日本経済新聞 2009/8/25

天然ガス、7年ぶり安値 NY市場 需要不振で在庫増

 天然ガスの国際価格が一段と下落し、7年ぶりの安値に落ち込んだ。指標となるニューヨーク先物市場の価格は、2002年8月以来の100万BTU(英国熱量単位)あたり2.8ドル台。米国の景気低迷で発電・産業向けの需要が振るわない一方、供給量が拡大し在庫増加に歯止めがかからない。日本などが輸入する液化天然ガス(LNG)のスポット価格の押し下げ要因にもなりそうだ。
 ニューヨーク市場の9月物(期近)は21日の終値が100万BTUあたりで2.804ドル。08年7月の過去最高値に比べると79%も下げた。ロンドン市場では同3.530ドル(米ドル換算)と7月以降3ドル台で低迷している。

 価格下落は在庫の積み上がりが主因。米エネルギー省によると、在庫量は14日時点で約3兆2000億立方フィートとなり、前年同時期に比べ約25%も多い。ガス田の開発活動を示すリグ(掘削装置)は前年に比べ減っているが、既存のガス田からの供給が潤沢にある。
「冬の需要期を前に在庫の貯蔵能力が限界に達するとの観測があるほど過剰感がある」(石油天然ガス・金属鉱物資源機構の野神隆之・上席エコノミスト)という。
 ニューヨーク市場ではヘッジファンドなどの投資マネーも売り姿勢を強めている。市場では「需給緩和は続き、相場も軟調に推移する」(日本エネルギー経済研究所の小山堅理事)との指摘もある。
 世界のLNGのスポット市場にも影響しそうだ。スポット価格は現時点で100万BTUあたり4ドル前後と昨年夏より8割程度安い水準。製造業の減産などで日本の電力・ガス会社の引き合いも大幅に減っている。米国の天然ガス在庫の増加を背景にLNG需要が減少すれば、さらに値下がりする可能性もある。
 一方、アジアのLNG長期契約価格は原油価格に連動する仕組みになっている。長期契約が大半を占める日本のLNG輸入価格は6月時点で7ドル台だが、原油高を受けて今後はスポットとの価格差が広がりそうだ。

 

日本経済新聞 2009/5/28

天然ガス国際価格、一段と下落 供給増、産業需要は低迷
 NY、6年8ヵ月ぶり安値圏

 天然ガスの国際価格が一段と下落している。指標となるニューヨーク先物市場の価格が6年8カ月ぶりの安値圏にあるほか、アジアの液化天然ガス(LNG)のスポット価格も昨夏に比べ8割安い。新規ガス田からの供給が増えて需給の緩和感が強く、国際商品価格全般の上昇からも取り残された格好だ。原油より発電・産業向けが多いだけに、世界的な産業需要の低迷を反映している。


 ニューヨーク市場の6月物(期近)は26日時点で百万BTU(英国熱量単位)当たり3.537ドル。5月上旬には4ドル台まで上げたが再び下落に転じた。ロンドン市場では同4ドル強(米ドル換算)となり約2年ぶりの安値に落ち込んだ。いずれも昨年7-9月の最高値から74%安い。
 大口需要家の電力会社やガス会社などが調達を手控えている。米エネルギー省によると、天然ガスの在庫は15日時点で2兆1200億立方フィート。過去5年間の同時期の平均在庫に比べて2割強多い水準にある。
 一方の供給も過剰感が強い。長期的な需要増を見越して開発が進んでいたロシアやインドネシア、カタールなどの新規ガス田が相次ぎ稼働。数千億ー1兆円の開発コストを回収するためフル操業を続けている。
 先物価格の下落もあり、アジアのLNGスポット価格は「昨夏は20ドル程度の成約もあったが現在は4ドル程度」(日本.エネルギー経済研究所の森田浩仁研究理事)という。日本のLNG輸入は長期契約中心だが、「需要減退で調達量を下方修正するガス会社などが増えている」(業界関係者)との指摘もある。
 天然ガス市場は原油に比べ投機資金が入りにくく、需給を反映しやすい。今後も世界的に供給増加が続く見通しで、先物やスポット価格は軟調に推移しそうだ。
 日本の電気料金の一部には長期契的のLNG価格が反映される。ただ、LNG価格を左右する原油価格が上昇しているだけに、LNG需給の緩和が電気料金の下げにどこまで影響するかは不透明だ。

▼天然ガス
 メタンを主成分とする可燃性のガス。発電や工場のボイラー燃料などに使う。米国や欧州ではパイプラインを通じて、アジアでは冷却して液化天然ガス(LNG)にして輸送されることが多い。日本では2007年で一次エネルギーの16%程度を占める。BTUは1ポンドの水の温度を1度(カ氏)上げるのに必要な熱量。

天然ガス

天然ガスにはメタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン以上の炭素化合物、窒素が含まれ、産出する場所によってその割合は少しずつ違ったものになる。 例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン以上の炭化水素、窒素のそれぞれの割合は、

といった具合である。

これらの他に不純物として、水、炭酸ガスや硫黄酸化物、硫化水素などを含む。例外的に、北アメリカ産やアルジェリア産の天然ガスには1%〜7%ものヘリウムが含まれており、世界の数少ないヘリウムの供給源となっている。

産出場所での分類では油田地帯で出るものは油田ガス、石油系天然ガスと呼ばれ、炭田地帯では炭田ガス、炭層ガスと呼ばれ、遊離型ガス鉱床では水溶性ガスと呼ばれる。

ガス田からのガス田ガスは「乾性ガス」とも呼ばれ、メタンが85%-95%と主体を占めその他のエタン、プロパン、ブタンなどは比較的少ない。ガス田ガスは液化されてガス田由来のLNGとなる。このような天然ガス鉱床は遊離性ガス鉱床と呼ばれる。

油田地帯から出る油田ガスは、10-15m³のガスから1リットル程度のガソリンが採取できるため「湿性ガス」とも呼ばれ、幅広い組成を持つこのガスは中東地帯などでの産出では従来はすぐにガスフレアによって破棄されていたもので、21世紀初頭現在はこれも液化によって回収されている。この湿性ガスはメタン成分が多ければ液化されて油田由来のLNGとなり、少ない時はLNGの原料ではなくLPGの原料となる石油ガスであり液化されてLPGとなる。このような天然ガス鉱床は油溶解性ガス鉱床と呼ばれる。 また、原油の精製プラントから生まれるガスは「精製ガス」と呼ばれ、液化されてLPGとなる。

メタンやプロパンなどのガスは容易に燃焼し、燃焼後に残渣が残らないので燃料として優れたものですが、常温・常圧では熱量当たりの体積が大きくそのままでは輸送や貯蔵に問題があります。
そこで、ガスを液体にすることによって、体積を小さくして、輸送や貯蔵に便利なようにするわけですが、ここでLPGとLNGで大きな違いがあります。
LPGの主成分であるプロパンやブタンは圧力をかけることにより、常温で液体になり、体積は約1/250となります。(容器が透明なライターの中の液体)
ところがLNGの主成分であるメタンはいくら圧力をかけても常温で液体にはなりません。このため、温度をマイナス162℃という極低温にすることによって、液化して体積を1/600にしています。

ちなみに天然ガスは液化するために約15%のエネルギー損失があるそうです。また、極低温を維持する容器は特殊で高価なものになります。

中東では1980 年代初めまで,大部分の随伴ガスは焼却放散され,有効利用が図られずにきた(図表4)。石油は国際的な商品となったものの,天然ガスは輸送が容易でないことから自国内で消費することも,輸出されることもなかった。石油を外貨獲得手段とすれば充分であり,コストのかかる天然ガス開発を積極的に推進する理由がなかったのである。
 しかし,過去15 年間で中東の天然ガス需要は急増し,1983 年の399 億m3から1998 年には1,718 億m3 に達している。これは例えば1982 年から稼動したサウジアラビアのマスター・ガス・システム(MGS)のように,産油国が随伴ガスを発電や淡水化プラントの燃料として,また石油化学等の工業用原料として積極的に活用する方向へ大きく政策転換し,また,構造性ガス田の開発に投資した結果といえるのである。

 中東の天然ガス用途別国内消費量
 Cedigaz によると,一次エネルギー消費のなかで天然ガスの占める割合はカタール (92%)とバハレーン (82%)の2国は非常に高く,UAE,オマーンおよびクウェイトでは50%を越え,また消費量は大きいがサウジアラビアとイランは40%前後にとどまっている。
 天然ガスは国内では主に発電や淡水化プラント用燃料,石油化学や肥料等製造用の原料,油層への再圧入に使われる。家庭用としてはガスの幹線輸送や地域配給網が未整備なためイランを除きほとんどの国であまり普及していない。今後の天然ガス需要は経済成長とガスの価格次第ではあるが,発電用燃料と石油化学用原料としての需要の伸びが大きいと予想されている。用途別国内消費の現状は次のとおりである。
(1) 発電・淡水化用:ガス燃焼型発電の増加で,天然ガスの全消費量のうち発電用が占める割合は約33%である。また,総発電量でみると,サウジアラビアは42%,イランは54%,UAE,クウェイトとオマーンでは約80%,カタールとバハレーンでは 100%が天然ガスによる発電である。
(2) エネルギー用:石油や天然ガスの生産,処理,輸送部門での天然ガス消費量は約26%で,NGLの増産で消費量は今後増加する見込みである。
(3) 産業用:工業用燃料としての利用は約26%を占めている。エネルギー多消費産業はあまり成長が期待できず,消費の拡大は見込めない。
(4) 石油化学用:製品原料としての天然ガス消費量は10%であるが,安価なガス(カタールでは0.50 ドル/100 万Btu,サウジ0.75 ドル/100 万Btu)を原料とする大規模生産は価格競争力を持ち,またメタノールやエチレン等のプラント増設が数多く計画されているので,今後さらに需要は伸びる見込みである。
(5) 家庭・商業用:イランでは国内の天然ガス消費量のうち35%を占めるまで普及しているが,その他の国ではガスの地域配給網が整備されていないこともあり,全体では5%程度の消費にとどまっている。
既設容量追加容量伸び率予想コスト