼働しても5%程度の電力不足になるとの見通しを示していた。
松井一郎大阪府知事は「『再稼働しても足りない』という話だったのに、今度は『足りる』という見解がでた。何を信じていいのか」と批判した。
「(原発を)動かせば足りると、誘導されていくのは理解できない」と述べ、政府や関電への不信感を示した。

ーーー

政府は4月23日、今夏の電力需要や供給能力を精査する「需給検証委員会」の初会合を開いた。

4月26日の第二回会合で、電力会社から提出を受けた供給力見通しをこれ以上積み増すことは難しいという見方でおおむね一致した。

昼間の電力需要ピーク時は、夜間の余剰電力でくみ上げた水で発電する揚水発電に期待がかかるが、原子力発電所が軒並み停止したことで夜間の余剰電力がそれほど生まれず、従来ほど貯水量を確保することができないと判断した。


 

企業の自家発電設備も、既に電力会社の見通しに最大限盛り込まれているとした。

電力融通については下記の通りが計画されている。

  最高想定
需要時
夜間最大
関西電力 110万kw 240万kw
中部電力  -100万kw  -230万kw
北陸電力 -6万kw -18万kw
中国電力 -49万kw -92万kw
九州電力 45万kw 101万kw

計算上はもっと余力があるが、火力等の電源脱落等のリスクがあることから、現時点で「安定的に必要とされる予備率」を下回るような融通の上積みは難しい。1週間前か前日になれば、リスクが見通せるようになり、融通量が増加する可能性 はあるとしている。

各電力会社は当然、安全を見ている。トラブルがなければ、融通量が増え、不足とならない可能性はある。

なお、電力会社各社のピーク時の使用電力の見通しに盛り込んだ節電効果がバラバラであることが分かった。

東京電力   10% (610万kw)
九州電力   7%  
       
関西電力   3% (102万kw)
中部、北陸   4%  
北海道、東北、四国   3%  
中国   2%  

5月2日の第3回会合では、検証委は「関電の見通しよりも、節電による需要削減などが期待できる」と判断し、不足幅を15%に圧縮した。

関電は、今夏の節電効果を102万キロワットとし、16.3%不足すると説明していた。

これに対し委員会は、一般家庭の節電意識の高まりなどで、需要予測に関電の申告より節電効果が15万キロワット多く反映できるとした。

また、需要の逼迫時に限り企業に電気の使用を抑えてもらう「随時調整契約」で、最大需要から28万キロワットを差し引けると想定、43万キロワットの需要削減を見込んだ。

電力会社 供給力 最大需要 需給
過不足
予備率
 (%)
当初 2,535 3,030 -495 -16.3
今回 2,535 2,987 -452 -15.1
差異  

節電  15
契約   28

   

関西電力の需給をまとめると以下の通りとなる。(万kw)

  能力 2011夏
実績

2012/8見通し

4/23
需給検証
委員会
5/7
需給検証委員会
2011夏
並み
2010猛暑
並み
過去5年
平均
大飯
稼働無し
大飯
 稼働
需要@   2,784 2,784 3,095 3,023 3,030 3,015 3,015
需要A
 随時調整契約
            2,987 2,987
供給力
(除 原発)
4,079
(3,046)
2,947
(2,611)
2,631 2,525 2,540 2,535 2,542 2,988
過不足@   163
(5.9%)
-153
(-5.5%)
-570
(-18.4%)
-483
(-16.0%)
-495
(-16.3%)
-473
(-15.7%)
-27
(-0.9%)
過不足A
 随時調整契約
            -445
(-14.9%)
1
(0.0%)
                 
原子力 977 337 0 0 0 0 0 236
火力 1,697 1,415 1,472 1,472 1,472 他社込み
1,923
他社込み
1,923
他社込み
1,923
一般水力 331 225 203 203 203 254 254 254
揚水 488 448 312 206 221 232 239 449
太陽光 0 0.2 0.2 0.2

含地熱 5

5 5
自社合計 3,494 2,425 1,987 1,881 1,896      
他社一般 585 405 523 523 523      
融通 0 118 121 121 121 121 121 121
他社合計 585 523 644 644 644      
総合計 4,079 2,947 2,631 2,525 2,540 2,535 2,542 2,988
原発除く 3,046 2,611            

2012/5/14 2012年3月期決算−武田薬品工業 

武田薬品の営業損益は2010年3月期以降、毎年減少しており、今期は前年比1,021億円の大幅減益となった。
2013年3月期は更に大幅な減益を予想している。

単位:億円 (配当:円)
  売上高 営業損益 経常損益 当期損益   配当
中間 期末
2010/3 14,660 4,202 4,158 2,977 90 90
2011/3 14,194 3,671 3,716 2,479 90 90
2012/3 15,089 2,650 2,703 1,242 90 90
前年比 895 -1,021 -1,012 -1,237    
2013/3予 15,500 1,600 1,500 1,550 90 90

医薬品業界では2010年前後に大型医薬品の特許が一斉に切れる。(「2010年問題」)

武田薬品でも2011年3月期決算で製品別売上高 3,879億円のトップ製品のチアゾリジン系経口糖尿病治療薬・アクトスが、単剤が2012年8月、合剤のアクトプラスメッドとデュエットアクトが同年12月に米国で特許が失効する。
アクトスの売上高のうち3,400億円が海外分で、そのほとんどがアメリカ市場であり、アメリカ市場では後発品上市から半年間で先発薬売上高の約7割が消えるとされる。

この対策として同社は2011年9月末にNycomedを買収した 。

2011/5/23 武田薬品、Nycomed社を買収

当期の1,021億円の減益のうちには、この買収に伴う企業結合会計の影響が770億円含まれている。

売上高はNycomedの半年分の追加が既存事業の減収を補って 895億円増えたが、Nycomed 保有の棚卸資産を時価評価したこと (550億円のコスト増)等で売上原価が増加し、売上総利益は261億円の減益となった。

販売費・一般管理費で、研究費は70億円減となったが、その他の費用が830億円増加し(うち、Nycomed の無形固定資産等の償却が200億円)、差引760億円の減益要因となった。

以上により、営業損益は1,021億円の減少となった。

同社はNycomed買収に伴い、2011年11月4日の第2四半期発表時に、下記の通り業績予想を1200億円下方修正している。 
実績はほぼこの通りとなった。  

    既存事業の減益    - 550億円
    Nycomed 事業の利益    +120億円 
 Nycomed 企業結合合計    - 770億円
  (棚卸資産の時価評価)  売上原価   (-570億円)
  (残り 無形固定資産等償却)  販売管理費  (-200億円)

2013年3月期については、Nycomedがフルに貢献、更に4月に買収合意した米薬品メーカーのURL Pharmaの売上高が加わり増収となるが、買収に伴う無形固定資産、のれん償却費の増加に加え、研究開発費も増えるため、営業利益、経常利益はともに約4割の大幅減となる。

Nycomedの買収にかかるのれん代と無形資産の償却費は年630億円。Nycomedの営業利益は600億円とされ、償却後ではマイナスとなる。

武田薬品は4月11日、痛風の予防および治療薬を扱うURL Pharma, Inc.(2011年売上高約600百万ドル)を800百万米ドルで買収することで合意した。
買収完了後、武田ファーマシューティカルズUSAに統合する。

なお、移転価格税制に基づく更生処分について一部を取り消す異議決定書が出て、455億円が還付され、還付加算金が116億円支払われるため、当期損益は増益となる。

同社は5月7日、残り246億円全額の取り消しを求める審査請求書を、大阪国税不服審判所に提出した。


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