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2018/10/1   新素材「しなやかなタフポリマー」を活用した革新的コンセプトカーが完成

東レ・カーボンマジックと科学技術振興機構、内閣府政策統括官(科学技術・イノベーション担当)は9月28日、新素材「しなやかなタフポリマー」を活用した革新的コンセプトカーが完成したと発表した。

内閣府総合科学技術・イノベーション会議が主導する「革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)」に「超薄膜化・強靭化 『しなやかなタフポリマー』の実現 」プログラムがある。

ここで創出した「しなやかなタフポリマー」を、自動車を始めとする輸送機器の構造材や構成部品に適用することにより、軽量性・機能性・安全性・信頼性を飛躍的に向上させる可能性を検証することを目的として、それらの材料をふんだんに活用し、適用の効果を具現化した電気自動車(EV)のコンセプトカー“I toP ”(Iron to Polymer) をつくったもの。

車両の樹脂化を従来比約4倍の47% まで進めた。

樹脂製の大きなサイドウインドや透明ルーフとフロントウインドの一体化など、これまでにないフォルムと空力を両立させつつ、革新的な一体成形モノコック構造ボディ・フレーム(重量140kg 、一般的な金属製モノコックの約半分)により、強度・剛性にも優れた衝突安全構造を実現した。

さらに、サスペンション・スプリング・ホイールなどの足回り部品にも炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を適用したことで、大幅な軽量化(車両重量850kg、軽量化率38%)を達成することができた。

その結果、製造工程も含めた10万km 走行時点での温室効果ガス(GHG)排出量が、従来素材の鉄、ガラス、タイヤなどで作った場合と比べて11% 低減できる可能性が示された。

伊藤耕三 東大教授は「自動車の重さが半分になれば燃料も半分でいい。開発した樹脂やプラスチックが普及すれば、自然環境に対して絶大な効果が期待できる。課題はコストで、量産化するなどして乗り越えていきたい」と述べた。

ーーー

内閣府 総合科学技術・イノベーション会議が「革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)」を主導している。

究極的な目的を「イノベーションに最も適した国」「起業、創業の精神に満ちあふれた国」の実現とし、それを成功に導くために、「非連続イノベーションの創出」と「イノベーション創出の行動モデルの提示」を目標とする。

構想を実現するため、トップクラスの研究開発力を結集し、研究開発プログラム全体を統率して機動的なマネジメントを実施しながら、ハイリスク・ハイインパクトな研究開発に取り組み、非連続イノベーションの創出にチャレンジする。

16の研究開発プログラムがあり、その一つが、東大の伊藤耕三教授がリーダーの「超薄膜化・強靭化 『しなやかなタフポリマー』の実現 」である。


超薄膜化・強靭化 「しなやかなタフポリマー」

人類の発明した素材で最も用途が広いとも言われる便利なポリマー。しかし、薄くすると壊れやすく、厚く硬くすると脆くなる性質が課題でした。

本プログラムは、従来の限界を超える薄膜化と強靱化を同時に達成する「しなやかなタフポリマー」の実現を目指します。

タフネス性・柔軟性・自己修復性(熱や光で元に戻る)という特徴をもつタフポリマーは、自動車部品や輸送機器を飛躍的に向上させるブレークスルーにつながります。さらに高分子材料が利用される産業全般に広い波及効果が期待され、将来的に安全・安心・低環境負荷という社会的ニーズに貢献します。

体制は次の通り。

「燃料電池電解質膜薄膜化プロジェクト」において、燃料電池を構成するフッ素系の電解質膜を対象に、従来トレードオフの関係にあった薄膜化と高水準の機械的耐久性とを両立させるという難しい課題に挑戦している。

AGC(旧称 旭硝子)が有するフッ素系ポリマー技術と、大学などによる膜の構造解析技術やシミュレーション技術との連携により、ポリマーの化学構造に遡って検討を重ね、機械的耐久性を向上する上で最適な物性を有する膜の具現化に成功した結果、従来膜の1/5の厚さにおいて5倍以上の乾湿サイクル耐久性を示すという、従来は考えられなかった特性を実現した。

「Li電池セパレーター薄膜化プロジェクト」において、リチウムイオン電池のセパレーターを構成するPP系多孔質フィルムを対象に、従来技術では両立が困難であった薄膜化と高強度化を両立させるという課題の解決を目指している。

三菱ケミカルが培ってきた独自の材料技術と、学術機関による膜の高次構造解析技術やシミュレーション技術との連携により、多孔質フィルムを高強度化する上で最適な細孔構造などに関する指針の構築とその実現に成功した。その結果、PP系多孔質フィルムを1/3の厚みにしても突刺し強度が落ちないという、従来技術では不可能であった特性を達成した。

これは、多孔質フィルムをタフ化する新たな材料設計指針の確立につながるとともに、リチウムイオン電池の高容量化を実現可能な画期的成果と言える。

「車体構造用樹脂強靭化プロジェクト」において、ポリマー材料への環動ポリマー構造の導入により、高剛性と高靭性を高水準で両立した車体構造用材料を開発している。

東レが保有するナノアロイ®技術の活用や学術機関との種々の連携を通して、環動ポリマー構造をCFRPのマトリックス樹脂中にナノメートルオーダーで均一に分散させることに成功した結果、強度、剛性を保ちながら一般的なCFRPと比較し約3倍の耐疲労特性を実現した。

「タイヤ薄ゲージ化プロジェクト」において、タイヤを構成する各種部材を強靭化し薄くすることで、タイヤの省資源化および軽量化、並びに低燃費性能の向上を目指している。

これまで、亀裂進展挙動の本質を明らかにすることで、ゴム材料における高速き裂進展を大幅に抑制する高強度化を達成した。

北海道大学がタフポリマー化の手法として提唱するダブルネットワーク構造をゴム材料に導入することにより、さらなる高強度化とともに、従来トレードオフの関係にあった低燃費性能の向上との両立に成功した。これは、ゴム材料においてもダブルネットワーク構造がタフポリマー化に有効であることを実証するとともに、タイヤとしての実用化を目指す上でも極めて重要な成果と言える。

「透明樹脂強靭化プロジェクト」において、代表的な透明樹脂であるPMMAを対象に、高透明性を維持したまま、従来トレードオフの関係にあった高剛性と高タフネスを高水準で両立させるという非常に難しい課題に取り組んでいる。

住友化学が有する各種材料技術と、アカデミアによる破壊に関する分析・解析技術やシミュレーション技術との連携により、分子レベルでの高次構造制御に成功した結果、高透明性と高剛性を保ったまま、従来の10倍以上の耐衝撃性を実現した。これは、タフポリマー化のための新たな材料設計指針を示唆するとともに、自動車の前面窓やルーフを樹脂製に変える可能性を示す画期的な成果と言える。

 

その後、タフポリマーの材料開発プロジェクトに続き、「コンセプトカー製作プロジェクト」がスタート した。

「しなやかなタフポリマー」の社会実装や新しい価値創造の可能性をクルマで示す目的で、上記5つの材料開発プロジェクトの各種研究開発成果を適用して、実用性・安全性を備えた未来車のプロトタイプ(コンセプトカー)の製作に取り組んできた。

タフネスをもたらす原理を具体的部材に落とし込んだ。

  部材 担当
ゲル 電解質膜 燃料電池セパレータ AGC
多孔性樹脂膜 LIBセパレータ 三菱樹脂
エラストマー タイヤ ブリヂストン
結晶性樹脂 車体用樹脂 東レ
非晶性樹脂 透明樹脂 住友化学

極限まで樹脂化を進めたコンセプトカー“I toP ”の特徴的な研究・開発内容は次の通り。

(1)スタイリングデザインと空力

外観形状は、しなやかさとタフさをテーマにボディ全体を樹脂化することでのみ成立するデザインコンセプトを具現化している。

連続的な曲面からなる面構成、大きなグラスエリアとドア開口、独立したフロントフェンダー、カバーされたリアホイールなど、未来感覚のスタイリングと省エネルギー化に貢献する優れた空力性能を両立している。

(2)モノコックボディ

軽量性と高剛性、さらには耐衝突性能の観点から、車両のフレームは外板ボディを兼ねたモノコック構造を採用、下図部分を一体成形品として構築した。炭素繊維と熱硬化性樹脂からなる複合材の優れた物性と相まって、コンセプトの成立に大きく貢献している。

重量は、一般的な金属製モノコックフレームの300kgから140kgへと50% 以上の低減を果たしている。

(3)サスペンション

従来、樹脂化が困難とされてきたサスペンション部品にも、今回開発された環動ポリマー構造を導入したCFRPを用いることで、求められる性能や機能が達成され適用に至った。

(4)窓材料

本プログラムで開発された高剛性・高タフネス性を両立した透明樹脂をウインドガラスに適用した。これによりガラス部材の軽量化が見込めるとともに衝撃を受けた際の耐破断性が増すことで、飛来物の貫通や破片の飛散防止など安全性向上に効果が期待される。

(5)タイヤ・ホイール

今回のプログラムで創出された革新的なゴム素材を用いた専用タイヤを装着している。摩耗性の向上はタイヤ材料の省資源化に貢献するとともに、5%と推算される転がり抵抗と幅狭・大径化による低空気抵抗は、省エネルギーに直結する。

またホイールは、サスペンション部品同様に環動ポリマー構造を導入したCFRPを用いることで、耐衝撃特性が改善されており、タイヤを含めたバネ下回転部位の軽量化は、車両全体の性能向上に大きく寄与している。

(6)クラッシュボックス

環動ポリマー構造を導入したポリアミドとグラスファイバーの複合材からなる衝撃吸収体を側部および前部に配している。複合材化することで軽量化を実現してる。

(7)バッテリーパック

EVシステムのリチウムイオン2次電池モジュールを収めるボックスおよびそのベース部材もCFRP化し、軽量化(約30%)と耐衝撃性向上を図っている。

(8)インテリア

インテリアパネルの大半をCFRP化し、モノコックフレームやドア構造の一部とすることで、効率の良い車体剛性確保と軽量化に貢献している。またシート構造部材を、環動ポリマー構造を導入したCFRP製とすることで、軽量化に加え靭性に優れた薄肉シートシェル構造を採用することができた。

(9)その他の特徴

前席1名・後席2名の乗員配置、収納可能なフロントシートやツインレバー式ステアリングは、将来の完全自動運転を意識したものであり、後部に着席する乗員の快適性を追求している。

またドアの開閉から運転に関わる操作・情報モニターに至るまで、スマートフォンとタブレット型PCを用いるシステムを採用している。

さらに、大きく前上方に開く電動アシスト付きドア(重量35kg/片側)は、モノコックボディ同様の材質と構造を持ち軽量化が達成されたことで成立している。


 

2018/10/1 ノーベル医学・生理学賞に本庶佑博士とJames Allison 博士 

スウェーデンのカロリンスカ医科大は10月1日、今年のノーベル医学生理学賞を、京都大の本庶佑特別教授(76)と、University of Texas MD Anderson Cancer CenterのJames Allison 博士(70)に贈ると発表した。

本庶氏は体内の異物を攻撃する免疫細胞の表面に、PD-1という免疫の働きを抑える分子を発見。この分子ががん細胞に対して働くのを妨げて、免疫ががんを攻撃し続けられるようにする画期的な薬オプジーボが小野薬品で開発され、複数の種類のがんで使われている。

日本のノーベル賞受賞は、2016年の医学生理学賞の大隅良典・東京工業大栄誉教授に続き26人目。

医学生理学賞は1987年の利根川進・米マサチューセッツ工科大教授、2012年の山中伸弥・京都大教授、2015年の大村智・北里大特別栄誉教授、2016年の大隅氏に続いて5人目。

授賞式は12月10日にストックホルムである。賞金の900万スウェーデンクローナ(約1億1500万円)は受賞者で分ける。

James Allison 博士は、カリフォルニア大学バークレー校やハワード・ヒューズ医学研究所の研究者を経て、テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンター執行役員。
 
ヒトの免疫機能をめぐってT細胞やがん細胞の研究に専念し、1995年、T細胞の活動を抑える抑制性受容体のCTLA-4 を発見、自身の研究チームでCTLA-4の活性化を遮断する抗体の開発に取り組み、1996年にはマウスを使った動物実験でこの抗体が腫瘍の排除に役立つことが証明され、抗体製剤の開発に成功した。

「ヤーボイ」と名付けられた薬は、2011年に転移性皮膚がんの治療薬としてBristol-Myers Squibbから発売された。(提携する小野薬品も扱う)

ーーー

癌免疫薬は免疫チェックポイント阻害薬とよばれる。
(他に、自分のリンパ球を取り出し培養したうえで、活性化したリンパ球だけ、特にナチュラル・キラー細胞を戻すNK細胞投与がある。)

癌細胞には、免疫細胞攻撃を防止する「免疫チェックポイント」という仕組みがある。

1) 癌細胞は、免疫細胞からの攻撃を逃れるために、PD-L1 というタンパク質を出し、これが免疫細胞のPD-1 に結合すると、免疫細胞の働きが抑制される。

京都大学の本庶佑名誉教授が免疫細胞上のタンパク質(PD-1)を発見した。

オプジーボは、その研究を基に「ゴールの見えないまま始めた研究から成果が出るまで20年以上かかった」(小野薬品)。

薬を作るには、PD-1分子の働きを邪魔する「抗体」が欠かせなかったが、小野薬品には抗体を作る技術がなかった。

その後、米ベンチャー企業 Medarexとの提携で「完全ヒト型抗PD-1 抗体」を入手でき、オプジーボが誕生した。

Bristol-Myers Squibbは2009年7月22日、Medarexを24億ドルで買収すると発表した。

日本、韓国、台湾以外はBristol-Myers Squibbが開発・商業化の権利を持つ。

2) 免疫細胞は、抗原提示細胞である樹状細胞から癌抗原の提示を受けると働きが活発になり、それを目印に癌細胞を攻撃するが、抗原提示を受ける際、免疫細胞のCTLA-4 に樹状細胞のB7というタンパク質が結合すると、逆に免疫細胞の働きが抑制され、癌細胞を攻撃できなくなる。


これらの「免疫チェックポイント」を阻害して、免疫細胞に癌細胞を攻撃させるのが、免疫チェックポイント阻害薬である。

  機能 承認 開発中
抗PD-1抗体 免疫細胞のPD-1に結合し、PD-1と癌細胞のPD-L1の結合を防止 オプジーボ(小野薬品/Bristol-Myers Squibb)
キイトルーダ(米Merck)
 
抗PD-L1抗体 癌細胞のPD-L1に結合し、PD-1とPD-L1の結合を防止   Roche/中外製薬
AstraZeneca
独Merck
/Pfyzer
抗CTLA-4抗体 免疫細胞のCTLA-4に結合し、CTLA-4と樹状細胞のB7の結合を防止 ヤーボイ(Bristol-Myers Squibb/小野薬品)
 
AstraZeneca

                                   
付記 PD-1の発明経緯

  小野薬品 社員を研究室に在籍させ、共同研究
1992年 研究室の大学院生 石田靖雅氏(現 奈良先端科学技術大学院准教授)が、細胞の自殺に関与する遺伝子の探索で、独自の遺伝子探索法でPD-1を発見。
  細胞の自殺に関する遺伝子でないこと判明
1997 PD-1が働かなくしたマウスに関節リウマチの症状、免疫にブレーキをかける役割を持つとの推定。本庶氏「良い薬になる可能性」の直感
  大学院生 岩井佳子氏(現日本医科大教授)らの研究で、皮膚がんの悪性黒色腫をマウスの肝臓に移植、PD-1を効かなくしたマウスの肝臓は白いまま。
「癌に効くかもしれない」
→ヒトのPD-1の働きを阻害する抗体を開発
  小野薬品には抗体を作る技術なし。日本の企業は関心を示さず。
  本庶氏が自ら話を持ち掛け、米ベンチャー企業 Medarexとの提携で「完全ヒト型抗PD-1 抗体」を入手でき、オプジーボが誕生 
2009 Bristol-Myers SquibbがMedarexを買収

 



2018/10/2 米国、10月からの政府閉鎖回避 

2019会計年度(2018年10月〜2019年9月)の米連邦予算の法案が9月28日にトランプ大統領が署名し、成立した。

トランプ大統領がメキシコとの間の壁の建設費用を認めない場合に政府を閉鎖するとの脅しを続ける中、国防省等については正式予算、メキシコとの間の壁の建設を担当する国土安全保障省 等については12月7日までの「つなぎ予算」とする異例の形となった。

11月6日の中間選挙後に壁の問題での大統領と民主党の争いが再開されることとなる。

トランプ米大統領は9月6日、メキシコの壁建設予算を巡って政府機関が閉鎖される可能性は11月6日の中間選挙まで「おそらくない」との考えを示した。中間選挙に出馬する共和党候補に打撃を与える事態を望まないため、と理由を説明した。しかし、「選挙が終われば即座にするつもりだ」と発言した。

付記  

「つなぎ予算」期限の12月7日、トランプ米大統領は12月21日までの歳出を可能にする「つなぎ予算」に署名し、成立した。両院が前日に議決していた。

ブッシュ元大統領の死去(11/30)を受けて国境の壁の議論を先送りした。

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米国では10月1日から新年度(2018/10〜2019/9)が開始する。

問題はメキシコとの壁の予算である。

トランプ大統領は、壁建設費50億ドルの歳出予算を盛り込むことを求めている。

民主党はこれに反対しており、上院民主党はかねてから、国境の壁建設予算16億ドルなら支持する方針である。

上院可決には60票が必要であるが、共和党は51議席しか持たない。

トランプ大統領は7月29日のツイッターでこう述べた。民主党が壁を含むBorder Securityに賛成しなければ、政府を閉鎖する。

I would be willing to “shut down” government if the Democrats do not give us the votes for Border Security, which includes the Wall!
Must get rid of Lottery, Catch & Release etc. and finally go to system of Immigration based on MERIT! We need great people coming into our Country!

9月16日にも、「壁がなければ犯罪以外に何もない」と述べ、共和党に決断を求めている。

“When will Republican leadership learn that they are being played like a fiddle by the Democrats on Border Security and Building the Wall?
Without Borders, we don’t have a country. With Open Borders, which the Democrats want, we have nothing but crime! Finish the Wall!”

壁の予算は 民主党の反対で通らない。そうなると、大統領は政府閉鎖を決める。

米議会の共和、民主両党は、政府機関閉鎖の回避を目指し、面白い案を考えた。

トランプ大統領も賛成する部分(国防省、労働省、教育省、保健福祉省などの予算)については正式予算を作成する。

壁の建設を担当する国土安全保障省や、国務省や商務省、司法省、科学関連省庁の予算については、正式予算ではなく、12月7日までのつなぎ予算とし、現行の予算水準を維持する。

これにより、11月6日の中間選挙までこの問題を棚上げにするというものである。

上院は9月18日、これを承認した。

  共和党 民主党 無所属 合計
賛成 45 47 1 93
反対 6   1 7
合計 51 47 2 100

下院は9月26日、これを可決した。

  共和党 民主党 合計
賛成 176 185 361
反対 56 5 61
棄権 3 3 6
合計 235 193 428

国防省予算は6065億ドルで、前年比で170億ドル増となっている。

労働省、教育省、保健福祉省は合計1780億ドルで、前年比で10億ドル増、政権の要求より110億ドル増となっている。政権は軍事費以外の増については反対しているが、民主党に軍事費予算を呑ませるための見返りである。

歳出予算は裁量的経費(Discretionary Spending)と義務的経費(Mandatory Spending)に分けられているが、裁量的経費の75%を決めたこととなる。

裁量的経費が75%だけとはいえ、年度開始前に決まったのは20年ぶり。

最近の状況は下記の通り。

  大統領 当初  
  Obama
(2009/1〜
   2017/1)
 

オバマ政権は成立以来、予算案と債務上限問題で苦しんだ。
本予算が期限に一度も通らず、それまでの支出のペースを維持する短期の暫定予算をつないだ。

背景については 2013/3/25 米議会が暫定予算可決 

2012/10〜2013/9 暫定予算 2013年3月、政府機関の閉鎖回避のための年度末(9月30日)までの暫定予算案を承認
  2013/3/25 米議会が暫定予算可決
2013/10〜2014/9 暫定予算 17年ぶりとなる政府機関の一部閉鎖
  
2013/10/1   米国、予算成立せず、政府機関を一部閉鎖

2014年1月16日に、2014年9月30日までの歳出法案を可決

2014/10〜2015/9 暫定予算 米上院本会議は12月13日深夜、2015年9月までの包括的歳出法案を可決した。
移民制度改革(不法移民の大量受け入れ)の所管事項が多い国土安全保障省の予算については、2015年2月までとされた。
  
2014/12/18 米国、包括的歳出法案が可決するも、問題を残す
  2015/3/6 米、国土安保省の予算可決 
2015/10〜2016/9 暫定予算 米議会下院と上院は2015年12月18日、1兆1500億ドル規模の予算法案を可決した。
  2015/12/21 米議会、予算案を可決
2016/10〜2017/9 暫定予算 2016/12/10 米国議会、来年4月28日までの暫定予算を可決

米議会共和党と民主党は2017年4月30日夜、2017年9月末までの資金を手当てする約1兆ドル規模の予算案について合意した。

2017/10〜2018/9 Trump
(2017/1〜
暫定予算 2018年3月23日の暫定予算期限が近づく中、共和・民主両党の議会トップ4人は3月21日夜、10月までの政府予算を手当てする歳出法案で合意した。
  
2018/3/23    米、暫定予算期限切れ1日前に予算案承認

その後、つなぎ予算を延長したが、2018/1/19に4度目の延長に失敗、時間切れで政府機関の閉鎖
  2018/1/20   米政府機関、閉鎖 
  
2018/1/23 米国、政府機関閉鎖解除へ 
  2018/2/10   米国政府機関、再度の閉鎖、数時間後に予算合意で解除
  2018/3/23    米、暫定予算期限切れ1日前に予算案承認

 


 

2018/10/3 「中国が米中間選挙への介入画策」、トランプ大統領が安保理で非難  

 
 トランプ米大統領は9月26日、 国連安全保障理事会の会合で「中国は私の政権に逆らい、11月の米中間選挙に介入しようとしている」と指摘した上で「中国は私やわれわれ(共和党)に勝利して欲しくない。私が貿易問題で中国に立ち向かった最初の大統領だからだ」と述べたうえで「介入も干渉もされるつもりはない」と警告した。

名指しで批判された中国は「不当な非難は受け入れられない」(王毅外相)と反発している。

トランプ大統領は中国による介入の具体的な証拠は示さなかったが、その後、記者団に「中国が(米中西部の)農業地帯を標的にしている」と語り、アイオワ州の新聞 Des Moines Register に中国が出した「記事型広告」の写真を自身のツイッターに掲載した。

China is actually placing propaganda ads in the Des Moines Register and other papers, made to look like news. That’s because we are beating them on Trade, opening markets, and the farmers will make a fortune when this is over!


アイオワ州新聞大手のDes Moines Registerは9月23日、4ページにおよぶ記事を掲載した。「中国国営のChina Dailyが執筆、広告費用を負担した 。本紙は内容に関与しない。」との但書を付けている。

容は、最近のChina Dailyの記事の転載である。

1.メイン記事  「米中対決は貿易のメリットを破壊させる」という題で、副題は「貿易紛争は中国の輸入業者を南米に向かわせる」となっている。

これはChina Daily 2018/8/23 の記事 US tariffs threaten economic interdependence の転載で、副題は Trade row forces Chinese importers to look to South America である。

米国の大豆7万トンを積んだ貨物船が7月6日に大連港に到着した。しかしタッチの差で、高関税が課せられたという話で始まる。以下概要。

トランプ大統領が中国品に追加関税を課したため、中国も米国品に追加関税を課したもの。
中国は世界最大の大豆輸入国で、米国の輸出大豆の60%を輸入している。ブラジルに次ぐ。中国は昨年127億ドルの大豆を米国から輸入した。

米中貿易紛争で、中国の輸入業者はブラジル、アルゼンチン、ウルガイなどの南米に向かわざるを得ない。

農業貿易では中国と米国は極めて補完的だが、トランプ大統領の貿易戦争の結果、中国は他のパートナーを探さざるを得ず、そうなれば、米国の農家は中国での市場シェアを取り戻すのは難しくなる。

米中の補完関係は農業だけではない。Boeingは昨年、次の20年間で中国の航空会社が1.1兆ドル相当の7240機のコマーシャルジェットを購入すると予想した。今回中国は大型ジェットには追加関税を課さなかったが、事態が悪化すれば、そうはいかないだろう。 

これまで長年、米中は対話を続けてきた。しかしトランプはこれをぶち壊した。中国や他国に、時代遅れの301条を使ったり、national securityを口実にして、追加関税の脅しをかけている。

対中貿易赤字はミスリーディングで、iPhoneを例にとると、米国は中国からの輸入を1台300ドル以上と計算するが、部品を世界中から受入れ、中国は労務費10ドルを稼ぐだけである。
 iPhoneだけで昨年の対中貿易赤字の4.4%、157億ドルと計算されている。

トランプは中国のせいで米国の雇用が失われたとするが、多くの経済学者は、米国の失業の原因は、中国やメキシコのせいではなく、オートメーションであるとしている。

オバマ政権とは相互投資協定を締結し、現在、約15万の雇用が中国の投資で支えられている。トランプ政権になって、相互投資の対話は中断した。

Yale Universityの Roach 教授は、中国の産業政策を米国が攻撃しているのについて、どの国でもやっていることだとして否定した。また、中国が外国企業が中国にJVを設立する際に知財の移転を強いているとの考えを否定している。

2.この記事の左の記事

2018/5/4 の記事 New book tells story of Xi's 'fun' days in Iowaの転載である。

アイオワ州のSarah Landeが書いた本 “ Old Friends: The Xi Jinping - Iowa Story” を紹介し、彼女と周近平夫妻との永年の交流を描いている。

アイオワ州は1983年に河北省と姉妹州(省)となった。彼女は姉妹州組織の常務理事を務め、習近平の1985年の来訪時にアレンジをし、2012年の再訪時にも会い、直後に訪中して会っている。

他の紙面の記事の内容は不明だが、他に「中国は世界の良いお手本」を題とする記事や中国のカンフーなどの内容とされる

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Des Moines Registerの記事については、外国政府が貿易振興のため米国の新聞の広告スペースを購入することは広く行われており、国家情報機関が行う秘密の作戦とは異なる との報道もあるが、中国当局がアイオワ州の有権者を対象に広告を掲載したのは、11月の中間選挙が背景にあることが原因だとする報道もある。

トランプ大統領のやり方を猛烈に批判し、このままでは中国は南米から農産物を買うことになるとしている。

アイオワ州は農業が盛んで、大豆生産量は全米1位を誇っている。

また、アイオワ州は、米国のなかでも共和党と民主党が互角の戦いを展開する「スイング・ステート」として知られている。選挙のたびに勝利政党が変わるため、その動きが常に注目されている。11月の中間選挙でも再び激しい攻防戦が予想される。

中間選挙を控えたこの時期に、このような記事を掲載したのは、選挙介入と見られる可能性はある。

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トランプ米大統領は9月12日、米国の選挙に介入した外国人に制裁を科すことを可能にする大統領令に署名した。

Executive Order on Imposing Certain Sanctions in the Event of Foreign Interference in a United States Election

米国では2016年の大統領選挙をめぐり、ロシアがトランプ氏のため選挙戦に干渉したとの疑惑が持ち上がった。また、投票システムへのサイバー攻撃が試みられたほか、メディアやインターネット上で偽情報が拡散された 。

今回の大統領令はどちらの行為についても、実行者に金融制裁を科すための正式な手続きを設ける。

大統領令を発表したDan Coats国家情報長官は、11月6日の議会選挙が迫るなか、介入が「ロシアだけでなく、中国からも行われている兆候がある。またイラン、さらには北朝鮮にも潜在的な実行能力がある」と述べた。


2018/10/4   NAFTA、3カ国協定を維持、USMCAに改称
 

トランプ米政権は9月30日、北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しでカナダと合意したと発表した。

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メキシコとの間では、8月27日に基本方針に関する暫定合意が成立している。

米国とカナダが進めていたNAFTA改定を巡る協議は、期限の8月31日中の合意には至らず、物別れに終わった。

トランプ政権は12月1日のメキシコの政権交代までに新協定の署名を終えたいとしており、トランプ大統領は、カナダとの合意のないまま、メキシコとのNAFTA改定案を11月下旬までに署名する意向であることを議会に正式通知した。

米国内法は議会が十分な審議を行えるよう、署名から90日前の通知を求めている。また、新協定文書を1カ月後に議会に送付することとなっている。

付記 3国は11月30日(メキシコ政権交代の前日)、「USMCA」に署名した。

 

カナダを含めた3カ国が新協定に合意し、新協定文書を9月末に議会に提出できるかどうかが焦点で、米国は、間に合わなければ、米国とメキシコだけの新協定を結ぶとして、カナダに妥協を迫っていた。

2018/9/3 米国とカナダのNAFTA再交渉、再協議へ  メキシコとの合意内容も記載

カナダとの交渉は難航した。

トランプ米大統領は9月26日の記者会見で、北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉を巡るカナダとの協議について「カナダの交渉スタイルに強い不満を持っている」と述べた。カナダのトルドー首相との会談を拒否したとも主張した。米政権は9月末までの合意を目指しているが、カナダは譲歩する姿勢をみせておらず、自動車に関税を課すと改めて圧力をかけた。

ーーー

期限ぎりぎりの9月30日に合意した。

NAFTA(North American Free Trade Agreement)の名称を「USMCA(the United States-Mexico-Canada Agreement=米国・メキシコ・カナダ協定)」に変更する。

“Free Trade”が名称から消えた。トランプ大統領は1994年に発効したNAFTAが米国の貿易赤字を膨らませて国内の雇用を奪った元凶だと批判し、名称変更を求めていた。

米国が求める乳製品の市場開放でカナダが一定の譲歩を示した。米国が撤廃を求めてきたNAFTA 19条の紛争解決メカニズムは、新協定ではそのまま残される。

3カ国政府は11月末の署名をめざす。発効に向けては各国議会の批准手続きが焦点となる。米国は11月の中間選挙で選出された新議会が年明けに審議する見通しだ が、中間選挙の結果、上院・下院のいずれかで民主党が過半数を取れば、否決される可能性もある。

USTRは概要を発表した。

農業分野 Agriculture: Market Access and Dairy Outcomes of the USMC Agreement

カナダ乳製品の市場開放:米国のみに新しい関税割当

カナダの乳価クラスシステムの変更:問題となっていたClass 6(低価格な原料乳製品向け生乳 の支持価格)、Class 7(無脂乳固形の支持価格)の廃止

カナダのチキン、卵と卵製品、七面鳥の新しい関税割当

貿易に関する事項 Modernizing NAFTA into a 21st Century Trade Agreement

知財の規定

DIGITAL TRADEの規定

為替問題:Macroeconomic Policies and Exchange Rate Mattersの章

競争のための通貨切り下げや目標レートを決めることでの不公正な通貨政策をやめ、透明性を増やし責任あるメカニズムをとるとの high-standard のコミット 。

これまでに例のない規定で、マクロ経済と、為替の安定を強化する。

(通貨政策に関する項目を貿易協定に明記するのは異例。韓国とのFTA改正の付属書にもあるが、韓国側はFTAとは別だとしている。)

労働規定

トランプ大統領は米国の労働者に利益がでることを再交渉の目的とした。Labor obligation  を協定のコアとする。 

団体交渉の権利を認める法制(メキシコ)やILOが認める労働者の権利を尊重するなど。

自動車について、時給16ドル以上の地域での生産割合 40〜45%とする。

環境規定:労働規定とともに協定のコアとする。

違法漁業を助ける補助金の禁止、鯨や海亀の保護、野生動植物の税関検査強化、大気浄化・海洋投棄ゴミの減・森林管理のサポートと環境評価手続きなど

製造を守るための貿易のリバランス Rebalancing Trade to Support Manufacturing

自動車のRules of origin

域内部品調達比率 62.5%→75%
時給16ドル以上の地域での生産割合 40-45%  

 付記 10月26日の日経は、現地生産する自動車について、エンジンや変速機といった主要部品を3カ国で生産するように義務付けていることが分かったと報じた。

下記の主要部品が1つでも域外製の場合、関税がゼロにならないという。日本や欧州の自動車メーカーの場合、主要部品を域外から持ち込んでいるモデルも多く、新たな設備投資や調達先の変更を迫られる可能性が出てきた。

商品市場のアクセス:非関税障壁、輸出入ライセンス

繊維:繊維とアパレル市場のサプライチェーンの強化

各分野のANNEX

自動車の数量規制については、上記の発表文にはなく、別文書で定められた。

カナダ、メキシコからの乗用車輸入にそれぞれ年260万台の数量枠を設け、枠内であれば高関税を課さない。
米国で人気が高い小型トラックは輸入制限の対象から外す。

自動車部品でもカナダに年324億ドル、メキシコに年1080億ドルの輸入枠を設ける。

  カナダ メキシコ
自動車関税ゼロ  条件

域内部品調達比率 62.5%→75%
時給16ドル以上の地域での生産割合 40-45%

自動車関税ゼロ 限度 乗用車 年260万台
小型トラック 対象外
自動車部品関税ゼロ 年間324億ドル限度 年間1080億ドル限度

なお、ガット第 11条により原則として輸出入数量制限を行なうことを禁止されている。
   国際収支が著しく悪化している場合には、第 12条により最小限の輸入制限が認められる。
   途上国の場合には、第 18条によってより緩やかな条件で国際収支擁護のための輸入制限が行なえる。

日米自動車紛争で、日本は1981年に1980年実績から14万台減らした168万台という輸出枠を設定したが、自主規制という形をとった。

 

カナダ、メキシコでの日本車の最近の状況は次の通り。
 
  カナダ メキシコ
生産 対米輸出 生産 対米輸出
トヨタ 57万台 45万台  15万台 14万台
ホンダ 43万台 32万台 21万台 13万台
日産     80万台 35万台
マツダ     18万台 7万台
合計 100万台 77万台 133万台 69万台
関税無し限度     260万台   260万台

2017年のメキシコから米国への自動車輸出は約180万台だったが、現状ペースでは2021年にはこれに達する見込み。

限度を超えた場合、メーカー別に枠をどう割り当てるのかは決まっていない。日本企業が不利となる恐れもないではない。

 

協定は16年間有効で、発効後、原則6年ごとに再評価し、各国が次の16年間の更新意思を示さないと失効する「サンセット条項」も盛り込んだ。

 


2018/10/5   三菱商事、LNGカナダプロジェクトに最終投資決定
 

三菱商事は10月2日、Shell、PETRONAS、PetroChina、韓国ガス公社 KOGASと共に、カナダ国ブリティッシュ・コロンビア州にて推進するLNGカナダプロジェクトに関する最終投資決定を行ったと発表した。
 
カナダ初の大型LNG事業となる。地理的にも日本に近いカナダに於いてアジアの主要LNG需要国と共に立ち上げる事業であり、日本を中心としたアジアの需要家にとって、カナダの豊富な天然ガスという新たなLNGの安定供給ソースが加わる。

本プロジェクトは年間1,400万トンの生産能力を持つ天然ガス液化設備を   ブリティッシュ・コロンビア州キティマット(バンクーバー北西650km)に建設し、2020年代中頃からアジアを中心にLNGを供給する事業となる。

原料ガスを独自に調達した上で、全長670kmのパイプラインを通じて天然ガス液化設備へ輸送し、産出されるLNGを持分比率に応じて引き取る。

天然ガス液化設備の総開発費は約140億米ドルを見込んでおり、三菱商事は持分比率である15%分の開発費を拠出し、LNG引取り(持分年間210万d)を行う。

付記 東京ガスは10月10日、このうち年間最大約60万トンを 2026年から13年間 購入する基本合意書を締結したと発表した。日本への所要航海日数は10日程度。

また、三菱商事が石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)を通じて日本政府より支援を受け、ブリティッシュ・コロンビア州でCutbank Ridge Partnershipを通じて開発を推進するMontney事業より原料ガスを供給することで、カナダにおいて上流事業から中流事業に亘る一貫した天然ガスバリューチェーンを構築する。

三菱商事とカナダの天然ガス最大手のEncana Corporationは2012年2月、British ColumbiaのCutbank Ridgeの未開発の土地でのシェールガス開発(Montney事業)で提携したと発表した。


   2012/2/21  三菱商事がカナダのシェールガス開発に参加

本計画は、2012年に発表され、2016年に中断していた。計画内容は下記の通り。

  2016/7 時点 今回
権益比率 シェル  50% 40%
三菱商事 15% 15%
Kogas  15% 5%
PetroChina 20% 15%
PETRONAS 25%
液化設備 600万トン/年x2=1,200万トン
将来2,400万トンに拡張可能性
700万トン×2=1,400万トン
生産開始   2020年代中頃
投資規模 120 億カナダ$  約140億米ドル

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2012年5月16日に、三菱商事、シェルカナダ、韓国ガス公社(Kogas)、PetroChinaのLNG輸出計画、「LNG Canada」構想が発表された。

2012/5/17  Shell、三菱商事等の「LNG Canada」計画 

カナダのNational Energy Board は2013年2月4日、この計画に輸出ライセンス (25年間で670百万トン) を与えた。

しかし、Shellは2016年7月12日、カナダ西海岸で進める大型のLNG Canada の最終的な投資決定の時期を、2016年末から無期限に遅らせると発表した。

予算の制約を含むグローバルな業界の課題から、最終の投資決定を行うのにもっと時間が必要との結論に達した。いつ最終決定をするかは現時点では言えないとする。
LNG Canada は魅力的なプロジェクトではあるが、Shellのグローバルな計画のなかで、他のプロジェクトに競合してやっていける必要があるとした。

LNG Canada のCEO は、世界の天然ガス価格の下落、特にアジアでの下落により、現時点では本計画は割高となった述べた。石油・ガス価格が回復することが必要とした。


 

2016/7/19 LNG Canada 計画、投資決定延期 

最近の価格状況は下記の通りで、Kitmatからの輸入は十分採算がとれるようになっており、再開を決めたと思われる。
(現状の輸入品は価格が原油価格ベーススライドで決められており、原油価格上昇で輸入価格も上がっている。カナダからの輸入品は比較的安定的な天然ガス市況スライドであり、十分競争力がある。)

 Gulf Coastの場合、Henry Hub価格x1.15(口銭15%)+加工費3$+運賃3$、Kitmatの場合は、この数式で運賃を1.24$とした。
 

2018/10/6 日米物品貿易協定について 

日米首脳会談が9月26日夕(日本時間27日朝)ニューヨークで行われ、安倍首相とトランプ大統領が「日米物品貿易協定(TAG:Trade Agreement on Goods )」の交渉入りで合意した。

2018/9/27 日米、物品貿易協定交渉へ、交渉中は自動車追加関税回避

首相は記者会見で、「まさに物品貿易に関する交渉だ。これまで日本が結んできた包括的なFTAとは全く異なる」と説明した。
菅義偉官房長官も、「自由貿易協定(FTA)とは異なり、物品貿易に限定されるものであり、包括的なものではない」とした。

しかし、日米共同声明は次の通りとなっている。

日米物品貿易協定(TAG)について 、また、他の重要な分野(サービスを含む)で早期に結果を生じ得るものについても、交渉を開始する。

上記の協定の議論の完了の後に、他の貿易・投資の事項についても交渉を行うこととする。

これはFTAそのものである。

更に、毎日新聞のコラムで知り、チェックすると、この共同声明は日米での協定の呼び名が異なる。

日本側:日米物品貿易協定(TAG)

米国側:United States–Japan Trade Agreement on goods, as well as on other key areas including services  (goodsは小文字)

米国側の表現では、「物品と、サービスを含む他の重要な分野に関する日米貿易協定」であり、「その後に他の貿易・投資の事項について交渉を行う」となっており、FTA交渉のうち、物品とサービス等について先行させるという意味になる。

米側発表には “TAG” の用語は使われていない。米側にとっては、FTA交渉である。

トランプ大統領とライトハイザー米通商代表部(USTR)代表はFTA締結を目指すと発言した。

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WTOの規定によれば、TAGはFTAでないといけない。

TAGでは牛肉などの農林水産品について、「過去の経済連携協定で約束した市場アクセスの譲許内容が最大限であること」としており、そこまでの関税引き下げを前提としている。そうでないと、米国が受け入れる筈がない。

 
WTO協定の基本原則の一つが最恵国待遇原則(Most Favoured Nation Treatment)であり、いずれかの国に与える最も有利な待遇を、他のすべての加盟国に対して与えなければならない 。
この原則の例外として認められているのはFTAの場合のみである。

米国に特恵的な関税引き下げをする以上、TAGは、仮に物品だけであっても、FTAでないといけないこととなる。

さもなければ、米国に認める関税引き下げをこれからFTA交渉をする他の全ての国に適用しないといけないこととなってしまう。

「FTAとは異なり、TAGである」とするのは、これまで、「米国にTPP復帰を求める、FTAはやらない」といってきた手前であろうが、姑息なやり方である。
最後まで「FTAでない」といっていると、WTO違反となってしまう。

日本は、米国が「農林水産品について,過去の経済連携協定で約束した市場アクセスの譲許内容が最大限であること」という日本の政府の立場を尊重するということで、「TAG」の交渉入りで合意したが、パーデュー米農務長官は早速、日本との農産品を巡る通商交渉で、日本がEUと結んだEPAや、TPPを上回る水準の市場開放を求める考えを示しており、この点でも懸念される。


なお、FTAの場合GATT 24条により、「実質的に全ての貿易について」関税を撤廃することとなっている。実際には90%程度以上とされている。

米国とEUは7月25日、関税引き下げに向け EUと協力することで合意した。

・自動車以外の工業製品について、関税ゼロ、非関税障壁ゼロ、補助金ゼロに向かい、協力する。
・この間は、どちらかが交渉を取り止めない限り、この合意の精神に反する行動を行わない。(米国の自動車追加関税を回避)

2018/7/27 米国とEU、関税撤廃交渉へ 

自動車を除外すると貿易の90%を下回るため、最終的には自動車を含めざるを得ないとされる。

 



2018/10/8  米副大統領「中国は内政干渉」と非難、南シナ海の海洋進出もけん制 

 ペンス米副大統領は10月4日、11月の米中間選挙を控え、中国が政権交代をもくろみ、あらゆる手段を講じて米国に内政干渉していると非難した。また中国は南シナ海で無謀な行動を取っているとし、同海域での海洋進出の動きをけん制した。

副大統領は米シンクタンク、Hudson Instituteでの講演で「中国は政府全体で政治・経済・軍事的手段およびプロパガンダを駆使し、米国内で自国の影響力を強め、利益を得ようとしている」と言明。「さらに、これまで以上に積極的にこうした動きを強め、米国の政策や政治に影響力を及ぼし、干渉しようとしている」と批判した。

内容は以下の通りで、強烈である。

過去2年間、大統領は習近平首席と強い個人的関係を築いてきた。二人は核問題や北朝鮮問題など共通の関心事で協力してきた。

しかし、中国は政府をあげて、政治的、経済的、軍事的手段、プロパガンダを使って、米国での影響を強め、利益を増やそうとしている。

中国はまた、これまでより強力に、米国の国内政策や政治に干渉している。

過去17年で中国のGDPは9倍になり、世界第二の経済になった。
多くは米国の中国投資によるが、同時に中国は、自由でフェアな貿易に反する行動をとってきた。関税や、割当、通貨操作、技術移転の強制、知財の盗み、補助金、等々である。これらが中国の製造基盤となったが、相手国、特に米国の犠牲によるものだ。

中国の行動の結果、米国の昨年の3750億ドルもの対中貿易赤字となった。これは米国の貿易赤字の半分にもなる。

現在、中国は、「製造2025」計画を通じて、世界の最も先進的な技術、ロボット、バイオ、AIなどで90%を支配しようとしている。21世紀の世界経済を支配するため、どんな手段を使っても、米国の知的財産を取得するよう、官僚や企業に指令している。

米国の企業が中国で仕事をすることの見返りに企業秘密を渡すことを求めている。また、米国企業の成果を取得するため、米国企業の買収を進めている。最もひどいのは、中国の治安当局は先端軍事技術を使い、米国の技術の大規模窃盗を図っている。

中国は多額の軍事予算を使い、米国を西太平洋から追い出そうとしている。

尖閣諸島の近くを定期的にパトロールしており、南シナ海では人工島の軍事基地に対船・対空ミサイルを配置している。

今週には、米の駆逐艦 Decatur が南シナ海で航海の自由作戦を実施中に中国海軍が45ヤードにまで近寄ったため、衝突回避措置を取らざるを得なかった。しかし我々は、国際法で許される限り、飛行や航海を続ける。

米国は経済自由化で中国が米国や世界の偉大なパートナーになると思ったが、経済侵略を選び、軍事強化した。

中国が国民の自由拡大に動くと思ったが、逆で、自国民のコントロール、圧迫に Uターンした。例のない監視国家になった。

信仰の自由に関しても、中国のキリスト教、仏教、イスラム教を圧迫している。

中国は「借金外交」で影響力を広めている。アジア・アフリカから欧州、さらにはラテンアメリカにまで多額の融資を行い、その利益は圧倒的に中国に流れるようにしている。スリランカは借金が返せず、港を取り上げられた。間もなく中国の軍港となる。ベネズエラにも手を出した。

昨年だけでもラテンアメリカの3カ国に台湾と手を切るよう求めた。これは台湾海峡の安全を損なうこととなる。

これらはほんの例に過ぎない。

オバマ政権はこれを黙認していたが、現政権は異なる。強化した米国の力で権益を守る。

米国は最強の軍事力を持つ。核戦力も強化した。最先端の戦闘機、爆撃機を持つ。宇宙軍も創設する。サイバーの世界でも能力を強化し、敵対勢力に対抗する。

大統領の指令で、2500億ドルの中国製品に追加関税を課した。公正な互恵取引がなされないなら、更に倍増する。

中国の市場を苦しめる意図はないが、中国が公正な互恵貿易に戻るよう、求め続ける。

最もひどいのは、中国は米国民の考え方、2018年の中間選挙、2020年の大統領選挙に影響を与える過去に例のない努力を始めた。トランプ大統領のリーダーシップがうまく機能しているため、異なる大統領が就任することを望んでいる。

情報筋によると、「中国は米国の州や地方政府をターゲットにし、国と地方の分断を図っている。関税などを使い、北京の政治的影響を広めようとしている。」

情報網やプロパガンダを使い、中国のやり方についての米国民の見方を変えようとしている。中国の事業を続けたいという願いを 利用し、ビジネスリーダーに米国の貿易政策を非難させている。
中間選挙で影響の大きい地方の製品の関税を引き上げた。Des Moines Register に宣伝を載せ、一般国民に影響を与えようとした。

しかし米国民は騙されない。トランプ大統領の成果であるUSMCA(旧 NAFTA) は米国の農民や製造業者にとって偉大な勝利である。

北京は中国内の米企業のJVの内部に「党組織」をつくることを求めている。台湾やチベット問題でも米企業に圧力をかけている。ハリウッドにも中国を好意的に扱うよう求めている。

中国共産党は米国や世界中に何十億ドルも使ってプロパガンダを行っている。米国のジャーナリストの中国人家族を脅したり、拘留したりしている。
中国人の米国留学生の団体を動かしている。アカデミアに金を出し、中国共産党を守る動きをさせている。

これらの動きはトランプ大統領の“America First” leadership を弱めようとするものだ。

しかし我々の中国へのメッセージは、「大統領は引き下がらない、米国民はゆるぎない、我々は安保と経済のため強くあり続ける」ということだ。

以下略

 

中国外交部(外務省)の華春瑩報道官は10月5日、米指導者によるいわれなき対中非難について「全く根拠のない、是非を混同したでっち上げだ」と指摘した。

この発言は中国の国内政策と対外政策に対して様々ないわれなき非難を加え、米国の内政と選挙に干渉していると中国を誹謗しており、全く根拠のない、是非を混同したでっち上げだ。中国側は断固として反対する。

中国国民は中国の特色ある社会主義に強い自信を持っている。これが中国の国情に合い、国家の富強と国民の幸福を実現する成功の道であることは、すでに歴史と現実が証明している。

中国の発展は主に中国国民全体の自らの勤勉な努力によるものであり、世界各国との互恵協力のおかげでもあるが、他者から与えられた施しや恵みでは断じてない。中国国民が中国の特色ある社会主義の道に沿って断固として揺るがず歩んで行き、さらに大きな成果を得るのを阻むことは誰にもできない。事実を歪曲しようとする者はみな、頭を無駄遣いするだけだ。

中国は終始変らずに平和的発展の道を歩み、平和共存五原則を基礎に各国との友好協力関係の発展に尽力し、人類運命共同体の構築を後押しする。

中国は他国の利益を犠牲にして自らの発展を図ることは断じてないが、自らの主権、安全、発展上の利益は断固として守る。

米側が中米間の正常な交流・協力を中国側による米国の内政と選挙への干渉と言いなすのは、極めてでたらめだ。中国はかねてから内政不干渉の原則を堅持しており、米国の内政と選挙に干渉することにも全く興味がない。何かというと他国の主権を侵害し、他国の内政に干渉し、他国の利益を損なっているのが一体どの国なのか、国際社会の目にはとうに明らかだ。中国に対するいかなる悪意ある誹謗も徒労だ。

中国の対米政策は一貫した、明確なものだ。われわれは米側と共に努力して、非衝突・非対立、相互尊重、協力・ウィンウィンを実現すべく尽力している。われわれは米側に対して、過ちを正し、いわれなき対中非難・誹謗を止め、中国側の利益と中米関係を損なうことを止め、中米関係の健全で安定した発展を実際の行動で維持するよう促す。


付記

王毅国務委員兼外相は10月8日、訪中したポンペオ米国務長官との会談で「米側に誤った言動をただちにやめるよう要求する」と抗議した。米国が貿易面で中国との緊張を高めているだけでなく「台湾問題で中国の権益を損なう行為をしたり、中国の内外政策に対するいわれのない非難をしたりしている」と強調。こうした米側の行動は「両国民の利益にまったく合致していない」と断じた。

ポンペオ長官は「米中の間には多くの問題で明らかな食い違いがある」とし、南シナ海、人権問題を含めて米中双方が一致しない分野について言及した。
そのうえで「米国は中国の発展に反対しないし、中国を封じ込める考えもない」と強調した。朝鮮半島問題で「中国の一貫した立場と非核化を推進するための重要な努力を称賛する」と述べ、引き続き協力を求めた。

これに対し王氏は「(朝鮮半島問題での)協力には健全で安定した2国間関係の支えが必要になる」と突き放したという。



 

2018/10/9 ロッテグループの辛東彬(重光昭夫)会長 保釈、経営に復帰へ 

ロッテの辛東彬(重光昭夫)会長が被告となっている2つの裁判を併合して審理が行われた控訴審で、ソウル高裁は10月5日、懲役2年6月、執行猶予4年(求刑は懲役14年)を宣告した。
実刑を免れた辛被告は同日、保釈された。ロッテの経営に復帰する。

付記

韓国大法院(最高裁)は2019年10月17日、二審判決を支持、有罪が確定した。収監には至らず、引き続きグループの経営を主導する。

 

判決を受けてロッテは「裁判所の賢明な判断を尊重する。ロッテが国家経済を支え、社会的な責任を果たせるよう努める」とのコメントを発表した。

会長は10月8日に早速出社した。

ロッテ関係者は「総帥不在のため経営の重要事項を決定できない状態だった」とし、「当分は山積した懸案を迅速に検討、決定を下し、経営正常化に取り組む」と説明した。

 

付記

韓国ロッテグループは2020年3月19日、辛東彬(重光昭夫)会長が、4月1日に日本のロッテホールディングスの会長に就任すると発表した。

ロッテHD会長職は、2020年1月19日に死去した創業者の辛格浩(重光武雄)氏が2017年に名誉会長に就任してからは空席のままだった。

東彬氏は2018年2月に朴槿恵前大統領とその友人への贈賄罪に問われ実刑判決を受け、ロッテHDの副会長に留まったまま代表取締役を辞任したが(上記の通り、控訴裁で執行猶予)、2019年2月に復帰した。

 

同じ控訴審で、ロッテグループの経営不正疑惑などで1審で懲役4年を言い渡された父親の辛格浩(重光武雄)名誉会長は減刑され、懲役3年と罰金30億ウォンとなった。
裁判所は1審と同様に実刑を言い渡した一方、辛会長の健康状態を考慮して法廷拘束はしなかった。

ツエを手にして車椅子に乗ったまま法廷に入った辛名誉会長は自身の名前と年齢などを直接話したが、裁判所と円滑な意思疎通はできない姿だった。

ーーー

ロッテグループの企業内の不正事件で横領や背任などの罪に問われた同グループ会長の辛東彬(重光昭夫)被告ら創業者一族に対する判決公判が2017年12月にソウル中央地裁であった。

2015年ごろまで経営の実権を握った創業者が、会社の資金を横領し、内縁の妻やその娘らに実態に見合わない多額の報酬を払ったほか、系列映画館の売店運営権を親族の会社に渡し、グループに損失を与えたとし、横領と背任の主犯と認定し、懲役4年と罰金35億ウォンを命じたが、収監は見送った。

辛東彬・会長については、経済的利益を受けていないとする一方、犯行を黙認した責任を指摘した。「たとえ父の言うことを拒否できないと言っても、犯行の実現過程での役割は無視できない」と指摘し、 懲役1年8カ月、執行猶予2年とした。この時点では、執行猶予のため、勤務を続けた。

多額報酬に絡み横領の罪に問われた長男の辛東主被告は無罪だった。

検察側と被告側はそれぞれ控訴した。

もう一つは、辛東彬(重光昭夫)会長の朴槿恵前大統領の事件に絡む裁判である。

免税店事業認可に絡み、朴槿恵被告の要請で「Kスポーツ財団」に70億ウォンを賄賂として提供したとして贈賄罪で在宅起訴された辛東彬(重光昭夫)会長に対し、ソウル中央地裁は2018年2月13日、懲役2年6月の実刑判決を言い渡した。

会長は上記の裁判で懲役1年8カ月、執行猶予2年の判決を受けており、今回の有罪で執行猶予が無効となって収監された。懲役は合計4年2か月となる。

2018/2/13 朴前大統領親友に懲役20年、ロッテ重光会長も実刑 

会長は控訴した。

控訴審は2つの裁判を併合して行われた。

辛東彬(重光昭夫)会長については、裁判長は次のように判断した。

まず、原則論として、「被告人が財閥グループのトップである点や、裁判の結果が企業や経済全般に影響を及ぼす可能性がある点が裁判に影響してはならず、考慮すべき事情でもないと思う」と述べた。

そのうえで、グループの経営不正事件については、ロッテシネマの売店の独占運営権を親族の経営企業に与え、背任罪に問われたことについて、一審と同様に有罪とした。
ただ、勤務実態のない親族に給与を支給し、横領罪に問われたことに関しては「(父で創業者の)辛格浩(重光武雄)総括会長の指示で給与が支給されることを容認したとしても、共謀したとはいえない」として、無罪とした。

国政介入事件での贈賄罪については、「Kスポーツ財団」に70億ウォンを拠出したことを賄賂として認めた。
ただ、「朴大統領が先に要求して受動的に応じたが、応じない場合は企業活動全般に不利益を受ける恐れを感じるほどだった」として、「意思決定の自由が多少制限された状況で賄賂供与の責任を厳しく問うことは難しい」とした。
裁判所は、私益の追求など大統領が支援金を要求した目的を全く知らないまま、社会貢献として金銭を渡したという辛会長側の主張も受け入れた。

最終的に、懲役2年6月、執行猶予4年とし、保釈を認めた。

辛名誉会長については、1審と同様、トップ一家に無料給与を支給し、ロッテシネマ売店に営業利益を与えたなどの一部横領・背任疑惑を有罪と認定し、刑量を多少減軽した。

まとめると次の通りとなる。

  一審判決 二審判決
辛東彬(重光昭夫)会長 (62) @ 懲役1年8カ月、執行猶予2年
A
懲役2年6月
懲役4年2か月、執行猶予取消、収監
懲役2年6月、執行猶予4年、保釈
辛格浩(重光武雄)創業者(95) @懲役4年と罰金35億ウォン 収監は見送り 懲役3年と罰金30億ウォン 収監は見送り
辛東主(重光宏之)(63) @無罪  

 


2018/10/10 日本ケミコン、米国電解コンデンサのカルテルで司法取引、韓国でも各社に課徴金 

米司法省は10月3日、日本ケミコンが電解コンデンサのカルテルで司法取引に応じたと発表した。

日本ケミコンはこれまでの電解コンデンサカルテルでは最大の罰金60百万ドルを支払う。また5年間の保護観察となり、その間、コンプライアンス計画を実行し、毎年その報告を行うことを義務付けられた。
同社の社員4名が起訴された。

同社は他社と共謀し、2001/11〜2014/1の期間、電解コンデンサの競争を阻害したとされた。

これで電解コンデンサカルテルで合計8社と個人10名が起訴された。8社は全て罪を認め、合計150百万ドル以上の罰金支払いに応じた。
個人10名のうち、2名は罪を認め、それぞれ禁固刑(1年と1日)となっている。

 

付記

これを受け、日本ケミコンと米国子会社のUnited Chemi-Conは、米国カリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所において、電解コンデンサ及びフィルムコンデンサに関する米国反トラスト法違反等について損害賠償等を求める民事訴訟の提起を受けた。

このうち、集団民事訴訟のクラス原告(直接購入者型・間接購者入型)については2021年12月15日に和解した。和解金として1億6千万ドルを支払う。「損害賠償などの責任を認めていないが、諸般の事情を総合的に勘案した結果、和解することを決定した」としている。

別途、クラス原告(直接購入者型)に参加しない複数の原告との間で、民事訴訟が係属しているが、2022年7月22日、当該原告の一部の者に対して、和解金 31.5 百万米ドルを支払うことで和解した。

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電解コンデンサカルテルでは、2015年9月2日に NEC TOKIN が罪を認め、13.8百万ドルの罰金を支払うことで合意した。

司法省はその前の2015年3月に日本のコンデンサメーカー(Company A とし、社名を明らかにしていない)の1名を起訴したと発表している。

司法省は2016年4月27日、日立化成が司法取引を行ったと発表した。この時点では司法省と日立化成ともに、罰金額については明らかにしなかったが、後の司法省の発表では 3.8百万ドルとなっている。

2016/4/30  日立化成、コンデンサ事業でのカルテルで米国司法省と司法取引

司法省は2016年8月、ルビコンエルナーHoly Stone の3社と司法取引を行ったと発表した。罰金額はいずれも明らかにしていない。エルナーの1名が罪を認めた(禁固1年と1日)。

日立化成エレクトロニクスは2010年に、三春工場のタンタル・ニオブコンデンサ事業を台湾の禾伸堂企業股份有限公司(Holy Stone Enterprise Co., Ltd. )に売却した。
(Holy Stoneはその後2014年に、これを米国の
Vishay Intertechnologyの子会社ビシェイポリテックに売却した。)

司法省は2016年12月に3名を起訴したと発表した。Company Aの2名、Company Dの1名としている。

2017年2月に松尾電機が司法取引に応じた。罰金額は明らかにしていない。同社の1名が罪を認めた(禁固1年と1日)。

2017年7月にニチコンが司法取引に応じ、罰金 42百万ドルを支払った。

今回の日本ケミコンが8社目となる。個人の起訴は10人目となる。

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コンデンサー業界は日本のほか、中国、台湾、米国、韓国、欧州でカルテルの調査を受けている。中国以外で全て有罪となった。

2015/12/15 台湾、日系などのコンデンサーメーカーの価格カルテルに多額の課徴金

2016/4/2    公取委、コンデンサーメーカーに課徴金納付命令

2018/3/30 EU、コンデンサーカルテルで制裁金

2015/10/3 韓国公取委、日本のコンデンサーメーカーの価格カルテル調査

 

韓国公取委は2018年9月16日、日本のコンデンサー製造・販売企業9社が、アルミニウム・タンタルコンデンサーの供給価格を共同で引き上げまたは維持することで合意していた行為を摘発し、是正命令と共に課徴金360億ウォン(36億円)を賦課したと発表した。

制裁を受けた日本企業は、
アルミニウムコンデンサーではニチコン、三洋電気(現 パナソニック)、エルナー、日立化成エレクトロニクス、ルビコン、日本ケミコンの6社。
タンタルコンデンサーは、ニチコン、三洋電気、エルナー、日立化成エレクトロニクス、トーキン、松尾電気、ビシェイポリテックの7社。

公取委は、ビシェイポリテック、松尾電気、エルナー、日本ケミコンの4法人と日本ケミコン所属の職員1人を検察に告発した。

企業側発表の課徴金:

日立化成:2,012百万ウォン
松尾電機:1,840百万ウォン


2018/10/11 DuPont、ロゴを変更
 

DuPontは10月3日、新生DuPontとなるのに伴い、ロゴを変更すると発表した。

現在のロゴは1909年から変わっていない。

同社の社名は正式には、創業者の名前を取った E. I. du Pont de Nemours and Companyである。

社名の通称は、当初は Du Pont (間にスペースあり)であった。ロゴはDU PONTである。

20年ほど前に、これを DuPontに変更した。
しかし、ロゴについては変更せず、そのまま使っていた。

今回、社名と同様に間のスペースを取り除き、DUPONTとする。
DowDuPontの子会社であり、正式社名も 
E. I. du Pont de Nemours and Company ではなく、Du Pontになると思われる。)

文字をで囲んでいた楕円(border)を取り除くが、元の印象を残すため、卵型(oval )の中に文字を置く形をとった。

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DowDuPont は2018年2月26日、今後分離する3つの事業会社の社名を発表した。



2018/10/12  米政権、ハイテク27産業で外国投資の規制強化

 

外国企業の対米投資を審査する米国の独立機関、対米外国投資委員会(CFIUS)の権限を強化する条項を加えたJohn McCain 国防権限法(NDAA)案が8月13日成立した。

これまでのCFIUSの審査対象は、安全保障に係るものと大統領が判断した買収に限られた。

今回、米国企業の買収を狙いとする取引に限らず、合弁会社設立や、米国の重要な技術やインフラ、個人情報に関わる少額の出資なども審査の対象とする。米政府施設に近い土地取得など不動産取引も含める。

中国が対米投資を通じて技術やノウハウを盗み出し、軍事技術に流用するのを食いとめたい考えだが、審査は外資すべてを対象としており、中国企業だけでなく、日本企業にも影響が出そうだ。

2018/8/17 米、対米投資の審査対象拡大
 

米財務省は10月10日、8月に成立した新法に基づく外資による対米投資の規制の詳細を発表した。11月10日から実施する。ハイテク分野での覇権を狙う中国から先端技術を保護するのが狙い。

半導体や情報通信、軍事など27産業を規制対象に指定し、少額出資でも当局に事前申告を義務づける。

規制対象となる分野も航空エンジン・部品、アルミニウム精錬、石油化学などと細かく指定した。ナノテクノロジー(超微細技術)の研究開発や光学レンズ製造も対象になっている。 幅広い無機化学品も含まれている。

    ANNEX A TO PART 801 —対象産業:具体的には北米産業分類システム(NAICS)コードで定義

航空機、
航空機エンジン・エンジン部品、
アルミナ精錬・アルミ、
ボール・ベアリング、
コンピュータ記憶デバイス、
コンピュータ、
誘導ミサイル・宇宙船、
誘導ミサイル・宇宙船製造装置、
装甲車・タンク・タンク部品、
原子力発電、
光学機械・レンズ、
その他基礎無機化学品 (NAICS Code: 325180) 、
その他の誘導ミサイル・宇宙船部品・備品、
石油化学品
粉末冶金部品、
電力・配電・変圧器、
一次電池、
ラジオ&TV放送・無線通信機器、
ナノテクR&D、
バイオ分野のR&D、
アルミの2次精錬・アロイ、
航空及び航海の探査・発見・誘導システムと機器、
セミコンダクターと関連機器、
セミコンダクター製造機器、
蓄電池、
電話用器具、
タービン・タービン発電セット
 

規制対象となるのは、上記の対象分野で、外国人投資家が下記のことができる場合。

 ・ その企業が保有する重要な非公開情報にアクセスできること、
 ・ 取締役や類似のポジションに就く、
 ・ 重要な技術の使用、開発、取得、処分等の意思決定に参加すること

§ 801.302に対象を例示、§ 801.303に対象外を例示

規制対象は全ての外国人で、特定の国に限定しないとするが、中国が念頭にあるのは明らか。

規制の対象となる産業への対米投資が完了する45日前までにCFIUSに申告するよう外資企業に求める。これまでは事前申告を義務付けてはいなかった。
違反した場合には最大で予定していた取引額と同額の罰金(Civil monetary penalty up to the value of the transaction) を科す。


 

Steven Mnuchin 財務長官は「これらの暫定的な規制は、米国の極めて重要な技術に対する特定のリスクに対処するものだ」と説明した。

 


2018/10/13 原子力規制委員長の 汚染処理水「再浄化必要ない」発言 

福島第一原発の放射性物質トリチウムを含んだ低濃度汚染水は、事故後は構内にため続けており、今年2月時点で約105万トンあるタンク貯蔵水のうち約85万トンを占めている。
タンクの容量は現状で約110万トンで、東電は2020年までに137万トンまで増設を計画しているが、それ以降については未定である。

ここにきて、第一原発の汚染水を処理した後の水にトリチウム以外の複数の放射性物質が残留していることが報道された。

8月19日に共同通信が取り残しを報じた後、8月23日には河北新報が、2017年度のデータを検証したところヨウ素129が法律で定められた放出のための濃度限度(告示濃度限度)を60回、超えていたと報じた。

経済産業省は8月30日と31日に放射性物質トリチウムを含んだ低濃度汚染水の処分方法をめぐり、公聴会を開いたが、海洋放出への反対が続出した。

東京電力は9月28日、福島第1原発の汚染水を浄化した後にタンクで保管している水の約8割に当たる75万トンで、トリチウム以外の放射性物質の濃度が排水の法令基準値を超過しているとの調査結果を明らかにした。

今後、海洋放出など処分をする場合には、多核種除去設備(ALPS)などで再浄化するとしている。

2018/8/29 福島原発のトリチウムを含む低濃度汚染水を巡る問題

これについて、原子力規制委員会の更田豊志委員長から仰天の発言が飛び出した。

更田委員長は10月5日、福島第1原発を現地視察し、報道陣の取材に応じた。汚染水浄化後の処理水にもトリチウムなど複数の放射性物質が海洋放出の法令基準値を上回って残留している問題に関し、 東電が実施する意向を示している放出前の再浄化は必ずしも必要ではないとの認識を示した。

「科学的な意味では、再浄化と(より多くの水と混ぜることで)希釈率を上げることに大きな意味の違いはない」と 述べ、「再浄化は絶対に必要だと規制当局として要求する認識ではない」と述べ、再浄化しなくても希釈により基準値を下回れば、海洋放出を容認する考えを示した。

これは間違っている。

先ず、科学的な意味では、再浄化は放射性物質の総量を減らすものであり、希釈率を上げることは濃度を下げるもので、大きな違いがある。子供でも分かることだ。

海洋放出の法令基準値は、それ以下なら問題ないという数値ではない。放出そのものは問題だが、可能な限り処理をしても、どうしても処理できないものなら、そこまで薄めていれば、止むを得ず認めるというものである筈だ。

一つ一つの石炭火力発電所などのCO2排出が積もり積もって温暖化に至っている。薄めたとしても、どんどん放出していけば、海洋にも今後影響が出ないとは思えない。

処理したといっていたトリチウムなどが実は残っていた。放出を始めた場合、本当に基準値以下まで薄めたか、信用できない。

また、科学大国の日本の原子力規制委員長が認め、放出しているとして、今後、他国が処理せずに放出を始めたら大変なこととなる。

東電の場合、ALPSなどで処理すれば、時間はかかるが、処理できるし、東電も再浄化するとしている。それを規制委員会の委員長が、再浄化せずに薄めて流せばよいというのは一体どういうことだろうか。

しかもその法令基準値については、「科学的」であるとは言えないとの意見もある。

この法令に定められた、告示濃度限度は、国際放射線防護委員会(ICRP)の放射線防護モデルに基づいているが、この放射線防護モデルは、原発の運転がしやすいように、ある限度は撤廃され、ストロンチウム90などの線量評価は緩められてきた歴史的経過がある。この緩すぎる限度で、原発事故放射能汚染水を海に放出してよいわけがない。放射能汚染水の放射能は、総量で規制すべきである。
 

公害対策では総量規制が常識である。

硫黄酸化物の規制は濃度規制に始まり、逐次改訂強化がなされたが、特に工場密集地域を中心に環境基準に照らすとなお深刻な状況にあった。このため、四日市市を抱える三重県で1972年に総量規制を盛り込んだ条例が設けられ、これを追って1974年、大気汚染防止法の改正により総量規制が導入された。

汚水処理では中西準子氏の浮間下水処理場調査が有名である。
当時の活性汚泥処理ではシアンや重金属は処理できないが、「濃度が下がっている」と宣伝されていた。中西氏が調べると、それぞれの工場から異なるモノを含んだ排水が流し込むと、見かけ上、それぞれのモノの濃度 が下がるだけだと分かった。1971年に研究結果が発表され、1973年に廃止された。

これらは昔むかしの話である。

今頃、濃度規制が正しいので、処理などせずに、薄めてどんどん流せばよいなどと発言する人が原子力規制委員会の委員長でよいのであろうか。

 


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