日本経済新聞 2003/7/27

りそな、日刊工業新聞とダイア建設支援を再生機構に要請へ
  
 経営不振に陥っている経済専門紙の日刊工業新聞社(東京・千代田、千野俊猛社長)再建のため、主力取引銀行であるりそな銀行が産業再生機構への支援要請で最終調整に入ったことが26日明らかになった。債務の株式化を軸に最大50億円の金融支援を実施する方針。りそな銀はマンション専業大手、ダイア建設でも850億円規模の金融支援と普通株減資を実施し、再生機構に支援要請したい考えだ。


日本経済新聞 2003/9/30

日刊工業新聞 再生ファンドが支援 りそな、債務を株式化

 経営不振に陥っている経済専門紙の日刊工業新聞社(東京・千代田、千野俊猛社長)は30日、企業再生・投資ファンドのMKSパートナーズ(東京・千代田)から再建へ向けた支援を受けると発表した。MKSは日刊工業のメーンバンクのりそな銀行などと共同で、今後支援形態について詰める。
 りそな銀は年内にも日刊工業の債務の株式化(DES)を実施し、他の取引金融機関である商工組合中央金庫、中小企業金融公庫を含め金融、業務面での総合的な支援体制を組む。DESの総額は検討中。


日本経済新聞 2003/8/29

産業再生機構が3社決定 支援第一陣3年内再建へ

 
産業再生機構(斉藤惇社長)は28日、産業再生委員会(高木新二郎委員長)を開き、経営再建を支援する第一陣企業3社を正式に決めた。熊本県のバス会社、九州産業交通とマンション分譲大手のダイア建設、福島県郡山市のうすい百貨店の3社。それぞれ主力銀行と協力しながら3年以内の再建を目指す。産業と金融の一体再生に向けた官民挙げた取り組みが動き出す。
 谷垣禎一産業再生担当相は記者会見で「多くの案件の再生を通じて日本経済の再生につなげたい」と述べた。9月1日にも再度、再生委員会を開き、
三井鉱山などの支援を決定する見通しだ。
 九州産交はバス事業低迷などで今年3月期決算で実質債務超過に陥った。再生委は「優良な経営資源を基礎に改善すれば再生できる」と判断。十数億円の増資引き受けなどで支援する方針だ。
 うすい百貨店は仮に破たんした場合、「地元住民に与える影響が極めて大きい」と判断した。
 ダイア建設は、主力のりそな銀行などが1300億円の金融支援に応じる方針のほか、賃貸アパート大手のレオパレス21が4割程度出資する方向も固まっており、再生委は「再建に不可欠な要素は整った」と判断した。
 支援決定を受け、再生機構は3社の非主力銀行と債権の買い取り交渉に入る。機構が提示する債権の買い取り価格が低ければ、非主力行は損失を恐れて売却を渋る可能性がある。3カ月たっても非主力行の一部が売却に応じないなど再建計画に同意しなければ、支援決定を撤回する。その場合は対象企業が法的整理などに移る可能性がある。
 非主力行と買い取りで合意すれば、機構は主力行と提携して企業支援を始める。普通株購入や債務を株式に転換する「デット・エクイティ・スワップ」などで財務を改善。監視役となる新たな経営者も送り込む。再建計画の期限は原則3年。対象企業が経営再建に成功すれば、非主力行から買い取った債権を企業再生ファンドなどに売却する。

産業再生機構の支援先企業

会社名 事業の内容 主力銀行
▽28日に決定
九州産業交通 熊本県最大のバス会社、トラック運輸も みずほ
ダイア建設 マンション分譲大手。東証2部上場 りそな
うすい百貨店 1662年創業。福島県郡山市の百貨店 秋田
▽9月1日に決定予定
三井鉱山 石炭など燃料販売会社。炭鉱は閉鎖 三井住友

 

産業再生委員会

▽…産業再生機構の中に設置された委員会で、機構が支援する企業を決定する。委員長は弁護士の高木新二郎氏で、他に6人の委員で構成。主力銀行と不振企業から機構に対して正式な支援の申し込みがあった場合、直ちに開催する。再建計画を審査し、過半数の委員が妥当と判断すれば機構による支援を認める。
▽…機構が非主力銀行から債権を買い取る際の価格決定権も握っている。銀行側は高値での債権買い取りを求めるとみられるため、委員会がどのような基準で価格を決めるのかに注目が集まっている。

産業再生委員
・高木新二郎氏(弁護士)
・斉藤惇氏(産業再生機構社長)
・三木利夫氏(元新日鉄副社長)
・翁百合氏(日本総研主席研究員)
・奥山章雄氏(日本公認会計士協会会長)
・田作朋雄氏(外資系コンサルタント会社役員)
・松田京司氏(預金保険機構理事)


官製再生ファンド始動
  「国の機関だ」 啖呵切った斎藤社長
  霞ヶ関の壁   経産省折れ潮目変化

 金融と産業の一体再生を目指す産業再生機構がようやく動き始めた。28日に決めた第一陣の企業支援では、資本参加による子会社化など民間ファンドの手法を使った経営への積極介入の姿勢が目立つ。ただ、第一陣企業には大型案件は入らず決定基準もあいまい。産業再生という大目標を達成できるかどうかは未知数だ。

 「支援企業の第一陣決定は8月28日。作業を急いでほしい」。2週間前の14日午後、東京・丸の内の再生機構に、みずほ銀行、三井住友銀行、りそな銀行の担当者が呼ばれた。みずほ銀は九州産業交通、三井住友銀は三井鉱山、りそな銀はダイア建設を本命銘柄としていたが、実はその時点では、それぞれ未解決の問題を抱えていた。
 九州産交は7月11日に「機構への支援要請」を初めて表明した。地元・熊本で信用不安説が広がり、資金繰り倒産寸前に追い込まれたため、みずほ銀の支援とともに機構の名を借り、混乱収拾をねらったのだ。この時、機構は8月中に支援を決め、9月3日に債権者に計画を説明する日程を固めたが、難題がひとつ残っていた。国土交通省系の財団法人、民間都市開発推進機構が九州産交向けの債権放棄に難色を示していたためだ。
 民都機構の債権は約75億円で、九州産交グループ債務の1割を占める。「民都機構の支援抜きに再生計画は描けない」というのが関係者の共通認識だったが、国交省は8月に入ってもかたくなな姿勢を貫いていた。
 三井鉱山も経済産業省系の特殊法人、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の債権放棄問題を抱えていた。NEDOの三井鉱山グループ向け債権は600億円規模に上り、九州産交の民都機構の比ではなかった。
 「我々は国の機関。政府や裁判所との調整など民間だけではできない役割を果たせる」。5月15日、全国銀行協会を訪ねた斉藤惇再生機構社長は大手銀行頭取らを前に、啖呵を切った。銀行が政府系機関の絡んだ案件を機構に持ち込んだのは、その「調整力」を期待したためだ。だが、その道は平たんではなかった。
 「財政法上、財政資金の放棄は認められない」
 「産業再生機構法で政府系機関も債務免除など必要な協力をすることになっている」
 「安易な救済につながらないか」
 財務省など関係省庁は機構の要請に首を縦に振らなかった。予想以上の財政の壁の厚さに機構からは「民間で何とかできないか」といった弱音も漏れ始めた。
 潮目が変わったのは8月。経産省がNEDOの三井鉱山向け債権の放棄に柔軟姿勢を示し始めたのだ。「戦後の石炭産業を担い、雇用維持など公的側面を無視できない」(経産省幹部)
 それでも本当に再生ができるのか、経産省は機構にその確約を迫った。機構が約100億円を出資し三井鉱山を子会社化する計画がまとまったのはつい最近のごとだ。九州産交も、機構が経営に責任を持つことで、財務省がようやく予算措置に前向きになった。
 ダイア建設はスポンサー探しが焦点だった。三井鉱山や九州産交のように地域安定、公共性という大義名分がなく、機構の子会社にしにくい。
 今回支援を決めたレオパレス21の名は今春、ダイア建設がりそな銀に金融支援を求めた時点で浮上、ひそかにりそな銀幹部らが資本提携の根回しに動いていた。だが、業界の優良企業のレオパレスはダイア建設支援に当初、二の足を踏んだ。
 結局、りそな銀が金融支援額を当初の850億円から1300億円に上積みすることで協力をとりつけた。りそな銀がこれだけの負担をできるようになったのは、同行に2兆円の公的資金の注入を受け余裕が出てきたという事情もある。
 三越の支援を受けるうすい百貨店の場合も、昨年夏時点で三越に支援を打診した際にいったん断られた経緯がある。今回は機構の支援を追加して仕切り直しした格好だ。

 

再建に民間流2方式
  九州産交・三井鉱山 子会社化へ
  ダイヤ建・うすい百 スポンサー型

 「官製企業再生ファンド」ーー。第一陣の企業支援から浮かび上がるのは、新経営陣の派遣や資本参加など最近急成長している民間の再生ファンドの手法を取り入れる機構の姿だ。
 機構の企業再生の手法は大別して2つだ。第1は機構が自ら支援対象企業の株式を50%以上取得、子会社化する方法だ。経営陣派遣や事業展開など経営全般に主導権を握れるのが利点だ。
 今回支援を決めた九州産交や、9月1日に支援を決める三井鉱山はいずれもこの方式。機構が債権を持つよりは、株式を持ったほうが、再建に成功した際に株式値上がり益で得られる利益は大きくなる。機構が5年後に解散する時点で、損失が出ると国民負担になるので「株式値上がり益があれば国民負相を避けられる」(機構の幹部)との思惑もある。
 再建支援の第2の手法は、外部のスポンサー企業を見つけ出す方式だ。機構が直接経営したり経営陣を派遣したりせずスポンサー企業から人材や資金を提供してもらう。
 支援第一陣3社のうち2社はこの方式だ。ダイア建設はレオパレス21に出資を仰ぎ、最終的な出資比率は4割程度にする方向だ。うすい百貨店は、すでに業務提携していた三越が機構や銀行と共同で資本参加を含めた支援を強化。要請に応じて社長も送り込む見通しだ。いずれも、スポンサーが支援企業の経営にかかわり、再生機構とともに再建を支援していく。
 しっかりしたスポンサー企業がつけば、営業協力や事業再編など選択肢が広がる。例えば賃貸アパート建設で多くの地主と取引のあるレオパレスが、マンション建設に適した土地の情報をダイア建設に提供するなどの協力が可能になる。
 だが簡単に不振企業を支援する企業はいない。機構が確かな再生の道筋を描いてスポンサー企業を説得できるかどうかがこの方式のカギになる。
 機構はようやく第一陣の発表にこぎつけたが、いずれも「産業再生」というには小粒の印象は否めない。当初の設立目標の金融と産業の一体再生を実現するには、金融システムに影響の大きい大型企業案件の発掘が今後の課題になりそうだ。


再生機構支援対象企業のプロフィル

  九州産業交通(熊本)
(従業員約1100人)
ダイア建設(東京)
(同640人)
うすい百貨店(郡山)
(同355人)
三井鉱山(東京)
(同約2600人)
業績 売上高  217億円
最終赤字  26億円
(2003年3月期単独)
1045億円
 887億円
(2003年3月期連結)
168億円
  8億円
(2003年7月期単独)
2361億円
 525億円
(2003年3月期連結)
の業
理績
由悪
  化
バブル期の過剰投資
やバス旅客数の減少
で財務が悪化
バブル期に仕込んだ
ビル事業用地への過
大投資が裏目に
消費不況で高級路線
が裏目に。150億円超
の有利子負債が重荷
子会杜が保有する炭
鉱関連跡地の評価損
などで債務超過



必要に応じ減資を実
施。債務の株式化な
どで再生機構が5割
超の株式取得。会長、
社長らは退任
99%減資を実施。り
そな銀行などに計
1327億円の金融支援
を要請。役員5人中
4人が退任
100%減資を実施。
再生機構や三越など
に1億円の第三者割
当増資。社長は代表
権を返上し会長に
90%程度の減資を実
施。再生機構が5割
超の株式取得。NE
DOなどが総額1700
億円程度の債権放棄

(注)うすい百貨店の業績は見込み


日本経済新聞 2003/9/2 

三井鉱山支援を再生機構が決定 子会社化

 産業再生機構は1日、産業再生委員会を開き、三井鉱山の再建を支援することを正式に決めた。三井鉱山が減資したうえ、再生機構が増資を引き受けて株式の過半を取得、子会社化して再建を進める。三井鉱山は全役員が退陣する。同機構による再生支援先は8月28日に公表したダイア建設などに続いて4社目。
 三井鉱山は本業の石炭事業が低迷し今年3月期に債務超過に陥り、主力銀行の三井住友銀行が再生機構に再建の支援を求めていた。再生委は「債務負担を解放して中核事業に集約すれば再生できる」と判断した。
 再生委員会の高木新二郎委員長は記者会見で「三井鉱山は石炭の安定供給確保による国のエネルギー政策への寄与という見地から再生する意味が十分にある」と語った。
 三井鉱山の再建にあたっては、同社の連結有利子負債約2300億円のうち1100億円超を三井住友銀行などが免除(銀行にとっては債権放棄)。経済産業省系の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)も子会社向けを含め500億円超の債権放棄に応じる。

実質国有化で再建推進 
 国民負担発生も 産業再生 力不足


 産業再生機構が私企業の子会社化という手法を使って三井鉱山の再建に乗り出した。同社株の過半を取得、実質的な「国有化」によって再建を進める。ただ再建がうまくいかなければ機構が株式の含み損を抱え、最終的に国民負担が生じる恐れもある。特定企業の再建を産業や日本経済の再生にどうつなげるかも不透明。「再生の可能性」を見極めつつ業界再編などに結びつく案件を探すことが今後の課題になりそうだ。
 三井鉱山は官民合わせて1700億円を超す大幅な債権放棄を受けるだけでなく、再生機構が非主力銀行などから買い取った債権(企業にとっては債務)を株式化する「デット・エクイティ・スワップ」などによって170億円の株式を取得して子会社化する。
 三井鉱山の再生支援を発表した記者会見で、再生機構の冨山和彦最高執行責任者(COO)は「機構が株式を取得して再生を進める方が合理的と判断した」と述べた。
 再生機構のある幹部は「三井鉱山が上場企業再建のモデルケースになる」と指摘する。機構が支援を検討する企業には三井鉱山のように多額の負債を抱えながら、新たなスポンサー企業も見つからない場合が少なくない。
 こうした企業の再建は大幅な債権カットだけでは難しく、機構が経営権を手に入れて徹底した企業改革を進める必要があるという。
 ただ子会社化は、債権を買い取るだけの揚合に比べ、機構が損失を被るリスクは格段に増す。三井鉱山のケースでは、再建が狙い通りに進まず収益が改善しなければ、同社の株価が機構の取得価格より下がる可能性もあるからだ。
 再生機構は、再生支援から手を引く3年後には他のスポンサー企業などをみつけて株式を売却しなければならない。
 今後も子会社化という手法を多用すれば、支援先の株式を太量に保有することになり、機構の抱えるリスクは拡大していく。
 再生機構が解散する5年後に損失が残っていれば、金融機関と国が分担するのが原則だ。国民負担を最小限にするには、公益性を確保しながら「再生の可能性が高い企業をいかに選ぶかにかかっている」(第一生命経済研究所の熊野英生主任研究員)といえる。
 三井鉱山の再生支援は、再生機構の目的の一つである「過剰供給構造の解消」には力不足との指摘もある。石炭業界ではすでに多くの企業が撤退し、過剰供給は解決しつつある。機構は銀行の抱える不良債権の大半を占める流通、ゼネコン(総合建設会社)といった業界の再編に切り込む必要がありそうだ。

三井鉱長社長「全役員が退任」

 産業再生機構による支援が決まった三井鉱山の西野脩司社長は1日、東京証券取引所で記者会見し「鉱害復旧やじん肺問題など石炭採掘の負の遺産を自分たちで処理しようとしたが及ばなかった。関係各位に負担をお願いすることになり、誠に申し訳ない」と述べた。
 経営責任については「再生機構の債権買い取り決定後、私を含め取締役全員(10人)が退任する。退職慰労金は放棄する」と述べた。後任人事は未定だが、経営陣は再生機構からの派遣や外部からの招へいを検討するとしている。
 事業の再構築計画によると、石炭輸入などのエネルギー関連と機器販売を中核事業を位置づけ、セメント事業など低収益事業からは撤退する。連結べースで2600人いる従業員については「思い切って減らさざるを得ない」としたが、具体的な人数は明言を避けた。
 三井鉱山は閉山した三池炭鉱(福岡県大牟田市)の操業子会社を抱える資源会社で、石炭・石油の輸入のほか、環境装置の販売やレジャー施設の運営など事業を多角化している。2003年3月期の連結業績は売上高2362億円、最終損益は526億円の赤字で、353億円の債務超過だった。

 三井住友銀行は1日、産業再生機構による三井鉱山の支援決定について「主力取引銀行として支援していく」とのコメントを発表した。約525億円の金融支援を実施するが、2004年3月期の業績予想の変更はないとしている。

 


産業再生機構 企業再建まとめ役(Q&A)

        http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/special/47/naruhodo009.htm

◆主力行と二人三脚 “軽傷債権”買い取り
 政府は
2003年1月28日の閣議で、金融機関から不良債権を買い取って企業の再生を目指す「産業再生機構」を設置するための法案を決定した。政府が「金融と産業の一体再生へのテコにしたい」(谷垣産業再生相)と期待する再生機構とはどんな組織なのか。Q&A方式でまとめた。(矢田 俊彦)

 Q 再生機構はどんなことをする機関なのか。

 A 不良債権に区分された金融機関の融資先企業でも、借金の負担を軽くしたり、リストラや再編などによって、再建が可能なところもある。再生機構は、
再建可能な企業向けの不良債権を、主に主力銀行以外から買い取って主力銀行といっしょになって企業再建を目指す機関だ。銀行が不良債権処理を加速させるためには、企業の再生も不可欠との判断から昨秋に構想が生まれた。

 Q どんな債権の買い取りを想定しているのか。

 A 再生機構は、返済に遅れなどがある「要管理債権」に区分された大企業向けの債権を中心に買い取る方針だ。不良債権の中でも“軽傷”な「要管理」には、再生可能な企業も多く含まれているとみている。

 Q 買い取る債権を主に非主力銀行のものにしたのは、なぜ。

 A 一般的に、主力銀行は融資先企業の財務状況などの情報を豊富に持っている。再建計画も主力銀行が描くケースが多く、再生機構は、
主力銀行と協力することで再建の可能性が高まると判断している。

 Q 組織の概要は。

 A 政府は、3月末までに法案を成立させ、5月ごろの設立を目指している。民間金融機関なども出資する株式会社で、トップも民間人から登用する方針だが、役員の選任には政府の認可が必要になるなど公的な性格を持っている。債権の買い取り資金は、政府保証付きで10兆円分を用意した。存続期間は原則5年間だ。

 Q 民間には任せられないのか。

 A 企業は一般的に、複数の銀行から融資を受けている。このため、ある銀行が再建可能と判断しても、銀行間の意見が食い違って調整が進まないケースも多い。こうした場合に、公的な性格を持つ再生機構は、中立的な立場で調整できるメリットがある。また、複数の銀行の債権を再生機構に集約することで、債権者の数が減り、迅速な意思決定ができるようになる。

 Q メリットはそれだけか。

 A 再建の過程で、再生機構が融資を行ったり、政府系金融機関にも債権放棄(借金の棒引き)を要請することなどを検討している。

 Q 再生機構が支援するか否かの決定はだれがするのか。

 A 銀行と、その融資先企業の支援要請を受け、再生機構内に設置する「産業再生委員会」が、企業の再建計画の妥当性をみて判断することになる。再生委員会は、再生機構の社長のほか、弁護士や公認会計士ら7人で構成する見通しだ。

 Q 判断基準はあるのか。

 A 
3か年の再建計画の終了時に達成すべき、生産性の向上指数などの数値基準を設けた。しかし、「最後はケース・バイ・ケース」(谷垣産業再生相)と柔軟な姿勢で検討する方針を示している。

 Q 企業の安易な延命に手を貸す恐れはないか。

 A 支援するかどうか判断する際に、業界を所管する大臣が再生可能性についての意見を述べるという形で関与することになる。専門的立場から助言を行うためだが、政治介入の余地を残した。一方で、再生機構の活用が予想されるゼネコン業界を所管する国土交通省は、再生機構の債権買い取り条件に独自の厳しい基準を加え、「ゼネコン救済」批判に配慮している。

 Q 問題点は。

 A 最大の問題は、買い取り価格だ。法案には「再生計画を勘案した適正な時価」とだけ決められている。政府は、米国流の「割引現在価値(DCF)」方式を採用し、整理回収機構(RCC)の不良債権買い取り価格より高めの買い取り価格を設定し銀行に売却を促したい考えだ。しかし、高値買い取りによって、
5年後の再生機構の解散時に損失が生じた場合は、国民負担で穴埋めすることになる。価格の設定が大きな課題となってくる。


日本経済新聞 2003/9/26

再生機構 支援2陣は2社 マツヤデンキと明成商会

 産業再生機構は26日開く産業再生委員会で、家電量販店大手で大阪証券取引所一部上場のマツヤデンキと中堅化学商社の明成商会(大阪市)の再建支援を決定する方針だ。再生機構による再生案件の第二陣となる。
 マツヤデンキは自主再建を断念し25日、大阪地裁に民事再生法の適用を申請した。同社への支援は、再生機構が法的整理後の企業を支援する初のケースになる。
 再生機構は9月初旬までにダイア建設、三井鉱山など4社の再生支援を第一陣として決定。第二陣を合わせ、6社の再生支援を進める。マツヤデンキ再生では法的整理の決定に合わせて支援を打ち出し、取引先の動揺などで事業価値が落ちるのを防ぐことをねらう。
 マツヤデンキは関西中心に直営店を106店、フランチャイズチェーン(FC)店を全国で約200店展開。2002年3月期に連結最終赤字に転落したが、2003年3月期はリストラで約2億円の最終黒字を確保した。しかし今期は冷夏で主力の夏物家電が振るわず業績回復が遅れていた。
 このため主力のりそなグループは単独での支援は困難と判断。再生機構に支援を求めた。マツヤデンキの負債総額は661億円。子会社の北海道マツヤデンキも同時に大阪地裁に民事再生法の適用を申請した。
 一方、明成商会は化成品や工業薬品などを扱う化学専門商社で、2003年3月期の売上高は約540億円。景気低迷などによる慢性的な売り上げ不振に陥っていた。これまで主力である三井住友銀行から役員派遣を受けるなど経営再建を進めてきたが、自主再建は困難と判断して、再生機構に支援を要請した。
 再生機構は、26日開く再生委員会で支援が正式に決まれば、マツヤデンキと明成商会向けの貸出債権を非主力銀行から買い取るなど再生支援を本格的に始める。また、マツヤデンキでは債権買い取りと並行して、スポンサー探しにも取り組むとみられる。
 再生機構は今春業務を開始。機構が解散する2008年春までに100社程度の再生案件を手掛けることを目標にしている。法的整理を受けた企業に再生支援の手を広げることで、扱う企業案件の幅を広げて案件数を増やすことをねらっている。

再生機構 企業再建、手法を多様化
 マツヤデンキ 破たん後で迅速に

 産業再生機構が再建手法の多様化に乗り出した。民事再生法など法的整理を申請した企業の再生を支援する。債権者関係の調整を容易にしたうえ、不振企業向けの貸出債権の買い取りを迅速にするのが狙いだ。再生支援企業のスピードアップを図る。
 26日に再生支援を決めるマツヤデンキ案件は、同社が民事再生法を申請した後に、産業再生委員会を開いて、正式に再生支援を決める。
 破たん後に支援するこうした手法は米国では一般的だ。破たん後の運転資金の融資や出資者をあらかじめ手当てしたうえで破たんさせるもので、事前に破たんと支援を決める「プレパッケージ方式」といわれる。
 私的整理の場合は、大幅な債務超過に陥っていない、取引先や銀行の支援が得られやすいなどが条件になる。しかし、債権者の一部などが計画に合意しない場合には、私的整理による再建計画が実現しない恐れもある。
 プレパッケージ方式ならば、法的整理で裁判所が関与するため、大胆な債権カットなどがしやすくなる。再生機構ではないが、これまでもこの手法を用いて民間ファンドが民事再生法の適用を申請した東ハトの再建を手がけている。
 マツヤデンキのケースでは、債権者関係が複雑で、再生機構は私的整理による合意が難しいと判断した。今回の方式によって、再生機構が支援する手法には、私的整理で子会社にする「子会社方式」、スポンサーを見つける「支援企業方式」に、破たん企業を支援する「プレパッケージ方式」が加わる。
 再生機構の債権買い取り資金枠は10兆円が予算化されているが、支援企業を決めた4社で投資金額は数百億円程度にとどまる見込み。手法を多様化することで、様々な企業案件を手掛ける枠組みが整う。
 竹中平蔵経済財政・金融担当相の留任で小泉第二次改造内閣が発足し、さらに金融・産業の一体再生に向けた動きが加速するとみられる。今回の新スキームはこうした流れの延長にある。

産業再生機構による支援手法

  子会社方式 支援企業方式 プレパッケ一ジ方式
再建手法 私的整理 私的整理 法的整理
債権者間の調整 難しい 難しい 容易
再建のリ一ド役 政府 支援企業 裁判所
再建の特徴 政府主導で信用補完 民間主導で営業テコ入れ 破たん企業の印象残る
事例 三井鉱山、
九州産業交通
ダイア建設、
うすい百貨店
マツヤデンキ

日本経済新聞 2003/10/7

追跡 再生機構 迫られる軌道修正

 金融と産業の一体再生を目指す産業再生機構が早くも軌道修正を迫られている。三井鉱山の支援見直しなど第一陣の選定企業がつまずき、有名企業案件は相変わらず素通りしている。第二陣のマツヤデンキは経営破たん後の支援という想定外の枠組みも活用したが、政府主導らしくない案件との見方が出ている。なぜうまくいかないのか。迷走の裏側を探る。

三井鉱山は上場企業だから・・・ データ信じ見切り発車

 「三井鉱山は上場企業。監査法人に提出したデータを信じざるを得なかった」
 再生機構の斉藤惇社長は9月30日の緊急記者会見でこう唇をかみしめた。再建計画は9月1日の支援決定から1カ月足らずで白紙に戻った。
 再生機構が問題にしたのは、三井鉱山が受注した水処理事業の採算性とプラント機械の評価損額。どちらも今後の収益見通しに響く。実は、決算担当の国内系監査法人とは別に、再生機構が独自に頼んだ外資系監査法人から「財務データの誤りで追加損失が発生しかねない」との報告があったことが引き金だった。
 だが、ある民間銀行幹部は「再生機構は支援決定前に綿密な資産査定(デューデリジェンス)を実施してきたはず」と首をかしげる。支援決定後の調査での問題発覚は、逆に言えば、査定が不十分なままで見切り発車したことになる。
 斉藤社長は「第一陣の決定が遅いと言われ、再生機構の職員は必死で徹夜作業を進めたが、やはり早すぎたかもしれない」とこぼす。小粒となった第一陣に、有名銘柄の三井鉱山を押し込もうとする焦りが裏目に出た。

損失額も対応も未確定 突然の公表、不信感

 「憶測を与えかねないので公表は控えたい」
 9月30日、三井鉱山の西野脩司社長は再生機構と歩調を合わせて記者会見したが、追加損失額などに一切触れなかった。翌10月1日、三井鉱山株は大幅に値下がりした。
 「あす支援見直しを公表する」。再生機構の斉藤社長が三井鉱山と主力取引銀行の三井住友銀行に電話で通告したのは9月28日日曜日夕刻。「損失額や対応策が確定する前に発表するなんて乱暴だ」と関係者は反発したが、記者会見は1日延期しただけだった。
 斉藤社長は野村証券副社長時代の1997年、総会屋への利益供与問題で社内調査を指揮。不正を発見した時、社長は出張中だったが、「疑わしい取引があった」と自ら記者会見した。「不正などを把握したら株主にすぐ伝えるのが資本市場のルール」が元証券マンの斉藤氏の哲学だった。
 「自らの不手際を棚上げし、後のことも考えずに勝手な行動をとる」「追加負担は結局、銀行に押しつけるのだろう」ーー。銀行界では再生機構の対応への不信感が広がっている。
 三井住友銀首脳は「ご破算には絶対にしない」と強調する。この枠組みがつぶれれば法的整理に追い込まれる可能性もゼロではないためだ。三井の名を冠した企業はつぶさないという意地が三井鉱山を土俵際で踏みとどまらせている。

難航する うすい百貨店 調整能力に疑問符も

 「貸出債権の売却には簡単に応じられない」
 三井鉱山の支援見直しと同時に、再生機構はうすい百貨店(福島県郡山市)の再建で、非主力銀行との債権買い取り交渉の期限を1カ月延期すると発表した。
 大東銀行など一部の非主力金融機関が再生機構が示した買い取り価格が低すぎると反発したためだ。主力以外から貸出債権を買い取り、複雑な利害調整の手間を省き、再生の速度を上げるのが再生機構の役割。それが早くももたついている。
 「担保評価などの見方が違い過ぎる。最初の案件から再生機構の言いなりにはなれない」というのが金融機関側の言い分。だが、今回の交渉相手は4金融機関と少ない。大型銘柄では非主力行は数十行規模になるだけに、再生機構の調整能力に早くも疑問符がつき始めている。

リスク排除自縄自縛に

 「再生機構は当初想定よりも、財政資金に損失を出してはならないという意識が強すぎる」
 財務省の有力OBさえも懸念する再生機構のリスクを排除する姿勢。再生機構の創設が浮上した昨秋はそんな議論ではなかった。自民党の山崎拓幹事長(当時)は「銀行から簿価で不良債権を買い取るべきだ」と主張した。これは極端すぎるとしても、財政にある程度損失が出ても不良債権問題を解決しなければ、日本経済は立ち直らないとの危機感があった。
 産業再生機構の名が示すように、国民はここに産業構造の転換の先導役を期待した。だが、第一陣、第二陣をみると、「企業再生機構」へとイメージが変質している。
 リスク過敏症は銀行への負担要求につながり、それが銀行に大型案件の持ち込みを萎縮させる。再生機構は自縄自縛に陥っている。

銀行団「機構には無理」

 「産業再生機構を活用してほしかった」
 日産ディーゼルエ業がみずほコーポレート銀行などの金融支援を柱とした再建策をまとめた9月末、再生機構幹部はこう嘆いた。実は、日産ディーゼルを有力支援候補としてひそかにリストアップしていたためだ。
 日産ディーゼルはトラック事業低迷で2003年3月期は債務超過寸前まで悪化。金融庁は取引銀行に「再建のメドをつけない限り日産ディーゼルの資産査定区分を落とす」と圧力をちらつかせた。再生機構は「この大型案件がやがて転がり込む」と期待していた。
 ところが、銀行団では再生機構活用の選択肢は「早い段階で消えた」。トラック業界は生き残りをかけた国際的な事業再編を模索しており、再生機構には、このかじ取りは難しい。銀行団は再建計画を練った。
 「再生機構に代わる後ろ盾はやはり日産自動車しかない」。銀行団は支援に後ろ向きだった日産自動車に「筆頭株主の協力なくして金融支援はあり得ない」と迫った。
 日産の名を冠したグループ中核企業の機構送りは何としても避けたいーー。日産自動車は銀行団に支援を約束。再建計画が民間だけで一気にまとまった。日産のメンツが再生機構に勝った。

強硬イメージ、中小敬遠

 「もっとスタッフを増やさないと企業の支援要請に応えられない」
 経済産業省幹部は各都道府県に設置した
中小企業再生支援協議会から”陳情攻勢”を受けている。協議会は産業再生機構の中小企業版。案件発掘に苦労する再生機構とは対照的だ。
 要請してきた企業は1886社。支援を決めた企業は17社で、さらに79社の再建計画を作成中だ。
 「地元の事情を考慮して親身になって手助けしてくれる」と、ある金融機関幹部は人気の理由を説明する。協議会は再生機構と違って債権買い取りや出資はできないが、再建計画の交渉で企業や銀行の言い分を聞き、うまく調整してくれるという。
 再生機構は銀行に大幅な債権放棄を求め、企業に経営者の責任を厳しく問う強硬イメージが定着してきた。「再生機構には行きたくない」と協議会に駆け込む経営者の姿を、再生機構はどうみているのだろうか。

決定遅く募る不満

 「支援決定をもっと早くしてほしかった」
 ある銀行幹部は9月中旬、都内の再生機構のオフィスで、機構の政策決定を担う産業再生委員会の高木新二郎委員長にこう不満を漏らした。
 この銀行は第一陣として支援が決まったある企業の主力銀行。相談開始から支援決定まで半年もかかり、その間、企業が資金繰りに行き詰まって危うく倒産しかけた。
 再生機構は計画を細かく点検し、再生が見込まれる案件だけを再生委員会に諮り、支援を決める。手続き完了まで、支援の是非を表明できない。その間、企業に何かが起きても対応不可能だ。銀行側も独自に緊急支援などを打ち出しにくい。
 再生機構に持ち込むと支援決定前に倒産リスクが生じる−−。この幹部は「もう再生機構を使わない」と、整理回収機構や民間ファンドヘ案件をまわし始めた。
 確かに、三井鉱山のように支援決定を焦ると批判される面もあり、支援決定を早める問題点も残る。しかし、企業経営は生き物と同じで、病状に応じて柔軟に治療できなければ、企業再生の医師の資格はない。
 高木委員長はこの幹部の批判に苦しい表情を浮かべながらも「改善はなかなかできない」と答えた。軌道修正を怠れば、銀行の「再生機構外し」が間違いなく進む。

リスク避け一時は拒否

 産業再生機構は9月8日、「マツヤデンキの支援には応じられない」と銀行団に通告、検討を白紙撤回した。
 9月26日に第二陣の支援先となった家電量販店大手のマツヤデンキ。実は再生機構はいったん支援見送りを決めていた。民事再生法適用後ただちに支援決定する初の「プレパッケージ型」案件として進めたが、法的整理後の業務継続に必要な運転資金のメドが立たなかったためだ。
 通常の法的整理に終われば、採算店舗など優良資産を分離して再生機構の信用をバックに再生を目指すという青写真は根底から覆る。銀行団は「再生機構説得にはとにかく資金供給先を探すしかない」と考えた。
 9月中旬、東京スター銀行など複数の金融機関が融資に応じる方針を伝える。主力取引銀行のりそなグループも追加融資を決め、再生機構が求めていた3カ月分で60億円超の資金に何とかメドをつけた。
 再生機構には債権買い取りや出資だけではなく、融資機能もある。しかし、それは債権買い取り後ではないと実行できない仕組みにしてしまっている。
 リスクを避ける体質はそこにもある。

法律の空白に滑り込む

 「法律上、再生機構は法的整理を申請した企業を本当に支援できるのか」
 9月下旬、支援の是非を最終的に判断する産業再生委員会。7人の委員は激しい議論を続けた。資金調達のメドが立ったマツヤデンキにとって最後の難関だ。
 再生機構法では、支援後に破産や更生など法的な手続きに入ったときは支援を撤回することになっている。ところが、支援決定前のケースは想定外で、法律には全く触れていない。
 マツヤデンキは収益力は見込める。しかし、債務者の関係が複雑なことが最大の問題だ。「法的な強制力を使って利害関係を調整すれば再生できる。法律上はダメとは書いていない」−−。最後は、法律の空白に滑り込むように全会一致で支援を決めた。
 ある民間ファンドの代表は「破たん企業まで再生機構で救う必要があるのか」と疑問を投げ掛ける。そもそも再生機構は事業基盤が弱まりかねない倒産を回避するために、私的整理による再建を売り物にして登場したはずだ。破たん後ならば裁判所も関与するため、民間だけで対応できる。政府が支援する案件にふさわしいかどうかの議論を素通りして、再生機構は肥大化しつつある。

担当相の手腕カギ

  「(自民)党側にいる時は、もっと活用されると思っていた」
 金子一義産業再生担当相は9月22日の大臣就任後の記者会見で、再生機構の感想をこう述べた。政府をチェックする立場から、実行する責任者に代わり、再生機構の不人気を再認識した。
 では、支援要請を増やすためには、どうすればいいのか。実は、再生担当相には法律上の明確な権限はない。何もしなければそれで済んでしまう。金子氏は「再生されていく姿が見えてくれば、銀行から案件が出てくるだろう」と当分静観する構えを示す。
 しかし、金子氏は日本長期信用銀行出身で銀行業務に精通、代議士としても金融行政では銀行の言い分を聞いてきた。大手銀行のある幹部は「金子大臣に頼まれたら案件を持ち込まざるをえない」と胸の内を明かす。
 軌道修正すべき課題が多い再生機構。冷めた銀行。その間に立ってリーダーシップを発揮し、現状を改善できるか。金子氏の手腕が問われる。


日本経済新聞 2003/10/25

ダイエー福岡事業 再建計画仕切り直し 私的整理へ動く 再生機構使わず
 ホテル・球場売却 コロニーと交渉

 ダイエーの高木邦夫社長は24日午後、産業再生機構の斉藤惇社長と会談し、「福岡事業」の再生に同機構を活用しない方針を伝えた。斉藤社長も了承した。再生計画は公的機関抜きでの仕切り直しとなり、ダイエーと主力取引銀行は今後、米投資ファンドのコロニー・キャピタルにホテルと球場を売却する交渉を進める一方、金融支援の再調整に乗り出す。
 高木社長は会談で、「(再生計画の)枠組みを変えるには時間がなく、提案を受け入れることはできない」と切り出した。斉藤社長は「残念だが仕方ない」と答えた。当初1時間を予定していた会談はわずか10分で終わった。
 福岡事業はホテル、ドーム球場、それに福岡ダイエーホークスの3つ。ダイエーはこのうち、ホテルと球揚をまず外資に売却。残る球団については、ダイエー本体への増収効果も期待できるため、保有し続ける考えを表明していた。


来月にも合意
 関係者によると、再生機構の活用を断念したことで、球団はダイエーが引き続き保有する方向が強まった。ホテルと球揚を入札で最も有利な条件を提示したコロニーに売却する計画にも変更はない。
 コロニー側も「再生機構を活用するかどうかにはこだわっていない」(ダイエーの主力債権銀行)といわれ、11月中に売却額などについて基本合意し、来年2月のダイエー決算期末までに手続きを完了させる予定だ。

非主カ行がカギ
 ダイエー側はホテルと球場を売却する際に、取引金融機関から300億円程度の債権放棄を受けて、債務超過を避けなければならない。当初は主力以外の金融機関が持つ貸出債権を再生機構に買い取ってもらうつもりだったが、見直しを余儀なくされる。
 福岡事業の取引金融機関は約40社。このうち主力行はダイエー本体の主力行のUFJ銀行など大手3行と福岡銀行など地元3行。貸出残高の半分を占めるこの6行はすでに一定額の債権を放棄する考えを固めている。しかし、再生機構の活用を断念したことで、今後は主力行が直接、地方銀行などに損失の負担を要請しなければならない。
 融資額が少ない地方銀行などは福岡事業が再生できるかどうかよりも、自社の損失額をできるだけ低く抑えたいというのが本音。損失回避のため、融資の返済を求める動きもあり、主力行の求めにすんなりと応じるかどうかは微妙な情勢だ。
 九州のある地銀は「全債権者の合意が必要な私的整理が難しいから再生機構を使おうということになったはず」と指摘する。「再生機構を活用しないのは福岡事業を軽視しているためだ」と、ダイエーやUFJ銀への反発も広がりつつある。

本体に悪影響も
 福岡事業の今期中の処理が不可能になれば、タイエー本体の再建計画への悪影響も避けられない。ダイエーは先に発表した8月中間決算でも売り上げ目標を達成できておらず、“公約破り”が続けば、株価下落や取引先の離反などの形で逆風を受けかねない。
 交渉長期化を避けるには、やはり再生機構を活用しようとの声が再浮上する可能性も残っている。私的整理で一件落着というにはなお不透明な要因も多い。

 

プロ球界、国の関与嫌う 球団の扱い巡リダイエー案容認

 ダイエーと再生機構の破談に決定的な影響を与えたのは、銀行団でも外資でもなく、プロ野球機構の意向だった。球界に大きな影響力を持つ巨人の渡辺恒雄オーナーが「再生機構が球団を事実上支配することは許されない」と、再生機構案に難色を示したことで、流れは決まった。
 関係者によれば、ダイエーの高木社長と再生機構の斉藤社長は20日前後に、それぞれ渡辺氏を訪ねて福岡事業の再生案を説明した。再生機構は支援の条件として、ダイエーが保有する球団株を隔離し、ダイエーが経営悪化により球団の赤字を補てんできなくなった場合でも再生機構が球団株を第三者に譲渡して、球団の経営を安定させられる仕組みを求めていた。しかし、渡辺氏は国が球界に関与することに強く反発、同案を嫌った。もう一つの焦点は、毎年15億円にのぼる球団の赤字をダイエーがどこまで補てんするか。5億円程度にとどめたいダイエーに対し、機構は無制限の補てんを要求。渡辺氏は「ダイエーは球団の人気に見合う宣伝広告費を支払うべきだ」としながらも、ダイエー側に理解を示した。渡辺氏のお墨つきを得て、ダイエーと銀行団は再生機構に支援条件の緩和を期待したが、機構は拒否。銀行側はもともと三井鉱山への支援見直しなどで機構への不信感を強めていただけに、交渉は決裂した。
 ダイエー案を容認した渡辺氏だが、同時に「野球協約に定めた参加資格の条件(球団の永続的な経営努力など)に背いた時には、オーナー会議は球団の参加資格の喪失を議決できる」と、ダイエーが球団経営を軽視した場合はホークスをプロ野球リーグから外す可能性もあると警告している。


日本経済新聞 2003/10/29

ダイエー福岡事業 主力行支援で再建 来月にも合意
 債権放棄200億円強 非主力行に負担求めず



日本経済新聞 2003/10/25

再生機構 津松菱の支援決定 三井鉱山 月内に支援再認定

 産業再生機構は24日に開いた産業再生委員会で、三重県の中堅百貨店、津松菱(津市)の再建支援を決めた。支援企業は7社目で、取引銀行に金融支援を要請する。支援決定後に追加損失の発生が明らかになり支援を再検討していた三井鉱山については月内に支援を再認定する。九州産業交通(熊本市)は交渉が難航していた国土交通省系の外郭団体から債権放棄の合意を取り付けた。
 再生機構は津松菱の再生支援について「商品戦略を変えたり、販売員の外部化などをしたりすれば再生できると判断した」と説明。津松菱は津市中心部の商業施設だが、郊外型店の進出で売り上げ不振に陥り、主力銀行の百五銀行が再生機構に再生支援を求めた。
 再生機構は同社が抱える借入金約96億円のうち、約71億円の金融支援を百五銀行と、非主力金融機関の商工中金とみずほ銀行に求める。再生機構は「銀行との交渉では債権を買い取らず債権放棄だけを求めるケースもあるが、債権を手放したいという銀行があれば再生機構が買い取りにも応じる」とした。
 津松菱は債権放棄を受けたのち、国内投資ファンドのフェニックス・キャピタルから約6億円の出資を受ける。フェニックスは出資だけでなく債権の株式化などにより同社の経営権を得る見通しだ。

 一方、三井鉱山は9月1日に支援を決めたが、資産の新たな評価損が明らかになり、支援決定を一時凍結していた。このため、主力銀行の三井住友銀行が最大200億円規模の追加支援をするなど新たな再建計画を提出。これを受けて24日の再生委員会は再生支援の継続を確認、月内に再支援することを決めた。
 九州産交では24日、国土交通省所管の民間都市開発推進機構が同社向け債権の一部放棄を決めた。これまで民都機構が債権放棄するかどうかが、九州産交の再建に向けた最大の障害になっていた。
 難問が解決されたことで、再生機構は他の取引金融機関から再建買い取りの合意を取り付け、来月にも再建を本格的に始動する計画だ。

 

支援対象3社の概要と経緯

津松菱 津市唯一の百貨店で、資本金1億円、従業員数188人、2003年2月期の売上高は約91億円。大手スーパーの進出などで約1億2000万円の赤字に陥り、主力取引銀行の百五銀行が再生機構に支援を申し入れた
九州産業交通 熊本県最大のバス会社で、8月28日に支援決定。民間都市開発推進機構が債権放棄に難色を示したため、10月15日としていた債権買い取りの交渉期限を11月27日に延期した
三井鉱山 石炭などの販売会社で、9月1日に支援決定。9月30日に再建計画の修正が必要になる追加損失が明らかになったため、支援の是非を再審査することになった

日本経済新聞 2004/9/29

再生機構 大京支援を決定 債権1000億円買い取りへ

 産業再生機構は28日、政策決定機関である産業再生委員会を開き、大京の再建支援を決めた。大京に出資せず、非主力取引銀行から債権を最大で1千億円程度買い取り、大口債権者として再生を進める。すでに複数の企業がスポンサー候補に名乗りをあげており、年度内に出資企業を選ぶ。主力銀行のUFJ銀行が一連の大口融資先の再生・処理で再生機構を活用するのは初めて。
 再生機構支援を負債残高べ−スでみると、大京はカネボウに次いで二番目の大型案件となる。 大京とUFJ銀行が連名で再生機構に支援要請した。大京の山崎治平社長は同日、経営責任について「当面は事業を引っ張っていく」と述べ、留任する意向を示した。
 支援するのは大京本体とグループ5社。まずUFJ銀行など取引銀行が大京グループ向けに債権放棄や債務株式化で1765億円の金融支援を実施する。再生機構は残った債権約3千億円のうち、主力のUFJを除く非主力銀行から債権を年内に買い取る。
 大京は不動産賃貸やゴルフ場、ホテル・リゾートなど不採算事業から撤退。マンション分譲・管理、不動産仲介業に特化する。不採算事業撤退などで、今期に2600億円の損失を処理する。株主責任明確化へ、普通株を含め資本金は99.2%の減資を実施する。
 資本増強策としては再生機構自体の出資を見送り、スポンサー企業かち出資を受ける。民間からの出資希望が相次いでいるためで、民間との協調で再生を目指す。
 大京はバブル期に抱えた不動産の含み損などで経営が悪化。借入金は2004年3月期末で4378億円に達した。UFJは金融庁から、大京向けは不良債権との認定を受け、他の大口融資先と同様、正常債権との評価を受けられるよう再建策を見直していた。大京の債権者は政府系を含め約30の金融機関に及ぶ。UFJは再生機構が再建に関与することで円滑に金融支援の調整が進むと判断した。

再生機構、出資は見送り

 産業再生機構は支援決定した大京に出資することは見送り、代わりに民間スポンサーを募ることで、政府色を薄めつつ早期再生に取り組む。今後は複数の企業が名乗りを上げている民間スポンサーの選定作業が焦点。再生機構側には調整役に徹することで「民業圧迫」との批判をかわし、次に控えるダイエーが機構活用に動きやすいよう、環境を整える狙いがのぞく。

 ダイエーにらむ民間主導を強調

 再生機構はこれまでカネボウなどの大型支援案件では、第三者割当増資の引き受けなどで出資に応じ、支援企業の経営権を握ってきた。経営の失敗で再建が行き詰まれば、機構が銀行から買い取る支援企業向け債権が焦げ付き、国民負担が生じる恐れがあるためだ。
 ただ、機構が経営権を握ることに対しては「民間ファンドや企業の投資機会を奪っている」との批判がつきまとう。国内企業への民間ファンドの累計投資額は8月で1兆円を上回り、1年前の約5倍に急増。「民間のリスクマネーが育ってきた以上、機構は債権者調整などに役割を限るべきだ」との声が内部からも出ていた。
 そこで、今回の大京支援では出資はせず、数カ月のうちに決定する民間スポンサーに経営を委ねる。スポンサー選定にさほど時間はかからないとの見通しがあるうえ、後に続くダイエー問題への配慮がにじむ。
 ダイエーの再建では、再生機構を活用したいUFJなどの主力銀行と、機構入りを避けたいダイエーの綱引きが統いている。現在はダイエーが独自に選んだドイツ証券など複数のスポンサー候補と再生機構が並行して資産査定を進めているが、このことが「機構が民間と競り合う」印象を与えている面もある。
 大京支援で機構が資産査定やスポンサー選定といった黒子の役割に徹する方式は、機構によるダイエー支援が決まっても、早期に民間スポンサーに経営権を譲り渡す道筋をにおわす側面がある。「官対民」という構図を避けることで支援要請に難色を示すダイエーの反論材料を封じる効果も意識しているようだ。

UFJ、初の機構活用 大口融資先処理 不良債権4000億円圧縮

 UFJの大口融資先7社の処理策のうち、大京については初めて産業再生機構を活用する。これによりUFJグループは約4千億円の同社向け貸し出しが不良債権から外れ、2005年3月末までに3兆円に上る不良債権残高を圧縮する目標が一段と達成に近づく。
 UFJが大口融資を抱える経営不振企業の処理では、来年10月の経営統合を控えた三菱東京フィナンシャル・グループが協力姿勢を鮮明にしていることも推進力の一つ。大京向け金融支援ではUFJと三菱東京が難色を示すみずほグループの説得にあたったようだ。先に決まった双日支援でも三菱東京が資産査定にかかわるなど“二人三脚”ぶりが目立つ。
 大口融資先の4社は再生・処理が決着し、調整が続くダイエーが今後の焦点。取引銀行・再生機構と、ダイエーが支援先候補に挙げるファンドなどの民間企業体による複数の資産査定が並行して進む。民間側の査定結果が出そろうみられる10月中旬ころに向け、綱引きが活発になりそうだ。


日本経済新聞 2004/9/30

大京型」支援 ダイエーにも 出資せずスポンサー公募
  再生機構COO 民間と競合せず

 産業再生機構は経営再建中の大手スーパー、ダイエーについて、支援を決定した場合でも、機構は同社の経営権を握らず、速やかにスポンサーを公募する方針だ。冨山和彦・最高執行責任者(COO)が29日、日本経済新聞記者と会見し「今後の支援案件では、機構が出資を見送った『大京型』が基本になる」と語った。冨山氏は一部で広がる「民業圧迫」批判に強く反論した。
 ダイエー再建を巡っては、産業再生機構の活用を求める主力取引銀行が難色を示すダイエーの説得にあたっているが、解決の道筋はまだみえていない。このためダイエーが独自に選んだ複数のスポンサー候補と再生機構が並行して同社の資産査定を進めるという異例の事態になっており、一部から「機構が民間と競合している」との批判が出ている。
 再生機構がこれまで支援決定したカネボウや三井鉱山などに対し、「官製ファンド」として出資して経営権を握ってきたことも、こうした批判を招く原因のひとつになっている。
 冨山氏は「ファンドや事業会社が企業再生に積極的にお金を出すように変わってきており、機構の役割は債権者調整やスポンサー選定などの再建の『前工程』に絞られてきている」と指摘。28日に支援決定した大京のように、今後の支援案件では自らは出資せず、債権者の調整など、民間の機能の補完役に徹する考えを示した。
 機構は再生専門の裁判所や管財人のような役割を果たそうとしており、「民間の再建案を審査する立場であって、民間と競合する立場ではない。民業圧迫の批判はあたらない」と強調した。
 再生機構が支援企業向けの債権を銀行から買い取れる期限が来年3月末に迫っている。冨山氏は「支援決定の期限は12月末がぎりぎり。スポンサーの公募はそれ以降になる」と語った。スポンサーの選定では事業会社に限らず民間の再生ファンドなどの提案も広く受け付ける意向だ。
 大京については今後3−4カ月のうちにスポンサーを決定できるとの見通しを示した。過剰債務に苦しんでいた大京だが本業の収益性は比較的高いため、「相当数のスポンサーが名乗りを上げることは明らか」と話した。

「大京モデル」での再生機構の役割

  大京 カネボウ
債権者調整 する する
出資 スポンサーを公募 自ら出資
経営者の選任 スポンサーに一任 機構が選任
役員派遣 送らない 送る
事業計画 大枠のみ提示 詳細を決定
今後 速やかにスポンサーを選定 3年以内にスポンサーに譲渡

 


2004/11/20 朝日新聞                    

新日鉄、三井鉱山出資に名乗り 物産と連携も視野

 新日本製鉄は、産業再生機構の支援を受けて再建中の三井鉱山に出資することを検討している。三井鉱山には米投資ファンドが買収に名乗りを上げており、これに対抗する。旺盛な鉄鋼需要で世界的に需給が逼迫(ひっぱく)している鉄鋼原料のコークスを安定的に確保するのが狙いだ。三井物産など他社との連携も視野に置いており、出資比率や買収後の経営体制などを詰めた後、再生機構が近く実施する入札に参加する予定だ。

 新日鉄は、年間1200万トンのコークスを消費している。自社生産だけでは足りず、約100万トンを国内外の企業から購入している。

 需給が逼迫する中で新日鉄は今年9月、新たに年間50万トンのコークスを06年から10年間にわたり購入することで三井鉱山と合意。三井鉱山が休止中の炉を再稼働し供給することになっている。

 三井鉱山はもともと、生産したコークスのほとんどを新日鉄の八幡製鉄所(北九州市)に供給していた。88年に新日鉄が2基ある高炉のうち1基を閉鎖したのに合わせて生産を減らし、輸出に振り替えてきた。現在は年160万トンの生産量のうち、新日鉄には10万トンを販売している。

 米2位の鉄鋼メーカー、
インターナショナル・スチール・グループ(ISG)の主要株主である投資ファンドのWLロス・アンド・カンパニーが買収に名乗りをあげる中で、新日鉄は出資による支援が不可欠と判断した。同じ北九州市にある三井鉱山の工場と八幡製鉄所はコークスを運ぶ海底コンベヤーでむすばれているほか、ガスやタールなどの取引もあり、関係は深い。

 三井鉱山は、石油の輸入・販売や建設資材の販売などの事業も行っていることから、新日鉄は単独ではなく、三井物産などと共同で支援に乗り出す方針。三井物産も三井鉱山と取引があり、世界的に鉄鋼原料の取り扱いを拡大させている。


日本経済新聞 2004/11/28

ミサワ再建 最終局面 再生機構活用前提に
 トヨタ 前社長と泥仕合警戒
 UFJ 迫る期限交渉全速カ

 ミサワホールディングス(HD)の再建問題が大詰めを迎えた。UFJ銀行は近く、産業再生機構の活用を前提にトヨタ自動車にミサワ支援を要請。次はトヨタの出方が焦点になる。ミサワ創業者の三沢干代治氏は投資ファンド設立を27日発表、トヨタの支援に依然抵抗しているが、事態は最終局面に差し掛かっている。

▼最後に残った大口融資先
 UFJ銀はこれまで双日、大京、ダイエーなど金融庁から迫られていた大口融資先企業の再生・処理を一つ一つ進めてきた。最後に残ったのがミサワホームだ。
 実は、UFJ銀は6月ごろ、一時、再生機構活用を検討したことがある。この時はミサワホーム側の抵抗が強く断念した。その後、UFJの大株主でもあるトヨタに頼るしかないと考え、支援企業候補をトヨタに絞って協議を進めてきた。
 トヨタも今夏にUFJ銀の要請を受け、ミサワヘの出資を前向きに検討してきた。トヨタの住宅事業は約30年の歴史があるが伸び悩んでおり、ミサワの商品企画力や営業力は魅力。傘下のトヨタホームとミサワを統合、積水ハウス、大和ハウス工業と並ぶ三強に食い込む青写真を描いた。
 そこに立ちはだかったのが創業者の三沢千代治氏。一代でミサワを住宅大手に育てた三沢氏はトヨタヘの身売りに強く反発した。三沢氏は8月に名誉会長を退任したが、今も個人企業などを通じてミサワ株の約8%を保有する事実上の筆頭株主。11月にはミサワ買収に向けたファンド設立構想まで表明。トヨタ社内で慎重論が強まった。

▼前社長の影響力懸念

 奥田碩会長が日本経団連会長、豊田章一郎名誉会長が万博協会会長を務めるなど首脳が重要な公職を務めるトヨタにとって、ミサワ支援後も三沢氏との泥仕合が続けばイメージ悪化など失うものが大きい。トヨタとUFJ銀の交渉はこう着。トヨタの名に傷をつけず、ミサワを傘下に入れる選択肢として再浮上したのが機構活用だ。
 トヨタにとって、三沢氏によるミサワ社内への影響力を排除することが支援への大前提。UFJ銀は機構が中立的立場からミサワの企業価値を査定し、役員人事などで過去のしがらみも解消すれば、トヨタが土俵に乗りやすくなると判断。来年3月末までに不良債権比率を半減させる政府目標達成期限が迫る中、「トヨタが支援を確約してくれるなら、あらゆる手段を模索したい」との意見が銀行内部で強まった。
 ただ、仮に機構への支援要請にこぎつけても、しっかりした再建計画を作らなければ、機構が支援決定しない可能性も否定できない。機構による非主力銀行からの債権買い取り期限は来年3月末。様々な手続きを考えると年内に支援要請する必要がある。トヨタにとっても、機構がダイエーのようにミサワの支援企業を公募すれば、入札で投資ファンドなどと競合する事態も予想される。

▼「買収ファンド」を設立
 三沢氏は27日、投資ファンド設立を正式発表。UFJのミサワ向け債権を買い取る方針を表明、「機構入りは現場を混乱させるだけ」と語った。ただ投資会社3社から3千億円を調達するとしているものの、実現性は不透明。ミサワホームHDは同日、「ファンドを活用するつもりはない」と発表。UFJ銀も「旧経営陣の関与するファンドヘの債権売却はありえない」とトヨタ説得に全力を傾ける構えだ。週明けのトップ会談を踏まえ、一時慎重姿勢に傾いたトヨタがどんな答えを出すのか。UFJ銀の大口融資先問題は最後のヤマ場を迎える。

ミサワ再建を巡る最近の動き

く2002年>………
 3月   ・UFJ銀行に350億円の債務免除と350億円の優先株引き受けを要請
<2003年>………
 8月   ・持ち株会社ミサワホームホールディングス発足
11月   ・UFJ銀行による優先株1000億円引き受けを柱とする新中期経営計画発表
12月   ・創業者の三沢千代治氏が社長退任、名誉会長に
<2004年〉………
 3月   ・住友商事に東京・勝どき再開発事業を譲渡
 4月   ・傘下の環境建設が自己破産申請
 5月   ・1116億円の資本準備金取り崩しと360億円の減資を発表(8月実施)
 8月   ・UFJ銀行がトヨタにミサワ支援を要請
・三沢氏が名誉会長退任
11月   ・三沢氏主導でミサワファンド立ち上げ