ブログ 化学業界の話題 knakのデータベースから      目 2006/5-3

ブログ 化学業界の話題 knakのデータベースから      目次

これは下記のブログを月ごとにまとめたものです。

最新分は http://blog.knak.jp


2016/11/16 サムスン、米自動車部品大手を買収 

Samsung Electronicsは11月14日、米自動車部品大手  Harman International Industriesを買収すると発表した。

1株112ドルでの買収で、買収金額は約80億ドルになる。韓国企業による外国企業の吸収・合併としては史上最大 。

Samsungにとっては自動車分野への本格参入となる。エレクトロニクス技術と資本力を持つSamsung の参入は、「クルマのIT化」が進む自動車産業に大きな影響を及ぼ すとみられる。

Harmanは通信機能を備えた「Connected car」分野の技術に強く、3千万台の車に同社のInfotainment(「情報の提供」と「娯楽の提供」の車載システム)、Telematics(移動体通信システム)、Connected safety and securityなどの自動車及びオーディオ技術が使用されている。

同社の昨年の売上高は69億ドルで、売上高の内訳は下記の通り。 自動車関連は全売上高の65%に達する。

事業
売上高 3,102百万ドル(45%) 2,138百万ドル(31%) 1,014百万ドル(14%) 694百万ドル(10%)
EBITDA 14.3% 15.4% 12.1% 12.2%

Harman は音響機器メーカーとしても知られた存在。近年は自動車分野での事業拡大を進めており、有力メーカーの一角を占めるまでに成長していた。

 

Samsung は2015年12月に部品事業部門の下に自動車部品事業立ち上げのための「電装事業チーム」を新設したが、迅速な事業立ち上げのため、M&Aを狙っていた。

今回の買収で、両社の業界最大の強み(Best-in-Class) が相互補完されるとしている。

 

両社の技術の統合で、自動車のみならず、劇場や住宅、および個人の外出先分野で、つぎのような展開が期待される。

 

 


2016/11/17    オプジーボ 50%値下げ 

厚生労働省は11月16日、中央社会保険医療協議会を開き、極めて高額のがん治療薬「オプジーボ」(一般名ニボルマブ)の薬価 50%引き下げを提案し、了承された。

  現行薬価 算定薬価
オプジーボ点滴静注 20mg 150,200円 75,100円
  同          100mg 729,849円 364,925円

付記

製造販売元の小野薬品工業は不服意見の提出を見送った。

厚生労働省は11月24日、来年2月1日からの薬価引下げを官報で告示した。

付記 2018年度は2割超引き下げ、100mgが278,000円になった。キイトルーダは365,000円。

革新的な抗がん剤のオプジーボは、希少がんであるメラノーマ(根治切除不能な悪性黒色腫、推定対象患者は470人)の治療薬として超高額な薬価が設定された。

その後、切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん(推定対象患者は5万人)へ適応が拡大されている。

オプジーボは、免疫細胞上のタンパク質(PD-1)を発見した京都大学の本庶佑名誉教授の研究を基に「ゴールの見えないまま始めた研究から成果が出るまで20年以上かかった」(小野薬品)。

薬を作るには、PD-1分子の働きを邪魔する「抗体」が欠かせなかったが、小野薬品には抗体を作る技術がなかった。

その後、米ベンチャー企業 Medarexとの提携で「完全ヒト型抗PD-1 抗体」を入手でき、オプジーボが誕生した。

Bristol-Myers Squibbは2009年7月22日、Medarexを24億ドルで買収すると発表した。

現在、日本、韓国、台湾以外はBristol-Myers Squibbが開発・商業化の権利を持つ。

付記 詳細は下記を参照
    
2016/11/30  オプジーボと競合する米メルクの癌免疫薬承認へ     
 

オブジーボの薬価には次の問題がある。

 ・肺がん患者1人当たりで年約3,500万円かかる。
 ・
患者数の拡大で単位当たり開発費・製造原価は大幅に下がる筈。
 ・5万人の肺がん患者全員が使えば費用は1兆7500億円に達する。
 ・オプジーボの日本の価格は海外の価格に比べ高すぎる。

全国保険医団体連合会の分析結果は下記の通り。(体重60kg、2週間に一度使用)

  薬価(100mg) 年間薬剤費
日本 729,849円 34,596,874円
米国 297,832円 13,938,449円
英国 150,234円 7,815,737円

中医協でも「薬価が高額のまま患者が増えれば、医療保険財政を破綻させかねない」などの意見が出ており、首相官邸や政府の経済財政諮問会議などが大幅引き下げを求めていた。

このため、原則2年に1回の薬価改定時期(次回は2018年度)を待たず来年2月1日から実施する。

薬価引き下げの根拠としては、2016年度の薬価制度改革で導入された巨額再算定(特例の市場拡大再算定)のうち、「年間予想販売額が1500億円超、かつ予想の1.3倍以上の場合、薬価を最低で50%引き下げる」という規定が準用された。

付記

厚生労働省の専門家会議は11月24日、Merckが開発中のがん免疫薬KEYTRUDA® (Pembrolizumab) を肺がん向けに承認して問題ないと判断した。

キイトルーダはオプジーボと作用が同じで、対象疾患も競合する。

オプジーボが使えるのは現時点で、皮膚がんの一種である悪性黒色腫と、肺がん、腎がんの3種類。
一方、キイトルーダは9月に悪性黒色腫への使用が承認され、今回の肺がんで2種類目となる。

キイトルーダの薬価は類似薬であるオプジーボの薬価を基準に決まる。

オプジーボの価格は類似薬がなく、開発費や製造原価、営業利益、流通経費などを積み上げて算出された。開発に約20年かかるなど開発費が膨らんだ。最初は対象患者数が約470人と少ない皮膚がんの一種「悪性黒色腫」を対象に発売され、採算を取るため100ミリグラム73万円という高い薬価が付いた。昨年12月に一部の肺がんにも使えるようになり、対象患者数は年1万5000人程度に急増したが、16年度改定には間に合わなかった。

ニュースサイトで読む: http://mainichi.jp/articles/20161116/dde/001/040/071000c#csidx7a24027a11ac40c9d98de7fa0184b45
Copyright 毎日新聞

ーーー

新医薬品の薬価算定方式は次ぎの通りだが、オプジーボの価格は類似薬がなく、開発費や製造原価、営業利益、流通経費などを積み上げて算出された。

オプジーボの価格設定は下記による。(オプジーボ点滴静注 100mg)

製造原価(開発費を含む) 459,778円  
営業利益 170,055円 通常の場合、営業利益率は16.9%
画期的新薬ということで、60%が加算がされ、営業利益率 27.0%
流通経費 45,953円  
消費税 54,063円  
合計 729,849円  

 

オプジーボは、推定対象患者は470人の希少がんであるメラノーマ治療薬として超高額な薬価が設定されたが、その後、推定対象患者は5万人の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がんへ適応が拡大された。

市場拡大の場合の薬価再算定のルールは2000年から実施されている。
一定の市場拡大の場合に最大25%引き下げるというもの。

これに加え、2016年より、年間販売額が極めて大きい品目についての特例が決まった。
年間販売額が1000〜1500億円で予想の1.5倍以上の場合は最大25%引き下げ、年間販売額が1500億円超で予想の1.3倍以上の場合は最大50%の引き下げとなる。

小野薬品はオプジーボの2017年3月期の売上高を出荷ベースで1260億円と見込んでいる。
このままでは、薬価引下げは最大25%となる。

厚労省はこれを下記により補正し、年間販売額(末端)を1516億円と試算し、年間販売額が1500億円超で予想の1.3倍以上の場合の最大引下げ率 50%を適用した。
(流通経費や乖離率は実数ではなく、明らかに50%引下げのための恣意的な計算である。)

流通経費 業界平均 7% 卸業者のマージン
消費税 8%  
乖離率 業界平均 6.9%の1/2 卸業者による医療機関への納入価格と薬価の差
新薬のため、
1/2にした。

通常の薬価改定であれば、薬価調査を実施して販売額などを調べる。「流通経費」や「乖離率」などは、今回の緊急対応に限ってのものとなる。

超高額薬剤の薬価制度については、2018年度の次期改定に向けて抜本的な見直しを行う方針が中医協で固まっている。

今回の見直しについて、医薬品メーカーサイドの加茂谷専門委員(塩野義製薬常務執行役員)は薬価専門部会で、「イノベーション強化が極めて重要だが、メーカーに十分な収益がなければ、新薬の開発ができなくなってしまう。緊急の引き下げは、今後、あってはならない」旨を訴えた。

小野薬品工業は11月16日、「唐突なルール変更によって経営の予見性を損なうことがないように願いたい」とするコメントを発表した。

日本製薬団体連合会と日本製薬工業協会も同日、「今回の措置は現行ルールを大きく逸脱したもので、今後二度とあってはならない。(通常ではない時期の)大幅引き下げは日本における新薬の研究開発意欲をそぐ」と連名の声明を公表した。

 また菅義偉官房長官は同日の記者会見で「(適用拡大があった経緯などから)50%引き下げても研究開発を阻害することにはならないと思う」と述べた。【細川貴代、久野洋】



ニュースサイトで読む: http://mainichi.jp/articles/20161117/k00/00m/040/150000c#csidxf962c28ed0046529372999cfc682a46
Copyright 毎日新聞

日本製薬団体連合会と日本製薬工業協会も同日、「今回の措置は現行ルールを大きく逸脱したもので、今後二度とあってはならない。(通常ではない時期の)大幅引き下げは日本における新薬の研究開発意欲をそぐ」と連名の声明を公表した。

 また菅義偉官房長官は同日の記者会見で「(適用拡大があった経緯などから)50%引き下げても研究開発を阻害することにはならないと思う」と述べた。【細川貴代、久野洋】



ニュースサイトで読む: http://mainichi.jp/articles/20161117/k00/00m/040/150000c#csidxf962c28ed0046529372999cfc682a46
Copyright 毎日新聞

日本製薬団体連合会と日本製薬工業協会も同日、「今回の措置は現行ルールを大きく逸脱したもので、今後二度とあってはならない。(通常ではない時期の)大幅引き下げは日本における新薬の研究開発意欲をそぐ」と連名の声明を公表した。

 また菅義偉官房長官は同日の記者会見で「(適用拡大があった経緯などから)50%引き下げても研究開発を阻害することにはならないと思う」と述べた。【細川貴代、久野洋】



ニュースサイトで読む: http://mainichi.jp/articles/20161117/k00/00m/040/150000c#csidxc8b0636bfae60ae8e16ffdd64be125b
Copyright 毎日新聞

日本製薬団体連合会と日本製薬工業協会も、「今回の措置は薬価改定がない時期に、企業公表の売上予測を活用して薬価を引き下げるという、現行ルールを大きく逸脱したもので、今後二度とあってはならない。通常ではない時期の大幅引き下げは日本における新薬の研究開発意欲をそぐ」と連名の声明を公表した。

菅官房長官は同日の記者会見で「(適用拡大があった経緯などから)50%引き下げても研究開発を阻害することにはならないと思う」と述べた。

今回の決定はルールを歪めたもので好ましくはないが、適用患者の大幅拡大(当然、原価は大幅に下がる)を考えると妥当と思われる。(薬価はごく少数の患者を前提にしたコストを基に決まっている。)
米国や英国の売価から見ると、日本の薬価が高すぎるのは明らかである。(米国の売価はメーカーが自主的に決めている。)


2016/11/18    日立、撮影後にピント調整できるレンズレスカメラを開発

日立製作所は11月15日、レンズの代わりに同心円パターンを印刷したフィルムを用いて、動画撮影後に容易にピント調整ができるレンズレス カメラ技術を開発したと発表した。

同心円パターンを重ね合わせることによって生じるモアレ縞の原理を利用することで、薄型軽量のレンズレス カメラでありながら、画像処理の計算量を1/300まで減らすとともに、撮影後のピント調整機能を合わせ持つもの。

レンズが不要となることでカメラの薄型軽量化を実現し、モバイル機器やロボットなどのデザインを損ねることなく、より自由な位置にカメラを設置することが可能となる。

レンズを使わないことで、デジカメやスマートフォンのカメラの光を読み取る部分の厚みを、通常の数十分の一程度にできる。フィルターの価格もレンズより大幅に安く、量産しやすいという。

また本技術は、平面情報に加え、奥行き情報も画像センサーに記録することができるため、撮影後でも任意のピント位置で動画を再生することが可能で、撮影した映像からピントを合わせたい対象物を自由に選択して再生することができる。

本カメラをモバイル機器や車、ロボットに搭載することで、作業支援、自動運転や人の行動分析など、幅広い用途での活用をめざす。2年後の実用化を目指す。

開発したカメラ技術の撮影原理は次ぎの通り。

(1) モアレ縞を用いた撮影画像処理技術

普通のデジタルカメラは、レンズで外からの光を屈折させてモノや景色の像を結ばせ、画像センサーで読み取る。
日立のレンズレスカメラは、像を結んでいない光を読み取り、特殊なフィルムが起こす光の干渉の具合を元にパソコンの画像処理で像を再現する。

外側ほど間隔が狭くなる同心円パターンのフィルムを画像センサーの直前に置き、入射する光線が作る影に、画像処理内で同じ同心円パターンを重ね合わせると、光線の入射角に対応した間隔のモアレ縞が生じることに着目した。

このモアレ縞を利用し、フーリエ変換と呼ばれる広く普及した簡単な画像処理で撮影画像を得ることができる技術を確立した 。

通常のレンズでの撮影に比べると、得られる映像は周辺が暗いが、現段階で手や果物などの動画を撮ることができる。
 

 
1cm角の画像センサーと、そこから1mm 離した位置に同心円パターンのフィルムを配置して実証実験を行った結果、標準的なノートパソコンで毎秒30フレームで動画撮影できることを確認した。
 

(2) 撮影後のピント調整技術

入射する光線がフィルムを通じて画像センサー上に作る影に重ねる同心円パターンの倍率を変えると、ピント位置を移動させることができる技術を確立した。
撮影後に倍率の異なる同心円パターンを重ね合わせて画像処理を行うことで、自由にピントを調整することが可能となる。

ーーー

レンズレス カメラには、昔からピンホールカメラ(針穴写真機)がある。

構造が簡単で容易に製作できるが、はっきりした像を得るためには、ピンホールの大きさをかなり小さくする必要があり、像が暗いため通常のカメラと比較して非常に長い 露出時間を必要とする。

日立のようなレンズレス カメラは既に米国の半導体設計会社の Rambus Inc. や Rice University が開発を進めている。いずれも画像センサーを用いた技術だが、光を処理する計算処理に時間がかかっていた。(日立の方式はそれらよりも計算が数百倍速いという。)

Rambus:

Rambus Inc.は、今後の事業の柱の1つとしてレンズなしカメラセンサー Lensless Smart Sensors (LSS)の研究開発に注力している。

レンズの代わりに特殊な回折格子をイメージセンサーに貼り付けたもので、この回折格子は、ある規則に従った模様をイメージセンサーに撮像する。この模様は人間の目には判別できないが、コンピューター処理によって写っているモノの位置などが特定できる。

Rice University:

Rice University はFlatCamを開発している。

マスクを設置したセンサーで直接光学イメージを読み取り、コンピューター処理をくわえることで画像を生成する。

ピンホールカメラの技術の応用で、センサーの前に異なる大きさの穴が空いたマスクを置くことで、イメージを捉える。その後、センサーでとらえたデータをアルゴリズムで処理し、512×512ドットの画像を生成する。

Rice Universityでは、「この技術によって曲がったカメラや壁紙型カメラを作ったり、さらにはクレジットカードや超薄型コンピューターにもカメラが内蔵できるだろう」としている。

 


2016/11/19 日本原燃、巨大噴火予兆時に 六ヶ所村の核のゴミ搬出方針 

原子力規制委員会は11月11日、日本原燃の使用済み核燃料再処理工場(青森県六ケ所村)の新規制基準への適合性審査会合を開いた。

日本原燃は六ケ所村にある3つの核燃料サイクル施設について、巨大噴火への対処方針を説明した。

核燃料施設は下記の通りで、再処理工場のプールには全国の原発から出た約 3,000トンの使用済み核燃料があり、再処理で生じたウランやMOXの粉末、高レベル放射性廃液を固めたガラス固化体もある。

使用済み核燃料再処理工場 最大処理能力 800トン・ウラン/年(未稼働:2018年上期竣工
使用済燃料貯蔵容量 3,000トン・ウラン (全国の原発から)

使用済燃料から再利用できるウランとプルトニウムを取り出す。

MOX燃料加工工場 最大加工能力 130トン‐HM/年(未稼働:2019年上期竣工

再処理したウランとプルトニウムを混ぜ合わせる。

高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター

 

返還廃棄物貯蔵容量 ガラス固化体 2,880本

使用済燃料の一部を、フランスおよびイギリスの再処理工場に委託して再処理し、分離されたウランやプルトニウムと、放射性廃棄物が返還される。
高レベル放射性廃棄物は、安定した形態に固化したガラス固化体として返還されるが、最終的な処分に向けて搬出されるまでの30〜50年間冷却・貯蔵する。

同施設の近くには、過去に巨大噴火を起こした十和田、八甲田の2火山があり、過去の十和田火山爆発時の火砕流堆積物が施設敷地内で確認されている。

原燃は十和田火山と八甲田火山をモニタリングし、地殻変動や地震活動の観測データを収集分析する。
平常時は原則年1回、火山専門家の助言を受け、地殻変動と地震活動が原燃設定の判断基準を超えた場合は臨時に助言を求めるという。

警戒レベルが「注意」を超えた際は臨時観測を行い、原燃の火山対応委員会で対処方針を決める。
大規模噴火が起きる可能性がある場合の対応策として、使用済み核燃料やガラス固化体の搬出、工場の運転停止などを挙げた。

原燃は「搬出先は今後検討する」と説明しているが、国内の原発のプールは満杯に近づいており、ガラス固化体については六ケ所村以外に貯蔵できる施設や最終処分場がない。
もしもの場合、どうする積もりだろうか。

 

気象庁は11月17日、火山活動の高まりが確認されている八甲田山十和田弥陀ヶ原(富山・長野県)の3火山を、12月1日から同庁が24時間体制で監視する「常時観測火山」に追加すると発表した。

国内の常時観測火山は50火山になる。

2014年に御嶽山が噴火したことを受け、火山学者らで作る火山噴火予知連絡会の検討会が同年11月、3火山の追加を同庁に提言した。

 

参考  原発の火山灰対策と巨大噴火対策  2016/11/2    原発の火山灰対策見直し 

 



2016/11/21 三井物産、パナソニックヘルスケアホールディングスに出資

三井物産は11月18日、パナソニックヘルスケアホールディングスへ参画することを決定したと発表した。

三井物産の出資額は約541億円で、筆頭株主のKohlberg Kravis Roberts (KKR) が運用するファンドから株式の22%を取得する。

パナソニックヘルスケアは糖尿病患者向けの血糖値測定器を中心とした医療機器の開発・製造・販売を行っており、2016年1月には、糖尿病ケア・ソリューション提供企業大手であるBayer Aktiengesellschaft グループの糖尿病ケア事業を買収し(新会社名 Ascensia Diabetes Care)、世界125ヶ国に亘る販売網を確保している。

2015/6/15   パナソニック ヘルスケア、Bayerの血糖測定器事業を買収

 
三井物産はパートナーとなるKKR及びパナソニックと協働で、世界中の糖尿病患者に革新的な技術を提供し、同社の企業価値向上を図る。

糖尿病患者は2015年の4億2000万人から2040年には6億4000万人に増加することが予想され、とりわけアジア新興国では糖尿病患者数が全世界の約60%を占めるまで急増すると予想されている。

糖尿病は網膜症・腎症・神経障害等の合併症を併発する恐れがあり、継続的な症状モニタリングと治療が必要となる。

 

付記    

パナソニック ヘルスケアは2017年4月3日、2018年4月に社名をPHCホールディングス株式会社、およびPHC株式会社へ変更することを決定した。
KKRが58%、三井物産が22%、パナソニックが20%出資。

付記

同社は2019年1月29日、世界をリードする科学サービス企業であるThermo Fisher Scientific の解剖病理事業を約11億4千万USドルで買収することに合意したと発表した。顕微鏡のスライドガラスや各種機器、消耗品などを供給する業界のリーダーの一つであり、米国、欧州、中国を拠点に、約1,200名の従業員を擁して事業を行っている。

ーーー

パナソニックヘルスケアの前身は松下寿電子工業で、松下電器産業の完全子会社になった後、パナソニック四国エレクトロニクスに改称した。

2007年に松下電器の改組で、松下電器の社内分社である「ヘルスケア社」をパナソニック四国に統合した。

その後、ヘルスケア事業のさらなる拡大に向け、ヘルスケア事業としての事業領域別体制に再編、2010年にパナソニックヘルスケアに改称した。

パナソニックは2013年9月27日、パナソニック ヘルスケアの全株式をKKRの関連投資ファンドが実質的に全株を保有するPHCホールディングスに1650億円で譲渡する契約を締結することを決めた 。

2014年3月31日に手続きが完了、パナソニックはPHCの20%を引き受け、パナソニック ヘルスケアの20%を実質保持 した。

2013/9/11 パナソニック のヘルスケア事業売却、米KKR に優先交渉権 
 

今回の決定で、パナソニックヘルスケアの出資比率は次ぎのとおりとなる。

  現在 今後
KKR 80% 58%
パナソニック 20% 20%
三井物産 22%


ーーー

三井物産は、メディカル・ヘルスケア事業を注力領域の一つと位置付けている。

メディカル分野では製薬から流通・販売支援に至るバリューチェーン全体を視野に、医薬品の治験支援・製造支援・販売支援事業に参画、
ヘルスケア分野では医療機関運営・経営支援、ヘルスケア関連情報サービスなどの幅広い事業を展開している。

中でも、医薬品製造支援(CMO)では40年以上にわたる事業経験を有し、医薬原料の供給等を通じ国内外の製薬企業との緊密な関係を築いて いる。

同社のヘルスケア・サービス事業本部の概要は下記の通り。

ヘルスケア分野 病院・クリニック事業およびその周辺事業、医療情報サービス事業、医療経営支援事業
医薬分野 医薬品の開発支援事業、製造支援(CMO)事業および製造・販売事業
サービス分野 国内外におけるコントラクトフードサービス(給食)事業、ユニフォームレンタル事業、ファシリティマネジメント事業、人材派遣・紹介事業、教育事業および、その他消費者向けサービス事業

同社は最近、日経に広告を掲載している。(一部編集)

 

三井物産の最近の投資は次ぎの通り。

1) 日本マイクロバイオファーマ

2011年7月にキリンから100%子会社のメルシャンの医薬・化学品事業 を買収し、日本マイクロバイオファーマに改称した。

キリンは2010年12月の株式交換でメルシャンを完全子会社化したが、メルシャンのワイン・酒類事業に集中することとし、これを売却した。

メルシャンで長年培ってきた発酵技術にバイオテクノロジーを付加した独自の製造技術により、医薬品(原薬、中間体)の製造・受託製造・販売をしている他、同技術を活用したファイン・スペシャリティ領域の化学品の製造・販売を行ってい る。

中国では、同社が34%出資する深圳万楽薬業有限公司を通じて、制癌剤を中心とする製品の製造・販売を展開してい る。

1990年にメルシャンが、中国深圳製薬(現 国薬集団一致薬業)、萬聨行有限公司(香港)との共同出資 で設立した。

2012年1月 に、東レが20%出資している。

2)IHH Healthcare Berhad(IHH社)

マレーシアに本部を置くアジア最大の民間医療企業で、アジア、中東欧・中東・北アフリカ地域での病院経営、運営受託、及び医科系教育機関経営等のヘルスケア関連事業 を行っている。シンガポール、ブルネイ、中国、香港、マケドニア、マレーシア、インド、イラク、トルコ、ベトナム、UAEにおいて民間病院を運営し、25,000以上を雇用している。

当初はマレーシアの政府系投資会社カザナ・ナショナルが全額出資していたが、三井物産が2011年に総額924億円を投じ、30%を取得した。

その後、上場し、2016年9月 時点では三井物産は20.1%を出資していたが、9月27日 に一部を売却、現在の出資は18.1%となっている。

3) Columbia Asia

三井物産 は2016年7月、アジア最大手の中間所得層向け病院グループColumbia Asia Healthcare (マレーシア)及び Columbia Asia Hospitals (インド) の持株会社である米国 International Columbia U.S. LLCの第三者割当増資引受と同社複数株主からの株式取得を決定した。約1億100万米ドルを出資して、コロンビアアジアグループの病院経営に参画 する。

コロンビアアジアグループは1994年に設立され、現在はマレーシア (馬)、インド(印)、インドネシア(尼)・ベトナム(越)の4か国で合計27病院・1クリニックを運営してい る。
主に中間所得層を対象に、外来と簡易な入院治療を提供しており、高度医療を手掛ける公立・民間病院とは補完関係にある。

4) MIMSグループ

三井物産は2015年10月、潟Gス・エム・エス と共同で、アジア・オセアニア地域で医薬情報サービス事業を展開するMIMSグループを買収する契約を、英国のAXIO Data Hedgeco Limited 及び個人株主6名と締結した。出資額は総額約2億5,000万米ドルで、出資比率は三井物産40%、エス・エム・エス60%となる。

MIMSグループは1963年に創業し、アジア・オセアニア地域12カ国と香港で、医薬情報サービスを書籍、ウェブサイト、モバイルアプリ等の複数の媒体で提供してい る。

パートナーの潟Gス・エム・エスは、介護・医療・シニアビジネス における最適な情報インフラストラクチャーの創造を理念とし、2003年に経済産業省からの後援を受けて設立された。

5) DaVita Care

三井物産は2016年5月、米国最大手の透析事業会社DaVita Healthcare Partners社 、マレーシア政府系投資ファンドKhazanah Nasional Berhad と共に、アジア透析事業へ参画することで合意した。

三井物産は第三者割当増資引き受けを通じてDaVita傘下で在シンガポールのDaVita Care Pte. Ltd.の株式20%を取得する。

DaVitaは米国を中心としてグローバルに2,369の透析クリニックを運営している。

アジア新興国では、人口増と糖尿病・高血圧等の生活習慣病の蔓延により透析治療を必要とする末期腎不全患者が急増する中、透析クリニックが大幅に不足しているため未治療の患者が多く需給ギャップが拡大している。


2016/11/22 東京ガス、英のCentrica とLNGをスワップ  

東京ガスは11月21日、英エネルギー大手 Centrica のトレーディング事業会社であるCentrica LNG社と、「相互協力に関する協定」を締結したと発表した。原料調達等を中心とした分野において更なる連携強化を図る。

その具体的な取り組みの第一歩として、LNGのスワップを行い、「LNGの輸送効率向上を通じたコスト削減を目指す枠組み」の実現を目指すことに合意した。

東京ガスが米国産LNGを欧州に供給する一方、Centrica はこれまで英国に輸送していたマレーシアのLNGを日本に供給する。
米国の東海岸のLNGは輸送距離が長く、パナマ運河を通るためコストがかさむが、スワップでコストを抑える。

試算ではLNGの運賃(100万BTU当たり)は次ぎの通り。(ソース:Platts LNG Forum, Tokyo 2012/9/25)  

Cove Point(東海岸) 日本  $3.07

マレーシア日本 $1 程度 (豪州 Gorgonからの場合 $1.17)
Cove Point(東海岸) 欧州  $1.05

参考 Kirimat(カナダ西海岸)からは$1.24、Gulf Coast からは$2.96

東京ガスはCove Point  LNGプロジェクトから購入する年間140万トンのうち、年間35万トン(1隻)〜70万トン(2隻)を想定しており、輸送費は、船1隻の1往復当たりで1億円超を削減できる見込み。(標準的な大きさのタンカーで1回に運べるLNGの量は、145千立方メートル:約6.7万トン)

輸送費は、船1隻の1往復当たりで1億円超を削減できる見込みだ。

Centricaも後記の通り、LNGをマレーシアから英国まで輸送しているが、これを日本に送ることで運賃の節約になる。

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住友商事と東京ガスは2014年2月、Dominion 社が米国メリーランド州で実施する Cove Point  LNGプロジェクト(液化能力 年500万トン)における天然ガス液化加工委託およびLNG販売を目的に、共同事業会社 ST Cove Point LLCを設立した。

住友商事の100%子会社であるPacific Summit Energyを通じて米国産天然ガスを調達し、Dominion Cove Point  LNG が液化加工した年間約230万トン分のLNGを輸出するプロジェクトで、2017年の稼働開始を目指している。

このうち、東京ガスは年140万トンのLNGを輸入、住友商事は残り90万トンのうち、80万トンを関西電力に販売する。

Dominion は他に、インドのGailとの間でLNG年230万トンの契約を締結している。

2013/9/13   米、日本向けLNG輸出 2件目を承認 


東京ガスは自らもシェールガス開発に参加している。

2013年3月にQuicksilver Resources Inc.から、米国テキサス州バーネット堆積盆におけるシェールガス開発事業の権益25%を485百万米ドルで取得した。
同社持分のガス生産量は、LNG換算で約35〜50万トン/年と見込んでおり、米国内市場に販売する

2016年6月21日、VirTex Groupがテキサス州南部ウェブ郡・ラサール郡に保有するEagle Ford 層他におけるシェールガス開発事業の権益を取得したと発表した。

  取得 LNG換算持分 取得価額 取得時 
WTI原油価格
Barnet 2013/3/29 35〜50万トン/年 約520億円
(減損358億円)
$97.23
Eagle Ford 2016/6/21 20万トン/年 約80億円 $48.85

2016/6/30 東京ガス、米国のEagle Ford層におけるシェールガス開発事業への事業参加 

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Centrica plc は英国のガス・電力事業を行う持株会社。英国最大のガス事業者であり、ノルウェーや北米などでも事業を展開している。

1986年のガス法の改正で英国のガス事業は民営化され、British Gas plc が設立された が、1997年2月にBritish GasはCentrica、BG Group、Transco の3社に分割された。

その後、BG Group は2016年にShellに統合された。

2015/4/13 Shellが英BG Groupの買収で合意 

1990年に従来の国営電力会社が発電会社3社と12の地域配電会社及び送電会社のNational Grid に分割されたが、National Grid は2002年にTransco を買収し、2005年にTranscoをNational Grid の一部門とした。

Centricaは“British Gas" のブランドを引き継ぎ、ガス事業を一部門としている。

英国は北海油田の生産減少を受け、2005年7月に約20年ぶりに本格的にLNG輸入を再開した。

輸入再開に向けて、Isle of Grain のLNG基地が商業運転を開始した。

CentricaはマレーシアのPetronasからBintulu LNG のLNGを購入し、Isle of Grain のLNG基地に輸送している。

Bintulu LNG については、2016/6/7   JX、Petronas LNG 9 への資本参画

別途、Centricaは米国のCheniere Energy Partners のSabine Pass LNGの第5系列175万トンの20年間の長期販売契約を締結している。

2016/2/27 米国のLNGの初輸出


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日本の輸入LNGの契約は大半が原油価格スライドで、現在は輸入価格が下がっており、米国の東海岸からの輸入は割高となっている。

9月のLNG通関価格と米国の天然ガス価格、それを基にしたLNG輸入価格 は次ぎの通りとなる。 
 (Henry Hub 天然ガス価格 + 口銭15% +液化費 3$ + 運賃 3$)

今回のスワップで、運賃は約2$安くなることになる。

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東京ガスは2020年に向けた経営計画「チャレンジ2020ビジョン」で、ガス上流事業の拡大と海外でのLNG Value Chain の構築を掲げ、今後も投資を積極的に進める。

地域ごとにLNGバリューチェーンを構築し、併せて地域間でのバリューチェーン展開を目指す。

 


2016/11/23   Trump 次期米大統領、「就任初日にTPP離脱通告」を確認

Donald Trump 次期米大統領は11月21日、ビデオメッセージを発表し、来年1月20日の就任初日に「環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)から脱退する意志を表明する」と宣言した。

「よって立つのは単純なコアの原則、即ち、アメリカ第一(put America first)だ。鉄の生産、自動車生産、病気の治療、・・・ 全ての次世代の生産やイノベーションはこの、偉大な祖国アメリカで起こって欲しい」と述べた。

「就任初日に実施する行政府としての行動」を列挙。その一番目の項目としてTPP脱退の宣言を挙げた。

TPPは「我々の国にとって災難になりうる」とし、「その代わり我々は雇用や産業を米国国内に取り戻すため、公平な二国間の貿易協定を交渉していく」と している。

付記

Trump大統領は2017年1月23日、TPPからの離脱を宣言、米通商代表部(USTR)は1月30日、TPPからの離脱を参加各国に書簡で正式に伝達した。

  ・TPPから永久に離脱する。(再交渉の可能性も明確に否定)
  ・米国の産業を振興し、労働者を保護し、賃金を上昇させる 2国間貿易交渉を始める

 

このほか、シェール開発や石炭産業への規制の緩和、インフラ設備へのサイバー攻撃の防止計画の策定、ビザ制度の悪用の調査や、ロビイストの制限などをを打ち出した。

これらは、大統領選挙の前の10月に発表した「アメリカを再び偉大にする」ための100日間のアクションプランのうち、就任初日の処理 項目に沿ったものである。

2016/11/11 トランプの公約

これに含まれていた「北米自由貿易協定(NAFTA) の再交渉又は撤退の意思を発表」は今回の発表には触れられていない。

なお、今回は「ObamaCare廃止」や「メキシコ国境の壁建設」などは含まれていないが、これらは上記アクションプランでも「法案を提案し、政権の最初の100日で議会を通すよう戦う」とした項目であり、今後発表されると思われる。

なお、Trumpはオバマ大統領との会談の後、ObamaCareについて、既往症による保険加入の拒否禁止や26歳まで子供を両親が加入する保険対象に含める措置など、一部を維持することを検討していると明らかにしている。

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安倍首相は11月22日、ペルーで行われたTPPの参加12か国の首脳会合の後の記者会見で、「アメリカ大統領選挙後の状況を受けて、国内手続きを遅らせたり、やめようという国は1国も無かった。今国会で承認を得られるよう全力で取り組むとともに、あらゆる機会を捉えて、ほかの署名国に国内手続きの早期の完了を働きかけていく」と述べた。

さらに「アメリカ抜きでTPP協定の発効を目指すべきという声をどう考えるか」との質問に対し、「アメリカ抜きでTPPの発効を目指すという意見については12か国の会議では議論にならなかった。TPPはアメリカ抜きでは意味が無く、根本的な利益のバランスが崩れる」と述べた。

しかし、その後のTrump発表でTPPの発効の可能性はほぼ無くなった。

TPP発効には12カ国全体のGDPの85%以上を占める、少なくとも6か国が批准手続きを終えることが条件となっている。

米国のGDPは12カ国全体の60.4%を占めるため、米国抜きでは発効しない。(条約を変更すれば別だが)

2015/10/13   TPP の発効条件   

Trump の主張する「雇用や産業を米国国内に取り戻すための公平な二国間の貿易協定」の交渉は厳しいものになると思われる。

11月20日に閉幕したアジア太平洋経済協力会議(APEC)は参加21カ国・地域で構成するアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の実現を掲げる首脳宣言を採択したが、これの将来も見通せなくなった。

ビショップ豪外相らは中国が主導を目指す米国抜きの東アジア地域包括的経済連携(RCEP)に軸足を移す可能性に言及している。ペルーもRCEPへの参加準備を進めていると明らかにした。中国は低レベルの協定を主張しており、これに魅力を感じる国もある。

安倍首相は、RCEPでは国有企業の制限や知的財産権のルールがまだ交渉次第となっていることから、自由で公正な経済圏を目指すTPPが「一つのモデルにならなければならない」と述べていた。

戦略の練り直しが必要となった。

付記 TPPと関連法が12月9日の参院本会議で、与党と日本維新の会などの賛成多数で可決され、承認、成立した。

 

Trump氏の10月の公約のうち就任初日の処理項目と今回の発表は次の通り。
 

問題点 2016/10 発表
「アメリカを再び偉大にする」ための100日間のアクションプランのうち、就任初日の処理
2016/11/21 発表
政界の不正、特定利益の共謀 上下両院議員の再任を制限する憲法改正を提案  
連邦職員削減のための雇用凍結  
連邦規則1つの新設の場合には既存の2つの規則をなくす。 新たな規制新設で、古い規制を除去
White Houseと議会の職員が退職後5年間はロビイストになることを禁止 政界の「ヘドロをかき出す(Drain the Swamp)」一環
政府高官
が退職後5年間はロビイストになることを禁止
政府高官が外国政府のロビイストになることを永久禁止
White House役職員が外国政府のロビイストになることを永久禁止
外国のロビイストが米国の選挙のために資金を集めることを完全禁止  
米国の労働者保護 北米自由貿易協定(NAFTA) の再交渉又は撤退の意思を発表  
TPPからの撤退を宣言 TPPからの撤退を宣言、フェアな二国間貿易協定を推進
中国を為替操作国に指定  
米国の労働者に不当な影響を与える全ての外国の貿易阻害行為に対応  
エネルギーの開発への制限を取り除く エネルギーの開発への制限を取り除く
Keystone Pipelineなどのエネルギー関係のインフラ計画を進める  
国連の気候変動計画への数十億ドルの支払を取り止め  
  ビジネスへの規制の廃止
安全保障と憲法のルール オバマ大統領が決めた全ての憲法に反する指令等を廃止  
Justice Scaliaの後任を選ぶ手続きの開始  
Sanctuary Cityへの全ての国家資金使用の禁止  
不法移民犯罪者の米国からの追放を開始 米国労働者より安い賃金で働く移民のヴィザ悪用の調査
身元調査ができないテロの温床地域からの移民を中断
  インフラ防衛のためのサイバーテロ(cyber-attacks)への対策

 

 


2016/11/24    Braskemのバイオ ポリエチレンを原料に宇宙で部品や工具を製造 

Braskemは11月3日、同社のバイオポリエチレン"I'm Green" を原料に、3D プリンターを使って国際宇宙ステーションで部品や工具が製造されていることを明らかにした。

米国で無重力3Dプリンター(The Zero-G Printer)を開発するMade In Space社とBraskem の協力によるもので、これにより宇宙飛行士はバイオPEを使って必要な部品や工具を宇宙で製造できることになった。

部品や工具のデジタル図面を地球から送信し、そのデータを3Dプリンターに入れて製造するもので、時間とコストを大幅に節減できる。 故障の場合にも送られてきた図面データで現地で製造できるため、宇宙ステーションでの生活や作業に大きく貢献する。

Made In Space社は2010年に設立された世界最初の宇宙での製造会社である。

The Zero-G PrinterはMade In Space社の主力製品で、NASAのマーシャル宇宙飛行センターと共同開発された無重力空間で使える3Dプリンターである。

試作段階では、微小重力が及ぼす影響や今後の宇宙事業への可能性などが吟味され、初号機が2014年に宇宙へ送られ 、良好な性能を示した。有毒ガスやナノ粒子をろ過する環境コントロール機能や地球からでも出来る遠隔操作機能が内蔵されており、ロケット発射時にかかる重力にも負けない耐久性を備えている。

国際宇宙センターの米国部分の運用を委託されているNPO法人 CASIS (Center for the Advancement of Science in Space ) のサポートを受けている。

実用機は2016年4月に国際宇宙センターに設置された。Additive Manufacturing Facility (AMF) と呼ばれる。(Additive Manufacturing は、材料を付加しながら製造していく造形方法)

 

最初に製造されたのはレンチで、実験棟などのメンテナンスに利用する。
レンチの頭には宇宙空間で利用するために、固定用のクリップが用意されているなど工夫が凝らしてある。

今回、野菜栽培の散水システムのパイプのコネクターが製造された。

原料のポリエチレンはBraskemのバイオポリエチレン "I'm Green"が採用されている。

 

Made In Space社は2016年2月に、NASAやNorthrop GrummanOceaneering Space Systemsと共同でArchinaut計画をスタートした。

宇宙ステーションの外の真空空間で、ロボットアームを操作して 3Dプリンターで大型構造物をつくるもので、3Dプリンターの設計と製造はMade In Space社が、ロボットアームの製造はOceaneering Space Systemsが、システムのメンテナンスはNorthrop Grummanが担当する。

NASAではこれらの無重力3Dプリンターシステムは将来の火星ミッションに欠くことのできないものと考えている。

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Braskemは2007年10月、サトウキビベースのエタノールを原料にした年産200千トンのPEプラント建設を発表した。

2007/11/5 Braskem、サトウキビからHDPEを製造

同社は2010年9月、Rio Grande do Sul 州の Triunfo Petrochemical Complexで サトウキビからのバイオエタノールを原料とするグリーンエチレン年産 20万トンとHDPE及びLDPEをあわせて年間20万トンのポリエチレンの生産を開始した。

同社は2013年5月21日、Green LDPE 30千トンの増設を発表した。2014年1月から生産を開始した。

Tetra Pakは2009年11月、Braskemのグリーンプラスチック(PE)を試用する契約を締結している。

2009/12/1 テトラパック、ブラスケムのグリーンプラスチックを使用

2010年末のバイオPE製造開始を控え、Braskemは2010年上半期に登録商標 "I'm Green" を採用した。

バイオPEはこの商標で販売されている。


2016/11/25 大陽日酸、豪州の産業ガス会社を買収 

大陽日酸は11月22日、子会社のTNSC (Australia) Pty Ltd を通じて、豪州の産業ガス・LPG 会社である Supagas Holding Pty Ltd を買収する売買契約を締結したと発表した。
買収額は約250億円とみられる。契約手続きの完了は12月中旬を予定している。

同社は、2015年7 月に Renegade Gas Pty Ltd を約150億円で買収し、豪州産業ガス市場への本格参入を開始した。

Renegade Gasの事業拠点はニューサウスウェールズ州、クイーンズランド州などの豪州東海岸を中心としており、大陽日酸では豪州における更なる事業地域の拡大を計画していた。

Supagas 社を買収することで、未進出であったビクトリア州や西オーストラリア州等を含めた豪州全土での販売ネットワークが完成する。

産業ガスに限れば、傘下の2社合わせて市場の約10%を占めており、今後はLPGの販売も含めてさらに市場シェアを拡大させる。
オーストラリア市場での競合相手は、独産業ガス大手 Linde とフランスの同業 Air Liquide 。

 

両社の概要は下記の通り。

社名 Renegade Gas Pty Ltd Supagas Holding Pty Ltd
事業 LPG 及び各種産業ガスの充填・販売、関連機器の販売、レンタル LPG、各種産業ガス(酸素、窒素、アルゴン、炭酸ガス等)、関連機器の販売 
LPG及び産業ガス充填設備の他、空気分離装置や炭酸ガス等の各種ガス製造設備を保有
場所 ニューサウスウェールズ州シドニー近郊 豪州ビクトリア州メルボルン近郊
株主 Mark Michalowsky 90%
Paul Berman
   10%
オーナー一族の個人及び資産管理会社 100%
新株主

            TNSC (Australia) Pty Ltd 100% 

設立 1997 年 1968 年

TNSC (Australia) の株主は次のとおり。

  Renegade 買収 Supagas 買収
大陽日酸 85% 約 93%
Renegade経営者
  Mark Michalowsky 90%
 
 
Paul Berman      10%
15% 約 5%
SupagasのManaging Director
     Debra Hill
約 2%


同社は2014年5月発表の新中期経営計画で、グローバル規模でM&Aを積極的に推進するとし、米国・アジアなど既に進出している地域に加えて、未進出国(オセアニア・中東・南米・欧州)に対しても積極的に市場参入を図り、事業規模拡大を加速するとしており、今回の買収もその一環である。

 

大陽日酸は2016年5月に米国子会社のMatheson Tri-Gas, Inc. を通じて、フランスのAir Liquide と米同業のAirgas の資産を買収している。

2015年にAir Liquide がAirgas を買収
することで合意したが、FTC が一部設備の売却を条件にこれを承認したのに伴うもの。

買収資産の内容は下記の通り。残る2基は他社に売却。

  Air Liquide Airgas
セパレートガス事業(東部、中西部の計 18 基) 12箇所 4箇所
亜酸化窒素事業(東部、西部に各1箇所) 2箇所  
液化炭酸ガスプラント ドライアイスプラントを併設
(某社と交渉中)
2基  
ドライアイスプラントを併設 2基  
単独 2基  
パッケージガス事業(アラスカ州にある営業所)   3箇所

2015/11/24  産業ガス世界大手のAir Liquide、米同業のAirgas を買収

 


2016/11/26 韓国大統領府のバイアグラ大量購入は「高山病対策」 

韓国青瓦台(大統領府)の報道官は11月23日、青瓦台が昨年12月に性的不能治療薬の「バイアグラ」 60錠を購入したとの報道について、「大統領のアフリカ歴訪の際、随行職員らの高山病の治療のために用意したが、使ったことはなく、そのまま残っている」と明らかにした。

韓国メディアは野党議員が政府機関から入手した資料をもとに、大統領府がバイアグラ60錠を購入していたと相次いで報じていた。大統領が崔順実(チェ・スンシル)被告らの名前で医師から処方されていた疑惑も出ており、関心が高まっていた。

報道官は「バイアグラは勃起不全治療剤でもあるが、高山病の治療剤でもある。高山病の予防薬としてはアセタゾラミドがあるが、南米歴訪ではアセタゾラミドのみを持って行って苦労をした。そのため、アフリカ歴訪では予防用であり治療用であるバイアグラも持参した」と述べた。

朴大統領は今年5月、エチオピア、ウガンダ、ケニアのアフリカ3カ国を訪問した。3カ国の首都は海抜1000〜2000メートルの高原に位置している。

報道官は「刺激的な報道が相次いでいる。自制を求めたい」と述べた。

ーーー

高山病は山酔い、高地脳浮腫、高地肺水腫という大きく3種類の症候群に分けられる。

高地脳浮腫は山酔いが激しくなったもので、倦怠感が強くなり、考えがまとまらなくなり、縦列歩行テストで運動失調が見られる。
高地肺水腫の最初の症状は息切れが激しくなってくることで、次第に安静時にも息切れがひどくなってくる。呼吸困難となり、血痰を吐き、意識不明になって、ついには死に至ることがある。

 

アセタゾラミド(商品名 ダイアモックス) は、軽い急性高山病の初期だけに効き、高地脳浮腫や高地肺水腫には効かない。

アセタゾラミド、炭酸脱水酵素を抑えることによって、体中の血液の中の酸素量を増やす効果があるとされている。おもに緑内障の治療に使用されている。

脳浮腫にはデキサメサゾン、肺水腫にはニフェジピンが有効だが、両者とも劇薬なので医療関係者が同行するか無線や衛星携帯電話などで連絡できる場合のみに限られる。

最近、バイアグラが高地肺水腫に有効であることが分かってきた。平地でも肺高血圧症の患者に投与され肺高血圧改善によい成績を残している。

低酸素に曝されると肺の血管が収縮し、肺動脈の圧が上昇して肺水腫が起こるが、バイアグラには肺の血管を拡張する作用があり、これにより肺の血流やガス交換が改善され、肺動脈圧も低下する。

アルゼンチンのサッカークラブチームが、ボリビアでの試合でバイアグラを使用したという。世界一高い場所(標高約 3,637メートル)にある公的なスタジアムで、酸素が薄いため、プレーで高山病を発症し、頭痛や吐き気、運動失調などを引き起こす恐れがあるため。

 



2016/11/28   韓国、中南米との自由貿易協定(FTA)交渉を加速

韓国政府は中南米との自由貿易協定(FTA)交渉を加速している。

韓国の産業通商資源部長官は11月16日ニカラグアで中米6カ国(グアテマラ、ニカラグア、エルサルバドル、ホンジュラス、コスタリカ、パナマ)の通産相とともに、「韓国・中米自由貿易協定(FTA)交渉が実質的に妥結した」と公式宣言した。 昨年6月の交渉開始から1年5カ月ぶりで、来年上半期中に正式署名する。

中米6カ国は自動車や鉄鋼など韓国の輸出品のうち品目数基準で約95%に対し関税を撤廃する。コスタリカは自動車に対する関税をFTA発効と同時になくす。残りの国も発効後5〜10年以内に自動車の関税を相次いで撤廃する。冷延鋼鈑など鉄鋼製品に対しても6カ国すべてが発効後10年以内に関税をなくす。
現在これらの国は韓国製自動車に最高30%、鉄鋼製品に最高15%の関税を課している。

韓国はコーヒー、原糖(サトウキビ樹液)に対し発効と同時に関税を撤廃する。牛肉は国によって発効後16〜19年、豚肉は10〜16年後に無関税で輸入する。
コメ、ニンニク、タマネギなどは関税撤廃縮小対象から除外された。

 

韓国産業通商資源部はまた、11月21日から2日間、アルゼンチンのブエノスアイレスで南米南部共同市場(Mercosur)との貿易協定の予備交渉を行った。

Mercosurはブラジル、アルゼンチン、パラグアイ、ウルグアイ、ベネズエラの南米5カ国の関税同盟で(ボリビアが参加を認められ、批准待ち)、中南米の人口の45%(2億8600万人)、GDPの52.4%(2兆8000億ドル)を占める有望市場。

韓国政府はMercosurとの貿易協定が実現すれば、対Mercosur輸出が35億−37億ドル増えると試算している。

さらにこれに先立ち、産業通商資源部はメキシコとの間で、来年2月に次官級のFTA予備協議を行うことで合意した。

産業通商資源部関係者は「計画通りにFTAが結ばれれば、韓国はカナダからチリに至る北米、南米のFTAベルトを構築することになる。これは最近広がる保護貿易主義に対応する戦略的な足がかりとして活用できる」と述べた。

ーーー

韓国は米国、EU、ASEAN、インド、チリ、ペルー、コロンビアなどの国・地域との間でFTAを締結し、欧州―東アジア―米国をつなぐ「東アジアのFTAハブ」と自称したが、その後、中国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなどとも締結した。

米国、カナダ、EU、中国の大国・地域については、日本はFTAを締結しておらず、差がついている。

日本は米国、カナダについては、2カ国間のFTAよりも広範な、非関税分野(投資、競争、知的財産)のルールづくりや、環境・労働などの新しい分野の内容を取り決める協定であるTPPに調印し、韓国に追いつき、逆に差を付けたかに見えた。韓国政府も取り残されるのを恐れ、TPPへの参加の要請を行った。

しかし、Trump次期大統領のTPP 離脱の意向表明でTPP の発効の可能性はほぼ消えた。

日本もFTA交渉を続けるしかないが、米国の場合はTrump が「雇用や産業を米国国内に取り戻すための公平な二国間の貿易協定」を主張しており、極めて厳しいものになると思われる。

 

日本と韓国のFTAの状況は下記の通り。年月日は発効日。

TPP 参加国-2016/2/4 署名
    日本 韓国
アジア
  個別 ASEAN   個別 対ASEAN
ASEAN マレーシア 2006/7 2009/2/1   2007/6/1
シンガポール 2002/11 2008/12/1 2006/3/2 2007/6/1
ベトナム 2009/10 2008/12/1 2015/12/20 2007/6/29
ミャンマー   2008/12/1   2007/11/27
インドネシア 2008/7 (未発効)   2007/12/7
フィリピン 2008/12 2010/7/1   2008/1/1
ブルネイ 2008/7 2009/1/1    2008/7/1
ラオス   2008/12/1   2008/10/1
カンボジア   2009/12/1   2008/11/1
タイ 2007/11 2009/6/1   2010/1/1
モンゴル 2016/6  
インド 2011/8 2010/1/1
中国   2015/12/20
北米 米国   2012/3/15
カナダ  (交渉中) 2015/1/1
メキシコ 2005/4 (来年予備協議)
欧州 EFTA
スイス、リヒテンシュタイン、
ノルウェー、アイスランド、
  2006/9/1
スイス 2009/9 
EU 28カ国 (交渉中) 2011/7/1
トルコ 基本&物品貿易 (交渉中) 2013/5/1
サービス&投資 2015/2/26 (署名)
オセアニア オーストラリア 2015/1 2014/12/12
ニュージーランド   2015/12/20
中南米 チリ 2007/9  2004/4/1
ペルー 2012/3  2011/8/1
コロンビア (交渉中) 2016/7/15
中米6カ国
グアテマラ、ニカラグア、エルサルバドル、ホンジュラス、コスタリカ、パナマ
  2016/11/16 (妥結)
Mercosur   (予備交渉)

                                                                                                  *EFTAとのFTAでは既に発効


2016/11/29  「グローバル年金指数ランキング」と年金制度改革法案 

米国の人事・組織コンサルティング会社の Mercer は、2009年から世界各国の年金制度を横断的に比較し、かつ最も多角的、包括的に調査した指数であるといえるグローバル年金指数 (Merbourne Mercer Global Pension Index)を毎年発表しているが、本年も2016年度の指数とランキングを発表した。

Mercer はニューヨークを本拠地とし、世界40カ国約180都市にわたるグローバルネットワークに、19,000名以上のスタッフを擁する世界最大の組織・人事マネジメント・コンサルティング会社。1959年にアメリカ大手保険グループである Marsh & McLennan に買収された。

ランキング首位はデンマークで、2012年より5年連続で首位を堅持 しており、同国とオランダのみが最高ランク "A" の評価を得ている。
十分に積み立てられた年金制度や、多くの加入者数、優れた資産構成と掛金の水準、十分な給付レベルおよび法令の整った個人年金制度の提供が首位となった主な理由である。

デンマークと共にオーストラリア、オランダは3年連続トップ3の順位を維持している。

これに対し、日本の年金制度のランキングは 当初から最下位グループに属しており、今回は27ヵ国中26位となった。

ーーー

Merbourne Mercer Global Pension Indexは豪州ビクトリア州政府の支援により、オーストラリアの金融サービスやリサーチの専門分野の頭脳を結集して開発されたもの 。

2009年に日本、中国を含む11カ国を対象としたが、順次対象を加え、今回は27カ国となり、全世界の人口の60%近くをカバーしている。

評価は40以上の質問項目から構成され、対象国の年金制度に0から100までの評価が付けられ、「十分性(Adequacy)」、「持続性(Sustainability)」、「健全性(Integrity)」の平均評価値が指数として表される。

各項目の評価指数における構成は次の通り:

十分性(Adequacy) 40% 公的年金が老後の生活に十分なだけ支払われているか、老後のための貯蓄は十分になされているか等。
持続性(Sustainability) 35% 年金が支払われるのに十分な環境が整っているか、平均寿命と支給開始年齢の関係は良いか、国家の破綻のリスクがなく持続可能なものか等。
健全性(Integrity)  25% 年金制度をうまく運用するための見直し機能や透明性が担保されているか、また私的年金のスキーム等。
世界銀行が発表している世界ガバナンス指数を評価に加えている。

総合指数の評価は次のとおり。

指数 Grade 評価基準 今回対象国(グラフ参照)
80以上 A 十分な給付を提供、持続可能で、高い健全性を保つ、非常に優れた堅牢な年金給付制度 デンマーク、オランダ
75〜80 B+ 健全な構造と多くの優れた特性を有する制度だが、改善すべき点あり。 豪州
65〜75 B フィンランドほか
60〜65 C+ いくつかの優れた特性を備えるが、同時に対処すべき重要なリスク、欠点がある。
改善なければ、有効性、長期的持続可能性が疑問視される。
アイルランド、英国
50〜60 C ドイツほか
35〜50 D いくつかの優れた特性を備えるが、同時に対処すべき重要な弱点、欠落がある。
改善なければ、有効性、長期的持続可能性が疑問視される。
イタリア以下、日本、アルゼンチン
35以下 E 構築の初期段階にある不十分な制度 該当なし

 

日本の場合、健全性は60.9だが、十分性は48.5、持続性が24.4で、総合指数は43.2にとどまる。

   

過去の順位:

  一位 日本の順位 日本より下位
2009年 オランダ 11/11 なし
2010年 オランダ 13/14 中国
2011年 オランダ 14/16 インド(新規)、中国
2012年 デンマーク 17/18 インド
2013年 デンマーク 17/20 韓国、インド、インドネシア(新規)
2014年 デンマーク 23/25 韓国、インド
2015年 デンマーク 23/25 韓国、インド
2016年 デンマーク 26/27 アルゼンチン(新規)

日本の年金制度については、例年指数・ランキング共に大きな変化がなく、制度の安定性はみられるものの、高齢化社会をめぐる課題に対する取り組みなど、引き続き改善の余地があることが明らかになった。

マーサージャパン以下の通りコメントしている。

「日本の総合評価が低いのは、特に、十分性と持続性の評価が低いためです。

十分性に関しては、年金給付による所得代替率(現役世代の年収と年金給付額の比率)が低いこと、税制や私的年金の仕組みが年金受給を促す形になっていないこと、などが評価を引き下げています。また、持続性に関しては、少子高齢化に伴い高齢者人口割合が増加していること、平均余命の増加により公的年金の期待支給期間(平均余命と年金支給開始年齢の差)が長くなっていること、さらには政府債務残高が大きいことなどの要因により低い評価となっています。

日本では他国よりも早いペースで少子高齢化が進行し、平均余命も伸長しています。公的年金では、社会情勢(現役人口の減少や平均余命の伸び)に合わせて、年金の給付水準を自動的に調整するマクロ経済スライドが2015年に初めて発動され、年金給付額の伸びは賃金や物価の上昇分以下に抑えられました。このような中、老後の生活資金を確保するには、公的年金に加え、企業年金や個人年金などの私的年金からの収入や活用方法を理解した上で、個人のライフスタイルに応じた早めの資金準備を実施していくことが重要になってきます。」 

ーーー

公的年金の支給額を引き下げる新しいルールを盛り込んだ年金制度改革法案は11月25日の衆院厚生労働委員会で可決された。将来の年金水準を維持する狙いがある。

法案に盛り込まれた新ルールでは、これまで賃金が下がっても物価が上がれば年金が据え置かれていたシステムを変え、新たに賃金の下げ幅に連動して支給額も下げる。

また、支給額が上がる場合でも増加額を毎年0.9%ずつ目減りさせる「マクロ経済スライド」のルールも、2018年度から強化する。

 

「マクロ経済スライド」は、減益人口が減り保険料収入が減る一方、平均余命の伸びで年金支出が増え、年金会計が悪化するのを補填するため、消費者物価アップなどによる年金のアップを調整するもの。

2004年の年金制度改正で導入されたが、これまでは物価スライド特例措置(物価が下落しても年金を下げない)分を取り戻すため に年金アップを抑えた期間は適用せず、2015年に初めて実施された。

2015/2/12  年金のマクロ経済スライド実施 

今までの制度では年金の伸びから0.9%ポイントを減らすことになっているが、消費者物価のアップが低い場合は下記の通り調整される。

消費者物価 本来の
スライド調整
実際の
スライド調整
年金改定  
+2.3 -0.9 -0.9 +1.4 ルール通り適用
+0.8 -0.9 -0.8 0 調整を 0.1%分 棚上げ
-1.0 -0.9 -0 -1.0 調整を全て棚上げ

今回の改正では、賃金や物価が低迷する景気後退期には支給額の抑制を凍結し、代わりに賃金や物価が上昇した局面で過去の調整不足分をまとめて年金額を抑える。2018年度から導入する。


2016/11/30  オプジーボと競合する米メルクの癌免疫薬承認へ

厚労省の薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会は11月24日、米Merck(海外子会社の社名はMSD)が開発中のがん免疫薬「キイトルーダ(Keytruda)」を肺癌の大部分を占める非小細胞肺癌向けに承認して問題ないと判断した。12月にも厚労省が正式承認する見通し。

キイトルーダはオプジーボと作用が同じで、対象疾患も競合する。

オプジーボが使えるのは現時点で、皮膚癌の一種である悪性黒色腫と、非小細胞肺癌、腎細胞癌の3種類。
キイトルーダは本年9月に悪性黒色腫への使用が承認され、今回の非小細胞肺癌で2種類目となる。

このほか、下記のヤーボイが根治切除不能な悪性黒色腫で承認を受けている。

オプジーボによる治療は、放射線や手術による治療が難しく、かつ、抗癌剤による化学療法の経験のある患者が対象になる。
これに対し、キイトルーダは肺癌患者に対して最初の抗癌剤として使える点が利点となる。

キイトルーダ の薬価は、今回薬価が50%引き下げられたオプジーボの薬価を基準に決められる。同水準になると思われる。
(キイトルーダは9月に悪性黒色腫への使用が承認されたが、
非小細胞肺がんへの拡大を視野に入れ、オプジーボの新しい薬価が決まるのを待つため、薬価収載申請を見送っていた。)

2016/11/17  オプジーボ 50%値下げ 

付記

厚生労働省は2017年2月8日開いた中央社会保険医療協議会(中医協)で「キイトルーダ」の薬価を1日当たり39,099円(年間約1400万円)とする案を提示し、了承を得た。
キイトルーダの薬価は、体重50キログラムの患者にオプジーボを使用した場合と同額となる。
ただ、患者の体重によって投与量が異なるオプジーボに対し、キイトルーダは体重にかかわらず投与量は同じで済む。
このため、例えば体重60キログラムの肺がん患者がオプジーボを使うと年1700万円かかるが、キイトルーダは1400万円で済む。

オプジーボの類似薬となる癌免疫薬は他に、中外製薬、AstraZeneca、独 Merck/米Pfizer連合がそれぞれ 国内で開発している。
来年以降、日本市場に登場する可能性があり、癌免疫薬を巡る競争はさらに激しくなりそうだ。

 

付記

MerckのKeytruda は2014年9月5日にFDAから承認を受けたが、小野薬品とBristol-Myers Squibbは、 その直後に、キイトルーダが癌治療でのPD-1抗体の使用で特許を侵害しているとしてMerckを訴えた。

小野薬品とBristol-Myers Squibbは、2017年1月にMerckと和解した。実質勝利 である。

小野薬品とBristol-Myers Squibbが保有する用途特許および物質特許が有効であることを確認
Merckの「キイトルーダ®」の販売を許諾
Merckは下記を支払う。
 頭金 6億2500万ドル
 ロイヤリティ 2017年1月1日から2023年12月31日 キイトルーダの全世界売上の6.5%、
       2024年1月1日から2026年12月31日              2.5%

なお、頭金およびロイヤルティは小野薬品に25%、BMS社に75% の割合で分配

 

ーーー

これらの癌免疫薬は免疫チェックポイント阻害薬とよばれる。
(他に、自分のリンパ球を取り出し培養したうえで、活性化したリンパ球だけ、特にナチュラル・キラー細胞を戻すNK細胞投与がある。)

癌細胞には、免疫細胞攻撃を防止する「免疫チェックポイント」という仕組みがある。

1) 癌細胞は、免疫細胞からの攻撃を逃れるために、PD-L1 というタンパク質を出し、これが免疫細胞のPD-1 に結合すると、免疫細胞の働きが抑制される。

2) 免疫細胞は、抗原提示細胞である樹状細胞から癌抗原の提示を受けると働きが活発になり、それを目印に癌細胞を攻撃するが、抗原提示を受ける際、免疫細胞のCTLA-4 に樹状細胞のB7というタンパク質が結合すると、逆に免疫細胞の働きが抑制され、癌細胞を攻撃できなくなる。

これらの「免疫チェックポイント」を阻害して、免疫細胞に癌細胞を攻撃させるのが、免疫チェックポイント阻害薬である。

  機能 承認 開発中
抗PD-1抗体 免疫細胞のPD-1に結合し、PD-1と癌細胞のPD-L1の結合を防止 オプジーボ(小野薬品/BMS)
キイトルーダ(米Merck)
 
抗PD-L1抗体 癌細胞のPD-L1に結合し、PD-1とPD-L1の結合を防止   Roche/中外製薬
AstraZeneca
独Merck
/Pfyzer
抗CTLA-4抗体 免疫細胞のCTLA-4に結合し、CTLA-4と樹状細胞のB7の結合を防止 ヤーボイ(BMS/小野薬品)
 
AstraZeneca

                                                                                   BMS=Bristol-Myers Squibb

 


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