朝日新聞 2003/8/20

ドン・キホーテ、TV電話使う薬販売中止へ 違法指摘で

 総合ディスカウント店のドン・キホーテ(本社・東京)は20日、都内10店舗で9月1日から、深夜の緊急性の高いお客に限り、必要な量の薬を無料提供すると発表した。8月から深夜に薬剤師が不在となる店舗に限り、テレビ電話で薬剤師が相談に乗った上で医薬品の販売をしてきたが、厚生労働省から薬事法違反との指摘を受けたため、販売は中止し、無料配布に切り替える。厚労省は「無料提供でも違法の可能性がある」と指摘している。

 同社によると、10店舗のテレビ電話導入に4000万円がかかり、毎月2000万円の経費が必要だという。構築したシステムを生かして顧客の要望に応えつつ、規制緩和を促す狙いがあるとみられる。厚労省は「テレビ電話での販売は薬剤師の薬局常駐を義務づけた薬事法に違反する。無料だからといって違法性がなくなるわけではない」としている。

 会見した安田隆夫社長は「夜中に困って来たお客を見放すようなことはできない。テレビ電話を使った遠隔医療が行われているのに、薬は販売できないというのは納得できない」と話している。

 


朝日新聞 2003/8/23 

社説 薬の売り方 「薬剤師を生かすには」

 深夜営業を特色とする大型量販店ドン・キホーテが、8月1日から始めたばかりのテレビ電話を使った医薬品販売の中止に追い込まれた。
 都内10店舗の医薬品売り場と、薬剤師が常駐するセンターをテレビ電話でつなぎ、深夜で店に薬剤師がいない場合でも薬を売れるようにした。
 だが、厚生労働省や東京都が「違法のおそれがある」として待ったをかけた。薬事法では、薬剤師が常に店にいることを求めている。テレビ電話はこの定めに反するというのが、役所の考え方だ。
店側は、9月から販売はやめるが、テレビ電話の利用は続け、緊急に薬が必要だと薬剤師が判断した場合には、無料で薬を渡すサービスに替えるという。
 無料ならかまわないだろうという理屈は疑問だが、低コストで薬剤師のアドバイスを受けられるように考えた新システムを否定された店側の怒りは伝わってくる。
 厚生労働省の立ち入り検査の01年度の報告では、薬局で2%程度、ドラッグストアのような薬販売店の約20%で薬剤師がいなかった。そういう現状を考えると、テレビ電話など情報機器の活用はもっと積極的に考えてもいいのではないか。
 医薬品の販売をめぐっては、総合規制改革会議が「コンビニなど一般小売店でも売れるようにすべきだ」という考えを打ち出し、論議を呼んできた。
 改革会議は「薬店等で対面で服薬指導をしている実態は乏しいうえ、薬剤師が不在であることも多いにもかかわらず、薬剤師不在に直接起因する副作用事故等は報告されていない」と主張している。確かに薬剤師のあり方には問題が多い。だが、「不要論」にまで一気に突き進むのは行き過ぎだろう。
 昨年、中国製の「やせる薬」で死亡者が相次いだ。この薬は国内では未承認で、医薬品販売の規制の枠外の出来事だったが、効能や副作用を十分に理解せずに薬を飲むことの危険性を思い知らされた。
 薬との付き合い方は難しい。地域密着型の薬局・薬店には、普段から気軽に相談でき、時間外でも無理を聞いてもらえるという良さがあることも忘れてはならない。目指すべきは、薬剤師がもっと身近で頼りにされる存在になることだろう。
 といっても、現状の規制が強すぎるという総合規制改革会議の言い分も、もっともな点が多い。薬剤師の指導がなくても構わないと思われる薬でも一般小売店では売れない仕組みになっている。
 虫さされの薬をはじめ、安全性の面で心配のない薬は一般小売店でも売れるようにしたらいい。政府は、どういう薬を売れるようにするか、今年中にまとめることにしている。新たに浮上した「テレビ電話問題」についても、前向きに検討してもらいたい。


産経新聞 2003/8/25  

「事件は現場で起きている!」    KFi代表 木村 剛氏

 ドン・キホーテが、厚生労働省に対して、物語のドン・キホーテのように突進しようとしている。
 同社は、8月1日から薬剤師によるテレビ電話での医薬品販売システムを導入した。24時間対応の薬剤師センターを設置し、各店勤務の薬剤師が不在の場合はテレビ電話で顧客からの相談に応えて医薬品を買っていただくというシステムだ。
 薬剤師を常駐させることが難しい深夜であっても、いつでも安心して医薬品を買えることになる。消費者にとっては極めて便利になる。
 そもそも、このサービスを開発した発端は、お店の現場にある。薬剤師が不在の際に風邪をひいた子供を抱えた母親から「なぜ売れないのですか」としかられたり、目を真っ赤に腫らしたお客さまから目の洗浄液を懇願されても断らざるを得なかったなど、ドン・キホーテのお店の現場であまりにも忍びないケースが散見されたからなのだ。
 こうした悲惨な状況を放置しておくと、法令順守と人道的対応のはざまで現場の従業員が苦しまなければならない。人助けしたいのに助けられない−この矛盾を解決するために考案されたのがテレビ電話方式だった。
 ところが、会議室で考えている厚労省は理解を示さない。「現行法に照らして違法の恐れあり」として不当な圧力をかけた。
 このため、ドン・キホーテは「テレビ電話による医薬品販売」を断念し、9月1日から都内10店舗で深夜の緊急時に限って、必要最小限の医薬品を薬剤師がテレビ電話で介在した上で、無料提供することを決定した。
 いわば急に腹痛になったホテルの宿泊客が、フロントに胃薬を求めにきたら代金を請求することなくお渡しするというサービスと同じだ。ホテルマンは薬剤師じゃないし、ドン・キホーテの場合はテレビ電話とはいえ、薬剤師が介在するのだから、これなら問題なかろうと考えたわけだ。
 ところが、これにも厚労省からケチがつく。無料でも違法の恐れがあると言い張る。ここまで来ると言い掛かりとしか思われない。規制緩和に反対し省益を守るためには、風邪引きの子供を抱えた母親がどうなろうが、目が腫れて苦しんでいる人々などどうでもいいと言うのだろうか。
 そもそも、薬剤師が1人いたところで、実際は、薬剤師の免許を持たないバイトが勝手に売っているのが現状だ。しかも、一定の医薬品についてはカタログによる通信販売すら認められている。カタログは良くてテレビ電話がダメだという理屈があるなら言ってもらいたい。厚労省の言い掛かりは完全に破綻している。
 厚労省のお客さまは、厚労省の先輩や既得権益に固執している業者ではない。ドン・キホーテに来ている消費者だ。大ヒット中の映画「踊る大捜査線」で、「事件は会議室で起きているんじゃない。事件は現場で起きているんだ」と叫んだ織田裕二の声が耳にこだまする。
 年金のデータベースを隠し、現場を無視する厚労省などなくしてしまった方がいいのではないか。


毎日新聞 2003-09-03

<規制改革会議>ドン・キホーテめぐり一時紛糾 (毎日新聞-全文)

 政府の総合規制改革会議(議長・宮内義彦オリックス会長)は3日、テレビ電話による医薬品販売を始めたディスカウントチェーン「ドン・キホーテ」に、厚生労働省が「薬事法違反」と注文を付けた問題で、同省の見解を聞いた。しかし、厚労省が具体的な説明を拒否したため、会議は一時紛糾した。

 ドン・キホーテは8月から、薬剤師3人が常駐するセンターと顧客がテレビ電話で話しながら風邪薬などを販売するサービスを始めた。しかし、厚労省に「待った」をかけられたため、対抗策として9月から緊急時に限って医薬品を無料で提供することにした。

 会合で、薬事法違反の根拠をただされた厚労省の青柳親房参事官は「ここで扱う問題ではない」「特定の企業を援助するための議論か」などと反論。宮内氏が「話ができない」とすごむと、厚労省はしぶしぶ「薬剤師を店舗に置くのが薬事法の基本だ」と説明した。

 宮内氏は記者会見で「非常に不思議な役所だ」と厚労省を批判。医薬品の一般小売点販売をめぐり春先から繰り広げられてきた同会議と厚労省の対立はさらに先鋭化しそうだ。


毎日新聞 2003/9/5

<石原都知事>ドンキ医薬品無料提供「大賛成」

 ディスカウント店を全国に展開する「ドン・キホーテ」(東京都江戸川区)が都内10店舗でテレビ電話を使って医薬品を無料提供している問題で、石原慎太郎都知事は5日の定例会見で「大賛成。大いに奨励する」と述べた。この問題をめぐっては、薬事法を所管する坂口力厚生労働相が「現在の法律で考えれば違法で、行政指導は当然あり得る」と述べたばかり。厚労省と都のトップの見解が真っ向から分かれた格好で、議論を呼びそうだ。

 会見で、石原知事は「一種の健康の治安。つまり医薬品の相談に、ビデオを見るわけじゃなしに生きている薬剤師が(テレビ電話に)出て、事情を聴いてだね、処方して深夜まで薬品を提供するのが、どこが悪いのか」と切り出し、「都会の実態ってのをまったく知らないよ。厚労省の役人がいかに遅れててバカかっていう証拠だ。本当に遅れてるよ」などと同省の対応を批判した。

 都健康局は7月末、「テレビ電話を使った医薬品販売は違法」との国の見解をドン・キホーテ側に伝えていたが、石原知事は「私は大いに(テレビ電話による販売を)奨励します」との見解を強い口調で示した。

 知事発言を受け「違法」との見解を示してきた都健康局は今後、合法とみなす法解釈を検討する姿勢に切り替えた。

 ドン・キホーテは厚労省から「薬剤師を各店舗に置かなければ薬事法違反」と指摘されて販売を断念し、今月から深夜の緊急時に限って医薬品を無料提供するサービスを始めた。石原知事は8月29日に同社の安田隆夫社長と会い、規制緩和について意見交換している。

 東京23区内では、薬事法に基づく行政指導、処分などを行う権限は区にあり、東京都は各区の指導にばらつきが出ないように調整する役目を負っている。だが、法解釈の最終権限は厚労省にある。

 厚労省医薬食品局の吉岡荘太郎総務課長は「薬剤師は顧客への情報提供だけではなく、医薬品の管理や従業員の監督などさまざまな役割を負っている。テレビ電話を設置すれば済む問題ではなく、ドン・キホーテのような医薬品提供は是正することが必要と考えている」と話している。


共同通信  2003/9/6

ドン・キホーテに立ち入り検査 薬品無料提供で区保健所

 総合ディスカウントストアのドン・キホーテがテレビ電話で薬剤師と連絡を取り東京都内で無料で医薬品を提供するサービスを始めた問題で、豊島区や渋谷区などの保健所が実態を把握するため店舗に立ち入り検査したことが5日、分かった。

 厚生労働省が薬事法に違反する恐れがあると指摘したのを受けた措置。

 一方、規制緩和に積極的な石原慎太郎都知事は同日の記者会見でドン・キホーテのサービスについて「大賛成。大いに奨励する」と述べ、後押しする姿勢を強調。行政の見解が2つに割れた形だ。

 石原知事は会見で「夜中に都会でどういう不便をかこっているかを見たら分かることだ」とした上で「薬剤師が(テレビ電話に)出て事情を聴いて、処方をちゃんと授けて売っている薬品だ。深夜までやっている所が提供してどこが悪いんだ」と強調した。

 ドン・キホーテは、都内の10店舗で8月から、深夜時間帯にテレビ電話で薬剤師の判断を仰ぎ医薬品を販売。厚生労働省が薬事法に違反する恐れがあると指摘したため、今月1日から無料で提供するサービスに切り替えた。


共同通信  2003/9/6

「薬剤師の常駐は必要」 石原知事の発言に厚労省

 ディスカウントストアのドン・キホーテの医薬品提供サービスに東京都の石原慎太郎知事が「大賛成」と述べたことについて、厚生労働省は5日、医薬品の安全確保のためには薬剤師の常駐は必要との見解を示した。

 医薬食品局の吉岡荘太郎総務課長は「薬剤師は薬の情報提供だけでなく、在庫品の管理や従業員の指導など現場にいなければできない仕事を担っている」と強調。販売店のある渋谷区などに対し、事態の改善を粘り強く指導するよう要請していく考えを示した。

 厚労省はドン・キホーテのサービスについて、一貫して薬剤師の常駐を義務付けた薬事法に違反する疑いがあるとしている。