日本経済新聞 2001/11/2-3

地球環境経済人サミット
 排出権取引は有効 英産業連盟委員長
 省エネ技術世界に ホンダ福井社長

 「グローバル化する環境経営〜先行する日本企業の実力」と題して第13回地球環境経済人サミット(日本経済新聞社主催)が2日午前、東京・大手町の日経ホールで始まった。英国産業連盟国際諮問委員会委員長のマーシャル卿と福井威夫ホンダ社長が基調講演した。マーシャル卿は「(地球温暖化などの)気候変動の影響は企業が変わるきっかけになる」と、官民が協力して温暖化ガスの排出削減に取り組む必要性を主張した。
 マーシャル卿は英国が2002年に導入した排出権取引と気候変動説を組み合わせた政策を紹介。「英産業界は3年間で二酸化炭素(C02)排出量を1600万トン削減できた」と説明した。排出権取引の導入は環境技術の開発を促し、企業経営に悪影響を及ぼさない有効な手段と強調した。
 続いて講演した福井ホンダ社長は、自動車の燃費向上などにより自社製品の環境性能を高めていることを紹介。グローバル企業として日本の工場の省エネ技術を世界中に広めていることに触れ、「自然環境に対する負荷を最小化することが次世代に対する企業の責務」と訴えた。
 開催にあたり杉田亮毅日本経済新聞社社長は「優れた環境技術を持つ日本企業は途上国の温暖化ガス削減に協力する使命がある」とあいさつした。サミットは午後にパネルディスカッションと総合討論会が開かれ閉幕する。

講演の要旨

マーシャル卿
 英国は京都議定書によって温暖化ガスの排出量を2010年ころに1990年比で12.5%削減することを義務づけられた。二酸化炭素(CO2)の排出を20%削減する独自目標も立てた。そのため経済的負担が少なく、英企業が競争力を失わずに温暖化ガスの排出を減らせる方策を考えることが急務になった。
 私は英国産業連盟会長として英国内の温暖化ガス排出を減らすため、排出権取引と化石燃料に対する課税措置の導入に取り組んだ。02年に排出量削減協定と気候変動税をリンクさせた制度を導入し、3年間で1600万トンC02排出量を削減できた。

福井ホンダ社長
 二酸化炭素(C02)発生量の多くは化石燃料の消費によるもので、日本における自動車からの排出割合は国全体の約20%を占める。自動車の使用過程における環境性能向上が最も必要だ。ホンダは積極的に取り組み、現在の排ガス規制には全車が適合している。
 アルコール燃料など化石燃料以外にも対応できる自動車を2006年中に投入する予定だ。水素を燃料としC02を排出しない燃料電池車の開発も急いでいる。
 製造現場でも、日本の工場の省エネのノウハウを世界中の工場に広める活動を進めている。ホンダは環境問題に対して責務を果たさなければビジネス拡大はできないという強い意志を持っている。高い目標を掲げ問題解決に取り組んでいく。

綜合討論会

佐々木氏 素早い実行力 鈴木氏 植林で貢献 畔柳氏 金融で後押し 大鶴氏 EU規制対応

 「グローバル化する環境経営〜先行する日本企業の実力」をテーマに第13回地球環境経済人サミット(日本経済新聞社主催)が2日、東京・大手町の日経ホールで開催された。午後の総合討論会では環境経営のあり方や地球温暖化などの環境問題の解決策について議論。「日本企業の強みである環境技術を海外に普及させるべきだ」との意見が相次いだ。
 討論会には王子製紙の鈴木正一郎社長、経済同友会の佐々木元地球環境・エネルギー委員会委員長(NEC会長)、松下電器産業の大鶴英嗣常務、三菱UFJフィナンシャル・グループの畔柳信雄社長が参加した。
 佐々木氏は「日本の産業界はいち早く世界の環境規制に対応してきた。理念先行の欧州に対して日本は環境技術という具体的な実行力を持っている」と述べ、日本企業の環境経営の先進性を強調した。大鶴氏も欧州連合(EU)が2006年7月から鉛などの有害物質の電子機器への使用を禁止する措置への対応をほぼ完了させたことを報告し、「日本企業のものづくりDNAが環境分野でも発揮されている」と応じた。
 環境経営への取り組みについては、畔柳氏が「取引先の環境への貢献度や環境技術に着目した低金利での融資を行っている」と金融面で後押ししていく考えを説明した。鈴木氏は海外で積極的に植林事業を進めていることに触れ「植林による二酸化炭素(C02)吸収量が、(工場などからの)C02排出量を上回っており温暖化問題の解決に貢献している」と話した。
 温暖化ガス削減方法については、「日本の工場の省エネ技術を中国に持ち込んで貢献したい」(鈴木氏)、「日本の技術ノウハウを国際的に活用すべきだ」(佐々木氏)といった意見が出た。ポスト京都議定書の削減のあり方に関しては「すべての国が参加できる枠組みが必要」(大鶴氏)との意見で一致した。
 環境省が導入を検討している環境税にも言及し、「企業の競争力とどう調和するのかを考えないといけない」(畔柳氏)と否定的な意見が大勢を占めた。
 このほか「温暖化防止のための省エネルギー〜技術そして企業の取り組み」と題したパネルディスカツションでは、大下孝裕・荏原取締役兼常務執行役員、松村幾敏・新日本石油常務兼執行役員、庭野征夫・東芝執行役専務、宮尾博保・ヤマハ発動機常務が参加。燃料電池など各社の省エネ技術開発の取り組みについて意見を交わした。


日本経済新聞 2007/3/10

先進国の二酸化炭素 EU、30%削減を提唱 「ポスト京都」主導権狙う

 欧州連合(EU)は9日の首脳会議で地球温暖化対策の行動計画を採択した。2020年までに日本、米国、EU 27カ国など先進国全体で、二酸化炭素(C02)などの排出量を1990年比30%削減する目標を明記、ポスト京都議定書の枠組み主導へ動き出した。EUと主要8カ国(G8)の「ダブル議長国」ドイツは日米に参加を呼びかけ、対応を迫る。
「EUは野心的な目標を公約した。国際社会に対応を求めていく」。独環境相として議定書取りまとめに奔走した経験を持つメルケル独首相は9日の記者会見で強調。6月のハイリゲンダム・サミットでも環境問題で日米の積極関与を求める立場をにじませた。先進国の削減目標を高めに設定して中国、インドなど温暖化対策に消極的な国をポスト議定書の枠組みに取り込む狙いだ。
 議定書は90-12年のC02排出削減目標を「日本6%、米国7%、EU8%」と規定。「先進国全体で30%」の達成には議定書が失効後、単純計算でも日本24%分、米国23%分、EU22%分をさらにカットする必要がある。
 他方、行動計画は
EUが自らに課す削減目標を「20%」とした。日米などがさらに多く削減しなければ、先進国目標を実現できない計算だ。国際的に温暖化対策が進む場合は域内の削減目標を引き上げる用意があるとも付け加え、排出量が膨らむ米国などの大幅削減を促している。
 日本は議定書の「6%」達成も危ぶまれており、同調は困難な情勢。米国はエタノール利用促進などを掲げるものの、議定書に調印しながら批准はしておらず、新たな数値目標設定にも慎重姿勢で臨むとみられる。
 EUはC02を多く排出する石炭火力への依存が大きい中・東欧諸国も加盟。同諸国のエネルギーを天然ガスに代替すれば、地域全体のCO2排出削減を加速できる。既に化石燃料依存の抑制に動く日米からはEUへの反発も出そうだ。
 EUには、12年に失効する議定書後の国際的な枠組み作りで主導権をとる狙いがある。自然災害やロシアの資源外交などエネルギー供給の不安定化要因をにらみ、域内の資源自給体制を確立する戦略もうかがえる。
 特に、ロシアからの天然ガスや石油の供給停止は資源の3割前後をロシア産に頼る欧州の死活問題。行動計画はバイオマス(生物資源)や風・水力など再生エネルギーの利用促進も提唱、温暖化対策とともに脱化石燃料を進め、エネルギー安全保障の再構築を急ぐ。

温暖化防止に関するEUの行動計画のポイント

CO2排出削減目標
  △EU域内 2020年までに20%削減
  △先進国 2020年までに30%削減。日米にも呼びかけ
     
EU域内の具体策
  △再生可能エネルギーの利用拡大 2020年までに現在6%強の利用割合を20%に
  △バイオマス燃料の普及 輸送用燃料の10%に
  △EU発着航空機にC02排出上限枠 2011年から現状の平均値に抑制
  △自動車各社へのCO2排出規制を義務化 2012年までに排出量を1キロ走行当たり130グラムに
  △エネルギー利用の効率化 オフィスや輸送の省エネで消費量を20%削減

自動車・航空機, 排出規制強化 開発競争激しく

 C02排出量全体の2割強を占める自動車や航空機の排出規制を強化するEUの行動計画をにらみ、産業界は対応に動き始めている。
 自動車メーカーには、EU市場で売る新車のCO2排出量を2012年までに1キロメートル走行あたり130グラム(現行比で20%削減)に抑制することなどを義務化。ダイムラークライスラーは「小型車のスマートで5%、大型車では20%削減する必要がある」という。
 自動車の環境対応は、欧米市場でもトヨタ自動車などのハイブリッド戦略が先行。日本勢は技術開発や小型車への移行を加速し、排出量の平均値を下げる方針だ。ホンダは排ガス浄化機能を持つ新型ディーゼルエンジンの開発に成功している。
 だが「今の延長線では新規制を満たせない」(福井威夫ホンダ社長)と悲観的な見方もある。今後はC02や窒素酸化物(NOx)を削減するディーゼルエンジンなどで先進技術をもつ欧州メーカーなどとの技術開発競争も激化しそうだ。
 EU発着の航空機には11年以降、04-06年の排出量を基準にした目標を個別に割り当てる方向。欧州航空連盟は「世界の排出量全体に占める航空機の割合は2%」と過剰な削減目標の押しつけに警戒感を示す。
 日本航空はエンジン数を減らしてC02排出を削減できる機種への切り替えを推進。10年度の排出量を05年度実績比で10%強削減することを目指す。航空各社のジェットエンジンの技術革新や運航管理効率化の成否が明暗を分けそうだ。


2007/3/10 毎日

温室ガス削減 EU合意
 方法で対立 「原子力もクリーンだ」「自然エネルギー推進を」

 欧州連合(EU・27カ国)は8ー9の両日、首脳会議を開き、今後のエネルギー政策を中心に話し合った。会議ではEUとして、2020年までに温室効果ガス排出量を1990年比で20%削減することに合意。だがその方法で、風・水力などの自然(再生可能)エネルギー利用を推進しようとする国と、これに反発する国が対立した。各国ごとに依存するエネルギーの種類が大きく違うことが背景にある。
 「2年前、我々にはエネルギー戦略が全くなかった。それに比べると、大きな進歩だ」
 EUの内閣にあたる欧州委員会のバローゾ委員長は8日、首脳会議の成果を強調した。合意は京都議定書後(13年以降)をにらみ、現行の温室効果ガス排出童削減目標(8%)を、20年までに20%に引き上げるというもの。「地球温暖化防止でEUが世界的な指導力を発揮すべきだ」(同委員長)という立場を鮮明にした。また会議では、20年までにエネルギーの使用量を現在より20%削減するほか、有機廃棄物などを利用して作る「バイオ燃料」の使用促進でも合意した。
 一方、エネルギー確保に関する政策でも進展があった。天然ガスなどのエネルギーを「政治的な道具」に利用しているとの批判があるロシアを念頭に、他の資源供給国に対してEUが団結して対応する方針も確認。一部の加盟国が、資源確保でこれらの国々と勝手に交渉する「抜け駆け」を行うことも禁止した。
 問題は温室効果ガスの削減方法だった。
 「このまま環境汚染を続ければ(汚染除去で)将来、ばく大なコストがかかる」。EU議長国・ドイツのメルケル首相は8日、@自然エネルギーへの依存率を、EU全体で現行の約6%から20年までに20%に引き上げるAこのため各国ごとに目標値を決め、エネルギー源の転換を義務づけるーーなどを提案した。
 だが、これにフランスやポーランドなど10カ国以上が反発。各国が依存するエネルギーの内容が大きく違うためだった。
 フランスの場台、原子力ヘの依存率は04年で40%と、EU平均(14%)を大きく上回る。シラク大統領は、原子力も自然エネルギーと同様の「クリーンエネルギー」だと主張し、各国ことに自然エネルギー使用の目標値を定める場合、フランスの目標値は低減するよう求めた。原子力政策を推進するチェコ、スロバキアなどもこれに同調している。石炭への依存率が58%と高いポーランドも、自然エネルギーへの転換に消極的だった。
 これに対し、北欧の自然エネルギーの推進国や、ドイツ同様に原子力発電の廃止を決めたイタリア、アイルランドなどはドイツ案を支持。最終的に各国は同案で合意したが、エネルギー政策で欧州が「一枚岩」ではないことを見せつけた。

EU各国の各主要エネルギーへの依存度(%)
   再生可能は 風・水力など
  石炭 石油 ガス 原子
 力
再生
可能
EU全体   18   38  24   14   6
英国   16   35  39   9   1
ブルガリア   36   22  13   22   5
キプロス   2   94  −  −   4
ポーランド   58   24  13  −   5
フランス   5   33  14   40   6
ドイツ   25   36  23   12   4
フィンランド   20   28  10   16   24
ラトビア   1   30  29  −   36
イタリア   8   40  40  −   6
マルタ  −  100  −  −  −
スウェーデン   6   29   2   37   26
※04年 欧州委員会。一はO%かそれに近いもの