日本経済新聞 2008/10/29

アイスランド為替急落

 昨年、円建てで2567万円を借り入れマンションを購入したばかりのオーボエ奏者、マティアス・ナラディウさん(26)。自宅を訪ね、住宅ローンの明細書を見せてもらった。借入時の為替レートは、1円=約O.55クローナ。だが、金融危機で今月1日には1円=約1.04クローナに暴落。円べースでは毎月の返済額は同じだが、クローナの価値が下がったため、返済額は月額約6万クローナから同11万クローナヘと約8割も増えた。
 資源小国のアイスランドは、
15%を超す高金利政策を導入、世界各国から資金を集めた金融立国だった。国民は高成長を甘受する一方、銀行からお金を借りれば金利が年20%にも達するため、多くの市民は低金利の円やスイス・フランで借り入れ、住宅や車を購入していた。「外賃建て購入の割合は、住宅では2割、車だと5割を占める」(財務省高官)
 だが、為替が急落。ナラディウさんは、「これ以上、返済負担が増えれば、(給料の良い)他の楽団に移籍しなければならなくなる。クローナが強くなるのを祈るだけ」と唇をかんだ。
 事態は悪化の一途をたどる。25日には首都レイキャビクで市民2000人がデモに参加、首相や中央銀行総裁の辞任を求めた。27日には、国営化されたカウプシング銀行が発行した500億円のサムライ債(円建て外債)の利払いができずに不履行に陥った。
 国際通貨基金(IMF)は24日に、21億ドル(1980億円)の緊急融資に暫定合意したが、ハーデ首相は27日「さらに40億ドルが必要だ」と訴えている。

 


2008年10月12日 asahi

金融危機で冷戦状態に 英がアイスランド銀行の資産凍結

 米国発の金融危機で苦しむ英国とアイスランドの関係が急速に冷え込んでいる。アイスランド政府が、経営破綻した同国の 銀行に預けていた英国人や団体の預金を補償できないと表明したことに、英国側が反発。反テロ法を持ち出して、英国内にあるアイスランドの銀行の資産を凍結 に踏み切る対抗手段に訴えた。

 問題の発端は、アイスランド政府が7日、同国2位の大手ランズバンキ Landsbanki 銀行を政府管理下に置いたことだった。

 英国で営業しているネット銀行「アイスセーブ」など同行の子会社には、高い金利をあてこんで、アイスランドの人口に匹敵する約30万の英国人・団体が口座を設けていたが、アイスランド政府が口座を凍結。英国人も預金を引き出せなくなってしまった。

 英政府は自国民の預金保護をアイスランド側に要請したが、らちがあかず、ダーリング英財務相が「アイスランド政府は補償する気がない」と公言。英政府として「英国民の個人口座は全額補償する」と発表し、預金者の不安の火消しに追われた。

 ところがその後、口座を凍結されたアイスランド系の銀行には、英国の地方自治体やロンドン交通局など100以上の団体も約10億万ポンド(約1700億円)を預けていたことが発覚。野党などから、個人に限らず、すべての口座の保護を迫られている。

 腹の虫が治まらないブラウン英首相は「アイスランド政府はアイスランド国民だけでなく、英国までも裏切った」と激しい怒りをぶつけた。8日には、 9・11テロ後に成立した、国家に危機が迫っていると判断した時にテロリストらの銀行口座を緊急に凍結できる規定を盛り込んだ反テロ法を適用し、アイスラ ンドの銀行が英国内に持つ資産を凍結させてしまった。

 これに対してアイスランドのホルデ首相は「英国が我々をテロリスト扱いすることは不愉快だ」と反発している。

 財政が悪化したアイスランドは7日、ロシアに対して40億ユーロ(約5400億円)の支援を要請した。ロシアの元情報将校リトビネンコ氏殺害をめぐって 外交官を追放し合うなど、ロシアとの関係が悪化している英国には、ロシアに急接近するアイスランドへの感情的な思いもくすぶっているようだ。


日本経済新聞 2008年10月10日

アイスランド、最大手銀も政府管理下に

 金融危機に陥っているアイスランドは9日、国内銀行最大手のカウプシング Kaupthing 銀行を政府管理下に置いたと発表した。同様の措置を取っ た他の大手2行(Glitnir and Landsbanki) とあわせて、上位3行が政府管理下に移る異常事態となった。ロイター通信によるとの融資要請も選択 肢のひとつ」と語った。ハーデ首相は「国際通貨基金(IMF)へ

 相場混乱を受け、株式市場を運営するOMXノルディックは同国の全銘柄について9日と10日の株式取引を停止した。英国の金融監督当局はカウプシングの英国法人が保有する英国内の預金を保護する措置をとり、英預金業務をオランダのINGグループに移した。

 一方、国内銀行の預金保護を打ち出したアイルランド政府は、保護対象を同国に拠点を置く主要外国銀行に広げる方針を表明した。当初は自国銀行だけが対象だった。


2008年10月9日  読売新聞

金融危機のアイスランド、ロシアに借款要請…欧州諸国拒否で

 ロシアのクドリン副首相兼財務相は7日、金融危機に見舞われるアイスランド政府から借款の緊急要請を受け、前向きに対応する方針を示した。

 アイスランドはグルジア南オセチア自治州をめぐりロシアと対立を深める北大西洋条約機構(NATO)に加盟するが、欧州諸国に融資を拒否されて金策に窮しロシアにすがった形だ。

 インターファクス通信によると、クドリン副首相は「アイスランドは厳格な財政規律で知られ高い格付けを得ている。要請には前向きに応じる」と述べた。

 アイスランド中央銀行の発表によると、ロシアに要請している借款の額は40億ユーロ(約5400億円)という。

 ロシアも金融危機の影響で株式市場や通貨ルーブルが急落し、メドベージェフ政権は緊急対策を発動している。しかしエネルギー資源の高騰により国家財政にはなお余裕がある。

 人口30万人ほどのアイスランドとロシアの経済的な結びつきは強くないが、ロシアでは借款供与はNATO加盟国への影響力拡大につながるとの見方も出ている。


2008年10月7日

金融危機 アイスランド政府、全銀行を管理下へ

 アイスランド議会は6日深夜、同国の全銀行を政府管理下に置く法案を可決した。軒並み経営危機に陥った金融機関の緊急救済策だが、グローバル化で同国の金融機関は急速に肥大している。国が支えきれるか、懸念も強い。

 レイキャビクからの報道によると、この立法措置で政府は銀行を事実上国有化し、役員を更迭したり合併させたりできる。また、銀行の持つ住宅ローンも公的機関が引き取る。

 同国の通貨は米金融危機の始まりから対ユーロで4割以上も下落。このためカウプシング、ランズバンキなどの主要行が次々と破綻(はたん)の危機に直面している。

 この日、ハーデ首相は議会での審議前に異例のテレビ演説を行い、「国家破産の危機にある」「米国の場合、銀行救済策は巨額でも国民総生産(GNP)の5%弱。だが、わが国の銀行の経済的重みはGNPの数倍になる」などと悲痛な調子で国民に理解と覚悟を求めた。


日本経済新聞 2008/10/15

アイスランド危機 欧州に異例の対応促す? 金融業急拡大のツケ

 深刻な金融危機に陥ったアイスランド政府が事態打開に向けた対応を急いでいる。14日には政府や中銀の関係者がモスクワを訪れ、ロシア政府から40億ユーロ(約5600億円)の融資を受ける交渉に入った。ロイター通信によると交渉は16日まで続く見通し。
 アイスランドがロシアに"駆け込む"のは、他の欧州主要国が自国の金融救済に忙殺され、余裕がないためだ。最近までの資源高を背景に巨額の外貨準備を持つロシアにすがるほかなくなったとみられる。アイスランドのハーデ首相はロシアを「新たな友人」と表現した。一方、アイスランド中銀は14日、5月に締結した通貨交換協定を活用、デンマークとノルウェーの中銀から計4億ユーロを調達した。
 ただ、市場の信頼は回復していない。アイスランドの証券取引所は14日、4営業日ぶりに再開したが、株価指数は約8割下落して取引が始まった。通貨アイスランド・クローナの相場をユーロに固定する政策は1日で断念。政府は国際通貨基金(IMF)への支援要請も視野に入れている。
 同国で危機が一気に深刻化したのは、短期間で金融業を急拡大させた政策のツケが世界的な信用収縮で一気に回ったからだ。規制緩和による金融立国を目指した同国では海外からの資金調達で銀行業が肥大化。国有化された大手銀のカウプシング、ランズバンキ、グリトニルの総資産は2004年末から07年末までの3年でそれぞれ3−4倍程度に膨張。総資産は約1800億ドルと、3行で国内総生産(GDP)の9倍に達した。
 各行は資金を国外の金融業や流通業などに積極的に投融資したが、ここにきて世界の投資マネーが高リスク投資から一斉に流出。資金調達に行き詰まった。
 同国のGDPは英国の1%に満たないうえ、人口は30万人強にすぎず、金融大国の英国やスイスなどと単純比較はできない。ただ小国が多い欧州では国力に比べ金融機関の巨大化が進んだ国も多く「アイスランド危機の進行が欧州主要国に公的資金を活用した異例の金融救済策に走らせた」との見方も出ている。


asahi 2008/10/15

アイスランドへの融資なぜ? ロシアの皮算用、諸説

 主要国内銀行を国有化するなど金融危機が深まるアイスランドに対し、ロシアが約40億ユーロ(約5600億円)の緊急融資に乗り出す構えだ。アイスランド代表団が14日にモスクワ入りし、詳細を詰める交渉を始めた。ソ連崩壊後、ロシアが西側の国を直接財政支援するのは初めてとされる。狙いは何なのか、様々な憶測を呼んでいる。

 北極圏に接するアイスランドは欧州連合(EU)には非加盟だが、北大西洋条約機構(NATO)の一員。英国などと関係が深い。しかし、欧州各国は自国の金融危機対応に追われ、アイスランドに手を差し伸べる国はなかった。

 アイスランドがロシアに支援要請したとのニュースが流れた7日以降、ロシアメディアは取材クルーをアイスランドに派遣し、現地のクローナ紙幣にプーチン首相の顔をはめ込んだパロディーのお札が登場した話題を伝えるなど、高い関心を示している。ソ連崩壊後の経済混乱で債務国に陥ったロシアが、油価高騰とともに経済力を回復した証しでもあり、自尊心をくすぐられる国民も多いようだ。

 リスクを伴う融資にロシアはなぜ前向きなのか。諸説がメディアをにぎわせている。

 (1)イメージ戦略 財政力を誇示でき、新しい国際金融秩序にロシアの参加が必要だと示せる。8月のグルジアとの軍事衝突で対立を深めた欧米に、緊密な協力の用意があるとのサインともなる。

 (2)自国民救済 高い金利と優遇税制で知られるアイスランドの銀行には、
多くのロシア人富裕層が預金しているため、銀行を破綻させられない。他国に融資することで、ロシアの金融危機はそれほどでもないと国民に思わせ、不安を払拭(ふっしょく)もできる。

 (3)NATO切り崩し グルジアやウクライナのNATO加盟を阻止したいロシア。49年から加盟国のアイスランドを味方につければ、NATO拡大への牽制を期待できる。

 (4)北極資源 天然資源を狙って北極争奪に乗り出したロシアは、北極大陸棚の境界論争でアイスランドの支持を得ることが期待できる。

 (5)アルミニウム クレムリンにも近い「アルミ王」のロシア富豪が、アルミ生産国でもあるアイスランドに工場進出を計画。欧州にも米国にも運搬に便利なこの計画への側面支援になる――。

 融資額の40億ユーロはロシアの外貨準備高の1%程度だが、人口30万人のアイスランドにとっては国内総生産(GDP)の4分の1に相当する。貸付金利を低くしても、ロシアの費用対効果は大きい。経済紙・RBCデイリーは「ロシアの軍事基地はなくとも、アイスランドは戦略的な重要地点だ」と指摘している。