日本経済新聞 2002/8/23

液晶・PDP素材増産 旭硝子や住友化など国内外で400億円投資

 旭硝子、住友化学工業など化学各社が液晶ディスプレーやPDP(プラズマ・ディスプレー・パネル)向けの電子素材・部品で相次ぎ増産体制を敷く。合計の投資額は国内外で400億円超となる。テレビが世界的にブラウン管から液晶やPDPに移行しつつあるほか、当面は情報・電子機器組み立ての集積が進む中国向け需要が下支えになるとみて成長に備える。
 旭硝子は愛知県武豊町の工場で9月にPDP画面の色調整や電磁波遮断に不可欠な光学フィルターの生産を倍増。来秋までには国内や台湾の工場で液晶モニター用ガラス基板を7割近く増やす。このため合計で190億円を投じる。住友化学も150億円をかけ韓国、台湾、中国の拠点で液晶用の偏光フィルムの能力倍増を計画している。
 日清紡は愛知県岡崎市の工場で生産する光学フィルターの生産能力を3年以内に5倍の月5万枚に引き上げる。旭化成は中国で、半導体やプリント基板の回路形成に使う感光性樹脂の増産に着手する。
 液晶モニターは主力のパソコン向けが低調だが、旭硝子は「テレビ用途の拡大で年率3割の需要増が期待できる」と予測。またPDPの出荷は2002年で35万台程度のもようだが、日清紡は「今後は年間で倍近く伸び、2005年には300万台をうかがう規模に急増する」と判断、それぞれ増産に踏み切る。
 各社は中国向け需要が堅調に推移しIT関連素材の回復を支えるとみている。感光性樹脂を中国で増産することにした旭化成はプリント基板向け需要の回復に加えて将来は半導体向けも増えると想定、「2005年までの感光性樹脂の成長率は日本の1%に対し中国は10%を上回る」(同社)と予想している。

化学各社の主なlT素材増産例

社名   素材               内容 投資状況
旭化成 感光性樹脂 2003年3月に中国向け倍増  20億円超
液晶向け導光板 2002年10月までに倍増  20億円
旭硝子 液晶向けガラス基板 2003年10月までに66%増 170億円
PDP用光学フィルター 2002年9月に倍増  20億円
宇部興産 シート状プリント基板用原料 2004年春までに27%増  40億円
住友化学 液晶用偏光フィルム 2003年内に2.1倍 150億円

 


日本経済新聞 2002/9/18        発表文

豊田合成・日亜化学が和解発表 青色LED、訴訟合戦に終止符

 豊田合成と日亜化学工業(徳島県阿南市、小川英治社長)は17日、青色LED(発光ダイオード)の特許などを巡る訴訟について、全面和解することで合意したと発表した。これまでのすべての訴訟を双方が取り下げるほか、将来の特許を使用する場合にライセンス料を支払うことなどで合意した。
 同日、豊田合成の松浦剛社長と日亜化学の小川社長が和解合意書に署名。1996年8月から6年にわたる約40件の訴訟合戦に終止符を打った。名古屋市内で記者会見した豊田合成の田中裕副社長は「不毛な争いはやめて技術開発に専念したい」と語った。日亜化学は「日本発の発明を今後とも日本の製造業発展に生かしたい」(田崎登専務)とのコメントを発表した。
 青色LEDは携帯電話に使われるほか、光ディスクを使った記憶装置向けの青色半導体レーザーや、照明用途として大きな市場が見込める白色LEDへの応用が期待されるハイテク技術。2005年には世界で年間2千億円程度と現在の2倍の市場規模が見込まれる。
 日亜化学はこれまで他社へのライセンス供与を認めない戦略をとってきたが、今年に入り青色LEDなどに関する特許をシチズン電子などに相次ぎ供与。6月には独オスラム社と和解するなど事業拡大を重視した戦略に転換した。裁判関連の費用も負担になっていることもあり、最大の係争相手だった豊田合成とは7月から和解に向けた交渉を進めてきた。
 今回の合意により両社は今後、互いの特許に縛られることなく製品開発に取り組める。豊田合成は日亜化学の持つ白色LED技術を使った製品を拡充できる。
 また、これとは別に19日には日亜化学と同社元社員の中村修二・カリフォルニア大教授との間であったLEDの特許権の帰属などを巡る訴訟に関し、東京地裁で判決が言い渡される。

豊田合成と日亜化学の和解合意書の骨子
@自社の保有する特許に基づく製造・販売の差し止めや損害賠償などの請求をしない
A相手方が現在保有する特許に関して、損害賠償金の支払いや自社製品の製造・販売の中止などの義務を負わない
B両者間のすべての訴訟を取り下げる
C将来の製品について相手方の将来の特許を使用する場合にライセンス料を支払う
DYAGと呼ぶ蛍光体を使った白色LEDに関し、豊田合成は日亜化学の特許を使用する場合にライセンス料を支払う


日本経済新聞 2003/1/16

薄型表示装置 国内投資2000億円に倍増 来年度 液晶・プラズマ新工場

 テレビやパソコン画面に使われる薄型表示装置の国内投資額が、2003年度に前年度比2倍の2千億円に急増する見通しだ。液晶型ではシャープや日立製作所が、プラズマ式では松下電器産業と東レの共同出資会社やNECなどが相次ぎ新工場建設やラインの増設に踏み出す。3年間で投資が激減した半導体を補う大型産業に育ちつつあり、冷え込む民間投資の下支え役になりそうだ。
 液晶では、30インチ大型液晶テレビの販売が好調な
シャープが2003年度の液晶投資を前年度比2倍の1080億円に引き上げることを既に明らかにしている。液晶テレビ一貫生産拠点の亀山工場(三重県亀山市)の稼働時期を当初の2004年5月から4カ月前倒しし、大型表示装置の生産量を投入ガラスの面積比で倍増する。
 液晶国内2位の
日立製作所は千葉県茂原市にある全額出資の液晶子会社で4月から新ラインを稼働、月産枚数を2万枚から4万枚に増やす計画で説B費整備を進めている。
 プラズマでは松下と東レが共同出資する
松下プラズマディスプレイ(大阪府茨木市)が敷地内に600億円を投じて新工場を建設する。同社の生産能力は来年度末には今年度比3倍の月間6万5千枚になる。パイオニアも160億円で静岡県袋井市に新工場を建設する。
 ラインの増設や設備増強も活発だ。
NECは270億円を投じ、鹿児島県出水市の子会社にラインを増設し生産量を3倍に、富士通と日立の共同出資会社は100億円で設備を増やし今夏から生産量を1.5倍にする。
 液晶とプラズマを合わせた各社の国内投資総額は2003年度に2千億円に達する見通し。パソコン用に加え、薄型テレビの需要が世界的に増えているためだ。電子惰報技術産業協会によると今年の薄型テレビの世界市場は前年より100万台多い250万台になる。
 ブラウン管から薄型表示装置への切り替えも急ピツチで進む。米ディスブレイサーチの調査では薄型装置の生産金額は2002年に初めてブラウン管を上回った。薄型装置を巡っては韓国と台湾企業が日本メーカーを脅かす存在になりつつある。半導体と同様、投資規模が価格などの競争力に直結するため、各社は積極投資を続ける。

半導体に代わり設備投資下支え

 内閣府の法人企業動向調査によると、設備投資総額に占める電気機械業の割合は1割弱。半導体の投資抑制などで2002年度の減少幅は20%を超える見込み。東芝やNECなど国内半導体12社の設備投資総額は直近のピークが2000年度の1兆6千億円だったが、業績悪化の影響で2001年度に5800億円、今年度は4200億円に落ち込む見通しだ。
 こうしたなかで半導体に次ぐ電機産業の柱に成長してきた液晶、プラズマ投資の急増は”干天の慈雨”ともいえる。今後も薄型テレビの需要は世界的に増え続ける見通しで、2005年以降も表示装置の供給不足が続くとの見方が多い。
 バークレイズ・キャピタル証券チーフエコノミストの山崎衛氏は、民間投資下支えのカギは「情報技術関連の中でも薄型表示装置やDVD(デジタル多用途ディスク)など高機能製品」とみる。こうした製品の生産拠点は、まだ海外に移転していない場合が多く、設備投資が海外に逃げる空洞化懸念が少ない。
 研究開発の成果を盛り込みやすいため、先行減税の効果が設備投資を後押しする可能性もある。


日本経済新聞 2003/2/7

有機EL基板 開発競う
 住友ベ−クライト 樹脂製にめど
 日本ゼオン 高機能素材応用を研究

 素材各社が有機エレクトロ・ルミネッセンス(EL)ディスプレーに使う樹脂製基板の開発を競っている。住友べークライトが2年後をメドに量産する方針のほか、日本ゼオンやJSRも開発を進めている。有機EL基板は現在はガラス製が主力だが、樹脂製への移行で折り曲げたりできる表示装置も作れるようになり、市場が一気に広がる可能性がある。
 将来の表示装置の主力の一つとして期待される有機ELディスプレーは画素となる発光有機体を基板に無数に定着させて、映像を表示する仕組み。現在の液晶表示装置(LCD)のように基板の後方から光をあてる必要がないため、大幅に薄くすることができる。
 住友べークライトは有機EL用に表面の凹凸が1ナノ(ナノは10億分の1)メートル以下の平面性を持つ樹脂基板を開発した。高精度の画像を実現するには基板に高度な平面性が必要なため、これまでガラス製基板が主力になっているが、新開発の樹脂基板はガラスと同程度の品質を実現した。基板の厚さはガラス製の5分の1以下の0.1ミリメートル程度になる。
 住友べークライトは試作品を電機メーカーに提供するなど商品化に向けた評価作業に着手した。2年後の量産化に向け尼崎工場(兵庫県尼崎市)などを候補に製造設備の設置を検討している。発売後5年で50億円の売り上げを目指す。
 特殊ゴム大手の日本ゼオンは「ゼオノア」と呼ばれる高機能樹脂を有機EL用樹脂基板に応用する研究を進めている。有機EL表示装置の需要が本格的に立ち上がる2、3年後をメドに商品化する考え。合成ゴム最大手のJSRも同様に樹脂基板の開発を進めている。
 将来は腕に巻き付けたり、衣服に張り付けるといった応用も期待されることから、柔軟性を持つ樹脂基板の市場性は高いと各社はみている。ただ、ガラス基板は水や空気に対する耐久性が高いうえ、「価格も半分以下」(旭硝子)というメリットもある。樹脂基板の品質やコスト競争力をどこまで高められるかが普及に向けての今後のポイントになる。

主な有機ELディスプレー向け素材と開発・製造会社

低分子系有機EL材料
(発光材料)
出光興産、新日鉄化学、東洋インキ製造、三井化学、
高砂香料工業、独コビオン、米イーストマン・コダック
高分子系有機EL材料
(発光材料)
住友化学工業、昭和電工、新日鉄化学、独コビオン、
米ダウ・ケミカル
樹脂製基板 住友べ一クライト、日本ゼオン、JSR
ガラス製基板 旭硝子、日本電気硝子、米コ 一ニング


素材改良、普及のカギに

 将来は1兆円市場との予測もある有機EL表示装置の普及のカギを握るのが関連の素材開発だ。基本特許の多くを米イーストマン・コダックが保有する有機ELだが、市場拡大には素材の品質や性能の向上が不可欠で、日本企業が主導権を発揮する余地は大きい。
 有機ELは1999年に東北パイオニアが初めて量産化。その後、TDK、韓国サムスン電子・NEC連合、台湾のライトディスプレイが参入した。昨年の世界市場は約100億円で、大きさ1−2インチの携帯電話機や自動車向けが大半を占める。
 薄さと見やすさが売り物。市場がまだ限られるのは現行の材料や技術では寿命が短く、製造段階での歩留まりも低いことがある。5年後の市場予測が調査会社などにより2千億−1兆円とばらつくのも未知数の部分が大きいからだ。
 基板以外の大きな焦点は発光材料。現在主力の低分子系材料では出光興産と新日鉄化学が先行する。今は発光寿命で1万時間以上を実現した段階。「3万時間以上を実現した材料もあり、今後はテレビ用途の開拓に向け5万時間以上に延ばす研究開発を進める」(出光興産)という。
 テレビなど大画面に適した発光材料といわれるのが高分子系材料。低コストで加工できるのが特長で、住友化学工業は英CDTと提携。昭和電工はNHK放送技術研究所と共同研究している。課題の寿命長期化については住友化学が三原色で今年度中に1万時間の達成を目指している。