日本経済新聞 2005/8/16−

単位のイロハ 

 商品取引の単位には日常生活ではなじみの薄いものも多い。由来や意味をひもといてみた。

貴金属「卜ロイオンス」
 仏中部の都市名が由来
 金、銀、プラチナなど貴金属の取引単位はトロイオンスが国際標準だ。1トロイオンスは31.1035グラム。ヤード・ポンド法に基づく一般的なオンス(28.3495グラム)とは異なる。
 大手地金商の田中貴金属工業によると、語源はフランス中部の都市「トロア」。中世には市(いち)が定期的に開かれ、様々な物品を売買する際の単位がトロイオンスだった。
 英国では16世紀に法定化され、19世紀後半に廃止された。通常のオンスとの区別が紛らわしいことが理由だったらしい。その後もなぜか貴金属ではトロイオンスが残った。
 地域によっては別の単位を使う。「中華圏や中近東ではテールが多い」(ワールド・ゴールド・カウンシルの豊島逸夫日韓地域代表)。1テールは37.429グラム。日本では現物、先物ともグラムが主流になっている。
 トロイオンスが価格表示の基準重量単位とはいえ、貴金属の需給統計、各国中央銀行の保有金などの重量単位はトンやグラムのほうが一般的だ。同じ貴金属でも色々な単位が使われている。



穀物「ブッシェル」
 箱詰め時のおけ1杯分

 穀物の国際指標となる米国シカゴ相場は「大豆が1ブッシェル6ドル台」など1ブッシェル当たりで表す。ブッシェルは「ケルト語から由来しているとされ、もともとの意味は手の幅だった」(農水省消費流通課)。これが穀物の箱詰め作業を表す言葉に転じ、「作業に使った木製のおけ1杯分をブッシェルと呼ぶようになった」(穀物商社、ユニパックグレインの茅野信行社長)。
 ヤード・ポンド法を用いる英米でブッシェルは容積の単位として定着したが、使い方には双方で微妙な違いがある。米では穀物など乾いた粒状のものに使うが、英では乾いたものだけでなく液体の容積にも用いる。リットルに換算した場合も、米では1ブッシェルが35.24リットルなのに対し、英では36.37リットル。
 ブッシェルは穀物によってキロ換算の重さが変わる。穀物ごとに粒の大きさや比重が異なるためだ。米国の場合、大豆は1ブッシェルが約27.2、トウモロコシなら約25.4キロになる。
 日本ではブッシェルは英米ほどなじみがない。国内の穀物取引が1キロ・1トン単位で行われているためで、東京穀物商品取引所も取引単位をキロで表示する。

米材丸太「スクリブナー」 
 板換算の産地独自単位

 米材丸太は木造住宅の梁(はり)など目立たない部分に使うが、輸入木材のほぼ3割を占め、国内で広く流通している。米西部やカナダの木材業者と日本の商社などが輸入商談をする時に使うのがスクリブナーという独特の計量単位だ。
 約160年前、米国の開拓時代にJ.M.スクリブナーという牧師が考案した。1本の丸太から何枚の板がとれるかを示す。千枚とれる大きさなら、千スクリブナー(約4.52立方メートル)となる。丸太の直径と長さを測ったうえでとれる板の量を割り出す。
 基準となる板は縦横1フィート、厚さ1インチで、1ボード・メジャーと呼ぶ。「ボード・メジヤー・スクリブナー」というのが正式な呼び名だ。日本へ輸入した後は日本農林規格(JAS)で立方メートルに換算する。
 木材は産地により取引単位がまちまち。「世界共通の単位がないのは、木材貿易の歴史が浅いため」(商社)との説が有力だ。国内市場では南洋材丸太はブレトン石、ロシア産北洋材丸太は農林石を使っている。

ダイヤモンド「カラット」 carat
 重さ0.2グラム、語源は「豆」

 ダイヤモンドの重さを表す単位として使われるのがカラットだ。1カラットは0.2グラム、日本では1909年にダイヤモンドの重量単位となった。
 その語源となったのがイナゴ豆。中東や南欧、アフリカなどで栽培されているマメ科植物で、英語でキャロブ(carob)、アラビア語でキラッ卜、中世ラテン語ではカラタスと呼ばれている。実の重さが約0.2グラムだったことから、商人が宝石を計量するための量さの分銅としてイナゴ豆を使用。そこからカラットに転じたとされる。
 日本ではあまり目にする機会がないが、乾燥させるとチョコレートの味わいがするという。「今でも地中海沿岸地域などに行けば、子供のおやつや菓子の材料として、乾物店などで山盛りで売られている」(宝飾品通関代理店、JTCの桃沢敏幸社長)

 

鋼材など「メトリックトン」
 たるの数で積載能力示す

 メトリックトンというとなじみが薄いが、メートル法に基づく重さの単位トンのこと。メートルトンとも呼ぶ。1トンは千キログラム。語源はワインだるをたたいた時の「トン」という音だという説がある。日本船主協会によると、十五世紀ころフランスから英国にワインを運ぶ際、船の積載能力をたるの数で示したという。
 国際商取引の現場には3つのトンが存在する。英国ではヤード・ポンド法に基づき1英トンを2,240ポンドと定めた。容積が約40立方フィートの当時のたるにワインを満たした時の重さだ。1,016キログラムに相当し、ロングトンとも呼ぶ。米国の1米トンは2千ポンドで907.2キログラム。ショートトンとも言う。メートル法はフランス生まれなので、最も一般的な千キログラムのトンには仏トンという別名もある。
 今も船の重量や積載能力の単位はトン。鋼材や鉄スクラップ、非鉄地金の相場も通常1トン当たりで表す。紙や古紙は1キロ単位だが、古紙市場では輸出が増えたことを機に1トン当たりに呼び換えようと一部で提唱されたこともあった。
 1トンは百万グラム。百万倍を表すメガという接頭語を使えば1メガグラムとも言える。しかし、学術関係以外ではこの表現には余りお目にかからない。それだけトンには広く使われてきた伝統の重みがある。