2007/4/4 日本経済新聞

日タイ、経済連携協定に署名 輸出の9割 関税撤廃
 「内容小粒」不満も 自動車、なお高税率

 安倍晋三首相は3日、タイのスラユット暫定首相と首相官邸で会談し、タイとの経済連携協定(EPA)に署名した。タイが鉄鋼や自動車部品など日本からの輸入額の97%に相当する品目の関税を10年以内に撤廃し、日本は農水産品を中心にタイからの輸入額の92%相当の品目の関税をなくす。当初予定より1年遅れで決着したが、日本の産業界には「米韓などに比べ小粒な内容」と不満もくすぶっている。
 EPAは今秋にも発効する。両国は2005年9月に基本合意し、1年前の06年4月に署名する予定だったが、タイの政変で遅れていた。
 協定発効で、現在15−30数%のタイの自動車部品の大部分の関税が2012年までに撤廃され、日本メーカーに一定の恩恵をもたらす。日本側もタイから輸入する鶏肉や豚肉などの関税を削減する。協定が発効すれば、日本の実質GDP(国内総生産)を0.1−0.2%程度押し上げるとの試算もある。
 ただ、日本の産業界からはタイとのEPAについて「合意を急いだため果実が小さい」との声も出ている。例えば、日本からの自動車輸出では、主力となる排気量3000t超の大型車の関税は、現在の80%から60%に下がるにとどまる。高関税が当面続くことに自動車業界から不満の声が出ている。
 タイの産業界はEPA締結について「経済成長を刺激し、技術や人材開発面での協力が大いに進む」(タイ工業連盟)と基本的には歓迎している。ただ、マンゴー、エビ、ドリアンなどの関税が即時撤廃される一方で、コメ、麦、でんぷんなどは高関税が続くことに不満が残っている。
 2日には米国と韓国が自由貿易協定(FTA)を締結することで合意、二国間の経済連携の競争が世界で加速している。米韓FTAでもコメは関税削減の例外扱いにしたが、米国の主要な輸出農産品である牛肉の関税を15年で、鶏肉や豚肉も中長期に関税撤廃するなど、市場開放の度合いは「今回の日タイEPAに比べて格段に高いレベルにある」(政府関係者)という。
 日本が今後大きなEPA戦略を描くには農業市場の開放が不可欠。国内の抵抗を抑えながら、どう市場開放を進めていくか。政府の決意が問われている。