2008年6月17日 熊本日日新聞

患者救済優先で一致 与党水俣病問題PT

 与党水俣病問題プロジェクトチーム(PT)は17日、東京・衆院第一議員会館で会合を開き、原因企業チッソの分社化を目指す特別措置法案の検討より「未認定患者の救済策実現を優先させる」との認識で一致。問題の「全面解決」に向け、訴訟を起こしている団体に対し和解を働き掛けていく方針を確認した。

 会合は、こう着状態にある救済策について今後の進め方を協議するとともに、自民党水俣問題小委員会の作業チームがまとめた分社化法案を公明党や県、県議会に説明した。

 県議会などからは分社化の議論が救済策より先行することへの批判が噴出。公明党は、分社化法案も「白紙から検討する」としたが、あくまで「救済策実現による全面解決のめどを立てた上での話」とクギを刺した。PTは今後、訴訟団体との話し合いを進め、チッソが救済策を受け入れやすい全面解決の環境づくりを急ぐ。

 分社化法案は現チッソを(1)患者補償や公的債務を担う親会社(2)液晶など事業を継続する子会社―に分離し、事業会社の株売却益を県の基金に積み債務を完遂する。事業展開しやすくなるとしてチッソが実現を望んでいるのに対し、地元には患者補償や地域経済に支障が出るとの懸念がある。

 水俣病をめぐっては未認定患者のうち約3400人が与党救済策の受け入れを表明する一方、約1500人はそれを拒み国家賠償請求訴訟を起こしており、全面解決の枠組みはできていない。

 PTの園田博之座長は「分社化法案の結論は、全面解決のめどが立たないと出せない。裁判に訴えておられる方に、話し合い解決を求めていく」と話した。

チッソなどを相手取り係争中の水俣病不知火患者会(約2100人)の大石利生会長と、水俣病被害者互助会(約150人)の佐藤英樹会長は17日、熊本県水俣市で記者会見し、「被害者救済が最優先。加害企業が形を変えて延命するのは許されない」との共同声明を発表した。PTによる和解の働きかけについては「裁判のせいで救済が前に進まないというような姿勢は到底納得できない」と、訴訟継続を強調した。(2008年6月18日  読売新聞)

2008/6/10 熊本日日新聞

チッソ分社化検討開始 自民水俣小委

自民党水俣問題小委員会(園田博之委員長)は十日、原因企業チッソの分社化を目指す特別措置法案の検討に入った。法案は、患者補償や公的債務返済を担う親会社と、事業を継続する子会社とを分離。好業績が見込める事業会社の株式売却益で責務を完遂させるのを前提に、税制優遇策などを盛り込んだ。水面下で検討されてきた分社化が党の正式機関にかけられたのは初めて。

 法案は「公害健康被害補償金等の確保に関する特別措置法」(仮称)。東京・永田町の党本部で開いた小委員会で杉浦正健元法相が座長を務める作業チームが示した。今夏にも開かれる臨時国会に向け論点を整理する。

 チッソは分社化により事業部門を公的債務から切り離すことで、金融機関から融資を受けやすくなり、事業拡大につながると期待。一九九九年の再生計画に盛り込み、実現を模索してきた。法案は、未認定患者の新救済策の財源負担を拒むチッソへの説得材料にする狙いもある。

 ただ、救済策実現の進め方を決める与党プロジェクトチームは「新救済策を拒む訴訟派団体がおり、チッソが負うべき債務が確定しないままでの分社化は無理」との立場。地元や自民党税調からも「加害責任があいまいになる」「税の公平性を損なう」などの反発もあり、集約には曲折が予想される。

 このため法案は反対意見を意識して「補償債務支払いや地域経済の安定に支障を及ぼさない」と明記。株式売却益の引受先を地方公共団体(熊本県)とし、補償や債務返済に備えて積み立てるよう求めた。

 チッソ優遇策としては(1)株主総会決議の代わりに裁判所の許可で分社化を認める(2)分社化の際や株式売却時に、本来なら課すべき税金を免除する―ことなどを列挙した。

<解説>加害企業消滅の局面に

 自民党が十日、チッソ分社化の特別措置法案の検討を本格スタートさせたことは、水俣病問題の歴史の中でも「加害企業の消滅」という重大局面に向け歯車を大きく動かしたことを意味する。

 法案は、事業部門を子会社化し、上場後の株式売却益で約千五百億円の公的債務と約四百億円の金融機関に対する債務に加え、将来も続く患者補償を担うという内容。子会社株を売却したら、親会社は清算。加害企業が消滅することになる。

 ただ、現時点でチッソの債務は未確定。訴訟派を含め、二万人を超す人たちが救済を求めているからだ。

 同小委メンバーは「株を売却した後、債務が残ったというわけにはいかない」とクギを刺す。(1)売却益が見込み通り確保できるのか(2)その売却益で賄うとする債務がどれくらいになるのか―が分からない限り、先に進まないという意味だ。

 原因企業が被害を補償する汚染者負担の原則(PPP)を貫くためとして、国と熊本県は三十二年間公的支援を続け、チッソを生かしてきた。分社化は大きな方向転換だ。そもそも加害企業をその責めから解き放つという判断が許されるのかという命題が残る。一方で被害者の苦しみは一生続く。判断できるのは、国ではなく、その被害者ではなかろうか。

2005年秋、熊本県職員の永松俊雄(50)は、職務の傍ら、熊本大学大学院で博士号(公共政策学)の学位論文をまとめた。テーマは「水俣病原因企業をめぐる公的支援の政策学」。チッソへの金融支援措置の変容を、00年の抜本策の県担当者として研究したものだ。

 分社化について、論文は「市場経済原則から言えば一定の合理性をもつ」としながらも「チッソの存続自体、市場原理を逸脱した公的支援が前提」と指摘。「道義的責任を有するが故に存続しているチッソの(分社化)構想は、倒錯した企業倫理観を改めて印象づける」と結論づけた。

 永松は言う。「分社化の本質は、過去の責任との決別。それは許されない」

 

チッソ分社化 法案には地元配慮の視点」 園田博之委員長

 自民党水俣問題小委員会が原因企業チッソの分社化を目指す特別措置法案の検討に入った。園田博之委員長は十三日、熊本日日新聞のインタビューに対し、現チッソを患者補償や公的債務返済を担う補償会社と、好調な事業を展開する事業会社に切り離すこと自体は認める一方、加害企業消滅につながる事業会社の株売却には慎重な姿勢を示した。

 ―分社化法案を検討する理由は何ですか。

 「患者補償の安定した財源を確保し、膨大な公的債務を早期返済できる土台づくりのためだ。新たな事業会社は負債にとらわれず事業に専念できる。収益力が上がれば確実な補償・返済につながる。今はチッソの業績が好調。時機を逸してはいけないと思った」

 ―分社化後、事業会社は上場。親会社である補償会社が100%所有するその株を売却した利益で、補償などの責務完遂を想定していますね。

 「課題は二つ。一つは将来の患者補償も含め、チッソが負うおおよその債務を確定できるか。もう一つは、その債務を十分上回る評価が株式市場で得られるかどうかだ」

 ―債務確定の条件は。
 
 「与党プロジェクトチームがまとめた新救済案の実現だ。救済案に乗らず、裁判に訴えている方も含め、全面的な救済に持っていく必要がある」

 ―ただ、チッソは救済策の財源負担を拒んでいます。

 「分社化法案は、チッソに負担を受け入れさせるための交換条件ではない。そもそもチッソの拒否理由は『訴訟派も含めた全面解決のめどが立っていないこと』。分社化の検討を始めたからといって、救済策が実現に向けて前進したというわけではない」

 ―分社化法案について地元を中心にある不安の声にどう応えますか。

 「法案には『分社化で債務補償支払いや地域経済に支障をきたさない』という地元配慮の視点が入っている。『株売却で株が別の資本の手にわたり、水俣工場がなくなるのでは』という地域の不安の声がある。分社化しても、債務がほぼ固まらないと株は売却しない。そのため、法案に『事前に環境大臣の承認がいる』と盛り込んだ」

 ―法案の実現の見通しは。

 「自民党内に案を示したばかり。これから次の臨時国会に向け、議論を進めようという段階で何とも言えない。自民党税調や公明党の議論が要るし、ねじれ国会の状況を考えれば、民主党の理解も欠かせない。いずれにせよ、簡単な話ではない」

 

鴨下環境相 「責任所在不明りょう」 チッソ分社化に懸念

 水俣病の原因企業チッソの分社化を目指す特別措置法案について自民党水俣問題小委員会が検討を始めたことを受け、鴨下一郎環境相は十三日の閣議後会見で、「分社化によって(水俣病の)責任の所在が不明りょうになることを心配している」と、懸念を表明した。

 鴨下環境相は「分社化の議論を妨げはしない」としつつも、「訴訟もあっている中で、将来的に債務がどの程度になるのかが不透明な間に、分社化が進んでいくのはどうなのか」と述べた。環境省としての対応については「与党プロジェクトチームがまとめた救済策によって多くの人が救済されることが、まず先にあってしかるべき」と、引き続き救済策実現に努力する考えを表明した。

2008年6月11日 西日本新聞

自民チッソ分社化特措法素案 株利益で水俣病補償 熊本県に業務継承へ 実現なお不透明

 水俣病問題が新局面に入った。自民党の水俣問題小委員会(園田博之委員長)は10日、原因企業チッソの分社化を進める「公害健康被害補償金等の確保に関する特別措置法」の素案をまとめた。液晶で好業績を続けるチッソを新会社に衣替えさせることで補償への不安を解消、同社の新たな負担を伴う与党プロジェクトチーム(PT)の未認定患者救済案の受け入れを促すのが狙いだ。ただ、補償業務を熊本県が引き継ぐ形となる同案は公害の汚染者負担(PPPの原則)を揺るがしかねず、曲折も予想される。

 「想定通りにいかなかった時の話がない。このまま通るのかどうか…」

 10日の小委員会で、関係者の1人は、分社化実現の見通しについて、厳しさをにじませた。

 分社化は、チッソの事業部門を100%子会社化して上場・独立させ、現在のチッソは補償部門だけを担う親会社とする内容。親会社は当面、子会社の株式配当益で補償業務を担い、3年後をめどに株式を他者に全面譲渡、譲渡益を熊本県に納付して補償業務を委ね、清算するとしている。

 園田氏は「チッソの業績が好調な今でないと時機を逸する」と語った。素案をまとめた杉浦正健衆院議員は「譲渡益は2000億円以上が見込まれる」と想定。自民党は税制優遇措置も盛り込んだ素案について、与党PTや熊本県などとの調整を進め、今年の臨時国会への法案提出を目指す。

 しかし、想定通りになるかは不透明。大手証券会社関係者は「見込みを上回る可能性もあるが、素案に『地域への配慮』が盛り込まれたことなどは譲渡益が減るリスクでもある」と指摘する。

 チッソは未認定患者による訴訟も抱え、補償費用がさらに膨らむ可能性がある。親会社清算後に新たな負担が生じた場合にどうするか。「汚染者負担の原則を放棄するということなのか」。地元議員はこう懸念する。

 チッソは「分社化はすべての関係者にプラス。実現を期待する」との会長談話を発表しつつ、国の責任をあいまいにした与党PTの救済案を訴訟派の被害者が拒んでいることを念頭に「PT案受け入れは別問題」との姿勢を示した。

 与党PTは来週にも会合を開き、素案の説明を受ける方針だが「ねじれ国会」では法案成立に野党側の協力が不可欠。民主党議員の1人は「患者救済が進まないのにチッソ支援を優先するのは無理。法案には乗れない」と語った。分社化へのハードルは高い。 (東京報道部・伊藤完司)

■特措法素案の骨子
 一、公害被害の補償で多額の債務がある事業者に債務支払いと事業とを別法人で行わせ、収益力を高めて債務履行を完遂させることを目的とする

 一、事業者は患者補償や公的支援の債務返済、地域経済への支障を及ぼさない再編計画を作成し環境相による認可を受けなければならない

 一、新規事業会社の株式譲渡には環境相の承認を必要とし、譲渡益は公的支援を行っている自治体に納付。自治体はこれを積み立て、補償債務支払いを引き受ける

 一、事業者と自治体は債務引き受けに関する協定を締結できる。締結には環境相と自治体議会の承認を必要とする

 一、再編で新たに生じる登記諸税や法人事業税などは免除。欠損金処理に関する特例措置も設け事業者負担を軽減する

熊本日日新聞2008年6月15日

日弁連、未認定患者の実態調査 与党救済策に対抗

 日弁連の水俣病問題検討プロジェクトチーム(三角恒座長)は十四日、未認定患者の実態調査を始めた。初日は水俣市牧ノ内のもやい館で、六十六人と面談し、現在の症状やメチル水銀の影響を受けた当時の生活状況などを聞いた。

 日弁連は、与党プロジェクトチーム(PT)がまとめた未認定患者の新救済策を「不十分な内容」と批判し、現行の認定基準見直しを含めた総合的な救済施策を求めている。今秋にも実態調査の結果をまとめ、国や熊本県に不知火海沿岸住民の健康調査を迫る考え。

 実態調査には、四十代から七十代までの未認定患者が協力。弁護士が約十項目の事前調査を基に、症状を自覚した時期や申請に踏み切った経緯などについて、より詳細に聞き取った。

 終了後に会見した三角座長は「胎児性・小児性患者と同世代の被害者の症状は多様で、与党PTが救済基準とする四肢末端優位の感覚障害だけではとらえきれないとの印象を持った」と話した。

 政治決着を拒否している水俣病不知火患者会と水俣病被害者互助会は「日弁連はわれわれの訴えを代弁している」と調査に協力。与党PTの救済策受け入れを表明している水俣病被害者芦北の会は「早期救済に反する」として協力要請に応じなかった。

 最終日の十五日は、鹿児島県出水市で約四十人と面談する。


asahi 2009/1/16

水俣病救済、チッソが与党案了承へ 分社化を条件に

 水俣病未認定患者の救済問題で15日、原因企業のチッソの後藤舜吉会長が与党プロジェクトチーム(PT)の救済案を受け入れる意向をPT座長を務める園 田博之・自民党政調会長代理に伝えていたことがわかった。チッソが求めてきた事業部門と補償部門とを切り離す分社化で立法措置をとることが条件とされる。

 チッソの受け入れ拒否で足踏みが続いていた救済策が再び動き出すことになる。ただ、被害者団体などには「分社化は原因企業を消滅させるものだ」との反発も根強く、調整が難航することも予想される。

 園田氏が15日、後藤会長と年明けに会談したことを明らかにし、「被害者団体の了解を得ないといけないが、前進した」と述べた。最後まで補償に責任を持 つことが分社化の前提と確認したという。後藤会長も取材に対し、「分社化と並行して解決をめざすことで話をした」と話した。

 PTは07年10月、四肢末梢(まっしょう)優位の感覚障害がある人に一時金150万円、療養手当月1万円を支給する新たな救済案を決定。チッソ 側は「全面解決につながらず、対象人数がどれくらいになるかもわからない」として難色を示す一方、液晶・電子部品などの事業部門を子会社化し、子会社の株 の売却益を補償に充てるための税優遇を条件に受け入れることも示唆していた。

 15日には、蒲島郁夫・熊本県知事と伊藤祐一郎・鹿児島県知事が早期解決を求めて自民党本部で園田氏と会談し、「分社化で原因企業がなくなり、県 に負担が回る懸念を払拭(ふっしょく)してほしい」と要望。園田氏は「(PTとチッソとの)認識はかけ離れていない。県に迷惑はかけない。早期に解決を進 める」と応じた。

 与党PTは、チッソの分社化に伴う税優遇などを盛り込んだ特別措置法案を提出する構えだが、民主党の対応が定まっていないなど先行きは不透明だ。


西日本新聞 2009年1月15日

チッソ受け入れへ 与党PT案 分社化条件に 水俣病未認定患者救済策

 水俣病未認定患者の救済問題で、原因企業チッソ(東京)が、事業部門と補償部門の分社化を条件に、与党プロジェクトチーム(PT、座長・園田博之衆院議 員)の新救済策案を受け入れる方針を固めたことが14日、分かった。近く後藤舜吉会長が園田座長と会談する。「最終解決になるとの確信が持てない」として 受け入れを拒んできた同社の方針転換で、解決への取り組みが動きだす可能性があるが、地元には企業責任があいまいになるとして分社化に反対する声も根強 く、情勢はなお不透明だ。
 チッソは、与党が打ち出した一時金150万円の負担者と想定されており、(1)与党PT案を受け入れても係争中の訴訟終結を含めた全面解決の 展望が持てない(2)新たな補償負担額が見通せず支払い能力に不安が残る(3)株主や従業員、金融機関や取引先への説明が容易でないーなどとして、拒否姿 勢をとり続けていた。
 一方で、液晶で好業績を続けてきた事業部門を100%子会社化し、補償部門を担当する親会社がその株式売却益などを患者救済や過去の補償債務返済などに充てる分社化構想も示し、これをテコに会社発展の展望も描いてきた。
 これらの状況を踏まえ与党PTが昨年12月、患者救済の見通しが立てば分社化の検討を容認する意向を示唆。後藤会長は「前向きに取り組んでまい りたい」とする談話を発表し、岡田俊一社長も取材に対し「(分社化などの)スキームで自信が持てれば、新しい展開にもっていくことはやぶさかではない」と 発言。
 さらに政局の緊迫化で
政権交代が起こる可能性もあり「今やらないと一からやり直しとなり、より重い負担を求められる可能性がある」(チッソ関係者)として与党と積み上げてきた議論の頓挫も懸念、方針転換が必要と判断したもようだ。
 与党PT案は患者側の訴訟取り下げを前提とする方針で、応じない原告が出て「全面解決」とならない可能性があるが、チッソ側は「訴訟は誰にも止められない」として容認する構えだ。