(日経産業新聞 2000/10/12)

   2004年の石化製品関税率下げ 最大1000億円の減益要因
      過剰設備の廃棄必要 再編は強者連合で  
      ニッセイ基礎研試算 百嶋主任研究員に聞く

 2004年の石化製品の関税率引き下げで国内の石化業界は最大1千億円の減益要因を抱える! ニッセイ基礎研究所はこのほどこんな試算をまとめた。試算の根拠や化学業界への具体的な影響などについて、リポートをまとめた同研究所の百嶋徹主任研究員に聞いた。

  欧米と同水準に
− 関税率引き下げはどの程度の減益要因になるのか。

 「ポリオレフィン(ポリエチレンとポリプロピレン)の関税率は現在欧米に比べて割高な水準となっているが、2004年には欧米と同水準の6.5%に引き下げられる。1999年平均のアジア市況と円レートで比較すると、2004年は、99年に比べてポリエチレンでキロ当たり約10円、ポリプロピレンで約14円の引き下げとなる」
 「国内のポリオレフィン価格は関税率引き下げをきっかけに割安な輸入品の価格に収斂していくので、この分を5円程度と想定すると、合計で平均値下がり幅は17円程度となるだろう。99年の内需量は500万トン強だから、業界全体で860億円の減益要因が発生する計算だ。国産品の内需の1割程度は輸入品に代替されるかもしれない。そうなると減益要因は1千億円を超えるだろう」

  アジアで欧米勢攻勢
ー 「2004年問題」を控え、日本の化学メーカーがとるべき対策は。

 「競争力を失ったプラントはもっと設備廃棄を進めるべきだ。エチレンでは昭和電工が大分コンビナートの1号機を8月に停止し、年末には三菱化学が四日市のプラントを止めるが、各社の増設計画もあり、内需に対して依然2割程度は過剰だ」
 「特にポリオレフィンでは老朽化した設備を廃棄して大型設備を建設するスクラップ・アンド・ビルドを早期に実施する必要がある。ポリプロピレンで見ると参入企業数はここ数年で14社から7社に半減し最も再編が進んだと言われるが、1プラント当たりの平均生産能力は8万−9万トンと国際標準とされる15万−20万トンの半分程度にとどまっている」

ー 関税率引き下げをにらんだ外資の動向は。

 「再編を繰り返して巨大化した欧米企業がアジア市場での攻勢を強めようとしている。例えば、今年10月にもスタートするシェルとBASFのポリオレフィン事業統合会社はポリプロピレンで年500万トンの設備を持つ。これは日本全体の能力の2倍近い規模。同社が日本と韓国に相次いで設立した合弁会社の生産能力は合計で年80万トンで、日本最大手の日本ポリケムを抜いて、アジア市場でトップに躍り出る」

  構造改革きっかけに
ー 日本では再編が進むのか。

 「今後の再編は強者連合の形で進めるべきだ。日本市場で50%前後のシェアを握るくらいの圧倒的なリーディング・カンパニーの誕生が望まれる。製品ごとの企業数が2,3社程度に集約されるべきだろう。これまでの業界再編は事業を単純に合算して規模を拡大することに力点が置かれてきた。今後は強者連合を実現し、同時に老朽化した設備を廃棄する手法も求められる」

− 原油高で各社は製品値上げに取り組んでいるが浸透していないようだ。

 「減産による在庫調整が不十分なうえ設備過剰感が抜けていないからだろう。日本の石化メーカーが欧米に比べ低収益なのは、過剰設備を抱えているために市場支配力が弱いことが背景にある。今回の原油高を単なる値上げで乗り切ろうとせず、構造改革に取り組むきっかけにすべきだ」

(聞き手は林慎一)

百嶋徹
85年関西学院大学経卒、野村総合研究所入社。野村アセット・マネジメント投信を経て、98年から化学を中心にした産業分析を担当。38歳。

 

 


日本経済新聞 2003/11/26

合成樹脂、品種絞り込み 石化大手 コスト圧縮急ぐ
 三井化学など最大9割減

 石油化学大手が包装材料や電気製品用の部品に使う合成樹脂の大幅な品種削減に乗り出す。三井化学が大型設備の稼働に合わせてポリプロピレン樹脂の汎用品種を10分の1に削減し、三菱化学系の日本ポリエチレンもポリエチレン樹脂の品種を6−7割減らす。中国などとの国際競争が激しさを増す中、量産効果を高めてコスト引ぎ下げにつなげる。
 合成樹脂では最終製品を作る顧客企業の要求に合わせ、耐熱性や強度の異なる品種(通称グレード)を生産してきた。各社は今後、顧客に性能の近い品種への切り替えを促す。
 三井化学は大阪工場(大阪府高石市)に建設した世界最大級の年産30万トンのポリプロピレン設備を来年初めに本格稼働する。これに伴い小規模の3設備を休止し、50程度あった生産品種を5品種まで減らす。品種絞り込みで製造・物流コストの1割弱、約50億円を削減する。
 三菱化学系と昭和電工系の2社が事業統合して9月に発足した日本ポリエチレンも、統合前に1000程度あった品種を最終的に300−400まで減らす。同社の年産能力は126万トンで国内最大手。6工場の20設備のうち四日市工場(三重県四日市市)などの古い設備を休止する。
 電気製品のケース部品などに使うポリスチレンでは、最大手で旭化成系のPSジャパンも60あった品種を今年度中に4割程度減らす。多品種を持つことで保管・輸送コストがかさんでいた弊害を解消する。
 欧米やアジアでは樹脂の品種が少なく、その分価格も安い。電機・自動車メーカーなどは海外生産を拡大する過程で部品の共通化を進めている。低価格の量産樹脂を採用することはコスト削減にも役立つため、「大口ユ−ザーは品種削減に理解を示している」(PSジャパン)という。

中国急成長 海外と競争本格化
 
 石化業界では本格化する海外製品との競争を控えて抜本的なコスト削減策に迫られている。合成樹脂の輸入税率はウルグアイラウンド(多角的貿易交渉)の合意により1995年から段階的に下落。94年以前に1キログラム当たり22.4円だったポリエチレン(国内汎用品価格は1キログラム当たり100円強)の関税は今年同9.7円に、最終年の来年には6.5%の従価税に移行する。
 かねて石化業界は中東などからの低価格輸入品の攻勢で大打撃を受けると予測していたが、実際には急拡大する中国市場に製品が流入。国内での日本製品の競争力はさほど落ちていない。
 次のハードルは中国で石油化学コンビナートが相次ぎ稼働する2006−2007年。「五輪や万博が終わり需要が一服すれば日本への本格流入が始まる」(化学大手)。川下の樹脂加工品では買い物袋(レジ袋)などで安い中国製品の輸入が増加。
 ポリエチレンでは加工品を含む輸入品が内需の2割程度に達したとの見方もある。
 再編を経たとはいえ、ポリエチレン10社の総生産能力は年370万トンで内需を100万トン上回る。
 輸出、内需が減れば、一層の品種削減と設備の大型化は避けられない。