毎日新聞 2006/9/14

CO2地中貯留:削減の切り札だが、環境への影響は不透明

 温室効果ガスの二酸化炭素(CO2)を海底などの地中に封じ込める−−。環境省は温暖化対策の一環として、この貯留技術(CCS)導入に向けた検討を始めた。CO2を大幅に削減する切り札と期待される一方、海中に漏れ出すことによる環境悪化を懸念する声があるほか、省エネという地道な努力を後退させる恐れも指摘されている。

 ◆温暖化防止に期待…世界で2兆トン可能

 「ものすごい技術ということだが、省エネなど通常の温暖化対策なんてどうでもいいとならないか」「コストなど、マイナス面も十分検討しなければならないだろう」

 13日、環境省で開かれた中央環境審議会地球環境部会。同省側がCO2貯留について説明すると、委員から発言が続いた。膨大な量のCO2を封じ込めることができるとも説明されると、ある委員からは「どうとらえていいかなあ」と困惑の声も漏れた。

 「ものすごい」と評された貯留のシステムはこうだ。CO2を大量に排出する火力発電所や天然ガスのプラントなどに、特殊な装置を併設してCO2を分離する。それをパイプラインやタンカーで投棄地点まで運び、高い圧力をかけて油田やガス田の跡や、岩石と水分が混ざった「帯水層」に押し込む。上部には「不透水層」という水分を通さない地層の場所を選ぶため、それが「岩盤のふた(キャップロック)」の役割をして漏れないようになっている。

 この技術が注目されるのは、場所が豊富にあるからだ。

 昨年暮れの京都議定書第1回締約国会議に提出された国連の「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)特別報告書によると、世界で少なくとも2兆トンを貯留できる可能性が高い。今の世界の排出量(年間約240億トン)の約70〜80年分にも相当し、一部のNGO(非政府組織)関係者も「これなしに、温暖化防止は達成できない」と話すほどだ。

 経済産業省によると、国内でも推定約52億〜1500億トンの貯留能力がある。ちなみに04年度の国内排出量は約13億5500万トンだ。

 一方、地球温暖化防止を目的とした京都議定書は、加盟各国にCO2削減を義務付けているが、現在は「貯留」についてあまり考慮されていない。国際的に削減した量として認めるよう求める意見が強まっており、容認の流れが作られつつある。

 ◆漏れ出る懸念

 懸念されるのは、閉じ込めたCO2が、漏れ出ないのかという点だ。

 IPCC報告書は「適切に場所が選定され、管理された地中にCO2が100年後に99%以上とどまる確率は90〜99%」とし、「漏れゼロ」とは予測していない。漏えい率1%でも貯留量2兆トンなら200億トンも漏れることになる。東北大の石井敦助教授(科学技術社会学)は「100年後にどれだけ漏れるかは誰にもわからない」と指摘する。

 小池百合子環境相が中環審に諮問したのは海底下地層への投棄の是非だが、石井さんは「深海底の生態系そのものがよく分かっていない。仮に漏れ出た場合、酸性物質のCO2が溶け込むことによる海水の酸性化や、海中のCO2濃度の増加が重大な環境影響をもたらす懸念もある」と述べ、リスク評価の困難さも指摘する。

 日本で候補地を探す場合は、地震との関係も心配だ。新潟県内で進められている実証試験では、04年10月の中越地震後も漏れなどの問題はなかったが、本格導入の際には場所選びに慎重さが求められる。

 ◆コストも膨大…「省エネが王道」の声

 膨大なコストも問題だ。貯留実現のためには、関連施設の建設費に加え、輸送費などがかかる。経産省によれば、こうした費用を考慮すると、コストはCO21トンあたり5000〜1万数千円と予測され、場合によっては海外の7倍近い。普及のために、同省は「1トンあたり3000円程度まで下げる必要がある」と指摘する。

 また貯留へ多額の資金を投入すれば、本来は省エネ対策などに回るべき資金が減る心配もある。世界自然保護基金(WWF)ジャパンの鮎川ゆりかさんは「省エネ対策や、自然エネルギー利用が温暖化対策の王道であることは変わらない。CO2貯留は、温暖化を防ぐための、対策全体の一部と考えるべきだ」と主張する。

 貯留には利点もある。石油や天然ガスの産出量が減ってきた油田では、CO2を押し込んで石油を噴出させる技術が開発されている。特に米国は最も熱心な国の一つだ。国内に油田やガス田、石炭層など貯留可能な広大な地層を抱え、CO2輸送パイプラインなども整備されており、低コストで実施可能なためだ。「京都議定書上も、貯留分が削減した量として認められ、さらに削減分を権利として他国に売却できる『排出権取引』の対象となれば、米国は議定書に参加するのではないか」。温暖化対策の関係者からは期待も出ている。


(財)地球環境産業技術研究機構(RITE)

CO2地中貯留プロジェクト
 
http://www.rite.or.jp/Japanese/project/tityu/tityu.html

【CO2地中貯留の概念】

CO2地中貯留の方法としては安全性や技術面および処理可能量の面から地中帯水層への貯留が有望視されている。帯水層とは地層を構成する粒子間の空隙が大きく、地下水のキャップロックに覆われた構造(トラップ)をもつ構造性帯水層とトラップをもたない非構造性の帯水層に分類される。本プロジェクトでは深度1100m程度に分布する不透水性キャップロックを伴う構造性帯水層への小規模CO2圧入実証試験を計画している。 


日本経済新聞 2008/2/22

発電所で発生するCO2 欧州、地中封入相次ぐ
 仏トタル 施設を改造し試験
 独エーオン 回収プラント建設

 欧州の大手エネルギー会社が発電所で発生する二酸化炭素(CO2)を地中に封じ込める計画を相次ぎ打ち出した。仏石油大手のトタルは年内に仏南部の発電所を改造し、C02を地下深くに注入する試験を始める。独電力大手のエーオンやRWEも近く同様のC02 注入施設を建設する。先進国は1月から京都議定書の約束期間に入り、排出規制を強化している。各社はCO2の地中貯留で対応するとともに、将来は貯留を通じ排出権獲得を狙う。
 高圧ポンプを使って地下深くに送り込んだC02は、微小な穴がたくさん開いている地下の岩石に浸透。その際、C02が岩石の成分と化学反応で一体化し、半永久的に地下にとじ込められる。地表に噴き出てくる恐れはないという。封じ込めに適した地層は仏独のほかポーランドなど欧州各国で確認されている。
 トタルはこの原理を応用し、火力発電所で発生するCO2を約2キロ離れた立て坑までパイプラインで運び、地下約4.5キロの地層に年間15万トンのC02を送り込む計画だ。自動車に換算すると5万台分の排出量に相当。ジャン・ミシェル・ジル環境部長は「脱炭素社会に向けた世界初の挑戦になる」と話す。
 RWEは独北部に2014年をメドに新設する出力400メガワットの発電施設で発生する年間約220万トンのC02を地中に注入する。現在、候補地の地層の調査などを進めており、年内に立地先を決める。投資額は10億ユーロ(約1580億円)を見込む。
 エーオンはスウェーデン南部のカールスハムに新たな発電施設を建設。同施設では排ガスに含まれるCO2の約9割を冷却アンモニアを使って集め、年間約1万5千トンを地下に送って封じ込める計画だ。
 石炭など化石燃料を燃やして発電する火力発電所では大量のCO2が発生し、温暖化の主要因となっている。地中への注入は革新的な温暖化対策として期待が大きい。
 ただC02の回収・貯留はコストがかさむため日本の電力会社はまだ本格的には取り組んでいない。排出権取引制度が導入されている欧州では将来、CO2を地中に注入すれば市場でCO2排拙権を売却できる可能性があり、各社が実施を急ぐ動機になっている。