公取委ー新日鉄/住金  

平成23年12月14日 公正取引委員会

新日本製鐵株式会社と住友金属工業株式会社の合併計画に関する審査結果について

 公正取引委員会は、新日本製鐵株式会社と住友金属工業株式会社の合併に関する計画の届出を受け、同計画について審査を行ってきたところ、当事会社が申し出た問題解消措置を前提とすれば、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと認められたので、当事会社に対し、排除措置命令を行わない旨の通知を行い、本件審査を終了した。
 なお、平成23年6月1日付けで開始した「新日本製鐵株式会社と住友金属工業株式会社の合併の競争に与える影響についての情報の募集」は終了する。

第1 本件の概要
 本件は、鉄鋼製品の製造販売業等を営む新日本製鐵株式会社と住友金属工業株式会社が平成24年10月1日に合併することを計画しているものである。

第2 本件の経緯
  平成23年 5月31日 合併に関する計画の届出の受理(第1次審査の開始)
         6月30日 報告等の要請(第2次審査の開始)
        11月 9日 全ての報告等の受理(事前通知期限:平成24年2月7日)
        12月 9日 当事会社による問題解消措置に係る変更報告書の提出
        12月14日 排除措置命令を行わない旨の通知

第3 結論
 当事会社が当委員会に申し出た「無方向性電磁鋼板」及び「高圧ガス導管エンジニアリング業務」に係る問題解消措置を前提とすれば、本件合併が一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

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2 審査結果の概要
 本件においては、当事会社(当事会社と結合関係を有する会社を含む。)が競合する商品・役務(後記「参考」参照。)について、約30の取引分野を画定し審査を行ったが、そのうち無方向性電磁鋼板及び高圧ガス導管エンジニアリング業務については、当事会社が当委員会に申し出た問題解消措置を前提とすれば、本件合併が競争を実質的に制限することとはならないと判断した。それ以外の取引分野については、いずれも、本件合併が競争を実質的に制限することとはならないと判断した。

 本件における審査結果のうち、@問題解消措置が講じられることとなった無方向性電磁鋼板及び高圧ガス導管エンジニアリング業務、A本件合併が競争を実質的に制限することとはならないと判断した取引分野のうち、ⓐ当委員会がアンケート調査を行うなど重点的に審査を行った鋼矢板及びスパイラル溶接鋼管、ⓑ代表的な鉄鋼製品である熱延鋼板及びH形鋼の各審査結果は、後記第4から第9のとおりである。

 なお、当事会社の議決権保有比率が10%超50%以下の事業者(トピー工業株式会社〔新日鉄の議決権保有比率20.5%・単独第1位。以下「トピー工業」という。〕、合同製鐵株式会社〔同15.7%・単独第1位。以下「合同製鉄」という。〕等)に関し、当事会社とは独立した競争単位であることから結合関係にないと当事会社が主張した点について、本件審査では、「第9 H形鋼」に記載のとおり、例えばトピー工業や合同製鉄は新日鉄と結合関係にあるものの、一定程度の競争関係が存在すると認められ、当該事情も考慮に入れて本件合併が競争を実質的に制限することとはならないと判断している。このような取引分野はH形鋼を含め複数存在するところ、当委員会としては、今後当事会社が当該事業者の議決権を追加取得し、又は役員兼任の範囲を拡大するなどして当事会社と当該事業者との間の結合関係が強まり、当事会社と当該事業者との間の競争関係の程度が弱まる結果、当該取引分野における競争を実質的に制限することとならないかについて、今後とも注視していく。

無方向性電磁鋼板

平成22年度シェア
順位 会社名 シェア
新日鉄 約40%
A社 約40%
住友金属 約15%
  輸入 約 5%
  合計 100%

当事会社の合算市場シェア・順位は約55%・第1位、合併後のHHIは約4,600、HHIの増分は約1,100となり、水平型企業結合のセーフハーバー基準に該当しない。

当事会社による問題解消措置の申出

@ 合併後5年間、住友商事に対し、国内ユーザー向けに住友金属が現在販売している全グレードの製品について、住友金属の直近5年間(平成18年度から平成22年度)における国内年間販売数量の最大値を上限として、合併会社の無方向性電磁鋼板のフルコストをベースとして計算した平均生産費用に相当する価格で供給する。
A 住友商事に対し、住友金属の無方向性電磁鋼板に関する国内ユーザー向けの商権を譲渡する。
具体的には、顧客名簿の引継ぎに加えて、国内ユーザーとの取引関係(契約関係及び協定仕様書を含む。)を譲渡し、当該譲渡について国内ユーザーの理解を得られるよう最大限努力する。さらに、納入仕様の決定やクレーム対応に関する技術サポートを行うほか、スリット後の品質を確保するために、当事会社が技術指導を行った全国各地に所在するスリットセンターを住友商事が利用できるように適切な引継ぎ等の措置を講じる。
B 合併後5年間、1事業年度に1回、前記措置の実施状況を当委員会に報告する。

高圧ガス導管エンジニアリング業務

平成18年度〜22年度シェア
順位 会社名 シェア
B社 約35%
日鉄パイプライン 約30%
住友金属パイプエンジ 約30%
  その他 0-5%
  合計 100%

当事会社の合算市場シェア・順位は約60%・第1位、合併後のHHIは約4,900、HHIの増分は約1,800となり、水平型企業結合のセーフハーバー基準に該当しない。

当事会社による問題解消措置の申出

(1) UO鋼管の安定供給
@ 当事会社は、新規参入者から日本国内における高圧ガス導管エンジに用いるUO鋼管の供給要請があった場合には、当該新規参入者に対し、当事会社が高圧ガス導管エンジを行う子会社に供給する場合と価格、数量、納期、規格、寸法、特殊仕様、受渡し及び決済について実質的に同等かつ合理的な条件により、UO鋼管を提供する。
A 当事会社は、前記措置について、本件合併の日までに周知し、その実施状況を当委員会に報告するとともに、本件合併後5年間、1事業年度に1回、前記措置の実施状況を当委員会に報告する。

(2) 自動溶接機の供給及びその取扱いに係る技術指導
@ 当事会社は、新規参入者から、受注する工事に使用する目的で要請があった場合には、エンジ子会社等を通じて、当該新規参入者に対し、価格、受渡し及び決済について合理的な条件により、自動溶接機の新品を譲渡し、又は中古品を譲渡若しくは貸与する。ただし、価格については、実費相当額とする。
A 当事会社は、新規参入者から要請があった場合には、当該新規参入者に対し、価格、工数、指導内容、指導時期、指導場所及び決済について合理的な条件により、エンジ子会社を通じて、当該新規参入者が自動溶接機を取り扱うことができるようにするために必要な技術指導を行う。ただし、価格については、当該技術指導において発生する実費相当額とする。
B 当事会社は、前記各措置について、本件合併の日までに周知し、その実施状況を当委員会に報告するとともに、本件合併後5年間、1事業年度に1回、前記各措置の実施状況を当委員会に報告する。

鋼矢板

平成22年度シェア
順位 会社名 シェア
新日鉄 約40%
C社 約30%
住友金属 約25%
D社 0-5%
  輸入 0-5%
  合計 100%

当事会社の合算市場シェア・順位は約65%・第1位、合併後のHHIは約5,100、HHIの増分は約1,900となり、水平型企業結合のセーフハーバー基準に該当しない。

評価

本件合併により当事会社グループは約65%の市場シェアを有することとなるが、有力な競争事業者が存在し、十分な供給余力を有していると認められること、参入圧力や隣接市場である代替工法からの一定程度の競争圧力が働いていると認められること、需要が縮小していく中で需要者からの競争圧力が働いていると認められることから、当事会社グループが単独で価格等をある程度自由に左右することができる状態が現出するおそれはなく、本件合併が競争を実質的に制限することとはならないと考えられる。

(同じ理由で)当事会社グループとその競争事業者が協調的行動をとることにより、価格等をある程度自由に左右することができる状態が現出するおそれはなく、本件合併が競争を実質的に制限することとはならないと考えられる。

スパイラル溶接鋼管

平成22年度シェア
順位 会社名 シェア
新日鉄 約40%
E社 約30%
住友金属 約15%
F社 約15%
  合計 100%

当事会社の合算市場シェア・順位は約55%・第1位、合併後のHHIは約4,000、HHIの増分は約1,300となり、水平型企業結合のセーフハーバー基準に該当しない。

評価
市場シェア10%を超える有力な競争事業者が複数存在し、これらの事業者は供給余力を有していると認められること、隣接市場からの競争圧力が一定程度働いていると認められること、需要者からの競争圧力が働いていると認められることから、当事会社グループが単独で価格等をある程度自由に左右することができる状態が現出するおそれはなく、本件合併が競争を実質的に制限することとはならないと考えられる。

当事会社グループとその競争事業者が協調的行動をとることにより、価格等をある程度自由に左右することができる状態が現出するおそれはなく、本件合併が競争を実質的に制限することとはならないと考えられる。

熱延鋼板

平成22年度シェア
順位 会社名 シェア
新日鉄 約30%
G社 約20%
H社 約10%
住友金属 約10%
I社 約5%
J社 約5%
K社 0-5%
L社 0-5%
M社 0-5%
10 N社 0-5%
  輸入 約15%
  合計 100%

新日鉄(市場シェア約30%)及び住友金属(市場シェア約10%)の合算市場シェア・順位は約40%・第1位、合併後のHHIは約2,200、HHIの増分は約500となり、水平型企業結合のセーフハーバー基準に該当しない。

熱延鋼板の国内市場には、新日鉄が10%超・単独第1位の議決権を保有する事業者として、中山製鋼所、日新製鋼及び大同特殊鋼が存在するが、いずれも結合関係があるとは認められない。

評価
有力な競争事業者が複数存在し、これらの事業者は供給余力を有していると認められること、輸入圧力や需要者からの競争圧力が十分に働いていると認められることから、当事会社グループが単独で価格等をある程度自由に左右することができる状態が現出するおそれはなく、本件合併が競争を実質的に制限することとはならないと考えられる。

H形鋼

平成22年度
順位 会社名 シェア
新日鉄
(含 トピー工業、合同製鉄)
約30%
O社 約20%
P社 約20%
Q社 約15%
住友金属
(含 住金スチール)
約15%
  輸入 0-5%
  合計 100%

当事会社グループの合算市場シェア・順位は約40%・第1位、合併後のHHIは約2,800、HHIの増分は約1,100となり、水平型企業結合のセーフハーバー基準に該当しない。

評価
有力な競争事業者が複数存在し、これらの事業者は十分な供給余力を有していると認められること、これまで新日鉄とO社との間で活発な競争が展開されてきており、合併後もその構図に変化はないと考えられること、合併後も合併会社とトピー工業及び合同製鉄との間には一定程度の競争関係が維持されると考えられること、輸入圧力、隣接市場からの競争圧力及び需要者からの競争圧力が一定程度働いていると認められることから、当事会社グループが単独で価格等をある程度自由に左右することができる状態が現出するおそれはなく、本件合併が競争を実質的に制限することとはならないと考えられる。