2014-8-2 ブログ 化学業界の話題 knakのデータベースから      目

ブログ 化学業界の話題 knakのデータベースから      目次

これは下記のブログを月ごとにまとめたものです。

最新分は  2006-5-1 http://blog.knak.jp


2014/8/18  Sinopec Engineering、カザフスタン石化計画から撤退   

Sinopec Engineeringは2013年6月にKazakhstan Petrochemical Industries との間で、Atyrau石化計画のうちのプロパン脱水素とPPの設計・購買・建設契約(18.5億ドル)を締結したが、このたび、この契約を解約した。昨年来、細目について交渉を続けてきたが、合意に達しなかったとしている。

今後、他の業者が選ばれることとなる。

習近平主席が「シルクロード経済ベルト」を提唱、中央アジア諸国などとの経済協力を進める中で、既に締結した契約を解約するのは異例であり、また同社はカザフスタンで他の仕事も請け負っていることも考えると、余程の問題があったのではと思われる。

Sinopec Engineeringでは、これが既存の事業、今後の事業計画に悪影響がないことを望むとしている。

Sinopec EngineeringはKazMunaiGasのAtyrau 製油所の近代化第2フェースの芳香族工場(ベンゼン 133千トン、パラキシレン 496千トン)の建設を請け負った。

また、同社と丸紅、カザフスタンのKazStroyServiceのコンソーシアムは2011年12月に、同製油所の近代化プロジェクト第3フェーズ案件(新しい流動分解接触装置の建設と、欧州環境基準に合致させるための機器など)のプラント設計・調達・建設契約を約17億米ドルで受注した。

Kazakhstan Petrochemical Industries (KPI) はカザフスタンの法律に基づき2004年に設立された。
国営石油会社KazMunaiGasの傘下のUnited Chemical Company LLPが51%、私企業の SAT & Company JSCが49%を保有する。
(LyondellBasell が一時出資を検討したが、取り止めた。)

カザフスタン政府は世界市場でのプレーヤーになることを目指し、海外大手と提携して、西カザフスタンの天然ガスを利用して大規模石油化学コンプレックスを建設することとした。

まず、アラブ首長国連邦アブダビの国際投資会社IPICが2008年にKPIの親会社の国営石油・ガス会社KazMunayGas との間で、西カザフスタンで石油化学コンプレックスを建設する覚書を締結した。 この件は実現しなかった。

2008/1/21 カザフスタンの石油化学計画

現在の計画は2期に分かれ、第1期はTenghiz ガス田のNGLからとったプロパンを脱水素し、プロピレンからPPを生産するもので、第2期はエタンからエチレン、PEを生産する。

立地はAtyrau市の北東33kmで、KazMunaiGasのAtyrau Refineryがあり、既存のインフラが使用できる。

2009年3月にKPI はTenghiz ガス田を開発するTengizechevroil との間でガスの供給契約を締結した。

Tengizchevroil の株主はChevron (50%)ExxonMobil (25%)KazMunaiGas (20%) とロシアのLukArco (5%) となっている。

各製品の能力、採用技術、建設会社は下記の通りとなっている。
第1期の建設を担当するSinopec Engineeringが今回撤退を決めた。

    Technology Basic Engineering Engineering, Procurement, Construction
1st phase PDH
(プロパン脱水素) 
500,000 t/y Lummus
(CB&I )
CATOFIN® CB&I
 
Sinopec Engineering Group
 
PP   500,000 t/y Novolen®
2nd phase Ethylene 
(Ethane cracker)
840,000 t/y LyondellBasell Lupotech® T   LG Chem
 
LDPE  400,000 t/y Spherilene®
LLDPE/HDPE  400,000 t/y


韓国の李前大統領は2011年にカザフスタンを訪問し、資源・エネルギー分野の協力強化で合意したが、その際、LG化学とKazakhstan Petrochemical  (KPI) はAtyrau石油化学団地建設と関連の合弁契約に署名した。

50/50JVを設立し、カスピ海近くのTengiz油田から出るエタンガスを活用してエチレン、ポリエチレンを製造する。
LG化学が工場建設・運営・製品販売を担当する。

2011/8/29   韓国の李大統領、中央アジア3か国歴訪、ガス田開発、石化事業などで合意 

 


2014/8/19  パイプライン大手のKinder Morgan、投資事業体を統合 

米パイプライン運営大手 Kinder Morganは8月10日、同社がグループの上場投資事業体のMaster Limited Partnership (MLP) 等の投資家から総額710億ドルで持分や株式を買い取るなどして、単一企業に統合すると発表した。

Kinder Morgan Inc. はRichard D. Kinder(現会長兼CEO)とWilliam V. Morgan(前副会長)が1997年にEnron CorporationからEnron Liquids Pipeline Companyを40百万ドルで買収したのが始まり。(現在のKinder Morgan Energy Partners, L.P.)

二人はこれをMLPのシステムを利用し、今までにないエネルギー会社に育てた。

MLP(Master Limited Partnership)はエネルギーインフラへの投資促進を目的として、1980年代に米国で誕生し、その後発展してきた共同投資事業形態の1つで、Limited Partnershipのもつ米租税法上のメリットと上場株式の流動性を併せ持つ。

MLPは経営にあたるGeneral Partner と一般投資家のLimited Partner から成る。
MLPはニューヨーク証券取引所やナスダック等で取引されている。

Limited Partnerは事業収益の一部を配当として受け取る。配当は必ずしも現金で支払われる必要はなく、内部留保とすることができる。

MLP自体には法人税がかからず、課税は個々のLimited Partnerに対して行われる。
内部留保となった配当に対しては、Limited Partnerは自分の持ち分を売却するときまで課税を先送りできる。

ただしMLPはその収益の9割以上は利息配当収入、不動産賃料、天然資源、商品によるものでなければならない。
原油や天然ガスの採掘・輸送など安定収益が見込める事業を行っている会社が多い。

エネルギー会社は石油やガス価格の変動で損益が変動するが、パイプライン会社は長期契約で設備利用料を受け取るため、安定した収益が期待できる。

ーーー

同社は1999年にNatural Gas Pipeline Company of America (NGPL)を所有するKN Energy を買収した。(現在のKinder Morgan, Inc.)

2001年に Kinder Morgan Management, LLCを設立した。

2011年10月にEl Paso Corporation を380億ドルで買収した。(現在のEl Paso Pipeline Partners, L.P.)

同社はその後 改組し、現在の形態は以下の通りとなっている。

Kinder Morgan, Inc.  両MLPのGeneral Partner、Kinder Morgan Management の株主
Kinder Morgan Management, LLC Kinder Morgan Energy PartnersのGeneral Partner
Kinder Morgan Energy Partners, L.P. MLP
46,000 milesのパイプライン(天然ガス、ガソリン、原油、CO2、その他)
180のターミナル(石油製品、化学品を貯蔵、エタノール、石炭、石油コークス、鉄鋼を取り扱い).
El Paso Pipeline Partners, L.P. MLP
13,000 miles のパイプライン
100Bcf 以上の天然ガス貯蔵能力

Cochin Reversal NGL pipeline はイリノイ州からカナダのFort Saskatchewanに light condensate を輸送。

Kinder MorganはShellとのJVを設立し、ジョージア州Savannahの近くのEl Paso Pipeline の既存のElba Island LNG Terminalに 2段階で天然ガス液化プラントを建設する。

2013/1/30 Shell、LNG輸出用の天然ガス液化プラント建設

CO2の供給も同社の事業の一つで、子会社のKinder Morgan CO2 Company はCO2の最大の販売業者かつ輸送業者。
CO2は地下のドームから高純度で取り出され、老朽油田での原油の増進回収(enhanced oil recovery)に使用される。
同社が権利を持つ
コロラド州の McElmo Dome は世界最大のCO2埋蔵量を持つ。

今回、Kinder Morgan, Inc.はKinder Morgan Management, LLCの株主と、Kinder Morgan Energy Partners, L.P.、El Paso Pipeline Partners, L.P.の両MLPの権益所有者からKinder Morgan, Inc.の株式と交換に全ての株式・権益を買い取る。MLPの場合は現金での買い取りも行う。

これにより、全ての事業が一つの経営体となる。

統合の目的は、事業の拡大である。

パイプライン会社は長期契約で設備利用料を受け取るため、安定した収益が期待でき、実際に同社は高配当であるが、税制上利点のあるMLP という仕組みがあまりに複雑であり、事業の拡大の支障となっている。

今後は一般会社として、M&Aを活用した事業拡大をめざす。

Kinder会長は投資家向け電話会見で「当社は幅広いプラットホームを持っている。石油ガス関連のミッドストリーム分野なら事実上何でもわれわれに適している」と述べた。「コア事業からそれることはない」とも述べ、トラック輸送や鉄道を買収することはないとしている。

 



2014/8/20    中国が日本のベアリングメーカーのカルテルに制裁金  

中国国家発展改革委員会(NDRC) は8月19日、日本のベアリングメーカーの不二越、日本精工、NTN の3社に対し、中国国内におけるベアリング(軸受)の取引に関して独占禁止法に違反する行為があったとする決定を伝えた。

付記 ジェイテクトにも1億0936万人民元の制裁金が課せられた。

中国では自動車及び自動車部品に対する独禁法調査が進められており、NDRC は8月6日、自動車部品とベアリングの価格カルテルに絡む日系企業12社に対する調査を完了したと発表した。

2014/8/12 中国、自動車部品メーカーの価格カルテルの取締りを強化へ

今回の決定は以下の通り。

    制裁金  
NTN   1億1,916万人民元(約19億円)  
日本精工   1億7,492万人民元 (約29億円)  
不二越   全額免除 委員会による調査への全面的な協力
ジェイテクト  1億0,936万人民元  

なお、シンガポール競争委員会は本年5月27日、違法な価格カルテルを結んでいたとして、不二越、日本精工、NTNの3社に制裁金計約930万シンガポールドル(約7億5千万円)の支払いを命じたと発表した。


カルテルには、ジェイテクトも関与していたが、カルテルの存在を認め、シンガポール当局に協力したため制裁金を免れた。

    制裁金
NTN 455,652シンガポールドル   (約37百万円)
日本精工 1,286,375シンガポールドル        (約1億円)
不二越 7,564,950シンガポールドル(約6億1千万円)
ジェイテクト

      免除

ジェイテクトは2006年1月に光洋精工と豊田工機が合併
NTNは旧東洋ベアリング

ーーー

ベアリングについては、日米欧でカルテルが摘発されている。

1)日本

公取委は2012年6月、日本精工、NTN、不二越の3社と各社の担当役員ら7人を東京地検に告発、地検は3社を起訴し、担当役員ら7人を在宅起訴した。
ジェイテクトは自主申告したため告発対象から外れた。

公取委は2013年3月29日、排除措置命令及び課徴金納付命令を行った。

現在の状況は以下の通り。

  排除命令

課徴金

罰金
命令
(千円)
減免 現状 判決
(千円)
現状
NTN 7,231,070   審判中   裁判中
日本精工 5,625,410 30%

審判中

 380,000  
不二越 509,390 30%    180,000  
ジェイテクト 100%    
合計   13,365,870        

不二越、日本精工の5名に懲役1年ないし1年2月(いずれも執行猶予 3年)の有罪判決。

なお、NTNの株主が2013年9月2日、鈴木泰信会長や歴代の取締役ら計23人を相手取り、「カルテルに故意に関与したり、存在を知り得たのに看過したりして放置した過失がある」などとして、課徴金約72億円を同社に賠償するよう求める株主代表訴訟を大阪地裁に起こした。

2012/4/23 東京地検、ベアリング大手4社をカルテル容疑で家宅捜索

2)米国

自動車部品カルテルで多数の日本企業が罰金支払いで同意しているが、ベアリング関係では2社が含まれている。

ジェイテクト 103.27百万
日本精工   68.20百万

2013/10/1 米司法省、自動車部品カルテルで更に9社、2名と司法取引 

なお、ジェイテクトは2013年7月13日、ベアリング(軸受け)製品の取引にからみ価格カルテルを行ったとして、カナダ東部ケベック州の裁判所から500万カナダドルの罰金支払いを命じられたと発表した。


3) EU

EUの欧州委員会は2014年3月19日、自動車向けのベアリングで、日本企業4社と欧州企業2社の計6社が2004年から7年以上にわたって欧州内でカルテル行為を実施したとして、うち5社に9億5300万ユーロの制裁金を科したと発表した。

ジェイテクトはカルテルの存在を通知したため、制裁金 86,037,000ユーロを免除された。

 

Leniency

示談制度割引

制裁金 (€)

ジェイテクト 100% 10% 0
日本精工 40% 10% 62,406,000
不二越  30% 10% 3,956,000

SKF (Sweden)

20%

10%

315,109,000

Schaeffler (Germany)

20%

10%

370,481,000

NTN

 

10%

201,354,000

Total

   

953,306,000

2014/3/22 EU、ベアリングカルテルで制裁金



2014/8/20    中国が日本の自動車部品メーカー12社にカルテルで制裁金  

国家発展改革委員会(NDRC)は8月20日、日本の自動車部品メーカー12社にカルテルで制裁金を課したと発表した。

「各社とも10年以上にわたって談合を繰り返していた。中国の消費者の利益を損なう悪質な違反行為だ」としている。

NDRCは制裁金のほか、各社に以下の行動をとるようを命じた。

 (1)中国の法律に従って販売政策と販売行為を見直す
 (2)全社員に独禁法関連の教育を実施する
 (3)競争を維持し、消費者の利益に貢献する行動を即座に取る

本日、ベアリング3社の制裁金を報告したが、今回の発表でジェイテクトにも制裁金が課せられたことが判明した。

各社の制裁金は以下の通り。

  制裁金  
電装部品
  日立オートモティブシステムズ 全額免除 最初に通報し、重要証拠を提出
日本電装 1億5,056万元  2番目に通報し、重要証拠を提出、年間売上高の4%
愛三工業 2,976万元 2品目以上のカルテル、年間売上高の8%
三菱電機 4,488万元
ミツバ 4,072万元
矢崎総業 2億4,108万元 1品目(ワイヤーハーネス)のカルテル、年間売上高の6%
古河電工 3,456万元
住友電工  2億9,040万元
ベアリング
  不二越 全額免除 最初に通報し、重要証拠を提出
日本精工 1億7,492万元 2番目に通報し、重要証拠を提出、年間売上高の4%
ジェイテクト 1億0,936万元 輸出市場会議を提案年間売上高の8%
NTN  1億1,916万元 2006年9月にアジア研究会を離脱したが、会合には参加、年間売上高の6%
総合計 12億3,540万元  

制裁金合計は12億3,540万元で、約200億円で、海外企業を対象にした中国の独禁法違反では過去最大の摘発となった。
最高額は住友電工の約48億円。

制裁金の根拠を見ると、一般が年間売上高の8%で、事情を勘案した割引が行われている。

 ・最初に通報し、調査に協力:免除
 ・二番目に通報し、調査に協力:4%
 ・単品のカルテル:6%
 ・カルテルから離脱(但し会合には参加):6%

ーーー

自動車用ワイヤーハーネスについては、
2010年2月24日に日本、米国、欧州で同時に立入り検査等を受けた案件と同様の事案を、NDRCが調査していたもので、日米欧での処罰は下記の通り。

1)日本

公取委は2012年1月19日、トヨタ自動車等の自動車メーカーが発注する自動車用ワイヤーハーネス及び同関連製品の見積り合わせの参加業者らに対し、排除措置命令と課徴金納付命令を行った。

  排除
命令
課徴金額 (千円)   《 》は減免率
トヨタ
    向け
ダイハツ
     向け
ホンダ
    向け
日産
   向け
富士重工
    向け
合計
矢崎総業 5 4,979,950
《30%》
872,150
《30%》
2,763,500
《30%》
440,030
《30%》
551,500
《30%》
9,607,130
 
住友電気工業 738,610
《50%》
482,950
《50%》
880,660
《50%》
0
《100%》
2,102,220
 
フジクラ 1件 1,182,320
《30%》
 

1,182,320
 

古河電気工業 0
《100%》
0
《100%》
0
《100%》
0
《100%》
0
 
合計 12,891,670
 

古河電工は立ち入り検査前に最初に自主的に報告したため、課徴金を全額免れた。

矢崎総業の96億円は、1社に対する課徴金額として過去最高額

フジクラから課徴金納付命令に係る審判請求が行われたが、公取委は2014年6月9日、審判請求を棄却する旨の審決を行った。

2012/1/28  公取委、自動車用ワイヤーハーネスのカルテルで課徴金 

なお、光ファイバーケーブルと自動車用ワイヤーハーネスの2件の価格カルテルで課徴金合計88億円を支払った住友電工に対し、同社の株主が当時の経営陣に同額の損害賠償を求めた株主代表訴訟で、2014年5月7日、経営陣側計22人が同社に解決金5億2000万円を支払うことなどを条件に大阪地裁で和解が成立した。

2014/5/9 住友電工の株主代表訴訟が和解 


2)米国

自動車部品カルテルで多数の日本企業が罰金支払いで同意しているが、ワイヤーハーネス関係は以下の通り。

 

企業の罰金

従業員

禁固刑 罰金
古河電工 200 百万ドル 社員3人(1年と1日、15か月、18か月) それぞれ2万ドル
矢崎総業 470百万ドル 社員2人(各15か月)、2人(各2年)、
2人(各14ヶ月)
フジクラ 20百万ドル 2人が起訴されている。

2012/2/1   矢崎総業とデンソー、自動車用ワイヤーハーネス等のカルテル問題で米司法省と司法取引

2011/10/4 古河電工、自動車用ワイヤーハーネス・カルテル問題で米国司法省と合意 

3)EU

EUの欧州委員会は自動車部品カルテルの摘発を進めているが、2013年7月10日、ワイヤーハーネスのカルテルに制裁金を課した。

  制裁金(€)
矢崎総業 125,341,000
古河電気工業 4,015,000
住友電気工業 0
S-Y Systems Technologies
(矢崎総業)
11,057,000
Leoni (ドイツ) 1,378,000
合計 141,791,000

2014/8/21  中国電力、出光興産から豪州石炭鉱山の一部権益を取得

中国電力は8月18日、出光興産から豪州のボガブライ(Boggabri) 石炭鉱山の権益の一部を取得し、同石炭鉱山からの石炭長期購入契約を締結したと発表した。同鉱山の資産および生産・販売の権利の10%の権益を取得する。

国内電力会社による炭鉱の権益取得は珍しく、中国電力が石炭の上流権益を取得するのは今回が初めて。

ボガブライ鉱山は、豪州ニューサウスウェールズ州に位置し、出光興産のBoggabri Coal Pty Ltd.が権益を保有し操業している。

生産開始 2006年
鉱区面積 約3,872ヘクタール
採掘方法 トラック・アンド・ショベル法による露天掘り
石炭品位 瀝青炭(燃料用一般炭および原料炭)
生産量 約540万t/年(2014年計画)
2015年以降はさらなる増産と選炭機導入による高品位化および鉄鋼用原料炭生産を予定
特徴 高発熱量・低硫黄・低灰分で、かつ原料炭特性(粘結性)を有する石炭を生産

ボガブライの石炭は発熱量が比較的高く、効率的に発電できる品質。
安く品質の低い石炭と混ぜて使うことも可能で「安い石炭をたける範囲が広がる」。

中国電力では、 「当社初」となる今回の石炭の上流権益の取得は,重要なベース電源である石炭火力発電用燃料の長期安定確保に寄与するとしている。

ーーー

中国電力は火力発電が主要電源で、発電量の5割強を石炭火力に頼る。(日本全体では30%程度)

 


なお、日本の一般炭の輸入先は下記の通りで、豪州が約7割を占める。



ソース:http://www.rist.or.jp/atomica/data/pict/01/01030101/03.gif

ーーー

出光興産は、オーストラリアにEnsham(出光85%/LG 15%)、Muswellbrook(100%)、Boggabri (100%) と隣接するTarrawonga(出光 30%/Whitehaven 70%)の4つの石炭鉱山を所有しており、その権益分の生産量は年産約10百万トン。

石炭は主にアジア諸国に輸出されている。


2014/8/22    Ineos、スコットランドのシェールガス開発に参加  

Ineosは8月18日、英国のPEDL(Petroleum Exploration and Development Licence)の133鉱区の権益の51%を取得し、初めてシェール開発に参加すると発表した。

PEDL 133鉱区はMidland Valleyにあり、IneosのGrangemouth石油精製・石油化学コンプレックスを含む329km2をカバーする。

IneosのGrangemouth complex では米国からシェールガスエタンを輸入するためのインフラを建設中で、燃料及び原料として使用する。
同社はまず、ノルウェーのRafnes工場とGrangemouthで輸入エタンを使用する。

2012/10/2   Ineos、米のシェールガスからのエタンを欧州のエチレン原料用に輸入

Ineosでは、「昨年来、米国からシェールガス探査・開発の専門家を招聘している。シェールガスを燃料及び原料として使用できる数少ない企業の一つであり、これは当然の行動である」としている。

同社はPEDL 133鉱区の権益の51%をBG Groupから購入する。購入金額は明らかにしていない。
残りの49%はDart Energyが所有している。

Dart Energyでは、同鉱区には4.4兆立方フィート(tcf) のガスが埋蔵されていると推測している。

Dart Energyは英国のシェール開発企業の一つだが、2014年5月に同業のIGas Energyが買収を決めた。

ーーー

英国では、2011年5月にイングランド北部での坑井作業中に微小地震が発生したためフラッキング(水圧破砕法) が禁止されていたが、2012年12月にエネルギー・気候変動省がフラッキングによる開発を許可すると発表した。

英政府は2013年に、シェールガス開発業者に対する減税案や、開発地域の住民に対する業界主導の利益還元策も発表するなど、シェールガス開発の促進に向け次々と政策を打ち出している。

キャメロン首相は本年1月、シェールガス開発の行われる自治体に対し税制優遇を行う方針を打ち出した。
プロジェクトから徴収する統一事業税のうち、自治体の取り分を現行の50%から100%に引き上げる。

国には技術的に採掘可能なシェールガスが 26兆tcf あるとみられて いる。

しかし、フラッキング(水圧破砕法)をめぐっては環境への影響を懸念する声も根強い。

ーーー

Paris, January 13, 2014 -  Total announces that it has acquired a 40% interest in two shale gas exploration licences in the United Kingdom. The interests are in Petroleum Exploration & Development Licences 139 and 140 in the Gainsborough Trough area of the East Midlands region of the UK which cover an area of 240 km2

Commenting on the acquisition, Patrice de Viviès, Total’s Senior Vice President for Northern Europe, said: “This opportunity is an important milestone for Total E&P UK and opens a new chapter for the subsidiary in a promising onshore play. The Group is already involved in shale gas projects in the US, Argentina, China, Australia and in Europe in Poland and in Denmark, and will leverage its expertise in this new venture in the UK.”

On completion of the transaction, Total’s partners in the project will be GP Energy Limited (a subsidiary of Dart Energy Europe) (17.5%), Egdon Resources UK Ltd (14.5%), Island Gas Ltd (IGas) (14.5%) and eCorp Oil & Gas UK Ltd (13.5%). IGas will be the operator of the initial exploration programme, with Total subsequently taking over operatorship as the project moves towards development.

- See more at: http://www.total.com/en/media/news/press-releases/total-becomes-first-major-enter-shale-gas-licences-uk?xtmc=shale%20%20uk&xtnp=1&xtcr=1#sthash.ioCQzXlY.dpuf
Paris, January 13, 2014 -  Total announces that it has acquired a 40% interest in two shale gas exploration licences in the United Kingdom. The interests are in Petroleum Exploration & Development Licences 139 and 140 in the Gainsborough Trough area of the East Midlands region of the UK which cover an area of 240 km2

Commenting on the acquisition, Patrice de Viviès, Total’s Senior Vice President for Northern Europe, said: “This opportunity is an important milestone for Total E&P UK and opens a new chapter for the subsidiary in a promising onshore play. The Group is already involved in shale gas projects in the US, Argentina, China, Australia and in Europe in Poland and in Denmark, and will leverage its expertise in this new venture in the UK.”

On completion of the transaction, Total’s partners in the project will be GP Energy Limited (a subsidiary of Dart Energy Europe) (17.5%), Egdon Resources UK Ltd (14.5%), Island Gas Ltd (IGas) (14.5%) and eCorp Oil & Gas UK Ltd (13.5%). IGas will be the operator of the initial exploration programme, with Total subsequently taking over operatorship as the project moves towards development.

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Paris, January 13, 2014 -  Total announces that it has acquired a 40% interest in two shale gas exploration licences in the United Kingdom. The interests are in Petroleum Exploration & Development Licences 139 and 140 in the Gainsborough Trough area of the East Midlands region of the UK which cover an area of 240 km2

Commenting on the acquisition, Patrice de Viviès, Total’s Senior Vice President for Northern Europe, said: “This opportunity is an important milestone for Total E&P UK and opens a new chapter for the subsidiary in a promising onshore play. The Group is already involved in shale gas projects in the US, Argentina, China, Australia and in Europe in Poland and in Denmark, and will leverage its expertise in this new venture in the UK.”

On completion of the transaction, Total’s partners in the project will be GP Energy Limited (a subsidiary of Dart Energy Europe) (17.5%), Egdon Resources UK Ltd (14.5%), Island Gas Ltd (IGas) (14.5%) and eCorp Oil & Gas UK Ltd (13.5%). IGas will be the operator of the initial exploration programme, with Total subsequently taking over operatorship as the project moves towards development.

- See more at: http://www.total.com/en/media/news/press-releases/total-becomes-first-major-enter-shale-gas-licences-uk?xtmc=shale%20%20uk&xtnp=1&xtcr=1#sthash.ioCQzXlY.dpuf

Total は2014年1月13日、英国East Midlands地区のGainsborough TroughのPEDL 139/140 鉱区(上の地図参照)の40%の権益をIGasから取得した。IGasはこれまで54.5%の権益を有し、同鉱区のオペレータであったが、Total がオペレータを引き継ぐ。

Total は石油メジャーとして初めて英国でのシェールガス開発を行う。


2014/8/23    クラレ、DuPontのビニルアセテート関連事業の買収完了 

クラレは8月21日、DuPont社のビニルアセテート関連事業の買収完了について記者会見を行った。

クラレは2013年11月21日、DuPont から同社のPackaging & Industrial Polymersの一部であるビニルアセテート (Glass Laminating Solutions/Vinyls)関連事業を 543 百万ドル+在庫相当額で買収する契約に調印した。

買収対象事業は、安全ガラスの中間膜として使用されるポリビニルブチラール(PVB)シート、ビニルアセテートモノマー(VAM)、ポリビニルアルコール(PVA)樹脂など で、建築分野・自動車分野等広範な産業分野において使用される製品群を有しており、当該事業の年間売上高は500 百万ドル以上となっている。

工場所在地は以下の通りで、他に、北中南米、欧州、日本、韓国、中国等に販売等の拠点があり、従業員は約600人。

 
米国: 3ヵ所(テキサス州、ノースカロライナ州、ウエストバージニア州)
  欧州: 2ヵ所(ドイツ、チェコ)
  アジア:1ヵ所(韓国)

2013/11/27      クラレ、DuPont のビニルアセテート関連事業買収 

2014年4月29日に欧州独禁当局から条件付認可を得た。

EUは建築用PVBフィルムで3社が2社(同社とEastman)に 減ることを懸念した。
このため、クラレは欧州での同製品のメインの生産工場であるドイツのUentropのPVBフィルム工場を売却することで承認を得た。
追って売却する。(プラス ベルギーのMechelenのR&D Center)

付記

クラレは2014年10月、対象事業をGVC Holdings の子会社のGVC S.A. に約12百万ユーロで譲渡する契約を締結した。
2015年1月31日、譲渡完了。

ーーー

 

6月1日、買収手続きを完了した。

ーーー

クラレは世界に先駆けてビニロン繊維の原料としてPVA の工業化に成功 、ビニルアセテート関連事業のパイオニアとして、PVA 樹脂、PVB 樹脂・フィルムのほか、PVA フィルム、EVOH(エチレン・ビニルアルコール共重合体)樹脂(クラレ商標<エバール>)、PVA 繊維ビニロンを世界的に展開している。

ポバール樹脂はクラレが世界で初めて事業化した機能性樹脂で、世界トップシェアを誇る。

水溶性、造膜性、接着性、乳化性、耐油性、耐薬品性などの特性をもち、紙加工剤、接着剤、塩ビ重合安定剤をはじめ、自動車のフロントガラス用中間膜原料などの様々な用途で使用されている。

ポバールフィルムは、大型薄型テレビをはじめモニター、パソコン、携帯電話等のLCDの表示に欠かせない偏光フィルムのベースフィルムで、同社の製品は30年以上前からほぼ独占的にこの分野に使用されてきた。

光学用ポバールフィルムの世界シェアで約8割を占める。
日本合成化学工業が これに続き、世界市場でもこの2社でほぼ独占している。

PVB(ブチラール)樹脂はポバールを主原料とする樹脂で、安全ガラスの中間膜、燃料電池用セルなどファインセラミックス用のバインダー、塗料・インク用のバインダーなどの用途に幅広く用いられる。

PVBフィルムは、その優れた透明性、ガラスとの接着性、耐貫通性を生かし、建築用の安全合わせガラスや自動車のフロントガラスなどの中間膜に使用されている。近年は太陽電池の封止材用途へも拡大している。

EVOH(エチレン・ビニルアルコール共重合体)樹脂のエバールはプラスチックの中で最高の気体遮断性をもつ機能性樹脂で、酸素を遮断して内容物の劣化を防ぐことから、各種食品包装材に広く使用されている。またプラスチック製ガソリンタンクや、床暖房用のパイプなど食品包装以外の分野でも需要が広がっている。

1972年にクラレが世界で初めて工業化した。クラレの世界シェアは約65%。

 

クラレは酢ビ系化学製品で自社開発とM&Aを融合し、事業を拡大、世界4極展開を図っている。

同社の現状は以下の通り。(数字は能力:千トン) 
 
は今回の買収(能力不明)
  日本 アジア 欧州 北米
酢ビ(VAM) 岡山 150         Texas  
PVA(ポバール)樹脂 岡山・新潟 124

Kurare Asia
Pacific
(Singapore)

40

Kurare Europe
     (増強中)
70
(24)

Kuraray   America
  
(Texas)

(40)

Texas

 
PVAフィルム 玉島・西条
(増強中)
      MonoSol                               

MonoSol
(Indiana)

 
PVB樹脂         Kuraray Europe 39

W.Virginia

 

N. Carolina

 
PVBフィルム     (検討中)   Kuraray Europe
子会社 Trosifol
34
2.5

N. Carolina

 
チェコ  

韓国

  ドイツ(売却予定)
〔買収承認条件〕
 
エバール 岡山 10 (検討中)   Eval Europe 24

Kuraray
 America
  
(Texas)
 

35
+12
アイオノマーシート            

N. Carolina

 

日本:

酢ビ:岡山工場で生産している。
   1983年に中条工場の天然ガス法酢ビ(86.4千トン)を休止。

PVAフィルム:

       2007年初めは西条3100万m2、玉島3000m2の合計6100万m2であったが、
   現状は 1億8000万m2となっており、2013年6月には西条増強で合計2億1200万uまで拡大する。
       西条工場の増強では大型液晶テレビ用偏光フィルムのための幅5000mmの広幅タイプの生産ができる。

アジア:

クラレは1996年10月、シンガポールに日本合成化学との50/50JVのPoval Asia を設立したが、2008年1月付けでクラレ 100%になった。
2008年7月にアジア・オセアニアのポバール樹脂販売会社Kuraray Specialities Asia と統合し、Kuraray Asia Pacificとした。

欧州:

  1) PVA、PVB事業

クラレは2001年にClariantのPVA、PVB事業を買収、Kuraray Specialities Europe GmbH を設立した。
工場はフランクフルトで、能力はPVA 50千トン、PVB 16千トンであった。その後増強。


2006年
9月に
Kuraray Europeが吸収合併した。

  2) PVBフィルム(Trosifol)

2004年11月にRütgers AGの子会社HT Troplast社から買収した。
工場はドイツの
トロイスドルフロシアのニジニノヴゴロド子会社 Trosifol)で、能力はドイツが34千トン 、ロシアが2.5千トン。
これにより、PVA樹脂→PVB樹脂→PVBフィルムの一貫体制を完成

2012年3月、世界的なPVBフィルムの需要拡大(特に新興国を中心に伸長する自動車用途)に対応し、増強を決定(能力非公表)。2013年11月稼働 。

  3) Eval Europe

1999年にベルギーのアントワープでエバールの生産を開始した。

     4) MonoSol (ポバールフィルム)英国:下記

米国 

当初、Eval Company of America を設立し、1986年にテキサス州パサディナでエバールを生産開始した。
その後、
Kuraray Americaに吸収合併した。

2011年1月に酢ビ・ポバール事業の拡大のため、エバール工場の近くに土地を購入。
2012年にPVA樹脂40千トンの建設決定(2014年9月完工予定)

クラレは2012年5月、米国のポバールフィルムのメーカーのMonoSol社を買収すると発表した。
MonoSolは、洗剤・農薬・染料などの個包装、人工大理石離型用など産業用ポバールフィルムではリーディングカンパニーの位置にある。
本件買収により、クラレはポバールフィルムに関し、偏光フィルム向けの光学分野だけでなく、広範な産業分野においてもグローバルリーダーとなるとしている。
工場は米国と英国。

クラレは2012年6月、テキサス州ラ・ポルテ市でのポバール樹脂生産設備の新設を決定したと発表した。
  生産能力:第一期 40,000トン/年、2014年9月完工予定

 


2014/8/25   東洋エンジニアリング、マレーシアで大規模石化プラント受注  

東洋エンジニアリングは8月21日、マレーシア国営石油会社 Petronasが同国南部ジョホール州Pengerang で計画している石油精製・石油化学総合開発計画 RAPID(Refinery and Petrochemical Integrated Development)のうち、中核をなすスチーム・クラッカー・コンプレックスを一括受注したと発表した。
客先PRPC Refinery and Cracker Sdn. Bhd.(マレーシア国営 Petronasの子会社)
建設地 ジョホール州Pengerang 
対象設備 エチレン製造設備、分解ガソリン製造設備、ブタジエン抽出設備、ベンゼン抽出設備、MTBE製造設備、用役および付帯設備
 原料はナフサ 
 2012年7月にCB&I の技術が採用されている。
役務内容 EPCC(設計、機器資材の調達、工事、試運転の一括請負 )
完成時期 2019年中旬を予定
受注金額 約2,400億円

報道によると、入札では、中国のSinopecが一番札を取得し、内示を受けていたが、技術的な面での対応が不十分と判断され、Petronasが 東洋エンジニアリングを選んだという。

Petronasは8月11日、上記を含め11件の契約を行ったことを明らかにしている。
製油所関連のEPCC(設計・調達・工事・試運転)が4件、付帯関連が6件と東洋エンジの合計11件で、製油所関連の1つには、千代田化工がコンソーシアムの一員として含まれている。

製油所関連:
 
残油流動接触分解装置 (RFCC)、LPG処理装置、プロピレン回収装置、caustic中和装置 consortium of
  CTCI Corp.(中鼎工程公司)
  千代田化工
  Synerlitz (Malaysia) Sdn. Bhd.
  MIE Industrial Sdn. Bhd.
原油蒸留装置、常圧残油脱硫装置、水素回収・供給装置 Sinopec Engineering (Group) Co. Ltd.
ケロシン水素化装置、ディーゼル水素化装置、ナフサ水素化装置ほか Tecnicas Reunidas SA(スペイン)
アミン回収装置、硫黄回収装置、Sour water 除去装置、液体硫黄貯蔵装置、硫黄固体化装置 Petrofac International (UAE) LLC

付記 

千代田化工建設は9月5日、残油流動接触分解装置 (RFCC)やLPGユニット等のEPC(設計・調達・建設)などを台湾のエンジニアリング最大手のCTCIなどと共同で受注したと発表した。受注額は1300億円。

ーーー

Petronasは2014年4月、ジョホール州Pengerang の総合石油コンプレックス PIPC(Pengerang Integrated Petroleum Complex)に270億米ドルの最終投資決定を行ったと明らかにした。

マレーシアの新たな成長を目指した経済改革計画の一環の事業で、今後の同国でのエネルギー需要を満たすと共に、アジア化学品市場におけるペトロナスの競争力強化を目指すもの 。

6,242エーカーの敷地内に、石油精製・石油化学総合開発(RAPID) のほか、コージェネレーション設備(1300 MW)、LNG受入基地、LNG再ガス化設備、空気分離装置、 真水供給設備、原油・製品タンク、ユーティリティーなどを建設する。

総投資額270億ドルのうち、RAPIDに160億ドル、その他に110億ドルを投じる。

RAPIDの内容は下記の通り。

 
製油所(日量30万バーレル):ガソリン・ディーゼル(欧州排ガス規制 Euro 4、Euro 5)、LPG、ナフサ

 ナフサクラッカー(製品合計300万トン/年)

 各種誘導品

 


石油化学については、能力その他は明らかにされていないが、断片的に以下の発表が行われている。

ナフサクラッカー

過酸化水素と酸化プロピレン
EvonikとPetronasは2013年1月、過酸化水素、1-ブテン、オキソ製品のJVを設立する覚書を締結した。

報道では過酸化水素は25万トン、1-ブテン 11万トン、イソノニルアルコール 22万トンとなっている。

酸化プロピレンはEvonikとThyssenKrupp Uhdeが開発したHPPO processを採用するとされている。


一部石油化学

2012年5月、伊藤忠商事およびタイのPTT Global ChemicalはPetronasとの間で一部石油化学事業の事業化調査に関する覚書を締結。

2012/5/21  伊藤忠、マレーシアの石油精製・石化計画(RAPID)に参加

ポリエチレン

INEOS Technologiesは2012年11月、LLDPE/HDPE(350千トン)計画に Innovene G 技術が採用されたと発表。


ポリプロピレン

Lyondellbasellは2012年12月、PP(2系列合計 900千トン)計画に Spheripol PP  技術が採用されたと発表。


合成ゴム

イタリアのEniの子会社の Versalis とPetronasは2013年11月、合成ゴム(4製品)の製造販売のJVの設立契約を締結した。
Petronasが60%、Versalisが40%を出資する。
 

キュメン、フェノール、ビスフェノールA  未定?


Specialty chemical products (取り止め)

BASFとPetronasは2012年3月、specialty chemical products のJV設立の覚書を締結した。
しかし、両社は2013年1月、合意に達しなかったとして、取り止めた。

 


2014/8/26    三井化学ファイン、多剤耐性菌にも効く「抗菌・除菌剤用高分子コロイド」販売開始 
 

三井化学ファインは8月21日、抗生物質が効かない多剤耐性菌にも抗菌・除菌効果を発揮する高分子コロイドの販売を開始すると発表した。
世界初の抗菌・除菌メカニズムである。

今後、多剤耐性菌による感染の効果的な防止対策として、抗菌・除菌スプレーやウエットティッシュ、衛生衣服などの製品開発を需要家と共に進めるとしている。

多剤耐性菌とは細菌のうち、変異して、多くの抗菌薬(抗生剤)がきかなくなった細菌のことでMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)、VRE(バンコマイシン耐性腸球菌)、MDR-TB(多剤耐性結核菌)などさまざまなものが全国に広がっている。

従来の抗菌・除菌剤は、薬理作用によって細菌の組織合成を阻害したり、機能を阻害することで効果を発揮する。
しかし、細菌が抗菌成分を無効化する酵素を作り出すことなどで、耐性菌へと変化する可能性がある。

今回の高分子コロイドは、城武昇一・高知大学医学部特任教授(元横浜市立大学大学院客員教授)が、細菌の構造と増殖過程に着目し開発したもの。

外科的用瞬間縫合剤のn-Butylcyanoacrylate と重合安定剤として糖類を使って粒径数百ナノメートル程度のナノ粒子を合成し、水に安定的に分散させたもので、特異な網目構造を持ち、菌の細胞壁のペプチドグリカンと特異的に結合する。

細菌は成長しようとするが、吸着した部分の細胞壁部が成長できず、アンバランスな成長となり、細胞の内圧を保つことができず、風船が破れるように自己融解する。

  動画 https://www.youtube.com/watch?v=MdfV-Hfo2JM&feature=youtu.be


黄色ブドウ球菌や大腸菌などの細菌に加え、多剤耐性菌に対しても抗菌活性を有する。

また、これはエステラーゼ等の水解酵素によって生分解されるの、身体のなかで蓄積等の懸念はない。

エタノールや次亜塩素酸などの従来の抗菌・除菌特性を持つ低分子量化合物と異なり、高分子体であるため、揮発せずに安定的に留まり、抗菌・除菌機能が持続する。

通常の明所実験室・室温で3年間保存しても安定で、抗菌活性も保存前と変わらず、一般生活環境において実用化が可能な抗菌・除菌剤用原料として期待される。

 

城武教授はこの高分子ナノ構造体の国際特許を出願済みで、植物の病原細菌用抗菌剤としての特許も出願している。

また、同系列の作用機序を活かした抗腫瘍効果を有する高分子ナノ構造体も開発中。


2014/8/27 Roche、米バイオ医薬品 InterMune を83億ドルで買収へ 

スイス製薬大手Roshe Holding AGは8月24日、米バイオ医薬品のInterMune Inc.を現金83億ドルで買収することで合意したと発表した。

両社の取締役会はすでに買収合意を推奨しており、Roche は1株74ドルでTOBを行う。

この価格は8月22日の終値の38%増であるが、実はInterMuneが身売りを含めた経営戦略上の選択肢を金融機関と協議しているとの関係筋情報が8月13日に報じられ、株価が上昇していた。報道直前の8月12日の株価に対しては 63%のプレミアムとなる。

実際に RocheがSanofi、GlaxoSmithKline、スイスの研究開発型製薬企業 Actelion などとの価格競争に勝った結果だとされている。

InterMuneは米カリフォルニア州に本社を置き、患者数の少ない希少疾患に強みを持つ。

肺の細胞壁が硬く厚くなり、呼吸困難に陥る難病の特発性肺線維症(Idiopathic Pulmonary Fibrosis)の治療薬Pirfenidone(製品名 Esbriet)を開発してきた。
2011年2月に欧州で承認を取得、2012年12月にカナダでも承認を得た。米国では現在、FDAが審査中。

Pirfenidoneは塩野義製薬が商品名ピレスパ(Pirespa)として、日本で2008年から、韓国で2012年から販売している。

塩野義製薬は2012年7月、InterMuneに対して、ロイヤリティーの支払いを求める訴訟を連邦地方裁判所に提起した。
EU においてInterMuneが申請資料の一部として塩野義の臨床データを用いて承認を取得したが、臨床試験データの交換に関する契約に基くロイヤリティーの支払いを拒絶していることから、契約の履行を求めるもの。

2013年2月に両社は下記により和解した。
1. InterMuneは、2013 年1 月から2021 年2 月までのEU におけるESBRIET®の売上高の4.25%に相当するロイヤリティーを塩野義製薬に支払う。
2. InterMuneが米国およびその他の地域(EU を除く)における新薬承認申請に、塩野義のある一定の臨床試験データを使用しない限り、
 当該国におけるロイヤリティーの支払いは発生しない。
3. 係属中の訴訟を速やかに取り下げる。

Rocheでは、この買収でRocheは肺疾患治療薬をグローバルに拡大・強化できるとしている。

アナリストはEsbrietは2019年までに全世界で10億ドルの売上高になると予想している。


Rocheにとっては、2009年にGenentechの未保有の44.2%を468億ドルで取得して以来、最大規模の買収となる。

Roche は2009年312日、Genentech を完全子会社とすることで友好的に合意したと発表した。
Roche
Genentech 55.8%を保有しているが、残り全株を1株当たり US$95.00、合計468億ドルで買収し、完全子会社化する。

2009/3/16 RocheGenentech を完全子会社化

 ーーー

Bloombergは8月16日、関係者の話として、Rocheが中外製薬に100億ドルを追加出資して完全子会社化する方向で交渉していると報じた。

両社は2001年12月10日、アライアンスにかかわる基本契約に調印した。

・ 中外製薬と日本ロシュの合併 
・ Rocheによる中外製薬株式の50.1%取得(日本ロシュとの合併、第三者割当、TOBによる)
・ 中外製薬の日本における独占的地位とロシュ製品に対する第一選択権
・ Rocheの中外製薬製品に対する第一選択権
・ 中外製薬の診断薬事業の中核のジェン・プローブのスピンオフ(スピンオフ後、米証券取引所に上場)

その後、Rocheは出資比率を引き上げ、6月30日現在の持株率は59.89%。

これに対し、中外製薬は同日、「現在、当社内でのロシュによる完全子会社化についての検討や、ロシュと当社の間でこのような協議が行われているという事実はありません」との発表を行った。

Roche のCEOは今回、InterMune買収によって、中外製薬の完全子会社化に乗り出す可能性が低下するかどうかについては、コメントを差し控え、Rocheは引き続き事業の拡充を目的とするボルト・オン買収を進める方針と述べた。

Bolt-on は、自動車や機械などに、溶接や切断などの大幅な加工を必要とせず、ボルト留めで搭載や交換が出来ると言う意味合いから来た言葉で、買収企業の既存業務の拡充・強化を目的とした小規模なシナジー効果がある買収のこと

Rocheは欧米の大手間の再編からは距離を置きつつ、本年6月以降、数百億円規模の買収を3件決めている。

6月2日、Genia Technologiesの買収を発表
 (nanopore technologyを使ったDNA sequencing platformを開発)

7月2日、子会社のGenentechが米国のSeragon Pharmaceuticalsを買収すると発表
 (oral selective estrogen receptor degradersを開発)

8月4日、デンマークのSantaris Pharmaの買収を発表
 (Locked Nucleic Acid を開発)

Bloombergは8月25日、Rocheが中外製薬の未保有株の取得を見送ることを決めたと報じた。中外製薬の経営陣が完全子会社化に反対する姿勢を示したためという。


 


2014/8/28 インド、自動車14社に課徴金 

インド競争委員会(Competition Commission of India:CCI)は8月25日、主要自動車メーカー14社に対し、車の交換・補修部品で公正な競争を妨げる違反行為があったとして、計254億ルピー(約438億円:1rupee=1.72円で換算)の課徴金を科すと公表した。

課徴金の対象となったのはインドで事業展開する乗用車メーカーのほとんどで、現地のTata Motors、Mahindra & Mahindra、Hindustan Motorsの3社、日系のMaruti Suzuki、Toyota Kirloskar、Honda Cars India、Nissan Motor Indiaの4社に、欧米の7社の合計14社。

最高額のTata Motorsは約230億円、二位のMaruti Suzukiは約80億円となっている。
CCIによると、課徴金は各社のインドでの3年間平均の年間売上高の2%相当としている。

CCIは、自動車メーカーは独占的支配力を利用し、部品を恣意的で高い価格で供給しているとし、また、補修サービス市場の保護のため、 独立系部品販売業者に純正部品を供給せず、公正な競争を歪めていることが分かったとしている。

CCI は課徴金の支払いのほか、傘下の正規販売店ではない独立系部品販売業者に車の純正部品を供給すること、それらの工場で修理された車について保証契約を順守することも命じた。

これに対し、Mahindra & Mahindraは8月26日、「適切な機関に対し、今回の命令に反対する姿勢を強調したい」との声明を出した。
各社はCCIからの正式な通知の受領から60日以内に、命令を受けるか不服申し立てをすることを求められている。

各社の課徴金の額は下記の通り。

 

課徴金

億ルピー

百万円

Tata Motors 134.646 23,159
Maruti Suzuki India 47.114 8,104
Mahindra & Mahindra  29.225 5,027
Toyota Kirloskar Motor 9.338 1,606
General Motors India 8.458 1,455
Honda Cars India 7.847 1,350
Skoda Auto India Volkswagen) 4.639 798
Ford India 3.978 684
Fiat India Automobiles 2.998 516
Mercedes-Benz India 2.308 397
BMW 2.041 351
Hindustan Motors 1.385 238
Volkswagen India 0.325 56
Nissan Motor India 0.163 28
合計 254.465 43,768

 


2014/8/29  川崎重工業、トルクメニスタンで GTL (Gas-To-Liquid) プラント受注

川崎重工業とトルコのRenaissance Heavy Industries (Ronesans Endustri Tesisleri) は8月26日、Turkmengasとの間でGTLプラント建設契約に調印した。

首都Ashgabatから50km北のOwadan-Depeの建設現場での調印式にはトルコ大統領が出席した。
「この事業は最高の技術を使い天然ガスをガソリンに変換する世界最初のガス処理設備である」と述べた。

天然ガスを年間17億85百万m3 処理し、オクタン価92のガソリン60万トンを生産するもので、建設費は17億ドルと見積もられる。

世界4位の埋蔵量を誇る天然ガスからの収入を最大化する戦略の一環。

17億ドルの建設資金の85%を国際協力銀行が供与し、Turkmengas が残りを負担する。

本計画は2018年4月に完成する予定。

トルクメニスタンは2009年12月の中国向けガスパイプラインの開通後、年率10%以上の経済成長を誇っている。
中国はロシアを抜いてトルクメニスタンの天然ガスの最大バイヤーとなった。

 

同国は現在の天然ガス依存から抜け出し、経済を多様化するため、近年多額の投資を行っている。

日本企業の参加する計画は下記の通りで、いずれも国際協力銀行が融資を行っている。

1) トルクメニスタン国営ガス会社Turkmengas はカスピ海東岸のTurkmenbashi地区のKiyanlyに、数期に分けてガス化学コンプレックスを建設する計画を立てているが、東洋エンジニアリングは2014年5月12日、韓国の現代エンジニアリング、現代建設、LG International (LGI) と共同でこのコンプレックスの第1期の建設を受注したと発表した。

2014/5/22  東洋エンジニアリング、トルクメニスタンで大型ガス化学コンプレックス受注

このプロジェクト全体の投資額は100億ドルとされるが、第1期の投資額は30億ドルで、うち、東洋エンジの受注分は800億円超。

国際協力銀行は5月29日、トルクメニスタン政府との間で、融資金額約438百万米ドル(JBIC分)を限度とするバイヤーズ・クレジット(輸出金融)の貸付契約を締結した。
ドイツ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行及び三菱東京UFJ銀行との協調融資によるもので、協調融資総額は約730百万米ドル、民間金融機関の融資部分には日本貿易保険(NEXI)による保険が付保され る。

   
2) 三菱商事は2014年8月19日、同社と三菱重工業、トルコの建設業者のGAP Insaat Yatirim ve Dis Ticaret A.S. がトルクメニスタンの国営化学公社Turkmenhimiyaより大規模なアンモニア・尿素肥料プラントを受注する事が決定したと発表した。

トルクメニスタン北西部カスピ海沿岸の都市Garabogazに、天然ガスを原材料とする同国最大の尿素肥料プラントを建設するもの。

日産2,000トンのアンモニアプラント、同3,500トンの尿素プラント 及び周辺インフラ・出荷設備で構成され、受注総額は約13億ドル、2018年の生産開始を目指す。

 
三菱商事と三菱重工は肥料プラントの設計、製作・機器調達・試運転までを担当し、トルコ有数の財閥Calik Holding A.S傘下のGAP社は詳細設計を含む建設工事を担当する。同工場で生産する尿素はすべて輸出向けで、輸出先は主に欧州や極東地域になる 。

13億ドルの建設費の85%は国際協力銀行、残りはトルクメニスタン政府が調達する。

   
3) 双日とカワサキプラントシステムズは2009年12月、トルクメニスタンの国営化学公社 のTurkmenhimiya から、天然ガスを原料とする肥料製造設備を約600億円で受注した。

アンモニア製造設備(日量1200トン)および尿素製造設備 (同1925トン)と、発電・水処理・窒素製造などの付帯設備で構成され、トルクメニスタン東部のMary市に建設する肥料工場に納入される。

国際協力銀行は、トルクメニスタン政府との間で、総額約450億円を限度とする貸付契約に調印した。
みずほコーポレート銀行、三菱東京UFJ銀行及び三井住友銀行との協調融資。

 

 
 


2014/8/30 ホンダ、ブラジル子会社との取引の移転価格税制の訴訟で勝訴 

東京地裁は8月28日、ホンダがブラジル子会社との取引をめぐって国から受けた課税処分の取り消しを求めた訴訟 で、国の課税は誤りと認め、約75億6700万円の法人税の課税を全額取り消した。

本件概要は以下の通り。

東京国税局は2004年6月29日、ホンダとブラジルの二輪事業の現地法人モトホンダ・ダ・アマゾニアの1997年から2002年の6年間の収益に関して、日本側の収益が低く配分されているとの判断から、税額の更正通知を 行った。

更正された所得金額は254億円で、それに対する追徴税額は、法人税、事業税、地方税を含め合計約130億円と試算される。

関連企業との取引を利用した海外への利益移転を防ぐ「移転価格税制」によるもので、国税局はブラジルの同種の企業とホンダ子会社の利益を比較し、ホンダ子会社が6年間に得た利益のうち約254億円は、親会社のホンダから部品を格安で購入したことなどで得られたと判断し、課税した。

これに対し、ホンダは、ブラジルの諸法規なども踏まえ、ホンダとモトホンダ・ダ・アマゾニアとの間の取引条件を定め、この事業から得た収益に対しては、日本及びブラジルにおいて適正な納税を行っているとし、長年の現地努力の成果に対し、「現地の利益の多くが日本に帰属する」との国税局の判断は納得できない 」とした。

ホンダは2007年に国税不服審判所に異議を申し立てたが、認められなかったため提訴した。

付記

東京高裁は2015年5月13日、一審に続いてホンダ側の主張を全面的に認め、国側の控訴を棄却した。

国側が上告しなかったことが6月12日、分かった。ホンダ側の請求を全額認め、約75億円の課税処分を取り消した一、二審判決が確定した。

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ホンダは、1975年にモトホンダ・ダ・アマゾニアを ブラジルの産業振興指定地域であるアマゾナス州マナウス市に設立し、翌年より現地生産をスタートした。
ブラジルの国策に沿って、現地が主体となり約90%まで国産化を進め、品質・生産性の向上や大幅なコストダウンを実現してきた。

販売面ではブラジル独自の割賦販売システムを国内最大規模に育てあげ、強力な販売網を築いてきた。

経済環境の大きな変化を乗り越え、得た利益を現地で積極的に再投資し、この10年間で10倍以上の販売台数に急成長してきている。
2003年度には、モトホンダ・ダ・アマゾニアは約82万台を現地生産し、ブラジル国内で約73万台を販売、約9万台を北米、欧州、オセアニア、中南米諸国など計68ヵ国に輸出し た。

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裁判長は判決理由で、現地子会社のある地域がブラジル国内で税制上の優遇を受けている「マナウス ・フリーゾーン」内にあることを重視し「営業利益の 59%が税優遇によるもので、影響が大きい」と指摘した。

そのうえでブラジル国内の別の地域で税優遇を受けていない同種企業と比較 しており、「両社は類似しているといえず比較できない。両社の差を調整せずに利益を算定したのは誤り」と述べた。

マナウスはアマゾン川の河口から約1700キロメートルに位置する。

1960年代にブラジル軍事政権が高インフレと外貨準備高の不足を是正するため、輸入の制限を強化し、マナウスに工場を誘致した。

しかし、マナウス市とブラジル中央の市場とは3,000kmからの距離があり、工業製品の搬出には大きなハンディキャップとなる ため、政府はそれをカバーするため、下記の税制恩典を発令した。

(1) 輸入税の免除
認可プロジェクトの場合、製造に使われる消費財や製造設備、再輸出のために保管される製品などは、連邦税である輸入税は免除される。
プロジェクト認可を受けているマナウスの中間財メーカーから、完成品製造のために輸入部品を購入した場合も輸入税は免除となる。
ただし、フリーゾーンから製品を出荷する場合は、輸入原材料、部品等の輸入税に対して88%免除。

(2) 工業製品税の免除
認可プロジェクトの場合、フリーゾーン地域内での消費、製造のために輸入される製品、または国内で購入される製品や製造設備、再輸出のために保管される製品は連邦税である工業製品税が免除される。 

(3) 法人税の減免(最大75%、収益率と業界分類による)
  当初は
利益を計上した年度より10年間100%減免。

(4) 社会統合計画・社会保険融資負担金の減免措置
部品や生産設備の輸入時は免税(一時保留)となり、再度出荷する時点で負担することになるが、当該の輸入部品等が製造過程を経て完成品として出荷される場合には、輸入時の措置が継続され免税となる。

(州税)商品流通サービス税の減免措置
フリーゾーンにおける生産のための部品や生産設備等の輸入や州内での購入時は、州税である商品流通サービス税は課税されない。
完成品を出荷する際には、通常の税率が55〜100%減免される。

この結果、日本企業もホンダ、ヤマハ、パナソニック、ソニー、サンヨー、フジフィルム、東京海上、TDK、村田製作所等の約30社が進出している。

現行の法律では税制恩典は2023年に終了することになっているが、2013年10 月に延長が認められた。正式には憲法の修正手続きが必要だが、税制恩典は2073年まで更に50年延長されるものとみられている。 

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移転価格税制では独立企業間価格はまず、「伝統的な取引基準法」で検討され、それが適用できない場合には「その他の方法」で検討する。日本から米国子会社への取引価格の例では方法と問題点は以下の通りとなる。

@ 伝統的な取引基準法

 ・独立価格比準法(CUP法)
   同種製品の独立企業間(日本→米国)の取引価格を検討
   (比較可能性の高い取引の選定が困難)

 ・再販売価格基準法(RP法)
   米国の比較可能な同業の財務データに基づいて販売会社がどの程度の売上利益率を計上しているかを検討
   (取扱製品の類似性が厳格に要求され、比較可能な同業の財務データの取得は困難) 

 ・原価基準法(CP法)
    日本の比較可能な同業の財務データに基づいて製造原価に対してどの程度利益の上乗せをしているかを検討
    (比較可能な同業の売上総利益データの取得は困難)

A その他の方法
 ・利益分割法(PS法)
    連結ベースでの営業利益がどのような割合で日本本社ならびに米国販売子会社で分けられるかを検討

 ・取引単位営業利益法(TNMM法 平成16年度税制改正により導入)
    再販売価格基準法が売上総利益を見るため製品の類似性が要求されるが、こちらは営業利益率を検討
    (類似した子会社機能で類似した業界であれば、同種製品でなくとも営業利益率はほぼ一定という経済仮説)

今回の例では、国税局は最後の取引単位営業利益法により、ブラジルの同種の企業とホンダ子会社の利益を比較したが、条件の異なる企業との比較をしたのが間違いとされた。

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国税局の移転価格税制の判断には、明らかにおかしいと思われる例があり、本ブログでも指摘している。

武田薬品

米国アボットとの50:50の合弁会社(当時)のTAPファーマシューティカル・プロダクツ(TAP)との間の製品供給取引等に関して、米国市場から得られる利益が武田に過少に配分されているとして、移転価格税制に基づき、大阪国税局より所得金額で6年間で1,223億円の所得の更正を受け、約570億円の追徴税額を課せられた。

武田薬品は、TAPとの取引価格はアボットの合意なしには決められず、独立企業間価格であり、移転価格税制が適用されるべきものではないとした。
本ブログも、通常は50/50JVとの取引価格は独立企業間価格とみられ、移転価格税制は適用されず、武田側の主張は当然であるとした。

最終的に全額取り消しとなった。

2013/3/27 武田薬品の移転価格税制での更生処分、全額取り消し

信越化学

信越化学は2008年2月に米国子会社シンテック社からの収益(5事業年度)に関して、東京国税局より移転価格課税に基づく更正通知書(国外移転所得金額は約233億円)を受領したと発表した。

本ブログはこう述べた。
そもそも、国税局からは「信越化学が提供した技術でシンテックは高収益を得ているのに、見合うだけの対価を受け取っていない」と指摘されたというが、シンテックの高収益が信越が提供した技術のためであるという認識に間違いがある。もしそうなら、日本の信越化学は他の塩ビメーカーよりも高収益であるはずだが、決してそうではない。

シンテックの高収益の理由は、一つは原料のVCM(塩素とエチレンから製造)をクロルアルカリとエチレンのトップメーカーのダウから供給を受けていることで、塩ビの損益が悪化したときには、損失を一部ダウが負担するという契約条項もあるといわれている。もう一つが常にフル操業をするという経営方式である。

最終的に全額取り消しとなった。

2010/6/11 信越化学の移転価格課税、119億円還付へ 


なお、
ホンダは2008年に中国の四輪事業でも総額1,400億円を超える巨額の申告漏れを指摘された。
国税局は技術移転や設備、部品の販売、日中間の利益配分など事業全面にわたり、問題を指摘した。

現在も係争中だが、これについても本ブログは問題を指摘している。

2008/5/1 ホンダの中国四輪車事業の移転価格税制問題


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最新分は  2006-5-1 http://blog.knak.jp