豊洲汚染問題「議論の入り口に間違い」 産総研・中西氏に聞く 
 

2017/3/24 7:00
日本経済新聞 電子版
 東京都の豊洲市場(江東区)について、土壌汚染対策の専門家会議が「地上は安全」との見解をまとめた。ただ地下水の調査では環境基準の最大100倍のベンゼンを検出し、不安の声は残る。豊洲市場の安全性をどう考えるべきか。リスク評価が専門の中西準子・産業技術総合研究所名誉フェローに聞いた。

 ――専門家会議が豊洲市場は「安全」との見解を示しました。

 「確かに豊洲市場の安全性に問題はない。専門家会議を傍聴して、地下水モニタリング調査で数値が急に悪化した9回目と、それ以前の1〜8回目との違いも理解できた。水の流れによって、ところどころ汚染物質が出てくることはあり得る」

 「採水などの手順が異なっていたことは、結果に影響がないにせよ、残念ではある。いたずらに不信を招きかねない。なぜ皆が納得できる同じ方法でそろえて進めるようにしなかったのか」

 ――都の土壌汚染対策をどう見ていますか。

 「ここまでやる必要があるのか、というほどの対策をしている。その延長で、ひとつひとつの地下水のデータすべてが環境基準を達成しないといけないという、あり得ないことが目標のように語られてしまっている。地下水基準が守られないと健康が守られないと思い込んでしまっている。誤解を解く議論が必要だ」

 「土壌というものの根本的な難しさがある。私たちが普通に住んでいるところだって、何か汚染が見つかることは十分にあり得る。地下水の汚染濃度がなぜこんなに高いのかという議論自体が入り口を間違えている。飲むわけでもない地下水を懸命に調べていること自体が不安を大きくしている面さえある」

 ――都は今後も地下水調査を続ける方針です。

 「地下水を何のために測定するか。これまでは長年、地下水は飲むことが多いことを前提に、健康リスクを測ってきた。しかし豊洲市場の場合、地下水は飲まない。測定するのは健康リスクではない。定期的に地下の状態を探る指標として、異変が生じていないか確認する程度でいいのではないか。全体として地下水の状況に注意しないといけないが、完全にきれいな水である必要はない」

 ――都はどう対応すべきですか。

 「都の責任で豊洲市場の安全性をきちんと発信することが大事だ。残念ながら小池百合子知事が逆の方向で仕事をしている。舛添要一前知事時代に一度、土壌汚染対策の完了を確認し、それで安全という立場を打ち出した。その路線を継承すれば良かった。安全を丁寧にPRすれば風評被害は払拭できる。築地市場については、これまで汚染の調査をしていないこと自体がまず問題だ」

 「そもそも土そのものは完全にきれいにできない。危険の大きさをきちんと評価、管理するしかない。何もかもきれいにするという感覚でやってはいけない。リスクのためにどこまでお金をかけるかという視点も必要。費用には限度がある。ただただ対策をすればいいというものではない」