日本経済新聞 2002/10/10

独禁法違反 課徴金、大幅上げ
    公取委 2004年度メド、対象拡大

 公正取引委員会は2004年度にも、独占禁止法に違反した企業に納付を命じる課徴金制度を抜本的に見直す。少額にとどまっている課徴金額を大幅に引き上げるとともに、課徴金の対象となる違反事項を現在の価格カルテルと入札談合以外にも拡大する。独禁法違反時の経済的損失を大きくすることで、企業に法令順守を促す狙い。
 竹島一彦公取委員長が9日、明らかにした。公取委は今月末にも独占禁止法研究会で課徴金制度見直しの検討を始め、2004年の通常国会に独禁法改正案を提出する方針だ。
 課徴金はカルテルもしくは談合に加担した企業に公取委が命じる行政処分。現在の課徴金は、企業がカルテルや談合を行っていた商品の売上高の6%(中小企業は3%)を不当利益に当たるとして納付させる。1991年に4倍に引き上げたが1社当たり課徴金額は1千万円前後に過ぎず、違反抑止効果はほとんどないと指摘する声が多い。


(日本経済新聞 2002/2/17) 

事業提携に指針作成へ 公取委、企業再編を後押し

 公正取引委員会は事業提携に関する独占禁止法の包括的なガイドライン(指針)を2003年春にも作成する。独禁法に抵触しない提携を明確にして企業の事業再編を後押しする。
 事業提携に関する
ガイドラインは米国が2000年春に、欧州委員会も同年秋に公表済み。米欧とも提携する企業を合わせた市場シェアが20%を下回る場合は、独禁法上問題になりにくいとしている。公取委では海外の指針を参考にする方針だ。
 公取委が上場企業約960社を対象に実施した調査によると、回答企業の8割が1社平均で15件も業務提携している。回答企業から「違法かどうかの判断基準が明確になれば事業提携がさらに活発になる」との意見が出ていた。


日本経済新聞 2002/12/12 

公取委 合併許画公表も 事前審査手続き透明化     

 公正取引委員会は11日、企業合併や経営統合が独占禁止法に抵触しないかどうか、正式な届け出の前に審査を受け付ける「事前相談制度」の見直し策を発表し即日実施した。事前相談の申し出から30日以内に独禁法上問題があるかどうかの判断がつかない場合は、企業の同意を得たうえで合併計画を公表できるようにする。審査手続きを透明にするのがねらい。
 事前相談制度では、企業の申請から30日以内に審査結果を回答することになっているが、その期間内で独禁法に抵触するかどうか判断がつかない場合も多い。この結果、審査手続きが長引き、その過程が不透明だという批判も出ていた。新しい仕組みでは、30日以内に結論が出ない場合は、企業の同意を得られれば計画を公表し、詳細審査に移る。企業が公表を拒否すれば事前相談はそこで中止になり、企業は計画の変更を迫られる。独禁法上問題がない場合は会社への回答にとどめ、公表はしない。
 公取委は、計画の公表から30日以内は、計画についての外部からの意見書を受け付ける。企業が詳細審査に応じた場合は、必要な資料の提出から90日以内に回答を出す。その後1週間以内に相談と回答の内容を公表し、他の企業が合併計画を作る際の参考になるようにする。
 公取委は今回の見直しは産業界などの批判に対応したものと説明しているが、合併計画を秘密にしておきたい企業が敬遠する恐れもある。

 


日本経済新聞 2002/12/23

合併・統合の審査短縮 合計シェア25%以下 事前相談、半月で 産業再生法企業が対象

 政府は来年4月から、企業合併や経営統合が独占禁止法に抵触するかどうかを審査する期間を大幅に短くする。統合後の合計シェア(占有率)が25%以下だったり、有力な競合企業が存在したりすれば、実質的な審査の場である公正取引委員会による事前相談を15日程度にする。政府の認定を受けて事業再編に取り組む企業が対象で、産業再生を後押しするのが狙い。
 企業が合併や経営統合をしようとすると、公取委が届け出前に審査する「事前相談」をする。公取委は統合後の合計シェアが10%未満なら事前相談は30日以内でしているが、合計シェアが10%以上だと長引く事例も少なくない。
 例えば、三井化学と住友化学工業による汎用合成樹脂事業の統合では、事前審査に約1年かかった。産業界からは、審査期間が長すぎるとの不満が出ていた。
 このため政府は事前相談を見直す方針を、19日に決めた「企業・産業再生に関する基本指針」に盛り込んだ。対象は産業再生法の認定企業とする。同法を利用する企業の多くは過剰供給業種で、独禁法に違反する恐れが少ないためだ。
 見直しの内容は産業再生法を所管する経済産業省と公取委が最終調整に入っている。シェアが25%以下の経営統合は審査期間を15日程度にする方向で検討している。シェアが25%を超えても@統合会社以外にシェア10%以上の企業が2社以上あるA輸入品など代替品が普
及しているB統合後のシェアが微増にとどまるーー場合などは審査期間は15日程度とする。詳細に調べる必要がある場合でも、これまで90日程度かかった審査期間を45日程度に短くする。
 経産省と公取委は。経営統合事例を分類・整理し、どのような経営統合なら短い期間の審査で済むか企業に分かるようにする。事前相談の見直しによって、石油化学、鉄鋼、半導体などの分野での合併や経営統合の審査が短くなる公算が大きい。また、今後の経営統合では、税制面の支援や再編手続きの簡素化の恩恵が受けられるため、産業再生法を使う企業が増えるとみられる。

迅速審査の対象

シェア25%以下
  原則としてすべて
シェア25%超50%以下
  統合会社以外にシェア10%以上の競合企業が2社以上ある
  輸入品・代替品比率が5%以上あり、過去5年間で国内企業の出荷額が5%以上減少
シェア50%超
  首位企業以外の企業が事業撤退企業を再建目的で統合
  統合によるシェア増加が1%未満であり、シェア10%以上の競合企業がある

日本経済新聞 2003/1/26

公取委が指針 債務超過の企業 審査早め合併しやすく
 シェア50%以下 15日間に短縮

 公正取引委員会は、政府が認定して事業再編に取り組む企業の合併・統合の審査に新指針をつくり、企業の救済合併をしやすくする。債務超過になった企業を救済合併する場合、合計の市場占有率が50%以下ならば、実質的な審査になる「事前相談」を15日に縮める。破たん前に迅速に合併をできるようにし、産業再生を後押しする。
 新指針を使えるのは、事業再編を税制面などで政府が後押しする産業再生法の認定企業。公取委が合併審査の手続きを緩める指針をつくるのは今回が初めてになる。
 公取委は通常は企業が合併計画などを公取委に正式に届ける前に、これを認めるかどうか事前相談する。統合後のシェアが10%未満なら30日以内に審査するが、10%以上の場合は長引く例が多い。そこで産業再生法の適用企業について条件つきで審査期間を15日に縮めることにした。
 救済合併の場合は、審査に時間をかけている間に救済対象の企業の資産内容が急速に劣化する恐れがある。公取委は、統合後のシェアが50%以下で、経営統合する企業のどちらかが債務超過や運転資金の不足に陥り、倒産する可能性が高い場合は、新指針に沿って迅速に審査する。
 救済合併でなくても、合計シェアが25%以下の企業統合は審査を早める。独禁法に触れるような独占や寡占が成立する可能性は低いとの判断からだ。合計シェアが35%以下で、市場内に10%以上のシェアをもつ有力な企業が2つ以上ある場合も同じ理由で審査を短縮する。この「シェア35%以下」という基準は、当初案では「50%未満」としていたが、基準が緩くなりすぎると判断し修正した。
 新指針は、審査期間を縮める条件として、シェアのほかに市場の寡占状態を示す新指数を使うことにしたが、この新指数が障害になり、審査を早めてもらえないケースが出る可能性もある。
 また、新指針では事前相談の前に、公取委がシェア算定のため企業が出すべき貧料などについて説明する仕組みも設けた。資料が整わないと公取委が事前相談に入らないなど、審査短縮を骨抜きする屋上屋の制度になる恐れも残る。

新指針に基づく事前相談の流れ

▽経営統合を計画する企業が産業再生法の認定を申請もしくは申請を検討
        ↓
    企業が公取委に接触
        ↓
▽公取委が資料の選び方や資料の作成方法を指示
        ↓
▽事前相談(以下の場合は、審査期間を閉庁日を除いて15日以内に完了)

  統合後のシェアが25%以下
  同シェア35%以下で、シェア10%以上をもつ競争相手が2社以上
  同シェア50%以下で、統合する企業の一方が債務超過や運転資金難で倒産する可能性が高い。
  統合によるシェア増加がわずかで、シェア10%以上をもつ企業がいる

        ↓
    公取委が回答
        ↓
▽経営統合に問題がない場合、企業が独禁法に基づき公取委に正式に届け出
        ↓
    公取委が正式審査
        ↓
    問題なければ経営統合実施

 


(日刊総合化学 1997/4/10) 
   
公正取引委員会 独禁法に抵触せずと結論
  三井石化、三井東圧の10月合併に問題なし

 公正取引委員会は三井石油化学工業、三井東圧化学両社の合併問題について、両社の事前相談内容を前提に検討していたが、9日「本件合併は独禁法第15条第1項の規定に違反する恐れはない」として両社にその旨、回答したと発表した。この結果、両社の合併は正式に承認されたことになり、いよいよ10月1日合併に向けて動き出すことになる。

 両社の合併に関する問題として公取委は、次の2点を挙げた。
 第1 は、両社の生産・販売する製品を製法、形状、特性、用途等に区分しそのうち競合関係があり、かつ生産能力または販売数量のシェアを合算すると15%以上で、第1位となる7品目(
別表参照)について重点的に検討した。この結果

@ ポリプロピレン(PP)では、用途について一部ポリエチレン(PE);ポリスチレン(PS)等の合成樹脂と部分的に代替関係にあるが、基本的に物性及び用途が異なる 
A アセトンは、用途の25%を占める溶剤等の分野で酢酸エチルやメチルエチルケトン(MEK)と代替関係にあるものの、価格及び基本的な特性が異なる 
B フェノール、アニリン、ビスフェノールA及びターシヤルブチルアルコール(TBA)は、直接競合または代替関係にある製品は見当たらない。とくにフェノールはキュメン法とトルエン法、アニリンについてはニトロベンゼン法とハルコン法という異なる製法はあるものの、製品の品質及び価格差はない。したがって、これら製品ごとに一定の取引分野が成立すると判断した 
C アルファーメチルスチン(AMS)は、用途の大半を占めるABS樹脂の耐熱向上剤の分野では、フェニルマレイド(PMI)と代替関係にあり、PMIを含めた取引分野における競争についても検討する必要があると判断した一としている。


 第2には、石化製品はエチレンから誘導品まで一コンビナートの中で流れており、一般的にエチレン等を供給する石化メーカーは、エチレン等から誘導品まで生産している。この中で両社の石化製品は7品目以外にも重点審査を対象する選別基準に該当する品目が多数ある。合併によって相互に関連性のある品目があり集積することによって石化工業における新会社の総合的な事業能力が拡大し、石化製品それぞれにおける競争に影響を及ぼすことが考えられる、と指摘している。
 
 7品目に対する考慮事項として公取委は、まず輸入品の存在を挙げた。とくに56%の薬界シェアをもつことになるフェノールについては、メー力一間に品質差はなく、ユーザーの使い慣れ等の問題もない。加えてロット、荷姿、運搬保管の面で問題が少なく、ユーザーに輸入の経験があるため、容易に輸入量を増やすことが可能。また、輸出入価格及び国内価格は、近年同水準で推移しており、国内外市場共通の価格形成が行われるとみられるので、合併後の新会社のシェアが高くても国内市場における価格や教量をコントロールする力はない。フェノールの輸入比率は95年度で 1.7%にすぎないが、国内生産能力が低かった時期には輸入比率が現在よりも高かったことを考慮すると輸入比率の低さは国内外価格とほぼ同水準であり、かつ現在の国内メーカーの供給余力があるためわざわざ輪入するまでもないことによるものとみられる。また、大手ユーザーの中には、国内メーカーとの価格交渉を有利に行う目的から、輸入価格の方がある程度高くても輸入を続ける方針をとっているところもあった。この他アセトン(輸入比率 4.8%)、アニリン(同 8.2%)、及びビスフェノ一ルA(同 28.3%)についても同様の事情にある。
 競争業者の存在については、PPは生産シェアで第l位の競争業者が販売数量シェアでも20%を超えており、この他に生産能力、販売数量で10%を超える企業が複数存在している。フェノールは、近年、新日鐵化学、三菱化学及び出光石油化学が相次ぎ参入しており、20%を超える企業が存在している。アセトンも販売数量シェアで第1位で、30%を超える企業が存生し、この他に20%を超える企業が存在する。アニリンも販売数量シェアで20%を超える企業が存在し、その生産能力シェアは30%を超えている。ビスフェノールAは、新規参入が相次いでいて両社のシェアは年々低下している。PBAも販売数量シェアで40%を超える企業が存在している。また、代替品の存在について、AMSはABS樹脂の耐熱向上剤の用途面で、徐々にPMIと置き換わっており、販売数量は年々低下している。
 アニリン及びTBAに関しては、三井東圧化学は生産量の全量を次の工程に投入しており、出荷設備はなく、合併による国内市場への影響は小さい。また、ユーザーの意見では、フェノールの大手及び中小各社は、いずれも海外価格をみながら価格交渉を行っているとしており、合併によって取引数量、価格面で不利になることはないとしている。
 総合的な事業能力では、その売上高及びエチレンの生産能力シェアで、第l位の三菱化学のほかに有力企業が存在している。以上の点を総合的に判断すると、合併によって直ちにそれぞれの取引分野における競争を実質的に制限することになるとは言えないと判断した。今後、輸入品を含めた競争環境を一層整備するため、とくに集中度の高い品目を中心に関税の早期引下げ・撤廃が望ましいと考え、この旨、関係当局に要望した、という。 


   -------------------------

(日刊ケミカルニュース 1997/4/14-15)

『この人にきく』 テーマ 三井両社の合併と審査基準
    公取委経済取引局企業結合課長  鵜瀞恵子氏

 三井石化と三井東圧化学の合併問題を審査していた公取委が9日これを認める方針を決め、大きな反響を呼んだ。鵜瀞(うのとろ)課長は「これまでも財界やマスコミからは国際銃争を評価に入れてほしいとか、シェアだけでみてくれるなとか、いろいろ言われてきた。それらの声に対して、きちんと回答したつもリ」と、明るい表情。輸入品を潜在的なものまで含めて分母にカウントしたり、競争事業者との関係や代替品の存在などを考慮事項に加えるなど、これまでになく弾力的な判断が示された意義は大きいが"これによって産業界の合併、再編に弾みがつくのでは"との問いには、「それは経営者の賢明な判断しだい。私は競争制限的でないかどうかを見極めるのが使命」ときっぱり。昭和52年、東大経済学部卒。

 ◇     ◇

   「25%基準」を超えたと、大きな反響を呼んでいますが。
鵜瀞     :       ちよっとおかしい。化学業界でもこれまで合併や統合で25%を超えたことは何回もある。三菱化学ができた時も25%ないし、15%以上かつ業界一位という取引分野は、確か十品目以上あったと思う。超えていても問題ないとして通してきたことは珍しくない。ところが、問題なかった会社は何も言わない,知っている人はよく分かっておられると思われるのだが、どうもよく徹底していないようだ。それで業界の人たちの声として、公取委は厳しすぎる、これでは国際競争に勝てない、異論これあり、という報道がなされている。マスコミにも責任があるという気がしてならない。
     
   「25%基準」とは何か、それが理解されていないのでは。
鵜瀞    25%というのば違法性判断基準ではなく、選別基準でしかない。生産能力または販売シェアが合併統合によって25%を超える場合、あるいは15%以上でかつ業界一位となれば、重点審査しますよ、と言っている。そのための選別基準とちやんと書いてあるのに、それを超えたら違反とか何とか思っている人がおられる。25%ルールというのは、公取委に相談に行こうかどうかという基準として、事業者間には存在しているかもしれないが、私たちは絶対にダメとはひと言も言っていない。どうも世間にはそこだけを問題にし、やりにくいと思っている人が多いようだ。自分たちはやりたいのだが、独禁法があるからできない、やりたいこともやれないといったストーリーを自分たちでつくろうとしているのではないかとさえ思いたくなる。
     
   今度の場合、フェノールはどのように判断したのですか。
鵜瀞    発表資料を見てもらえば分かると思うが、フェノールについてはメーカー間に品質の差がないし、ユーザーの側にも使い慣れといった問題がない。ロット、荷姿、運搬、保管の面でも問題が少なく、ユーザーにはこれまでに輸入した経験もある。また、輸入価格、輸出価格、国内価格がほぼ同水準で推移しており、フェノールについては、国内市場も海外市場も共通の価格形成が行われているとみられる。合併してシェアが高くなっても、国内市場で価格や数量をコントロールする力はないのではないか。フェノールの輸入比率は7年度の数字でみても 1.7%にすぎず大きいとはいえないが、国内生産能力が低かった時期にはもっと高かった。最近は国内に供給余力があるためわざわざ輸入するまでもないためではないか。ユーザーの意見でも、合併により価格や数量の面で不利になることはないとのことであった。このようなことから、合併して一つになっても競争制限的ということにはならないと判断した。
     
   ポリプロはまったく問題なかったのですか。
鵜瀞    ポリプロは、生産能力、販売とも一位の競争会社があるし、問題なかった。競争業者も数多く存在している。
     
   三井の審査では、どの点に一番苦労したのでしょう。
鵜瀞    合併審査のあり方について、本件以前から、財界やマスコミにいろいろなことを言われ私たちの耳にも入っていた。一つは国際競争の問題で、自分たちは国内だけでなく海外市場でも競争しているのだからそれも評価してほしいという点、もう一つはシェア問題。シェアだけ見ないでほかの要素も取り入れるべきだというご意見だった。国際競争ということで言えば、シェアの計算を国内だけみてやるのではなく世界市場を分母にしてほしい、でないと世界における位置づけもはっきりしないということのようだった。今度の三井両社の合併審査に当たっては、私たちとしてもこういった人たちのご意見に、具体的な回答を出すことになるという気持ちがあった。この点が一番のポイントになったといっていいのではないだろうか。
     
   "外野席"の声に対して異論があったということですか。
鵜瀞    ええ。私たちのこの二つのご意見に対する反論は、独禁法というのは、国内の競争を推持していくためにあるのですよ、私たちの役割は、国内のユーザーに対して、競争を確保するところにあるのですよ、というところにある。したがって、輸入がある場合は必ず分母に入れて計算する。一方、輸出については、カウントしていない。産業界の人たちは国際競争している、輸出で頑張っていると言っても、海外に安く出して、その分国内で高く売るということだってあり得る。国際商品というなら、海外と国内は同じ値段になる筈で、内外の価格差がなくなっていないと、市場は開かれているとはいえない。開かれた市場で、輸入品が入ってきやすいものについでは潜在輸入の可能性も含めて判断している。その意味で国際競争の問題に対して今回正当な評価をしたと思っている。
     
   製品7品目を取り上げて重点審査されたことについては。
鵜瀞    石化製品の場合はエチレンから誘導品がいくつもあって、続けて生産される。7品目以外にも選別基準に該当する品目は沢山あったと思う。今回はフェノールのようにシェアが高く、両社合算すると業界一位とか二位とかになるようなものを7品目選び、一つひとつについて詳しく検討させてもらった。輸入品はどの位入っているのか、競争業者との力関係はどうか、代替品にどんなものがあるのか、ユーザーにもどう思うか意見をきいたりした。シェア以外の要素を取り入れて審査したつもりだ。
     
   審査には難しい点はなかった、順調にいったと…。
鵜瀞    事前相談の前に両社が合併を発表されていたので、かえってやりやすかった。内密に検討して回答がほしいと言われる場合は、私たちもユーザーその他に意見を聴くことができない。審査には時間がかかったが、比較的スムーズにいったと思っている。皆さん協力的であり、非常にフレンドリーに話ができた。
     
   弾力的な判断を示されたことで、業界の再編も進むのでは。
鵜瀞    「弾力的」とか「柔軟」とか言われるが、公取の審査の考え方が変わったわけではない。審査基準で当てはめた結果が今回の結論に至ったということだ。今回の私たちの判断によって、化学業界の再編の動きに変化が起こり、後続が出てくるのだろうか、その辺ば私にはまったく分からない。皆さん鳴りをひそめて注目しておられたとすると、それなりに影響のあることなのかもしれない。私たちもきちんと組織として合併審査基準の考え方を具体的に示す、いい機会になったという気はする。あとはそれぞれの経営者が賢明な判断を下されればいい。私としては競争制限的でないかどうかを見極めるのが自分に課せられた使命だと思っている。

(化学工業日報 1996/7/24) 

三菱化学/奇美実業 ABS販売提携解消
  
 長年にわたる台湾・奇美実業と三菱化学のABS樹脂での国内販売提携関係が今年9月末で解消される。三菱化学と日本合成ゴムのABS事業統合が10月からスタートするのにともない、
独禁法に抵触することから両社の関係の見直しを余儀なくされたもの。これを機に奇美実業は独自に日本市場で、家電メーカーを初め、コンパウンディング,ABSメーカーとの新たな関係を構築し、日本市場を拡大する方針。(以下略)


(化研フォーカス 1996/9/20)

◇日本のABS樹脂市場に外資攻勢を誘発した独禁法政策を問う

  それは日本合成ゴムと三菱化学の事業統合から発生した
 化学産業の合従連衡は、合併を初め事業統合など幾つかの選択肢のあることは既に知られているが、その狙いはいずれも集約化による事業の合理化、経営コストの軽減といったことにある。ただ、そうした狙いを確実なものとするためには、現行の行政制度が十分に機能しなければ、結局は絵に描いた餅となる恐れが十分にある。
 行政制度の改正については、既に第3次行財政改革以来、「純粋な経済行為に対する規制は原則として緩和する」という不文律があるにもかかわらず、未だに瑣末な規制のために事業の集約化に伴うメリットを最大限追求できないケースがあることを、この際、通産省を初め霞が関の行政関係者は十分に認識しなければならない、と同時にその弊害を取り除くための対策に全力を挙げるべきであろう。
 というのは、この3月、日本合成ゴムと三菱化学両社が合意し、最近、具体的な業務体制に入ったABS樹脂の合弁事業が、世界最大のABS樹脂メーカーである台湾の奇美(チーメイ)実業の挑戦をまともに受ける可能性が強まったことだ。その原因は、純粋な経済行為に対する行政の規制にあるというわけだ。
 この問題は、三菱化学と奇美実業の資本提構関係が、公正取引委員会の勧告によって精算させられたことから発生した。
 三菱化学と奇美実業の関係は、既に10年以上に及んでおり、三菱化学は奇美実業の発行株式の10%を保有してきたが、今回、日本合成ゴムとABS事業で提携した結果、その市場シェアは能力において34.6%(95年実績)、国内の販売市場におけるシェアとしては25.5%(94年実績)と、公正取引委員会が主張する
シェア25%条項に抵触するとして、三菱化学が保有する奇美実業の株式を手放すよう勧告した。三菱化学はその勧告を受け入れ、奇美実業の株式を売却した結果、奇美実業は三菱化学との提携解消を契機として、来年から日本市場に本格的に輸出攻勢をかける意向を表明するに到ったというわけである。(中略)
 
 問題となるのは、公正取引委員会が、なぜ三菱化学に奇美実業との資本関係を解消せよと迫ったのかということである。その論拠は、平成6年8月18日に公正取引委員会事務局がまとめた「会社の株式所有の審査に関する事務処理基準」によったとみられている。
 中でも、「水平型統合における株式所有」が競争に及ぼす影響について、「競争者の市場占有率との格差」で、「当該市場における競争者の市場占有率と比較して、どの程度の格差があるかを見る必要がある。その格差が大きいほど当該株式所有の競争に及ぼす影響が大きいと判断せざるを得ない」というわけである。この条項は海外企業の株式の所有についても判断の基準になるというわけだ。
 公正取引委員会は、日本合成ゴムと三菱化学のABS樹脂事業の集約化で、国内の生産シェアが25%を超えることについては、ある程度理解したが、
台湾の巨大ABS企業との資本提携が、相乗的にその影響を大きくする恐れがあると判断したことは明らかである。
 だが、資本関係が必ずしも当該市場に影響するとは限らない。日本の国内市場と海外市場とは、需給や相場の動きを中心に深く係わっている。しかしそれはあくまでも経済的要件の範囲でのことであり、奇美実業が対日輸出を年間2万トン程度に抑えてきたというのは、日本の市場が奇美実業の生産するロー・グレードの製品を余り必要としなかったからで、決して三菱化学がコントロールしていたとは言いがたい。
 公正取引委員会は、現下の国際市場での競争に目を向けるべきであろう。いつまでも古臭い「競争原理の導入」というお題目で産業を律することの弊害がいかに馬鹿げているか、認識を新たにすることを期待したい。


化学工業日報 1997/6/18

企業結合で判断事例10件公表
公取委 三井石化・住化のL−L新会社など

 公正取引委員会は、96年度に複数の企業間で行われた合併、共同出資会社の設立など、主要な企業結合事例をまとめ公表した。合併や共同出資会社の設立に際して同委員会に届け出・事前相談があったのは、三井石化と住友化学工業による直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)の生産会社設立や、新王子製紙と本州製紙との合併、日本軽金属による東洋アルミニウムの株式取得などで、公取委が独占禁止法上の判断を行った事例10件を紹介している。

 公取委のまとめによると、三井石化と住友化学の共同出資によるL−LDP生産会社である「
日本エボリュー」は、三井石化が75%、住友化学が25%の株式を所有、同社の設立により両社の間に結合関係が生じることになる。LDPEの現状の生産シェアを合算すると25.4%、L−LDPEのみでは28.3%といずれも第1位のシェアを占めること、新会社の生産能力を単純に合算するとLDPEで31.5%、L−LDPEで42.6%ものシェアを占めることが問題点として指摘されたという。
 ただ日本エボリューのケースでは、@LDPEメーカーである両社が新工場の建設に際して提携するもので、あくまでも
部分的な結合であり競争単位の数は減少しないA新会社で生産されるLーLDPEの販売は両社がそれぞれ独自に行うため、販売面での協調関係が醸成される恐れは小さいBLDPE,L−LDPEそれぞれの分野に、生産能力シェアで20%を超える競争事業者が存在するーといったことを総合的に考慮し、公取委が独占禁止法上「ただちに競争を制限することとはいえない」と判断している。


Chemnet Tokyo 2001/6/13

公取委のポリプロ勧告に3社応諾、4社は拒否
  業界7社の対応分かれる

 公正取引委員会はポリプロメーカー7社に対して独禁法規定に基づく「排除勧告」を行っていたが、諾否期限の13日回答が出そろった。
 住友化学からは11日に不応諾の回答があったので、この日は6社が回答した。
 勧告を
「応諾」すると回答があったのは、日本ポリケム、グランドポリマー、チッソの3社、これに対し住友化学、出光石油化学、サンアロマー、トクヤマの4社は勧告理由を不服として「拒否」の回答を行った。
 公取委では今後直ちに
応諾した3社に対して審決の手続きに入る。応じない4社には審判開始手続きを行う。
 応諾を回答した3社のうち日本ポリケムは同日午後、「今後は2度と同じことを繰り返さないよう法を順守する」との趣旨のコメントを発表した。
 しかしグランドポリマーとチッソの両社は公取委の勧告理由を必ずしも全面的に認めたわけではなく、グランドポリマーは「まぎらわしい行為があったことは反省」、チッソは「早く事業に専念したいため」と説明している。
 「不応諾」の住友化学など4社は、今回の公取委の勧告を「そのような事実はない。全く納得できない」と、強く否定、「今後は審判の場で事実が明らかになると確信している」と、係争していく構えをみせている。

(化学工業日報 : これにともない応諾3社は需要家などに不除措置を講じたうえで、勧告審決−課徴金を納付、終止符を打つ。一方、非応諾の4杜の独禁法違反に対する審議は公正取引委員会の審判廷に移り、審判審決によってはさらに訴訟に持ち込まれる。)


日本ポリケムのコメント「法の順守徹底図る」  
 「勧告を厳粛に受け止めている。今後は2度と同じことを繰り返さぬよう、法の順守を企業倫理の柱にかかげ、社内体制、社内教育の強化と意識の徹底を図っていく所存だ」

サンアロマー「カルテルに参画の事実ない」
 「当社は発足当時から独禁法等の法令を順守し、自由かつ公正な競争の実施を追求することを経営の基本原則としてきた。今回の勧告に関する価格カルテルに参画した事実はなく、応諾することはできない」 

グランドポリマー(GRP)「まぎらわしい行為は反省」

(1) GRPは、今回の排除勧告を真摯に受け止め、勧告を応諾することにした。
(2) 勧告における事実認定では、「昨年3月6日の会議において7社の合意が成立した」などとGRPの認識と異なる部分もあり、応諾するか否か苦慮したが、まぎらわしい行為があったことも事実であり、これを反省するとともに、早く結論を出して欲しいという社員の気持にも配慮し、応諾することにした。
(3) 勧告書の中でGRPの認識と異なる点については、異例な対応ではあるが、勧告応諾の際に、上申書という形で公取委へ提出した。
(4) GRPとしては、これを契機に、独禁法順守の最徹底に努めたいと考えている。 

 


日刊ケミカルニュース 1998/8/5

☆公取委、旭化成−三菱化のPS事業統合承認
    「国際競争激化」など考慮、新会社10月発足

 公正取引委員会はこのほど旭化成工業、三菱化学両社から事前相談のあったポリスチレン事業での合弁会社設立について、「独禁法上問題ない」と無条件で認める方針を決め、両社に伝えた。合弁会社のPS生産能力は、旭化成343千t(水島163千t、千葉18万t)、三菱化学20万t(四日市)、合わせて543千t、市場シェアは旭化成 23.1%、三菱化学 13.4%で合計 36.5%となる。電気化学、日本ポリスチレンなどの2位以下を大きく引き離すことになるため、公取委の判断が注目されていた。しかし公取委は先の企業結合規制の見直しの中で、「世界的な大競争時代の下、欧米諸国でも競争政策の適用は国際市場における激しい競争を意識したものに変化しており、
大規模な企業結合を積極的に容認している」とし、また、「独禁法の機能を保ちつつ、企業がより自由に経済活動を行うことができることが重要」との認識を示している。今回の判断もこれに沿ったものとみられる。
 旭化成、三菱化学の両社は公取委から許可内示を得たため、今後会社設立の正式手続きに入る、新会社は10月1日付で設立、当面はPSの国内販売のみで営業を開始するが、引き続きモノマーの再編、統合についても検討を進め、1年後をめどに製造、研究開発部門を移管、製販一体とする予定。PSの事業環境は内需の低迷や、大手ユーザーの海外への生産拠点の移転、海外競合メーカーとの競争激化など厳しさを増している。こうした中で両社は一層事業基盤を強化し、国際競争力を確保していこうとしているもので、業界では今後こうした動きがさらに高まるとみられる。


日本経済新聞 2002/5/30

合併の事前相談 90日以内に結論 公取委

 公正取引委員会は29日、企業から合併や経営統合などに関する事前相談があった場合、必要な資料が提出されてから原則90日以内に結論を出す方針を明らかにした。日本航空と日本エアシステムの経営統合問題では、決着までに4カ月近くかかり、公取委が機動的な経営を妨げていると批判されていた。
 公取委の山田昭雄事務総長が記者会見で表明した。公取委はもともと「90日以内」を内部的な目安としていたが、2001年度には日本ポリケムとチッソ、三井化学と住友化学工業のポリプロピレン事業統合の場合も、公取委が問題点を指摘、修正計画の承認までに90日以上かかってしまったという。

 


 

1994/8/19 日本経済新聞

「シェア25%超える合併」 独禁法違反に直結せず
  公取委 ガイドライン改正 審査基準の表現明確に

 公取委ガイドライン改正のポイント

  合併後のシェアが25%を超えても、ただちに独禁法違反とならないと明記
  選別基準の明確化。
    「シェアの較差が大きい場合」を「シェアの差が1位の会社のシェアが4分の1以上」に替える。
  合併審査の場合の考慮事項に注釈をつけ内容を説明。
  将来の輸入増加や合併による効率性の向上は、合併審査の際に競争促進要因として考慮すると明記。

 公正取引委員会は18日、企業の合併が独禁法違反となるかどうかの審査基準を示した「合併ガイドライン」を発表した。これまでのガイドラインよりも内容や表現を明確にし、分かりやすくした。
 具体的には「市場シェアが25%を超えると合併は認められない」といった誤解を解くために、「25%基準」は重点審査の対象を選別する基準に過ぎないと明記した。
 また「競争者が相当程度少数の場合」などの抽象的な表現を改め、「競争者が7以下」と具体的な数値を示した。


日本経済新聞 2002/12/16

三井化・住友化統合「問題なし」 公取委

 公正取引委員会は16日、2003年10月に持ち株会社を設立する三丼化学と住友化学工業の事業統合が独占禁止法に抵触しないとの判断を両社に伝えたと発表した。公取委は新会社が3つの化学製品の国内市場を実質的に独占する恐れがあると指摘していた。これに対して両社は独占状態を緩和する方策をとる方針を説明。公取委は「実質的に競争を制限する恐れはない」と判断した。