2008/7/30 asahi

火災の新日鉄八幡製鉄所で生産再開

 北九州市の新日本製鉄八幡製鉄所で起きた火災で、同製鉄所は30日午前7時26分、生産を再開した。

 同社は材料の調達や点検作業が終わり、鋼材を生産する高炉を稼働できる状態になったため、高炉への送風を再開したとしている。

 火災現場の第5コークス炉付近では同日午前1時半ごろに大小3度の爆発があり、消防隊が出動した。消防などによると施設への延焼や被害の拡大はなく、けが人もいなかった。

 火災は29日午前6時40分ごろに発生。配管にたまったガスが燃え、丸一日黒煙を上げ続けたが、30日早朝には炎や煙の勢いは衰え始めた。

 

 

2008年7月29日 asahi

新日鉄八幡製鉄所で火災、コークス炉から黒煙 北九州

 29日午前6時40分ごろ、北九州市戸畑区の新日鉄八幡製鉄所で、コークス炉につながるベルトコンベヤー付近から出火しているのを、定期点検していた男性職員が見つけ、119番通報した。けが人や周辺への延焼はないが、黒煙が上がり続けており、火災は一日中続く可能性がある。同社は火災直後にコークス炉を、午前11時過ぎには高炉を停止した。

 同社や福岡県警戸畑署などによると、出火したのは第5コークス炉に原料となる石炭を運ぶゴム製のベルトコンベヤー付近。ベルトコンベヤーは幅105センチ、長さ214メートル。炉のそばに設置され、24時間稼働している。さらにその下にはコークスを製造した際に出るコークスガスを送るための配管がある。ガスは水素や一酸化炭素などが主成分。

 
ベルトコンベヤーの一部が燃えて落下し、その下にあるガスの配管に当たり、破損した配管から漏れたガスにも着火したとみられる。ベルトコンベヤーが燃えた理由はまだわかっていない。

 製鉄所は火災直後、ガスを止めたが、配管にたまっているガスが燃え尽きるまでには1日かかるとみられ、火災もしばらく続く見込み。

 第5コークス炉は1970年から稼働。コークス炉は石炭を蒸し焼きにするもので、ここで生産されたコークスは高炉に運ばれ、鉄鉱石と混ぜて鉄分を取り出す「還元剤」や熱源として使用される。

 同社は藤井康雄所長を本部長とする緊急対策本部を設置。北九州市消防局は消防車約25台、ヘリコプター1台を出動させ、延焼防止活動をしている。従業員や住民の避難などはなく、付近の道路も閉鎖されていない。製鉄所周辺の船舶の航行にも影響はない。

 過去にコークスガスを送る配管をめぐる火災は例がないが、04年4月に第5コークス炉の炭槽(石炭貯蔵庫)から出火し、鉄骨の炭槽375平方メートルが全焼する火災があった。この時もけが人は出なかったが、火を消すまでに約6時間かかった。

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噴き出す火柱 自動車産業への懸念も 新日鉄八幡製鉄所 

 戦前、戦後と日本の産業を支え続けた製鉄所のあちこちで、オレンジ色の火柱が噴き出した。29日朝に起きた北九州市の新日鉄八幡製鉄所の火災。たまったガスを燃やし尽くさねばならず、黒煙は上がり続ける。操業停止により、自動車産業などへの影響も懸念され始めた。

 納入業者の男性(51)は午前6時半すぎ、構内のコークス工場付近から「ブオーと広がるような感じ」で黒い煙が激しく上がるのを目撃した。まもなく火が出た。

 「消防車はいっぱいいるけど本格的には消しよらん。ガスが燃えてしまうまで消しようがないんじゃないか。従業員はみんな遠巻きに見守るしかない。これだけ火が出ると、仕方がない」

 午前10時20分ごろ、新日鉄が用意したマイクロバスで報道陣約30人が火災現場近くに入った。

 燃えている第5コークス炉近くにあるベルトコンベヤーの南西約数百メートル地点。地上10メートルの高さで水平に延々走っているガス管の7カ所からオレンジ色の火柱が噴き上がり、黒煙も噴き出している。ふだんは使用しない3本の黒い煙突からも、たまっているガスを燃やしているために火柱が噴き上がった。

 案内の製鉄所員によると、噴き上がる炎や煙はガスを燃やしているためという。ほかに、横にべたっと広がるような不規則な炎も見られるが、石炭を運ぶベルトコンベヤーが燃えているためらしい。

 公開地点からは、消防などの消火活動は見えなかった。水色の作業服を着た5、6人が遠巻きに不安そうに火災を見つめ、製鉄所の乗用車が構内をひっきりなしに走っていた。

 戸畑署によると、消防がコークスガスが燃えた煙を検知したところ、出火時は一酸化炭素を30%程度含んでいた。午前9時ごろには6・38%に下がっていて、人体への影響はないという。29日午前、現場付近は海方向への南風のため、工場南側に広がる市街地の住宅地からは、煙による被害の苦情は寄せられていないという。

 都市防災研究所(東京)の守茂昭事務局長は「一酸化炭素は風で拡散するため、閉鎖された空間でなければ危険が及ぶことは考えにくいが、万が一に備え、住宅地など周辺部の濃度を測る必要がある」と指摘する。ただ、「前例のない火災なので一般的には判断しにくいが、一酸化炭素以外にも炎の熱など危険はたくさんある。避難の必要性は総合的に判断する必要がある」と話した。

 戸畑署によると、新日鉄側と消防、市は「人体には影響がない」と広報車で巡回してアナウンスする準備を進めている。

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消すと一酸化炭素発生の恐れ 鉄鋼業界の火事今年13件

 横浜国立大の大谷英雄教授(安全工学)によると、コークスガスは一酸化炭素と水素とメタンなどが混ざったガスで、「消そうとすると毒性の強い一酸化炭素が発生する」という。そのため、残ったガスを燃やし続けた方が安全で、「延焼が広がらないように消防がコントロールするしかない」と話した。

 一方、鉄鋼業界の全国組織・日本鉄鋼連盟によると、会員のメーカー(約60社)から報告があった火災は、今年に入ってこれで13件目という。

 3月6日には、新日本製鉄名古屋製鉄所(愛知県東海市)構内で塩酸処理工場の炉が爆発して3人重軽傷。6月22日には日本製鋼所室蘭製作所(北海道室蘭市)で熱処理ガス炉が爆発し、2人がやけどなどを負ったという。

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鋼材供給に痛手の恐れ 新日鉄八幡火災

 新日鉄によると、八幡製鉄所では自動車や電気製品向けの鋼板、鉄道のレール、水道やガスの配管に使うパイプ、ビルや橋用の建材などを造っており、こうした鋼材の供給に影響が出る懸念がある。

 07年度の八幡の粗鋼生産実績は400万トン余りで、新日鉄全体の1割強を占める。国内の製鉄所は、同業他社も含めてフル生産が続いている。新興国の旺盛な需要に生産が追いつかない状況だ。もし生産停止が長引けば、ほかの製鉄所での代替は難しく、痛手は大きくなりそうだ。

 03年9月の新日鉄名古屋製鉄所(愛知県東海市)でのガスタンク爆発事故では、鋼板の供給への不安から、トヨタ自動車が残業を中止した経緯がある。八幡製鉄所のある福岡県には、トヨタ自動車九州(宮若市)や日産自動車九州工場(苅田町)があり、生産に影響が出る恐れがある。

 火事が起きたのは、石炭を蒸し焼きにしてコークスに仕上げる工場で、2カ所あるうち1カ所の操業がとまった。コークスは鉄鉱石と並ぶ鉄鋼の主原料。同工場の操業停止が長期化した場合にはコークス不足に陥る可能性がある。 1本しかない高炉で粗鋼の生産を停止したのは、このためとみられる。鋼板やパイプなどに加工する工程には被害は出ていない模様だが、粗鋼生産中止が長引けば、加工工程も稼働率が落ちる。

 製鉄所の安全管理をめぐっては、名古屋製鉄所の事故以来、再発防止策をとってきたが、今後究明が進む今回の原因次第では、その有効性が問われそうだ。