From: "Itaru YASUI" <yasui@hq.unu.edu>
Sent: Wednesday, February 21, 2007 2:52 PM
Subject: Re: またまた燃料電池の記事

光触媒で水素を得たい。これは、化学者すべての夢なのですが、当初、藤島教授、橋本教授などもその可能性を検討したのですが、結果的に、無理との結論。材質が変わって、量子効率が格段に改善されれば分かりませんが、それでも、同時発生する水素と酸素をどうやって分離するのか、水中に光をどうやって導入するのか、など、困難な点が多いと思います。

Itaru YASUI, 安井 至   
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水から水素を作るための光触媒の開発   東京理科大学 工藤昭彦
http://pfi.iis.u-tokyo.ac.jp/res03kd.pdf

 エネルギー・環境問題の観点から,クリーンで枯渇の問題がない水素エネルギーが注目されている。しかし,いかに水素を製造するかが大きな課題となっている。その1つの方法として,光触媒を用いた水の分解による水素製造が研究されてきた。この反応は,エネルギー・環境問題を解決する究極の化学反応であるといえる。また,人工光合成という観点から,学問的にも重要な反応である。この研究領域においては,太陽光に豊富に含まれる可視光を利用して働く光触媒系の開発が重要な課題となっている。この課題において,われわれは,可視光エネルギーを利用して水の完全分解反応(水から水素と酸素を2:1 で生成する反応)に活性を示す光触媒系の開発に成功した。さらに,可視光照射下で硫化水素のような余剰な硫黄系還元剤を含む水溶液から水素を効率良く生成する光触媒の開発にも成功した。この2件の新しい光触媒系について,以下に紹介する。

(1)可視光を用いた水の完全分解光触媒の開発
 われわれは,いままでに可視光照射下で水素や酸素生成に活性な光触媒材料を開発してきた。今回,これらのオリジナルな水素生成可能な光触媒と酸素生成が可能な光触媒を組み合わせることにより,水の可視光全分解に成功した。この光触媒系は,水素生成触媒としてロジウムをドーピングしたチタン酸ストロンチウム光触媒に白金を助触媒として担持したもの(Pt/SrTiO3:Rh),酸素生成触媒としてBiVO4,Bi2MoO6,WO3,鉄イオンをそれらの光触媒間の電子授受剤として用いることにより,二光子を使って電子を励起し,それによって生成した高い還元力を持つ電子と強い酸化力を持つ正孔との反応により,水を水素と酸素に分解するものである(Z スキーム,図1)。ここで,鉄イオンは,2価と3価に変化することにより,電子をリレーしている。

図1 可視光エネルギーを利用した水の完全分解に活性な新規光触媒系

 この光触媒系の開発の鍵となったのは,可視光照射下で高い水素生成活性を示すPt/SrTiO3:Rh の開発であった。従来,可視光照射下で水素生成に高い活性を示す安定な酸化物光触媒は見いだされていなかった。また,BiVO4, Bi2MoO6 等のオリジナルな酸素生成光触媒の開発も見逃せない。特に,BiVO4 は可視光利用範囲を520nm まで拡張している。太陽光シミュレーターを光源に用いても,水素と酸素の生成が確認された。現在,量子効率は0.4%と低いが,今後の改良次第では,効率の向上が期待できる。

(2)硫黄系還元剤を含む水溶液からの水素生成のための高活性光触媒の開発
 硫化水素などの還元性を示す余剰な硫黄系化合物を利用して水素を製造するプロセスの開発は,その有効利用という観点から意義がある。従来,白金を担持した硫化カドミウムが,この光触媒反応に高活性を示すことが知られていた。しかし,その毒性や利用できる波長範囲等の観点から,満足の行くものではなかった。われわれは,固溶体形成によるバンドエンジニアリングを駆使して,新たな可視光応答性光触媒の開発に取り組んできた。
 その結果,ZnS-AgInS2-CuInS2 固溶体光触媒にルテニウムを助触媒として担持したものが,可視光照射下で水素生成に高活性を示すことを見いだした。この光触媒のバンドギャップは2.0eV であり,620nm までの可視光を利用できる。太陽光シミュレーターを用いた実験では,3.1?/h・m2 の速度で定常的に水素が生成した(図2)。

図2 Ru/ZnS-AgInS2-CuInS2 固溶体光触媒を用いた疑似太陽光照射下での高効率水素生成反応