Z   海外進出(エチレン、汎用樹脂)                     目次へ
     
  1) 前史
    1970年代に4つの石油化学海外計画が始まった。

三井物産を中心に三井グループ各社が参加したイラン石油化学計画、三井グループの韓国石化計画、三菱商事と三菱油化が中心となったサウジ石油化学計画、住友化学が中心のシンガポール石油化学計画である。

 1968/11 イラン石油化学公社(NPC)総裁が高杉・三井物産副社長に同国の油田廃ガス有効利用の協力を要請
 1970 /7 サウディの石油化学事業具体化のため、ペトロミン総裁が三菱商事および油化に対し協力の希望を表明
 1971/12 シンガポールの大蔵大臣が住友化学の長谷川社長に石油化学工場建設への協力要請
 1970年代初め 韓国石化計画への協力

当時は韓国を除いた3計画の中でイラン計画が最も有望とみられていた。原油は豊富で、バーレビ国王の下で政治的に最も安定していた。次が同じく産油国での事業であるサウディ計画で、シンガポールについては原料も需要もなく、何のための事業かと疑問をもたれていた。

結果的にはイラン計画はイランの革命とオイルショックでの建設費高騰、更にイラン・イラク戦争により撤退のやむなきに至った。
サウディ計画は産油国との関係を考える日本政府に押されての進出となったが、成功し、更に拡大に向かっている。しかし、現在では実質的にSABAICが主体で、SABICの戦略に従ってのものとなっている。日本側も三菱商事が主体で、三菱化学の戦略とはなっていない。

シンガポール計画はその後の中国市場の拡大を受け、規模、分野ともに拡張を行い、アジアの一大石化コンプレックスを形成している。住友化学ではこの成功を受けて、中国市場を狙う戦略として、シンガポールでの更なる拡大の代わりに産油国のサウディへの進出を決めた。


イラン石化計画は日本側の事業会社ICDC (イラン化学開発)とイラン側のNPC (イラン国営石油化学)が折半でIJPC (イラン・ジャパン石油化学)を設立、バンダルシャプール(現 バンダルイマム・ホメイニ)で以下の製品の石化センターの建設を始めた。
   (資料 7-1

 
   随伴ガス、ナフサはイラン国営石油会社が供給(ラフィネートは返還)
 工業塩は自製(サイトから10kmのところに塩田をつくり、天日製塩法で海水から製塩)

三井物産が主導で、三井東圧、三井石化に加え、電解〜VCMとLDPE関係で東洋曹達、ブタジェンとSBRの関係で日本合成ゴムが参加した。 

途中で、石化計画が帝人主導のロレスタン鉱区開発権利の入札の条件とされ、成約、工事を進めた。
(ロレスタンは最終的に落札したが採掘に失敗し、権利を返却)

しかし、完成間際にイラン宗教革命が勃発し、工事が中断。その後、日本政府が出資しナショナルプロジェクトとなり工事が再開されたが、イラン・イラク戦争が勃発し、工場も被弾、長期間工事が中断された。

日本側はついに再建を断念、清算金1300億円を支払い、合弁事業を解消した。

NPCは韓国企業を使って工場を再建し、Bandar Imam Petrochemical Company として今も稼動している。   (
資料 7-2

ほかに、イランでは三菱化成が塩ビ用可塑剤の生産をしていた。


韓国の石油化学計画支援    (資料 7-2

 1972 蔚山に初の石化コンビナート スタート
       大韓石油(韓国開発銀行 50%/Gulf Oil 50% エチレン 10万トン)

   誘導品に、以下の会社が韓国側に技術供与・出資。

会社 相手先 製品 当初 現状
丸紅、チッソエンジニアリング 大韓油化 HDPE、PP   下記
JSR、三井物産 韓国合成ゴム SBR    
旭化成 東西石油化学 ANM スケーリーオイル50%/韓一合繊50% 旭化成100%
三井石油化学 三星石油化学 PTA Samsung 50%/Amoco35%/三井15%  三井離脱
日本石油化学 コーロン油化 石油樹脂 韓国ポリエステル55%/日石化学35% コーロン21.3V/新日石化学21.3%

1970/6 丸紅、チッソエンジニアリング 大韓油化に資本参加(HDPE、PP)

      その後、1991年にエチレン 25万トン建設 →経営悪化
      1993年法定管理(会社更生法)申請 →丸紅撤退 

創業者一族   25% 42%
政府(財務部)    17% 29%
チッソエンジニアリング    8% 14%
丸紅   41.59%  0%

 韓国政府、並行して麗水に石化コンビナート建設を決定、日本に協力要請
  三井グループ、三菱グループが計画(三菱はその後撤退)
 
 
三井グループの韓国石化計画

  1973/11   三井石油化学、三井東圧化学、三井物産の3社、第一化学を設立
  1974/6   日本石油化学、第一化学に資本参加
  1976/3   第一化学、韓国側投資会社の麗水石油化学と湖南石油化学を設立
     
       
  計画概要    
   エチレン    35万トン (湖南エチレン)
   HDPE   7万トン                          
   PP   8万トン
   EO/EG   各8万トン
   ブタジェン*    
     *最終的にブタジェンは中止となり、日石化学は出資比率を減らす

 他に韓国政府/ダウの50/50JVでLDPE,EDC、VCM企業化
 後、ダウが持分を韓国火薬に譲渡、政府持分も合わせ、韓洋化学(現在のハンファ)に
 

             
  日本側は当初は韓国での石化コンプレックスの建設、操業に貢献したが、軌道に乗るに従い、単なる出資者の地位にとどまるようになった。
       
  2002/12   第一化学、湖南石油化学持株売却完了
  2003/6   第一化学(三井化学 60.13%、三井物産 32.17%、新日本石油化学 7.7%) 解散
       
湖南石油化学 出資関係推移   (現状 資料 7-3

 

     
  2) サウディ石化計画   (資料 7-4
    サウディアラビアの石油は1974年以降、日量 800万バレルを超す水準で生産されており、その随伴ガス中に含有される炭化水素エタンの量は、年間合計約 930万トンに達していたが、これらは一部を除きフレアで燃焼・廃棄されていた。
サウディ政府は1975年に、このガスを石油化学工業用の原料等として有効活用するためのガス回収プロジェクトを110億ドルをかけて実施した。サウディ政府は回収ガスを有効活用する石油化学プロジェクトを国家計画の一環として実施しようとし、1970 /7、三菱に協力要請したが、シェル、モービル、エクソン、ダウ等にも要請している。

上記各社は最終的にSABICと下記JVを設立している。   (資料 7-6

    JV名    
EXXON   KEMYA   エチレン、LDPE、LLDPE、プロピレン
Shell (Pecten)   SADAF   エチレン、エタノール、MTBE、SM、電解、EDC
Mobil(EXXON-Mobil)   YANPET   エチレン、EG、PE、プロピレン、PP
Dow   PETROKEMYA   エチレン、EGでSHARQと共同生産
(Dow離脱、SABIC 100%に)
     
    三菱グループは1970に石油鉱物資源公団(ペトロミン)総裁からサウジの石油化学事業具体化の協力の要請を受け、1974年に三菱首脳(商事、油化、三菱石油、鹿島石油、千代田化工)のミッションがサウジを訪問し、工業化計画への貢献に積極的意向を表明した。
しかし、その後FSで巨額の赤字が発生するとの結論が出て消極的になった。
     
    その後の第1次石油危機を契機に日本にとってサウディ原油の長期安定確保が重要となったが、サウディ政府は石油化学プロジェクトを日サ経済協力の最重要案件と位置づけたため、政府の指導のもとに、三菱関係各社(15社)、石油化学関係各社(11社)、石油精製関係各社(13社)等、計54社が参加して調査会社サウディ石油化学開発が設立された。

サウディ政府は参加の見返りにSPDCにインセンティブ原油引取権を与えた。   (資料 7-5
しかし、1984年になって原油の市場価格下落でこれのメリットがなくなったため、引取りの一部を中止(ペトロミンはペナルティなしでこれを認めた)

     
    1980年にSABIC/ダウJVのPETROKEMYAとのエチレン、EGプラントの共同生産案がまとまった。
  P
ETROKEMYA  エチレン 50万トン生産(SHARQにエチレン 26万トン供給)
  SHARQ     EG    30万トン(半分はPETROKEMYA)、LLDPE 13万トン

   * 1982年にダウがPETROKEMYAから撤退、SABIC 100%に。

1981年、投資会社「サウディ石油化学(SPDC)」設立
  海外経済協力基金45%(当初案 50%)、穴埋めとして鉄鋼業界 6社、自動車業界 2社が出資
1981/9、SABICとの合弁会社 Eastern Petrochemical Company (SHARQ) 設立

1985年、各プラント完成、EGとLLDPEの日本向け出荷開始。

1991年に第二期計画を決定(1993年完成)、1996年に第三期計画を決定(2000年完成)

   

その後、SABICのJV各社は能力増強を行った。SABICは独自で新しいコンプレックス Jubail United Petrochemical(JUPC)を2004年にスタートさせているが、2004年、2つの計画が発表された。

1つはSABICが自社でYanbuに新しいコンプレックス YANSABを設立するものだが、
もう1つはSHARQの増設で、現シャルク社敷地内に、Saudi Aramcoから供給されるエタンとプロパンを原料にして、エチレン(120万トン)、EG(70万トン)、LLDPE(40万トン)、HDPE(40 万トン)を新設するもので、2008年完成を目指している。   (
資料 7-7

   
SHARQ 社の製品別生産能力(単位:1,000T/Y)
  現設備生産能力 SHARQ 生産能力
(SHARQ 持分)
第3次拡張計画 完成後の合計
(SHARQ 持分)

エチレン

2,440
(at PK)

1,155
(*)

1,200

2,355

EG

1,350
(at SHARQ)

675

700

1,375

LLDPE

750

750

400

1,150

HDPE

0

0

400

400

 
  
:PETROKEMYA(PK)との共同生産                  
(*) 既存エチレンプラント(3基)のSHARQ 持分、比率はプラント毎に異なる。
     
    これと並行して三菱ガス化学を中心とするメタノール計画が実施された。(7-72参照
     
    なお、サウディアラビアでは後記の通り、住友化学がAramcoと組んで、石油精製・石油化学計画を進めている。
     
  3) シンガポール石油化学計画   (資料 7-8
    本計画はシンガポールのメルバウ島にエチレン能力 300千トンの石油化学コンプレックスを建設するもので、1971/12にシンガポールの大蔵大臣から住友化学に石油化学工場建設への協力要請があったのに始まる。
住化では本件を、インドネシアのアサハン・アルミニウム計画と同様に、ナショナルプロジェクトとして推進すべきとの考え方で政府、業界などに支援・協力を要請した。

その結果、1977年に海外経済協力基金と石化メーカー、プラントエンジニアリング会社、総合商社、銀行が参加した投資会社「日本シンガポール石油化学」(JSPC)を設立、シンガポール政府とJSPCの折半出資でエチレンセンター会社「Petrochemical Corp. of Singapore (Private) Ltd.」(PCS)を設立した。

折からの不況で遅れたが、1980年に3つの誘導品会社が、1982年にEOGの会社が設立された。
  @LDPE・PP
    社名   The Polyolefin Co. (Singapore) Pte. Ltd.(TPC)
    設立   1980/5
    出資比率   日本シンガポールポリオレフィン* 70%、シンガポール政府 30%
         * 住友化学 78.57%(55/70)、宇部興産 7.14%(5/70)、昭和電工 7.14%(5/70)、
   東洋曹達 4.29%(3/70)、出光石油化学 2.86%(2/70)
    能力   LDPE 120千トン、PP 100千トン
         
  AHDPE
    社名   Phillips Petroleum Singapore Chemicals (Private) Ltd.(PPSC)
    設立   1980/4
    出資比率   フィリップス石油 60%、シンガポール政府 30%、住友化学工業 10%
    能力   HDPE 80千トン
         
  Bアセチレンブラック
    社名   Denka Singapore Private Ltd. (DSPL)
    設立   1980/9
    出資比率   電気化学工業 80%、シンガポール政府 20%
    能力   アセチレンブラック 5.2千トン
         
  CEOG
    社名   Ethylene Glycols (Singapore) Private Ltd. (EGS)  
    設立   1982/4
    出資比率   シンガポール政府 50%、シェル 20%、日本シンガポールエチレングリコール(JSEC)* 30%(1982/7変更後)
 *JSECは当初、三菱油化、日本触媒、三井石油化学、日曹油化が出資
  最終的には住友化学、三菱油化、日本触媒が出資、ほかに、
  伊藤忠商事、住友商事、トーメン、日商岩井の4商社が優先株を所有  
    能力   EO 80千トン、EG 87.5千トン (E0のうち70千トンはEG原料として使用)

1982/8のPCSに続き、誘導品会社の設備も順次完成したが、世界的な石油化学製品の市況の冷え込みのなか、操業しても大幅赤字が確実であった。
1983/5にリー・クアンユー首相から中曽根康弘首相に増資による操業時の大幅赤字回避の提案があり、JSPCで279億円(うち海外経済協力基金 45.8億円、住友化学 162.2億円)の増資を行い、日本・シンガポール合計で518億円の株主融資をPCSの資本金に振り替え、同社の金利負担を大幅に軽減した。

1983年後半に入ると石油化学市況は上昇の兆しを見せ始めた。
1984/2にエチレンがスタート、1985/3のEOGプラントを最後に全プラントが商業運転を開始

操業当初のTPCのの市場の6割はASEANと香港で、残りが中国、日本、ニュージーランド
販売の四大方針 @安定供給AクイックデリバリーB製品の高品質Cテクニカルサービスにより需要家の信頼

     
    1989/4 シンガポール政府、持株をシェルグループに譲渡   (資料 7-9) 
  シンガポール政府が1987年に資本市場の育成と資金の有効利用のため国営企業の民営化を決定しており、それに基づくもの

これによりシェルはTPCの製品の引取権をもち、引取りを順次増やしていった。

1995年、ShellのPPとモンテジソンのポリオレフィン事業を統合してモンテルを設立することとなり、独禁法の関係でTPCへの関与を放棄し、単なる株主となった。

    その後、1989年にTPCで住友化学気相法によるPP 40千トン新設備が完成、ブロックコポリマー生産を可能とし、同じく1989年にKureha Chemicals (Singapore) Pte. Ltd.を設立している。   (資料 7-10) 

PCSおよび誘導品各社は1985年以後フル操業を続けた。
このため1990年頃から中国の需要の伸びを前提にして増設計画の可能性について検討を開始した。

    1994/3 シンガポ−ル2期計画発表 1997年完成   (資料 7-10) 
     
   
   

なお、PPSC(HDPE)の増設がフィリップス役員会で否決され、
住友化学、シンガポール政府(EDC Investment )が増資に応じることで解決した。

 出資比率
   
  当初 増資後
フィリップス  85.71%   50%
住友化学  14.29%   20%
EDC Investment   ー   30%
     
   
その後の誘導品の動き
  PO/SM併産計画
 第一期 
  Seraya Chemicals Singapore
   出資&引取比率:シェル 70%/三菱化学 30%*
   能力:SM 315千トン
       PO 140千トン
       Polyol 78千トン
       PG  90千トン

 第二期計画 シェルがBASFとJV設立
  ELLBA Eastern
   出資:シェル 50%/BASF 50%
   能力:SM 550千トン
       PO 250千トン

  * 三菱化学はこれを機会にSeraya Chemicalsの出資分をシェルに譲渡(シェル100%に)
         PO引取権をシェルに譲渡
         2期分を含めたSM38万トンの引取権を確保 

 
ポリスチレン
    社名   Denka Singapore
    能力   60千トン
    出資   電気化学 100%

MTBE

    社名   Tetra Chemicals (Singapore)
    出資   PCS 60%/伊藤忠商事 40%

酢酸 
  Celanese Singaporeがメタノール法酢酸をSakra島で生産
   酢酸 500千トン、酢酸ビニル 200千トン、酢酸エステル 100千トン

アクリル酸関連 

  @租アクリル酸
    社名   Singapore Acylic
    能力   60千トン
    出資   住友化学 60%/東亞合成 40% →日本触媒 51%/住友化学 9%/東亞合成 40%
         
  A精アクリル酸
    社名   Sumika Glacial Acrylic
    能力   25千トン
    出資   住友化学 100%→日本触媒 100%
         
  Bアクリル酸エステル
    社名   Singapore Acrylic Ester
    能力   82千トン
    出資   東亞合成 75%/住友化学 25%→東亞合成 100%
         
  C高吸水性樹脂
    社名   Sumitomo Seika Singapore
    能力   55千トン
    出資   住友精化 80%/住友化学 20%

MMA関連 

  @MMAモノマー
    社名   Singapore MMA Monomer
    能力   55千トン
    出資   住友化学 60%/日本触媒 40%→住友化学 100%
         
  AMMAポリマー
    社名   Sumika MMA Polymer
    能力   35千トン
    出資   住友化学 100%

住友化学と日本触媒はアクリル酸とMMAモノマー事業を交換この結果、シンガポールでの出資関係も変更した。

         
    シンガポール計画現状は以下の通り    
   

    ほかにジュロン島では以下のような石化プラントがある。   (資料 7-12) 
   
  ExxonMobil   エチレンコンプレックス (エチレン 800千トン)
  三井化学   フェノール、ビスフェノールA、塗料原料用樹脂、合板用接着剤、タフマーほか
  帝人   ポリカーボネート樹脂
  クラレ/日本合成化学   PVA
 

  続く