朝日新聞 2003/10/16

花粉症に効くヨーグルト、04年にも発売 キリンビール

 キリンビールは15日、目のかゆみや鼻水など花粉症の症状を抑える効果が期待できるヨーグルトや健康食品を、04年にも発売すると発表した。免疫細胞のバランスを改善する乳酸菌を発見し、昭和女子大の飯野久和教授のグループとの共同研究で、効果を確認したという。23日から岐阜市で開かれる日本アレルギー学会で発表する。

 アレルギーは、体内の免疫細胞のバランスが崩れて起こるとされる。食品と薬品の両部門を持つキリンは、保有する100種以上の乳酸菌からマウスを使った実験で免疫バランスを大きく改善する菌を発見。花粉症に悩む約30人の社員を対象に今春、この乳酸菌を使ったヨーグルトを毎日食べさせ、経過を観察した。

 その結果、約半数に顕著な効き目があり、目のかゆみなどが和らいだ。薬での対症療法のような副作用の危険もなく、ヨーグルトなどの形で定期的に摂取すれば、体質改善やアトピー性皮膚炎などを抑える効果も期待できるという。同社では、清涼飲料や機能性食品などとしても、商品化したい考えだ。


2003年10月15日 キリンビール

「乳酸菌の保健機能性に関する研究」 (1)
アレルギー改善作用を有するKW乳酸菌の発見について
〜ヒトでの摂取試験により、花粉症の改善効果を検証〜
   
 http://www.kirin.co.jp/company/news/11/031015_1.html

 キリンビール株式会社(社長 荒蒔康一郎)は、基盤技術研究所(横浜市金沢区)で行っている「乳酸菌の保健機能性に関する研究」で、高いアレルギー改善作用を有するKW乳酸菌(学名:Lactobacillus paracasei KW3110株)を発見し、そのアレルギー改善作用に関する研究結果について2003年10月23日から25日の日本アレルギー学会で発表します。本研究は、グループ会社の小岩井乳業株式会社(社長 石野克彦)と、昭和女子大学大学院生活機構研究科との共同研究です。 
 アレルギー改善作用に着目して、キリングループが保有する100種類以上の乳酸菌株の比較研究を行った結果、高いアレルギー改善作用を有するKW乳酸菌を見出しました。KW乳酸菌は動物モデルのアレルギー状態を改善し、さらに花粉症の方々を対象とした試験でも改善作用を持つことが示唆されました。

 近年、乳酸菌の保健機能性について関心が高まり、お腹の調子を整える機能のほかアレルギー改善作用なども注目されています。アレルギーに関しては、先進国を中心に花粉症や食物アレルギー、アトピー性皮膚炎などに悩む患者が増加しているものの、治療法は副作用が心配されるものや対症療法的手段が中心という現状で、体質改善を促す手段が期待されています。
 アレルギーには、Th1とTh2と呼ばれる免疫細胞が関係し、アレルギー患者の血液を調べると両者のバランスが崩れてTh2優位になっていることが知られています。今回、Th1/Th2バランスの改善作用に着目して、乳酸菌のアレルギー改善作用を調べました。 
 まず、アレルギー状態のためTh1/Th2バランスがTh2に偏った動物モデル(マウス)の脾臓細胞を用い、100種類以上の乳酸菌株を添加・培養してバランス改善状態を調べました。その結果、全ての乳酸菌にアレルギー改善作用があるわけではなく、菌株によってその効果は大きく異なることが明らかになりました。この中で、最も高い効果を有する乳酸菌KW3110株を見出し、KW乳酸菌と命名しました。KW乳酸菌は、Th1/Th2バランスを改善する最も高い作用を示すことから、アレルギー体質の改善効果が期待されます。
 さらに、アレルギー動物モデルによる摂取試験からは、KW乳酸菌を摂取するとアレルギー指標となる血中IgE※濃度が低下し、Th1/Th2バランスが改善していることが確認されました。

※ IgEとは、免疫グロブリン(= immunoglobulin)の1種で、アレルギーに関する抗体。抗体とは抗原に対して生体を防除するもの。

 また、アレルギー改善作用を検証するため、花粉症症状を有するヒトを対象としてKW乳酸菌を用いたヨーグルトの摂取試験を行ったところ、KW乳酸菌ヨーグルトでは、従来ヨーグルトと比べて2倍以上の被験者でTh1/Th2バランスの改善が見られました。かゆみや痛み、鼻水などを誘発する指標でも低下傾向が認められ、花粉症に関しても、改善効果があることが示唆されました。

 当社では、キリングループとして、酒類を中心とした食品を通して幅広く健康との関連について研究を進めています。今回のKW乳酸菌の発見は、グループが連携しての研究開発成果であり、乳酸菌の保健機能性に関する研究として大変注目されます。本発表内容については、わかりやすい解説を加え、キリンホームページ上で10月15日から掲載します。
 今後も、「お客様の生活を豊かにしていく価値を創造する企業グループ」をめざし、ビールや様々な酒類、食品を楽しんでいただける豊かな生活をご提案していきます。


発表概要

1. 乳酸菌の働きについて

  乳酸菌には、生きて腸に届くことにより腸内で悪玉菌の増殖を抑え、腸内微生物のバランスを整える働きがあり、この働きは「プロバイオティクス」効果として知られている。この言葉は、1989年に『腸内微生物のバランスを改善することによって宿主動物に有益に働く生菌添加物』と定義されたもので、整腸作用による便通の改善や有害菌の増殖抑制などの保健機能性が注目されている。
 一方、乳酸菌には、菌体成分が腸内細菌叢(さいきんそう=腸内の常在菌)への作用を介さずに直接生体に作用する効果もあり、血圧降下や免疫活性化、コレステロール低下などのより多様な保健機能性が知られている。これらは、『菌体成分による生体への直接作用による生体調節作用』として「バイオジェニックス」と提唱され、生きている乳酸菌特有の作用ではない(=死菌でも作用する)ことから、より多様な食品への応用が可能と考えられ注目されている。アレルギー改善作用も、「バイオジェニックス」効果の一つと考えられ、今回のKW乳酸菌も優れた「バイオジェニックス」効果を有する乳酸菌として注目される。
 
2. 主要な試験結果

(1) 100種類以上の乳酸菌株の比較研究によるKW乳酸菌の発見

【1】 アレルギー状態を人工的に誘導し、Th1/Th2バランス※をTh2に偏らせた動物モデル(マウス)から脾臓細胞を調製し、試験管内にてキリングループが保有する100種類以上の乳酸菌株(公的機関から入手した菌株などを含む)を添加して7日間培養した。その後、Th1細胞を誘導するTh1サイトカインとTh2細胞を誘導するTh2サイトカインの培養液中への放出量を測定した。
   
【2】 Th1/Th2バランスの改善は、Th1サイトカインが増加し、Th2サイトカインが減少していることによって確認できる。実験の結果、菌株によって、Th1サイトカインとTh2サイトカインの誘導作用は大きく異なることが明らかになった。比較した全ての菌株の中で、Th1サイトカインの増加作用が最も強い株と、Th2サイトカインの減少作用が最も強い株が同一の乳酸菌株(KW3110株)であることが確認された。最もTh1/Th2バランスの改善効果が高いこの乳酸菌株を、KW乳酸菌と命名した。  

※ Th1/Th2バランス:アレルギーには、Th1細胞とTh2細胞と呼ばれる免疫細胞が関与している。これらはヘルパーT細胞と呼ばれ、機能によってTh1型とTh2型に分けられているもの。
 アレルギー患者の血液では、Th2細胞から放出されるTh2サイトカインの量が健常者と比べて多く、Th1/Th2バランスがTh2優位となっている。サイトカインとは、免疫反応、炎症反応などの生体反応発現を制御している伝達物質のこと。

(2) 動物モデルの摂取実験によるアレルギー改善作用の検証
  アレルギー状態の動物モデル(マウス)にKW乳酸菌を毎日1mg摂取させ、乳酸菌を摂取させな
い対照グループとアレルギーの進行の指標となる抗体の血中IgE濃度を比較したところ、KW乳
酸菌を摂取した方のIgE濃度が常に低くなっていることが確認された。また、摂取開始から100
日後の脾臓細胞を調べたところ、抗原刺激に対するTh1サイトカインの産生量が上昇している
ことが分かり、Th1/Th2バランスが改善していることが確認された。


(3) 花粉症症状を有するヒトでのアレルギー改善作用の検証

【1】 花粉症のボランティア28名の方を、KW乳酸菌で製造したヨーグルトを摂取するグループと、従来ヨーグルトを摂取する対照グループの2つに分け、花粉飛散期(2003年1月〜4月)に1日200mlのヨーグルトを摂取していただいた。4週おきに採血および自覚症状のアンケートを行った。
   
【2】 アレルギー状態では、Th1サイトカインが減少しTh2サイトカインが上昇するので、一般的にTh1/Th2比の値は低下する。1月と4月のTh1/Th2比を比較すると、対照グループでは統計的に有意に低下しており、アレルギー状態の悪化が示唆されたが、KW乳酸菌摂取グループでは有意な変化は見られず、14人中7例でTh1/Th2比が不変もしくは逆に上昇した。対照グループで同様の傾向が認められたのは3例のみであった。
   
【3】 1月と4月に、末梢でのかゆみや痛み、鼻水を誘発する指標としてECP値※を測定したところ、対照グループでは統計的に有意に上昇しており、アレルギー状態の悪化が示唆されたが、KW乳酸菌の摂取グループでは有意な変化は認められず、8例で不変もしくは低下した。対照グループで同様の傾向が認められたのは3例のみであった。
   
【4】 KW乳酸菌の摂取グループでは、自覚症状のうち、喉のかゆみや、目の痛み、まぶたの重みなどの項目で対照グループと比較して改善傾向が認められた。

※ECP:
アレルギー性疾患の時などに増加する好酸性白血球が活性化すると放出する蛋白質。花粉症などのアレルギー症状の指標に用いられている。

 

日本経済新聞 2003/10/19

キリン、医薬品生産を拡大 2010年度、売上高1200億円狙う
貧血治療薬38億円投じ新設備

 キリンビールは医薬品生産を拡大する。群馬県の工場で腎性貧血治療薬の設備を増強し、同治療薬の生産能力を2倍に引き上げる。キリンはバイオ技術を使った独自製品で專業メーカーと差別化。2010年度には医薬品売上高を1200億円と現状から倍増させ、医薬事業を酒類に次ぐ収益源に育てる。
 キリンは医薬部門の主力製品で腎臓機能が低下した患者向けの貧皿治療薬「エスポー」の新タイプを開発中。11月完成をメドに、高崎医薬工場(群馬県高崎市)内に38億円を投じて新棟を建設。試験運転や新薬の臨床試験などを経た上で2006年ごろの本格稼働をめざし、この新薬を生産する。
 エスポーは米有カバイオ企業、アムジェンとの共同研究による遺伝子組み換え技術を使ったバイオ医薬品で、血液中の赤皿球を増やす効果が高い。開発中の新タイプは投与回数が現行製品の3分の1で済み、増加傾向が続く人工透析患者向けの需要を見込む。韓国や中国などアジア各国への輸出も計画している。
 キリンの医薬事業の売上高は540億円(2003年12月期見込み)で、エスポーが約7割を占める。2010年12月期には医薬売上高を1200億円まで引き上げる。2010年以後は人の免疫機能を活用した抗体医薬など、海外バイオベンチャーとの共同開発による新世代の医薬品も実用化する計画。
 国内の医薬品市場は薬価(薬の公定価格)引き下げなどが響き伸び悩んでいるが、キリンは独自の新薬をテコに攻勢をかける。将来はグループ売上高全体の1割程度を稼ぎ出す事業に育成する。


医薬カンパニー

http://www.kirin.co.jp/company/corpinfo/iyaku/pharmaceutical/

キリンビールは、1982年に多角化の一環として医薬事業へ進出しました。以来、先進のバイオテクノロジーを駆使した医薬品の開発とその自社販売を目標に活動してきました。キリンビールでは、現在「腎臓」「がん(血液分野を含む)」「免疫・アレルギー」を重点領域とし、焦点を絞った研究開発を行っています。
 1984年、
米国アムジェン社との合弁会社キリン・アムジェン社の設立を機に共同研究開発に着手し、1990年に第1号医薬品の「エスポー」(EPO)が誕生しました。「エスポー」は赤血球を特異的に増加させる作用を持つ糖タンパク質で、人工透析の患者さんの貧血治療などに貢献しています。翌1991年には「グラン」(G-CSF)を商品化しました。「グラン」は白血球の一種である好中球を選択的に増加させるなどの作用を持っています。
 また、2000年には日本ロシュ社(現中外製薬社)から腎臓分野の治療薬「ロカルトロール注」(注射剤)の国内独占販売権を取得しました。この治療薬は承認され、自社だけで販売する初めての医薬品となりました。
 このほかにも、潰瘍性大腸炎患者の方への個別評価型病者用食品「発芽大麦[GBF]」の通信販売や、肺疾患診断補助剤の導入など、次々と新たな取り組みを進めています。

1982 EPO、抗がん剤の研究開始
1984 キリン・アムジェン社設立
1985 G-CSFの研究開発開始
1986 三共社と提携/EPO臨床試験開始
1987 G-CSF臨床試験開始
1989 高崎医薬工場竣工
1990 「エスポー」承認取得・発売


Amgen
  http://www.amgen.co.jp/home/profile.html

1980 カリフォルニア州に創設
1981 業務開始
1984 キリンビール株式会社との合弁会社、キリン・アムジェン社を設立
1987 EPOGENの特許を受ける
1989 米国でEPOGENの製造販売の承認
1994 シナジェン社買収
1995 キリンと巨核球成長・発育因子の共同開発・販売契約を締結


2005年4月4日 キリンビール 

ASEAN市場での医薬事業本格展開について
〜 現地法人をシンガポール、タイに設立するほか、現地代理店への委託販売とあわせてASEAN6カ国で当社医薬品の販売を開始 〜
http://www.kirin.co.jp/company/news/05/050404_1.html

  キリンビール株式会社(社長 荒蒔康一郎)は、ASEAN諸国における当社医薬事業の本格展開の第一弾として、シンガポールとタイに当社医薬品の販売とマーケティングを担う現地法人を100%出資で設立します。2005年3月30日にシンガポール市からの認可がおりたことを受け、キリン医薬シンガポール社(シンガポール シンガポール市、社長 鈴木大介)を設立しました。引き続き、タイにおいても6月までに現地法人を設立する予定です。
  このほか、マレーシア、フィリピン、インドネシア、ベトナムでは、当社医薬品の販売を委託する現地代理店を2005年中に決定し、シンガポール、タイでの現地法人とあわせてASEAN6カ国で医薬品の販売を2006年から開始します。
  ASEANの医薬品市場は、人口の増加と医療保険制度の進展により、年率10%以上の伸びが期待されています。当社ではこれまで中国、台湾、韓国、香港で当社100%出資または現地法人との合弁会社を設立し、医薬品の販売を行ってきましたが、今後医療用医薬品市場の拡大が見込まれるASEAN6カ国での事業を開始することで、医薬事業でのグローバル化を推進します。

  ASEAN市場での事業展開にあたり、当社の主力医薬品であるEPO製剤※1やG-CSF製剤※2の市場規模が大きいシンガポール、タイでは現地法人を設立し、マレーシア、フィリピン、インドネシア、ベトナムでは代理店に販売を委託することで、事業価値の最大化を図ります。
  現地法人2社では、新世代の腎性貧血治療薬として期待されている「ダルベポエチンアルファ」※3とG-CSF製剤「フィルグラスチム(日本名:グラン)」の販売を2006年から開始する予定です。ほか4カ国においても、現地代理店により同商品などを販売開始する予定で、当社医薬品の支持拡大を早期に図り、ASEAN6カ国合計で2010年の売上高11億円を目指します。 

1. エリスロポエチン製剤。赤血球を選択的に増やす造血因子で、主に腎性貧血などで使用されている。当社は日本で腎性貧血治療薬「エスポー(一般名:エポエチンアルファ)」を販売している。
2. 白血球の一種である好中球を選択的に増やす造血因子で、主に化学療法後の好中球減少症や造血幹細胞移植時の好中球の増加促進などに使用されている。当社は日本で「グラン(一般名:フィルグラスチム)」を販売している。
3. 当社がEPO製剤とG−CSF製剤の共同研究を行っている米国アムジェン社がアメリカ、欧州、カナダ、オーストラリアなどで商品名「Aranesp」として販売中。日本では当社が2006年の上市を目指し、KRN321として臨床試験(フェーズV)を実施している。なお、今回ASEAN6カ国で発売する「ダルベポエチンアルファ」については、当社が同地域での販売権を有しており、当面はアムジェン社製造品を販売する。

  当社の医薬事業は、腎臓、がん(血液分野を含む)、免疫・アレルギーを重点領域として展開し、今後も新たな医療価値を創造することによって、最先端の医療に貢献する医薬事業を展開していきます。
  キリングループでは、発酵・バイオの先進技術をいかし、アジア・オセアニアのリーディングカンパニーを目指しています。医薬事業では、これまで事業展開を行ってきた地域に加え、ASEAN市場での事業基盤を確立することでグローバル化を一層推進し、世界規模で医薬品の開発と販売を行う企業を目指します。


キリン医薬シンガポール社概要
1.会社名  キリン医薬シンガポール社
         (Kirin Pharmaceuticals Singapore Pte.,Ltd)
2.所在地  シンガポール シンガポール市
3.代表者  鈴木大介
4.設立時期  2005年3月30日
5.資本金  100万シンガポールドル(約65百万円)
         *1シンガポールドル=65.12円(2005年3月30日レート)
6.出資比率  キリン社の100%出資
7.業務内容  シンガポールにおける医薬品の販売・マーケティング
 
* タイの現地法人(キリン社100%出資)は、2005年6月までの設立をめどに今後設立認可を申請する。

 


2005年7月25日 キリンビール

へマテック社の買収について
〜完全ヒトポリクローナル抗体医薬の早期実用化を目指し、製造ノウハウおよび特許を獲得〜
http://www.kirin.co.jp/company/news/05/050725_1.html

 キリンビール株式会社(社長 荒蒔康一郎)は、ヒト抗体産生ウシに関する共同研究を行っているヘマテック社(米国 サウスダコタ州、代表者 ジェームズ・M・バートン)の持分のほぼ全数を取得する契約について、7月19日(米国時間では7月18日)に同社と合意しました。これにより、ヘマテック社は当社の子会社となります。
 (2005/7/26 毎日新聞  発行済み株式の約98%を約50億円で取得)

 今回の買収により、当社はヘマテック社が保有するヒトポリクローナル抗体※1医薬品の原薬製造に関するコア技術を獲得することで、ヒト抗体産生ウシを用いてのヒトポリクローナル抗体医薬品について、開発から製造、販売にいたるまでのすべての権利を全世界で保有することになります。

※1  ポリクローナル抗体は、抗体の混合物であり抗原の複数個所に対して反応する。一方モノクローナル抗体は、1種類の 抗原に反応する。

 ヒト抗体産生ウシとは、ヒト抗体遺伝子を導入したウシのことで、このウシにより産生される完全ヒトポリクローナル抗体を用いて、様々なヒト抗体医薬品の開発が可能になると期待されています。当社とヘマテック社は、1999年よりヒト抗体産生ウシの開発について業務提携しており、ヒト抗体遺伝子を含む染色体を人工的に作製し動物に導入する当社の技術と、核移植を用いて効率的にウシを作製するヘマテック社の技術を持ちよることで、2002年にヒト抗体を産生するウシを誕生させることに成功し、実用化に向けて研究を継続しています。

 当社は既にヒト抗体産生マウス(TCマウス※2)の開発に成功し、メダレックス社(米国 ニュージャージー州、CEOドナルド・ドレイクマン)との間で、ヒト抗体産生マウスに関して全世界を対象とした戦略的な提携を結んで事業展開しています。ヒト抗体産生マウスがヒトモノクローナル抗体の開発に有用であるのに対して、ヒト抗体産生ウシは大型動物であることから、ヒトポリクローナル抗体の開発に有用であると期待されます。
 ヒトポリクローナル抗体は、ウイルスや細菌による感染症の治療薬や自己免疫疾患の治療薬として期待されています。現在医療現場では、ヒト血清由来のガンマグロブリン製剤が用いられていますが、ヒト抗体産生ウシを用いることにより、より効果が強く安全性の高いヒトポリクローナル抗体が安定して供給できる可能性があります。

※2  Transchromo Mouse の略で、ヒト染色体断片を導入したマウスのこと。

 当社は、医薬事業の将来を担う重要な柱として抗体医薬品の開発を進めています。今回の買収により、種々の感染症や自己免疫疾患に対する新薬であるヒトポリクローナル抗体医薬品の早期実用化を目指します。キリングループの医薬事業は、腎臓、がん(血液分野を含む)、免疫・アレルギーを重点領域として展開しています。今後も新たな医療価値を創造することによって、最先端の医療に貢献する医薬事業を展開していきます。


【ヘマテック社 会社概要】
 1.会社名  : ヘマテック社(Hematech,LLC)
 2.代表者  : ジェームズ・ローブル(James Robl)
          ※ 7月18日付で就任。契約締結時の代表者はジェームズ・M・バートン。
 3.本社   : 米国サウスダコタ州スー・フォールズ
 4.設立   : 1998年
 5.売上高  : 14百万ドル(2004年)* 約15.8億円
        (1ドル=約112.76円、2005年7月19日現在)
 6.事業内容: 抗体の開発と生産に関するベンチャー企業。
           ヒト抗体産生ウシを作製する技術を持っている。


2007/7/19 キリン/テルモ

キリンとテルモ、業務・資本提携について基本契約を締結

 キリンファーマ株式会社(社長 浅野克彦、以下キリンファーマ社)とテルモ株式会社(社長 高橋晃、以下テルモ社)は、医療分野の事業を強化し、将来の成長戦略をより強固にするため、業務提携することを決定しました。この業務提携と併せて、提携基盤強化を目的とした資本提携も行うことに合意し、キリングループの持ち株会社であるキリンホールディングス株式会社(社長 加藤壹康、以下キリン社)を含めた3社で、7月19日に業務・資本提携に関する基本契約を締結しました。

 キリンファーマ社とテルモ社は、プレフィルドシリンジ製剤※1の共同研究開発を行うなど、これまでも事業での連携を行ってきましたが、この関係をさらに強化し、将来の医療用医薬品および医療機器事業の多角的かつ幅広い展開を図るためには、より強固なパートナーシップを構築する必要があるとの認識で一致し、今回の提携に至りました。
 この提携基盤強化を目的に、3社で資本提携を行い、2007年12月末までにキリンファーマ社がテルモ社の株式を、テルモ社がキリン社の株式を、それぞれ100億円相当取得する予定です。

※1 プレフィルドシリンジ製剤:予め注射器に充填された医薬品製剤。薬剤を投与する際、アンプルやバイアルから注射器に移しかえる必要がないため、感染や薬剤の入れ間違えの事故を防ぐ、病院業務の効率化に役立つなど、多くのメリットがある。


【 業務・資本提携の概要 】

(1)業務提携の概要
 両社の業務提携の概要は以下のとおりです。
 ・プレフィルドシリンジ製剤の研究開発・製造における連携の強化
 ・テルモ社の保有するリポソーム技術※2とキリンファーマ社の創薬技術を融合した製品の研究開発の検討
 ・慢性腎臓病治療に対する共同事業などの検討

※2 リポソーム技術:脂質から成る極めて小さい微粒子。リポソームの膜や内部に薬剤を封入することによって、薬剤を特定の部位に送ることができることから、DDS(Drug Delivery System)技術のひとつとして注目されている。リポソームを用いることで、従来より薬効を高め副作用を抑えることが期待される。


(2)資本提携の概要
 それぞれの取得予定株式数と発行済株式総数に対する割合は以下のとおりです。
・キリン社 発行済株式総数 984,508,387株
 その内、テルモ社が取得する予定株式数 5,491,489株(発行済総数の約0.6%)
・テルモ社 発行済株式総数 210,876,260株
 その内、キリンファーマ社が取得する予定株式数 2,164,503株(発行済総数の約1.0%)

※いずれも2007年7月18日の東証終値の株価で試算